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No.24487の一覧
[0] 天使と悪魔と妖精モノ。(剣と魔法と学園モノ。3)【完結】[りふぃ](2014/05/11 22:24)
[1] 天使と悪魔と妖精モノ。(設定資料)[りふぃ](2011/07/02 13:43)
[2] 天使と悪魔と妖精モノ。①[りふぃ](2010/11/22 11:29)
[3] 天使と悪魔と妖精モノ。②[りふぃ](2011/11/05 01:59)
[4] 天使と悪魔と妖精モノ。③[りふぃ](2010/11/22 11:37)
[5] 天使と悪魔と妖精モノ。④[りふぃ](2010/11/22 11:45)
[6] 天使と悪魔と妖精モノ。⑤[りふぃ](2010/11/23 18:32)
[7] 天使と悪魔と妖精モノ。⑥[りふぃ](2010/11/23 19:00)
[8] 天使と悪魔と妖精モノ。⑦[りふぃ](2010/11/27 16:24)
[9] 天使と悪魔と妖精モノ。⑧[りふぃ](2010/12/02 16:30)
[10] 天使と悪魔と妖精モノ。⑨[りふぃ](2010/12/10 11:33)
[11] 天使と悪魔と妖精モノ。⑩[りふぃ](2011/12/23 10:16)
[12] 天使と悪魔と妖精モノ。⑪[りふぃ](2010/12/19 15:47)
[13] 天使と悪魔と妖精モノ。⑫[りふぃ](2010/12/23 16:36)
[14] 天使と悪魔と妖精モノ。⑬[りふぃ](2010/12/30 18:45)
[15] 天使と悪魔と妖精モノ。⑭[りふぃ](2011/01/08 00:07)
[16] 天使と悪魔と妖精モノ。⑮[りふぃ](2011/01/15 19:08)
[17] 天使と悪魔と妖精モノ。⑯[りふぃ](2011/01/29 23:34)
[18] 天使と悪魔と妖精モノ。⑰[りふぃ](2011/02/12 14:31)
[19] 独り言[りふぃ](2011/02/12 14:32)
[20] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act1 前編[りふぃ](2011/06/23 11:51)
[21] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act1 後編[りふぃ](2011/07/02 13:43)
[22] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act2 前編[りふぃ](2011/11/11 16:58)
[23] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act2 後編[りふぃ](2011/11/17 23:56)
[24] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act3 前編[りふぃ](2012/09/08 10:26)
[25] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act3 後編[りふぃ](2012/09/14 12:34)
[26] 生徒会の非日常に見せかけた、生徒会長の日常茶飯事[りふぃ](2013/04/10 21:09)
[27] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act3 一方その頃前編[りふぃ](2013/08/29 23:04)
[28] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act3 一方その頃後編[りふぃ](2013/09/12 03:31)
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[24487] 天使と悪魔と妖精モノ。①
Name: りふぃ◆eb59363a ID:c8e576f0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/22 11:29
§



茹だる様な暑さの八月上旬。
大陸の北寄りに位置するプリシアナ学院も、この時期は相応の気温なる。

「あ……ぢぃっす」

呟いたのは少女の声音。
年頃の少女にしては長身で、その背まで真っ直ぐに届く漆黒の髪は相応に長い。
整った顔立ちに白い肌。
多数のものが認める美人ではあったが、何より人目を惹くのはその頭部。
彼女の頭には御伽噺の悪魔を思わせる角が二本、控えめとは言えぬ程度には自己主張しているのだ。
冥界の血統を継ぐ、人あらざる異種族……ディアボロス。
それが彼女の分類だった。

「……」

中央校舎から渡り廊下を歩き、北校舎へ。
人気の少ないこの校舎が、彼女の密かなお気に入り。
プリシアナ学院は、大陸に三つある冒険者養成学校の一つである。
三校の中ではもっともその歴史が浅く、設備は充実している反面生徒数はやや少ない。
命がけの家業となる冒険者にとって、信頼できるのは実績の積み重ね。
新設の分その点でやや劣るこの学院は、広すぎる校舎と相まって人口密度に不均衡が生じる空間がある。
保健室やその主、死神先生リリィが居るこの北校舎もその一つであった。

「んー……」

渡り廊下で複数の女性徒とすれ違う。
エルフと、ヒューマンと、バハムーンの少女。
顔に見覚えは無く目礼もせずにすれ違うが、その会話の断片は耳が勝手に拾い上げた。

「……使えないよね」
「器用貧乏……」
「なんか……不気味で……」

ほんの数瞬で聞き取れた内容はこれだけ。
しかし彼女にとっては十分すぎるほどの判断材料である。

(またっすか)

学生とはいえ、この学園での学びは他校のそれと同じく凄まじい実践教育である。
最高の設備と優秀な教師陣による知識の伝播は怠ることはないが、それでも普通に死者が出る迷宮にも挑まねばならないのだ。
其れゆえに種族特性を把握し、長所を伸ばせる学科を専攻し、有能さを武器にやはり有能な仲間を探す。
生徒間の横の繋がりと実力こそが、彼らの生存率を上げるのだから。
同じパーティーで組んでいても、仲間であって友人ではない。
其処でどういった事が起きるのかと言えば、先ほどの会話である。

「おっかなーい……」

苦い笑みと共に、ディアボロスの少女は肩越しに振り返る。
先ほどすれ違った三人は、既に本校に入ったのか姿が見えない。
仲間の入れ替え。
悪く言えば切捨てだが、そのような事が頻回に起こるのである。
実力の合わない者。
専攻の学科を間違えて能力を発揮できなかった者。
そういった者を切り捨て、新たな仲間を迎えるのだ。
悪い事だとは思わない。
皆命がけなのだから。
自身の生還率を上げるため、そして死亡率を下げるため……
足手まといの荷物を置いて、優秀な『仲間』を求める。
おかしなこと等、何もない。
少女自身もそう思う。
しかし彼女の中でどうしても割り切ることが出来なかった。
実力主義社会にいる自分達である。
捨てられた者の事を思うほどに酔狂ではないのだが……
それが自分の身に降りかかってくる日を思えば、保身を考えるのも無理からぬことであったろう。

「……」

そもそもからして、ディアボロスは嫌われ者。
彼女に声をかけるものなど、この学園にも居なかった。
しかし全てのディアボロスが嫌われ、一人で居るのかと言えば……
必ずしも、そうではない。
単独では決して上に行けないと知る者は、それなりに上手く立ち回って仲間を見つける。
そんな同属も居るからには、彼女が一人なのは決して種族のせいには出来なかった。

「要するに、わたしゃ単なるKYか、適応不全か……」

伝説や神話の英雄譚を無条件に信じていた幼い自分。
成長して学園に通い、現実はそこまで甘くない事を知ったのは最近の事。
少女は未練がましさを自嘲せずには居られない。
理想を持ち、現実に触れ、そのギャップに滅入りそうになりながらも……

―――こんな自分にも、何時か、誰か……

その想いを捨て去ることが出来ずにいたのである。
そうして自身の思考に没頭を始めた少女は、疑問を抱くことが出来なかった。
通常は保健室にでも用のないと誰も来ない北校舎と、本校のを繋ぐ一本の通路で人とすれ違った意味。
あの三人組は、こんな所で誰と何をしていたのか……
後にディアボロスの少女は、この時の自分を憮然として振り返ることがある。
八月の暑い日、保健室で出会った天使。
彼女の人生、唯一無二の親友と好敵手と嫁と疫病神を一身に兼ねた少女との出会いは、果たして幸福の支配域に属する出来事であったのかと。



§



保健室のベッドで、薄汚れた少女が眼を覚ます。
彼女が着込んで居るのは、プリシアナ学園正規の制服。
その所々が薄汚れ、擦り切れている。
四肢には薄紫の皮下出血が生々しく、少女が受けたであろう暴行の悲惨さを物語る。
薄桃色のウェーブヘアで愛らしい風貌であったが、瞳だけは虚ろに天井を見つめていた。
純白の翼を背中と頭部より生やしたこの少女は、セレスティア。
天使の血を引き、本来信仰心に富んだ種族である。

「ん……」

状況が掴めない天使は、身体を起こそうとして……
全身から送られる痛覚反応に思考が止まる。

「くぁっ?」

自身の発した奇声の無様さに、笑いの発作に駆られる始末。
しかし此処で笑うと再び激痛に悶絶することになると、天使は懸命に発作を奥歯で噛み殺す。
その頃には既に十分な理性を回復しており、自身の現状は把握できた。
今度は苦笑の発作を覚え、それは自制できない。
何のことはない。
少女は仲間から捨てられた。
献身的に尽くしたつもりだったのだが、駄目だったのだろうか?

「駄目、だったのでしょうね」

全身の傷は、元仲間から貰った餞別。
心を抉る罵声と共に頂戴した、私刑の痕だった。
保健室に担ぎ込まれている所を見ると、やりすぎたと思ったか……
痛みを無視して全身を確認すると、どうやら打撲と擦り傷で済んだもよう。
骨折や内臓関係の損傷がなかったことに安堵しつつも、やはり陰鬱なため息を抑えられない。

「此処までします? いや、するか……」

誰にとも無く掛けた問いに、やはり答えたのは自分だった。
望んだことではないとしても、自分の失敗でパーティー全滅の憂き目を見たのである。
其処までの冒険が比較的順調に進んでいた反動もあり、怒り心頭だった仲間達の顔が目に浮かんだ。
さらに少女はうっかりと、その先の暴行と罵声まで思い出しそうになり、一つ息を吐いて思考を止める。
周囲に人の気配は感じなかった。
保険医はどうやら不在らしい。
もし居た場合、そしてこの傷を見られた場合……
仲間達は如何したのだろうか?
そう考えた天使だが、あまり意味の無い思考だったと思い直す。
この世界には、そしてこの業界には、怪我処か死亡の場合だって通じてしまう魔法の言葉があるではないか。

『化け物に襲われました』

こう言っておけば済むのである。
また通じなかったとしても、自分の失敗で迷惑を掛けたのは事実。
その事実を棚上げして被害者ぶってみせるつもりは、さらさら無い少女だった。
青い瞳から一粒だけ雫が落ちるが、天使には無自覚のことだった。
こういうことが普通になってしまう程度には、出会いと別れを繰り返している。

「……はぁ」

息をつき、痛む身体を支えながらベッドから身体を起こす。
消毒用のアルコール臭が、少女の嗅覚に少しきつい。
彼女にとっては決して好ましいにおいではないが、何処か安堵する心地も存在した。
この匂いは、保険医の白衣からもするのである。
学園の生徒からは死神先生とまで呼ばれる、ディアボロスのドクター・リリィ。
誤解されやすい性格ではあるが基本的に優しく、生徒想いなこの保険医を少女は内心では慕っていた。

(あ?)

少女の聴覚に引っかかる足音。
複数ではなく、一つ。
壁掛けの時計を確認すると、午前の授業が終った所だ。
昼時のこの時間に、態々保健室に来る生徒など殆ど居ない。
聡い少女はこの傷に対する言い訳と、その後に予想されるやり取りの模範解答を準備した。
あまり追求されたくないし、その意思を言外にでも感じてくれれば、リリィは見逃してくれると目算もあった。
小首を傾げ、上手く、出来れば最短で会話を終らせるパターンをシュミレートする天使の少女。
多少ハードな人生経験から、既に純真無垢の天使とは言えなくなった少女である。
彼女は保険医の楚々たる美人と言った容貌と、やや内に篭りがちな性格を思って微笑する。

(ちょっと涙目になってるくらいが、可愛いんですよねぇ……)

その性癖にサディスティックな一面を持つらしい少女。
第一声を心に決めた少女は、良い笑顔を浮かべて部屋の主を待つことにした。
この時彼女はつらい出来事からの逃避の為、やや攻撃的になった事を後に述懐している。
それを聞いた親友兼好敵手兼嫁兼厄病神なディアボロスの少女は、アレがお前の地であろうと一蹴して相手にしてくれなかったが。
ともあれ、廊下から足音が聞こえる距離のこと。
大した間もなく入り口の前で足音が止まり、静かに扉が開けられる。

「ちわーっす。頭痛いんでベッド貸して……」
「視界に入らないでいただけますか? 薄汚い悪魔を見てると、蕁麻疹が出そうです」



§



世界が凍て付き、切り裂かれた音を聞いた気がする。
お互いに相手を保険医と誤認した二人の少女。
この時、二人の世界は広くも無い保健室に限定され、お互いの存在だけが世界の全てと化していた。
先に正気に戻ったのはどちらだったか、この時二人は解らない。
しかし先に動き出したのは、確実に悪魔の少女だった。

「う……うぇ……」
「あれ?」

天使の少女は悪魔の娘の緋色の瞳が、一瞬で涙に染まるのを見た。
それは悲しいとか、傷つけられたという類の濡れ方ではない。
自分の理解を超えた事態に感情が全く追いつけず、生理反応として涙腺が決壊した大粒の涙であったろう。
しかし当の本人達にはそんな事はわからない。
とにかく天使のスウィートヴォイスは、全く見当違いの悪魔のグラスハートを粉砕した。
そうして何が起こったかというと……
理性と感情を置き去りにして幼子のように大泣きするディアボロスの少女に、ひたすら土下座するセレスティアの少女。
学園片隅の保健室は、明らかに日常からかけ離れたカオスな異空間と化していた。

「真に申し訳ありませんでした!」
「う、うぇ? グシュッ」

観客が居れば滑稽であったろう土下座劇は数分間にも及んでいた。
しかしもし、本当に観客が居れば、その様子に違和感も持ったかもしれない。
セレスティアとディアボロスは、種族的な相性が最悪なのは周知の事実。
それを差し引いても、双方共に自尊心とプライドが高い種族柄なのである。
人目を憚らず大泣きする悪魔と、そんな悪魔に土下座して許しを請う天使というのは、それだけで二人の個性を端的に示していた。
そしてそれは、二人が一般的大多数派の中では生き辛い同士だと、無意識に互いに教えあう事になったのかもしれない。
やがて悪魔は泣き止んだが、その時に見た天使の安堵した微笑。
其処に偏見を持たないで済んだのだ。

「あぁ、ひっく。えっと……?」

多少理性が回復しても、感情は空回って状況すら掴めない。
顔を上げた悪魔の少女が見たものは、ボロ雑巾のような天使の少女。
先ほど薄汚いと言った彼女の方が、今の自分よりよほど汚れているのは間違いなかった。

「ごめんなさい。先生と間違えて酷いこと言って……これから少し、口を慎む事といたします」

真摯にそう言った天使の少女は、きょとんとした悪魔の頭を軽く抱きしめる。

「えっと、良く分からないけど怪我平気?」
「……っ」

今頃になって痛覚の存在を思い出した天使。
引きつりそうな顔をKIAIで微笑の形に繕い、天使の少女は囁いた。

「大したことはありません。お気遣いありがとうございます」
「そ、そうっす?」

綺麗な顔をこわばらせ、悪魔の少女は引きつった返事を返してくれた。
腕の中から反射的に身を退かれそうになったのは、種族相性の問題であり、決して自分の笑みが怖かったからではない。
天使は自身に言い聞かせ、もともと緩く絡めるだけだった腕を離す。

「先ほどは、本当に失礼いたしました」
「あ、はい。いや、本当に失礼でしたけど事故だと思うことにします」
「貴方の寛容な御心に、感謝の言葉もございません」

天使は今一度頭を下げると、静と立ち上がり手を伸ばす。
悪魔の少女は目の前に差し出された手を反射的に掴むと、その身を穏やかに引き上げられた。
自分はいつの間にか、床に座り込んで泣き崩れていたらしい。
事此処に至り、ようやくその程度の状況を認識できた少女である。

「失礼」

その声に天使を見れば、ややぎこちない足取りでベッドの縁に腰をおろしていた。
セレスティアにしては長身な少女の背丈は、やはり長身の自分ほどには高そうだと思う。
しかし苦痛からかやや猫背になったその背中は小さく、また酷く頼りなかった。
どうしようかと一瞬迷い、やがて悪魔の少女は隣に続く。
そう広くは無い、保健室用のシングルベッド。
其処に拳一つ分の間隔で並び、座る少女が二人。
初対面の二人の距離が遠いか近いか、意見の分かれるところだろう。

「私はエルシェアと申します。宜しければエルとおよび下さい。今は盗賊を専攻しております」
「あ、ご丁寧に。私はディアーネ。英雄学科でお勉強中っす」

このとき二人が感じたのは僅かな違和感と、やはり僅かな納得だった。
魔法職が得意な、しかも死霊使いであるディアボロスが魔法の使えない英雄学科。
信仰心に篤く、やはり魔法が得意なセレスティアが選んだ盗賊学科。
人生の方向性を正反対に間違えたような学科選択だが、目の前のこいつなら……
そう思ってしまうだけの何かが、この時互いに芽生えていた。
この時も先に動けたのは悪魔の少女、ディアーネだった。
目の前に座るボロボロの天使に、当たり障りの無い慰撫をかける。

「そりゃ……苦労も多そうっすね」

穏やかに笑みを浮かべながら、エルはディアーネに向き直る。
何処か諦めたような寂しい笑みだが、それ以上に返された言葉はディアーネの予想を超えていた。

「ええ。でもまぁ、これで七つ目なんで……慣れました」
「……何が七つ?」
「学科ですよ」

事も無げに言い放ったエルだが、固まったディアーネは閉口した。

「始めは堕天使希望だったんですけど、戦力が中途半端ということで転科を求められまして」
「はぁ」
「その後も種族的に向いた専門職さんがいらっしゃる度に転科を続け、気がついたら……」
「学科を七股してましたって?」
「その間に、パーティーは四股してますけど……」
「……照れんなよ」

頬を赤らめて語るエルに、頬を引きつらせて突っ込むディアーネ。
エルとしても決して楽しい思い出を語ったつもりはない。
ただ、冗談のオブラートに包んでいないと精神的に参りそうだった。
そんな天使の内心は知らず、悪魔はその横顔を見つめていた。
おそらく様々な学科を、メンバーに求められるままに渡り歩いたことだろう。
その為、一つの技術を深く極めることが出来ずに徐々に荷物になっていった少女。
多分野に中途半端な才能がありすぎたが故に、失敗した稀有な例が其処にあった。

「器用なのか不器用なのか、わっかんないなー貴女」
「む? わたくしは昔から、器用に何でもこなせる子だねってご近所でも評判だったのですよ?」
「意に沿わない転科七回もするのは器用って言わないと思う」
「……誤差の範囲だと主張します」

拗ねた様にそっぽ向いたエルシェアに、ディアーネは思わず噴出した。
子供っぽいしぐさが妙に似合う娘だが、今のボロボロの格好がいろいろと台無しにしてくれている。

「まぁとりあえず、私の事は置くとして……」
「いや、もっと根掘り葉掘り聞きたいところなんですが?」
「拒否します。とりあえずわたくしの質問に答えてくださるまで」
「なんす? スリーサイズは秘密……」
「上から――、――、――といった所ですね?」
「何で知ってんだこの女郎!?」

瞬時に顔を赤らめ、思わずエルシェアの胸倉をつかむ。
きょとんとした天使は、無垢な瞳を悪魔に向けた。

「え、だって服の上からでも見れば普通に……」
「わかんねぇよ普通なら!」
「まぁ、貴女のボディラインはどうでもいいとして」
「失礼っすねあんた!」
「だって、ほら? いろいろな意味で負ける要素がなさそうなので」
「やってみなければ判るまい!?」
「比べてみたいんですか?」
「……」

ディアーネはまったく動じていないエルを見つめる。
頭の先からつま先まで。
舐る様にその全身に何度も視線を行き来させ、やがてどうしようもない格の違いを理解してうな垂れた。
自分の体系等、当の昔に承知している。
ディアーネの体系は細身の長身と相まってスレンダーな魅力であるが、全体のボリュームとしてはエルの足元にも及ばない。
どちらを貴重とするかは選ぶものの好みだろうが、当人同士で競った場合、発育不良を自覚しているパーツを持ったディアーネが不利だった。

「神は死んだ……残ったのは持つものと持たざるもの……争いの歴史は此処から始まった」
「そういう繰言なら、お得意の死霊さんにでもつぶやいて見たらいかがです?」
「私は死霊学科なんか取ってないっす」
「ああ、やっぱり転科したわけでもないんですね」

興味深げな視線を向けられ、ディアーネはやや気まずく視線を逸らす。
エルシェアは不躾にならない程度に見つめると、人好きのする笑みで問いかけた。

「ディアボロスの貴女が、いったいどうしてヒロインなんか?」
「え? だって格好いいじゃないっすか」

事も無げに言い放った悪魔の少女に、エルは目を丸くした。

「それだけ?」
「今のところ……うん。やっぱり格好いいから英雄になりたいっす」

自問自答し、やはり間違いは無いと簡潔な答えを返すディアーネ。

「私は何時か、誰もが振り返るような偉業を持って、英雄になりたい……うん。やっぱこれっすよ」
「へぇ……もう一つ、伺っても?」
「あい?」
「貴女、今この学園でお友達とかいらっしゃいます? おまけして組んでるパーティーでも良いですけど……」
「あう……残念ながら」

返答を聞き、エルは目の前の少女の内面の一端を読み取った。
認められたい、自分を見てくれる誰かが欲しい
その為に英雄たる実績が欲しいと言ったのだ。
同じ動機で七種目もの学科を転科した自分とは間逆に、一つの学科を突き進む少女の意志の強さ。
根底にある少女の孤独を、堕天使志望だった少女は感じ取ることが出来た。

(抉れば、堕とせる)

思考した瞬間、エルは苦笑して頭を振った。
そうして一つ息を吐くとベッドから立ち上り、徐に制服を脱ぎだした。

「はぁ!?」
「お静かに。密室の大声は響きますから」

訳が判らず混乱するディアーネを他所に、下着姿になったエル。
ボロボロの制服をやや乱雑にベッドへ放りだす。
口の中で何か言葉を紡ぐと、燐光が少女を包み込む。
それが何であるか、ディアーネは知識としては知っていた。
彼女は一度も経験は無いが、これは学園所属の生徒が転科する際のもの。

「……なんで脱ぐの?」
「ルールです」

意味がわからないといった風のディアーネに一つ笑みかけ、エルは高速詠唱で呪文を紡ぐ。

『ルナヒール』

天使の声が澄んだ響きで吹き抜ける。
美しい音を視認したかのような錯覚を覚えたディアーネは、まじまじとエルの横顔に見入っていた。
視線に気づき微笑を持って答えた少女は、既に全身の傷を癒していた。

「あんたの七つ芸の一つっすか?」
「はい。最初の転科が光術師だったのですよ」

エルは再び転科を行い盗賊に戻ろうとし……もう意味が無いと苦笑した。

「このままでいいか」
「あれ? 戻らない?」
「ええ、もう盗賊でいる意味も無いので」

そう言って再び制服に袖を通す。
一瞬顔をしかめたのは、今度は痛みによるものではない。
少女らしい思考から、一度脱いだ服を洗わずにもう一度着る行為を躊躇ったせいである。
もっとも他に服も無く、早急に学生寮に戻ろうと思案した。
燕のような機敏さで身を翻すと、悪魔の少女に一礼する。

「それでは、機会ありましたらまたお会いしましょう?」

悪魔の少女は心此処にあらずといった風で、ぼぅっとエルを見つめていた。
様子がおかしいと感じた天使。
しかし彼女にとっての急務は、何よりもまず着替えであった。
返事が無い事に気を悪くした様子も見せず、再び踵を返す少女。

「……」
「……」

エルシェアは歩き掛けた足を前に出せずに停止する。
ディアーネは信じられないような眼差しを、自分の右手に向けていた。
その手はしっかりとエルの左手首を掴み、お互いの意思に反して離しそうも無い。

「何か?」

肩越しに振り向いた天使だが、ディアーネの視線は繋がれた手から動かなかった。
エルの声は届いていたし、意味がわからなかった訳でもない。

(何か? 何かあったか? 理由。この手が勝手に動いた理由!?)

半ばパニックになりながら思考する。
元々反射的に、身体が勝手に動いたという類の行動。
其処に意味があったかどうかなど本人にすらわからない。
だがこの時、ディアーネはエルシェアの歩みを止めてしまった。
自然に流れていた空気を堰き止め、かき乱した。
起きてしまった事を、無かったことには出来ない。
それが判っていたからこそ、エルは失言に対して平伏して謝罪したのだから。
ディアーネもそれは判る。
判るからこそ、自分も何かを伝えなければならない。
自分から、この手を繋いだその意味を。
群れから逸れた天使へ、群れを持ったことの無い自分から。

「……校章」
「はい?」
「プリシアナ学園の校章って、もう取ってきたっすか?」
「ええ、それはもうだいぶ昔に」
「そっか、実は私まだなんすよ」
「はぁ?」

呆れたようなエルの声に、一人苦笑するディアーネ。
プリシアナ学園の生徒は、入学と同時に最初のクエストを課せられる。
学院が管理する『歓迎の森』に赴き、学院の校章を持ち帰ること。
それを達成して初めて、正式に入学したと認められるのである。
そんな初心者クエストを、このディアボロスはまだやってない。

「モグリですか? 貴女」
「違う! いや、違わないけどさ」

言葉に詰まったディアーネだが、見上げたエルの表情が穏やかな事に安堵する。
変わり者の自分と、やはり変わり者の彼女。
気が合うのではないかという漠然とした希望は、今確信に変わりつつあった。

「うん、今はモグリなんだけど、さっさと大手を振って校舎を歩けるようになりたいっす」
「ふむ……つまり、お姉さまの力を貸してほしいのですね?」
「誰がお姉さまか。落ちこぼれセレスティアを、私が拾ってやるって言ってるの」
「校章も取ってこれない子が?」
「む、今は好きに言うが良い。すぐに追いついて見せるから」

エルは憎まれ口を聞きながら、自分に笑みかける少女を見つめる。
彼女はディアーネほどに自分の勘を信じていなかった。
気が合いそうだとは思ったが、彼女にとってパーティー結成はこれで五度目。
今が永遠に続くと信じれるほど無邪気ではなく、この少女もいつ自分から離れていくか……
そう皮肉な視点で観察している自分も、内心で自覚していたのである。
それでも、エルシェアは求められた手を拒まない。
自分を見つけて求めてくれた者がある。
それだけで、満たされる自分を知っているから。

「永い付き合いになると、いいですね?」
「おうっす。よぼよぼの婆になっても縁側でお茶とかしたいっすね」
「……素敵ですね」

心からの本心でそういうと、エルはディアーネの手を振り払う。
なんというか、これ以上触れていたら押し倒したくなりそうだった。

「着替えてくるので、午後一で森に行きますか」
「了解。お弁当用意して待ってるっす」
「ああ……それは助かります」

そういえば、昼食を取り損ねていた。
一食や二食抜いてもあまり苦に感じない少女だが、目の前の発育不良悪魔は食べ盛りだろう。

「今、何か失礼な思考をもっただろ?」
「何を根拠に?」
「楽しそうに笑ってた。性格の悪い貴女がさ」

そういってディアーネも人の悪い笑みを浮かべるのである。
少なくとも、この校章探しは退屈しない。
その予感を胸に抱き、エルシェアは学生寮に歩きだす。
新たな仲間との旅立ちを、新たな心地で進めるために。



§



後書き

出会い編です。
後輩妖精は次で少し……





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