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No.24487の一覧
[0] 天使と悪魔と妖精モノ。(剣と魔法と学園モノ。3)【完結】[りふぃ](2014/05/11 22:24)
[1] 天使と悪魔と妖精モノ。(設定資料)[りふぃ](2011/07/02 13:43)
[2] 天使と悪魔と妖精モノ。①[りふぃ](2010/11/22 11:29)
[3] 天使と悪魔と妖精モノ。②[りふぃ](2011/11/05 01:59)
[4] 天使と悪魔と妖精モノ。③[りふぃ](2010/11/22 11:37)
[5] 天使と悪魔と妖精モノ。④[りふぃ](2010/11/22 11:45)
[6] 天使と悪魔と妖精モノ。⑤[りふぃ](2010/11/23 18:32)
[7] 天使と悪魔と妖精モノ。⑥[りふぃ](2010/11/23 19:00)
[8] 天使と悪魔と妖精モノ。⑦[りふぃ](2010/11/27 16:24)
[9] 天使と悪魔と妖精モノ。⑧[りふぃ](2010/12/02 16:30)
[10] 天使と悪魔と妖精モノ。⑨[りふぃ](2010/12/10 11:33)
[11] 天使と悪魔と妖精モノ。⑩[りふぃ](2011/12/23 10:16)
[12] 天使と悪魔と妖精モノ。⑪[りふぃ](2010/12/19 15:47)
[13] 天使と悪魔と妖精モノ。⑫[りふぃ](2010/12/23 16:36)
[14] 天使と悪魔と妖精モノ。⑬[りふぃ](2010/12/30 18:45)
[15] 天使と悪魔と妖精モノ。⑭[りふぃ](2011/01/08 00:07)
[16] 天使と悪魔と妖精モノ。⑮[りふぃ](2011/01/15 19:08)
[17] 天使と悪魔と妖精モノ。⑯[りふぃ](2011/01/29 23:34)
[18] 天使と悪魔と妖精モノ。⑰[りふぃ](2011/02/12 14:31)
[19] 独り言[りふぃ](2011/02/12 14:32)
[20] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act1 前編[りふぃ](2011/06/23 11:51)
[21] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act1 後編[りふぃ](2011/07/02 13:43)
[22] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act2 前編[りふぃ](2011/11/11 16:58)
[23] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act2 後編[りふぃ](2011/11/17 23:56)
[24] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act3 前編[りふぃ](2012/09/08 10:26)
[25] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act3 後編[りふぃ](2012/09/14 12:34)
[26] 生徒会の非日常に見せかけた、生徒会長の日常茶飯事[りふぃ](2013/04/10 21:09)
[27] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act3 一方その頃前編[りふぃ](2013/08/29 23:04)
[28] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act3 一方その頃後編[りふぃ](2013/09/12 03:31)
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[24487] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act2 後編
Name: りふぃ◆eb59363a ID:bd6dbf19 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/11/17 23:56

『力水之社』に踏み入ったディアーネは、その作りに既視感を覚えて呟いた。

「此処……なんか『蹲踞御殿』と雰囲気が似てるかも」
「蹲踞御殿?」
「うん。こっちに留学してる時に攻略した所だよ。門番がちょっと強かったけど奥は楽だった」
「ふむ……此処もそうだといいんですがねぇ」
「そうだね……まぁ、油断しないで行こう」

ディアーネの言葉に頷いたエルシェアは、前を行く悪魔の背中を目指して歩く。
ティティスの抜けた穴を補うべく、サブ学科に光術師を選択した堕天使。
得意とする鎌の射程を生かして後衛に控えたエルシェアは、地図を広げて行き先を示す。

「其処を真っ直ぐ行きまして、T字路を左ですね」
「おぉ? エルってば此処の地形知ってるの?」

ディアーネの疑問は、冒険者に共通する固定観念から来たものだった。
この世界で地図とはパーティーか、もしくは個人単位の持ち物である。
冒険者にとって完成されたラビリンスの地図とは、生命線と言っても過言でない価値を持つ。
それゆえに、一般の店に完成された地図が並ぶことは有り得ないのだ。
初見の迷宮で冒険者が最初に行うべきは地図の作成である。
これさえ出来れば、例え途中で帰還したとしても、魔法なり道具なりで続きから探索できるのだから。

「流石に来たことはありませんが……今回は二人で此処に挑まないとじゃないですか」
「うぃっす」
「なので少しでも負担を小さく進む為、怪しいお店で少しお高い地図を購入したのですよ」

そう言って堕天使が見せた地図は、序盤の道筋があらかじめ書き込まれたモノだった。
全階層で九フロアあるラビリンスの内、四フロアまでの直線進行ルートが記されている。
寄り道をせずに真っ直ぐ先へ進めれば、道中の回復アイテムや魔力を温存できる。
少数精鋭で進まねばならない二人にとって、これほど有難いことはなかった。

「流石エルってば、抜け目ないね! 最後には強いボスがいるってサルタ先生言ってたし、此処は道中節約したい」
「ですよね。少し冒険者の常識からは外れてしまいますが、別にこういう事がダメというルールはないんですから」

問題は掴まされた地図が偽物だった場合なのだが、堕天使もその辺は考慮している。
地図を購入する前に店の評判と客層を調べ上げ、正規の商品を扱っていない店の中では良質の品を扱う店選んでいた。
そもそもこの類の店で簡単に偽物などを売った場合、その悪評は一般の店よりはるかに早く、また誇張されて知れ渡ることは必至である。
かなりの出費だったが、書いてある部分までは信用できると思うエルシェアだった。

「まぁ、おかしな所に飛ばされても面倒ですから、この地図を頼りに転移魔法は使え……」
「ん……」

地図に視線を落としていた二人は、微かな違和感を覚えて顔を上げる。
殆ど同時に正面から現れた魔物の群れ。
宙を飛び、長い尻尾を鞭のように振り回してくるその魔物は、ディアーネには見覚えがあった。
警戒が甘かったことを自覚した悪魔は、内心で舌打ちしつつサイドステップで攻撃を躱す。
後ろにティティスが居れば足を止めて迎え撃ったろうが、相棒がエルシェアであれば例え流しても問題はない。
実際、堕天使はディアーネとほぼ同時に回避に移り、傷一つなく距離を取った。

「アレは……」
「『エレキブラスト』だね。雑魚だよ」

そう言いつつ、ディアーネは背負った大剣を抜き放つ。
悪魔の構えた『魔剣オルナ』は、鞘から釈かれた瞬間から濃密な魔力を刀身から放っていた。

「『サンダー』」

堕天使の声が空気を震わせ、言霊に導かれた魔法がその効果を発揮する。
小さな落雷は最初に先行した魔物を捉え、その動きが一瞬止まった。
間髪入れずに迸った悪魔の斬撃が、魔物を二つに両断する。

「ディアーネさんは、この子達をご存知で?」
「うぃっす、前に戦ったことある」
「なるほど」

後続の魔物が追いついてくる。
八匹程の群れは、最初の仲間がやられたために警戒しているのか、直ぐには襲ってこなかった。
堕天使は範囲魔法で一蹴しようと考えたが、ふと思い直して武器を構えた。
エルシェアが使うのは片手鎌の『シックル』と、恩師から授けられた盾『アダーガ』である。

「雑魚なんですよね?」
「うん」

言い切ったディアーネは、躊躇せずに相手の中に飛び込んだ。
踏み込みと同時にオルナを振るい、一匹の魔物を両断する。
その様子に頷いたエルシェアは、魔力の温存を決定した。
エレキブラストは左右にやや大きく展開し、飛び込んだ悪魔を囲もうと動く。
しかし間髪入れずに閃いた鎌が、悪魔の右手に陣取った魔物を切り伏せた。
同時に魔物の群れも数を頼んでディアーネに反撃を試みる。
三方向から振り回される尻尾。
空気を切り裂いて飛来するそれは、十分な威力を感じさせた。

「おっと?」

堕天使が一匹潰して作ったスペースを使ったディアーネは、余裕をもって回避し……
避け様に二つ剣を返し、二匹の魔物に確実な致命傷を撃ち込んだ。
更にエルシェアの追撃が魔物を切り裂くと、数の優位すら失った相手はまたたく間に駆逐された。
真新しい死骸の臭いに眉をしかめたディアーネは、周囲を警戒しつつ刃に付いた血を払う。

「まだ、なんとも言えない訳だけど……」
「そうですね、この程度なら問題なく進めるでしょう」
「だね。ポイントは地図に無い五層以降をどれだけ温存して進めるか、かな?」
「はい。何せ、九階層もある難所ですからね……流石は名高い侍学科の免状試験。一筋縄ではいきません」

微笑して語る二人の生徒。
この時点ではまだ、彼女達は確かに笑えていた。
やがてこの笑顔が凍りつき、その瞳から光が消えていくのはこの後数時間後のことである。

「あ、見えてきましたね……最初の階段」
「どうせボスは一番奥だし、とりあえず行けるところまでガンガン行こうか」
「そうですね、此処で回り道しても得るものはなさそうです」

後に二人にとって『冥府の迷宮の再来』とまで言わしめた、冒険探索の大失敗……
『力水之社迷走事件』は、こうして始まったのである。



§



序盤を一直線に踏破した二人は、いよいよ未開のフロアへ挑むこととなった。
此処まで彼女らが苦労する敵は現れていない。
しかしかなりの数が一度に現れる事もあるため、気を抜く事は出来なかったが。

「さて……此処からっすね」
「迷宮探索の始まりです。ディアーネさん、地図書きながら行きますので、進行を気持ち遅めにお願いします」
「うぃ。でも、何時もエルがやってくれるじゃない。偶には交代する?」
「大丈夫です。こういう作業好きなんで」
「そっか。じゃあお任せ」
「承りますお嬢様」

エルシェアに減速を頼まれた悪魔だが、もともと彼女自身もそれ程早くは動けない。
先を歩く彼女は索敵と罠警戒をしながら進まねばならず、結果としてそれは堕天使のマッピング作業と釣り合った。
本人同士が全く意識もしないところで、相性のいい二人である。

「うおっ!?」
「おっと?」

突然床が反転し、悪魔が半歩よろめいた。
堕天使も巻き込まれたが、彼女は間髪いれずに浮遊して、宙空で平衡感覚を取り戻した。
迷宮によくある、回転床トラップである。
これだけならば、ただの嫌がらせに過ぎないが……
強制的に通路の壁と対面させられたディアーネは、一見なんの変哲もない壁を慎重に調べる。

「基本だけど……えげつないっすね」
「お……まぁ素敵、電撃壁ですね」

壁には魔法の処理が施され、一部に高圧電流が流されている。
回転床で方向感覚を狂わせ、思わず壁に手をついた時に冒険者を感電させるトラップコンボ。
ある程度熟練した冒険者になると、魔物よりもこの手のトラップの方が嫌になるとも言われている。
これは冒険者にとっては性格が如実に出る部分であり、高レベルにも関わらず何度も罠に掛かる者もいれば、初心者でも慎重にくぐり抜けて行く者もいた。

「この程度のトラップでしたら、可愛いものですけれど」
「ほほぅ、エルだったらどんな組み合わせの罠を作る?」
「そうですねぇ……」

言葉を交わしながらも、意識は迷宮に向けている二人。
方向を正し、地図に罠を書き込み、慎重に先へ進んでいく。
両者の会話はそれらの作業の片手間に行われているため、話が数分に渡って止まることもしばしばある。
それでも切れた部分までの会話は忘却せず、唐突に続けられる話にも対応している辺り、熟年夫婦のような貫禄が伺えた。

「私なら、『ディープゾーン』の床に『アンチスペルゾーン』しいて、浮遊魔法を無効化すると同時に水没させますかねぇ」
「ひでぇ!?」
「『ワープゾーン』とか『ムーブエリア』の着地点にそれを仕掛けておくと、警戒もしにくくていい感じですよね」
「鬼畜がいるよぉ……」
「そういうディアーネさんでしたら、どんな罠を仕掛けます?」
「ん……エルのを聞いちゃった後だと、ハードル高いなぁ」

そう呟いた時、丁度襲ってくる魔物の群れ。
二人の会話は再び途切れ、堅実な各個撃破で殲滅する。
半数を仕留めたところで怖気付いたらしい魔物達は、バラバラになって逃げ出した。
悪魔はその様子を無感動に見送り、堕天使もそれに倣った。
迷宮の魔物はいくらでも湧いてくるものである。
戦意を失った相手まで殲滅していたら、身体が幾つあっても足らないのだ。
当面の危機が去った時、また唐突に始まる会話の続き。

「私なら……私なら……」

アイデアが出てこないらしい悪魔の様子。
その背を見つめる堕天使は、微笑ましさを覚えて息をついた。
単純にして根が善良なこの悪魔は、相手を陥れる発想で作る罠というものに適正がないのだろう
これは知性の優劣ではなく、性格の問題である。
エルシェアとしては、この質問に答えられない悪魔の娘を逆に好ましく思うのだ。

「んー……ごめん。ちょっとした悪戯位の物しか思いつかなかったよ……」
「悪戯……ですか?」
「うん」
「参考までにお聞きしてもよろしいですか?」
「いいけど、エルに言ったら笑われそう。本当に、子供のお遊びだよ」
「全然構いませんよ。知恵や発想は人それぞれの切り口があるものです。本当に無駄なものって、私達が思っている以上に少なかったりするんですよ」

ディアーネはどれだけ不味い提案でも相棒が受け入れるつもりらしいと知り、肩越しに振り向いた。
そこには地図に目を落とし、忙しく地形を書き込む堕天使。
いつもと同じその姿に微笑した悪魔の娘は、再び進みながら答えていく。

「そだね、私なら……ワープゾーンをいっぱい使うかな」
「ワープだけですか?」
「うん。それならほら……誰も痛くないじゃない」

誰も傷つかないで済む、ラビリンスの中のちょっとした悪戯。
予想した通りの可愛らしい提案に、エルシェアは顔を上げて悪魔の背中を見つめる。
先ほどディアーネが振り向いた事をこの堕天使が知らないように、今見つめられていることをこの悪魔は気づいていなかった。

「ルートを絞って最初だけ一本道にしてね? その先に分岐と小部屋を沢山つくるんさ」
「ほう」
「でね? 通路とその先の部屋に、ワープをいっぱい配置するの、全部入口に戻っちゃう奴」
「ふむ……ぇ?」

つまり、そのフロアのワープ全てが罠ということになる。
しかも冒険者は先に進むために、幾度も同じ道を通らねばならない。
初見の迷宮は皆手探りでマッピングしなければならない為に、敷き詰められたワープゾーンはほぼ全て踏み抜かねばならないだろう。
その度に、振り出しに戻される……
堕天使の口元がやや引つり、前をゆく悪魔の背中に視線が注がれる。

「でね? 分岐と行き止まり小部屋のワープを全部くぐり抜けた一番奥の部屋に、メインルートに続くワープゾーンがひとつだけあるの」
「つまり最後の部屋にもダミーワープてんこ盛りなんですね?」
「そりゃそうっすよ。やっぱり最後まで手は抜かないで行かないと」

一体この悪魔は、一フロアを何往復させるつもりなのだろうか?

「あの……ディアーネさん? つかぬことをお伺いしたいのですが……」
「あ、そうそう! 魔物は普通より弱い雑魚をいつもの倍で襲いかかって来る仕様だと完璧かな……ってエル? なぁに?」
「…………いいえ、なんでもありません」

せめてエンカウントは無しだろうと確認したかった堕天使である。
確認するまでも無く希望は打ち砕かれたが。
逆に戦闘回数を増やして、相手は経験値にもならない雑魚という徹底振り。

「あんまり強い魔物だと滅入っちゃうし危ないからね。弱めの敵が丁度いいよねきっと」

ディアーネの発言の根本は、その迷宮に挑む冒険者への安全を考慮したものらしい。
しかしこの悪魔の発想こそ、まさに匠の『心折設計』に通じるものだと堕天使は知っていた。
人は無為だと分かっている行為を、延々と継続出来るほど強くないのである。
もしかしたらこの悪魔にとっては、無意味に思える往復も苦にならないのかもしれないが。

「それにしても、エルってやっぱり凄いよね! 罠一つとっても厳しいよ」
「そのお言葉そっくりお返ししますよ」
「……? 良くわかんないけど、エルが敵じゃなくて本当に良かったって思う」
「はいわたくしも、でぃあーねさんがてきじゃなくてほんとうによかったです」

やや片言の棒読みな相棒が気になった悪魔だが、再び襲いかかってくる魔物の群れにお喋りは一時中断される。
エルシェアの動きは特に変わったこともなく、二人は高速連携で複数の敵を巻き込み、一気に殲滅してしまった。
戦闘が終わったとき、ディアーネは再び相棒を見つめるが、その時にはエルシェアは、何時もと変わらぬ風を取り戻していたのである。



§



初めに違和感に気がついたのは何時だったろうか。
各フロアを慎重に踏破していく少女達は、それなりの被害を受けつつもその歩を確実に進めていた。
ダークゾーンあり、回転床あり、ダメージトラップありと、それなりに豊富な罠には苦労したものの、二人の足を止めるには至らなかった。
それにも関わらず、少女達の足取りは重い。
各々の表情は虚ろであり、重いため息が無意識に溢れる。
その時、正面から現れる見慣れた魔物の群れ。
最早何匹切り倒したか、悪魔も堕天使も覚えていない。
力水之社の侵入してから、既に七時間。
目的の目録を探して只管さまよい続けていたのである。

「うざいっすよ……」

無表情のまま淡々と切り倒すディアーネ。
剣の冴えと引き換えにして感情を無くしたかのようである。

「……」

無言でアダーガを叩きつけるエルシェア。
しばらく前から、この堕天使は鎌ではなく盾を使って魔物を殴り潰していた。
特に危なげなく魔物を駆逐した二人は、お互いに暗い表情を確認する。

「今、どこだっけ?」
「ん……」

問われて地図を確認する堕天使。
九フロアに及ぶ広大なエリアの迷宮。
その最深部に届いたのは、なんと三時間以上も前の事。
其処には『うにうにチタン』という珍しい生物がいたのだが、目的のブツは無かったのだ。
苦労してラビリンスの最深部に到達した挙句、衝撃の事実に気力を削ぎ落された二人の少女。
しかし彼女達は諦めなかった。
それならばと地図を広げ、迷宮の最深部からローラー作戦で空白部分を埋める作業を始めたのである。
それ程苦労するとは、この時考えていなかった。
エルシェアもディアーネも、目録があるのは迷宮の深部であるとの固定観念から抜け切れず、九~七までのフロアを潰せば終わるだろうと思っていたのである。

「えぇと……今……最初のフロアまで戻ってきました。これが最後です」
「そっか……まさか此処まできちゃったか」

最新部からのローラー作戦も、ついに大詰め。
既に八階層の地図を埋め尽くした二人は最後の、そして本来なら最初に埋めていたであろうエリアのマッピングを開始した。
この時、エルシェアもディアーネも既に半ば諦めており、このフロアを埋めたとしても目録を見つけられるとは思っていなかった。

「私達、あの巨大ドワーフに騙されていたんでしょうか……」
「それはないと思いたいんだけど……此処まで見つからないと、何か罠があったんじゃないかって気がしてくるよ……」
「もし、『実は目録なんてありませんでしたこの経験が二人の宝物さ』なんてありがたい訓示でもいただけるなら……あの毛むくじゃらの暗殺クエストをうちの図書館に張り出しても許されますよね?」
「その時は報酬は、私が実家から私物だすよ。三千万G位は確実に集められるから」
「お願いします」
「まぁでも、どうせ私達がやるんだろうね」
「そうですね。これは人任せには出来ませんよね。憎しみ的な意味で」
「あはは。じゃあ、クエストの意味ないっすねー」
「うふふ。ですねー」
『あはははははははは』

不穏な台詞を交わし合い、壊れたような哄笑が力水之社に響き渡る。
数時間に及ぶ迷宮探索は二人の精神を蝕み、その思考を鈍化させていた。
それでも事故が起きなかったのは二人の高い実力と、何より運が良かったからに他ならない。
もっとも、痛い思いをすれば思考は一時でも冷えたろうし、場合によっては撤退して最初からやり直すことも出来たかもしれない。
そうする機会がなかったことが果たして幸運と言えたかどうかは、人によって判断の分かれる所だろう。

「それにしても、これで目録が此処にあったりしたら逆にオイシイと思いません?」
「だよねだよね。ティティスちゃんに良いお土産話ができるよね」
「先輩の威厳は、失墜しそうですけどね……」
「あうぅー」

心底嫌そうに呻く悪魔に、堕天使が嘆息する。
本当に、何時まで潜ればいいのだろうか?
既にフロアの半分のマッピングを終え、残るは一区画に密集する小部屋の中身を確認するのみ。
そして一二ある小部屋のうち、八部屋が既にハズレであった。

「後四部屋。さっさと済ませてしまいましょう。そして何もかも忘れて、お風呂入って休みましょう」
「うぃっす。そしたら戻ってティティスちゃん連れてさ、どっか遊び行こう。しばらくクエストなんか受けるもんか」
「大賛成ですディアーネさん。長い人生、自分にご褒美を上げなければ誰も生きていけませんよ」

ディアーネは乱暴に扉を蹴破り、エルシェアは不意打ちを警戒する。
動きはやや雑になったが、それでも必要最低限の警戒と布陣は条件反射に刷り込まれていた。
一つ目の扉。
何もなし。
扉を閉めて次の部屋へ。
二つ目の扉。
魔物の群れ。
『ファイガン』で焼却処分して次の部屋へ。
三つ目の扉。
宝箱。
何事もなかったように扉を閉める。

「此処が最後のお部屋ですね」
「……長かった」
「ですね……これで何処かに異世界に通じるワープゾーンでもない限り、此処の探索でやり残しは無いはずです」
「もうこの地図、タカチホ義塾に売り飛ばしてもいいよ。それで勘弁してもらおう」
「いいですね。勿論、原本を手元に残してからですけれど」

不穏当な台詞を吐きつつ、堕天使と悪魔は二人一緒に、最後の扉を蹴破った。




――通路の奥から目映い程の光が漏れていた


『……』


――ディアーネたちが近づいてみると、そこには頑丈な石遣りの小さな祠があった


『……』


――祠の扉を開けようとしたとき、周囲の空間が突然、歪んだ


『……』


――ディアーネたちの背中に、針のような鋭い殺気が迸る!




「武芸百般之目録を求めるのは……ひぃぃっ!?」

声の主は振り向いた堕天使と悪魔の視線に恐怖した。
死を連想させる濃密な殺気を纏った女生徒二人。
少女達が必殺の意思を込めて睨めつけたのは、黒鉄の鎧兜に赤い片刃の両手剣を携えたモノノケ。

「阿坊、何をしておる? 試験官がその様では面目が立つまい?」

呆れたように呟くのは今一方のモノノケだった。
白銀の鎧兜に、同色の両手剣。
左右で対のような門番だが、性格はそれぞれに違うらしい。

「吽坊! 貴様少しは空気を読め。この娘らの異様な殺気が分からぬか!?」
「何も……不細工な面が強ばって、更に見れたものでは無くなっているだけで……」
「っ!? 少し黙れ! 之だから年頃の女子の機微も分からん朴念仁は――」

なにやら揉めている門番モノノケ。
その小競り合いを止めたのは小さな、しかしなぜかよく響く靴の音だった。
モノノケの鎧兜が音の方向へ向けられる。
其処には穏やかな微笑と共に、ゆっくりと踏み出した悪魔が一人。
黒鉄の視線は、悪魔から背後の堕天使へ向かう。
エルシェアの表情が進み出た悪魔と全く同じだと確認し、これから起こるであろう惨劇に陰鬱なため息を吐く。
彼は生前の人生経験から、この笑顔で殺気を放つ女が如何に恐ろしい存在か知っていた。
一方、何も考えていないのは白銀のモノノケ。
彼は勇敢にも前に出た悪魔に満足そうに頷きながら、中断された口上を続行した。

「目録を手にすることが出来るのは心技体備えたツワモノのみ! お前達にその資格があるか、我々が――」
「黙れ」

簡潔に呟いた悪魔の視線と意識は、白銀のモノノケに向けられている。
ディアーネの意識が逸れた事に小さな安堵を感じる黒鉄の武者。
しかしその瞬間、彼は背筋に冷水を落とされたような違和感を覚えた。

「……」

悪魔の意識が白銀のモノノケに向いた瞬間から、背後に控える堕天使は黒鉄の武者しか見なくなった。
黒鉄は少しでも状況を整理しようと思考を巡らし、危険極まりない現状の確認作業を行う。
このようなとき、能天気な相棒が羨ましい黒鉄である。
生前からそうだった。
相棒の白銀が適当に無茶をやらかし、自分が後始末をしていくのである。
トラッシュトークが加熱していく相棒と悪魔の様子を尻目に、堕天使と睨み合いを続ける黒鉄。

「……」

此処に来たのは、今部屋にいる堕天使と、悪魔の娘の二人だけ。
意識を迷宮に飛ばしてみても、他に敵の仲間がいる気配はない。
彼がタカチホ義塾と盟約を結び、侍学科の免状試験の最終試験官を務めて以来、二人だけで此処に来たものはいなかった。
この修練には義塾の校長と職員の同意が必要であり、少なくともこの二人は其処で認められていることになる。
たった二人で、自分達と戦うことを。

「一番奥まで行ったとな? 愚か者め。足元を疎かにするからそのような目に合う」
「私ね? 侍学科に憧れてたの。その免状が、迷宮の入口に転がってるなんて思わなかった。なんの苦労も無しに得られる程度の学科なら、別にいらなかったよ」
「苦労が無いとは笑わせる。我らを打ち倒さねば、侍学科の道は開けぬぞ?」
「あんたら倒す苦労なんざ、迷宮七時間さまよう苦労の足元にも及ばねぇっす」
「哀れだな小娘。弱い犬ほどよく吠えると言う言葉を知らないらしい」
「そっちこそ、あんまり大口叩くと負けたとき惨めっすよ」

お互いを罵りながらもテンションを上げていく悪魔と白銀。
両者の手にはそれぞれの得物が握られ、解き放たれる瞬間を待ち望んでいる。
このままであれば、白銀の敵は悪魔になる。
黒鉄はなし崩し的に堕天使の相手をすることになるだろう。
彼はどちらかと言えば、直情的で分かりやすいディアーネの相手をしたかった。
先程から一口も訊かず、穏やかな微笑に静謐な狂気をにじませたエルシェアではなく……

「来るが良い。侍は、己の主張を刀でしか語れぬ生き物よ……」
「英雄は、その剣をもって生き方を示すだけ。いざ尋常に……」
「ちょっと待っ――」

黒鉄が声を掛けかけたその刹那、異口同音に開戦の布告が示された。

「勝負也!」
「勝負っす!」

悪魔の娘と白銀の武者は同時に地を蹴り、大上段から同時に得物を交差させる。
より多く前進したのはディアーネ。
より早く振り下ろしたのは白銀。
突進の優位と落下の優位はほぼ互角の威力を示し、中空でかみ合った二つの刃は凄まじい衝撃を持ち手に返す。
両者は破壊力の余波をまともに引き受ける愚を避け、示し合わせたように同時に踵を捻り、身体の円軌道の中に再び得物を巻き込んだ。
二人とも両手持ちの巨大武器を扱う者同士。
その激突は激しいが、たった一つの刃を避け損なえば、勝負は一瞬で決まるだろう。
無数の斬撃が両者の間に炸裂し、その全てが互いの得物に阻まれる。
完全に二人の世界に入っている白銀と悪魔を、遠い眼差しで見つめていた黒鉄の武者。

「――黄昏導く笛の音よ……」
「!?」

その意識を現実へ引き戻したのは、美しいソプラノだった。
鈴が鳴るような美声で紡がれる詠唱。
剣戟により鉄同士のぶつかる音が響く中、場を圧するでもなく溶け込むでもなく、只流れるその声に、黒鉄の武者は聞き入った。

「……『ラグナロク』」

堕天使の瞳が金色の輝きを帯び、その全身を同色の波動が包み込む。
かつて無いほどの威圧感を受けながら、黒鉄は無意識に太刀を構えた。

「昔、ママが教えてくれたこの魔法。ちゃんと使ったのは、これが初めてです」
「……光栄なことだ」
「正直わたくし自身、自分の変化に戸惑っています。加減も手探りになりますから、あっさり終わってしまうかもしれません。その時は、許してくださいね」

堕天使の表情から作り物めいた微笑が消える。
同時に右手から片手鎌が投げつけられ……
黒鉄が投擲された刃を弾いたとき、後ろから肩に手が置かれる。

「!?」

振り向きざまに刀を振るい、背後に回ったらしい堕天使を薙ぎ払う。
しかし彼自身が予想した通り、手応えが全くない。

「『ビッグバム』」

再び背後から聞こえた、綺麗な高音。
黒鉄が生前の肉体を持っていたら、涙目になっていただろう。
堕天使の唱える集団殲滅用爆裂魔法は、非常識な破壊力で部屋全体を飲み込んだ……



§



戦闘開始からどれほどの時間が経過したのか、知る者はいなかった。
金色の波動を纏った堕天使は、舞うような足取りと浮遊を持って、立て続けに繰り出される剣舞をすり抜ける。
白銀のモノノケと、黒鉄のモノノケ。
そして彼女自身の相棒たる、ディアーネの操る両手剣も。

「エルー!」
「あは!」

鬼の形相で切りかかるディアーネ。
エルシェアの魔法に巻き込まれた悪魔の娘は、精神の限界を超えてキレたのだ。

「エルがあんな地図買ってきたから、こんな事になったっすよ!」
「ディアーネさん、ずいぶん乗り気だったではありませんか!?」
「だいたいエルってば何時も発想が黒いんだよ! 楽することばっかり考えてるから、こんなに面倒なことになったんじゃない!」
「奥にボスが居るだろうと、前進を主張した人が何を言います! ヒロイックサーガ読みすぎて頭が固くなっている貴女が主な失敗要因です!」

堕天使も、決して態と巻き込んだわけではない。
初めて使った自己強化込みの攻撃魔法が、予想を遥かに超えていたというだけで。
しかしエルシェアとしても、長時間の探索で精神的に摩耗していた。
堕天使はなし崩し的に交戦を開始し、前衛の仕事を放棄して一騎打ちに走った悪魔を逆に攻めた。
そして互いに譲らぬ二人は、遂に同士討を開始したのだ。

「はっ!」

裂帛の気合と共に繰り出される悪魔の斬撃を、サイドステップで避ける堕天使。
避けた所に黒鉄が斬り掛かるが、これはあっさり止められる。

「馬鹿な……」

驚愕を通り越して呆れたような呟きを漏らす黒鉄の武者。
武器を持たぬ堕天使の右手は、手の平で切っ先を受け止めていた。
相手の動きが止まった瞬間、エルシェアは左の盾を叩きつける。

「ぐはっ」

武者は殴打の衝撃に耐え切れず、数メートルの距離を吹き飛ばされる。
その隙に再び切り込もうと、剣を構えた悪魔の娘。
しかし割り込んだ白銀の声が、少女の動きを押しとどめた。

「『アクアガン』」

白銀の武者が紡ぐ言霊により、空間に氷塊が導かれ堕天使を襲う。
巨大な氷に閉じ込められたエルシェアだが、直ぐに氷はまっぷたつに裂けてしまう。
その中から悠然と歩み出る、無傷の黒翼天使。

「児戯ですねぇ」

最初は三つ巴だった大喧嘩。
しかし現状はエルシェアに対し、ディアーネとモノノケが連合して挑む様相を見せている。
ラグナロクによって強化された堕天使の戦力は、それ程圧倒的だった。

「この!」

振り下ろされる悪魔の刃を、半歩ずれてやり過ごす。
ディアーネは手首と体の捻りで横薙に変化させるが、今のエルシェアは見てから避けても間に合った。

「はい」
「うわ!?」

強引な横薙が空を切ったとき、踏み込んだエルシェアがディアーネの足を蹴り払う。
エルシェアは一つ一つの動作を確かめながら戦っていた。
常よりも早く動く身体。
行きたい地点に早く届くから、余裕を持って静止出来る。
余裕を持って止まれるから、攻撃のテイクバックが正確に出来る。
狙った部分を確実に打ち抜く事が、今までよりも遥かに簡単にやれるのだ。

「次、行きますね?」

宣言と共に白銀の武者に踏み込むエルシェア。
その動きに即応して振るわれる一閃。
堕天使は緩い弧を描いたステップで刃の裏に滑り込んだ。
手の届く間合いを取ったエルシェアは、白銀の武者を右手で殴る。
彼は声を上げる事も出来ず、相棒と同じ様に吹き飛ばされた。

「……」

エルシェアはほぼ全力で殴った右手を凝視する。
衝撃は気持ち良いくらい返ってきたが、右拳は全く傷んでいなかった。

「ラグナロク……か。こんな危ない魔法を幼子に教えないでくださいよ……」

呆れたように呟いた堕天使。
この時、エルシェアは自分の状態をやや誤解している。
学園の術師系学科や、その他学科の上位者が習うラグナロクなら、此処まで非常識な強化は掛からない。
そもそもこの魔法は、パーティー単位を補強する集団強化の魔法である。
全く同じ詠唱と構成でも、その都度効果が変動する未知の魔法。
しかしその効果が恐ろしく有用なことから、熟練の冒険者にとっては秘法の一つ。
冒険者にとってラグナロクとは、本来そういうモノである。

「身体能力の向上と守備強化と魔力の充実。そして対魔遮断の結界生成……成程、これが使えれば負けないですね。普通なら」

だが、エルシェアのラグナロクは起源が違う。
彼女が扱う魔法は母親が死の間際、たった一人遺される娘の行く末を案じて授けたモノ。
恐らくかなり手の込んだアレンジがされていたらしい母の強化魔法だが、娘は一般的な魔法との差異に全く気づいていなかった。
エルシェアの魔法は彼女の身体から外に出る事がない。
仲間に掛けられないという欠点の反面、ラグナロクの効能のうち、自分に掛かるモノが全て同時に機能するのだ。

「エル!」
「ん!?」

戦力把握に思考を割いていたエルシェアは、悪魔の声を聞くまで警戒を怠った。
自分の油断と、律儀に奇襲に声を掛けた相棒の双方に苦笑する堕天使。
視界の中にディアーネが居ない。
エルシェアは背筋が泡立つのを感じつつ、勘に任せてアダーガを頭上に掲げる。

「くぅっ!?」

同時に頭上から降ってきたのは、跳躍した悪魔が落下の加速を足して振り下ろして来た魔剣オルナ。
アダーガを挟んだエルシェアだが、手首を固める暇は無い。
盾越しに伝わる衝撃が左手首を挫き、この戦いで初めて堕天使の痛覚を刺激する。
ディアーネはそのまま、盾と剣の接点を支点に前転し、エルシェアの背後に降り立った。
間髪入れずに振り向こうとした堕天使だが、その動作を強制中断させる雄叫びを聞く。

「おぉおおおおっ!」

彼女の敵はディアーネだけではない。
白銀の武者は悪魔の娘が生み出した千載一遇の好機を逃さず、盾を掲げて伸びきったエルシェアの身体に組み付いた。
ラグナロクにより金色の波動を纏った堕天使に、刃も魔法も届かない。
しかし腰に取り付かれてしまえば、力づくで引き剥がさなければ動けないのだ。
エルシェアは捨て身で自分を抑えに来た白銀の武者を一瞥し、その甲冑を粉砕するつもりで右拳を振り上げた。

「させぬわ!」
「む!? 鬱陶しいっ」

エルシェアが振り上げた右腕は、今度は黒鉄の武者に抱え込まれる。
純粋な腕力でも、今の堕天使はモノノケ達を凌駕していたろう。
しかし体躯は相手の方が勝っている上に、二人掛りで腰と右腕に組み付かれているのである。
これを即座に振り解くのは、堕天使とて難しい。

「離しなさい」
「ぐはっ」

腰に組み付く白銀の武者に、膝を打ち込む堕天使。
一瞬拘束が緩むが、モノノケは尚完全には離さない。

「ぐふっ……今だ、娘よ!」
「だ、だけどそれじゃあんた達も!」

白銀の武者は遠のく意識を必死に繋ぎ、敵だったディアーネに語りかける。
しかしそれ以上は言葉が続かず、残りの力を込めて堕天使を抑える。
そんな相棒に内心で苦笑しつつ、黒鉄の武者が続けた。

「ヤレ! 長くは持たぬっ」
「そんなっ……」
「友の刃に斬られるなら本望――っぐわ……それに、これほどの強敵を道連れに出来る機会もそうあるまい――ごはっ……」

暑苦しい三文芝居の悪役にされた堕天使は、無言でモノノケに左肘を打ち込んでいた。
かなり本気で殴っているのだが、自分と状況に酔っているらしい黒鉄の武者は離さない。
それどころか殆ど意識のないはずの白銀と共に、更なる力でエルシェアに組み付いてきた。

「征け! 若人――新たなる侍よ!」
「っく!? だからバカって嫌いなんですよ!」

エルシェアは珍しく本気で焦りながら、感涙に咽びつつも魔剣を腰溜めに構える相棒に視線を送る。
モノノケの剣も魔法も、エルシェアの纏う金色の波動は破れなかった。
しかしディアーネの魔剣と技量を持ってすればどうなるか? 
好奇心はあるが、試してみたいとは欠片も思わぬ堕天使である。

「いい加減お退きなさいっ!」

怒気と共にエルシェアの放つ雷撃が、鎧武者達を引き剥がす。
間一髪自由を確保した堕天使だが、この時既にディアーネは特攻の準備を終えていた。
浮遊で空に逃げれば、悪魔の剣は届かない。
それに気づかぬエルシェアでは無いのだが……

「奥技――」
「秘法――」

ディアーネからだけは逃げたくない堕天使は、全力で迎え撃つことを決める。
一方の悪魔は、既に全力で打ち込む以外の選択肢は存在しない。
アダーガとオルナ。
共に保健医から授けられた武具を構えた両者は、現時点で出せる最高の技法を解き放つ。

「超・鬼神斬り!」
「ビッグバム!」

悪魔の光速剣は都合六回迸り、部屋の壁と柱を解体する。
堕天使の魔法は問答無用の大爆発を巻き起こし、天井と床を粉砕する。
両者共に、奥義を相手に当てることをしなかった。
その結果……

『あ?』

既に散々傷つけられていた部屋へ、止めの一撃が加えられたに等しかった。

「ちょっ!? 待っ……」
「え、うそっ!?」

迷宮の一部が崩落し、仲良く巻き込まれた堕天使と悪魔。
彼女達が再び陽の光を見るのは、体調を戻した後輩が助けに来る二日後の事だったと言う。
救助された時、二人の女生徒の傍から件の目録も発見された。
これが決め手となり、侍学科は新たな人材を得ることになる。
迷宮を崩落させたほどの激闘は、三学園それぞれに噂として伝わり、しばらく語り草となった。
しかし当事者達は淑女同盟を締結し、この事を武功として語る事はお互いにしなかった。
本当の事など語れるはずがないのだが、明かされない嘘は真実と同義。
エルシェアもディアーネも、あの社での出来事は嘘でグルグル巻きにして墓まで持っていく心算である。
その姿勢を良い方に誤解した多くの者に謙虚さとして受け取られ、称賛と尊敬を集めたが……
堕天使と悪魔はこの話題が出る都度、顔を見合わせて苦笑いするのみであったという。













後書き

外伝その2の後編をお届けいたします。
ラビリンスに欠かせないのが罠。
とにかくこのゲームは罠とか厳しかった覚えがあります。
噂では2と1はもっときつかったとの話も聞きます。恐ろしい限りdす。

今回は、もう何回目かになりますほぼ事実に基づいたSS編です。
奥にボスがいるという、通常のRPGの常識を覆すまさかの1Fボス。
上手くいけば一度も戦わずにたどり着くことが出来るでしょう。
そうとは知らずに奥の奥まで転がっていき、最深部のうにうにチタンを乱獲した冒険者は多いと聞きます。
多いよね? 多いと言ってorz

此処まで来ら、プリンセス開放編も書きたいなぁ……
リアルに時間が……
 
此処まで読んでくださってありがとうございます。
それでは、またお会いできる日がございましたらよろしくお願いいたします。


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