南方大陸戦線は“砂漠”だった。そこでは、大陸本土とは違ったルールが厳然と存在するのだ。当時、南方大陸に勢力を構えていた列強は3つ。連合王国・共和国、そしてイスパニア共同体である。そのうち、イスパニア共同体は遂に最後まで中立を保った。これは、イスパニア共同体内部の熾烈な政治的闘争によって外へ干渉する余力がなかったことが大きい。事態をややこしくしているのは、南方大陸に植民地を有する国家は列強以外にも存在したということだ。トルクメーン諸公国からなる一派や、イルドア王国からなる入植地など玉虫模様で地図は描かれることになる。各国主権の入り乱れた地域情勢は、一言で表せば“カオス”である。もちろん、大まかな色分けは可能だ。ほとんどの勢力や傀儡政権は連合王国並びに共和国側。公的には中立であろうとも、内実は義勇軍派遣や物資提供などで旗幟を鮮明にしている。ただ、全てが帝国の敵となったわけではない。たとえば、南方大陸植民地獲得競争において共和国や連合王国と利害が衝突する国家は帝国に付いた。利害の一致による同盟関係の相手を求めることは、帝国にとってそれほど難しくもなかったらしい。共和国の担当者にとって忌々しいことに、共和国の退潮は勢力圏拡大を願う近隣競合国を喜ばしている。そして、イルドア王国はまさにそうした理由から帝国の同盟国となることを選んでいた。もちろん、同盟国がそのままイコールで共和国や連合王国との交戦国を意味するものではない。二国間の同盟関係は、基本的に任意の参戦規定を盛り込むのみで参戦義務については言及していないのだ。帝国南方大陸派遣軍団が派遣された時、公式にはイルドア王国は中立を保っていた。ただ、同盟国間の配慮として“駐屯”を許可しただけなのだ。そして、これに対する帝国の動きも決して早いというものではなかった。帝国軍の南方大陸軽視という事から、二個師団からなるわずか一個軍団の派遣。より多数の増派を行うかどうかということについて、参謀本部は激論を戦わせる始末。通常ならば、南方大陸に展開している共和国現地警備隊ですら対抗可能な程度の部隊だ。誰もが、思った。当面は戦力の集中に帝国軍が務めることになるだろうと。言い換えれば、ロメール軍団長は政治的な派兵目的で派遣されたのだろう。影響力拡大と同盟国への配慮が大きい派遣だろうと。当面は、『小康状態が保たれることになるだろう』と。帝国軍参謀本部ですら、そう考えていた。とにかく、ある程度の部隊は派遣したが本格的にこの戦線に重点を置くべきか彼らも迷っていたのだ。なにしろ得る物が一切ないと思われている地域への派遣。総力戦に基づく敵消耗拡大という目的でもなければ、帝国軍の派遣事態が議論されなかっただろう。その意味で、誰もが小康状態を予見したのは分析としては真っ当だった。予想が覆されたのは、ある意味現場の驚くべき行動に原因がある。その原因とは、ロメール軍団長だった。敵どころか味方ですら、動かないと思い込んでいた南方大陸派遣軍は到着と同時に電撃的な行動を開始。たった2個師団と侮った連合王国部隊。これを集結前に各個撃破。数倍という規模の敵を相手に戦史上比類なき戦術を発揮する。まさか、砂漠で機動戦を行われるとは思っていなかった連合王国部隊に痛打を浴びせる。これに対して、ド・ルーゴ将軍の採択した戦略は明白だった。イルドア王国への政治的工作を行うと同時に、帝国軍部隊をイルドア王国領土から隔離。補給線を断つと同時に、支援の手が届かないように各種工作を強めた。これに対抗するロメール軍団長の戦術は巧妙を極めるものと今日でも激賞されている。わずかな部隊で持って陽動を行いつつ、湾口都市トリポールを奇襲占領。イルドア王国に補給を依存しない根拠地を確保しつつ、共和国・連合王国の兵站線を痛打した。共和国・連合王国にとって補給拠点であったトリポール陥落の影響は大きく響く。結局、当初の予想とは裏腹に帝国軍南方大陸派遣軍はその存在を誇示するところとなる。なにより、一方的な戦果は帝国の人々を熱狂させた。ライン戦線での莫大な戦費と死者を出して共和国を倒したと思い込んでいた人々。そんなところに継戦は、下手をすれば厭戦感情ともなりがち。参謀本部ならずとも、その危険性は危惧していた。だが、南方大陸での圧倒的な戦果。その一方的な戦勝に人々は熱狂した。まるで、帝国軍に匹敵する敵はいないとばかりの論調が繰り広げられる。熱狂した人々は、好戦的に戦争を支持。・・・同時に一層の戦果を求める。このことは帝国軍参謀本部にとってみれば誤算も良いところである。彼らにしてみれば、戦争継続を支持してもらえる事までは歓迎できた。少なくとも、厭戦感情に包まれて国民が国内の不穏分子に煽られる徴候は抑えられている。それは手放しで歓迎できよう。だが、南方大陸で英雄が生まれると共に撤退の時期が見えなくなることを恐怖したのだ。特に戦果拡張を求める積極派に対して、ゼートゥーア少将を中心とする損耗抑制派は強く抵抗する。彼らにしてみれば、南方大陸への増派など受け入れがたい資源の浪費に他ならない。補給線の負担一つとってみても、耐えがたい規模なのだ。護衛艦は?輸送船は?直掩部隊は?考えただけで、損耗抑制派は頭を抱えてしまいたくなる。本土で一個軍団動かすのとは意味合いが全く違うのだ。ライフル一つとっても、本土で製造したものを複雑なルートをたどって送らねばならない。それも、何割かは輸送中破損や輸送船撃沈によって失うという前提でだ。これに対して、植民地に一定の工業基盤を持つ連合王国や共和国はある程度は自活できる。もちろん、親帝国勢力からの補給を期待する事も可能だろう。だが、親帝国勢力とは要するに利害で結びついた程度の関係に過ぎないのだ。当然、これらに補給を依存するなどまともな軍人ならば誰もが恐怖する他にない。故に、参謀本部では再び激論が繰り広げられることとなる。なんとしても、これ以上の戦線拡大を阻止せねば。そう決断したゼートゥーア少将ら。しかし、結論が出る前に再び南方大陸からの知らせが飛び込むこととなる。それはゼートゥーア少将をして苦吟させる代物。そして、ゼートゥーア少将は幸運にもそれをまだ知らない。自由共和国暫定国防会議戦果をあげる方は、盛り上がることだろう。だが、あげられた側にしてみればたまったものではない。目の前で繰り広げられる責任の押し付け合いと、嫌みの応酬。これでひと段落したということが、ド・ルーゴ将軍の精神を酷く疲れさせる。手にした書類からして、帝国軍との戦闘経過報告よりも同僚への非難が大半を占める代物。会議のための会議とはまさに、言い得て妙だと密かに嗤ったものだ。祖国を奪還するための行動よりも先に、自滅しかねない状況。付き従っている将兵らの不満も限界に近い。・・・だが。いや、今だからこそ行動が起こせる。「トリポール奪還作戦を審議しよう。」会議室の喧騒を無視して、ド・ルーゴ将軍は淡々と宣言する。脱出前の階級で言えば、ド・ルーゴ将軍は少将。年齢に比較すれば、恐ろしく高位だが同時に多数の先任がいる階級でもある。事実、この会議室に集まっている将官の中で彼が一番若くかつ下から数えたほうが階級では早い。それでいながらも、彼が上座を占めているのは単純に職責からだ。共和国軍国防次官兼陸軍次官という役職。有事において国防大臣に変わって軍に対する指揮権限を有すればこそ、彼は脱出した共和国軍を率いていられる。「軍の集結状況は?」もちろん、それは書類上の話に過ぎない。植民地防衛軍に派遣されている将官らの大半は、出世コースを外れたとはいえド・ルーゴの先任ら。自分よりもはるかに年下で、士官学校の年次が遥かに若い少将ごときに指示されるのを唯々諾々と聞くはずもない。名目こそ、祖国奪還のために集まっているが自由共和国の内情はかなり混乱しているのが実態だった。脱出した時に率いている部隊は、実戦経験こそ不足しているものの中央が整備しただけあり部隊としては有力だ。しかも、指揮系統はド・ルーゴを中心に整備されているだけに纏まりも良い。装備も補充の問題はあるにせよ、一番整っているのは本国脱出組である。なにより、本国から精鋭の魔導師らが合流しているだけに戦力でも一つ頭突出していた。だが、それだけだ。植民地行政当局とのコネクションも、各種兵站の担当者も全て警備軍に依存している。加えて、この地域で飼殺しにされているとはいえ将官は階級において本国軍を圧倒。結果的に、今まではぎくしゃくした関係があり組織的な戦闘というよりはばらばらに戦っている状況だった。「完了してはいるが、反対だ。」なにより、ド・ルーゴ自身の立場もかなり曖昧だったのだ。軍の集結命令一つとっても、命令を出すためにかなりの手続きと駆け引きを迫られる。国防次官としての権限も、何もしないという消極的な植民地官僚の抵抗に直面。会議で発言しても、居並ぶ将官らは平然と反論してくる程だ。今日ですら、トリポール奪還作戦という名目で集結させた部隊の進軍に抵抗されている。万事が万事この調子。本来は、トリポール防衛に使うはずだった部隊の集結は結局間にあわない始末だ。トリポール防衛に増援を連合王国が求めてきた時点で、手元にあった部隊は燃料が足りなかった。兵站担当者は、平然と燃料の所在が不明だとのたまいド・ルーゴをして忍耐の限界に挑ませるほど。加えて信じられないことに、一部の部隊は将官らが権益を有している各種権益を防衛するために配置されていた。長すぎた配置の間に、彼らが利害を持つ植民地資産が増えすぎた結果として軍すら身動きが取れないのだ。故に、ド・ルーゴ将軍は決断していた。「失礼ながら、全員が反対と?」そもそも、命令が下った時点で反対も何もないだろう。そう思いながらも、今日この時までは猫なで声で自分を押し殺して来た。「さよう、守るべき要衝を守ることこそ肝要。」「我々は、この種の作戦に同意できない。」植民地の権益にどっぷりつかった将官ら。本来ならば、憲兵に身の上でも洗わせたいが今は指揮系統から切り離すことが最優先だった。軍を集めている以上、その軍を使って抵抗される芽はつんである。数だけで言えば、中央からの部隊が優越しているのだ。なにより、植民地軍の将官はともかく兵士はまともなものが多い。植民地勤務はせいぜい1~2年のローテーションなので彼らの大半は中央軍の命令に従う。問題は、この将官らだけなのだと見極めるのに時間を使った。だが、今や問題はこいつらだけなのだとド・ルーゴ将軍は心中で描いた絵通りに事を進める。「わかりました。では、無理に反対している作戦の指揮を執るのもおつらいでしょう。」ことは迅速かつ、速やかに終える。「違う軍務を用意いたします。引き継ぎは結構なので、鎮守府にて当面参事官としてご勤務ください。」南方大陸軍鎮守府参事官。その任は、はっきり言えば鎮守府の窓際を温める程度だ。本来は、戦闘中行方不明になった人間に対して便宜的に与えられる職務である。言い換えれば、いないことを前提に任命される職務。当然、実権などは悉く取り上げられている。「「ド・ルーゴ将軍!?」」ようやく事態に気が付いた連中が騒ぎだすが、耳を貸すつもりはない。すでに、辞令は用意済み。中堅以上の軍内部はすでにこちらを支持している。ごたごたは生じることなく問題を処理できるという見込みがあればこそ強行したのだ。「辞令は用意してあります。では、小官は作戦の指揮を取らねばなりませんのでこれにて失礼。」そう言い捨てて、席を蹴って立ち上がる。聞く耳持たずという態度。これ以上、あの連中に軍をひっかきまわさせるつもりはない。そのまま、騒ぐ元指揮官らを捨て置くとド・ルーゴは別室にて待機していた連中のもとへと足を向ける。「諸君、待たせたな。さっそく、行動を開始しよう。」立ち上がり、敬礼してくるのは実戦指揮官ら。本土からの面々と、新しく加わる植民地軍の実戦指揮官らからなる参謀団。とにかく、組織的な戦闘の実現のために彼らはド・ルーゴを選んでいた。なればこそ、ここまで速やかに指揮系統の統一が実現したと彼も理解している。「さて、状況は?」そして、曲がりなりにも共和国は列強の一角を占める大国。人材の層は決して薄くない。必要とされる情報の分析と、各種作戦の立案は不得手とは程遠い。まともにぶつかれば、二個師団程度を屠るのは決して難題ではないのだ。同時に、まともにぶつかるための方策を考えることの重要性も理解している。敵将ロメールは、驚くべき機動戦で集結前に連合王国軍を各個撃破した。故に、こちらが分散進撃してのトリポール攻略が無謀ということはすでに共通理解として存在している。兵站線の関係で、軍を集結させたまま進軍させるのが困難。一方で、全軍でも一個軍団に過ぎない帝国軍は軍をひとまとめにしたまま進軍が可能だろう。当然、分散進撃していれば帝国に各個撃破されるというのは大いに予想できる事態だった。「予定通りです。帝国軍は行動を開始しております。」だからこそ、ド・ルーゴ将軍は盛大にトリポール奪還を叫んだ。機密保持能力に深刻な疑義のある将軍ら相手に、力説してのけた。その動きを見せるために、わざわざ多数の物資を集結させると共に各ルートを伺う動きも行っている。帝国軍は無能とは程遠く、当然こちらがトリポールを攻略せんとする意図を理解しているだろう。連合王国経由の情報によれば、トリポール市街地にはすでに防衛線を構築しているとの報告もある。すでに、こちらの見せたい意図を相手は受け取ったと解すべき状況だ。「では?」だが、にやり、と。この場にいる誰もが思わず悪だくみをしている表情を浮かべてしまう。其れこそが彼らの意図するところなのだ。ロメール将軍は優秀だ。分析した将校ならば、誰もが其れを認める。機動戦に関してならば、当代における最高の権威かもしれないとまで。なにしろ、砂漠で機動戦をやる各種障害は誰もが理解している。自らの位置すら見失いかねない砂漠で部隊を組織的に動かす。しかも、分散進撃をタイムリーに行わせるという事がどれほど難しいことか!部隊を組織的に砂漠で機敏に動かせるだけでも、賞賛に値するほどだ。そんな将軍である以上、軍事的に無能とは程遠い相手。当然、トリポールを包囲されては防衛できないことをよく理解していることだろう。最も、一個軍団で在南方大陸の共和国軍全てを相手取る無謀は子供にでもわかるだが。つまり、誰だろうとこの事態に対して対処する必要性を認識するのは容易ということだ。そして無能と程遠い軍人ならば、解決策が少ないながらも存在する事も認識できる。例えば、撤退だ。トリポールを死守する必要がなければ、後退してしまうのも一つの手であるだろう。だが、帝国軍にとってトリポール以外の拠点は今のところ乏しい。イルドア王国領への後退は政治的に受け入れがたい選択肢となっている。そうなれば、帝国軍が取りえる手段は集結前の各個撃破に他ならない。持ちえる部隊を使って、それぞれを叩くことで機動防御を行う。それが、ロメール将軍の取りえる最良の解答に他ならない。そのことを相手が理解している以上、むざむざと敵に各個撃破されるために出撃する必要はない。むしろ逆だ。「ええ、出撃するとの報告が。」そして、待ち望んだ知らせもすでに飛び込んでいる。連合王国情報部が買って出た偵察行動。見事に、彼らはトリポールの情勢を把握していた。『帝国軍、トリポールを出撃』の一報はほとんどタイムラグ無しで入手。そのためか、今のところ帝国軍の動向を完全に掌握できている。彼らは分散進撃してくる我々を奇襲するつもりだという。というよりも、そうするよりほかに選択肢がないところまで追い込んだのだ。後は、これを料理してやればよい。「ああ、これで馬鹿どもの相手をした意味があるというものだ。」彼らをおびき出すために、わざわざ攻略の意図を盛大に漏らした。偽装ながら、街道整備まで行った程だ。まあ、実のところを言えば工兵隊には街道拡充よりも地雷原構築に尽力してもらったが。のこのこ奇襲をかけるつもりででてきた帝国軍を叩く。短距離ならば、軍を集結させても補給線も持つ見込みだ。よしんば、敵がこちらの集結を悟り後退してもそれはそれで一向に構わない。その時は、妨害がない状況で分散進撃を駆けることができよう。「さて、諸君。用意にとりかかることにしよう。」ようやくだ。ようやく、帝国に一撃を返すことができる。奇襲するつもりで、索敵を最小限に絞りつつ速度優先で進軍してくる帝国軍だ。地雷原に引き込み、奇襲するつもりだった連中を強かに強襲してやろうではないか。誰もがその思いを抱きつつ、軍の編成を行っていた。数で言えば、圧倒している。そして、正面から戦えば決して酷く劣るわけでもない。曲がりなりにも、列強の正規軍同士である。数で圧倒すれば、勝利は確定されたもの。「一矢報いるぞ!」「「「はっっ!!」」」故に、共和国軍の意気は高かった。反撃への狼煙が上がろうとしているだから。「やれやれ、困ったものだ。これでは、ティータイムのティーにすら事欠くではないか。」盛大に燃え上がるトリポール軍港からなんとか逃げ出した連合王国の兵隊を拾った遊牧民族らとの取引は上々だった。以来、なかなか悪くないお付き合いができているとは思う。情報のやり取りに至っては、実に有意義なものがある。だが、物資となるとそもそも取り扱っていないらしい。ティーの入手を駄目もとで依頼した結果は、無情なものだった。駄目だろうとわかっていても、期待してしまうものなのだ。それを思い出して、大げさに歎く男性。この砂漠という事もあり、民族衣装をまとったジョンおじさんだ。ラクダに乗りながら、パカパカと遊牧民族らに交じってキャラバンを指揮。その姿は、ほとんど溶け込んでいて一瞥した程度では見分けがつかないほどである。ある程度、砂漠に精通した士官らを無事に引き受けられたのは幸いだった。まあ、不幸中の幸いというやつだろう。一部の遊牧民族を通じて、今後も取引が続けられるおかげで情報網の維持も可能になった。共和国側へのメッセージも無事送り届けられたのでジョンおじさんとしてもやっと一息つけた思いである。「・・・なにはともあれ、偵察は上手くいくようで何よりだ。」愚痴が言えるほどに、状況に余裕が出てきているとも言えるのだ。悪くない状況とも言える。「客人よ、我らへの約款は守られような?」「そこは確約できるとも。なにしろ、使い道のない機密費が腐っているのでね。」それでも、心底紳士としてのジョンおじさんは歎いている。ティーには事欠くのに、金銭には困らないから喜べと?そんなことで喜べるほど、ジョンおじさんは品位がないわけでもジョンブル魂が不足している人間でもないのだ。本当に泣きたい事態だ。ティーの代わりに金でも飲めとホワイトホールの連中はいうのだろうか。せめて、輸送するなりなんなりしてほしいところだ。外地にて働くエージェントの福利厚生にも配慮を求めたいところである。まったく、人の苦労を知らない連中ときたら。「そういうわけだ。今後も良い関係を保ちたいと私は思っているよ。」いろいろと思うところはあるものの、ジョンおじさんは優秀だった。遊牧民族のネットワークを活用した監視網と連絡網の整備。並行して、一部への武器供与によるゲリラ活動の支援。彼らが捕まえた帝国軍捕虜の受け取り約定と、同じく連合王国捕虜の引き受け協定。ともかく、帝国に対峙するために必要なネットワークをジョンおじさんは造り上げたのだ。その苦労は並大抵のものでなかったのはいうまでもない。平然とラクダに乗っているジョンおじさんだが、幾度となく大変なことに直面してきた。一度は、遊牧民の争いに巻き込まれて老骨に鞭打って自らライフルを手にすることまでやってのけた。キツネ狩りは得なジョンおじさん。でも、ラクダに乗って襲撃してくるラクダ騎兵はもうこりごりである。次からは、短機関銃かそれこそ機関銃でも持ってこようと思うほどだ。「我らとしても、貴様らからの物資は役立つ。」一方の部族長。彼も、取引自体には肯定的だ。近隣部族をまとめあげるための実弾が手に入るのは歓迎できる。なにより、重火器は基本的に外部から調達している以上ルートが確保できるのは大きかった。だが、ジョンおじさんと違い彼らは国家に忠誠を誓っている身ではないのだ。「しかし、我らの働きをみたいというならば戦士を貴様らも出すべきではないのか。」・・・故に、ジョンおじさん達が絶対に呑めない条件を突きつけてくることもままある。遊牧民族と連合王国のお付き合いは内緒で無くてはならないのだ。仮に、遊牧民族に紛れ込んでいることが露呈すれば遊牧民族のキャラバンにまぎれてあちこちに潜入できなくなる。なにより、秘密工作は秘密で無くてはならない。ジョンおじさんの苦労は続く。あとがき・・・主人公がでてこない?逆に考えるんだ。主役は遅れてやってくると!あと、ロメールとド・ルーゴの能力比較ロメール戦術:天賦の才あり。戦略:人並みド・ルーゴ戦術:秀才戦略:卓越した戦略家こんな感じ。あと、ジョンおじさんの暗躍にご期待ください。ZAP