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No.24355の一覧
[0] アインハルトとミッドの夜[国綱](2011/07/11 23:57)
[1] アインハルトとミッドの少年[国綱](2011/03/10 02:59)
[2] アインハルトと赤髪の人[国綱](2011/04/06 01:36)
[3] アインハルトと聖王さま[国綱](2011/07/12 00:16)
[4] アインハルトと過去の人[国綱](2011/10/04 03:07)
[5] アインハルトと聖王さま2[国綱](2012/01/26 01:39)
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[24355] アインハルトと赤髪の人
Name: 国綱◆79ae6add ID:e7767d09 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/06 01:36
人が新学期という季節を爽やかに感じるのはそれが環境の一新が一旦を担っているだろう。
たとえそれが本人の身に訪れなくても新しい舞台に上がった多くの人間が放つ期待感に影響される。
学生という身分にあるものは特にそうだ、学年という身分が変化し、それに見合った学生社会での責任を負うことになる。
だが、その中でも進学という所属環境そのものが一新するものたちは、その中でも特に春という季節をその身で感じている。
アインハルト・ストラトスも、その一人であった。

「よし」

イエローのベストにタイといった可愛らしい服装を引き出しの奥に仕舞い、埃避けのビニールを破って取り出した白いシャツと黒いスカート、修道服的なシックな制服に袖を通す。
長い髪に軽くブラシをかけて何時ものように髪留めをかける。格闘技者としては短くした方が色々と便利なのだが、せっかく伸ばしたのだから、とそのまま毛先を整えるだけにしてきたのは少女としての自己主張なのかもしれない。
初めてつけるリボンタイに四苦八苦して、まだ教科書も入っていない手提げ鞄にメモと筆記用具だけを積める。
まだ硬い革靴を履いて、聖王教会サンクトヒルデ魔法学院中等部一年としてのアインハルトの生活は始まった。




学生という身分にとって、一年という壁はとても大きいものだ、小等部と中等部は同じ敷地内にありながら交流はほとんど無い。
同じ学部であっても学年の違うフロアに侵入するだけでとても目立つほど。
通いなれた道であっても、小等部の人間が自分を見る目は明らかに変わっている。
それが、自分は昨日までとは違うのだと、体と心に刻み付けられていく。

校門に張り出された新しいクラス表を確認して、アインハルトは新しいクラスに足を運ぶ。
教室はそれほど数日前まで通った小等部と変わりは無い。何かしら設備が増えたりといったところは何も無い。
そこに少々の落胆を感じているのは、やはりアインハルトも少しばかり浮かれていたからだろうか。
机に張り出された名前から自分にあてがわれた机を見つけ荷物を置く、これから一年お世話になる教室を見回すと、クラスメイトも見知った人間がチラホラと眼に入る。
中には全く見たことが無い人も目にはいるがそういった人は一人机で担任の登場を待っているようだ、小等部からそのまま進学してきた人間は顔見知りで固まって雑談を交わしている。
当然外部から入ってきた人もいるし、また出て行った人間もいる。
それに嬉しさとほんの少しの寂しさを胸に秘めるアインハルトだった。








窓の外を見れば肌寒い空気と暖かい日差しがグラウンドを包んでいる、春という季節の爽やかさを存分に「フレーフレー邪○銃」

ビシリと擬音がアインハルトの中で響く。
あまり質のいいとは言えないノイズ交じりの再生音声、それを耳にした途端、凛としていた彼女の何かがひび割れていった。
油を差していないモーターがゆっくりと回るように初めて首を後ろに向けるアインハルトの目に入ったのは、ここ数ヶ月でようやく名前を覚えた小等部の頃の知り合い。

「邪○銃、それ邪鬼○」

音声はその知り合いの持っている手持ちゲーム機から漏れている、未だ担任も決まっていない教室の中で堂々と携帯ゲーム機で遊ぶとは、呆れた神経をしていると言っていい。
しかし、その知り合いは間違いなく、そのゲームそのものを遊んでいるのではない。何故ならさっきから同じ声だけがアインハルトの耳に入る、狙っているのだ……

「ん、オッス」

「お、おはようございます……」

若干引きつるのを止められないままアインハルトはその知り合いに挨拶を返す。
タカオという名を持つ彼と出会ったのは小等部も終わりに近づいた時、古代ベルカの伝説の王の一人、覇王の記憶を受け継いだ彼女はそれを元に身につけた覇王流を試すべく変身魔法を使い、ストリートファイトを行っていた。
その時、あろう事か変身を解く際の姿を彼に見られてしまった彼女は、彼に口止めを願ったのだが。
その際に様々な誤解というか、ある意味当然というか、イロイロと彼女の自尊心にビリビリと罅を入れられてしまったのだ。

(落ち着くんです、何時も何時も反応するから彼は調子に乗るんです、そうもう中学なのですから大人の態度で……)

正直、自分も彼に迷惑を掛けてしまった事もある、おかげさまで漏れ無く風紀に厳しいと言われるシスターシャッハに『問題児』として認定されてしまっている。
それから彼のちょっと? したイタズラが始まった。
とはいえ、致命的な事は決して自分が知る限り言いふらしたりはしていない、その分色々と自分をからかうことが多くなった。
こんな事が続けば色々と縁が切れても仕方ない。

で、あるが、何故か二人の縁は切れないままで今に至る。
何故? とアインハルトも考えたが、何となく、という答え以外見つからない。

『覇王〇撃烈波ーー!!』

ビキ……

アインハルトの決意は、一秒かからず崩れ果てた。





「あいっ変わらず沸点低いなー」

(うっせーです)

思わずキャラに似合わない返しをしてしまうアインハルト、新クラスになった早々にタカオに切れてしまった。
クラスでの立場など、長いこと気にもしていなかったが、それでも他人から「男子に向かって怒鳴りちらす女子」と思われたくは無い。
既に後の祭りではあったが。
新学期当日はただ式と担任の挨拶のみで、既に終了。中等部になったことで部活動を始めようと思っている生徒は既に目当ての部活の見学に向かっていてクラスの中には二人しかいない。

「それで、お願いしていた事ですが」

「ん、ちょっと待って」

そういってタカオはまだシワもないピンとしたブレザーから四角いデバイスを取り出す。
ほぼ全面が画面だけしか無い待機状態のデバイス、そこから空間ディスプレイを展開。
そこには映るのは、聖王のゆりかご、そして。

「これが」

「マリアージュだってな」

四年前、そしてつい去年に発生したミッドチルダでの事件。
JS事件とマリアージュ事件、どちらも古代ベルカの王、聖王と冥王が関わった事件である。
数百年も音沙汰の無かった古代ベルカの王がこの数年で2名も現われるという異常事態で、一部の人間はベルカ崩壊時クラスの大事件の前兆ではないかと大騒ぎしたのは二人にとっても記憶に新しい事件だった。
もしもこの二つの事件が無ければ、アインハルトも覇王の記憶に拘ったりはしなかっただろう。
だが、現実に起きたのだ。古代のベルカの王が近代に二人も。
ならば、可能なのではないか。覇王の無念を晴らすことが。

「結論から言うけど、事件の詳細は調べらんなかったぞ」

「そう、ですか」

別に落胆はしていない。元々自分でも調べていたのだから。
その結果、二つの事件は共に秘匿事項が極めて多いことが分かった、という程度しか分らない。
どちらも管理局の重大なスキャンダルがあったためか、多くの情報はその一点に絞られていて、どういった事件で、どういった被害者がいたのか。
そういった情報は、ほとんど出回っておらずあったにしてもネットのゴシップと同レベル。
個人レベル、しかも学生の身ではこれが限界だった。






「はあ、やはりデマだったのでしょうか……」

期待していなかったとはいえ、やはり落胆の気持ちを止めることはできない。
だが、そもそも自分の身の上の事を欠片も信じていないだろうタカオが依頼を受けてくれただけでも感謝するべきなのだろうとアインハルトも考え直す。
そもそも聖王、冥王が現れたという情報ですら、聖王のゆりかご、冥王の従僕マリアージュからの類推解釈の域を出ていない。
そうなると、やはり覇王の悲願を果たすのは不可能なのだろうか。
期待はしていなかったが、やはりいくらかは気落ちしてしまう。

「まあ、聖王様と冥王様は見つかったけどね」

……今何と言っただろうか? アインハルトは耳を疑い、伸ばしたり塞いだりを繰り返す。
耳は正常だ、ならばタカオが言い間違えたのだろう。
なるほど、何時も自分に「オイオイ、いい加減変身して俺より強いやつに会いに行くとか辞めとけよ」などとバカにしていたが。

何だタカオも十分ダメな人ではないか。
この思考は既に自分がアレでダメな人と認めているのだが、その辺はまるで気がつかないアインハルト。
何時もの仕返しとばかりに、タカオに同情的視線、いや慈しむような視線を向ける。

「いや、期待を裏切るようで悪いが本当だから」

「そんな無理に取り繕わなくてもいいんですよ」

いくらなんでもそんな事を個人レベルで調べられる訳がない、例え見つからなくっても気にする事は無い。
自分のために少しでも手を貸してくれた、その事実だけで少しだけ彼を見直してもいいだろう。

「本当なのに……」

「分かりました、分かりましたから、別に気を使わなくてもいいんですよ」

「いや、だから」

全く、しつこい……それだったら……
ふっとした思いつきだったが、悪くないのではないだろうか?
何時も何時もタカオがそう言って覇王のことを自分をからかうネタにしかしないのだからやり返してもバチは当たらないだろう。
息をタカオに分らないように整え、万が一にでも突っかえないようにしたアインハルト。

(ふー、よし)「どうしてもっていうならしょーこを見せてくださいしょーこ」

努めて本人は平静に言ったつもりだろう、しかし実際に出た声は僅かながら上ずり気味。
どうだ、っとやり返されたタカオの悔しそうな顔を想像する、これでほんのちょっぴりだが溜飲が下がる思いがするのは、それだけ彼におちょくられてきた事が少しばかり気にしていたためかもしれない。

「ほいこれ」

え?っと疑問の声を上げる前にアインハルトの視線はその立ち上がった画面に釘付けになる。
燃えるような赤い髪をした女性が輝くような金の髪をした少女と共に写った画像。
それを目にした瞬間、心臓が激しく鼓動する。その髪その動き、雰囲気、何よりも色違いの瞳。
アインハルトの心臓が激しく鳴り響きその音は全身に響き渡る。
間違いない、いた、いたんだ。

「……で、アインハルトさんのほーの……」

タカオの声は、何処か遠い世界のように耳に入らない、アインハルトの目も彼に向けられることは無い。
ひたすらに目の前の画像と、そして内から湧き上がる記憶と衝動の中に埋没していった。











タカオ・ホンダがアインハルトを見つけたのは本当に偶然の出来事。
深夜の街を歩いていた事など、ほんの数カ月前まで小等部であった身にあるまじきことだが、それは彼にとって特別なことではない。
かといって、それが彼の素行不良が原因というわけでもない、むしろ彼以外にも多くの少年少女があの時間その近辺にはいたのだ。
そう……彼らが夜間外出している理由、それは。

「で、あるからして、この計算にはこういった公式を用いて」

塾だった。



(心配だ~心配だ~心配だ~)

今日の授業にまるで身に入らない、というのも放課後話をしていた少女、アインハルトが原因であった。
何しろ、彼女はあの画像を見せてからまるでタカオの話を聞いているとは思えない。
その後の予定が詰まってきたために、解散したが後になって不安がこみ上げてきてしまった。
例の情報をあの段階で話してよかったのか? 何しろ相手はあのアインハルトなのだ。

夜な夜な腕自慢に野良試合を仕掛けていくような人間が、お目当ての人間を見つけてじっとしているだろうか?
何度も釘を刺した、何度も何度も釘を刺したつもりなのだが……はたして彼女が聞いていたか?
そう思い返すと不安で不安で堪らなくなるのだ。

(仕方が無い……かなり勇気がいるんだけど…)

できればアインハルトがいる時にやりたかった事だった。一人でやるにはちょっぴりタカオも勇気がいる。
しかし、今やらないと不安で不安で押しつぶされそうでたまらない。



授業が終わり、塾生が一斉に解き放たれる中、物陰で外部の音が入らないことを確認したタカオの手にはデバイスが握られている。

「イーグル、電話かけんぞ」

デバイスの表面に走った番号帳の名前、そこに浮かびあがったのは
ナカジマ家。













(う……眩しい……)

目覚めたアインハルトに差し込んだ光、寝ぼけた頭でそれは朝の日の光だと判断する。

(昨日はどうしたんでしたっけ? ああそうだ今日はまだ二日目ですから授業自体はなくって教科書とかはいらなくて……)

少し少し目覚めていくと、どうも違和感が拭えなくなっていく。
目に映るのは、何処もかしこも見慣れた自分の部屋とは似ても似つかず、どういうことなのかと考えても考えても思い出せない……

「まさか……!?」

「あ、やっと起きやがった」

ガチャリというドアの開く音と同時に現れた最近名前を覚えた、というより学校でアインハルトが名前を把握している数少ない人間。タカオ・ホンダの顔が見えた瞬間だった。
アインハルトの脳は覚醒した。

(まさか、まさか)

「まさかこんな事を……」

「そりゃおれのせり「私を誘拐してどうするつもりですか!!」

別の方向に。









ノーヴェ・ナカジマは困惑していた。
ちょっと活発が過ぎる性格を表しているような燃えるような赤い髪をショートに切りそろえた少女は、昨夜自分に襲いかかってきた自称覇王を名乗る少女を保護。
とはいえちょっと派手にやられてしまってはいたのだが。
その後、彼女の知り合いだという少年が姉達に連れられてやって来たので、一人暮らしをしている姉のスバルの家で気絶した彼女を保護していたのだが。

「お、ま、え、は言うに事かいてそれかあああああ!!」

「痛い痛い痛いです、ウメボシはやめてください!!」

「訂正しろおおおおお!!」

昨日の時点ではシリアスだったんだがなあ、とコメカミにやってくる頭痛に思わず頭を抱えてしまう。

「あ、ノーヴェあの子起きた?」

「ん、まあな」

起きたといえば起きたと言っていいだろう、起きた直後に何をしていようが別にそれはどうでもいい事なのだから。
キッチンで山盛りのウィンナーを炒める姉、スバル・ナカジマに上の空で答える。
自分を襲ってきた少女は昨日とは大分印象が異なる、あの時は変身していたというのもあるが人を寄せ付けない壁を感じたのだが、さっきの彼女は歳相応の少女以上の印象を受けない。

「覇王ねえ」

「正直判断に困るのよね、これは」

新聞を片手にコーヒーを飲んでいる黒い管理局執務官の制服に身を包むのはティアナ・ランスター。
管理局の中でもエリートと呼ばれる執務官として多数の事件を解決し、ノーヴェの姉、スバルの親友である。
丁度、彼女が休みでミッドに来ていたのを幸いにアインハルトを保護してもらったのだが。

「うーん、なんだか男の子と女の子で温度差があるのよね」

「まあ、あたしらじゃないから……」

彼女達三人はJS事件、マリアージュ事件、その双方に深く関わっている。そのためアインハルトの言っていた覇王の記憶というのもある程度信用している。
何より彼女の歳と学生という身分不相応の戦闘力、三人の共通の知り合い、聖王のクローンである高町ヴィヴィオを彷彿とさせる左右で異なる瞳の色。
それはアインハルトの言う覇王の記憶を受け継ぐ者という証言にある程度の信ぴょう性をもたらしていた。が



「おはようございます」

「起こしてきました」

少々気弱な印象を受けるほどかしこまったアインハルトと、仏頂面をして頭にコブが出来ているタカオと名乗る少年。
今はまるで寝室の出来事が無かったかのように振舞っているが、開けっ放しのドアから二人の会話は筒抜け、というより隠す気が無い大声での罵り合いを聞いていた三人からすると、何とも言えない微妙に残念な感覚を受けるのだった。









「……ないわ……」

話を聞いた少年、タカオは反応までたっぷり一分ほどの時間を掛けてそう呟いた。
ノーヴェから昨日、連絡を受けたスバルが次に受けた連絡、それがタカオという少年がいるというナカジマ家からの情報。
それからアインハルトとノーヴェを部屋まで運ぶに当たって、何故彼がナカジマ家に連絡をしてきたのかといった部分はまだ聞いていなかった。
ノーヴェやスバル、ティアナは自称覇王の荷物をコインロッカーから回収しているので、身元自体は調べられているのだが、何故自分たちにたどり着いたのか。
詳しい話はアインハルトが目覚めてから。という少年の主張を受け入れたのは同級生をあんじる彼に同情した面が無かったとは言わない。

「つーか、何? バイザー付けて電柱の上から登場って何? そんな怪しい状態で『聖王と冥王の所在を話してもらえますか(キリ』お前バカだろ、知ってたけど絶対バカだろ!!」

「……」

ああ、うん、それは無いな。冷静に昨日の出来事を思い出すノーヴェだったが、何故昨日の自分はそのあたりをスルーしたのだろうか。あまりに雰囲気が真剣だったからとしか言いようがない。
一万歩譲ったとしても、それで素直に自分が話すと思うのだろうか? 初めから自分をターゲットにしていたという訳ではないようだし、有段者を前にして手合わせもしたくなったというところだろうか?

「ねえノーヴェ、何だか昨日聞いてた感じと違うんだけど」

コソコソっと聞いてくる姉の言葉に心の底から同意する、昨日のアインハルトは何処か浮世離れした雰囲気とその実力から、小さな二人の少女に迫る過去の因縁という感じだった。
ナカジマ家は聖王のゆりかごの復活したJS事件、冥王の使徒であるマリアージュの復活した事件双方に深く関わっていることもあり、それが迫ってくるのは全くもって有り得ないことではない。
なので昨日はかなり真剣に相手をしていたのだが……

「……ううう……」

一言もしゃべらず、少年の怒りを甘んじてうけるアインハルト、全身で「何であんな事をしてしまったのでしょうか」と自責と恥に追い込まれている普通の少女にしか見えない。

「『生きる意味は表舞台には無いんです』『列強のベルカの王を打ち倒しベルカの天地に覇を成すことそれが私の使命です』お前、マジ無いわ、何処の世紀末に生きてるんだよ!! 無いっていうか痛いっていうかもうどっから指摘したらいいのかわかんねーよ!! 漫画の見過ぎとかそういうレベルじゃないわ!!」

ここまでで大体この二人の温度差というか認識の違いはノーヴェ達三人にも伝わっていた、良くも悪くも少年は少女の主張をまともに受けていない。
ノーヴェからしたら、年齢に見合わない少女の実力から全くの妄言と切って捨てることは無いのだが。

「まあ、普通そうなのかもね」

二人の王、そして生きたロストロギアと言われる夜天の王の知古のある三人だからこそ、覇王の話はありえる事と判断できたのか。
これが普通のミッドの住人にとってのベルカ諸王の認知度なのかもしれない。
しかし、自分たちの場合はそうはいかない。たしかに普通だったら無いかもしれない、覇王の記憶と技を受け継ぐ等ということ。
例えばそれが何かしらのテクノロジーだとしたらどうだろうか?

ベルカ戦乱期という時代はそういうものが生み出されて不思議ではない時期だ。
プロジェクトF、クローンに対する記憶転写技術を始めとした、高ランク魔道士の保護技術。
冥王イクスに至っては本人がこの時代まで生存している。名高い覇王の記憶、技術を子孫に伝える術があったとしても不思議ではない。
そして、それを裏付けてもいいアインハルトの身体特性や戦闘技能。
決してあり得無いとは言い切れないのもまた事実なのだ。

とは言え、それを彼女に直接教える気も、ノーヴェ達には無い。例え記憶、能力、魔法といったものを受け継いだとして彼女には彼女の人生というものがあっていい、いやあるべきなのだ。
冥王イクスは、彼女自身を始める時を待って眠りについた。そして聖王のクローンであるヴィヴィオもまた、彼女自身の人生を歩もうとしている。
なら、覇王の継承者であるかもしれないアインハルトにも同じ権利があるべきだ。

もっとも、それを選ぶのもまた彼女自身の権利なのだが。


「あーちょっといい?」

とはいえ、このままでは話は進まない。ノーヴェ達が彼女達から聞き出したい情報がある。
何故彼女はノーヴェを狙ったのか、つまりノーヴェ達ナカジマ家からヴィヴィオ、イクスヴェリアに繋がるコネクションを察知したのかだ。
それはアインハルト単独では無いだろう。少年個人のものなのか、それとも他にも。

「あ、それ自分がアインハルトさんに教えました」

「ふんふん、それで貴方は誰から聞いたの?」

そこで素直に話してくれるなら、少し安心だろう、何かしら裏があるなら。
ティアナは既に情報を記録する態勢に入っていが、アインハルト、タカオ両名は全くそこには気がついていなかった。
二人が迂闊、というよりもやはりそんなに特殊な方面の人間という訳ではないからだろう。
ではそんな彼がヴィヴィオ達に辿りついたのは何故か。








「えっと、教会で聞きましたけど」

「はあ?」

「ええ教会です、そこで陛下ー陛下ーって呼ばれてる子がいたんで『ああこの子なんだ』って」

その場の空気を何と例えればいいだろうか。タカオ少年の周り以外がまるで照明を落としたかのような。
とてつもなく居たたまれないオーラを放つような。

「ま、不味かったんですか!? その辺のおばあちゃんがそこの子に「へいか、あめちゃんたべるかい」って渡してるもんだからてっきり隠してないもんだと!!」

それがトドメだった、ノーヴェ、スバル、ティアナは頭痛を堪えるように頭を抱え、特に酷いのはアインハルトだ。
机に穴が空くのではないかというほどジッと見つめ、そしてその視線は何処も見てはいない。
机の先が虚空に繋がっているかのようにココではない別の場所を見ている。

「……無いです……」

ようやく彼女が漏らしたその一言が、その心境の全てを物語っていた。










「いやー普通襲うとは思わねー」

「……反省してます」

「普通、先に電話して都合聞いて、アポイント取るだろ常識で」

「だから、反省してます」

「ほんとにー?」

「本当です!! いい加減シツコイです!!」

「しつこくもなるわ!!」

何やってんだこの二人は。付き添いで来たつもりのノーヴェの心からの感想。
アインハルトの存在はそれなりに噂の元になっている。路上で戦いを挑んでくる覇王を名乗る女性。
何人かは病院に担ぎ込まれているため、被害届こそ出されていないが治安上の問題として取り上げられる程度ではあるのだが。
昨夜はノーヴェから手を出したとはいえ、明らかな挑発を行って市街地での魔法戦闘まで行っている。
残念ながら格闘家路上襲撃事件と認識されてしまっているため、警防署に出頭する必要が出てしまっているのだが。

「警防署だぞ警防署、こんなところに顔だすようなハメになってるんだぞ俺!!」

「そ、それは……申し訳ないと思っているんですが……」

一応、タカオも共謀していることになるのだが。
もっとも本人は聖王のコーチに連絡して二人を会わせるだけの話だと思っていたようだから悪意自体は無かったのだが。

そもそもタカオ少年にヴィヴィオやノーヴェ、イクスの事を話したのはノーヴェの姉妹だというから、ノーヴェ自身もかなり頭が痛い。

「はいはい、二人ともじゃれ合うのはそこら辺にしとけ」

「じゃれてない!!」

「違います」

十分じゃれてる、とは流石に言うのは止めておいたほうがいいだろう。
内心この二人メンドクサイとため息を付くノーヴェだったが。

「それで、これからどうするんだ」

「行けるのなら学校に行きます」

「えー今日は休もうぜーそれで明日からは何事も無かったかのように教室入ろうよ」

一方は真面目、もう一方は色々と計算を入れている反応。
そういう意味ではない、もちろんそれも大事なことなのだが。
同時に、おそらく少年は彼女の問題を解決する事はできないだろうな、と理屈抜きで直感した。

「いや、ほら何ていうかな」

少年はあくまで因縁を感じ無い現代に生きているのだが、恐らくアインハルトは過去に、彼女の言う覇王の記憶や因縁に囚われているように感じる。
それは、当事者間でなければ分からない感覚なのだろう、それを全く知らない、理解しようとも思っていない少年に分かれというのも酷な話。
直感をある程度補強して、自分でも損な性分だと思ってもそこに手を出そうと思うノーヴェ。


そう思うのだが上手く言葉を口に出せない、元々ノーヴェはどちらかと言えばその前に手を出す方が好みとうタイプだ。自分の内心を他人に打ち明けるのも説得するのも得意分野ではない。
だから、必死に言葉を選んでそれを相手に伝えようとする姿勢が目に見えて伝わるのかもしれない。
相手を理解して、話を聞く。彼女がしようとしているのはそんな当たり前の事。
たどたどしく、言葉を少し少し選んで、そうして。


「話てくれないか、お前の抱えてるものをさ」

彼女の力になることを選択するのだった。


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