外伝また、夢を見る。全てが、私達従軍兵士の記憶に焼きつけられたのがかの大戦だった。あの日、あの時、あの場所。止むことを知らない銃声が壊れたレコードの様に頭で再生される。気がつけば、私の意識は懐かしの戦場へと回帰していた。戦後なお、その記憶は風化するには生々しすぎる実感として私達の頭に居座っている。糞ったれの戦場。おぞましい人類最悪の産物。泥と蝿が支配した戦場。ああ、ラインは地獄への入り口そのものだった。頭上を砲弾が至近距離で飛び交う中、我々G中隊は新たな攻撃地点への移動命令に従い漸進した。前線を形成する第5連隊の中でも最も激しく交戦中のE中隊の側面援護任務。我々機関銃班は先陣部隊が構築した壕に機銃を据え付け、陣地を構築した。この戦域では帝国軍が圧迫しつつあるはずだが、戦線は未だ流動的らしい。砲撃跡で草木一本まで吹き飛ばされた泥濘塗れの土地を巡って壮大な資源が浪費され血が流されている。壕からわずかに見渡せる限りの視界には、一面の砲煙だけだ。禍々しい敵砲兵はその視界の悪化をものともせずに、緩急をつけながら不断の砲撃をこちらに加えてくる。我らがG中隊の迫撃砲班も果敢に重迫撃砲で応戦しているが焼け石に水だ。砲煙で包まれた戦場ながらも、共和国軍陣地からは多数の発砲炎がいくらでも確認できる。泥地故に、こちらの迫撃砲は底板が泥に沈み射撃が安定しない。機銃ですら、弾道が熟練兵ですらまともに制御できないほどだ。見渡す限り、全ての兵士が泥まみれになりながら何とか攻撃地点を確保しようと懸命に人力の限界を尽くしている。砲を壕に据え付けた野戦砲班が観測射撃を試み、選抜ライフル歩兵がタコ壺を懸命に掘っている。だが、その光景はほとんどおぞましいまでの戦場で為されている超人的な挺身だ。泥溜まりの中、ウジと泥と砲弾の雨にも屈せず腐臭と死臭をまといながら碌な遮蔽物もない戦場を前進する。それも塹壕足でだ。「まったく信じられん。ガマガエルどもめ、よっぽど泥が好きらしいぞ。」「そうだな。砲手どももよっぽどこの地を泥まみれにして飛びこみたいらしい。」「だが、撃たれているのはH中隊だ。同情するよ。」チームの軽口で張りつめた緊張がやや緩むが、近くのタコ壺仲間からの言葉で嫌な現実を思い出す。撃たれているのは、我々に先立って前進しているH中隊だ。忌々しいことに、上層部は敵の防御を突破できると確信しているらしい。一体何人死体を積み上げればこんな泥地を確保するに値すると信じているのだろうか?「航空支援はまだなのか!?いい加減、敵の砲列を黙らせろ!」誰かが呻くように漏らした一言は、中隊全員の共通した思いだった。部分的な航空優勢の確保と、それに伴う地上戦線の押し上げ。忌々しいお偉方の言葉によれば、まさしく完全な支援とやらが約束されていたはずなのだ。「いっただろう?クリスマスの七面鳥を賭けても良いくらい支援なぞ空手形だと!」一発かすめるだけで人体を粉微塵に粉砕する砲弾や榴弾が飛び交う戦場で完全な支援など夢物語だ。訓練すらまともに受けていない補充兵ならばともかく、古参ともなれば上層部の確約程信頼できない物はないと知っている。激しく砲弾のスコールに晒され、長時間に及ぶ砲撃によって抑えがたい苦痛と精神の摩耗に直面する兵士たちは常に懐疑的とならざるを得ない。そうでなければ、希望をたびたび粉砕され、おぞましい戦争の実態に耐えられないだろう。「っ、やられた!ちくしょう!」「衛生兵!衛生兵!」隣の壕から誰かが崩れ落ちる音と、戦友たちが慌てる気配が戦場の轟音にも関わらず何故か感じ取れる。運の悪い誰かが流れ弾か狙撃兵にやられたのだ。壕ごと吹き飛ばされておらず、連続した着弾もない以上、狙撃兵。私達は咄嗟に頭を一層低くすると共に、敵が伏していそうな所へ向かってやたらめったら銃弾をばら撒いて牽制する。「担架を出す!援護しろ!」負傷した仲間を後送するのだろう。4人の担架兵が懸命にカバーされながら駆け出す。我々がこの戦場で後ろに下がる人間の中では、唯一の頼みとすることができる衛生兵達だ。お気楽な後方勤務をしている人間とは違い、彼らは私達ですら躊躇するような弾雨だろうとも味方のために突入していく。衝撃と痛みで吹き飛ばされたとしても、それすらも覚悟して仲間のために別の仲間が駆けるのだ。彼らだけは、心から尊敬できる。「煙幕を張れ!」「手榴弾だ!ありったけ放り込め!」迫撃砲班が煙幕を、選抜ライフル兵達が擲弾を、我々がともかく弾幕を張る。無事に飛びだした担架は正に歓迎すべき光景だった。同時に、敵は我々の攻撃によって優先するべき目標の存在を思い出したらしい。どんどん遠ざかっていく担架ではなく、猪口才な機銃陣地を叩き潰すことを決意したようだ。付近への至近弾が巻き上げた砂塵に耐えきれず、思わず顔を伏せてしまう。塹壕にうつぶせになって耳を澄ます限り、我々G中隊はおおよそ考えられる限りたくさんの共和国軍砲兵から砲弾を馳走されているらしい。すぐ近くで聞きなれたヒューッという風切り音のあとに、ズッゥンというやや聞き慣れない重々しい着弾音。128ミリどころか、連中虎の子の180ミリ野戦砲まで出張ってきている。「全員聞け!友軍の支援部隊が急行中だ!何とか持ちこたえろ!」我らが大隊長殿のありがたい訓示が無線から流れ込んでくるが、虚しくなる気分の方が強い。補充兵の少なくない大隊だ。戦意を喪失しかけた連中が、縋る糸でも投げ出したのだろう。その手綱が限りなく頼りないと知っている我々以外には、有効だろうがどれほど持つことか。「で、その支援部隊はいったいいつ来るんだ?」機銃チームの誰かが口にした一言が、戦場を知っている兵士たちの総意だ。本当に援軍が必要だろう。このままでは、泥まみれになって泥濘地を確保するために我々が悉く死体とならざるを得ない。そのためにも、援軍は今すぐにでも必要だった。「援軍が欲しい。できれば、死ぬ前に。」そのとき、近くの通信兵が大声で喜びの叫びを上げた。位置特定を防ぐために、傍受を主任務とする連中だが、たまにはこういう事もある。大抵、悪い知らせをもたらすだけの連中だが、例外的に良いことを告げることもありうるのだ。まあ、経験則というやつは結局正しい。「援軍だ!援軍がくるぞ!」狂ったのかと、思わず戦友達から憐みの込められた視線が飛ぶが即座に彼らは信じられないものを見ることになる。いや、耳にしたというべきか。“愛する祖国よ、平穏なれ。”広域に全回線でそれこそ魔導師の才能もないような兵士ですら聞き取れるほどに強力な言葉が発せられている。砲撃の硝煙が空を黒く覆い尽くし、泥濘が全てを飲み込むかのような戦場に響き渡る声は驚くほど淡々としていた。一瞬、遂に自分達も狂ったのかと正気を疑ったのは無理もない。それほどまでに、現実離れしている現象だ。増援部隊用の符牒だ。どうも、ありもしない幻想の援軍という幻聴だろうか。“愛する祖国よ、平穏なれ”だが、聞き違いでも発狂したわけでもないらしい。誰かが、誰かが帝国公用語でリピートしているのだ。それも、敵味方識別用の使い捨て合言葉を発しながら! 『ラインの護りよ!そは磐石にして忠実なり!そは磐石にして忠実なり!』無線機の出力を最大にして、通信壕の通信班が応答している声。わが機関銃班の無線がまくし立てるそれは、ここでも聞こえている。くだらない合言葉を考えついたものだと通信兵たちを筆頭に中隊全体で符牒のセンスを馬鹿にしているものだが、この時ばかりは心底救いに思えてならなかった。強力な魔導師のみが使える広域への干渉。魔導師しかありえない。帝国が誇る、最精鋭の魔導師しかありえないのだ。だから、知らないという事はとても幸福だった。援軍として飛んでくる救い手が、悉く戦場の友軍に破滅をもたらしかねない劇物だと。帝国軍からすら『死神』扱いされる彼女だと。狂気による、狂人のための、戦争狂による大隊。連中が、この戦場に、やってきたのだ。硝煙交じりの雲を突っ切る時、ざらざらとした緊張感が立ち込めてくる。ターニャ・デグレチャフ少佐は、主観的にはうんざりと。客観的には無表情で、ライン防空識別圏D-5区画へと急行する部隊を率いていた。『符牒確認。こちら第203魔導大隊、コールサインはピクシー。現在戦域に急行中。到着まで160秒』ターニャには実に気の乗らない仕事がある。男性としてみれば、プロパガンダで愛嬌を振り撒くことだろう。しかも、女性としてみれば忌々しいまでの男性優位による軍機構に出世を阻まれるというおまけつきだ。それらに比べれば随分ましとはいえ、高度を極力低空に保ちつつ高速で戦場へ急行するのは気に入らない仕事の一つだ。例えば、左遷された挙句に酷使される平社員。或いは、名ばかり管理職。これは、危険はない。だが、空薬莢が散乱する眼下の大地を突っ切り、硝煙を高らかにくゆらせる敵砲兵陣地への突撃任務の指揮。危険手当と戦地手当がつくとしてもあまり良い気分ではない。「大隊各位、支援戦闘だ。対地攻撃兵装、拡散爆裂式・光学欺瞞式・対弾外殻形成にて用意。対空・対魔導は任意に行え。」ターニャは手にしたライフルと演算宝珠を握りしめつつ必要な指示を淡々と行う。支援戦闘というのは、実に厄介だ。誤爆は断じて許されない。かといって、大規模爆裂式を一発撃ち込んだところで、塹壕や陣地というのは被害を極限化するようにそもそも設計されている。だから、とってりばやく敵陣に近付いて散々暴れ回るしかない。そのためには、可能な限り高速かつ低空で侵入し一気に奇襲を賭けることが望ましいとされる。だが、それは理屈だ。実際に行う側としては速度と高度を一定に保つのに既にうんざりせざるをえない。低空を高速で突っ切るのは誰にとっても愉快とは言えぬ。軍法会議のごたごたから逃れるためとはいえ、ライン戦線送りになったのは実に運が悪かった。『了解ピクシー。現在G中隊とH中隊が叩かれている敵砲列を叩いてくれ。』『了解した。支援として現刻より5分間の制圧射撃を要請したい。その間に叩く。』幸か不幸か、銀翼突撃章保持者という事もあって独自行動権を維持できたのはこの種の戦場ではありがたかった。石ころだらけの後方基地とて、泥濘塗れとなって敵砲撃下で拠点防衛を命じられた挙句に訳も分からないうちに砲撃の的とされることに比べれば遥かにマシだ。曲がりなりにも後方拠点。食事とて標準的な塹壕用携帯口糧ではなくきちんと温食が出てくる。おまけに、下世話な話だが排泄物の管理もマシだ。低空飛行時点で悪臭が漂ってくるなど、衛生概念に真っ向から反逆しているとしか思えん。塹壕なぞ体が幼女化云々以前に、常識的な衛生概念を持つ教養人としては耐えがたい環境としかいえない。トイレの誤作動で沈没する潜水艦並みに酷い。其れに比べれば、対空砲火の薄い野戦砲陣地を空から強襲する程度給料相応の仕事。なにより、敵魔導師の迎撃もない以上鴨撃ちでしかない。良い的だ。せいぜい戦果を拡張し、休暇規定を満たせるようにしたい。懲罰人事とは言え、明文化されていなければ権利の行使は許される。さっさと後方拠点に移って安全なポストを猟官したい。『5分?それでは敵砲列どころか、対空砲火の制圧すらおぼつかないがやれるのか?』なにしろ、前線は比較的安全性の高い襲撃任務ですら碌でもない程のリスクを冒さなければならない。たとえば、本来は忙しいはずの観測班がわざわざ支援を積極的に行ってくれるという事。前線の観測班がこちらを誘導してくれている以上、戦域の状況は望ましくないのだろう。通常、観測班は着弾観測を専門に行う連中だ。連中が暇という事は、友軍の砲兵の規模はそう多くないのだろう。魔導師の外殻を最大強度で展開し、対地強襲隊列で行動するならばまず誤射などありえない。よしんば、奇跡的な確率で直撃したとしても新型のおかげで致命傷は避けられるだろう。なにより、ブートキャンプで対砲兵防御は叩きこんである。『問題ない。それと、我々に構うことなく突入後も砲撃を継続されたし。』なにより、対地強襲の上方警戒に従事するのが指揮官の務めなのだ。空戦の基本として、一隊で持って対地強襲を行う際は一隊がエアカバーを提供する必要がある。当然、直掩につけば砲弾に巻き込まれる危険性がありえない水準にまで低下するのは説明の必要もないだろう。加えて、ようやく高度を上げられるのだ。湿った重い空気から逃れられることが少しばかり快適でもあった。ともあれ、悪臭と危険地帯から離脱できるという事はデグレチャフ少佐にとっては機嫌を改善させるには十分条件。彼女、と評するべきか微妙な存在であるが、ともかく少女はめったに浮かべない笑顔すら浮かべる。それと同時にご機嫌な気分で上昇軌道を描き始めた。対地支援という事もあり、無理に寒い高度に上がる必要が無いことも乙である。故に、ターニャ・デグレチャフ少佐は珍しく確かに浮かれていた。援軍に喜んでいたはず。その瞬間までは、今でも鮮明に思い出せる。ようやく来援する魔導師。これで一息つけると安堵した。機関銃の銃身が摩耗を勘案すると交換する必要があった我がチームは、伝統的かつ神聖な儀式を敢行。その結果、トランプに嫌われていたらしい私が、物資が積み上げられていた拠点壕で兵站担当の下士官と物資を漁る羽目になっていた。誤解されるが、後方の方が安全というのは少なくともライン戦線では幻想である。前線で再接近地点で数十メートル至近にまで近づく前線は、眼前敵に対峙すればよい。少なくとも、砲兵は味方ごと吹き飛ばすような危険域への射撃をめったに行わない。よしんば行われたとしても然程も危険ではないのだ。榴弾を味方陣地に落とすよりは、徹甲弾の方がまだまし。そんな両軍の思惑から、最前線はせいぜい機関銃と狙撃兵と地雷とライフルに注意すれば即死はしない。なにより、敵味方の識別が困難な地域だ。笑えることに、突破されかけた陣地が共和国軍の砲撃で侵入した共和国軍兵士を一掃したこともある。恭しく、野戦砲兵章を敵砲兵に推薦した旨が官報にユーモア交じりに掲載されたほどだ。曰く、見事な訓練の結果を発揮し共和国軍砲兵隊の帝国に対する献身を賞賛す、と。『正気か?』だが、この漏れ聞こえてくる無線やその設備というやつは致命的だ。味方以外の電波で強いモノとは要するに、敵司令部や拠点壕と一発でばれる。地下に頑丈な防御施設を構えているから安全と誤解する新兵は、幻想を吹き飛ばされるのに2日もかからない。対して戦果の期待できない前線に撃つくらいならば、と重徹甲弾の雨嵐が襲ってくるのだ。榴弾ならば、壕にこもっていれば多少は防ぐこともできるだろう。だが、重徹甲弾は直撃すれば壕なぞ無意味に近い。もちろん、ないに越したことはない。だが、動けない穴倉にこもっていれば砲弾に耕されておわり。拠点壕は少なくとも48時間以上同じ地点に司令部が置かれる事は稀だったことが、全てを物語っているだろう。まあ、そんな背景はどうでもよいだろう。聞いてしまったのは、信じられないような発想だ。一瞬、戦場で耳が狂ったのかと思ってしまっても私は悪くない。『私の部下に、味方の弾に当たる間抜けはいない。敵の制圧と抑制は何よりも優先される必要がある。』だが、私はどうやら優秀な耳を持っていたらしい。いかにも、楽しげな声。軽い口調で、物騒な内容。いかにも愉快そうな声が、確かに無線機から聞こえてきた。「・・・本気なのか?」「ありえんだろ。なんで魔導師の連中が従うのだ?」だが、どうやら神様はくそったれか、それとも何か我々子羊には想像もつかない深謀遠慮でもおありになるのだろうか。おもわず、顔見知りの下士官と二人で顔を見合わせてしまう。うちの砲兵が、友軍魔導師ごと砲撃させられる?信じられない事態だ。直撃させれば、砲兵隊はタダでは済まないだろう。よしんば、許されたとしても味方殺しだ。最悪の汚名を着せられることになる。いくら、いくら命令とは言え、味方に砲弾を撃ち込むことは誰も許さないだろう。誤射は、誰が撃ったかわからない。だから、暗黙理に処理される。不幸な事故として。だが、観測射撃中の砲兵が友軍所在地域に撃ち込めば言い訳の必要性すら怪しい。『・・・少佐、あなたは。』『ご配慮無用。砲撃を継続されたし。』いっそ、清々しい。そこまで、ご機嫌な雰囲気が無線の先からでてくることに恐怖を覚えてしまう。砲撃に長時間さらされ、ただひたすら塹壕にこもって無事を祈るしかない恐怖。あの恐怖は、体験した者にしか分からないだろう。思わず、大声をあげて一気に楽になりたいという衝動と恐怖を抑え込むのは人生最悪の経験としてリスト入りさせるには確実すぎる。だが、それにすら耐えた兵士をしても、耐えがたい人間としての恐怖が何処とも知れずに沸き上がってくる。狙撃兵に狙われた時ですら、これほどではなかった。寒い。体の芯が凍りつくような寒さ。いったいこの悪寒は一体何なのか。『ピクシー03より、01!魔導師反応多数確認!二個中隊規模の敵魔導師が上がってきます!接敵まで600!』誰かの警告。そして、通信兵らも右往左往しながら新たな敵情報を各所に伝達する。これらが意味するのは、単純に新手の敵部隊が出現したといういことか、迎撃部隊が現れたかのどちらか。ともあれ、私は補充部品と弾薬をかついで前線の壕に手早く戻らねばならなかった。連絡壕が比較的穏やかな状況の内に陣地に戻りたい。そう思って、下士官に礼を述べると用意されたものを掴んで駆け出す準備を行う。その時、軽い舌打ちと、溜息が無線越しに鳴り響いたのを確かに聞いた。つい先ほどまで、ご機嫌と言わんばかりの声色が聞こえた無線から。『第一中隊、対魔導師戦闘用意。私に続け。アポなしの間抜けを叩き返す。残りは砲兵だ。手早く済ませて合流せよ。』まるで、ブリザードのような言霊を感じた。言霊を知らない?ああ、戦場で少し有名な話だ。まあ、知らないに越したことはないだろう。ようするに、悪魔が預言書を抱えて気まぐれで読み上げたものだと理解すれば問題ない。つまりは、カオスだ。『ピクシーよりCP,敵魔導部隊を遊撃するが予定に変更はない。対空戦闘の配慮は御無用。』常識で考えれば傲岸不遜で自信過剰。そんな指揮官に直卒された連中は、実に不幸だっただろう。だが、記憶を再生している私の脳は叫び声を止めない。ああ、化け物め、と。英雄殿、英傑殿、卓越した魔導士官殿。貴女は素晴らしい士官だった。私達、ライン戦線に従軍した全ての帝国軍兵士の総意として、貴女は神だった。「魔力がでかいだけのボンボンか?よっぽど自殺願望があるらしい。」そう呟いた誰かは不幸にも、もう生きていない。「ピクシー?・・・大陸軍の連中から聞いた覚えがある気がする。たしか、死神と評していたが。」デグレチャフ少佐についてなにがしかを聞きかじっていた彼は、噂を実証した。ああ、彼女は神だ。それも、生と死を司るとびきり有能な。『・・・大隊諸君、楽しくなってきたぞ。さぞかし、楽しいだろう?』怖気の走るような怒気すら湛えた言葉が、全域に垂れ流されていた。まるで、全ての敵意を誘蛾灯が集めるかの如く。デグレチャフ少佐は、その牙を剝いたのだ。それは、激烈な反応を招く。共和国は、悪魔を狩ることを欲する。要するに、死神を殺すべく人類の英知とやらを傾けてくれたわけだ。神は死なない。だが、傍にいる我々は?・・・死神とはよく言ったものだ。敵を殺し、敵に味方が殺される。そして、尊き少佐殿は周りが死に尽くした泥地を一瞥し、お帰りあそばすのだ。糞ったれ。================あとがき(´ー`)y-~~修羅場なう。更新を頑張りたいと思ったりするのですが、なかなかはかどらないことをご容赦ください。補給というか、投稿するように心がけたいと思います。追伸誤字修正なう。ZAP