重防御陣地への強行偵察は犠牲が大きい。ラインの悪鬼達を代表する精鋭たちですらこれによって、良くて半壊判定を受けている。増強大隊規模の強行偵察は犠牲が大きすぎるが、さりとてこの規模を割ると所定の目的が達せられない。このジレンマに直面した帝国軍は、敵重防御陣地を突破し一定の偵察行動を可能とする新兵器の研究を技術廠へ要求。航空技術廠の解答は、高高度偵察ユニットの開発による対空砲火の射程外という提言。もともと偵察という分野に関して特殊偵察任務群を有する航空部隊は確かに優越していた。だが、他の部署にしてみれば面白い話ではない。そんな時だ。アーデルハイト・フォン・シューゲル主任技師が魔導技術の観点から一つの方法論とアプローチを提言した。「・・・強行偵察用特殊追加加速装置?」“なんだそれは。”誰もが口にして、疑問を浮かべたことに対する答えはこういうものだった。強行偵察とは、本来敵の迎撃ラインを突く必要がある。で、あるならば強襲を前提としかつ一撃離脱が可能な重武装かつ高速のユニットを投じることこそが望ましい。其れによって、敵陣地の防御度と迎撃を図ることが可能になるのだから、というもの。理屈は正しい。だからこそ、強行偵察という分野に関しては伝統的に航空機よりも歩兵や魔導師が活用されるのだ。しかし、同時にこれらの犠牲が許容できる限度を上回っているのが実態。其れゆえ技術廠が意見を求められている。「左様。魔導師を高速で突入させる。」しかし、視点を変えれば魔導師の突破成功率を伸ばせばよいという事でもあるのは事実。ならばどうすればよいかという視点に立ったのがアーデルハイト・フォン・シューゲルという一個の『てんさい』だ。答えは、速度と高度。航空技術廠の発想とあまり変わらないという批判は、表層的なものにとどまる。なにしろ、高度は副産物であり彼の提案は実質的に速度のみが重視されていた。故に、追加加速装置。だが、彼の『てんさい』ぶりを語るには提出された設計図を見る方が分かりやすいだろう。ヒドラジン燃料を使用する超大型のブースターを多数搭載。なんと、使い捨てのこれらを複数搭載することで航続距離を確保。空になった燃料タンクから切り離すことで終末速度をさらに高める。加えて最大の技術的障壁であるブースターの調整は断念。思い切りよく、ただ加速し続ける代物とすることで技術的ハードルを克服する。言い換えれば、ほとんど稼働中は速度を魔導師の側では調整できない。一応、敵地上空で増速できるようにホウ素添加物タンクを用意してあるがこれは別だ。青酸の十倍以上と予測される毒性のホウ素添加物による増速は緊急回避用。そして、懸念される造波抗力の急増や衝撃波対策に空力弾性的問題は全て魔導師の防御膜と防殻を流用する事で対処。(航空機では絶対に採用できない思いきりと切り捨てによってのみ達成可能と評された。)音速で1.5程度を目指すという信じられない速度によって一切合財を振り切る。そして、純粋に技術的に見た場合は新型偵察機の開発よりは容易に実現可能。なにより、早く実戦に投入可能と見込まれた。だが、一つ付け加えるとこの追加加速装置。使い捨てでほとんど直線運動しかできないという代物である。敵陣地突破後は魔導師が自力で帰還する事が求められてしまう。実用化にかけては、少々問題が多いのではないか?そんな声すら、囁かれ始めた時のことだ。空挺部隊出身の士官が一言つぶやいた。「それで、“部隊”を敵地後方に送り込んではどうか?」と。なるほど、個人を送り込むのでは危険極まりないだろう。だが、強行偵察という用途に限定しなければ空挺降下よりも確実に魔導師を後方に投射できる。それも敵の迎撃網を潜り抜けてだ。使い方次第だが、運用によってはそれこそ敵司令部に中隊規模の魔導師を叩きつけることで頭を刈り取るという事も期待できた。この時点で、追加加速装置の研究は技術廠管轄から参謀本部から戦務が出張ってくることになる。研究自体は引き続きシューゲル主任技師らに任されるものの、参謀本部はかなり詳細な報告を要求。同時に参謀本部の中でも遊撃戦論者達はこの『追加加速装置』を熱狂的に推進した。そして、『追加加速装置』はアレーヌ市がパルチザンらによって一時的に制圧される直前にプロトタイプの完成をみる。防殻・防御膜を形成するために必要とみられる性能は、偶然にもエレニウム工廠製97式『突撃機動』演算宝珠が満たした。実験に参加したテスト要員曰く、『突撃機動』演算宝珠という字句通りの性能である。そして、一定程度の信頼性が担保されたことによって大急ぎで製造された先行量産型20機がロールアウト。この成果を見た参謀本部では決戦計画にわずかな修正を施す。ゼートゥーア准将によって共和国軍の誘引撃滅戦略が立案されていたが、これを加筆修正する形である計画が立案されたのだ。『Schrecken und Ehrfurcht』“衝撃と畏怖”と名付けられた作戦の目的は単純明快。『敵司令部を直接たたく衝撃によって敵戦線を崩壊に導く。』ただこれだけだ。方法は、極端に単純化すれば敵司令部を襲うということに尽きるだろう。もちろんこの作戦は元より、賭博性が高いことが認識されていた。敵の防御陣地をいくつも突破して、敵司令部を突くのだ。容易と考える方が、少なくとも立案時点ではおかしいだろう。当然のことながら、参謀本部内部でも相当の異論が出されている。だが、最終的に参謀本部は敵司令部を沈黙させられずとも直撃する時点で成果があると判断した。司令部が脅威に晒される時点で、敵は司令部防衛のために貴重な戦力を司令部防衛に割かねばならないからだ。最低でもそれによって、少なくない戦力を拘束できる。これらの予測に基づき、稠密な立案が行われた。作戦に投入される戦力は、魔導師一個中隊。投入できる戦力と、必要とされる数を勘案しての結果だった。『追加加速装置』(秘匿名称V-1)を使用し、敵戦列後方を強襲する中隊。その投入は、共和国軍の誘引直後。上手くいけば共和国軍は肝心のところで頭を欠くことになると誰もが期待した。なお奇襲という性質上、演習は無しだ。ぶっつけ本番になることは当然危惧されるも奇襲の利が重視された。肝心の従事部隊だが、作戦がライン戦線に熟達しかつ敵司令部付近に一番接近した魔導大隊を推薦。参謀本部も概ね合意し、秘匿呼称V-1大隊にその旨が通達された。(戦史編纂局注釈:V-1大隊に関する資料は不明)なお、指揮官は帝国が選びうる最良の士官だと誰もが保証。敵司令部直撃後は北上し友軍潜水艦もしくは艦隊によって回収されるとされた。結果は、今日でも驚きをもって見られている通りである。連合王国軍戦史編纂局 『ライン戦線史第三巻』よりぐーてんもるげん合理的思考は一見すると理解しにくい行動に見えるかもしれませんね。でも、ちょっと考えてみてください。常識とは、基本的に偏見かもしれないと。なにしろ、常識というバイアスがかかっている判断基準は偏向的ですらありかねないのです。考えてみてください。普通預金を使っていて生命保険に入っているような人間は、自爆テロを起こすとは誰も考えないでしょう。銀行員ならば、むしろ末長くお付き合いしたいタイプだと判断するくらいです。だから、テロリストならばむしろ逆に普通預金口座を設けて生命保険に加入するのが合理的判断となるでしょう。一見すると、変な話かもしれません。でも、考えてみてください。常識で合理性を図ることは狂っていると。たとえば、それでも地球は回っているという有名な科学者の歎きを思い出してください。そう、常識が正しいとは限らないのです。どうか、どうかみなさん合理的に考えてください。人を否定する前に、真に其れが正しいのか、と。その上で、一言申し上げさせてください。マッドな科学者は狂った考えを合理化せることをよくやるものだ、と。V○Bで中隊投射を合理化するな、と。くたばれシューゲル。あの糞ったれめ!やはりあの時、殺しておけばよかった。・・・・・失礼、汚い言葉を口走りました。大変申し訳ありません。お詫び申し上げます。小官はターニャ・デグレチャフ、帝国より魔導少佐を拝命しております。半壊した大隊の大隊長として、辛うじて友軍後方基地に辿りついたのが数日前。戦功抜群と讃えられ、銀翼突撃章が柏付銀翼突撃章にグレードアップするそうです。内々ながらも、黄金剣付き白金十字の推薦も。ちなみに戦局の推移は参謀本部の予想通り。共和国軍は、数日戸惑うようにこちらの後退を見た後で急速に進撃を開始しました。すでに、帝国軍が開戦以来押し込んでいた失地を奪還。帝国撃滅の意気も高らかに進撃中です。いやあ、行く手に重防御かつ複線化された防御要塞網と逆上陸の用意をした艦隊があるのですけどね?戦局を語れば、釜山に向かって進撃中の某北の国家に対して仁川から襲いかかるようなものでしょうか。まあ釜山とは比較できないほど重防御の陣地に補給万全の帝国軍が待ち構えている時点で、ツミでしょう。参謀本部の連中もたまには戦局を上手く予想できるようで驚きました。で、戦局が順調に推移していることを素直に喜んでいたのが悪かった。・・・考えてもみてください。それは、戦略上きわめて重要な機密としか言いようがないほど重要な情報です。まともな将校ならば、機密維持の重要性は考える前に本能で理解しているほど重要という前提で考えてください。何故、一介の野戦将校が包囲撃滅の秘策である逆上陸艦隊の存在を知っていると思いますか?必要だからですよ。なにしろ、V○BことV1で突入して敵司令部を襲った後で逆上陸艦隊か待機中の潜水艦に逃げ込むからです。ええ、片道は高速でロケットが運んでくれますが帰りは自分でやらねばなりません。逆上陸艦隊は制海権を巡って優勢にあるために比較的合流は容易でしょう。ですが、万が一敵魔導師部隊にでも追撃を受ければ潜水艦が浮上して回収してくれることか。“海軍との共闘経験があることと、強行偵察で敵司令部付近に接近できた諸君だ。戦果を期待する”?いよいよ口封じにも気合が入っていると考えるのは考えすぎでしょうか?理屈で言えば、敵司令部を強襲するのは合理的。完膚なきまでに合理的とも評価できる。後方にある重要拠点の防衛を行いつつ前線に戦力を割り当てるのは並大抵の労力ではないはず。当然ながら、司令部に実際に損害を与えられずとも相手は対策せざるをえなくなるので十分効果は期待できる作戦といえる。なにしろ誰だって司令部が襲われたと聞くだけで、相当厄介事になるとわかるからだ。中隊規模の突入する魔導師を抑え込むには最低でも大隊規模の魔導師か、航空部隊と歩兵旅団が必要となる。それを常時即応体制下で待機させておくだけでも、相当の戦力を遊兵化させられることだろう。参謀本部の考えが実に合理的と評価するのも吝かでもない。・・・自分が突入部隊に選抜されてV1を背負っていなければ。現在の高度8800フィート、速度991ノット。203大隊、正式名称第203遊撃航空魔導大隊の中でも精鋭とされる連中から中隊を選抜。シュヴァルム隊形3個を形成しつつ、音速の壁をぶち抜いての強襲作戦。幸か不幸か機材トラブルもなく順調に作戦は進展中。進展中というか、私達はただ運ばれているだけだが。V○BことV1の操作方法は極めてシンプルだ。スイッチを押してエンジンに点火した後は、微修正を操縦桿で行うだけ。後は、防御膜と防殻を維持し続けるだけだ。操縦桿でできる操作といえどもできることは限られている。せいぜい、緊急回避用に増速する特殊装置とやらを稼働させるだけらしい。一応、方向調整もできなくはないが数ミリ進路を調整できる程度の代物と来ている。あとは、目的地上空まで燃料タンクを背負いながら突進するだけ。到着後の手順は明瞭である。目的地上空でヒドラジンとホウ素添加物を満載したV1の残骸が先行して突入。爆薬を満載するよりも、効果的な打撃を与えるだろうというのが科学者らの見解だ。音速を超えて突っ込んでくるV1の残骸は相当の物理エネルギーを持っていることはいうまでもないだろう。こんな物に突入される連中は、本当に大変に違いない。その後は、切り離された魔導師こと私達が降下して襲撃を行うというえげつない作戦である。やられる方も、やる方も大変というある意味被害者しか戦場にはいないという点は涙を誘うが。ああ、ぼやぼやしているとまずい。タイムスケジュール通りならば、そろそろ時間だ。気分を切り替えて、手早くやるべきことを確認。速度正常。突入用のアフターバーナーの設定もクリア。肝心の位置も航法地図を睨みつつ計器で現在位置を推定。大凡の位置ではあるが、ほぼ予定通り。『01より各位。時間だ。距離測定、角度算出急げ。』『05より、01。目標捕捉。』・・・『各位の完了を確認。フェーズ7へ移行せよ。』部下らから突入用意完了報告を受領。其れを受けて、直ちに行動を次の段階へとシフトさせる。私の宣言と同時に、中隊はほぼ同時にV1から射出された。V1はその性質上、推進力を生みだすエンジンがあるために魔導師を上方に射出する。その際、空になった燃料タンクや乗員保護具なども欺瞞でばら撒く。其れにまぎれて魔導師が作戦行動を行うのだ。瞬間的にせよ、高度10000フィートへ打ち上げられた後HALO降下を敢行というのはなかなかリスキーだ。そして、パラシュートならば980フィート程度で開くのだろうが我々は魔導師。250程度で直前に減速し、ほとんど部品と同じ速度で降下して発見リスクを極力下げている。リスキーどころの話ではない。帰ったら、発案者を同じ目に遭わせねば気が済まないところだ。『諸君、諸君に主の御加護があらんことを。』追伸、エレニウム95式の開発者が地獄とやらへ墜落しますように。もしくは、私が直接送り届けてやるのも吝かではない。心中で呟きつつ規定高度でパラシュートを展開。即座に着地の衝撃が襲ってくるが、一応魔導師ならではの頑強さと防御膜で耐え忍ぶ。考えた奴を脳内で殴り飛ばしつつパラシュートを切り離し、体を動かす。幸い、各部位に特に問題はなさそうだ。『09より、01。降下完了。損害なし』ともかく降下は完了。そして、秘匿処理がされた通信で周囲を見渡せば、11名の部下が無事に降着していた。空挺降下後の集結が困難であることを勘案し、最寄りのロッテで行動するように指示してある。どうやら、付近に降着した部下からコールがあったようだ。『01了解。07、12は私についてこい。』『04より01、シュヴァルムを形成。』『02より01、同じく形成を完了』素早く集結を完了した各小隊に満足を覚える。敵地でまごまごとする部下が私の大隊にいるとも思わないが、手際が良いと気分は良いものだ。テキパキと指示を実行できる人間集団は実によい。『02、貴様はB目標。04、C目標だ。私はA目標をやる。』事前情報によれば、共和国軍司令部があると思われる候補は3つ。そして、厳重な警備も今は混乱している。なにしろV1が共和国軍ライン方面司令部に派手な着陸をしているのだ。・・・いや、着弾というべきか。減速どころか、余ったホウ素添加物でアフターバーナーを点火して増速しながら地面に降り立ったのだ。その最終速度は1000ノットを軽く超えているに違いない。直撃すれば、運動エネルギーでトーチカとて粉砕するそれが12機だ。よっぽどの地下壕でもない限り、物理的に粉砕可能だろう。・・・ただの後方基地には過剰なまでの破壊力だ。これは、費用対効果の観点から科学者が軽視している要素に違いない。クラスター爆弾のように飛散する形式の方が有効だろう。帰る機会があれば、この点で糾弾しようと決意する。『敵魔導反応なし。』『同じく感知なし。』『よし。行けるぞ。』ともあれ、この混乱にまぎれて襲撃を行う。敵の魔導反応がないことからも純粋に着弾への対応に追われていると予想される。さすがに司令部付近には衛兵もいるだろうが、こちらの魔導師ならば排除は可能だ。『01より総員。時間厳守だ。共和国軍の増援が10:00以上遅れることは期待できん。』漏れ聞こえてくる音や状況から察するに、共和国軍は事態を理解できていないに違いない。少なくとも、スクランブル発進ではなくダメージコントロールを優先しているはずだ。そうでなければ、魔導師のスクランブル反応がない理由が説明できないだろう。『03より01。傍受に成功しました。平文です。』『良い兆候だ。魔導隠蔽行軍にて潜入。司令部襲撃後は全速で離脱する。集結ビーコンは離脱後10:00で二度打つ。』『了解。』やれやれ。相方がいなければ、さぼるのだが。いや、労働者として正当なサボタージュ権の行使はまた次の機会にしよう。『よし、突入だ。』直ちに、魔導反応を極力抑えつつ突入。部下が其れに続く形で、混乱が拡大する敵司令部へ襲撃を敢行する。後方拠点という事が災いしたのだろう。共和国軍の後方士官らは明らかにこの手の混乱を収拾できていない。おそらく、経験豊富な下士官も乏しいと見込むべきか。あっさり小隊規模とはいえ浸透を許す警備度合いは、敵ながら哀れですらある。これならば、民間の金融機関の方がよっぽど厳しい警備を用意しているに違いない。入館許可証やICタグの管理は実に有効な対策であるし、警備員の気構えも違うからだ。まあ、こんな後方に敵が来るはずがないと希望的観測を抱いていたらしい警備兵に期待するのは無理だろうが。あっさりと司令部がある可能性のある建物に接近できた。『07より01、配置完了。』確認すると、敵衛兵はこちらと同数の4名。随分と少ない。どうも、これは敵司令部とは考えにくいだろう。4人は装備からして、憲兵だ。魔導師とは考えにくいのだ。それほど重要なものを警備していないのだろうか?まあ、危険な虎の穴に突入するよりはよっぽどマシと思おう。『私と貴様で排除。右二人をやれ。09、12突入用意。カウントは09が取れ。』とはいえ、油断は禁物。後悔後先に立たずという。危険な突入は最寄りに待機中の部下に任せて自分は支援に就く。さらに、念には念を入れて二人がかりで衛兵を処理することに。光学系狙撃式に隠蔽用の術式を被せて用意。一応、09がカウントを取るので其れに合わせて衛兵を処理する。『『クリア』』同時に、先行した部下が憲兵らの守っていた門扉を蹴り破り突入。彼らの突入と同時に、私達がカバーするために続く。ある程度の銃撃戦は覚悟の上。しかし予想外なことに、建物の内部はほぼ使用された痕跡がなかった。というか、空っぽだ。一応、清掃はされているようだが施設内部は空っぽに近い。壁に張られたメモやカレンダーの日付はすでに1年近く昔の物。おまけに、本来は厳重に封鎖されているべき金庫や棚が開けっ放しにされている。漁ってみると、でてくるのは放棄されたことを表す品ばかり。・・・はずれか?いや、別に当たりが引きたいわけではないのでこれは素直に歓迎したい。戦争に参加しているからといって好戦的にならなければならないという法もないのだ。合理的に考えれば、リスクを回避できるならばそれにこしたことはない。『先行して索敵します。』『了解。退路を確保する。・・・いやまて。反応アリ!!』上手くすれば、危険を冒さずに済むか?やや、気を緩めてしまったのだろう。それとも若干希望的観測を抱いたのが不味かったのだろうか。ともかく、世の中はだいたいうまくいかないというのだろう。ともかく肩すかしを味わえたのは一瞬だけだった。こちらが魔導反応を極力隠蔽していたからこそ先に感知できたのは幸いだった。突然壁が開き、そこから誰かが飛びだしてくる。いや、誰かではない。“敵だ”敵が飛びだして来た。『ッ、エンゲージ!魔導師です!糞ったれ!』『っ、伏せろ!』咄嗟に持っていた消音機付き自動拳銃で干渉式を叩きこんで鉛玉を発砲。室内制圧戦を意識して持ち込んだだけの事はあった。奇襲を意識して飛びだして来た敵魔導師の防御膜は幸いにも脆弱。消音機がついた9㎜拳銃弾と貫通術式だけで辛うじて貫通し、着弾する。そして、着弾の衝撃で前のめりに倒れ伏した敵魔導師に対して3人が即座に銃撃を加える。頑強な魔導師というものを知悉している者にとって、数発の拳銃弾程度で魔導師を排除しきれると考えるのは希望的観測に過ぎる。少しでも、少しでも余裕があれば最悪自爆されかねない相手なのだ。息の根を止めるのが、遅すぎるという事はあっても早すぎるという事は無い。それにしても油断大敵とはよく言ったものだ。『隠し扉?・・・っ、大隊長』そして、敵魔導師が飛びだして来た隠し扉。恐ろしく巧妙に隠蔽されているが、どうやら地下への扉らしい。驚くことに、その階段の深さから列車砲の着弾にすら耐えうる深さに構築されたものと推測される。この偽装。迂闊な敵魔導師が仕掛けてこなければ、見逃すところであった。まったく、手が込んでいる。とはいえ、相手はミスをしてこちらはミスをしなかった。これは、多くのアドバンテージを私にもたらす。『話し声か。・・・機密か何かがあるのだろう。』幸か不幸か、相手は地下にいるらしい。いくつか、騒ぐ声が聞こえてくる。・・・相手の言葉を聞き分けられる程ではないのだが物音はするのだ。しかし、魔導師としての反応は感じられないことから少なくとも防御膜を展開しているとは考えられない。普通は魔導師相手に無効な手段も今なら実に有効だ。それにだ。毒ガス等は無効化されるかもしれないが、魔導師とて生物。気がつかない有毒物資まで選別して防護できるほど優秀ではない。それに、酸素を自ら生成する事も不可能。つまりだ。『・・・捕虜を取りたいが余裕がない。仕方ないか。』地下という事は、爆発で酸素が燃焼すれば一発に違いない。というか、爆風だけでも十分すぎる脅威だろう。逃げ道が複数あろうとも、其れを行う前に爆風と悪性空気バランスが待ち構えている。一応、燃焼系気化爆裂式を撃ち込むと同時に並行して火をかければ完璧だ。紙媒体の資料等は焼くことも期待できる。なにより、消火に人手を取られれば追撃も鈍るだろう。『焼くぞ。術式展開用意。カウント合わせ。5・4・』ぎりぎりまで術式の発現を抑制しつつ、術式を構成。気がつかれないように、最後まで気を抜かない。現世への干渉式は極力仮想起動し、直前で展開するのが一番奇襲効果は高い。もちろん、制御に手間を喰う上に時間がかかる代物だ。普段の遭遇戦や高機動戦ではめったに使われないので、魔導師でもこれへの対処は困難。なにより、後方の魔導師では教本程度の対応能力だろう。塹壕戦特有の陰湿な襲撃方法に対処できるほど練達しているとも思えない。『1・今ッ。』大規模魔導反応をぶちまけつつ、盛大に術式を展開。地下の奥へ叩きこむと同時に、次発を用意。連射や急速展開は高機動戦を得意とする我々の専門分野。ナパーム系の燃焼式をほとんど連続で発現し、可能な限りの延焼と成果拡大を狙う。爆風で飛ばされるか、火で炙られるか。違いはその程度だ。そして、仕事がすんだら後はすたこらさっさに限る。立つ鳥跡を濁さずというし、盛大に焼いていくが。なにしろ、時間が迫っている。やはり、タイムスケジュールが厳しすぎた。10:00で施設襲撃というのは魔導師でも厳しい時間としか思えない。そういうわけで、最後ならばと盛大に干渉式を発現。ありったけの投射火力を置き土産とばかりに展開し、撃ち尽くすと撤収する。一応、追撃の危険性を想定してロッテでカバーしながら建物内は移動。・・・やりすぎたか、少々予想以上に火の回りが早い。塹壕相手に撃ち込むのとは、また勝手が違う。表面上は落ち着きつつも、心中では盛大に慌てるという器用な真似にも慣れたなぁと思いつつ疾走。自分で付けた火に焼かれるのは、馬鹿げている。そのまま急速に火の手が廻り始めた建物を飛びだすと、即座に部下と共に駆け出す。一見すると、火事から逃げ出すように見えるだろう。ちなみに半分は、本気で逃げているので演技も真に迫っているに違いない。まあ、混乱しているところに襲撃を受けた基地で我々を気にする敵がどれほどいるかとも思うのだが。それでも、何もしないで後悔するよりはして後悔する方が有意義だ。『01より各位。目標A襲撃完了。時間だ。状況報告。』『02、目標B襲撃成功。あたりでした。』『04、目標Cに破壊工作完了。後をお楽しみください。』ふむ、どうやらBが司令部。Cが何かの備蓄倉庫というところか。ともあれ、敵の司令部を叩けたのであれば敵の混乱が期待できる。幸い、近隣からのスクランブルがかかっていても我々の離脱方向を捕捉されねば大丈夫か。『了解。撤収する。全速離脱。北上だ。ビーコンは10:00後。』ならば、安全策を取ることなく離脱して逆上陸艦隊に回収してもらうべきか。ともあれ、離脱後戦果報告をまとめて参謀本部に送らねば。やれやれ。明らかに給料分を超過する労働を行わされている気分だ。あとがき(Acfa風味)ミッションの概要を説明します。ミッションターゲットは共和国軍ライン方面司令部。当然、共和国軍によって厳重な防衛線が構築されております。共和国軍防衛線及び防衛部隊は、極めて大規模な部隊です。これがターゲットそのものではない以上、まともに戦う意味はありません。従って、本作戦はV1を使用して、一気に敵基地へと入り込みすみやかに目標を排除する流れとなります。なお、帝国軍参謀本部は三か所の候補を設定しております。それ以外は、特に破壊対象とはなっていません。ミッションの概要は以上です。帝国軍参謀本部は、あなたを高く評価しています。戦果を期待していますね。あとがき(いつもの2)たまに更新速度が上がったり下がったり。それでも人間だもの。でも、連続更新できると気分が上がってくる。追伸綱渡りの任務は連続成功すると評価上がると思いませんか?誤字修正10月5日 漢字変換(-_-;)>黄金熊さまに感謝さらに漢字変換ミスをZAPついでにV○Bについて。VmaruBです。○です。マルです。Oではありません!○なんです。ZAP