温泉というものは、素晴らしいものだ。文明の象徴である上に、人間の人体に蓄積された疲労に対するローマ以来の正しい治療法でもある。一般論ではあるが、美味で栄養価に富んだ食事と、快適な温泉文化に支えられた古代ローマが反映したのは必然だろう。だが、同時に温泉というものは火山があることを前提にしなければならない。悲しいかな、火山という大自然は時として人間に牙をも剥きうるのだ。恐ろしいことではあるが、ポンペイに代表されるように火山の被害は昔から人間につきものである。だから、という訳ではないがターニャにしてみれば雪と火山は恐るべき組み合わせだ。幾年も前の、それこそ社会の健全な歯車として働いていた頃の記憶は殺伐とした世界においてもなお有効である。それこそ、部分的には殊更に有効というべきだろう。そして、知識でもってターニャ・デグレチャフ准尉は義務を果たすべく『法』の許す範疇でもって淡々と行動を推進する。傍受と通信量に注目した情報分析と、敵情から予測される連合王国系部隊の行動予測は見事に的中。もちろん、的中させただけでは『目標物』の回収にはつながらない。当然のこととして、『可能な限りの回収』を命じられている軍人として行うべきことは回収任務だ。「准尉殿、配置完了しました。」雪まみれになった冬季戦用迷彩服のまま雪原に伏せるのは本来、よろしくはない。まずもって、雪で軍装が湿気る可能性があるうえに足踏みできない環境では予想以上に体温を損なう。ノルデンの極寒にあって、体温保持は想像以上に厄介なのだ。だが、それらを理解し、知悉したうえで尚ターニャは伏せるしかない。「傍受の手はずは?」「同じく、完了。」喋るのも億劫だが、高カロリー食と防寒外套のおかげで一応対応は保持しえている。「宜しい。目標は予想通りだ。方針を説明する。」馬鹿げていると笑われるかもしれないが、雪の中を見つからないようにひっそりと進んできたのだ。対地走査術式で熱源を緻密に走査しているならばともかく、目視では見破られない自信があった。そして、想定通り連合王国の情報部員らはご苦労にも書類と鞄を探して血眼。故に、ここまでターニャの隊は這いよれた。「幸いにして、敵情予測の範疇に留まる展開である。」そして、這いよったターニャの眼前で行われている捜索活動は実に理想的な状況だった。積雪により、埋没したと思しき鞄を探すには術式をよほど近距離で走査する必要がある。航空魔導師と雖も、さほどの高度も取れないという悪条件。それでも、ゾンデ棒でいちいち雪を穿り返すよりましではあるのだが。「我々の任務は、あくまでも『回収』だ。直接の交戦はROEで許可されていない。」そして、ターニャにとっては其れこそが最低必要条件だった。ターニャにしてみれば、こんないつ何時事故が起こる変わらない雪山なぞさっさとお暇したくて堪らない。可能ならば、温かい暖炉でサーモンでも炙ってレモンでモグモグしていたい気分だ。もちろん命あっての物種であり命をチップにしての交戦など、まったく望むところでない。そのターニャにとって戦わずに退くか、戦わずに回収できるかの二択しか選択肢はなかった。極力、任務に忠実であるというポーズのために回収を優先したいものの条件が満たされねば退くしかなかっただろう。だが、条件は限定的ながらもすべて満たされた。「故に、我々は一発の銃弾も放つことは許可されていない。」なまじ、発砲許可と交戦許可が出なかっただけに楽だったともいえるだろう。中途半端に戦闘の許可が下りていた場合、退くに引けず、進むに進めずというジレンマがありえたのだ。まあ、そもそもこんな雪山に派遣される時点で楽とは程遠いのだが。しかし、仕事にめどがつくのは誰にとってもうれしいもの。「痕跡を残すことが許されていないという事だ。それ故、私は全てを一撃で解決する。」痕跡を残すな。我々はそこに居ないのだ。ならば、簡単である。…事故が起きればいいだけなのだから。「総員、対ガス戦に備えよ。」故に、ターニャは淡々と言葉の爆弾を部下に向かって放り投げる。「想定、高濃度硫化水素ガス。」「准尉殿!?」思わず、愕然とした表情で問い返してくる部下は正しい。「積雪していると、ガスが滞留していることも十分考えられるだろう。」だが、同時にターニャの態度もまた戦理としては正しい。火山性のガスが、滞留していた窪地。そこに転落した荷物を探していた部隊が、ガスで全滅。少なくとも、可能性でいえばゼロではない。なにしろ、火山性ガスは自然由来だ。もちろんタイミングが決定的すぎるが、証拠がなければ問題はない。「簡単だ。ガスを流し、あとは雪崩で証拠を隠滅。」状況証拠では、帝国は真っ黒になるだろう。だが、だからどうしたと?与えられている命令では、帝国軍の痕跡を残さず回収せよとの命令なのだ。自分の痕跡を綺麗に掃除し、消毒すれば少なくとも実働部隊は特定されない。状況証拠だけで、帝国と協商連合の紛争領域での事象に『無関係のはずの』連合王国がクレームをつけられるはずもなし。協商連合のクレームは、また単純に証拠がない罵り合いで誤魔化せる範疇だ。証拠があれば、まったく別だろうが証拠のない非難声明など単なるプロパガンダだ。連中が証拠を捏造しないとも限らないが、捏造された証拠と自明であれば反論も不可能ではない。本物であれば、沈黙し問題そのものを葬らねばならないやもしれないが。「まあ、ご苦労なことだが不幸な事故というのはいつも起きるのだよ。」だが、今のところは頗る順調である。目標に秘密裏に接敵、そしてガス戦の条件を満たすことも完了。「本来ならば、完全に証拠が隠匿できる方法が望ましいのだが…この天候だ。ガスを気化させられない以上、已むをえまい。」ガスが残る以上、自然の事象に見せかけるためにも多少の細工は必要だ。なにしろ自然条件ではガスが滞留するはずのない地形で、ガス事故を起こすのである。多少の漏れがあるだろうために、雪崩で捜索と検証を困難にしておく必要はあった。そして、方針を確定させしめたのちに行動の詳細を指揮官は通達せねばならない。「では手順を確認する。」淡々と示される行動手順は、あくまでも現実的な要求の範疇。決して、無謀な精神論や現実味を欠落させた夢物語ではない作戦。「敵の捜索範囲から逆算したところ、幸いにも敵は窪地を中心に捜索しているものと判明済みだ。」示されるのは、純然たる必要なことと、可能なことの羅列。事実と、能力の真っ当な比較にすぎない。だが、その判断にはあるべき『躊躇』という概念がなかった。「故に、敵が鞄を発見後、高濃度硫化水素ガスによる事故を演出する。」ガス戦。「魔導師は、対ガス戦に特化しているのでは?」「…厳密に言うならば、戦場で使用されるガスの一部に、というべきだ。防御膜は万能ではない。」淡々と、出来るからするのだと物語る口ぶり。「国際法に抵触しませんか?」「硫化水素ガスは工業目的の民生で幅広く活用される『平和的』なガスだ。既存の法規には一切抵触しない。つまり、警戒対象にも入っていない。」簡単にしれっと吐き出している言葉は、異常だ。一介の准尉が、毒ガスに関する国際法規の穴を使って平然とガス戦を行うと口にする?それも、帰属があいまいなノルデン係争地域での秘密作戦において?「では、有用と?」本来ならば、聞きたかったのはそんな平凡な問いではない。それではない、それではないのだ。もっと、本質的なことを問わねばならないはずだろう。だが、非人間的なまでに与えられた命令の遂行に重きを置く軍人として教育されていることが帝国軍人の伝統である。それが理由なき場合、彼らは命令に抗命することなど思いもよらない。上官の命令が、軍事的合理性を伴い与えられた所定の任務遂行に是であるとき、反問は許されるはずもないのだ。「平均的な防御膜でフィルターできるガスは、シアン化物剤・G剤・V剤などの既知のガスだ。警戒していないものには、弱い。」基本的な魔導師の防御膜は対ガス防御効果があると一般には信じられているし完全な間違いではない。実際、有名どころや軍用のヤバイものを選択的に防御する効果は防御膜の起動術式に組み込まれている。だがしかしだ、そもそも意志でもって世界に干渉し続けるときにすべてを拒絶し、透過を防ぐなどそもそも無理だ。選択的に弾くものを選ぶ以上、基本的な防御膜で対応できるガスの種類には限界がある。なにしろ、防御膜の本来の意味は防殻への直撃をそらすための防御機構でもあるのだ。複雑な術式に、あれもこれもと注ぎ込んではリソース不足で運用も覚束ない。それは、帝国軍の魔導師とて同様なのだから准尉殿の仰らんとすることは理解できる。狂っている視点だが、確かに、そのとおりである、と。「つまり自然由来のものには存外弱い傾向が確認されている。水に似た構造のガスなら、有効だと確認する。」実際問題、大気汚染などには魔導師も健康被害を出した事例が他ならぬ連合王国の事例で過去にはあった。まあ、スモッグ対策やら規制やらが断行されたおかげで彼らは忘れているのかもしれないが。有効性を過去の連合王国人が実証している以上、同じ連合王国の魔導師に効かない道理はない。准尉殿の言葉に間違っているところはないだろう。だが、論理的に正しくとも倫理的に正しいかと言われれば完全に別次元の問題だ。軍人にとっては、議論が許されない次元の間違いであるのだが。実現可能性だけでいえば、硫化水素ガスは水に似た構造。警戒するには、少々以上に紛らわしい構造だろう。淡々と指摘する准尉の口ぶりからして、確かな自信のほどが伺える。「…対ガス戦装備ならばいかがですか?」「勿論対ガス戦を想定した防御膜を展開し、酸素精製術式で外気を吸わずに呼吸しているならば別だろう。」実際問題、これらの前提は全て相手が対ガス戦を想定して術式を起動していれば全く別だ。外気を完全に遮断し、酸素精製術式でガス有効圏からの離脱を図られれば逃げられるだろう。実際、帝国の魔導師らも対ガス戦ではそのように行動せよと教育されている。…奇襲的にガスを流されるという事は中々想定されていない。なにしろ、小規模部隊が運用するには少々以上に厄介な代物だ。ガスを流せば敵味方問わず巻き込まれるうえに、友軍歩兵部隊の進撃に著しい問題を生じさせる。加えて、魔導師部隊であっても対ガス戦装備を必要とし機動性を削ぐのだ。何より、国際法規に違反するガスを運用するという事の政治的デメリットは無視できるものではない。普通であれば、誰も積極的な運用策など考えもしないだろう。「だが対地走査術式を展開している連中が、対ガス戦を想定した術式を展開している道理もない。問題はないだろう。」「…面白い視点ですね。確かに、対ガス戦で魔導師が生き残ったという話は有名ですが…全く通用しないという話も聞きません。」だが、平然とタブーを無視してことを図る准尉殿にとっては克服可能な技術上の問題に過ぎないらしい。「ガス戦に対抗できるといっても、それと知っていなければ存外有効だと考える。搦め手の類いだがな。…今度、戦技研に上伸してみよう。」端的に今の気持ちを表すならば、小さな幼い外見だと、愛おしい外見だと着任当時に笑った間抜けな自分を殴り飛ばしたい気分だろう。国際法規の穴を探り、ガス戦の実現可能性と有用性を考慮し、それを戦術として考案する異常性。国境での紛争で実戦経験があるという書類での経歴以上に、何かが歪んでいなければこんな狂った軍事的合理性はありえない。「…了解。他のROEは?」「我々は此処にいないのだ。痕跡は残せない。彼らは、不幸な事故で死ななければならない。」問うべきだったのかもしれないが、敵前で問える状況でもない。だから、口から紡がれるのは極々真っ当な軍事的必要性からの確認事項だけだ。「この場合、我々の死体は百万の言葉よりも雄弁だ。誰も死ぬことは許さん。生きて、帰るぞ。」強い意志の込められた言葉。生還を期する指揮官というのは本来ならば、理想的な上官になりうるだろう。だが、敵に容赦なく、味方に慈悲深い指揮官でたりえるはずの准尉殿が今だけは恐ろしくて仕方ない。ターニャ・デグレチャフ准尉殿は、どこか、狂っているとしか思えないのだ。「それと、当たり前だがガスの風向きには留意しろ。間違っても、後続に流すなよ?亜硝酸アミルは手元に置いておけ。」「了解。・・・・・・捜索部隊が事故で全滅とは不幸なことですね。」「全くだ。弔電を読み上げてやってもいいくらいだな。」散々手を焼かされている捜索任務。絶えざる危険の上に、極寒地帯での行動だ。捜索に従事する魔導師らにしても余裕があるわけではない。だからこそ、一刻も早く切り上げたいと誰もが捜索には懸命だった。懸命であってしまった、ともいう。「・・・発見しました!」湧き上がる歓喜の声。それは、やっと見つけたという喜びだ。発見者らは、早くも喜び勇んで掘り返し始めている。だが、無理もないだろう。吹雪かれながら、ほとんど地形追随飛行と同様の条件で対地走査だったのだ。さっさとこんな仕事を終えて、パブに飛び込みたい、と。ホットワインをグビリとやりたくてたまらない、と。そう思う彼らを、誰が責められることだろうか。「間違いないか!?」「確認しました。間違いありません。」だからこそ、発見の喜びは並大抵ではなかった。この忌々しいノルデンの野から飛びかえるのだ、と。暖かい部屋で、思う存分アルコールを五臓六腑に染み渡らせるのだ、と。「よし、良くやった!アンソン、司令部に繋げ!」指揮を執っている中隊長自身、ウンザリとしていたところへの朗報だ。首を長くして待ち望んでいるだろうウォーカー少佐に吉報をもたらし、財布を空にするまで飲んでやろう。ついでに、こんな極寒の下飛ばされた憂さばらしだ。休暇の一つや二つも申請して中隊で、本国での休暇を申請してやらねばな、と思考は飛躍する。「りょうかい・・・しれいぶに、はっけんの…」だが、何かがおかしかった。おかしいのだ。何が?「っ?アンソン?あ・・ん、そ、」倒れる、部下の姿?そう、それは、おかしい。そもそも、なぜ、・・・いきがクルシイ・・・・「中隊長殿!・・・っ!?」天国から地獄に突き落とされるとは、このことだろう。目標物体を、無事に発見したと思しき歓声。そを隊内通信で聞き取ったと、付近を飛んでいた部隊から報告があって以来通信の途絶した回収部隊の消息。キリキリと痛む神経で電波障害や、磁気異常の影響かと案じていた矢先の知らせは最悪だった。「…全滅だと!?」思わず、ウォーカー少佐が椅子を蹴って飛び上がり叫び返すほどの凶報。部隊の、全滅。それも、突きつけられた報告に誤りがなければ軍事的な全滅ではなく字句通りの。「最後の通信が確認された窪地にて、遺体を収容しました。」「馬鹿な!?」発見まで、あとわずか。やっと、やっと神経の強張りが緩みかけていたところへの最悪の衝撃。少々のトラブルや事故は覚悟していたが、完全に想定外の衝撃だ。それは、強かにウォーカー少佐の神経を叩きのめしていた。「不味いことに、高濃度のガスが滞留していて遺体収容は難航が予想されます。帝国かと。」「ガスだと!?」こんな時に、突発的にガスが沸くなど『偶然』と片づけるにはあまりにも帝国にとって都合がよすぎるだろう。当然というよりも、必然だが帝国の作戦行動であるというのは疑いの余地がない。状況を耳にしただけでも、状況証拠としては議論の必要がないほど帝国がクロだ。「はい、さらに…不味いことに証拠がありません。使用されたのは、硫化水素ガスでした。」だが。だからこそ、状況証拠しかないという事実が報告されるのだ。「火山性のガスです。それも、この地域で、自然発生しうる。」自然発生しうるガス。それが、火山地帯、磁気異常の激しい僻地で発生。誰も気が付かずに迷い込んで、ガス中毒。物的証拠がなければ、帝国を批判することは不可能だ。なにしろ、そこに本来帝国は居ないと条約で定められている。そして、帝国は条約を順守したと声明を出せばそれで終わりだ。一方的な言いがかりなど、御免蒙りたい、と。いけしゃあしゃあと反論してくることだろう。「…っ、この地域では自然発生する。そういう事か!」「雪崩も確認されています。帝国が関与した証拠は、発見できないかと。」生き残りが居れば、或いは帝国軍の関与を証明できたかもしれない。だが、ガスで全滅後、雪崩で証拠が流されてしまえば最早絶望的だ。そもそも、この地域に連合王国の軍人は公式には誰も存在していない以上、大々的な調査は不可能。協商連合の協力も、果たしてどの程度得られるだろうか。そこまで考えたとき、ウォーカー少佐は殆ど絶望的な将来図に頭を抱えざるをえなかった。回収の困難な係争地域に、大量の遺棄死体。もちろん、協商連合軍の所属と書類上は記載されているが回収されてモンタージュでも作られれば面倒だった。何より、指揮官としてせめて部下の死体だけでも祖国に送り返さねばならないという義務感。だが、雪崩に巻き込まれているため遺体収容の目処すら覚束ないと彼の頭は片隅で諦め始めている。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・回収は?」「辛うじて、鞄の回収には成功しました。」「そうか、ごくろう。…すまないが、少し休ませてもらいたい。」回収には成功?そうか、回収には成功したのか。…ああ、そうか、回収したのだから、もう任務は終了だ。「ウォーカー少佐!?ウォーカー少佐!?」「軍医!早く、誰か軍医を!」回収された鞄と、ごくごく簡潔な大筋を省いた概略の口頭報告。内容は、面白みもない無味乾燥かつ単純なもの。単に、急行して回収されたところへ工作と報告。事故を誘発し、そのどさくさに紛れて回収物を回収。置き土産をダミーとして放置し、ついでに念入りに痕跡を消毒。後は、秘密裏に発見されないように細心の注意を払って帰還。報告を受け取る側にしてみれば、少なくとも満足のいく内容だ。「ご苦労だった准尉。」「いえ、義務を果たしたにすぎません。」さして広くもない会議室で交わされる形式的な言葉。空々しい形式的な儀礼のやり取りを行う情報部の人間と、1人の准尉だが共に満足はしていた。無事、回収できたことを喜ぶ情報部。無事、面倒事を解決できたとターニャ。どちらにしても、感情ではなく実利で十二分に満足のいく結果だった。「しかし、良く回収できたものだな。」「偶然に助けられました。…不幸な事故とは恐ろしいものです。」「まあ、作戦が作戦だ。正規の報告書を求めるわけにはいかないが、口頭で確認をしておこう。」聞くつもりはないし、問題がない限り行動を問う予定はないというスタンス。行間を読むならば、かばえる限りは知らんぷりをしてやるという暗示的な約束。だが、少なくとも痕跡を残していない自信のあるターニャにしてみればそれで十分だ。「了解いたしました。」委細承知、余計なことは一言も漏らしませんよ、と形式ばって敬礼。言葉にできないやり取りとはいえ、契約を順守する意思を明示し、帝国への忠誠を誇示。「ROEは順守したかね?」「問題ありません。発砲は一度もありませんでした。」そして、口頭での査問に淡々と事実を述べる。口にするのは、全て事実であり偽りではない。「術式は?」「防御術式と、化学系の術式を少々。ですが、いずれも既定のレベルに留めたはずです。」発砲していないし、非魔導依存条件下での行動水準も満たしている。多少の防御術式と、化学系の術式は『明示的に』軍事行動と断定されるレベルには一度も至っていない。「間違いないな。こちらの観測所でも、同定されるレベルの反応は拾っていない。問題ないだろう。」そして、念入りに見張っていた情報部が感知しなかったという示唆。もちろん無条件に信じるわけにはいかないだろうが、ここで相手が嘘をつく理由も乏しい。ならば、それは少なくとも情報部も事態を問題視してはないという事だ。「ご苦労だったな、准尉。」「いえ、軍務ですので。」故に、どちらにとっても満足すべき結果だったのだ。「近いうちに、叙勲か昇進を手配しよう。期待してくれて構わない。」「ありがとうございます。」あとがき祝、理想郷復活!(よかった、スパム弾くために海外からのアクセス禁止してますとかでなくて…)取りあえず、改稿はスローペースながらもちまちまとやってます。でも、理想郷でのご意見を反映しつつと思ってるので是非に手厳しいご意見を。ヨロシク(゚0゚)(。_。)ペコッあと、何か読みたい小ネタあればご連絡ください。あと、誤字修正しました。