『HQより作戦参加部隊へ。掃討戦へ移行する。“共和国軍”を掃討せよ』黒と灰色の世界を彩る紅い炎。そして、仄かにちりちりと光る閃光が視界に入る全てだった。散漫な意識が何処となく捕えた音は、戦域全体へHQよりの命令。そう命令だ。命令によってグランツという一個の人間は、ここに来ている。ここに来て、引き金を引いて敵を殺す。いや、殺したのは人だ。そして、つい先ほどまで気になっていた疑問も解消した。戦場の匂いなど嗅ぎ慣れているにもかかわらず、鼻に触る臭い。その正体は人間の焼き爛れる臭いだった。とっくの昔に嘔吐し尽くしたはずの何かが、口から飛びでそうになるのを懸命にこらえる。さすがに実戦なれしつつある、というべきだろう。グランツ少尉は少なくとも状況を理解しようと努めることができる程度には、まだ平静だった。降伏勧告から始まって、民兵と市民の分離を図ったのがつい先ほど。厳密には市民を民兵と見なすための手続きだろう。ともかく、市民を非戦闘員と定義しなくて済むようになった瞬間、帝国は容赦なく都市を攻撃し始めた。幸運にも、自分は帝国軍属の捕虜救出任務に従事。デグレチャフ少佐殿が敵ではなく味方を優先する軍人であることに違和感を抱くも、即座に解消。この方は単純に、優先順位の問題でことを判断されているのだ。曰く、軍人とは国民の盾であり敵の排除か国民の救助どちらを優先するかと言われれば国民の救助に他ならない、と。おかげで少なくとも砲撃が始まるまでのわずかな間にせよ、市街地で囚われていた人々を救いだすことができたのは幸いだった。『すでに敵の組織的抵抗は排除した。以後、各個に撃破せよ。』闘志に満ちた共和国市民達は概念的な意味では、確かに帝国と戦うつもりだった。彼らは、意識の上では共和国を守るために立ちあがったのだろう。そして少なくとも、彼らの悪意は救助された軍属らの体と遺体が物語る。だが、だからといって眼前で繰り広げられた光景を楽しむことはグランツ少尉には不可能だった。石造りの建築物に対して榴弾が使用されて屋根を粉砕。可能な限り室内の可燃物が露わになったところへ、焼夷弾を撃ち込む。火の鎮火を防止するためと、風を送り込んで延焼を促すためにまた榴弾で建物を破砕。そして、また焼夷弾。この繰り返しは、アレーヌ市をわずか数時間でおそるべき業火に叩きこんでいた。市民が築いたバリケードなど意味を為さない。それどころか、合流した共和国軍の魔導師ですら火に炙られる始末だろう。市街地はすでに地獄絵図よりも地獄そのものに違いない。自分がした事と言えば、純粋に捕虜となっている帝国の軍属救助。手は汚れていない。少なくとも、市民という非戦闘要員を撃ち殺す真似はせずに済んでいる。だが、大隊長殿の降伏勧告とそれを拒絶した民兵。これが切っ掛けだったのだ。自分達の大隊は、そのための尖兵であり帝国臣民救助という名分がなければあの中で殺し合いに参加することになっていた。「ピクシー01了解。目標を願う。」そして、帝国の捕虜を奪還した203大隊はすでに再編され次の命令を待っていた。信じられないことに大隊長はあのアレーヌで行われているおぞましい何かに参加するつもりらしい。最早戦う術どころか生き残ることすらおぼつかないアレーヌの人々。しかし、帝国軍司令部も大隊司令部も各中隊指揮官もまだ満足していないのだ。目前に存在する以上、これを喰らいつくす以外に選択肢を認めない。いや、それどころか信じがたいことだがそれ以外に知らないのだ。大隊長はすでに再編が完了した部隊で追撃命令を受諾していた。「HQよりピクシー大隊。後退中の敵残存魔導師が殿軍を務めている。排除可能か?」「目視した。・・・問題ない、可能だ。」教育の一環として司令部配属。安全かと思っていたが、耳にする言葉を考えればあまり歓迎できないものかもしれない。デグレチャフ少佐殿の視線が捉える先には、ある程度纏まった数の人が確かに見える。確かに、確かに殿軍は満身創痍とはいえ共和国軍の魔導師と思しき連中だ。しかし、魔導師ならではの強化された観測術式はその背後にいる人々がタダのヒトに過ぎないことも教えてくれる。そう、到底戦えるとは思えないような人々。その顔に怒りと恐怖、そして絶望と脱出へのわずかな希望が浮かんでいた。「殿軍を排除後、砲兵隊が残敵を掃射する予定だ。10:00以内に排除を願う。」・・・そして、司令部は纏まった数の“敵”に離脱を許すつもりはないらしい。デグレチャフ少佐に対して、砲兵隊の砲撃から防護術式を展開する残敵掃討が命じられる。そう、辛うじて人々を逃がそうと試みる魔導師らの掃討命令だ。彼らがいなくなれば、展開されている防護術式は一瞬で消失するだろう。そうなれば、砲兵隊がその背後にいる人々を粉砕するのはその直後に違いない。砲兵隊は“敵”の実態を知ることなく、見事に粉砕するのだろう。我々は、少なくとも“魔導師”と戦うだけで直接その背後にいる人々を撃つわけではない。しかしその直後になにが起こるかは十分以上に察する事ができる。いや、何が起こるかをよく理解してしまう。我々が行うのは、最後の盾を粉砕する事なのだ。「了解。最善を尽くす。」あの魔導師らが排除された瞬間に残された人々の命も吹き飛ばされる。砲兵隊の集中射撃。それも、塹壕どころか壊れ果てた瓦礫すら存在するか乏しい平地でだ。生き残れると考える方がおかしい。「・・・大隊長殿、御考え直しください。もし、もし我々が彼らを排除したら。」気がつけば。思わず我ながら信じがたいことではあるが、上官にモノを申していた。顔面が蒼白になるのは自覚している。抗命罪に近い暴挙だ。司令部から下された命令への反論。一介の少尉が大隊長という職責にある人間に行ってよいことではない。「帝国の敵が吹き飛ぶのだろうな。結構なことである。」「しかし、それは!」だからだろう。少なくとも、躊躇したとはいえ反論してしまったのだ。自分でもわからないくらいに混乱したグランツ少尉は何とかデグレチャフ少佐をとどめようと口をはさむ。だが、デグレチャフ少佐はその言葉を聞いてもなお平然としたままだった。「グランツ少尉。逃がした敵はまた銃をとれるのだ。我々を撃つためにな。」ああ、そうだろう。あの憎悪に染まった人々の表情。間違いなく、間違いなくあの人々の中から共和国は熱心な新兵を得ることになるだろう。戦意に関していうならば帝国を憎む以上全く心配いらないに違いない。だが、だから、殺せと?その葛藤を悟ったのか、それとも意図せずだろうか。デグレチャフ少佐はきっちりと最後に大切なことを付けくわえた。「敵は撃たねば撃たれるのだ。少なくとも、撃つなと言われるまでは撃たねばならん。なにより命令だ。」そして気がつけば、地面に叩きつけられていた。土が口の中に入った感覚。いや、土というよりも泥だ。強かに打ちつけられた顔面が痛みを訴えてくるが、辛うじて意識は明瞭である。強烈な蹴り上げではなく、足払いで済んだのは温情だろうか。「聞かなかったことにしてやろう。命令だ。銃を取りたまえ。仕事の時間だ。」そう、命令だ。命令である以上、やらねばならないのは分かっているのだ。命令なのだから。くそったれめ。こんにちは。長距離列車って乗り心地あまり良くありませんよね。一等車は随分とマシなのですが、やはり戦時中という事もあってマシという程度。おまけに軍の列車砲やら輸送車両やらが優先して移動するためにダイヤの乱れは深刻極まりません。こんな状況下において私が行うべきことといえば、せいぜい書類を見るか冷めた珈琲を啜る程度。機密保持措置とやらのおかげで無線封鎖どころか一等車からでることすら禁じられているとはこれいかに。ああ、一応食事は鉄道持ちなので比較的まともです。とはいえ、のんびり食事が楽しめる雰囲気でもないのでしょう。おまけに気の利かないメニューでメインがビーフシチュー。ええ、普段なら喜び勇んで食べますが今は少々御免蒙りたいメニュー。おいしいんですけどね。おいしいのですけど、つい先ほどまでいた戦場で色々見てしまったのでちょっとばかりヘビーです。美味しいと素直に認めるに吝かではないのですが。ええ。ミートドリアとかなら、さすがに喉を通らなかったことでしょう。いけないいけない。申し遅れました。ターニャ・デグレチャフ魔導少佐です。楽しい楽しい法律論争と、実際に実践してみるのは全く意味合いが違うと思いませんか?例えば国民皆兵とか総力戦で国民全員が軍人だと言ったら民間人なんていないと仮定できますか?普通、そんなことを現実にしないと思います。というか、合理的に考えてその法律論争を行う事で失う利益があまりにも多いと思いませんか。まったくとんだ時代です。人を人とも思わずに、使い捨て。せめて賢く使い捨てするなら議論もまだできるのでしょうが、ここでは無作為。許しがたい浪費でしょう。おまけにリサイクルという資源の効率的な運用についても未発達。まったく、人的資本投資にいくらかかっていると思いますか?魔導師の育成費用と期間をおもえばポンポン戦死されるわけにはいかないというのに。信じられないですよね。大学を出て、博士課程に進んだ科学者がつい先日まで前線配置だったらしいです。科学をおろそかにしたら敵の新兵器や新技術に遅れを取るというのに。いやはや、レーダーやVT信管を相手が持っていてこっちが持っていないとかは御免蒙りたいものです。相手がマンハッタン計画推進中にこっちの科学者が最前線で戦死とか利敵行為もよいところではありませんか。アインシュタイン博士は兵士としては全くの無能であっても国家に役立つという点においては一介の兵士以上だというのに!まったく、アインシュタインやノーベルのような連中には銃を持たせるよりも鉛筆を持たせて計算させるべきだとわからんのか!それこそ、ノーベルのような人間を前線に立たせる並みに無意味だ!彼にはニトログリセリンでも研究してもらった方が、世のためである。ついでに、資源の浪費を防ぐために平和を奨励してくれる素晴らしい人的資源の保護者でもある。「アルフレド・ノーベル博士: 可能な限りの最短時間でかつてないほど大勢の人間を殺害する方法を発見し、富を築いた人物」と高く評価される人物だが、同時に彼ほど効率を重んじた人間もいなかった!私ならば、「人的資源の保護にも努めている」と書きたすところだ。ああ何たる人的資本の浪費!ポスドク問題でポストが足りないのではなく人材が足りないというなら前線からひっこ抜けばいいのに。こんなことをしているから、人材が足りなくなると思いませんか?最近ようやく修正されているらしいですが。とまあこんなことを思いながらメモ書きにしたのを正式な上申書に記載する程度しかやることがありません。鉄道といっても戦時中故に車窓から見えるのはあまり良い光景でもなく暇です。呼び出された身である以上、耐えねばならないのでしょうが。アレーヌ市を徹底的に粉砕したおかげで余裕はできたのでしょう。部隊に休養許可が出て、集結していた各部隊の再配置を上が検討する。まあ、その程度は予想していました。でもまさか私だけ帝都の参謀本部へ出頭せよとはこれいかに。何か呼び出されるようなことをしただろうかと真摯に行動を振り返っても特に瑕疵があったとは思えないです。ええ、人命救助に徹したとはいえ敵魔導師の排除は完全にやってのけました。それ以前のライン戦線では野戦の簡易叙勲とはいえ何個か勲功によって叙勲もされているほど。特に問題行動はないはず。部下の統制も特に失敗した記憶はありません。もちろん山下さんのように部下の不始末で軍事裁判など御免蒙るので我が大隊の規律は極めて厳格です。捕虜虐待は断じて許しておりません。国際法規に極めて忠実かつ、軍務へ専心する理想的な部下を持てたのはちょっと面倒事が減って楽で良いすね。本当になんで呼び出しを受けたのでしょうか?「失礼する。久しぶりだな、デグレチャフ少佐。」徒然なるままに迷走しかけていた思索を断ち切ったのは聞き覚えのある声だった。コンパートメントの入口に立っている佐官のコートを羽織った将校。誰だろうかと考える前に、相手の顔を見てなんとなく事情を理解できた。「お久しぶりです、ウーガ少佐殿。御壮健でなによりです。」確か、後方勤務に就いたと耳にした。陸軍鉄道部か兵站司令部だったはずだが。陸大同期の中ではおそらく、一番出世するだろう。自分が大尉に任じられるころには佐官に昇進されていた。戦地勤務以外ではかなり早いうちに中佐に上がるだろう。ああ、羨ましい。なにしろ兵站司令部をでたら参謀本部か陸軍大学の教職のはずだ。仲良くしておいて損がある相手ではない。「ああ、貴官も壮健でなによりだ。アレーヌの事は聞いている。ご苦労だったな。」「すみませんが、軍機に抵触するため詳細は・・・。」そして、陸大同期故に顔見知り程度よりは親しいため気心も多少はしれている。「かまわんよ。今日はほとんどゼートゥーア閣下の使い走りだ。同じ用件だろうがな。」だからか、というべきだろうか。以外にも、というべきだろうか。メッセンジャーとして扱き使われているのだろうな、と察する事ができた。なかなか苦労されているらしい。其れはともかくとして、同じ用件とはこれいかに?「何か、御存じなのですか?」「・・・まあ、貴官なら問題ないだろうな。」口が軽いのか固いのか。まあ、ウーガ少佐は割合良識的な人間なので信頼されていると素直に感謝しよう。何かを為すためにコネと縁故と人脈ほど便利かつ重要なものはないのだから。「今、陸軍鉄道部に緊急戦域輸送の計画が求められていてな。それの報告だ。」「・・・失礼ながら、自分との関連性が見えません。せいぜい私は野戦将校として運ばれる側ではないでしょうか?」陸軍鉄道部は内線戦略を採用する帝国にとっては必要不可欠な部署である。彼らが円滑に軍隊を動かせないと効率的な戦力移動ができずに戦力が集中できない。そうなれば、大陸軍なぞ図体がでかくて身動きのできない象のようなものだ。それだけ重要な部署ともなれば、戦域を動かす緊急輸送計画を求められるのはよくある話だろう。それは良い。だが、何故其れが自分の呼び出された用件と被るのだろうか?こういってはあれだが、自分は魔導師。それも、大隊指揮官という戦術単位に過ぎない。せいぜい何処へどれに乗って行けと言われる程度だろう。或いは、飛べるのだから自力飛行でここまで飛んで行けと言われるかもしれない。わざわざ帝都に呼び出される必要は皆無のはずだ。「戦域というのが問題でね。上はライン戦線を引っ込めるつもりらしい。」「ライン戦線を。・・・まさか、後退すると?」それだけに、ウーガ少佐の言葉を理解するのに一瞬時間がかかった。ここまで押し込んでおきながら、戦線を引っ込める?「その通り。引き込んで出血を強要するつもりらしい。」「・・・驚きました。大胆ですが、面白い発想です。」いやはや、自分も錆びついたものだ。これでは、コンコルドの失敗を笑えない。不採算事業は投入した資金を惜しむのではなく、これ以上の損失を惜しむべきだろう。まったく、前線にいると経済的合理性を重んじる感覚が錆びつきそうになるから恐ろしい。それとも存在Xが私という近代的合理精神の忠実な信徒を滅ぼそうと考えているのだろうか?確かに、奴が口走っていた戦争ある世界ならば・・・という文脈には注意しておく必要がある。恐るべきことだが、確かに自分の中にある市場と合理性への感覚がマヒしてしまう寸前だったのだ。ああ、戦争とはなんと罪深いことか。一刻も早くこんな人間の狂気と無駄から離脱したいところだ。経済戦争をするべきであって、字句通りの実弾が飛びかう実戦はやめるべきだろう。「しかし、引き込めるのですか?」それにしても、ゼートゥーア准将閣下も驚くべき発想をなさるものである。確かに戦線を押し上げるのは手間がかかるだろうが、後退するのはそれほど難しくない。というか、敵の追撃があったとしても重防御の塹壕に突撃を敢行するよりは損害も少ないと予想できる。悪くない発想だ。でこぼこの戦線を整理すれば、敵に対して万全の正面戦力で戦う事ができるだろう。まあ、共和国領に攻め込んでいる以上補給線は敵の方が優勢だろうがこちらも後退する分楽にはなる。もちろん相手が乗ってくるという前提つきだが。「そのための情報管制だよ。・・・どうも、我々は一芝居打つことになるのだろうな。」「芝居、でありますか?」「いいか少佐。アレーヌは未だ健在だ。である以上我々はこれに対する包囲陣を引くが、兵站線が維持できない。前線は下げるしかなくなるのだ。」・・・ちょっと待ってほしいのだが。さすがに、さすがにその設定で前線を後退させられるのか?いくら共和国が無能と仮定したところでその欺瞞程度見抜けると思う。というか、連中だって派遣した部隊から応答が無くなればその程度欺瞞とすぐに察するに決まっている。「いや、さすがに無理がありませんか。第三国経由にせよ、参加部隊からの報告にせよすぐに真相が漏れるかと思いますが。」「逆だ。第三国経由でプロパガンダを流す。曰く、英雄的にアレーヌ市民が抵抗中、とな。」なんともはや。素直に感心してしまう。プロパガンダを専門にかじったわけではないが、これが如何に効果的かはすぐに想像できる。まさか、この時代の人間がその類の情報戦を思いつくとは正直予想していなかった。総力戦といった概念が乏しいこの世界でだ。人間というのは、実に適応力と柔軟性に富む素晴らしいものだと改めて実感する。これほど賢明でありながら、戦争をするとは実に不合理なのだが。まあ、行動経済学は其れを言えば矛盾の塊である人間を感情面から説明しようとする経済学だ。面白い点も多々あるのだろう。「まさか、選択肢を奪うおつもりですか。」ブラボー。まさか、ビスマルクに踊らされるナポレオン三世の再現ではないか。エムス電報事件は本当に古典的外交の歴史的偉業だ。一介の常識人に過ぎない私ですら、そんな手があったとはと驚くべきもの。ある意味で挑発に等しい。いや、ビスマルクが挑発だとすればこっちは誘い水か?まあ、細かい分類は学会に任せるとしても実にブラボーと心からの賛辞を送りたい。「そういうことだよ。よしんば救援に来なければ“見捨てた”と。プロパガンダを流せば損はしない。」「素晴らしい発想です。考えたものですね。」いやはや。国民の団結が重要な総力戦で抵抗する市民を見殺しにした共和国政府というレッテルは実にいやなものだろう。国家が理性的に考えれば、大多数の利益のために少数を犠牲にしていることなぞ国民感情に納得を求められる類のものではない。というか、そんなことをあからさまに主張できる国家はソビエトとかそういう連中ぐらいだ。ポルポトにいたっては、犠牲にする少数が国民の三分の一くらいだった。まあ、国民の保護という名目で開戦する国家もあることだからどっこいどっこいかもしれない。宣教師が殺害されたという名目で出兵するのは最早常套句に近いと思うのだがどうだろう。帝国も同じようなことを過去何度かの紛争でやっているし。もちろん、純粋に外交上の争点として自国国民の保護は怠られるべきではないのだが。というか、そのために税金を払っているのだ。夜警国家だろうと国民の安全を守るという一点においては機能する事が欲せられる以上、やるべきことだろう。そういう意味では、安保は国家の義務だ。まあ、限度があるのだろうが。っと、だいぶ脱線してしまった。思索にふける場合ではない。「しかし、それと自分とはどういう関係でしょうか。」そんな大げさな戦略になんで自分の様な一介の野戦将校が関わってくるのだか。本格的に想像がつかない。いったい何故だろう?「単純だ。後退の殿軍は203大隊らしいぞ。」「・・・随分と過分な評価を頂いているようで。」そういえば、都合の悪いことを知ってしまった人間をどうするのか考えてみれば・・・。口が封じれらるように多額の退職金とか年金で黙らせるのが民間流。まあ、コストがかさむことは事実だ。そのコストを惜しみつつ合理的に解決できるのは、やっぱりしゃべれなくなってもらう事。そして、それは合法的に戦場で達成されるとしたら考えるまでもない。・・・アレーヌ市の口封じだろうか?考えすぎかもしれないが、どうも自分は忠誠心でも疑われているのだろうか?確かに、追い詰められれば自己保身最優先だが。そのためにも組織には割合忠誠をアピールしてきたつもりだというのに。いや、アレーヌ市で躊躇していたのを悟られたのだろうか?しかし、そこまで下手な名分で失敗したという記憶はないのだが。自国軍属の保護は立派な口実。うん、問題はないと思いたい。だが、なら何故殿軍という任務になるのだろうか?「遅延防御程度だが、厳しいものになるだろう。おそらく、そのための協議ではないのか。」「半包囲下での遅滞防御?私の部下を半数は失わなくては時間が稼げませんね。」士官学校でよくよく聞かれた質問だが、まさか本当にそんな羽目になるとは。やれるけどやらないのと、実践してみるのとでは全く意味合いが異なる。口で部下を盾にしますと美辞麗句でいうのは、まあ簡単だ。実際に行うのは凄まじい統制が必要になるのだろう。少なくとも、私の様な若手の将校に求められる限度を超えている。「半数もかね?・・・それでは、全滅に近いではないか。」「ええ、そうなるでしょう。士官学校の口頭試験をまさか実践する羽目になるとは。」御冗談でしょうと叫びたいが、碌でもないことこの上ない。ウーガ少佐の人柄は多少だが理解しているつもりだ。要するに、冗談を口にするような人間ではない。それに彼がここで私を偽る理由も特に見当たらない以上、事実と想定したほうが無難。つまり、軍の最後尾で遅滞戦闘をやりながら後退しろと?シマーヅさん家みたいな戦闘民族にでもやらせるべきであって、一介の魔導師にやらせるべきことじゃないだろうと言っていいですか?思わず列車の窓から逃げ出したい衝動に駆られるも辛うじて自制。ここで逃げたところで、事態は一向に改善しない。後は、いかにして解決するか。いや、生き残るかだ。活路を探すことを考えねば。幸い部下は皆有能な盾である。最悪、シマーヅさん家御自慢の捨て奸を活用する必要がありかねん。ライセンス申請はしておくべきだろう。「考え過ぎだ。そこまで時間をかけたりはせん。警戒程度ではないのか?」「常在戦場であれば、最悪を予期して備えねばなりませんからね。嫌な性分だとは思いますが。」さっさと戦線を後退させられれば苦労はしなくて済むだろう。だろう?つまり、願望に過ぎない。こんな願望に命を賭けるわけにはいかないのだ。万全を期して殿軍を行う必要がある。なんということだ。こんなに気分が悪くなるなら、ビーフシチューを食べるべきではなかった。吐きたくなる。ルーデルという人が牛乳を飲んでいたのは、他に消化によいものがなかったからではないだろうか?いや、どちらかと言えばあれは本気で戦場中毒の気がするが。自分も牛乳を飲むという習慣は真似するべきかもしれない。後ほど考えよう。「・・・こちらも万全は尽くす。あまり時間をかけないように努力しよう。」「お願いします。ウーガ少佐。」とにかく、何たることだ。後でゼートゥーア准将に直談判してでも撤回してもらえればよいのだが。口封じ目的ならば絶対に拒絶されるだろう。いや、拒絶されずとも後々にやはり始末される危険性は付きまとう。そうなれば、生き残るために最悪共和国に投降する事も検討せねばなるまい。いや、共和国に投降するのは危険か。・・・連合王国艦艇を沈めた事故は実についていなかった。最悪、共和国と連合王国の長期的な友好関係とやらのために生贄に捧げられかねない。というか、確実にそうなる。そうなれば、やはりここはまず窮地を脱することを考えなくては。「いずれにせよ、軍人である以上やるべきことを尽くす。そういう事ですね。」畜生、何も知らないふりをして生き残らなくては。もちろんこれが誤解であればそれに越したことはないのだが。楽観的観測で行動して失敗するよりは悲観的に備えておく方がまだましだ。コスト計算をする時に大丈夫、大丈夫と仮定し、5.7メートルという基準を過信した結果はどうだね。もちろん企業である以上コストを意識するのは当然だろう。むしろ、コスト感覚のない戦争をやらかす国家の方がどうかしているのだ。私は断固として平和を支持しよう。限定的な利権獲得のための地域介入は大賛成だが。合理的な経済主体による戦争はまあ、許容範囲のコストに留まるはずなのだ。その点、エスカルゴの基準ときたらどうだね。発電所というか、もはや要塞だ。まあ、彼らの造る要塞にはいろいろな意味で定評があるのだけれども。マジノ線とか。ああ、いけない。どうも知的好奇心と純粋さから思考があちこちに飛んでしまう。「どちらにせよ、だ。デグレチャフ少佐。今ばかりは再会を祝って乾杯といこう。」「代用珈琲しかありませんが、それでよければ。」とりあえず、次から牛乳は用意しておこうと思う。ちなみに、帝国は何故か牛乳の産地として有名だ。====あとがき御免よノーベルさん。あと、アインシュタイン。取りあえず、更新速度はまずまず。誤字頻度はたくさん。でも、一応注意はしているという不思議。ヒューマンだからね。エラーがつきものです(-_-;)取りあえず、戦闘妖精という事で何処からでも生還できるようにしなくては。シマーズさん家の真似は状況次第。またの名を行き当たりばったりで行こうと思います。あと、アレーヌは番外編を書くかどうか。正直グロもアレなので。まあ、そんなところで失礼します。誤字修正溜弾⇒榴弾ご指摘ありがとうございます。再開⇒再会ZAPしました。ZAP