前回の超あらすじ
・四番目の姉がこんなに可愛いわけがない(六番さん・仮名)
「ふむ……気になるのが一人終わったとこで次にいこか。次は……シグナム!」
「私ですか」
フェイト、トーレ、チンクと共に熱燗をやりながらおでんをつついていたシグナムがはやての方を向く。
「せやで。ほな、よろしく」
「はい。それでは……」
私とユーノの出会いは……まあヴィータのそれとあまり変わらんな。闇の書事件の最中だった。
事件が終わった後、改めて自己紹介などし、友人となったのも同じだ。
「ふむ。それで?」
ああ。そして暫く月日が流れた。その間、小さな事件はいくつかあったが……割愛してもいい所、だな。ユーノも直接関係は無いし。
ユーノとは正月やらなんやらの時に皆と共に会ったり、偶に主が夕飯に連れて来たり、模擬戦の時に結界を張るのを依頼したりして会っていたくらいだな。……ああ、勿論書庫が忙しくない時だぞ。
……まあ主や高町、テスタロッサなどと比べると親しいわけでは無かったな。
「ふんふん」
話が動くのは私がある任務の際に瀕死の重傷を負った時から。
「瀕死の重傷?そんなこと……まあ無かったわけやないけど、何時や?」
新暦73年頃ですね。
「そんな時期にはそんなこと無かったなあ」
「あたしのところもなかったなあ」
そうなのですか?……では、まさしくそれが分岐点だったのでしょう。とにかく私は重傷を負い、運びこまれた。
「それで?」
ああ、純粋な負傷はシャマルが何とかできるレベルだったのだが……その傷を負わせた弾丸に特殊なものが使われていてな。
「どういう?」
私達のような存在、つまり魔法生命体用の特殊なものが使われていたらしい。なんでも古代ベルカの遺跡から発掘した物を弾頭に組み込んだようでな。
そして……私は魔法が使えなくなった。
「え?どうやって?」
後で聞いたが、正直私では理屈は理解できなかった。主やシャマル、それにユーノは分かったそうだが。とにかく、私は魔法が使えなくなってしまったわけだ。
「ふむ」
正直、凄くショックだった。いや、そのような言葉では生温いな。私は何故生きているのかとまで思ったよ。魔法を使えない、主を護ることができない私など、とな。
「……なあシグナム。怒ってええか?」
いえ。その件では散々主に説教されましたから、できれば遠慮をしたいです。まあ当時は動揺していたと……。
「まあええか。それで?」
はい。それで……暫くは無気力状態だったのですが、やがて少しは立ち直り、戦うことができないのなら他の事をやろうと、家事を覚え始めました。
「ふんふん。で、ユーノは何処に絡んでくるんだ?」
ああ。……ユーノはな、原因と対処法を無限書庫で必死に探してくれていた。当然他の仕事もあり、忙しいのに。
私の事は管理局的に言えば高ランクの魔導師が一人殉職したのと大して変わらないからな、仕事にできないから勤務外時間で必死に探してくれていたんだ。
勿論、主を始めとする他の人間も探してくれたが、やはりそこで働いているユーノには敵わない。検索の質も、時間も。
それで、私はその役に立たないから、せめて差し入れ位はしようと思って、差し入れを持って行ったんだ。
「ほうほう」
そしてな、無限書庫に入り、ユーノの姿を見た。こちらに気が付いていないようで背中を向け、検索魔法を行使している。
その無数の本が舞う中心にある背中を見て感じたんだ。
「どういう風に?」
――ああ、あいつも男なんだな、と。
正直、今まではあまりそう感じていなかったからな。私はその時からユーノの事を異性として認識するようになった。
「へー……」
そして、そう意識したらな……段々惹かれていった。
なんというか、それまでとは全然違うんだ。こちらに向けてくれる言葉から笑顔から何まで。勿論、私の精神的なものが影響しているのだろうが。
「そういうものなんだ」
ああ。そしてある日な、気が付いた。
「何て?」
私は、ユーノの事が好きなのだと。……恋に時間は関係ないというが……まさしくそんな感じだったな。
そして、ほぼ同時に私の治療法も見つかった。
「そっか」
ああ。そして私は無事に再び魔法が使えるようになった。
そして私は勢いに任せてユーノに告白した。
「おお」
あの時のユーノの反応は今でも覚えているよ。少し固まった後、一言『……え?』と言われた。
もう一度言葉をぶつけると、酷く吃驚していたな。そして考えたことなど無かったから、すぐにはそう言う関係にはなれない、と断られた。
「私の時と似ていますね」
そうだな。その後も同じような感じだ。開き直って攻め入ったからな。
そしてJS事件後、ユーノと恋人になった。
「そして一年ほど交際した後、結婚して……、といった感じだな」
そしてシグナムは一口酒を飲む。周りが感想を言っている中、はやてがシグナムに訊ねた。
「で、あのユノユノ、シグシグ、ってのは何なんや?」
「いや……恋人となったのは良かったのですが、どういうのが恋人らしいかよく分からなくて。それで主に相談したら、愛称で呼びあったらどうだ、と言われまして」
「……あー。多分、洒落で言ったんだと思うんやけど……」
「そうなのですか?」
少々驚いたようなシグナム。
「多分。……まあ次行こーか。次は……シャマル!」
「私の番ですか」
デザートの自家製プリン(セイン作)を食べていたシャマルが顔を上げる。
「せやで。ほなよろしく」
「分かったわ。じゃあ……」
出会いは、シグナムやヴィータちゃんと変わらないわね。事件の後、自己紹介をし合って友人になったところも含めて。
「ふんふん」
それで、二人同様そういった感情は無かったわ。友人だった。
でもね……
「でも?」
無限書庫の開拓が進むうちにね、段々ユーノ君は忙しくなっていって……何度か、医局に運び込まれるようなことがあったのよ。
「うわ……。こっちでは一回あった程度だったはずだけど……」
そうなの?まあそれでね、私にとって何と言うか、目が離せない、危なっかしい存在になっていったのよ。
「ふんふん」
何度言っても睡眠時間は少ないし、栄養のバランスも偏っているし……。
「はは……」
まあ、それで思ったのよ。
「何て?」
言うだけじゃ駄目だ。ちゃんと私が面倒を見ないと、って。
「うわー……」
それで何此れとユーノ君の世話を焼くようになっていったわ。
そして後はヴィータちゃんやフェイトちゃん同様、段々一緒にいることが自然になって……。
「私の場合はこんな感じね」
「んー……。なんて言うか駄目な夫の世話を焼く女房?」
「……あまり間違っていないのが何とも。生活習慣が駄目なところなわけだけど」
そんなことを言うはやてに、何ともいえない顔で答えを返すシャマル。周りも感想を言っている。
「ヴィータちゃんやフェイトちゃんは一緒にいることが自然になって、っていう感じだったみたいだったけど、私はね、何というか『私がいないと駄目になるんじゃ』っていう感じだったの。
でもね、優しいし、感謝しているのは伝わってくるし……」
「……本気で駄目な夫の世話を焼く女房やな。……次にいこか。次は……また気になるのが来たなあ。トーレ!」
「私か」
前述の通り、フェイト、シグナム、チンクとおでんをつついていたトーレが反応する。
「ある意味クア姉以上に気になるんだけど」
「そうか。まあ聞け。では……」
始まりはJS事件の最終段階で、私はドクターの研究所にてフェイト――当時はお嬢様と呼んでいたな――と交戦、敗北、捕縛され、目を覚ました所からだ。
「何があったの?」
私は……全ての記憶を失っていた。
「……え?」
記憶喪失、という奴だ。とは言っても最初は無論、信じてなど貰えなかったな。
「まあ、そうだろうな」
ああ。それでもそれなりに、素直に様々な質問に答えたりしている内に一応信じてもらえた。そして私も更生プログラムを受けることになった。
「ふんふん」
……だが正直、私は精神的にな、不安定というか……そんな感じだった。何しろ記憶という、いわば精神の背骨の様なものが無くなってしまったわけだから。
妹達と同じ施設だったのならまだ多少は違かったのだろうが、私は前線指揮官の様なポジションでもあったからな。妹達とは違う施設にいたんだ
「成程……」
そんな中、一人の男が私を訪ねてきた。それがユーノだった。
「それで?」
それで話をした。正直新鮮だった。何しろ施設にいる人間は私が目を覚ました時からいたからな。正直記憶も無いのに犯罪者扱いされていたからな……苦手意識を持っていたんだ。
それに言った通り精神的に不安定で、気弱になっていたからな……。
ああ……ちなみにこの後、ユーノは私の保護責任者になるのだが……、後で聞いたところ、既にその頃にはユーノが私の保護責任者になることはほぼ決まっていたらしい。前線でないとか、いざという時の隔離が容易だという理由やらなんやらでな。
「気弱なトーレ姉……ちょっと見てみたいかも」
それで、月に一回くらいユーノに会うようになった。正直、それが一番楽しい時間だった。私は段々とユーノに惹かれていった。いや、寧ろ依存に近いかもしれない。新たに出来上がっていく精神の背骨、その中に確実に食い込んでいくのだから。
……今考えると、弱っている時に精神的に付け込まれた、という見方もできるが。無論、ユーノにそんな考えは無かったのだろうが。
「はは……」
まあ、当時の私はそこまで考えなかった。正確には考えが頭に回らなかった。
そして出所し、無限書庫で働き始めた。そうしたらな、とあることに考えがいった。
「どういう?」
ユーノとの関係だ。今はまだ保護責任者という事で共にいられる。だが……いずれは、離れなければいけないのだろうか、そんなことは嫌だ、と。……言った通り、依存気味だったこともあってな、そう思った。
「なんかトーレ姉も可愛いんだけど」
よって私はな、ユーノとずっと一緒に居られるようにと行動を開始して……。
「と、いった感じだ。そして見事私とユーノは結婚した」
そして酒を一口飲むトーレ。そして周りが感想を言っている中、セインが訊ねる。
「でもなんて言うか、今のトーレ姉からはそんな気弱な所が感じられないんだけど。その後もそんな調子だったら今もそんな感じでしょ?」
「ああ、それはな、やがて信頼されるようになって、武装して危険区域の開拓を任されるようになったんだ。そして戦闘を繰り返すうちに段々自信を取り戻していった」
「へえ……」
トーレの説明に納得の声を上げているセイン。チンクも訊ねる。
「結局、記憶は戻ったのか?」
「ああ。だが、一番上の子供も成人する頃でな……殆ど無意味だった。……正直、もっと早く戻っていればせめてセッテ位は説得したかったのだが……既に死んでいたからな」
多分、セッテは完全な調整は済んでいなかったのだろう、と何ともいえないような表情で言っている。
「あー……だからトーレ姉はセッテには一番厳しくて、一番甘いんだ」
「セッテに限らず妹達には皆、厳しく甘いつもりだがな」
セインの言葉にそう言うトーレ。
「記憶喪失、か……。そんなこともあるんやな……。まあ次にいこか。次は……」
そしてはやてが話を進める。さて、次は――。
つ、続いたけど最後まで続くかは分からないんだからねっ!
後、この話ではトーレさんはシスコン。別にセッテに限らずシスコン。
後、シグナムルートではメイドシグナムが見られたりとかする。
ついでにシャマルルートのユーノ君は、全ルート中一番私生活が駄目な人。