ラインの食卓『第8492魔導大隊』寒く、冷たく、虚しく沈んだ我らが心同胞の幾多の死何故、汝らに理解しえようか。さらば、故郷の土地よ!これが夢ではなく真だと、誰に信じられようか?祖国よ、我らが母なるライヒよ、ああ、さらば、我らが祖国よ!さあ行かん、いざ、前へ!前へ!広大な航路が、海の波が我らを待ちわび海の彼方が、寄せ来る波の先に戦友が我らを呼んでいる!我らの父祖に栄光あれ誉れと名誉の誓いは、今引き継がれた。約束された、ライヒよ、黄金のライヒよ。我らは、前進せん。汝を阻むものはもはや何も無い!進めよ進め、恐れを知らぬ我らが名もなき悪魔の誇りよ、祖国の希望よ、黄金の信念の結晶よ!我らの父祖に栄光あれ誉れと名誉の誓いは、今引き継がれた。約束された、ライヒよ、黄金のライヒよ。我らは、前進せん。汝を阻むものはもはや何も無い!進めよ進め、恐れを知らぬ我らが名もなき悪魔の誇りよ、祖国の希望よ、黄金の信念の結晶よ!ラインに、ライヒに我らの勝利を報告に赴こう。ラインに、ライヒにかの地で、我らが戦友が残した遺産に。我らが誓った新世界をいざ告げん!進めよ進め、恐れを知らぬ我らが名もなき悪魔の誇りよ、祖国の希望よ、黄金の信念の結晶よ!我らの父祖に栄光あれ誉れと名誉の誓いは、今引き継がれた。約束された、ライヒよ、黄金のライヒよ。我らは、前進せん。汝を阻むものはもはや何も無い!ラインに、ライヒに我らの勝利を報告に赴こう。ラインに、ライヒにかの地で、我らが戦友が残した遺産に。我らが誓った新世界をいざ告げん!ごく、限られた範囲ながらも有名な軍歌。作詞された時期は、帝国本土戦末期。初めて唄われたのは、泥濘と化した低地戦線において。敗北が必然と化しつつある状況下で、数少ないベテランらが不屈の精神を歌った悲壮な軍歌。一説には、実在が議論されるデグレチャフ中佐が最後の突撃を敢行する際にも高らかに唄ったとされる。なお、帝国軍に当該部隊に相当する編成の部隊は実在しない。実際のところは、悲劇的な部隊をみやった後世の創作とされる。これは、ちょっとだけ夢を見た人の物語。少しだけ苦い現実と、ほんの僅かな後悔。でも、夢を見たことを悔いるつもりはない。友情を誓った仲間たち。頼りがいのある先達。そして、何時いかなる時も導いてくれる人がいた。そんな彼らでも、やがては時間によってそれぞれの道を歩んでいく。道を違えたわけではなく、時間が道を分けたわけでもなく。ただ、彼らは歩んでいく中で自分の道を見つけるのだ。そんな風に道を歩んでいても彼らの友情は、確実に彼らを結びつけていた。でも、その始まりはちょっとしたことにすぎない。共に歩む仲間、それを手に入れるのはほんのちょっとしたきっかけがあれば十分なのだ。そう、例えば。共に食卓を囲むとか、そんな他愛もない日常で。その日常こそが、かけがえのない思い出になるのだ。だから、彼らはいつもこの時期に示し合せて集う。集合場所は、見晴らしの良いなだらかな丘の上にあるレストラン。丘を登る小道の先に、ぽつんと建てられたログハウス形式のレストラン。さして有名でもなんでもないし、何か有名人が愛用しているわけでもない。故に、そこは左程の注目も集めることもなくただ建設当初の形を保ったまま時を経ている。「…っと、遅れてしまったようだ。申し訳ない。」「構わないさ、待つのには慣れているとも。」だが、彼らにとっては掛替えのない思い出の地だ。彼らにとって、そこは揺りかごであった。全ては、この地から始まりそして終わったのだ。そこで待っていてくれる顔ぶれと、そこに眠る顔ぶれと。再会のために。彼らは帰ってくるのだ。言祝ぐために。夢へ、一歩ずつ歩んでいることを、語るために。「自分で最後のようだ。さあ、始めようじゃないか。」それを、肩を並べて歩いた無二の仲間たちに報告するために。名誉と敬意、そして勝利を、先だった戦友に届けるべく彼らは、食卓を囲み、そして歌う。夢を、悲願を。約束された新世界を、黄金のライヒを想って。・ン・ツ、グラン・、誰かが呼びかけてくる声。眠たい頭が、まだ寝かせてほしいと呟く時間帯。だが、眠たいと叫び続ける睡眠欲を押し殺しかろうじて顔を上げる。自分を揺すって起こそうとしていたらしい人の輪郭。…誰だろうか?そう思う暇もなく自分が起き上がったことを確認した誰かは、もう次のベッドへ足を運んでいる。「おい、ガルス!起きろ、ガルス!罰則を食らいたいのか!」罰則?なんのことだろうか、とグランツの寝ぼけた頭が考えこむ。こんな未明の時間に起こされた挙句、罰則とは穏やかではない。そもそも、連日扱かれているのだから寝かせてほしかった。新任少尉にとって、睡眠時間ほど貴重なものもないのである。だが、半分くらい動き始めた頭が何かを思い出すように理性を立ち上げる。寝ぼけていた人間から、ある程度頭を働かせることで士官としての知性が回復。温い寝台でそのまま微睡んでいたいという欲求。それに引き摺られながらも、彼は何とか体を起こして考える。夜間、そう、なにかあったはず。そこまで考えたとき、突き出されたトレーで彼はようやく答えを得る。「…食事?そんな時間じゃないだろう。」「しっかりしてくれ。これから夜襲じゃないか。」ああ、また、夜襲か。ようやく理解した彼は、げっそりとやつれた表情のまま無造作に珈琲擬きを啜り目を覚ます。すでに、幾度か経験した夜間浸透襲撃の行程。暖かい食事などほど遠く、珈琲と固いKパンに冷めたベーコンが出てくるだけの夜食だろうと有ると無しとでは大違いだった。だから、大急ぎで食事とも言えないような食事を?き込む。のんびりと咀嚼している暇などないために、パンを珈琲に浸しベーコンごと丸のみ。フォークとナイフを使ったディナーとは程遠い食事を惜しむことなく済ますと装具の確認へと向かう。装具は仮眠前に確認しているとはいえ、何度確認しておいても損はないのだ。もちろん、手入れし異常などない演算宝珠・シャベルと短機は動作正常。塹壕戦用に反射しないよう黒塗りにした装具一式は、用意が整っていた。だから、ひとまずやるべきことをやったと安堵し深呼吸。手にした武装の重みが、ずいぶんと慣れ親しんだものだと気が付くころにはすでに出撃の最中。いつものように、地べたを這いずり回り匍匐前進。冷たい地面に体温が奪われ、手が悴むも体だけは余すことなく動かし続ける。ここで孤立すれば、本当に一人きりで死ぬしかないのだ。黙りこくって、敵前戦に匍匐前進。この瞬間ほど長く、恐ろしい時間はない。そして、最悪の瞬間は鉄条網に遭遇する時。「ッ。」誰かが、舌打ちし前進が止まったところで最悪なことになったことは理解できてしまう。「ワイヤーだ。」「カッターで?」塹壕戦用のワイヤーカッターはしょせん慰め程度の存在。鉄条網を切断している時間が惜しいうえに、切断している間に敵が異常に気付けてしまう。そして、張られている鉄条網は仮説ではなく杭打ちされた杭に束ねられた頑丈なそれ。「論外だ。みろ、通電式の警報装置つきだぞ。明らかに露呈する。」「迂回しますか?」「…いや、時間を使いすぎている。迂回する余裕はないだろう。」そして、指揮官らがきわどい判断を迫れる緊張感。集まっている面々からして、時間が無いことは承知しているのだ。当り前だろう、ここはライン。ラインの塹壕戦。すでに、引き返すには危険すぎる地点まで近づいてしまっていた。当然ながら、下手にここで引き返せば戦果なく敵に追撃される最悪の状況。危険を覚悟する以上、敵に打撃を与えて活路を切り開くしかない。最低でも、敵の銃座を潰さない限り帰れないということだ。手短に伝えられる命令は、強襲。鉄条網を跳躍突破、敵の即応が立ち上がるまでのわずかな時間に塹壕線へ浸透せよとのご命令。議論の余地はない。覚悟を決める暇すら惜しみ、突撃隊列を地上で形成。「では、始めよう。行動開始。」気負いも、恐怖も感じられない淡々とした命令。次の瞬間には、大隊が一個の意志のもとに駆けだす。時間との競争。敵が、敵の防衛線が反応するまでのごくわずかな間隙。それを見越しての大隊突貫。一歩遅れれば、容易く十字砲火の餌食と果てる命がけの全力跳躍。そして。塹壕線で、あっけにとられる敵兵の懐に飛び込みシャベルを振う。手順は、もはや慣れきったものだ。「弾除け代わりに捕虜を担げ!1分以内に行動しろ。手に入らなければ、死体でも構わん!」無我夢中で、駆けまわり気絶したと思しき敵兵を発見。担ぎ上げたとき、冷たいことで死体と気が付くも時間が迫る。選択肢がない以上、せめて生きているように見えることを願うばかり。彼我の塹壕は近い。たった、数分の飛翔。理性が金切り声をあげて悲鳴を上げる、その数分さえ耐えきれば。たった、たった数分の時間。人生におけるこのわずかな時間。たった、その瞬間だけでいいのだ。無事に、無事に飛ばせてくれれば。「フェアリー15、16シグナルロスト!」だが、願いもむなしく降り注ぐ砲弾。運悪く直撃を受けた戦友が、一瞬で肉片と化す。「KIAと認定!振り返るな、荷物を投棄!」同時に、それは敵が人間の盾に価値を見出していないということと同義。故に、それらはもはや盾ではなく単なる荷物。捨てろと言われるまでもなく、部隊はすでに担いでいたものを投棄している。低空飛行故に、放り出された捕虜は悪くても骨折程度だろう。だが、場所は帝国と共和国最前線のど真ん中。…敵が、砲撃を躊躇してくれることを彼我のために願いながらグランツは懸命に飛ぶ。そして、友軍陣地に飛び込んだ瞬間。喘ぐように荒げた息のまま地面にへばり付く。ラインの泥。ラインの汚泥まみれになりながら、駆けずりまわる。それが、彼の初めての戦場。同時に、初めて戦友を失った戦地でもある。会話を碌にかわす間もなく、出撃し、帰還後に見えなくなる姿。さびしくなる隊の食堂で、彼らはそれでも懸命に陽気に振る舞う。何時かは、この別離もなくなるのだ、と願って。だが、その何時かは果てしない。願望虚しく、彼らは戦列から一人、また一人と同胞を失う。軍全体からすれば、奇跡的なまでの損耗率の低さ。卓越した指揮官。恐るべき、透徹した野戦指揮官。加えて、圧倒的な技量でもって敵を容易く屠る魔導師。そんなデグレチャフ魔導中佐指揮下の彼らは、すべての激戦地を経験する。だが、最後に彼らが帰ってきたのはやはりラインだった。地獄の底で生き残った将兵らからなる帝国屈指の戦闘団。彼らは否応なく再びラインの最前線に身を投じることになる。そして、避けがたい敗北の趨勢が確定した時。戦闘団は、その目的は国家の再興に異動。それに従い、ラインにおいて彼らは歴史の裏側で蠢く。彼らは義務を果たす。名誉に従い、義務に従い、祖国への挺身を為したのだ。そして終戦当時、グランツの部隊は数少ない統制を保った有力な戦闘単位だった。彼らは、バルバロッサ作戦司令部の直轄部隊として連合王国軍に投降。最初から決まり切っていたのだろう。捕虜というよりは、客人という待遇で軟禁状態に置かれることとなる。奇遇にも、収容されたのは帝国・フランソワ国境付近のライン地帯。因縁の土地に、彼らは三度舞い戻ることとなる。そして、そこでグランツ大尉は連合王国の将校を介し、デグレチャフ中佐からの命令を受け取ることとなる。内容はごくごく簡潔な、事後の手配に関する連絡。希望者は、除隊を許可。各員には、一定程度の褒章。そして、なお望む者には、ライヒがために挺身を求む、と。「わざわざ集まってもらって済まないな。」片手をあげ、敬礼を制しつつグランツは手近なところに座るよう部下に指示。「いえ、将校はやることもありませんので。」呼び集められた将校は苦笑しつつ着座。どのみち捕虜の身なのだ。せいぜいが、連合王国に指示されつつ単純労働に従事するくらいが現状。とはいえ、捕虜とはいえ形式的なもの。将校に至っては、労働を拒否する権利すらあり仕事は割り振られてすらいない。「それと大尉殿、ライミーから差し入れが。」「また、紅茶か。仕方がないのは解るが、珈琲はないのか。」彼らにとって、無聊を慰められるのは煙草とそれ以外の嗜好品くらい。時間を持て余した彼らにとって、軍歌を歌い昼食を盛大に楽しむ程度が唯一の慰めだ。幸いにも、連合王国側の好意によって紅茶にだけは不足していない。ただ、紅茶ばかり貰っても少々辟易しているのは事実なのだが。贅沢は言うべきではないのだろうが、帝国人は珈琲党なのだ。「同じカフェインですよ、大尉殿。」一応、苦笑しつつも宥める部下。まあ味の問題はともかく、カフェインはカフェインだと。使えるのならば、連邦製だろうが合州国製だろうが武器は武器なのだ。えり好みするべきではない、と笑いながら皆くだらない話で盛り上がる。「逆に聞いてやろう、同じ食事なら貴様イルドアと連合王国どちらがいい?」だが、冗談とはいえ武器と違い食事は自分が食べるものだ。鉛玉は敵兵への馳走だが、食事は自分への馳走である。敵へならばともかく、自分のものともなればマトモなものを望まざるものだろうか。兵隊にとって、食べるものというのは殆ど唯一の楽しみ。敵の塹壕へ飛び込み、缶詰を分捕る戦功は分隊第一とされる程。「…前言を撤回いたします。」「とはいえ、せっかくのご好意だ。ドレイク大佐殿には今度お会いする時お礼を言うべきだろうな。」だが、彼らはふざけながらも理解すべきことは理解していた。投降した身分ながらも、これほどの好待遇。ドレイク大佐の好意によって様々な便宜を図ってもらっていればこそ。なにより、連合王国自身とて物資に余裕があるわけではないのだ。それは、通商破壊作戦をおこなった他ならぬ帝国軍人としてよく理解している。なればこそ、見栄もあるだろうが苦しい中で物資を融通してもらえる好意に感謝。「食べられることに感謝を。」そっけなくも、彼らにできる最大限にして真摯な黙祷。「戦友に。」「「「乾杯。」」」そして、彼らは食事のたびに全ての戦友達に杯を捧げる。先だった者たちも、生き残った者たちも、等しく共に彼らにとっては戦友。なればこそ、帝国が崩れゆくときにあっても。避けては通れない破局にあってなお。ラインの地獄の底から、地獄の底をすべからく這いずり回ったいかなる時も。彼らは、ただ共に戦い机を囲んだことを忘れない。それだけが、記憶だけが彼らにとって唯一の追憶なのだ。同時に、それを境に彼らはふざけきった表情を『悪魔の誇り』とまで讃えられた精鋭のそれとする。戦争によって鍛え上げられ、敗戦によって研がれた彼らは一瞬で意識を切り替えると着座。「さて、時間は有限だ。本題に入ろう。」単刀直入。無駄を排しきった言葉。それが、彼らのもう一つの本質なのだ。「はい。大尉殿、我々の今後はどのように?」「我らが戦闘団長殿が決定された。」驚くべき手際の良さ。裏事情を知っていればこそ、それだけ状況の複雑さを彼は知っているのだ。率直に言って、ここまで容易に交渉が取りまとめられたことはグランツにとってすら驚きだった。なにより、それを淡々と捕虜収容所に収容されているはずの自分たちに通達できる手の長さときたら!「ライヒ残留組はおとがめなし、無罪放免。少しだが共同作業への労働報酬も出る。」形式的どころか、無罪放免。いわゆる釈放された捕虜扱い。バルバロッサの前身となったサラマンダー戦闘団は殺しすぎていたにもかかわらず、だ。後悔してはいないが、覚悟はしていたほどである。だが多少はドレイクが働いてくれたのかもしれないが、あっけないほど簡単に解き放たれる?それも、多少とはいえ口止め料まで渡されて。まったく、現実は小説よりも奇なりとは言いえたものだった。「ライヒを去り、本隊に合流したいものは合州国行きだ。」「では、我々は解散ということになりますか?」「望めば、ここで除隊が許可される。」そして、除隊許可まで出されていた。望む者は、その身をこの地獄との境界線から抜け出させることすら可能なのだ。剣林弾雨の日々から、穏やかで建設的な祖国復興の日々へ。だからこそ、メッセージへ込められた上官の意志はあまりに明確だ。「…ここまで漬かったのですよ?」「なればこそだ。貴様らならば、敵を選ぶことくらいはできるだろう?」デグレチャフという異才。ライヒのために殉じたゼートゥーア閣下と、その意思を引き継いだバルバロッサ司令部。彼らは、決断を求めているのだ。戦列を共に進めるか、それとも戦列から暖かい家庭に帰り、口をつぐんで生きるかを。そして今日まで生き残ったベテランには万が一にも、誓いを漏らす間抜けはいない。戦場で生きこる最低限度の条件には、敵にすべきでないものを敵にしないことが大前提。自殺志願者にでもならない限り、自らの戦闘団長の手の長さと実力を知っている人間が馬鹿な真似をするだろうか?「違いありませんね。」必要とあれば、平然と街ごと焼けとのたまう目的合理性の塊。その進路を阻害するということの意味を考えれば、誰だって御免こうむるだろう。自殺志願者ですら、苦痛にまみれのた打ち回りながら人生を後悔したくはないのだ。戦場で幻想を悉く削られ、生命について一切の幻想を抱けなくなった軍人にとってそれは自明すぎる。「で?退役希望者はいるか?」故に、それは地獄から立ち去れる最後の切符だ。ここで彼らは、残りの人生を決しなければならない。全てを忘れ、日の当たる暖かな日常に帰るか。渇望した、祖国の栄光。黄金のライヒ。ただ、そのためだけに。全てを知り、日の当たることない日陰で這いずり回るか。誰も、彼らの決断を責めうるものはいない。果てしない汚泥の中で、のた打ち回った彼ら。そこから日の当たる穏やかな世界を望んで、誰がそれを非難しえよう。叶うはずのない、妄想ともいえるバルバロッサ。だが、その決断を求められた兵士たちはまた嗤いながら日常に背を向ける。「さてさて、大尉殿のお言葉が突然理解できなくなりました。」「古代アラビール語ですか?大尉殿?」『常に彼を導き、常に彼を見捨てず、常に道なき道を往き、常に屈さず、常に戦場にある。全ては、勝利のために。求む魔導師、至難の戦場、わずかな報酬、剣林弾雨の暗い日々、耐えざる危険、生還の保証なし。生還の暁には名誉と賞賛を得る。』彼らは、最初から壊れているのだ。理解してすらいた。たった一枚の部隊回覧で回ってきた募集要項。もとより、彼らは生者でありながら境界線はとっくに乗り越えた存在。日の当たる世界など、とうの昔に背後にした者たち。彼らにとって、陽光や月光は忌むべきものにすぎない。遮蔽物に身を潜めなければ、彼らは眠ることすらできなのだ。彼らは優秀な魔導師だ。今次大戦において、優秀な魔導師。それはすなわち、最も日常からかけ離れた存在である。そして倒れた戦列の、幾多の戦友。彼らが、自らが命を懸けたライヒがために。故に、彼らは初めから決断は済ませていた。「…大ばか者どもめ。」「なに、報酬にランチを希望します。とびきり、豪勢なやつを頼ますよ。」軽く笑い飛ばす古参兵。彼らは、ただ、仲間と名誉のためにそこに立っているのだ。「仕方ない、明日はジャガイモを一つ増やしてやるか。」「それだけですか?さすがに、勘弁してください。」苦笑いしたような表情。だが、言葉にされずとも食卓を囲んだ魔導師らは理解していた。それは、夢だった。叶うか、叶わないかなど考慮する意味がない夢。祖国に、戦友に、今は亡き戦友に誓った夢。祖霊に、先だった者達に。誓おう、必ず為すと。祖国に、ライヒに。我らが、ライヒに。黄金の時代を、我らがライヒに!あとがきとりあえず、なんかペースいい感じなので。2017/1/29 誤字修正