あの時代を、一人の政治家は以下のように評したという。“戦争から煌きと魔術的な美がついに奪い取られてしまった。将軍や、英雄が兵士たちと危険を分かち合いながら馬で戦場を駆け巡り、帝国の運命を決する。そんなことはもう無くなった。これからの英雄は安全で静かで物憂い事務室にいて書記官たちにとり囲まれて座る。一方何千という兵士たちが電話一本で機械の力によって殺され、息の根を止められる。これから先に起こる戦争は女性や子供や一般市民全体を殺すことになるだろう。やがてそれぞれの国には、大規模で限界の無い一度発動されたら制御不可能となるような破壊のためのシステムを生み出すことになる。人類は初めて自分たちを絶滅させることができる道具を手に入れた。これこそが人類の栄光と苦労の全てが最後に到達した運命である。”そして、その栄光と苦労の到達点であるイルドリア戦線は、辛うじて均衡点を保っていた。突破せんと欲する連合と、守り抜かんとする帝国。じりじりと押しつつも、連合はあと一歩を抜けず。押されつつも、辛うじて守り抜く帝国には、打開策がとぼしく。ただ、断続的に砲火を交わしつつ、砲弾で大地が耕作された。しかし、すでに、帝国側は余力を漸減させ始めている。戦線の維持が、帝国には、すでに大きな負荷であった。さしもの、戦争機械も錆びつき始めていた。だが、前線では崩壊の兆しとは程遠く、日常となった擾乱射撃の音を時計代わりに、いつものごとく日常が営まれていた。中隊長は、ふと思った。観測班からの、定時連絡はどうしたのかと。彼が、そう思い通信士官に其の事を問いかけようとした。其の時、彼の意識は途絶える。捩じれ、肉が弾ける様な音を残して、彼の頭部が吹き飛んだ。地面に叩きつけられた体の何処かは、電気信号の名残か、ぴくぴくと痙攣する。だが、周囲は飛び散った脳漿にまみれたことに、気がつく暇もない。なぜなら、彼の頭部を肉片に変えた弾丸が、中隊に引き続き降り注ぐのだ。あるものは、肺を撃ち抜かれ、あるものは指揮官同様に頭を持っていかれた。運のない者は、砲弾の直撃で、肉片すら判別できない程に飛び散った。運良く、手や足で済んだものは、苦悶の声を上げる。そして、生き残った彼等の悲鳴に応じるように、第二撃目が放たれる。「っ!」鉄の暴風雨。しかし、戦場の習いによって、塹壕に飛び込めた生き残りたちは、頭を低くしてそれに耐えしのぶ。だが、それはスコールと異なり、通り雨のようにすぎ去ってはくれない。断続的に轟音と共に、大地が嫌な振動で着弾を告げる。その、着弾の振動音と共に、なにか、嫌な音がすることに観測班は気がつく。何事だ!?と、士官が声を上げる。彼らは、混乱し、動揺しているものの、情勢を理解できてしまう。いや、これは……馬鹿な!いえ、間違いありません!敵です。敵が、こちらに!敵だ。敵が、全面攻勢に出たのだ。砲撃は、常の擾乱射撃とは程遠い。それは、徹底した準備射撃。頭を隠し、こちらが伏せているその間に、歩兵が突撃してくるのだ観測装置にとりついている兵士たちは思わず動揺せざるを得ない。生き残りの士官も、思わず絶句してしまう。全面攻勢が始まったのだ、と推測はできる。予期されてはいた。しかし、その攻勢正面に自分たちが立つとは。思わず、居並ぶ面々は、意図せずにお互いの表情を覗きこみあう。共通しているのは、恐怖。死への恐怖。ありうべからざる事態への動揺。わずかに、運命の理不尽さへの恨みごと。「敵、小隊規模で浸透してきます!」ありえん!連合王国がご自慢の火力戦ではなく浸透強襲作戦を?敵は攻撃方法を変更したというのか!?そんな無情な思いが、士官らの頭をよぎる。だが事実として敵が、浸透してきているのだ。開戦初期に、帝国が得意とした戦術で、蹂躙していた敵に蹂躙されようとしているのだ。過去の戦果と、その脅威が咄嗟に頭をよぎり、反応を鈍らせる。無論、何とか頭を切り替え、状況に対応すべく、気を取り直した彼らは何をなすべきか理解できた。火力に頭を押さえられ、伏せていればよかった昨日までとは異なるのだ。今日は白兵戦をやってでも、何が何でも、敵を追い返さねばならぬ。で、なければ死あるのみだ。「総員、敵浸透部隊を近づけるな。敵の射撃は面制圧に過ぎない!本命は歩兵だ!」生き残りの先任士官が、ともかく応戦の指揮をとる。中隊長以下、先任士官が特進する事態とて、ここでは日常に近い。号令と共に全員が素早く応戦配置に取り掛かる。だが、間に合わない。反応からして、魔導師がすでに、こちらの視界に飛び込んできている。一個小隊とはいえ、混乱によって我々の応戦が遅れてしまった。敵ながら、素晴らしい勇気だ。あっぱれな判断力だろう。微妙なこちらの遅れに乗じて、懐に飛び込んでくる。「少尉殿!敵が侵入してきます!!」「押し返せ!」他に、どうしろというのだ。そう悪態を吐きながら、彼らは、銃剣とライフルを手に、演算宝珠で爆炎をまき散らす魔導師に立ちはだかる。どちらも、人間だ。撃たれれば死ぬし、撃てば殺せる。偶然、ライフル弾で肉を穿たれた敵魔導師が、躓き、そこに容赦のない銃火が降り注ぐ。その隣では、トーチカごと、魔導師達の爆炎によって生きたまま生焼にされる悲鳴が。そこへ、砲兵が、榴弾を撃ち込み、纏めて、魔導師を吹き飛ばそうとするも、すでに、魔導師達は退避済み。とはいえ、ただで引かせるはずもなく、可能な限りの銃撃でお土産を送りつけている。お返しとして、いくつかの魔力弾。鉛玉と魔力が、しばしば応酬されあう。だが、重要なのは、敵はこちらに比して圧倒的に優勢であり、こちらは遺憾ながら劣勢であることだ。全体としては、思わず敵に悪態の一つも吐きたくなる。「敵大隊規模が、前方2000より急速接近中!此方に接近しています!」「敵魔導小隊を排除しろ!このまま大隊に懐に入られれば、チェックメイトだぞ!」兵士たちは、思う。魔導小隊は、優秀な敵だ。こちらをかき回すだけかき回し、時間を稼ぐことに徹している。そして、こちらは、それに煩わされ、防御態勢をまともに整えることができずにいる。交わされる銃火に、魔力が干渉し、顕現させる事象。肉を穿ち、骨を砕き、トーチカを吹き飛ばし、人間を殺す。単純作業に、彼らは没頭する。だが、時間がない。致命的なまでに、時間が足りないのだ。迫りくる、敵大隊。防衛戦は、覚悟の上の事ではある。しかし、死にたくはない。誰だって、死にたくはない。わずかながら、神に、救いを願い、それは、かなえられる。唐突に、縦横無尽に空からこちらを翻弄していた敵の魔導小隊が全力で散開し始めた。その直後、紅い、紅い魔力光が空を横切る。それを避け損なった敵の魔導師は、肉を裂かれ、熱で生きながらにして焼かれる苦悶を上げつつ、大地へ。生き残りも、間髪をいれずに、飛び込んでくる魔力の嵐に呑まれ、急速に数を減らしてゆく。「友軍です!!友軍の魔導中隊が、こちらに!」通信士官の仕事は、こういった朗報を大きな声で友軍に知らせる役割も持つ。少々、大げさに叫ぶ彼に、皆笑いを浮かべながら、心の底では、生き延びられたことで安堵。当然、部隊をたてなおす好機であり、生き残りの古参兵共は、何をなすべきか知悉し、行動する。生き残る、チャンスを無駄にはできない。「急げ!敵大隊を近づけるな!ぼやぼやするな!」「負傷兵を下げろ!死体は、後でいい!」下士官たちが、辛うじて統制を回復。この調子ならば、迎撃は辛うじて間に合うだろう。防衛陣地に、魔導中隊の増援。一応、敵旅団程度ならば、持ちこたえることも不可能ではない。「224中隊、応答せよ、224中隊、聞こえているな?」だが、無線に飛び込んでくるその声で、指揮所の生き残りは、暗澹たる思いに駆られざるをえない。まだ、声変わりしていない幼い声。女児故に、さほどの変化がないとしても、その違和感は歴然。子供の声だ。そう、戦場に、子供が、出てきているのだ。しかし、人間的な感傷は、明日後悔することにし、今は、生き延びねばならない。誰ともなく、必要な事を、手順どおりに進めていく。「こちら、第224中隊。救援に感謝いたします。」「義務を果たしたのみだ。」子供の教育問題は、一発で解決できる、と幾人かはそこで確信した。規律と、戦場だ。我がままいっぱいに騒ぎたいであろう年頃の娘をして、淡々と、義務について語らせられるのだから。それは、人類の進歩か?・・・まあ、敗北だろうが。理性と知性は、この事態を将来、どのように、評するだろうか。「こちらは増援指揮官、ターニャ・デグレチャフ魔導中尉だ。生き残りの先任は?」そう、帝国は、すでに魔力適正さえあれば、女子供にですら依存せねばならぬほどに追い詰められている。全人口の半数で戦争をするには、物足りず倍を必要として、なお足りないのだ。追い詰められているのだろう。すでに、少年兵どころか、促成教育で士官として前線で血のまどろみに浸かりきっている者さえ、当たり前にいる。彼女も、その一人であり、最も練達した士官の一人だ。つまりは、未だ子供にして、すでに血塗れで、泥に浸かって、戦士となり、殺し、殺されを経験してきている。「自分であります、中尉殿。」「む、少尉か。残りは?」ごく当然のように、大人を顎で使える子供というのは、驚くべき存在だろう。年齢に怯むことなく、為すべきことを為せる士官というのは、理想的な軍人だろう。大人どころか、子供も戦場に立つのだ。まともな、感覚を持つ人間には、生きにくい時代である。「戦死なさいました。」「やれやれ、今日も今日とて、特進と野戦昇進の大盤振る舞いだ。」それが、日常。すでに、下士官からの叩き上げが、少尉どころか部隊によっては、大隊長にごろごろいる。 部下の兵隊は、戦時促成教育を受けただけの新兵か、新任士官ども。誰だって、有能ならば、すぐに上に昇れる戦場だ。「この分だと、戦争が終わるころには、貴様も私も将軍様だな。」それを、日常の一環として受け止め、肩をすくめてカラカラと乾いた嘲笑を上げられる少女は、狂っている。軍人として、完成した子供など、狂気の沙汰以外の何物でもないが、生き残りとは、そういう狂人だけだ。「さて、豚共をどうにかせねば。屠殺場の仕事を肩代わりするのは、いい加減うんざりなのだがね。」接近してくる魔導中隊は、普通のことのように、敵を殺す。それは、我々と同じだ。では、何が違うか。それは、狂人が指揮し、狂人が武器を振るうという一点だ。この戦場で飛びまわる魔導中隊は、碌でなしの戦場を飛び回って生き残ってきた精鋭だ。文字通り、叩き上げの精鋭達だが、どこか狂った戦争の代表格ですらある。指揮官は、子供。完全に実力主義ということは、あの子が人殺しの才能にあふれているという証明だ。本当に、誰にとっても名誉も糞もない戦争としか言えない。「我々は、敵大隊を側面から喰い破ろう。支援は可能か?」「もちろんです、中尉殿」クソッたれ。本当に、クソッたれ。昨日も、今日もまったく同じの地獄模様。中尉殿のような、悪魔にでもなれば、ここも心地よいホームかもしれない。だが、ただの兵士にはここは、少々居心地が悪すぎるのだろう。「私の中隊は、戦争を早食い競争だと勘違いする間抜けが多い。申し訳ないが、早い者勝ちだ。」安堵させようと、軽口まで、兵士たちの娘のような年齢の兵士が利いている。居並ぶ兵士たちに、それが上官で有るというのが、すんなりと何故か理解できる。理解し、特に疑問に思わないという異常。異常が、日常。「ああ、ご安心ください。中隊長殿。」こちらは、無線で会話を交わしているが、部隊間通話。特に、暗号化されていない、汎用回線で接近中の部隊は楽しく会話。戦場のど真ん中で、敵に突撃しながら。それでいて、誰も疑問を浮かべない。「何事か?」「いくら、大食いどもでも、あれだけいれば分け合うこともできるかと。」先ほどの、軽口、早食いにからめて、副官と思しき主が、中隊長と呼ばれる少女に応じている。碌でもない世界。誰も彼も、一度は狂った末に頭の産み出した、悪夢かと疑う。だが、断続的に耳に飛び込んでくる砲声が、夢ではないことを不幸にも兵士達に実感させるのだ。「私は育ち盛りだ。多少多めに喰わねばならないのだよ。」「これは、確かに。育ち盛りの胃袋を甘く見てはなりませんな。」子供の冗談だ。ごく、当り前のように子供が、子供であることを主張しているだけなのだ。口調からして、子供じみていないが、それでも、子供の主張としては理にかなう。そう、死体の数を競う事でさえなければ、普通の子供なのだ。それが、軍服をまとい、軍用の高価な演算宝珠と、ライフルをかついで、人を殺して飯を喰らう。うん、すまない。これは、サンプルみたいなものなんだ。(思い出したように、消すかも。)つまり、こんな感じでずるずる絶望的になっていくのだ。そう、地獄のような、末期戦ものが急に書きたくいなったんだ。本業というか、書きかけの完全に別の作品の事は、ご容赦願いたい。ちょっと、気分がこういうものを、書きたい気分になってしまったのだ。無責任と言われないように、できるだけ、あちらも、更新したいと思うけれども、気がついたら・・・。これを、書いてしまっていたというので、ご海容いただければ、と思う。当然、東部戦線も真っ青の代物となるといいなぁ・・・と。なお本作は、商業作品では鷲は舞い降りた鷲は飛び立った擲弾兵皇国の守護者等々を読み漁り、(ネットで見れるもの)やる夫が雪中の奇跡を起こすようです魔法少女リリカルなのはAnother?Fucking Great?等々、を最近読んだ勢いで書きあげてしまった。※これらの作品から大きな影響を受けました。(魔王とか、血塗れとかの活躍に。)お勧めですので、是非一度。(いや、最後のリリカルは、絶望的な情勢とは、違いましたが。うん、ぐんじん幼女+勘違いって有りだと天啓が。)うん、率直に言うと、こういうものばっかり読んでいたら、急に書きたくなって、しまいました。気がついたら、こんな時間に、こんなものを書き上げていたorz辛うじて戦術的勝利を収めつつも、じりじりと負けていくこの末期戦の雰囲気が、何故か、良く思える不思議。(なんか、最近のハッピーエンド系に食傷気味なのかも。)ついでに、自己犠牲モノとか、英雄譚とかもノ―サンクス。どちらかと言えば、卑怯な主人公いても良いじゃない。とか、考える筆者はひねくれ者でしょうか?そうそう、ご安心を。手ぬかりなく、潤いとして、まほう幼女を投入しておいた。(アンサイクロペディア準拠のため、「エターナルヨウジョ」第5章10条4項を順守している)まほう幼女という一説は、法的措置により変換できない旨、ご理解いただければ幸いである。(ようじょの中身は、リバタリアンのリーマンとか、想定しますが。)ちなみに、タイトルは、霊験あらたかなお言葉。迷える人々に、導きを与える教皇特使のお言葉です。もしも、貴方が何か判断で、迷うことがあれば、是非。心やさしい、教皇特使アルノー・アモーリの言葉を思い出してみてください。神への溢れんばかりの信仰心は、きっとあなたの心の安らぎをもたらしてくれると思います。興味があれば、ぜひ、検索してみてください。きっと、なにか、言葉にできない思いを、貴方も共有できると思います。いろいろ、ごちゃごちゃ申しておりますが。最後に。こーゆーのって、ニーズありますか?2/1テスト版⇒チラ裏9/12チラ裏⇒オリジナル版なんか続いたので移ってきました。よろしくお付き合いいただければ幸いです。2012/3/17誤字修正しましたorz2012/3/30さらに修正しました。2012/4/12sarani orz2013/1/28書籍化計画の開示許可が出ました。詳細は、一番下のページにある『おしらせ』をご参照ください。2013/8/4無事に、出せることになりました。そろそろ、出版予定日やら何やら決まるはずなんで、もうちょっとだけお待ちください。