そんなこんなで一騒動会った後
「駄目なの!ユーノ君は私の部屋で寝るの!」
「いーや駄目だ!流石にそこまでは認めん!」
なのはと士郎が口喧嘩をしていた。
なのはとユーノの(結婚を前提とした)お付き合いが、一応認められた後、もう遅い時間なので残った話は後にして寝ようかという事になった。
……きっかけはそれである。
ユーノと一緒に寝たいなのはとそれを認めない士郎。話は平行線を辿っていた。
「何で認めてくれないの!?お父さんなんて嫌い!」
瞬間、酷く落ち込む士郎。
「なのはに嫌われたなのはに嫌われたなのはに嫌われたなのはに嫌われたなのはに嫌われた……」
どう見てもなのはのTKO勝利だった。
「じゃあ、認めてくれるよね?」
「しかしだなあ……。そ、そうだ桃子たちはどう思う?反対だよな!?」
それでもなお食い下がる士郎。周りを味方につけようとする。しかし
「あら、私は構わないわよ」
「まあ、なのはも赤飯前だし大丈夫だろう」
「恭ちゃん、赤飯前って……。まあ、二人とも子供だし、別にいいんじゃないかな?」
見事に失敗した。
「お父さん?み と め て く れ る よ ね ?」
判定でも勝ち、なのはが再び問いかける。
「だ、だけどな!」
「あはは……、大丈夫ですよ、士郎さん」
それにユーノが言う。
「?何がだね?」
「こういうことです」
ユーノが翠の魔力光に包まれる。ユーノはフェレットになった。
「……そういえば、回復するまでそうならないといけないんだったか」
皆の意見を代表するように恭也が言う。
「はい、そうです。……図々しいかもしれませんが、回復したら部屋のほうをお願いします」
「え?何で!?」
しかし、それになのはが反応する。
「何でって……流石にそれはまずいでしょ」
「えー?私、別にユーノ君にだったら襲われても構わないよ。むしろ襲って!」
それを聞いた士郎が再びうがーうがーと反応して、桃子に宥められている。
「……なのは、もう少し慎みを持とうね」
「う……。ユーノ君がそういうなら気を付ける」
まあ、なんだかんだでなのははユーノには逆らえないのだった。
結局。ユーノは回復するまでなのは部屋、回復したら客間ということで落ち着いた。
そしてここはなのはの部屋。二人はやってきたのだった。
「……ここも久しぶりだな」
「そっか、ユーノ君にとっては久しぶりか……。でも、私も久しぶりな気分だよ。この短時間で、色々あったから」
にゃはは、となのはが笑う。そう、色々あったが最終的にはとても良い形になった。
「それで、これからどうしようか?」
「これから?うん、ユーノ君と結婚するのは当然だよね。日本では私が16、ユーノ君が18にならないと駄目だけど、そもそもユーノ君地球に戸籍ないからね。
前回は結婚する直前にコネを駆使して、お父さんが作ってくれたけど。でもミッドは男女とも15歳からだよね。だから中学を卒業したらすぐにミッドに移住して結婚しよう?
それでね、子供は最低でも二人欲しいな。男の子一人、女の子一人。もちろん、もっといてもいいけど」
「……いや、そういう話じゃないけど」
ジュエルシード集めやらフェイトの事やらを相談したつもりだったんだけど。そうユーノが言うとなのはが赤くなる。
それを見たユーノが提案する。
「……でもそんなことばっかりっていうのも駄目か。そうだね、そんな話もいいかもしれない。……長くなるようだったら結界張ろう」
迷惑だしね、とユーノが言う。
「あ、じゃあ私がやるよ」
「うん、お願い」
消耗しているユーノの代わりに自分が、と提案。ユーノは気遣って貰っているのが分かっているので、素直に頷いた。
結界が張られる。張られた後、ユーノが切り出した。
「なのは、さっきの話を聞いてて思ったんだけど、ミッドに移住するの?」
「うん」
なのはがそう答える。
「管理局にも、入るの?」
そして、一番の疑問をユーノが訊ねた。
「うん、入るつもり。……やっぱりユーノ君は反対?」
肯定する。そして訊ねる。
「そうだね、反対だよ。……でも、理由があるんだよね?」
ユーノとしてはこのまま地球の日本で一緒に生きるつもりだった。こちらの方が治安がいい。万一次元犯罪者が来ても、なのはと二人なら少なくとも家族位は護れるはずだ。
だが、なのはもそれが分からないわけではないだろう。何か理由があるはずだ。
「……一番は、償い、かな」
そしてなのはは答える。出来る限り、直視したくなかった過去を。もしかしたら軽蔑されるかもしれないという気持ちを抑え込んで。
「……なのは?」
「私はね、はっきり言って最低だった。ユーノ君が殺された後、それしか見えなくなった。親友たちの声も愛娘の声も何もかも無視して、自分が破滅すると分かっていながら走り続けた。
仇は……取れた。だけど、代償は親友達との関係で、愛娘との関係で、自分自身の命だった。得たものは、何も無かった。……それでも、死ぬ間際の私は後悔はしていないと思い込んだ」
ユーノは息をのむ。
「戻ってきて、落ち着いてから思った。……私がやったことは結局、何もかもを壊しただけだったって。
……ユーノ君。私を、軽蔑するかな?」
そういってなのはは俯く。ユーノの顔は見れない。
そんななのはを、人に戻ったユーノが抱きしめる。
「ユーノ……君」
「大丈夫だから。ぼくはそんなことでなのはを軽蔑しないから」
「――うん。ありがとう、ユーノ君。……でもね、正直に言ってまた同じことが起きたら自分を抑えることができる自信は無いんだ。
だからユーノ君――」
―――――もう、私を離さないで。
その言葉にユーノはなのはを抱く力を強くして答える。
「――ありがとう、ユーノ君」
そして、しばらく二人は抱き合っていた。強く、強く。
「落ち着いた?」
「うん、ありがとう」
そして、ユーノがフェレットに戻る。
「だからね、今度こそみんなの力になりたいんだ。……そして、誰よりもヴィヴィオの力に。今度は親子じゃなくてもいい。ただ、あの子が幸せになる手助けをしたい」
「うん。そういうことなら僕も反対しない。むしろ協力するよ」
そうユーノが答える。
「本当?ユーノ君が本気で反対するなら私は諦めるよ」
「……ねえ、なのは。僕が今までの話を聞いて反対できると思っている?」
それになのははクスッと笑って
「思っていない!」
そう笑みを浮かべて答えた。ユーノもつられて笑った。
「ねえユーノ君。良ければユーノ君もどうだったか教えてくれないかな?……勿論、話したくなければ話さなくてもいいけど」
話したいことは終わったけれど、もう少しユーノと話していたい。そんな理由でなのはが聞いた。
「うん、いいよ。事件の後ね、僕は司書長を辞めて執務官になったんだ」
一瞬の間。
「ええー!?それ本当!?」
執務官試験は相当難関なのだが。……まあユーノなら筆記は一発だろうが。
「とは言え皆に力を貸してもらったんだけどね。……あの忌々しい黒いのにも」
なんだかんだで彼に尻を叩かれなければ自分は立ち上がれなかった。それは非常に感謝している。だが、不満が一つ。
「でも、なんでよりにもよって配属がクラウディアなのさ!?おかげであの黒いのにはどれだけこき使われたことか……」
そのユーノの様子になのはは苦笑する。そこでふとした疑問。
「ねえユーノ君。ユーノ君、攻撃魔法あんまり使えなかったけどそこはどうしたの?」
「それはね、士郎さん達やザフィーラなんかに訓練を付けてもらったんだ。基本、ベルカ式だよ」
ふんふん。しかしそこでさらに疑問。
「お父さんたちにって……もしかして、ユーノ君もあの吃驚剣術を使えるの!?」
「御神流ね。勿論使えるよ。奥義も一通り。免許皆伝も貰ったし」
それになのはが頭を抱える。
「どうしたの?」
「多分……ユーノ君、回復したらお父さん達に道場に呼ばれるよ。そうしたら色々な違和感から結局、ばれるような……」
指摘され、ユーノも頭を抱える。
「う……確かに。そういう違和感はあの人達には隠せそうもない。……回復するまでに、適当な理由を考えよう」
「頑張ってね」
あはは、と力なくユーノが返事をする。なのはは話を続ける。
「それで、ユーノ君はどれくらい生きたの?」
「101歳、のはず」
「ええー!?凄いな……」
自分の三倍以上だ。
「でもね、すずかはもっと凄いよ。僕ね、死ぬ前の5年位は基本、寝床から離れなれなかったんだけどね、偶に通信で話すとすずかはぴんしゃんしているんだよ」
「そ、そうなんだ……凄いね、すずかちゃん。……ねえ、みんながどうなったのか教えてくれるかな?」
ん、いいよ、とユーノが話を続ける。
「じゃあまずははやてから。はやては最終的に大将にまで上り詰めたよ。プライベートでは沢山の子供に恵まれてね、孫なんて20人以上いたんだよ。
最終的にはヴォルケンリッターとリィンを一番上の孫に託してね、88歳まで生きたんだ」
20人!?凄いはやてちゃん、となのはが言っているのを見て次へ。
「次はフェイト。フェイトは、ずっと現役の執務官だった。でも40歳の前辺りで大怪我を負ってね、普通に暮らすのは全く問題が無いけど、執務官は引退せざるを得なくなったんだ。
その後は内勤に……という話もあったけど、退職してとある孤児院の院長に収まったんだ。そのまま79歳まで生きた。結局生涯独身だったけど、孫ははやてよりも多いって笑ってたな」
成程、フェイトちゃんらしいや、となのはは言っている。
「フェイトには本当にお世話になったよ。執務官の先輩としてだけでなく、プライベートでもさ。良くご飯とか作りに来てくれたし、掃除洗濯なんかも。ヴィヴィオの事でも色々と。……どうしたの?なのは」
「……別に、何でもないよ」
何で不機嫌になっているんだろうと思ったユーノだったが続ける。
「よく考えたら、もう寝なきゃいけないからこれが最後ね。最後は……ヴィヴィオ」
なのはが真剣な顔になる。
「ヴィヴィオは、最初は管理局に勤めた。聖王教会にっていう話もあったんだけどね、そっちは断ってた。最初はね、前線にいた。だけどすぐに辞めた。……何でだと思う?」
なのはは少し考えたが頭を振る。
「結婚するから。万一のことが無いようにって。相手は……彼は容姿は平凡だったし、高ランクの戦技魔導師というわけでもなかった。でも、誠実だった。ヴィヴィオの事情もしっかりと受け止めてくれた。だから……僕は彼にヴィヴィオを託した」
なのはは真剣にそれを聞く。
「一度だけ、聖王教会の過激派がヴィヴィオと彼の間にできた子を狙ってきたことがあった。その時、ヴィヴィオや僕、それ以外の皆も離れていて直ぐに彼のもとには行け無い状態だった。……だからこそのタイミングだったんだろうけど」
いったん切る。しかしなのはは先を促す。
「でも、彼はその子を護る決心をした。子を連れて必死に逃げ、ひたすら知り合いにSOSを出し、彼らが到着するまでにひたすら傷を負ったという、客観的に見れば、とても無様なものだったけれども」
そこで一息。
「はっきり言って彼と過激派の戦力差なんて図るのも馬鹿馬鹿しいくらい圧倒的だったよ。……勿論、彼の方が劣っていた。彼が子を差し出したとしても、誰も攻めなかっただろうね。
それでも、彼はそんなことをしなかった。そして……彼に援軍が来た。そして、それを確認して彼は倒れた。最終的に彼はその子を護ったんだ」
なのはは、変わらない表情で一つだけ訊いた。
「彼は、どうなったの?」
ユーノはうん、と頷くと答えた。
「実に11時間にも及ぶ手術の末、帰ってきたよ。ヴィヴィオ達を悲しませることは無かった」
それになのははそっか、と嬉しそうに頷く。
「以上だよ。まあ隠居はしてたけどヴィヴィオも彼も僕より先に逝く親不孝な真似はしなかったよ」
うんうん、となのはは自分の事のように嬉しそうである。でも疑問が一つ。
「彼って誰?私も知っている人?」
「秘密」
「ヒントだけでも!何処の馬の骨がヴィヴィオを持って行ったの!?」
「秘密」
どうやらユーノは答える気が無いらしい。
「うー。ユーノ君のいじわる」
「ははは。ほら、もう寝ないと。……もうすごい時間だし」
「わ、本当だ。……ねえユーノ君」
「何かな?」
なのはは、ユーノにお願いをする。
「……こっちに来て。今日はユーノ君の温もりを感じて寝たい」
「……うん。正直に言うと、僕もなのはの温もりを感じて寝たい」
そして、二人でベットに潜り込む。
「おやすみなさい……ユーノ君……」
「おやすみ……なのは……」
そして、疲れていたのかすぐに寝息を立てる二人。
その寝顔はとても幸せそうだった。