私立聖祥大付属小学校、屋上。
現在は昼休み。なのは、はやて、アリサ、すずかの四人が昼食を取っている。
「しかし今日はなのは、えらく機嫌がいいわね」
「えへへ。分かる?」
そんな中、上機嫌だったなのはにアリサが声をかける。
「まあね。っていうか一発で分かるわよ」
うんうんと頷いているはやてとすずか。
「そうかな?それで何でだと思う?」
「ユーノ絡みでしょ」
即答するアリサ。なのははびっくりしたような顔。
「……凄い!何で分かるのアリサちゃん!?」
「分からいでか」
呆れたような表情のアリサ。この親友があんな(だらしない)表情の時は九分九厘彼氏絡みだ。
「昨日連絡が入ってね、仕事が予想以上に早く片付いたから明日デートしようって!」
「あー、そう」
もはや返事もぞんざいである。しかしなのはは気にしていない。ちなみに明日は土曜日。
「うん!そうなの!」
「――ねえ、なのはちゃん」
そんななのはにすずかが声をかける。
「何?すずかちゃん」
「うん。参考までにデートって何をやっているのかな、って」
「すずか!?」
びっくりした様なアリサ。すずかに声をかける。
「そんな、そんな話を聞いたら糖死するわよ!」
必死である。
「でも興味ない?」
「う……まあ興味があると言えば興味があるけど……」
アリサも年頃の女の子。興味は勿論あるのだ。
「でも、なのはから聞いていたら惚気で昼休みが終わっても話が終わらないわよ」
「あー……そうだね。どうしよう?」
『ならば私がお話ししましょうか?』
その時、なのはの首にかかっていたレイジングハートが話しかけてきた。
「えっと……レイジングハート、だったかしら」
『はい。私はメンテ時以外は基本的にマスターと共にいますので』
ふむ、と考えるアリサ。
「じゃあお願い」
『承りました。前回のデートでよろしいですか?』
「うん。……っとそういえばはやては?」
いつの間にか消えていた親友を探す。しかしすぐに帰ってきた。
「ブラックコーヒー買ってきたでー」
「お帰りなさい、はやてちゃん」
「……随分、用意がいいわね」
呆れたような声を出すアリサ。
「それじゃあお願い」
『はい。では……』
ミッドチルダ。首都クラナガン。中央ターミナル。考えるフェレット像前。
「あ」
「あ」
なのはとユーノは丁度出会った。まだ待ち合わせ一時間前である。
「は、早いねユーノ君」
「なのはこそ」
二人は苦笑する。
「それじゃあちょっと早いけど行こうか」
「うん!何しようか?」
「うーん……」
そして二人は立ち去って行った。
「……待ち合わせ一時間前?」
『ええ』
「いやー……予想通りやな」
「確かにそうだね」
呆れたような声を出すアリサと納得しているはやてとすずか。
「それで?続きは?」
『はい。では……』
なのはとユーノはメインストリートを腕を組んで歩く。なのはが左、ユーノが右。なのはの利き手が左手であるからである。
周囲は微笑ましいものを見るような目で見ている。……まあまだお互い10ちょっとの歳だから当然と言えば当然か。
「映画館か」
「映画館だね」
映画館の前で立ち止まる二人。
「見ようか?」
「うん!」
そして映画館の中に入って行った。
「映画か」
「割と普通ね」
『そうですね。……周囲を気にせずポップコーンをあーん、で食べさせたりしなければ』
そんなレイジングハートの声にうわぁ、という反応をしている三人。
『映画そのものが始まったら流石にしませんでしたけど』
「そ、そっか。……ところでどういう映画?」
『それはですね……』
予告編
「ふんふん。つまり例の魔導師集団昏睡事件の調査が今回の仕事なんやな」
「ああ」
機動六課。隊長室。JS事件の事後処理も落ち着いてきた今日この頃。隊長の八神はやてに昔馴染みでもあるクロノ=ハラオウン提督からの連絡が入ってきた。
「しかしなんで六課になんや?いや、確かにそういうのも仕事ではあるけど」
疑問が一つ。それを訊ねる。後解散まで二月も無い六課に頼むのは何故だ?下手をすると調査中に解散して、別の部隊が担当になるが。
「……驚くなよ。それはな……」
――闇の書らしき反応が全ての現場に残されていたからだ。
そのクロノの言葉にはやては真剣な顔で頷いた。
「全力全開……」
「集え明星……」
互いの魔力のチャージが完了する。
「スターライト」
「ルシフェリオン」
「「ブレイカーーー!!!!!!」」
互いから強大な魔力砲撃が放たれる。
しかし!
「ぐっ……」
「ぐぅ……」
それは互いに拮抗。
そのまま暫く力比べをしていたが、互いを飲み込むような形で霧散した。
「互角、か……」
「このままでは埒があきませんね」
互いにぽつりと漏らす。そして先に動いたのは星光の殲滅者だった。
「仕方ありません。ルシフェリオン、リミットオールリリース。モード・ファイナルシューティング」
「なっ……」
星光の殲滅者が黒い輝きに包まれる。そして―――――
超高速で動く。
「はあっ!」
「はっ!」
今まで純粋な速度で劣ったことは無い。
「がぁっ!」
「せいっ!」
しかし今回の敵は自分と同等の速度で動く存在、自らのマテリアル“雷刃の襲撃者”。
現在、真・ソニックフォーム。敵もそれに当たる状態。……そのバリアジャケットを見てちょっと自分の今の姿を省みたことは秘密である。
ザンバーが交錯し、雷が互いを襲う。
そうして暫く互角を演じていたが、均衡は突然破られた。
「はああああああっ!」
灰色の毛並みの大狼が襲いかかってくる。目の前の敵にのみ意識を向けていた事で反応が遅れた。
しかし!
「がぁっ!」
横合いから赤い毛並みの大狼が灰狼を襲う。
「アルフ!」
「フェイト!来たよ!」
助けに来た、自らの使い魔に声をかける。久々に見る狼形態だ。
一方、雷刃の襲撃者も自らの使い魔と話をしている。
「灰狼、どうしたの?」
「助けに来たんですよ。……まあオリジナルに邪魔をされましたが」
そして互いに向かい合う。
「続けるよ。今度こそ、僕が勝つ!」
「そうはさせない」
「始めましょうか」
「フェイトの邪魔はさせないよ」
そして、フェイトと雷刃が消えたと見間違うような速度まで加速し、アルフと灰狼の拳が轟音と共に交錯した―――――
八神はやては自らのマテリアル、闇統べる王と対峙する。しかし彼女の傍には……
「すまんなあ、数の暴力っていう形になるけど。……さっさとあんたを倒してなのはちゃん達の援護に行かんとな」
彼女の守護騎士、ヴォルケンリッターが勢揃いしていた。一方の闇統べる王は一人。しかし彼女は笑っている。
「……?何がおかしいんや?」
それを不審に思ったはやてが訊ねる。
「ふん、数の暴力か。しかしこれならどうだ。――現れ出でよ!」
「なっ……」
闇統べる王がその言葉と同時に指を鳴らす。すると彼女の傍に四つの闇が現れ、人型を取る。
「召喚に応じ参上仕りました」
青い髪をした幼い少女がそう言う。
「我ら、闇統べる王の守護騎士でございます」
短い白髪の女性がそう言う。
「闇統べる王の元に集いし闇」
大柄で褐色の肌。筋肉質で黒髪。そして狼の耳と尻尾を持つ男性がそう言う。
「我らフィンスタニスリッター、何なりと命令を」
最後に、赤髪をポニーテールにしている女性がそう締めた。
はやて達は彼女らを見て絶句している。だがそれを気にせず闇統べる王は彼女らに命令を下す。
「命令は三つ。無慈悲に殺せ。残酷に殺せ。そして、確実に殺せ、だ」
「「「「了解!」」」」
その言葉と共にデバイスを構える面々。同時に正気に戻ったはやて達もデバイスを構える。
そして、両軍が激突した―――――
「決着を付けよう」
「ああ」
烈火の将シグナムとそのマテリアル、業火の将が対峙する。先程からの戦闘で互いはボロボロだ。
レヴァンテイン/フレイマールを構える。
「「勝負!」」
互いの剣が交錯する。
「「カードリッジロード!」」
互いのデバイスからカードリッジが排出される。
「紫電一閃!」
「紅蓮刃!」
「砕け散れ!!!」
そして……!
スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、ギンガの五人はピンチに陥っていた。隊長達が他の敵たちを抑え、自分たちが大元を叩く仕事を請け負った。
だが……
「アーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!所詮雑魚はいくら群れようとと雑魚よ!この超☆天才且つ超☆無敵たる“黒衣の殺戮者”に勝てる道理などは無い!」
「うっせぇよ。少し黙れ黒」
目の前の二人、恐らくクロノ=ハラオウン提督とユーノ=スクライア無限書庫司書長のマテリアルと思われる存在に手も足も出なかった。
「ぬう!なんだと翡翠!」
「さっきからギャーギャー耳障りだと言っているんだよ!」
片方ならば十分対処可能である。六課の隊長陣の方が強い。しかしこの二人、コンビネーションが完璧に近いうえ、隊長達とは全く違う戦い方である。
こちらの動きを予測し、妨害、罠に嵌める。実力を発揮させない。そんな戦い方である。
「やる気か?」
「てめーがその気ならな!」
そのまま殴り合いを始める二人。
しかしスバルたちは動かない。大分きつい状態だというのもあるが、さっきも同じような状態になった時、奇襲しようとしたらそれ自体が罠だったからだ。
だが、そのまま何もしないわけにはいかない。ティアナが皆に指示を出そうとする。
そこに……
「ぬう!」
水色の魔力光が黒衣の殺戮者を襲う。黒衣の殺戮者はシールドを張る。同時に自分達を翡翠色の魔力陣が包み込み、負傷と疲労を癒していく。
「チ……。流石に奇襲で一撃、とはいかんか」
「助けに来たよ」
クロノ=ハラオウン提督とユーノ=スクライア無限書庫司書長が現れた。まさかこんなお偉いさんが来るとは思っていなかった五人が固まる。
しかしそんな五人をよそに嬉しそうな声を上げるマテリアル二人。
「会いたかったぞ!オリジナル!!!」
「はっ!ようやく来やがったか!」
そしてクロノとユーノが五人に声をかける。
「ほら。さっさと行け。君達は君達の仕事を全うしろ。この紛い物の始末は僕達がする」
「まああれだよ。『此処は俺に任せて先に行け!』っていうやつ。勿論僕らはちゃんと帰るけどね」
「――ありがとうございます。御武運を」
五人を代表してティアナが返事をする。そして駆け出す五人。そしてそのまま去って行った。
「いいのか?何もしないで」
「何、前菜は食い飽きた。これからはメインディッシュだ」
何もしないで五人を見送ったマテリアルに声をかけるクロノ。返事をする黒衣の殺戮者。
「じゃあ戦るか」
「そうだね」
言葉を交わす翡翠の守護者とユーノ。
「「「「参る!」」」」
そして戦闘が始まった―――――
【Material Wars!】
制作予定、全く無し!
公開予定、当然無し!
『こんな映画ですね』(注!上記の内容とは異なります)
「へえ……」
「面白そう……」
「そうやな」
感嘆の声を上げる三人。
「見に行くのは……無理ね。いつかDVDみたいのがリリースされたらはやてに入手を頼んで見ましょう。はやて、いい?」
「ええよ」
はやてがアリサの提案にOKする。ちなみに八神家にはミッドのディスク規格の物を地球の電源やテレビで見られる、無駄にハイテクなレコーダーがある。
「じゃあ続き良いかな?」
『はい。では……』
映画館から出てきた二人。お昼に丁度良い時間である。
「お昼、どうしようか?」
「えへへ。実はね、お弁当作ってきたんだ」
ユーノの問いに嬉しそうに答えるなのは。
「そっか。じゃあ公園に行こうか」
「うん!」
そして二人は公園に移動する。
「ここならいいかな?」
「そうだね」
公園。いい塩梅の木陰の芝生があったのでそこに二人で座る。
「ユーノ君、はい、あーん」
「あーん」
そして当然の様に食べさせ合う二人。
「どうかな?」
「うん、美味しいよ。はい、なのはもあーん」
「あーん」
そうしてお昼の時間は流れていった。
「これまた予想通りね……」
「そうだね」
「あーんだけやったの?」
納得の声を上げているアリサ、すずか。レイジングハートに問うはやて。
『ええ。この間はだけでしたね』
そう答えるレイジングハート。
「“は”なんや……」
「“は”なのね……」
「“は”なんだ……」
『はい。“は”です』
三人の反応を力強く肯定するレイジングハート。
「……まあいいわ。次に行きましょう」
『はい。では……』
お昼を食べた後。ユーノが大きな欠伸をした。
「ふぁー」
「ユーノ君?」
なのはがユーノに声をかける。
「あ、ごめんね、なのは。次は何処に行こうか?」
「んー……」
なのはは少し考える。そして膝をポンポンと叩いた。
「なのは?」
「はい、ユーノ君、膝枕。少し寝たら?」
しかしユーノは少し困ったように言う。
「でも折角のデートなのに……」
「いいから。私はユーノ君と一緒にいればどこだって構わないし」
しかしなのははそう言う。
「それは僕も同じだけど……じゃあ、お願いしていいかな?」
「勿論!」
そしてなのはの膝枕に頭を乗せるユーノ。少しして寝息が聞こえてきた。
なのははそれを優しく見守っていたが――
「ふぁ……」
自分も陽気に誘われ、眠くなってきた。
「んー……レイジングハート」
『何でしょうか?』
レイジングハートに話しかける。
「私も寝るからお願いね」
『分かりました。良い夢を、マスター』
「うん。お休み、レイジングハート……」
そしてなのはも夢の世界へ旅立って行った。
そして数時間後。ほぼ同時に二人は目を覚ました。しかし……
「う……もうこんな時間」
「あはは……よく寝たねー」
もうすっかり夕暮れ時である。
「うう……結局午後は寝ていただけだった……」
「まあまあ。そんな日もあるって」
ちょっと落ち込んでいるなのはをユーノが慰めている。何時に起こして、などと言っていなかったのでレイジングハートは責められない。
「……まあいいか。またデートしようね、ユーノ君」
「うん。そうだね」
そして、二人は笑いあうのだった。
「午後はずっと寝ていたんかい」
思わずツッコむはやて。アリサとすずかも苦笑気味。
『まあマスターは弁当を作るのに四時起きでしたから。……そんなに早く起きなくても良かったのに。エルダーマスターも仕事に支障が無い程度の疲労があったのでしょう』
フォローを入れるレイジングハート。
「で、それでそのまま転送ポートの前まで来てその日は別れた、と」
はやてがそう言う。
『いえ。違います』
しかしレイジングハートは否定。
「違うん?」
ちょっと驚いた声を上げるはやて。そしてレイジングハートが続ける。
『ええ。では……』
中央ターミナル。二人は戻ってきた。
「今日は楽しかったね」
「そ、そうだね」
なのはの様子が少し変である。ユーノは当然気が付き、なのはに問う。
「どうしたの、なのは?」
「えっとね……、その、ユーノ君。今日は帰りたくないな……」
そう顔を赤らめて上目使いで言うなのは。そして――ユーノも、その言葉の意味を理解できないわけが無い。
「えぇっと……その……、家とかは大丈夫?」
そんな場違いなことを聞くユーノ。
「う、うん大丈夫。地球は今日は土曜日だし、フェイトちゃんの所に泊まるって言ってあるから」
まあそんな言葉を馬鹿正直に信じているのは士郎だけだろうが。尤も桃子も恭也も美由希も、なのはとユーノの仲を応援しているのであまり問題は無い。
「そ、そっか……。じゃあ……家に行こうか」
「う、うん……」
そして、二人はユーノ宅に向かうのであった……。
『以上です。これから先は日本では十八歳未満は禁止ですので自主規制します』
そんな言葉で締めるレイジングハート。
「……」
「……」
「……」
思わず固まる三人。
「……いやあ、進んどるなあ、なのはちゃん」
「進み過ぎよ……」
「あはははは……」
何とか声を出す三人。
「ところでそのなのはは何をやっているのよ」
アリサがそう言う。そして話し中、全く声を出さなかったなのはを見る三人。
その顔は――だらしなく歪んでいた。
「あー……あれはユーノとの何かを妄想している顔ね……」
「せやな……」
そして話す三人。
「――ねえ。私達も何時か恋人出来るのかしら」
「出来るとしてもあそこまでのバカップルは難しいと思う」
「そうだよね」
そんなことを言っている。そしてチャイムが鳴った。
「お。チャイムや」
「なのはちゃんを起こして教室に帰らないと」
「そうね。おーい、なのは、起きなさい」
アリサが肩を強く叩きながらなのはに声をかける。
「っは。アリサちゃん、どうしたの?」
「戻る時間よ」
「そうなんだ。じゃ片づけよう」
そしてなのはは片づけ始める。
結局というか当然というか、なのははずっと上機嫌だった。