「え……クビ?」
唐突に担任教師から、休学を告げられたディアボロスの少女。
漆黒の髪を背中まで伸ばした長身の容姿は人目を引くが、その表情は呆けたように間抜けであった。
「いや、別にクビと言う訳ではなくてだなぁ」
英雄学科担当の、この教師の名をグラジオラスという。
既に大陸でも高名な冒険者であり、新たな英雄候補の育成の為にプリシアナ学園に請われ、教鞭をとっている男である。
この男もがっしりとした体躯の逞しい中年なのだが、やはり表情は困り果てたように落ち着かなかった。
一方ディアボロスの少女……ディアーネは、頬を掻きながら質問を続ける。
彼女には一つだけ、学科退場を求められる心当たりがあった。
「えと……なんとなく原因は察しがつくんですけど、出来れば信じたくないんで真相を教えて欲しいっす」
「お前が察しているのが前回の失敗の事なら、外れだと断言しておこう」
「違うっす?」
「違う」
悪魔の少女は数日前にあるクエストに挑み、完膚なきまでに失敗した。
クエストの失敗は、生徒の身ならば良くあること。
これ一つでクビというのも納得が行かない話しではあるが、これ以外ディアーネには心当たりが無い。
「口さがない生徒が、随分と好きなことを言っているようだが……」
「居心地悪いっす」
「お前らを笑いものにしなければ、恐らくやり切れないのだろうな」
プリシアナ学園最悪の大惨事になりかけた、『冥府の迷宮』の魔物氾濫事件。
危険は少ないと判断され、許可があれば生徒も出入り出来る迷宮から、突如謎の魔物が現れた。
そして現場での実技にのみ傾倒して準備不足のまま迷宮探索に向かっていた生徒の大多数が巻き込まれ、大規模な救助活動が実行されたのである。
生徒会長のセルシアを中心とした学生達のパーティーと、学園教師陣の活躍により、奇跡的な事に生徒達に死者は無かった。
しかし殆ど学園にも寄り付かず、遠出と実戦で腕を磨いてきた生徒達にとって、学園の居残り組みに救出されたという事実はばつの悪いものであったのだろう。
彼らの羞恥心とプライドがはけ口を求めたとき、槍玉に上がったのがこの悪魔のパーティーだった。
彼女らは救助組みに参加していたのだが、迷宮奥地で魔物に完敗。
あわや全滅という所を、学園の保険医に救い出されていたのである。
曰く、ミイラ取りがミイラになった。
助けに来たはずが手間だけ増やした。
この種の陰口を、ディアーネは黙って受け入れている。
彼女には彼女なりの言い分があるが、ある一面においては完全に事実だったからである。
最も、この少女の耳に彼女の仲間の悪口が入った場合は、その限りではなかったが。
「どちらかといえばそんな失敗よりもな? お前が此処三日で、うちと他学科の生徒を、合わせて七人も保健室送りにしている方が問題だよ」
「あいつら私の仲間の悪口言ったんだもん」
「うむ。自分の悪口に怒らず、仲間の悪口に怒れるのは、英雄として貴重な資質だ。資質だが……」
「褒められた!?」
「褒めとらん。保健室に行った生徒は今だに流動食しか食えん身体だ。各学科の先生からも苦情が来ている」
「だってあいつら私の……」
「ループしたぞディアーネ君」
グラジオラスとしては、苦い笑みを抑えきれない。
ディアーネ達が向かったフロアは、未だかつて誰も侵入したことの無いエリアであった。
最初に迷宮を探索した教師陣も、その後迷宮を探索した生徒達も。
恐らく魔物が大量に発生した後に、壁が崩れるなどのアクシデントで発見出来た通路だったと思われる。
彼はこの生徒のパーティーが作成した地図を見ていた。
それは初見のラビリンスに挑んだとは思えぬほどに精巧な出来であり、この少女達のパーティーが優秀な事は十分承知しているのだ。
この世界では個人が作った地図は製作者か、もしくはそのパーティー単位の所有物になる為、教師といえどもその地図を公表することは出来ない。
このような情報の閉鎖性には改善の余地を感じるグラジオラスだが、彼も冒険者として地図の価値を熟知しているだけに、簡単に着手できる問題ではないのも理解している。
もし彼女達が作った地図を公表していれば、逆にその出来は各生徒の尊敬を集めただろう。
しかし此処でその話をしても仕方なかった。
「君は、もう怪我は治ったんだね?」
「全快っす。元々戦闘の開幕で死に掛けるゴミっすから」
「自分をそう卑下するものではないよ」
「事実っす。速攻で寝たから、後はずっと守ってもらえてて傷が一つで済みました」
苦い認識が彼女を攻める。
悔いるところは沢山あるが、最もたるは自分が最初に死に掛けたと言うこと。
彼女は前衛のメインタンクであり、パーティーメンバーの盾であるはずだった。
そんな自分は訳も分から無いうちに血の海に沈み、相棒の天使が命がけで血路を開く様を見続けることになった。
失血によって動かぬ体に、気絶することが出来なかった意識。
あの迷宮の中で妖精の後輩は悪夢を見たが、ディアーネも同じものを見ているのだ。
「あの時、私が最初に倒れるなんて事がなけりゃ……」
「過去を悔いるときに、人はよく……たら、とか……れば、を使うものだ、しかしそれで自体が改善した例は一つもない。手遅れだからな」
「……」
「我々は過去を『たら、れば』でやり直すことは出来ない。我々に出来るとしたら、未来においてのそれを、現在の行動によって消していくことだ」
「……ご指導ありがとうございます」
「君の大切な仲間には、もう会ったんだろうね?」
「ティティスは会いに来てくれました。でもエルは……」
「そう。君らの仲がおかしいというのは、リリィ先生から少し聞いた。君がこの先を後悔にしない行動は、その相棒に働きかけることではないかな?」
「……っはい」
ディアーネの目じりに涙が浮かぶが、グラジオラスは丁重に見ない振りをしてやった。
そもそも、彼の話は終わっていない。
悪魔の少女もそれに気づき、一つ目を拭って再び担任と向き合った。
「それで、私が休学というのは?」
「うむ。その前に確認したいのだがね、君が寝込んでいる間に張り出されたうちの学科の席次表。君が何処に着たか知ってるか?」
「えっと、今までが十七位だったから……三十位くらいで収まっててくれると嬉しいかなって……」
「三位だ」
「あ?」
「君の習得単位は、うちの学科で三位になった。おめでとうと言っておこう」
「はぁ!?」
素っ頓狂な声を上げる生徒に、教師としては噴出すのを堪えるしかない。
ディアーネの驚きももっともであり、彼女としては直前で失敗しながら席次が上がるというのが信じられない。
「実戦で磨きぬかれた技と力を評価して……ということだね。君はもう、左右それぞれの手で武器を扱えるだろう?」
「余裕っす」
「君が保健室送りにした生徒、無手で殴って戦闘不能にしたんだろう?」
「喧嘩に刃物は出せないっすから」
「おめでとう。君は英雄学科の単位を、既に半分以上収めていると認められる」
「……釈然としねぇっす」
「努力が報われ、評価されたときは素直に喜んでおくものだよ」
そう言いながらも、担任としては彼女の反応は納得の行くものだった。
実際にディアーネは此処最近で立て続けにクエストを受講し、その達成如何に関わらず多くの実戦をこなしている。
座学の基礎と実戦の応用との融合が、彼女の中で始まっている事を評価しての席次であったが……。
得てしてこういうことは、本人が一番自覚していなかったりする。
「其処でこれは君も知っているだろうが……この時期、我が校独自の学科たるこの英雄学科生の中から、他校に交換留学生として派遣する風習がある」
「おお、そういえばそんな時期っすねー」
「他人事のように言うな。その留学生に、君が推挙されたんだ」
「……そういうのは、首席が勤める面倒ごとじゃないっすか?」
「面倒ごとというのは、他校に失礼だろう?」
「すいません。でも、何で私?」
「お前が、うちの首席と次席を、医務室送りにしたからだろうがっ」
「だってあいつら私の……」
「それはもういい。因みに君を推挙したのは、私とリリィ先生だ。特にリリィ先生の勧めで、タカチホ義塾への留学を任せたい」
「むぅ……」
当時療養中だったディアーネ本人は知らないことだが、彼女の三位という席次には当然ながら学科内でも話題になった。
そして彼女に牛蒡抜きにされた十人以上の生徒は、納得のいかない評価に不満を抱いていたのだが……
復帰早々、ディアーネは絡んできた学科のツートップをほぼ一撃で沈めてしまう。
教室内で行われた私闘は多くの目撃者がおり、その圧倒的な強さに、彼らの不満は無形のうちに吹き飛ばされてしまっていた。
「あっちにお邪魔したとして、履修学科はなんす? 似た所で侍とか?」
「さぁ……そもそもタカチホへの勧めそれ自体が、リリィ先生の推挙なんでな」
「そっか、じゃああっちに聞かないとわかんないっすか」
「そういうことだな」
本音を言えば、彼女の目には回り道としか映らないこの留学は乗り気になれない。
しかしこの学科のトップ二人を潰してしまったのは、他ならぬディアーネ本人である。
その次に自分がきていたのは意外というほか無かったが、そうと分かっていれば、奴らが相棒達の悪口を言ったことを見逃していたのか?
これははっきりと否である。
一つ息を吐いて了承しかけるが、彼女にはまだ此処でやるべき事がある。
だからこそ、この担任は事を切り出す前に道を示してくれたのだ。
「仲間と相談して、明日中に決めさせていただきます……ってことで良いっすか?」
「それで良い。話というのはそれだけだ。行って良い」
「うぃっす」
今日中と言えなかったのは、彼女が復学して以来、どこか相棒に対して気後れして会えなかったためである。
しかし何はともあれ、明日までと期限を決めた以上逃げ続けることは不可能になった。
いい加減向き合わないわけにも行かない。
これ以上逡巡すれば、取り返しのつかないことになりかねないのだ。
ディアーネは近い未来、今この時を振り返って『たら、れば』を使う自分を夢想して寒気を覚えた。
「エル……怒ってるかなぁ」
「ふむ、私は君達のパーティーメンバーがどのような状況なのかは知らない。だが私自身の冒険者としての経験から、予想することは出来るな」
「教えてください」
「さっきの君と同じだ。失敗を悔いて、自分を責めている。私の誇るべき仲間達は、こういうとき誰かの責任をあげつらって自分を守ろうとする者は居なかったよ」
「……良いパーティー組んでたんですね」
「ああ。私の一番の財産は彼らだと言い切れるな。君のところは、どうなんだ?」
「……」
「自身が侮辱されても怒らず、仲間がそうされたときは相手を医務室送りにした君だ。君の相棒は、そんな君をどう思っているかな?」
「ラブラブに決まってました」
「其処はライクにしておけと、心から忠告しよう」
「善処します。とりあえずお腹もすいたんで失礼します」
「ああ。昼時に引き止めて悪かったな」
「いえ」
ディアーネは一礼すると、担任の前から辞する。
相棒たる天使は何処にいるのか。
これまでと同じであれば、北校舎の保健室にいるに違いなかった。
§
「え? 私とエルが入室禁止?」
保健室の扉には張り紙がしてあり、其処には彼女の学科と名前で進入禁止が告げられていた。
隣には彼女の相棒の名前で同じ事が書き記されており、天使は居場所をなくしていた。
保健室の中からは、ここ数日でディアーネ自身が屠った亡者共の呻き声が溢れており、普段人気の無い保健室は珍しく人の気配がひしめいている。
最も、保険医たるディアボロスのドクター、リリィにとっては、このような形で仕事が増えるのは本位ではなかったろうが。
「むぅ……此処に来れないとすると」
悪魔の少女は踵を返し、廊下の先にある上り階段を足をかける。
彼女達の溜まり場は、保健室か屋上であった。
「……」
歩きながら思い出すのは、忘れたい……しかし忘れてはいけない光景。
後輩の妖精賢者に癒されながら、相棒の堕天使が一人で魔物に嬲られる姿。
あの場所は、ディアーネのポジションだった。
あそこだけは、誰にも譲りたくない彼女の居場所だったはず。
相棒が受けた傷は、本来ならディアーネが受け止めなければならないモノだった。
そんな罪悪感から、彼女は今まで俯いた顔を上げることが出来なかったのだ
「あーぁ」
自分の女々しさを嘆きながら、ディアーネは屋上と校内を仕切る鉄製の扉の前まで辿り着く。
一つ息を吐き出し、鋼鉄の扉を思い切り開け放つ。
「ぷぎっ!?」
「あ?」
扉は校舎側から押し戸であり、屋上側から引き戸になる。
校舎側のディアーネが力いっぱい押し開いた扉は、ほぼ同時に反対側から扉を引こうとしていた女生徒……
彼女自身の相棒の顔面を強打した。
「嗚呼! エルっ。だ、大丈夫!?」
「……校内の備品は丁寧に扱いなさいこの体力お馬鹿さん」
「ご、ごめんね……エルがいるかもとは思ってたけど、当たるかもとは思ってなくて」
「そうですよね。当てる心算で当てたのでしたら、報復行為に出させていただきますよ」
未だに顔が痛むのだろう、強打したと思われる鼻の辺りを押さえて涙目になっているのは、セレスティアの少女。
薄桃色のウェーブヘアに整った顔立ちをした、長身の美人である。
今はトナカイと勝負できるほど赤くなった鼻をさすり、上品さの中に滑稽さを孕んで見る者の笑いを誘っている。
ディアーネがその衝動に屈したとき、この天使は刃物を持ち出してくるに違いなかったが。
「そろそろ戻ろうかなと思っていたんですよ」
「あ……ちょっと時間くれる?」
「勿論です。貴女と会って話したかった」
そう言って、ディアーネを緩く抱き寄せた少女の名はエルシェアと言った。
エルは漸く訪れた待ち人を機嫌良く出迎える。
「恐らく貴女が一番気に病んでいるだろうと思って、整理がつくまで顔を見せずにいたのですが」
「ん……大正解。ごめんね、ちょっと思い切りへこんでたよ」
「見た目に寄らず繊細なのですね。私はこのまま捨てられるのかと、少し心配になりました」
相変わらず皮肉な堕天使。
それは出会ったときから変わらない相棒の姿だった。
ディアーネにとって、それは涙が出るほど嬉しいこと。
エルシェアはディアーネを開放すると、悪魔の瞳をハンカチで覆う。
「可愛げが無いと思われるかもしれませんが、わたくしあの程度の失敗は割りと経験しております」
「そっか……エルは、結構パーティー渡ってたんだもんね」
「はい。しかし貴女にとっては始めての失敗でしたからね」
そうして二人は笑い合う。
エルシェアも、ディアーネも、出会って以来これほど長く互いの顔を見なかった日は無かった。
最早傍にいないことが、違和感として感じられるほど馴染んでいた事を双方とも実感していた。
「エル、怪我はもう大丈夫なんだ?」
「はい。まぁ、リリィ先生が付っきりで癒してくださいましたから……身体のほうは、二日で完治していました」
「あの怪我が二日で治るんだから、ある意味怖い世界だよね」
「ええ。おかげでフラグを立てる暇もありはしません」
「……先生、身の危険を感じて必死に癒したんじゃないかな?」
「身の危険? うふふ、ディアーネさんも意味のわからないことを」
口元を手で隠し、上品に笑む天使。
悪魔はそんな表情を見ると、背中に冷たい汗を自覚するのである。
エルシェアは相棒に背を向けると、一つ伸びをして語りだす。
風を孕んだ翼と、薄桃色の髪が流れる。
それはディアーネが好きな彼女の姿。
「こうしてお会いするのが、ほぼ十日ぶり。たったそれだけ離れていただけなのに、随分と懐かしく思えるものです」
「そうだね……エルと一緒になってからさ、私絶対、それまでの二倍の質と量で生きてこれたよ」
「私もです。しかし、多少生き急ぎすぎたかな……という気もします」
「そだね……上っていく感覚しかなかった。それは危ないことだったんだね」
「私達は若者ですから、それでもいいのかもしれませんが……」
エルシェアは一つ溜息を吐き、数歩進んで振り返る。
背中には転落防止用のネットがあり、其処に身体を預けていた。
「実は私、交換留学の話が来ております」
「ドラッケン?」
「……ご存知でした?」
「いや、私がタカチホにって話だったからさ」
「そうですか……貴女も」
「うん」
二人はそれ以上は何も言わず、それぞれの瞳に空を写す。
やがて大聖堂からパイプオルガンが響き渡り、午後の講義の時を告げる。
それでも二人は動かなかった。
「私正直、わかんないんだよね。行く意味あると思う?」
「正直に申しますと、回り道かなと言う気がしています」
「うん。私も、そう感じていたんだ」
「ですが……気になることもありましてね」
「お?」
「この交換は、リリィ先生が随分と熱心に働きかけてくださったらしいのですよ」
「あ、私もそうだって」
「あの人の思惑が読めません。しかし、先生は私達の事を、ある意味一番知る教師でしょう」
「何かあるのかな……私達に足りないもの」
「足りないもの自体は、きっと沢山あるでしょう。しかし私自身、何処から手をつけたらいいものか……正直戸惑っていた所です」
髪を掻き揚げながら語るエルシェアは、今回の失敗を自分なりに分析していた。
事故の側面も多かったが、それで思考停止をしてしまえば同じ事を繰り返す。
しかし今回の事を振り返ったとき、失敗の原因は多方面からの要因が多い。
改善に着手する際何処から手をつけたものか、エルシェア自身にも効率化が難しかった。
それでも一つだけ、彼女の胸中に芽生えたある感覚がある。
「私は、強くなりたいです」
「奇遇だね。私もだよ」
「私は、とりあえず混ぜて欲しいんですけど……」
その声はディアーネが開け放った扉から聞こえた。
誰かと問う必要すらない、二人の最後の仲間の声。
視線を送れば、二人の世界に割り込んだ少女の姿がある。
金髪碧眼の妖精賢者。
歓迎の森でエルシェアとディアーネが救い出し、冥府の迷宮では地獄のような敗戦からも無傷で守り抜いた後輩。
フェアリーの少女は所在無げな顔をしながら、二人の下へ寄ってきた。
「お久しぶりです、エル先輩。ディアーネ先輩」
「お久しぶりですねティティスさん。お元気そうで何よりです」
「やっほーティティスちゃん。三人揃うのって本当に……あれ以来か」
ディアーネの言葉に、ティティスは身を震わせた。
少女にとって悪夢としか言いようの無かったあの光景は、まだ十日ほど前のことでしかないのである。
エルシェアとディアーネにとって、この後輩を無傷で守り抜いたことは誇らしいことだった。
とにかく彼女だけでも無傷で帰したという事実が、二人にとって苦い記憶を唯一和らげてくれる材料になった。
しかしティティスから見れば事情が異なる。
彼女は自分だけ無傷であったことを恥じていたのである。
「私達はまだまだ、未熟なのだということですね」
「そうだね。だけど未熟って言うなら伸びしろだっていっぱいあるんだよきっと」
「その通りです。それでは、行くとしましょうか?」
「エル先輩……どちらに?」
「あれ、ティティスちゃん分からない?」
首を傾げるティティスに、ディアーネは悪戯っぽく微笑んだ。
エルシェアは金網に預けていた身体を離し、やはり後輩に微笑する。
「それは勿論、私達を育ててお給料を貰っている方たちの所ですよ」
「ちゃんとお仕事させてあげないと、先生方も困るしねー」
「先輩方、逞しいです」
どの教師の元に行くか、相談するまでも無いことだった。
エルシェア自身が語っていた、この三人を最も知る教師の下へ。
今回の留学の話すらリリィが用意してくれた道である。
かの有名な死神先生には、きっと生徒の視点からは見えていない遠くが見えているに違いなかった。
「……そういえば先輩方、何かなさったんですか?」
「え?」
「いえ……保健室が出入り禁止になっていたので」
『あ?』
素っ頓狂な声を上げた先輩コンビ。
直に理性を回復させたのは天使のほうだった。
「ディアーネさんが連日生徒を保健室送りになさるから、私まで出入りできなくなったんです」
「だってあいつら、すっごいムカつく事言うんだもん」
「地の底から響くような声で、私と貴女の名前をうわ言見たいに繰り返すんですよ? 先生から、患者の精神衛生に悪いって言われて追い出されました」
「いや、ちょっと喋らなくなるまで殴っただけだよ?」
「なるほど。でもよかったですよ……私てっきり、エル先輩がリリィ先生押し倒して失敗したんだって思ってました」
「……貴女も言うようになりましたね」
逞しく育った後輩に微妙な表情を浮かべつつ、三人は屋上を後にした。
§
保健室にはティティスが入り、中からリリィを呼び出した。
三人が通されたのは、学園からリリィに宛がわれた研究室である。
完全にリリィの個室と化しているその部屋は、仮眠用のベッドや薬品調合の機材。
更には薬用植物のプランターやライティングデスクや本棚等が、実用性重視な配置に揃えられている。
エルシェアは始めて訪れた保険医の部屋に苦笑する。
「可愛げの無いお部屋ですねぇ……」
「酷評ありがとうございます」
「リコリス先生にお人形とか作っていただくのはいかがです?」
「あまり、趣味ではなかったので」
四人分の珈琲を入れ、適当にくつろぐ様に言い渡す。
すると三人の生徒は、仮眠用のベッドに並んで腰を下ろした。
エルシェアとディアーネが極自然にティティスを挟むように座り、その様子がリリィにはまるで親子のように映る。
微笑ましさから意図せずに笑みがこぼれ、リリィは一つ頷いた。
「今回、お二人に対して上がった留学の件ですが……」
「え?」
話し始めた直後から、ティティスは呆然と呟いた。
その様子から後輩にとって寝耳に水であったことを察した、天使と悪魔。
ディアーネは不安そうに見つめてくる後輩の頭を撫でながら補足した。
「そういう話が来てるんだよね。長くて三ヶ月かそこらだけど」
「えっと……お受けになられたんですか?」
「まだだよ、それはこれから決めるの」
ディアーネが口を閉じると、リリィは一つ咳払いして先を続ける。
「今回は、ディアーネさんには極自然に話が行くはずでした。貴女は現在、英雄学科の暫定トップの生徒ですから」
「え……トップ?」
「いや……三位だったんだけど、一位と二位が喧嘩売ってきたもんだから……」
意外そうな視線を相棒から受け、やや照れながら告げるディアーネ。
彼女にとっては事故のような出来事である。
「其処でこの機会に貴女方には、少し先を見越して転科していただこうと考えました。セントウレア校長先生や、グラジオラス先生とも相談済みです」
「あの……先輩方だけではなくて、私もですか?」
「はい。貴女は転入直後ということもあり、敢えて交換留学する必要も無いので、この学校でになりますが」
「転科は、現在生徒本人の意思と希望に任せられておりましたよね?」
「はい。勿論貴女には拒否していただいても構いません。私は道を示すだけ。その道を歩くのは、貴女方の自由です」
その言葉に、エルシュアとディアーネは顔を見合わせる。
現状確かに、彼女達は自分の方向性にやや戸惑っている部分がある。
今後どのように自分を鍛えて行くか……
「先程も言いましたが、ディアーネさんは英雄学科のトップとして留学の話が行きます。慣例ということもあり、余程の理由が無ければ此れの拒否は適いません」
「まぁ……例年拒否する人いなかったっすよね」
「はい。そしてディアーネさんが居なくなると、貴女方のパーティーは一時的とは言え機能不全に陥るでしょう?」
リリィの指摘に、エルシェアは苦い笑みで肯定した。
「そうですね。現状でも最小限の人数構成ですから」
「其処で、どうせパーティーの活動が出来なくなるのでしたら……あくまで私の視点から見た場合ですが、貴女方の短所、弱点の補強策を考えようと思ったのです」
「それは、私が強制的に取られるからっすか?」
「学園としては、貴女の移動になんら負い目は持ちませんが……それを理由に挙げて、私はエルシェアさんも留学生に推挙しました」
「そんな事が、良く押し通せたものですねぇ……」
やや呆れたように呟く天使に、リリィは一つ息を吐く。
勿論話が通ったのは相応の理由がある。
「この留学は、生徒から不人気なんですよ」
「そうなのですか?」
「ええ。留学中はラビリンスの探索や遠出が自由に出来ないことが理由ですね。この学園の主流は座学よりそちらですから」
「なるほど……」
「そして留学者のパーティーも、人を取られて活動が出来なくなります。よって同じパーティーから留学者を出すというのは、当事者以外の生徒からは先ず不満が出てきません」
「教員側からは、反対意見は無いんですか?」
「エルシェアさんは、各教師陣から厄介者扱いされていますから……出て行ってくれるなら、歓迎されている印象でした」
「……もう少しオブラートに包んだ言い方をお願いできませんか?」
「包んだ表現であれなのよ」
「包まなければ?」
「聞きたいですか?」
「いいえ……」
エルシェアが多方面の教師から不人気なのは、彼女がそれぞれの分野で才能を示しながら、学課に定着しないことに寄る。
明らかに片手間で履修しているにも拘らず、早期に頭角を示しては、いつの間にか居なくなっている。
教師としては彼女の素質を惜しみ、しかしやる気も無いこの少女に対し、愛憎半々と言った状況で今日に至っていた。
無視するには眩し過ぎ、手を伸ばせば掻き消える。
そんなエルシェアの存在は、いつしか教師陣からのマイナス感情を集める磁石のようになっていた。
「その様な訳でして、後は皆さんの気持ち次第というわけですね」
「……具体的に、先生は私達にどのような道を示してくださいますか?」
挑むような視線を送る天使に、保険医は常の無表情で切り返す。
この天使は本当に……リリィが良く知る、最高の堕天使に似ていると思う。
だからこそ、彼女は必ず強くなれると思うのだ。
「先ずこの学園で、ティティスさんは盗賊学科を履修してください。この先、盗賊がパーティーの不意打ちを警戒していないというのは、致命的な事になりかねません」
「なるほど……」
ティティスは現状では後衛の魔法戦力を一手に担っている。
それはパーティーの重要なポジションだが、戦闘と探索の場面で仕事量が不均衡な部分もある。
ハッキリ言えば、彼女は経験不足も手伝って、探索時は殆ど役に立っていない。
その部分をエルシェアに頼りきっている側面があり、先輩の負担を軽く出来るとあって、ティティスも興味を示していた。
「次に、ディアーネさん。貴女は志向が攻撃に傾いているきらいがあります。一概に悪いとは言いませんが、そのスタイルで戦うなら、攻撃と防御を同時にこなす技法を身に着けなさい」
「ふむ……そんな心算は無かったんすけど」
「しかし、二刀流に切り替えましたね」
「うん」
「貴女のポジションは前衛の、しかもメインタンクでしょう? それが盾を捨てて両手に武器を持つというのは、パーティー全体の耐久力を犠牲にして火力を求めたということよ」
「あう……」
「そうであれば、貴女は盾で凌げなくなった分、回避能力で戦闘を継続しなければなりません」
「タカチホには、その方法があるんすね?」
「はい。まぁ……それは私が教えてもいいのですが、貴女の留学はほぼ決定事項なので向こうの知り合いにお願いします」
二人にそう継げた後、リリィは残る一人に視線を向ける。
エルシェアはずっとリリィから目を逸らさず、やはり真剣な瞳でその言葉を待っている。
その眼差しに満足したリリィは、この天使の覚悟を感じ取る。
リリィから見て、エルシェアに欠けていたものが満たされつつある。
だが、これではまだ足らないと思うのだ。
「エルシェアさん」
「はい」
「貴女は、もう少し真剣になりなさい」
「遊んでいるように見えますか?」
「遊んでいるとは言っていません。真剣になれと言いました」
酷評に対し、極自然な反応として不機嫌な表情のエルシェア。
しかしリリィはこの生徒が、いまだ心理的には仮面も帽子も脱いでいないことを知っている。
この少女は精神の成熟度が異常であり、実年齢との釣り合いが取れていない。
それは処世術としては武器になるが、内面の殻を破って成長する際には凄まじい足かせになるのである。
「貴女の欠点は恵まれすぎた素質だと思います。何でも器用にこなしてしまうから、行き詰ったら転科して別の道を見つけてしまう」
「……」
「その癖、貴女は各分野で一番になれない。そんな自分を受け入れてしまっている。まだ日和るのは早すぎますよ? 貴女の限界はまだずっと先です」
「先生は随分と、私の事をご存知のようですが……そうおっしゃる根拠は何でしょう?」
「私と、ディアーネさんと、ティティスさんが等しくそう信じている。これでも貴女の信じる根拠になりえませんか?」
「気休めにもなりませんね。それは、根拠と呼ぶには説得力が乏しいです」
エルシェアは頑なにリリィの言葉に食って掛かる。
その様子を見守る仲間達。
ディアーネは此れまでの付き合いから、相棒が抱えるコンプレックスのようなものを感じてはいた。
故に、この状況でも比較的冷静に待つことが出来たのだが……
ティティスにとっては到底信じられない光景だった。
彼女にとってエルシェアとは、ある意味において絶対的な存在だった。
この天使に命を救われ、ティティスは未来を歩むことを許された。
片割れの悪魔と共に、この妖精の殆どを占める大切な存在。
姉であり、師であり、そして理想の先輩だった。
そんな彼女が、何よりも自分を信じていない。
「先輩……」
「っ」
エルシェアは後輩の呟きに、自分が失態を見せていることに気がついた。
ある意味で最も自分に懐いている妖精の少女。
ディアーネに対するものとは違う意味で、エルシェアはティティスにも心を砕いているのである。
唇を噛んだ天使に、リリィは更に続ける。
「……ある地点までは誰よりも早く届くのに、其処から全く伸びなくなる子が稀にいます。貴女のような人を見るのは、初めてというわけではないので」
「……私に足りないものが、先生には見えていらっしゃるのですか?」
「私に見えているものくらい、貴女も感じていると思いますよ」
「……」
「ハッキリと言いましょうか? このままでは、貴女はディアーネさんやティティスさんと一緒に歩めなくなるんです」
それはエルシェアにとって、死刑宣告に近い言葉だった。
小刻みな震えを抑えきれず、俯いた顔が上げられない。
天使の少女は、自分がどうすればいいのか知っている。
彼女が自分で言っていた望み。
『強くなれば』いいのである。
しかしこの期に及んでも、彼女は自分が今以上に強くなれると信じられない。
誰に信じられていても、自分で信じていないのだから、それは自信に変える事が出来なかった。
天使の少女は逃げるように立ち上がる。
「……明日、お返事します」
かろうじてそれだけ言うと、憔悴した表情でリリィの私室を後にした。
肩を落として歩くその天使の後を、妖精の少女が追いかけた。
「貴女は、行かないのですか?」
「私が落ち込んだときね、エルは私が立ち直るまで信じて待っててくれたんです」
「ほう」
「私とエルはね、対等なんです。エルの手を借りて立ち直ったら負い目になる。だからエルは待っててくれた」
「素晴らしい信頼ですね」
「先生だって……エルがちゃんと飛び立てるって、疑ってないじゃないですか」
「勿論ですよ? だから、むしろ私が心配してるのは、貴女とティティスさんの方です」
リリィは其処で一つ言葉を切ると、いつの間にか冷め切っていた珈琲を不味そうに飲む。
ディアーネもそれに習った。
「ああいう子が本気になったら、速いですよ? それこそ空を翔る勢いで駆け上がって行くでしょう。ディアーネさん、ちゃんとついて行けますか?」
「上等っすね。だからこそ、エルは最高の嫁なんすよ」
「……ご馳走様です」
リリィはそう呟くと、デスクの書類に決済の印を押す。
それは交換留学の承認と、案内書であった。
§
「先輩……エル先輩!」
「……」
ティティスの呼びかけをまるで無視し、エルシェアは歩き続ける。
その歩みは速くはないが、止まらない。
エルシェアが止まらない以上、ティティスも止まるわけにはいかなかった。
二人の奇妙な追いかけっこはそれなりの時間が続き……
「此処は……」
其処は『歓迎の森』の一角。
校章の入った宝箱が、二人の足元に転がっている。
此処で、少女は一度死んだのだ。
「……」
ティティスは思わず、制服の襟に触れていた。
エルシェアから付けて貰った、プリシアナ学園の校章がある。
何を言うべきか分からぬまま、ティティスは天使に語りかけた。
「先輩……私、ご迷惑でしたか?」
「……」
「私、先輩の事を何も見ていませんでした。私の中で理想の先輩を作って……だから先輩が悩んでるなんて、想像すら出来ませんでした」
「憧れは、理解とは最も遠い感情です。貴女だけがそうだと言うものでもありません」
「でも、先輩はずっと……応えてくださっていたんですね」
「自惚れないでくださいな? 貴女の望みなど、片手間にこなせるからそうしていたに過ぎませんよ」
「先輩……」
「貴女に潰されたわけではありません。貴女を重荷に感じたことも、私にはありません」
そう言い切ったエルシェアに嘘はない。
しかし、聡い天使はそのもう少し先まで見通していた。
「ですが……シンデレラの魔法は遠からず解けたでしょう」
「……」
「十二時を過ぎれば、全ては泡沫の夢。貴女もじきに私の本当の姿を知って、少し戸惑って……そして、追い越して行く日が来たでしょうね」
「私はっ、先輩の事が好きです。だから、一緒がいいんです!」
「ありがとうございます。本当に、ありがとうございます」
エルシェアは必死に訴える後輩に、寂しげな微笑を送る。
やや逡巡した天使だが、結局は迷いながらも口を開く。
エルシェアも語るべきことを纏め切れていなかった。
どれほど大人びていても、彼女はいまだ少女である。
「私は本気で自分を特別だと信じていた、幼い時分がありました」
「……」
「学園に入ってからも、しばらく私は負けたことがありませんでした。きっと、当時の私は調子に乗って、今より性格が悪かったでしょうね」
苦い笑みを浮かべて、天使の少女が息を吐く。
ティティスには、その息と共に吐き出された天使の苦悩が視認出来る思いだった。
血を吐くような思いを持って、エルシェアは過去を語っているに違いなかった。
「でも違いました。後から入ってきたあの子は、あっという間に私を追い抜き、手が届かない所へ行ってしまった……」
「あの子?」
「……セルシア君です」
それが、少女が生まれて初めて味わった挫折だった。
今まで見えていた未来が、この時から信じられなくなった。
望んでも勝利を収めることが出来ない。
そんな経験は、一度も味わったことが無かったからだ。
「私は特別なんかじゃなかった……そう自覚してしまったとき、私はこの世界で上を目指すなんて考えられなくなりました」
この一言が、エルシェアの全てを端的に物語っている。
なまじ敗北を知らな過ぎたせいだろう。
エルシェアは最初に折られた翼を癒せず、膿んだ傷口を抱えながら歩いてきた。
語りながらも、天使の少女は自分の心の置き場に戸惑っている。
久しぶりに吐き出した感情。
それはエルシェアに未だ癒えぬ傷の存在を、いやおう無く自覚させた。
「先輩……」
エルシェアはティティスに語って聞かせる心算は無かったかもしれない。
己の傷口を確認するために、感情を空に吐き出していただけ。
だからこそ、彼女はいつの間にか隣に寄り添っていた後輩に気がつかなかった。
堕天使の腕を、両手で力いっぱい抱きしめる妖精。
自分の小さな体が、この時ティティスは恨めしかった。
物理的にも精神的にも、ティティスの中にエルシェアを包み込めるような器は無い。
「私は……先輩に助けてもらいました」
「……」
「私にとって、憬れて特別で……大好きなのは先輩で、会長じゃないんです」
「ティティスさん……」
「だから……だからぁ」
ついに涙腺を決壊させた妖精が、堕天使の胸に縋りつく。
エルシェアは振り払えずに抱き返す。
小さな鼓動を聞いた気がする。
初めて此処で出会い、ティティスの中に感じた命……その鼓動。
エルシェアは、あの時以来この妖精を拒めたことが無いのである。
「私だけの先輩でいてください。私の中の理想の先輩でいてください。私の、自分勝手なイメージを……いつまでも信じさせてください。私に、夢を見せてください」
「ティティス……」
「先輩っ、エル先輩……!」
この世界には厄介な呪いが幾つかある。
その中で最も性質が悪いのは、信頼と言う名の鎖。
エルシェアは、ティティスを振り払うことが出来ない。
ティティスは、エルシェアから自立出来ない。
天使はこの場所で、妖精の命を拾う選択をした。
妖精は天使に抱かれ、全てを失って世界を得た。
「……私はもしかすると、とんでもない地雷を踏んだのかもしれませんね」
「?」
「ほら、もう……泣かないの」
ティティスはエルシェアを見限らなかった。
シンデレラの魔法は解けたのに……それでも相手を求め続けた王子様のように。
夢は覚め、イメージは崩れ、理想が破れても尚……妖精は天使に縋りつく。
その手を振り払えない以上、エルシェアに退路は存在しなかった。
これほど面倒な後輩が居るだろうか?
ティティスは、エルシェアに一切の妥協を許さない。
「貴女を救う事を選んだのは、ディアーネさんです。私は、見捨てる心算でした」
「はい……先輩なら、見ず知らずの相手にはそうしますよね」
「ええ。だけど……だけどね?」
天使は妖精の額に、唇を堕とす。
此れは敗北宣言だった。
彼女はディアーネに対するそれと半ばは重なる意味において、ティティスに対しても負けを認めた。
ほろ苦い微笑を止められない。
そんな顔を見せるのが嫌で、後輩をきつく抱き寄せる。
「貴女が、居てくれてよかった。生きていてくれて、そばにいてくれて、ありがとうございます」
「先輩……」
「見ていて……私も、頑張って見せますから」
「……はい!」
この日、一人の少女が飛翔を決めた。
背中を押した妖精は、後に多大な苦労を背負い込むことになる。
それはリリィが危惧していたこと。
ティティスは自分が目覚めさせた天使が、通称でも天才と呼ばれていた事をまだ知らない。
§
後書き
『魔改造 やりたい時が やり時だ! byりふぃ』
遂に暴走を始めた作者の邪気眼が、この物語をどの様に破壊していくのか!?
……ごめんなさい反省してます。石投げないで石orz
作者のととモノ。プレイ時ですと、冥府の迷宮から先は敵の強さで行き詰ることの無い、サクサクプレイだったんですが……
SSでそれをすると、やっぱり不自然に感じたのでorz
このゲームだと三校が結構仲よさそうだったので、交換留学くらいしてもいいじゃないか!
という妄想により、次から各学校のNPCの方が出てきます。
というかそれが書きたかったとも言います。
あ、ごめんなさい石投げないで石orz