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No.24487の一覧
[0] 天使と悪魔と妖精モノ。(剣と魔法と学園モノ。3)【完結】[りふぃ](2014/05/11 22:24)
[1] 天使と悪魔と妖精モノ。(設定資料)[りふぃ](2011/07/02 13:43)
[2] 天使と悪魔と妖精モノ。①[りふぃ](2010/11/22 11:29)
[3] 天使と悪魔と妖精モノ。②[りふぃ](2011/11/05 01:59)
[4] 天使と悪魔と妖精モノ。③[りふぃ](2010/11/22 11:37)
[5] 天使と悪魔と妖精モノ。④[りふぃ](2010/11/22 11:45)
[6] 天使と悪魔と妖精モノ。⑤[りふぃ](2010/11/23 18:32)
[7] 天使と悪魔と妖精モノ。⑥[りふぃ](2010/11/23 19:00)
[8] 天使と悪魔と妖精モノ。⑦[りふぃ](2010/11/27 16:24)
[9] 天使と悪魔と妖精モノ。⑧[りふぃ](2010/12/02 16:30)
[10] 天使と悪魔と妖精モノ。⑨[りふぃ](2010/12/10 11:33)
[11] 天使と悪魔と妖精モノ。⑩[りふぃ](2011/12/23 10:16)
[12] 天使と悪魔と妖精モノ。⑪[りふぃ](2010/12/19 15:47)
[13] 天使と悪魔と妖精モノ。⑫[りふぃ](2010/12/23 16:36)
[14] 天使と悪魔と妖精モノ。⑬[りふぃ](2010/12/30 18:45)
[15] 天使と悪魔と妖精モノ。⑭[りふぃ](2011/01/08 00:07)
[16] 天使と悪魔と妖精モノ。⑮[りふぃ](2011/01/15 19:08)
[17] 天使と悪魔と妖精モノ。⑯[りふぃ](2011/01/29 23:34)
[18] 天使と悪魔と妖精モノ。⑰[りふぃ](2011/02/12 14:31)
[19] 独り言[りふぃ](2011/02/12 14:32)
[20] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act1 前編[りふぃ](2011/06/23 11:51)
[21] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act1 後編[りふぃ](2011/07/02 13:43)
[22] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act2 前編[りふぃ](2011/11/11 16:58)
[23] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act2 後編[りふぃ](2011/11/17 23:56)
[24] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act3 前編[りふぃ](2012/09/08 10:26)
[25] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act3 後編[りふぃ](2012/09/14 12:34)
[26] 生徒会の非日常に見せかけた、生徒会長の日常茶飯事[りふぃ](2013/04/10 21:09)
[27] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act3 一方その頃前編[りふぃ](2013/08/29 23:04)
[28] 天使と悪魔と妖精モノ。外伝 Act3 一方その頃後編[りふぃ](2013/09/12 03:31)
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[24487] 天使と悪魔と妖精モノ。⑤
Name: りふぃ◆eb59363a ID:c8e576f0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/23 18:32
§

プリシアナ学園北校舎。
ディアボロスのドクター・リリィの保健室があるこの棟は、普段殆ど生徒が寄り付かない空間である。
プリシアナ学園の生徒は現場に出る実習に重きを置き、学園付近で怪我をする事があまり無い。
そのような理由から閑古鳥が常駐する保健室に、珍しい客がやってきた。
学園の生徒会長を勤める、セルシア・ウィンターコスモスである。

「失礼します」

礼儀正しく一礼し、スライド式のドアを開けたセレスティアの少年。
消毒用のアルコール臭が、一瞬彼の眉を潜めさせた。

「あれ……会長さん?」
「君は……エルシェア君」

扉を開けた少年を出迎えたのは、保険医ではない。
同じセレスティアであるが、その背と頭の翼は漆黒。
薄桃色のウェーブヘアを揺らして微笑するのは、堕天使の少女。
セルシアは少女を特に気にした様子も無く、小さな室内を見渡した。

「リリィ先生がどちらにいらっしゃるか、ご存じないかい?」
「私も今来た所なのですが……出来れば私がお伺いしたいくらいです」
「そうか……入れ違ってしまったかな」

考え込む仕草のセルシアに、エルシェアと呼ばれた少女が声を掛けた。

「旅支度ですか。また、何処かのクエストに?」
「ああ、君達のパーティは、雪原帰りだったね」
「はい。プリシアナッツを貪るケダモノを、千切っては投げ千切っては投げ……」
「それは面白そうだね。今度フリージアに、報告書を見せてもらおう」

エルシェアの軽口に、セルシアが微笑する。
一頻り笑いあったところで、セルシアが笑みを収めて息を吐いた。

「実は、少し事故が起こったんだ。丁度君達の出発と前後する時期か……そちらの正確な時期は、わからないが」
「ふむ、随分大きな事故だったのでしょうか。雪山から帰ってきたら、先生も生徒もだいぶ少なくなっていて驚いたものですが」
「うん……ローズガーデンから『冥府の迷宮』が見つかったのは知っているよね?」
「比較的最近発見されたラビリンスですね。一通りの調査が終わったのが今年になってからでした」
「ああ、しかしやはり手落ちはあったみたいでね……新たに大勢の魔物が湧き出したらしく、負傷した生徒が多数動けなくなったらしいんだ」
「へぇ……大変ですね」

他人事の口調で相槌を打つ堕天使に、天使の少年が苦笑する。
実際は全校生徒の五分の一が、探索中に救援待ちになる大惨事となっている。
現場での実践が主流の現状では、生徒の成長は早いが危険も多い。
比較的自由にカリキュラムを自己選択でき、転科すらノーリスクで行える昨今の情勢。
それは生徒の自主性を尊重する一方で、血気盛んな若者を更に急ぎ足にする温床にもなっていた。
今のところ死者の報告は上がっていないが、最終的に所在不明になるものが幾人いるか……

「今、グラジオラス先生が魔物の頭を叩きに出ている。他の先生も、その援護で迷宮に向かっている所だよ」
「それなら、直ぐに片が着くでしょうね。果報は寝て待てと申します」
「タカチホの方の言葉だったね。僕は人智を尽くして天命を待ての方が好きだな」

それぞれの性格を良くあらわした諺を交換し、やはりお互いに苦笑する。
エルシェアにはこれ以上会話を続ける意思は無かったが、一つだけ気になる事を尋ねてみる。

「会長さんは、どうして保健室に?」
「僕らのパーティーは、リリィ先生の張り出したクエストを受けて冥府の迷宮に向かうところだったんだ。だから出発前にご挨拶にね」
「クエスト?」
「ああ、医薬品の搬送と現場での救助活動の手伝いさ」
「なるほど。御武運を」
「君達は来ないのかい?」
「行きませんよ。少なくとも私からは」

エルシェアはセルシアの言を一刀に両断した。
現場での実践に走るのは良いが、それなら当然今回のような事故も覚悟してしかるべきだろう。
少なくともエルシェアはそう思い、同級生の不幸を冷淡に無視することにする。
敢えて首を突っ込みそうな彼女の仲間達の顔が思い浮かぶが、一つ息を吐いて頭から追い出した。

「お勤めご苦労様でございます会長様。やりたくも無いお仕事でしょうに」
「何を言うんだいエルシェア君? 冒険先で救助を待つ仲間を救うのは、僕達の大切な役目だよ」
「それは貴方の立場から発生する義務感です。セルシア・ウィンターコスモスとして、自己管理も出来ずに遭難した方々に、本当に心を砕いていらっしゃいますか?」
「もちろんだよ」

はっきりと宣言する天使に、堕天使は仄暗い笑みを漏らす。
とりあえず、自己管理も出来ないという発言は否定も肯定もされなかった。

「君は少し、物事を悪いほうに捉えすぎじゃないかな?」
「性分が根暗なものでして、つい世の中の善意を否定する思考から入ってしまうものなのですよ」

それぞれに思うところはあるのだが、それを言っても不毛な論議になる事は明白だった。
二人はその不毛な議論をしても構わないのだが、それにしては時間が無い。
セルシアは苦笑して、直球で切り込むことにした。

「全校生徒の多くが巻き込まれた事故だよ。クエスト受容の条件も厳しく、正直人手が足りていない」
「条件は?」
「雪原を自由に歩きまわれる事。君達は今回の成功でその条件を満たしている」
「ああ……クエスト条件に該当する方たちが、軒並み被害者に回ったから……」
「そう。残ったのは、座学と先達の教えの尊さを理解していた一部の者か、君達のような変わり者さ」
「……人生万事が、塞翁が馬。これもタカチホの言葉でしたか」
「そうだね。現時点では君が勝ち組だ。だけどその領域だと、個人の意思でどうにかできる物ではないね。そういうときこそ、人と人は手を取り合って難題に対処するべきなんだ」
「そうでしょうか? 少なくとも校長先生は、自力で何とかなさいますでしょう?」
「僕はお兄様を尊敬しているが、誰もがあの人のようになられては堪らないとも思うんだよ」
「……同感ですね」

二人は会話を打ち切ると、セルシアは踵を返して歩き出す。
彼には彼の仲間がおり、出発を待っている。
保健室を出てから、本校へ繋がる渡り廊下へ向かう。
彼の視界に北校舎の出入り口が見えたとき、渡り廊下側から凄まじい勢いで爆走してくる生徒をとらえた。

「君達、廊下は走らない」
「あ、会長こんにちわっす」
「せ、生徒会長……すいません。あと、こんにちわ」

ディアボロスの少女と、その首に張り付くようにしがみ付いていたフェアリーの少女。
おどおどとディアボロスの影に隠れながら喋る金髪碧眼の妖精の名はティティス。
黒髪を背中まで伸ばした悪魔の少女の名は、ディアーネと言った。

「会長も旅支度万全っすね。冥府の迷宮っすか?」
「耳が早いね、その様子だと君達も?」
「うぃっす。さっき図書館で新しいクエスト張ってあったから、速攻受諾したきたっすよ」

セルシアは元気良く図書室から破いて持ってきたであろう、クエスト表を見せてくる少女に苦笑した。
本来なら咎めるべきところだが、この台風のような少女に巻き込まれていく堕天使を思うと、笑いがこみ上げてくるのだった。

「エルシェア君に伝えておくれ。あっちで会おうとね」
「うぃっす。私らも直ぐ行くから、会長も頑張ってくださいね」
「が、頑張ってください!」
「ああ、ありがとう」

そう言って、再び廊下を爆走していくディアボロス。
先程の注意は、既に欠片も頭に残っていないのだろう。
遠ざかるその背を見つめるセルシアは、胸中に一つ気合を入れる。
クエストとして受諾したからには、その達成評価のトップを他者に譲る心算はない。
今までは、それまでやってきた事をやってきたとおりにこなせば、必ずトップになっていた。
セルシア・ウィンターコスモスとはそういう少年だったのだ。
しかし今回は、容易く一人勝ちは出来そうにない。
そう感じた天使の少年は、一人頷いて歩き出した。



§



ローズガーデンの街中で、二人のセレスティアが向かい合っている。
正確には、そのセレスティアだけでなく、それぞれのメンバーもであるが。

「やぁエルシェア君。奇遇だねこんなところで。散歩かい?」
「……お黙りなさい。いえ、お願いしますから、もう放って置いてください」

保健室で別れた二人であるが、実際に二人のパーティーは一刻ほどの時間しか違わず、ローズガーデンに到着していたのである。
廊下でディアーネ達とすれ違っていたセルシアは、この結果は予想していた。
一方エルシェアは、生徒会長と別れた直後に同じクエストを受けたディアーネと遭遇している。
彼女はセルシアがディアーネから丸め込んでいたのではないかと、半ば本気で疑ったものであった。
それは結果から逆算した誤解だったのだが、エルシェアとしてはいささかも心慰められることは無かったのだ。

「迷宮の入り口付近に、先生方が臨時のキャンプを作っているらしい。僕らは其処へ向かうが、君達はどうする?」
「前のクエストの報告に戻って、またこの町にとんぼ返りですからね……私達はもう少し、この町で準備しておきます」
「了解。先生方に君達の増援があると伝えておくよ」
「お願いします。あ、それと先に救助に入るのでしたら、分かれ道に印を付け続けてください。私達はその反対を埋めるように進みますから」
「なるほど。そうしよう」

迷宮探索の動きを簡単に打ち合わせ、二つのパーティーは分かれた。
その様子を見たティティスにとって、二人の間がかなり親しげに見えたらしい。
不安げに関係を聞かれたエルシェアは、一つ息をついて答えてやった。

「あの子は誰に対してもあんな感じですよ? 貴女が怯えて引っ込むから、貴女に関わろうとしないだけです」
「むぅ」

納得がいかないらしく、頬を膨らませる後輩に苦笑する堕天使。
そんな様子を見ていたディアーネが、エルシェアの意見を補足する。

「大丈夫だよティティスちゃん。彼は良い意味でも悪い意味でも、他人に興味ゼロだから」
「ある意味で彼は私達全てが皆、平等に価値が無いのです」
「それは……病気ですよね?」

後輩の率直な意見に、顔を見合わせる天使と悪魔。
やがて一つ頷くと、二人は後輩の感性をほめる。

「ティティスちゃん大正解。彼は確かに、病気なんだよ」
「目標が高すぎて、周りに人を置いておけない方なのです。セントウレア校長先生しか見えていませんからね」

本人がいない所で好き放題な事を言う二人に、ティティスが頬を引きつらす。
しかしとりあえず、エルシェアが取られることは無いということは分かったらしい。
ティティスは右手にディアーネの腕を、左手にエルシェアの腕を絡めて自分の胸に抱きこんだ。

「大胆だねティティスちゃん」
「……偶に甘えたくなる年頃なんです」
「まぁ、それで貴女のモチベーションが上がるなら安いものです」

ローズガーデンの町並みを、三人の学生が歩いて行く。
エルとディアーネはこの町を回った経験があるが、その際ティティスは強引なレベリングの後遺症で宿屋で倒れていたのである。
初めて三人で、ゆっくりと歩く観光地。
穏やかに流れる時間を感じたエルシェアは、ふと皮肉な想像に駆られて苦笑した。

「こうしてる間も、洞窟の中でうちの学校の生徒が震えていたりするのでしょうかね?」
「そりゃ、そうだろうねー」
「今此処で、それを言いますか先輩?」

仲の良い友人と平和な町を歩く彼女達と、迷宮の内部で負傷した生徒達。
両者の境遇はそれぞれ違えど、一分一秒は平等に流れていくのである。

「時間だけは平等に流れるって、ありゃ嘘っすよね」
「私達は時間という概念それ自体に価値をつけて考えますから、主観的に見たときは平等などありえませんね。その意味では、命の価値すら主観で変わってしまいます」
「そう……ですよね。私、先輩方が危ない目に遭うくらいなら……」

その先を飲み込んだ妖精に悪魔は優しく笑みかけた。

「だいじょーぶ。私達は強いんだから」
「はい……」
「今回に限って言えば、迷宮探索の良い経験が積めるでしょう。何せ教師陣がベースを確保してくれているのですから」

エルシェアの発言に、顔を見合わせる妖精と悪魔。
二人はこのクエストに渋る天使を、説得して連れてきたのである。
それはてっきり救える限りの命を救おうとする、熱意に打たれたのものだと思っていたのだが……

「あの、先輩……もしかして、安全に探索出来るから来てくれたんですか?」
「はい。私達に足りない経験を、比較的ローリスクで積む機会だと判断しました」
「エルってばこの期に及んでも利益を考えてる?」
「当然です。私、自分が可愛いですから」

良い笑顔で宣言するエルシェアに、閉口するディアーネ。
しかし直ぐにその顔は苦笑に変わり、微妙な視線を天使に送る。

「……」

先程セルシアの事を言ったが、この堕天使も相当に病気であった。
ディアーネは偶に、エルシェアが抱える矛盾の整合が出来なくなる。
高い能力を持ちながら落ちこぼれた生徒。
利己主義でありながら仲間に尽くして転科を繰り返した少女。
損得勘定に敏感なくせに、損を選んで笑える天使。
そして、他人の命に紙一枚の重さすら認めず救わないエルシェア。
どれも彼女を構成するピースの一欠けらである。
ディアーネはそんな少女にとっての特別になれたのは間違いなかった。

「大丈夫。エルがどれだけ外道に堕ちようと、私が正道に引きずり戻してあげるからね」
「ご冗談を。私の歩く道それ自体が、王者たる者が歩む道なのですよ」
「先輩、それは危険思想です」

三人並んで手を繋ぎ、交易所の店を冷やかしてゆく。
目的は地図と、冒険のお供のおにぎりと紅茶。

「だからおにぎりが六十個とか……」
「これくらい普通に消費するって。ティティスちゃん、防腐魔法よろしくね」
「お任せください!」

最早、大人買いの領域でおにぎりを買い込むディアーネに苦笑するエルシェア。
きっと迷宮内の救助者に差し入れる心算に違いないと、無理やり自分を納得させる。
安全には執着するが、金銭の執着が薄い天使は、財布の紐が比較的緩い。
更に楽しげに装備を選ぶ仲間を尻目に、さっさと自分の買い物を済ませる。

「すいません、この『サイズ』と、『カイトシールド』お願いします」
「ありがとうございます。この場で装備なさいますか?」
「はい。それとこっちの『オークスタッフ』は下取りお願いします」
「かしこまりました」

前衛で『サーベル』を振り回すディアーネに、やっと装備で追い着いたエルシェアである。
迷宮は屋外より当然狭く、早々自分達が来た方向……
つまり後ろから襲われることが少ないと判断しての、前衛へのシフトチェンジである。
エルは購入金額で六桁もする装備を試着している相棒に声を掛けた。

「この次は貴女の装備を補強しましょうね」
「え? エルってばなんか良いの買っちゃってる? 私のは?」
「これでようやく、私の装備が貴女のそれに追い着いたんですよ」
「……ということは、エル先輩も前に?」
「その通りですティティスさん。後ろはお任せしますよ」
「はい!」
「ツートップか……そういえばこのスタイルやったこと無かったね」
「そうですね。ティティスさんの加入で、より攻撃的な布陣が組めるようになったんですよ」

メインタンクにディアーネを置き、半歩後ろにエルシェアが控えて前衛と後衛を繋ぐ布陣。
後衛をティティスが一人で勤められるようになった為、エルが攻撃的な位置に残れるようになっている。
買い込んだアイテムを魔法の道具袋に詰め込み、交易所を後にした三人。

「参りましょうか」
『おう』

何気ない天使の一声で、二人は意識を切り替える。
楽しい時間は此処まで。
この先は自分の命と、同じくらい大切な仲間の命を賭けた、性質の悪いゲームに身を投じることになる。
人生という名のゲームは、リセットの利かない一発勝負。
そんなゲームの中にあり、一際リスクの高い冒険者等を選んだ少女達は、未来の保障を自分達で勝ち取らなければならなかった。



§



ローズガーデンで準備を整えた三人は、直ぐに冥府の迷宮までやってきた。
待機組みの教師が作ったベースキャンプに立ち寄り、現在分かっている所までの地図を書き写す。
相当に人手が足らないらしく、彼女らの援軍はおおむね歓迎されていた。

『まぁ、他人を使えばスキャンダルだし費用も掛かりますからね』

とはエルシェアの皮肉な見解である。
生徒を使えば、無料なのだと。
そんな彼女も、救護設備を結集したテントで再開したリリィに「良く来てくれました」と微笑まれたときは赤面し、仲間にからかわれたりもした。
エルシェア達は教師陣から受け取った地図が、先に入ったセルシア達のものと同じ事を確認し、更に内部にいると思われる生徒のリストを受け取って中に入る。

「同じ地図を使っているということは、彼らの逆を行けば自然と未開拓エリアに行けちゃいますね」
「その通りですティティスさん。空白を全て埋めるように歩けば、行き違いにならない限り、とりあえず会えるでしょう」
「その行き違いにならない……っていうのがネックっすよね」
「救助隊が動くことを予想していれば、敢えて自分から動かないと思うんですが……」
「いえ、それは難しいでしょう」

ティティスの意見に苦笑するエルシェアは、中と外の視点の違いを説明する。

「外の私達は全容をある程度把握し、連携しています。しかしパーティー単位で中に入った者は、横のつながりなど殆ど皆無だと思われます」
「じゃあ、あくまでこれは自分達の失敗だと思って脱出しようと動き回る?」
「はい。しかしそう考えると、大量の魔物が出てきたと……洞窟内にあってそう正確に把握し、学園に報告を上げた方は奇跡ですねぇ」
「魔物の大群を確認して、生き残ってるって事だもんね。誰なんだろう?」
「……失敗でしたね、そういえば当事の状況を収集するのを、わたくし失念しておりました」
「それは大事だったけど、そんな時間って無くない? 一応今は救助優先だと思うよ」
「……そうですね。私達は、出来ることをやりますか」

三人は現状の把握を努めながら迷宮の内部に踏み入ってゆく。
先発した教師やセルシア達にかなりの魔物が掃討されていたらしく、彼女達は殆ど遭遇しなかった。
稀に現れる魔物も、雪原で見かけた連中ばかり。
それは非常に助かるのだが、同時にある予測も浮かび上がる。

「大量に沸いた魔物って、こいつらの事じゃないっすね」
「ええ、もっと強い……学園の生徒では対処に困る本命が、大量に沸いたのでしょう」

雪原と同種の魔物であれば、それなりの数が来ても此処まで来る生徒の敵ではない。
これほど大事になった以上、今回沸いた魔物はそれ以上の強さの化け物である事が予想された。

「ティティスさん」
「はい?」
「少し戦い方を変更しましょう。長期戦を見込みます」
「すると……?」
「攻撃魔法は極力控え、傷と状態回復の魔法に精神力を温存してください」
「分かりました」

天使と悪魔の前衛が、魔物を直接切り倒してゆく。
洞窟内は其れなりに狭いが、二人が並んで武器を振れる程度の広さは十分にあった。
やがて、未だ地図に記されていない地点に到着した三人。
其処は分かれ道になっており、右側の通路の壁には簡易な花の絵が描き込まれている。

「気障っす彼ら」
「ウィンタースノーの花ですね。一度本物を見てみたいものです」
「じゃあ、会長達は右側に行った……?」
「そのようですねぇ……では、私達は左に行きましょうか」
「こっちは薔薇でも描いとく?」
「……ご自由に」

意外なことに絵心があるのか、ディアーネはあっという間に簡素化された薔薇を壁に描く
その様子を見た二人は、悪魔の意外な才能を褒めつつも左側の通路へ進む。
しばらく進むと地下へ向かう階段が現れた。
数歩先すら見通せぬ迷宮の闇が、ティティスには奈落の穴を予想させる。
身震いした少女だが、前を行く天使と悪魔の背中が彼女の心を落ち着けてくれる。
そして、唐突に気がついた。
前衛のディアーネとエルシェアの視界には、今自分を落ち着けてくれる背中は無い。
前を歩くという事、先を行くという事……
その意味の一端を、少女は内心噛み締める。

「ティティスさん?」
「あ、はい」
「大丈夫? なんか顔色悪いっすよ」
「いえ……大丈夫です」

声は震えていなかったが、やや硬質なものになったことは致し方なかったろう。
後輩の緊張を読み取ったディアーネは、ティティスの肩に手を置いた。

「頑張って。君ならやれるよ」
「っ……はい」

先輩面している悪魔を、天使が苦笑して眺めている。
ティティスがそれで落ち着くならと黙っているが、ディアーネも迷宮探索経験など無いはずなのである。
それでも平然と、しかも他人の心配まで出来る辺りこの悪魔も尋常ではない。

「恐らく此処からが本番になるでしょう。目的は学園生徒の確保です」
「湧き出した魔物は倒さない?」
「そういう見栄えのする仕事は、生徒会長に押し付けましょう」

目的を確認した三人は、階下へ向かい進んでいく。
しかし三人は、直に後悔することになる。
ティティスの予感はこの時、皮肉なほど完璧に的中していたのである。
彼女らが降りたこの階段は、正に奈落へ通じていた……



§



後書き

このゲームでは緊急事態でも完成した地図を渡さないのは何でなの……
此処で外れルートに突き進み、意図しないレベリングをやってしまった転入生の諸君は私と握手!



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