そして、あれから二年の月日が経ち、なのはも遂に三年生になった。
その間、アリサとすずかの喧嘩(と、いうかアリサの一方的な攻撃)を仲裁して再び友達になったり、はやてと図書館で偶然を装って友達になったりした。
はやてと一緒に、桃子に料理やお菓子作りを教えてもらっている。ちなみにはやては週2、3回位のペースで高町家に宿泊している。
今ではすっかり四人仲がいい。とはいってもはやては学校には通ってないし、最初のほうはアリサには結構、すずかには若干怯えられていたが。
本人は気が付いていないが、原因は仲裁した時にあった。
なのはの平手がアリサに飛ぶ。
『何すんのよっ!!!』
『痛い?でもね』
そこでなのはアリサに顔を向ける。その、目のハイライトが消えた、能面の様な顔を。
『ヒッ!』
アリサの顔が恐怖に歪む。
『でもね、大切なものを奪われた人は痛いなんてものじゃないんだよ……』
『わわ分かったわっ!謝る、謝るわよっ!それでいいでしょ!』
『いいの?』
そこですずかにも顔を向ける。すずかは若干ひきつった表情で
『う、うん。それでいいよ』
『それじゃあ……ごめんなさい。私が悪かったわ』
『うん、じゃあこれで仲直り、だね』
表情が普通になったなのはがそう言った。二人はまるで信じられない生き物を見たような顔をしていた。
『えっと、高町さん、だったっけ?』
『なのはでいいよ。お友達になろう?』
『いいの?じゃあ私もすずかで』
『うん。ほら、アリサちゃんも』
『わ、私も?ええっと、うん、わかったわよっ!これからもよろしくねっ!』
そんなことを紅くなった顔でそっぽを向いて言うアリサ。それを見てすずかと顔を合わせ、笑うのだった。
魔法の訓練と体力作りも順調だ。今の所、リーゼ姉妹は気が付いていないようだ。少なくても、こちらには何のアクションも起こしていない。
体力は同年代と比べると圧倒的にある。だが、それでも勝てないすずかちゃんって何者?という気持ちもあったが。
そんなこんなで過ごしていたある日の事。いつものように屋上にて三人で昼食を取っていた。
「将来か……アリサちゃんとすずかちゃんは、もう結構決まってるんだよね?」
「家はお父さんもお母さんも会社経営だし。いっぱい勉強して後を継がなきゃぐらいだけど」
「私は機械系が好きだから、工学系で専門職がいいなぁと思ってるけど」
「なのははどうするのよ?」
そこでなのははうーん、と考える。もう一度教導官をやりたいな、とか色々あったがやはり一番はあれだった。
「わたしは、お嫁さんになりたいな……」
もちろん、ユーノ君の。声に出さずにそう思う。そんな反応に若干二人は困って
「あー、うん。頑張りなさいよ」
「そうだね、なのはちゃんならできるよ」
そんなぞんざいな返事を返した。だがなのははそれに気が付いていない。別の事を考えていた。
(確か、ユーノ君の広域念話が入る前後でこんな話題があったよね……そろそろ、かな)
あれから二年。あの未来でユーノが死んでからはそれ以上が経った。さすがに細かいところは覚えていないが、そろそろのはずである。
(嗚呼、ユーノ君、ユーノ君とまた会えるんだ!ユーノ君、ユーノ君、ユーノ君、ユーノ君……)
妄想で、顔がだらしなく歪む。だが、アリサとすずかは動じない。偶にこういったことがあるので慣れてしまっていた。
「あー、なのはまたああなっているわよ」
「そうだね……。いつもなら放っておくんだけど、そろそろ昼休みも終わりだから起こそうか」
「そうね……おーい、なのはー、起きなさーい」
アリサが肩を強く叩きながらなのはに呼びかける。なのはが戻ってきた。
「っは。アリサちゃん、どうしたの?」
「そろそろ昼休みも終わりだから帰るわよ」
「うん、分かった。片づけるね」
まあ、結局のところ、割と日常的な光景だった。
それから一日経った。念話は届かない。
(ええっと、落ちていないだけだよね)
さらに一日経った。念話は届かない。
(まだ、落ちないのかな?)
さらに一日。念話は届かない。
(まだ、かな)
さらに一日。
(……)
もう一日。望んでいたものとは違ったが、それが来た。
真夜中の事。それは魔力反応。どこかで大規模な結界が張られたようだ。しかもこの魔力は……間違いない。
(ユーノ君だ!ユーノ君だ!!ユーノ君だ!!!)
歓喜が全身を巡る。すぐに出かける準備をする。家族にはほぼ気が付かれるだろうが、関係無い。飛んでいく。
(今行くよ!待っててね、ユーノ君!)
そして、そこに到着する。間違いない。ここはユーノと出会ったあの森だった。
(結界、だ……ユーノ君はこの中。多分戦闘中。恐らくここでユーノ君は傷ついて、フェレットになる)
そこでふと思う。
(あれ……?でも今ここでユーノ君を助けたら、傷ついていないユーノ君、自分一人で封印を続けちゃうんじゃ?)
だが、そこであの光景がフラッシュバックする。大量の血を流し倒れているユーノの姿が。
(……!そうだよ!何を迷っているの!今回も助かるとは限らないのに!)
そして結界内に侵入した。
そこで見たものは誰よりも……何を差し置いてでも会いたかった人の後ろ姿。少し遠いが見間違えるはずがない。
(ユーノ君!ユーノ君!)
……それに気を取られていたのがまずかったのだろう。彼に相対していたのは金髪の黒い魔法少女と赤い狼。自分の一番の親友だった女の子とその使い魔。
彼女の魔法は既に放たれている。それは“フォトンランサー・ファランクスシフト”。
その膨大な量の魔力弾は無防備ななのはにも迫り、
「なのはっ!」
(え……?)
なのはを庇った彼を貫いた。
「え……?ゆーの、くん?」
結界が解ける。同時に
「ああ、あああ、あああああああああああああ!!!!!」
なのはの慟哭が、周囲に響き渡った。