「ふむ、では適切に処理するように。」シルドベリアの収容所。そこに送り込んだ労働者の適切な運用を所長に指示しつつロリヤはゆっくりと執務机に受話器を置いた。我ながら奇妙なことだが、ここしばらく悪夢にうなされていただけにやや眠気を覚えていたのだ。いや、ようやく寝られるようになったからこその眠気かもしれない。だが、眠気よりはどうも別の欲求も沸き上がってくる。結局、原因は心理的なものだったらしい。いつ横合いから帝国に殴られるかわからないという警戒感は、自分でも想像できない程だったようだ。帝国に宣戦を布告し奇襲攻撃を敢行して以来彼の気分は頗る快調であった。おかげで、書類の決裁がはかどりいつもよりも多くの案件を処理できたのは幸いだ。リストの半数を粛清し終えたのだから、当分は安泰だろう。眠気は紅茶で覚ますことにしてもう一つの欲求も満たすことをロリヤは考える。たまには、悪くない。やはり、今日は適当に市内を散策してなにか拾いモノを探してみるのも悪くはないだろう。いつの間にか彼はそのように考え始めていた。思いつけば、それを実行に移すことに特に躊躇いもないのがロリヤの特徴だ。「私だ。そうだ、車を出してくれ。」幸いにも、というべきだろう。同志書記長からの言いつけは、順調に終えていた。後は、前線の政治将校らから報告が上がるのを待つばかり。こればかりは、いくばくかの時間を要するだろう。「戻るまでに、きっちり処理を終えておくように。」そう判断した彼は、自分の趣味を優先することになんら躊躇いを覚えなかった。もちろん、部下らをきっちりと酷使しておくことも忘れない。今日中にしっかりと帝国との関係があったと思しき連中の処理を命じてある。できなければ、ツケをたっぷり払わせてやるつもりだ。「ああ、市内を視察する。いつものやつだ。」そうして、手配された車に乗り込み市街地へと車を流させる。途中、何ヵ所かの検問所に自分の手のものが歩哨として立っているのを見て大いに満足。党ナンバーの車を止める愚か者がいないどころか、きちんと敬礼し秩序を形成しているのは評価できる。後は、これでほどよい獲物がいれば満足なのだが。最近は忙しくて、碌に楽しめていないのだ。ちょっとばかり役得を求める程度だが、しかしロリヤにとっては貴重な時間。「あれはどうかな?・・・んん、微妙か。」もう少し、幼い方が自分の好みなのだが。ちょっとばかり自分の趣向には合わない。良い線をいっているとは思うのだが、それだけに違和感が惜しいのだ。「どうされましたか?」「いや、今一つだ。そのまま車を流してくれ。」街を歩く少女らはロリヤにしてみれば今一つ食指を動かすに足らないものばかり。後ろ姿に魅かれても、実際近寄ってみた感じではどうにも物足りない。少しばかり、河岸を変えてみるべきだろうか?そんなことを考えた時だった。市街全域が飛行禁止空域に指定されているはずの空。本来ならば、あるはずのない影が複数そこに浮かんでいる。「ん?何処の馬鹿だ?」故に。当然のことながら、ロリヤは規則違反を犯す愚か者を苦々しく見やる。これだから、空軍や魔導師というのは信用ならないのだ。そこまで考えて、ふとロリヤは狡猾な頭脳で疑念を覚えた。このあたりに、魔導師なぞ残っていないはず。魔女狩りを徹底して主導したのは自身である。こんなところに規則違反をやってのけられる魔導師などそもそも物理的に残ってはいないのだ。「馬鹿な!?」気がつけば。おもわず、彼は外見を取り繕う余裕もなく叫んでいた。そんなバカな話がありうるのかと。一体どうして?そんな埒も明かない疑問すら頭に浮かぶ。直後に、その疑問は解消された。ゆっくりと対地襲撃隊形とおぼしき隊列を構築する魔導師ら。いっそ、悠然とでも評するべき見事な動き。そして、ロリヤは知っていた。連邦軍にあれほど秩序だった行動ができるはずもないと。当然である。自分で粛清し、ガタガタにしたのだ。そうできないように。必然的に、答えは消去法で導き出される。敵だ。連邦に敵対する国家の軍だ。・・・そこまで考えが至った時、彼は今度こそ絶叫する。「帝国軍!?馬鹿な!ありえん!?」連邦モスコー市民の皆さま、ごきげんよう。初見になりますね。小官は、ターニャ・デグレチャフ。帝国軍にて魔導少佐を拝命しております。僭越ながら、帝国軍を代表して御挨拶申し上げることをご容赦ください。上から、しっかりと御挨拶するようにと命じられております故。ああ、どうぞ固くならないでください。楽な恰好のままで結構です。ええ、一言だけ申し上げさせてください。“良いアカは、死んだアカだけだと。”失礼、もう一言付け加えさせてください。“さようなら、さようなら。”『フェアリー01より、大隊各位。』普通に、夜間とはいえ長距離浸透襲撃を行ったところあっさりと入り込めるのが連邦クオリティ。ただぷかぷかとお空を飛んでいくだけの簡単なお仕事。一度も迎撃どころか感知もされないとはこれいかに。いや、さすがに魔導師反応を抑えるように隠密飛行を指示しましたが。遅かれ早かれ気がつかれるものだとばかり。ええ、連中の不手際を予見してはいてもここまでとは。逆に言えばレーダーや魔導反応の感知網が全く機能していない防御網などざるそのもの。どうも、地上の検問やら交通規制やらは念入りにやっているようですが。・・・どうみても、国防というよりは国内向けの統制。いやはや、恐れ入る思考パラダイムである。おかげで、モスコーまで本当に到着してしまったのだからなんと言えば良いのだろうか?部隊はコンバットボックスを形成。適切な間隔を保ちつつ、順調にモスコー上空へ進入中である。ここに至るまでに空で遭遇したのは、鳥か雨雲程度。長距離進軍とはいえ、魔導師の消耗度合いは程度が限られることもあってかなり余力がある。都市襲撃で散々暴れ回っても北へ離脱し旧協商連合圏の友軍支配領域へ逃げ込めるだろう。『所定の計画通り、第一中隊は私の直卒。他は、政府施設の強襲だ。』せいぜい、パフォーマンスに励むことにしよう。具体的には、ベルカに倣って敵国の首都上空をぐるぐると旋回してみるとか。後、相手はコミーなのでメンツを蹴っ飛ばしておくに限る。『第二中隊、貴様らはモスコーの広場で醜悪な銅像の解体。可能ならば、ミイラもだ。』ヨセフの銅像を蹴っ飛ばすのだ。おそらく、あの銅像ほど世界で倒された銅像も少ないのではないかと思うが。まあ、いい機会なので我が大隊もその歴史的偉業に仲間入りしようではないか。可能であれば、偶像崇拝の対象となっている廟のミイラもふっ飛ばしたいところ。まあ、それは可能であればで良い。『第三中隊、シルドベリアを遠望できるモスコーで一番高い建物の制圧と破壊を任せる。秘密警察は全て排除だ。』地下からでもシルドベリアが見えるという旧保険事務所。ここの機密書類を焼いてやることは、実質的に一番連中が嫌がることをできるに違いない。秘密警察の面子をつぶすのは、報復も怖いのでできれば目撃者を全部消してくれることを願ってやまないところ。『第四中隊、クレムリン襲撃だ。遠慮無用。やれるだけやりたまえ。』あと、米軍は皇居爆撃禁止だったらしいけど我々には特にそういう制約もない。ドイツ軍も英王室への攻撃には制限を設けた?関係ない関係ない。我ら帝国軍。さあ、クレムリンの熊どもをぬっころしてくれたまえ。全資本主義者が夢見たシチュエーションである。まさに、今の私に羨望することだろう。筋金入りの反共主義者にしてみれば、感嘆し同時にぜひともその場に居合わせたいと願う光景でもあるに違いない。『『『了解!』』』さすがに、部下らの戦意も頗る旺盛である。いくらコミーの醜悪極まるお粗末な防空網とはいえ防空網は防空網。突破し首都を襲撃できることは彼らにとってもうれしいに違いない。あまり、はしゃぎすぎて帰る時間を忘れられて困るか。ターニャはそのことに思い当り、一応部下に釘をさしておくことも忘れない。これぞマネジメントである。『撤収は信号弾及び広域通信にて指示する。』適度に破壊し、適度に馬鹿にする。そんな襲撃が目的なのだ。東京空襲もほとんど米帝様のプロパガンダ。国家そのものがプロパガンダの連邦にはやはり一番有効な攻撃である。連中のことだ。主戦線に増援を送り込むよりも、再発防止と責任のなすりつけ合いで貴重な時間を浪費してくれることだろう。総括なり、自己批判なりしてくれれば幸いだ。そのためにも、目的を再度部下に周知徹底する。『本作戦の目的は、連邦の面子を強かに蹴り飛ばすことである。』帝国軍の首都侵入を許す。連中のメンツは丸つぶれにちがいない。当然、隠匿や隠蔽を図るのだろうがそれをさせないための襲撃行為。威信のかけられた建造物や象徴をことごとく吹っ飛ばしてやればいいわけもできまい。『連中に、生まれてきたことを後悔させてやろう。』『『『はっ!』』』『よろしい、作戦行動を開始せよ。』コンバットボックスが4つに分かれていく中、ターニャはゆっくりとモスコー中心部へと中隊を進出させる。連邦の空で帝国軍が凱旋式の様に編隊飛行を繰り返す。わざわざ、手元の演算宝珠で広報用に画像を記録しながらである。モスコーとわかるように市街地と部下らをカメラに収めながら、ターニャはゆっくりと旋回を始めさせる。同時に、ふと思いつく。『第一中隊の諸君、歌おうではないか。帝国の国歌を。』『はっはっはっはっはっ、素晴らしい。素晴らしいお考えです少佐殿。ぜひ増幅してやりましょう!』部下からの反応も好評。大変、結構。カラオケ接待はつまらないことこの上ないが、コミーの頭上で奴らを馬鹿にする歌ならば大歓迎である。事態を良く理解できていないであろうモスコー諸君のために、わざわざ音量を増幅させる術式を展開。さながら、オーケストラを指揮するような気分でガンガン帝国国歌をコミーに聞かせてやる。『フェアリー06より、01。シルドベリアが良く見えます!我らもご一緒したいのですが。』『大変結構。シルドベリアまで届けとばかりに熱唱したまえ!』部下から景気の良い報告。空から見やれば、盛大に燃える一角からだ。コミー共、さぞかし泡を吹いていることだろう。それを考えただけで、気分爽快だ。勲章モノの功績に違いない。帰還すれば、間違いなく叙勲の申請をしてやらねばならないだろう。どうしたものだろうか。勲功を賞する以上、参謀本部に相談するべきやもしれない。どちらにしても、信賞必罰の信念が大切だ。いろいろと考えながら、威圧するように爆撃隊列を形成。適当に目立つ国旗やら党旗やらを吹っ飛ばして遊ぶ。基本的に、襲撃行動とは時間を定めてやるモノ。もちろん新手の増援等があれば、その時に対応を変えねばならないが。『フェアリー09より、01。申し訳ありません、クレムリンの防御に手古摺っております。』とはいえ、突破に難渋する程度であれば増援を投入したほうが効果的。限られた時間内で最大限の戦果を上げるためには、できる限り暴れさせるのが一番。『06、第四中隊の援護だ。』『了解。直ちに。』幸い、第三中隊はすでに所定の目的を達成している。戦果拡張を行わせたいところだが、第四中隊の目標を破壊することが優先されるべきだろう。ターニャは素早く計算し、手すきの第三中隊の投入を決定。同時に、万が一に備えて自分の率いる中隊も少し彼らに近い位置へと動かす。第二中隊を孤立させない程度の距離だが、クレムリンの事態に即応できるように配慮。『04より、01。ヨセフおじさんを粉砕せり。繰り返す、ヨセフおじさんを粉砕せり。』『ご機嫌かね?諸君。』『気分爽快ココニ極マル。』『大変結構。では、市街地に旗でもつっ刺して帰ることにしよう。』そして、第二中隊もあっさりと目的を達成したらしい。気分爽快とは大変ご機嫌である。羨ましい限りだが、ヨセフ像を蹴っ飛ばせば確かに気分爽快になるに違いない。まあ、一番メンツにかけて警備が厳重かと思っていたがそうでないならばちょっとばかり冒険してみても良いだろう。例えば、広場ど真ん中に硫黄島らしく帝国旗を掲げてみるとか。マリーンに倣うのはちょっとどうかと思う?いやいや、良いものは良いものなのです。“様式美”というものは、要するに美しいものである。哲学者らの議論を待つまでもなく、打ち倒されるコミーというのは素晴らしいのだ。はためく帝国旗をコミーの心臓部に掲げる。政治的インパクトは絶大。冒すべき危険は、広場の制圧が完了した今ならばそれほども無し。つまり、安全に手柄をゲッツする大チャンス。陽動としてみれば、これほどまでに完璧な陽動もないだろう。きっと、ゼートゥーア閣下にもご満悦いただけるに違いないと確信できる。『旗でありますか?・・・手持ちがありませんが。』残念なことに、部下からは手持ちの旗がないという解答。だが、心配は全く無用だ。腹案もなく提案するほど、段取り力がないわけがない。『心配ご無用。入手先に心当たりがある。』コミーの習性を知悉していれば、柔軟な対応が可能になるのである。例えば、コミーはプロパガンダが大好きで映画が大好きで、ついでに検閲が大好きだということがある。当然ながら、コミーの映画は検閲されて政治的に正しい映画となるのだ。つまり、ここしばらくでいえば反帝国的なプロパガンダ。・・・邪悪な帝国軍の邪悪な国旗もなしに映画を撮影できる物ではない。連中のいうところの正義の軍隊としてのコミーの赤旗もたくさんあるだろう。『一体どのような?』『コミー御自慢の映画撮影所だ。連中、反帝国プロパガンダに使う国旗くらい持っているだろうよ。』当然、山のように燃やすための国旗やらなんやらがあるに違いない。撮影用機材もそこから拝借できれば最高だ。コミーの代わりに、我々がプロパガンダ映像を用意してやろう。コミーの機材で。まあ、燃やされるのは帝国の国旗ではなく連邦の国旗と変更。コミーの赤旗だ。きっと、燃やすと映える筈だ。その光景を想像するだけ、もう十二分以上にわくわくしてくる。愉快爽快というやつだろう。ついでに、コミーの広場に我々が国旗を掲揚してやるのだが。ああ、ジャーナリストを連れてこなかったことが実に悔やまれる。いくら急だったとはいえ、報道関係者をこの辺で捕まえるわけにもいかないし全く度し難い。次善の策は、やはり自前の機材を調達することだろう。『・・・確かに。御尤もです。』『旗と撮影機材をデリバリーしに行く。それまで、適当に廟でも壊して置きたまえ。』『了解です!お待ちしております!』さて。映画撮影所で文化交流としゃれこむことにしよう。コミーに文化があるかって?安心したまえ。内陸国にも海軍が存在するのだ。コミーにも文化が存在しても何らおかしくはない。双眼鏡で戦況を覗きこんでいたロメール将軍は、舌打ちしたげな表情を引っ込めると肩をすくめた。戦局は、やや帝国軍優勢と言える状況だがどちらかというまでもなく消耗戦に近い。手持ちの戦力をすりつぶして得る勝利には、次がないのだ。当然、不本意だろうとも敵に打撃を与えられただけで良しとしなければ。「・・・突破しきれないか。仕方ない、撤収だ。」未練がましいとは思う。だが、突破できない以上正面からのぶつかり合いを続けたところで泥仕合。「ロメール閣下、よろしいのですか?このままやれば・・・」「水が持たない。なにより、こちらの損耗が増すだけだ。」参謀らは、取りあえず勝てるということに拘泥しているがロメールに言わせれば勝利条件が違うのだ。損耗の抑制が南方大陸においては全てに優先される。なにより、兵站の水がこれ以上は危険だ。今ならば、後退しても後方まで持つ。だが、長引かせれば撤退しようにも水がなくてにっちもさっちもいかなくなるという可能性もあるのだ。引き際もここでは重要となる。限られたリソースの配分は全てを左右しかねないのだ。「とりあえず、打撃を与えたことで良しとしよう。いつかは、ド・ルーゴ氏の首を取りたいがね。」「はっ。」しぶといことに、いまだに自由共和国軍の抵抗は粘り強く続いている。それどころか、日に日に敵戦力が増しつつあるのではないかというのがロメールの所見だ。悪いことに、ド・ルーゴの組織した反帝国組織のレジスタンス活動とやらも散見されつつあると聞いた。本国は、占領政策上もド・ルーゴの排除を切実に望み始めている。だが、相手もさるもの。徹底的に決戦を回避しようと試みつつ並行してこちらの損耗を拡大させようとしている。あまり、長引かせれば本当に叩き潰せなくなりかねない。とはいえ、末端までその意図が徹底しているかどうかはまた別の問題だろう。なにより共和国軍の植民地編成組にまで周知徹底できているかは疑問だ。仕掛けてみてもよい。気がつけば、一仕掛けを思いついていた。「よし、撤収する。ただし、伏撃の用意をしつつ敵が釣れれば包囲せん滅だ。それ以外は速やかに撤収するぞ。」「は?・・・仕掛けるおつもりですか。」引かれるのではなかったのですか?そんな参謀らの疑問を、少々もどかしく思う。アレならば、言わなくとも理解し呼応して対応してくれた。「もちろんだ。連中に我々が慌てふためいているように見せかけろ。」釣れるかどうかは微妙かもしれないが、やってみるだけの価値はある。一部の部隊でも突出し始めれば、後は戦局の流動性に釣られて穴からぞろぞろと連中も出てくるだろう。逆に、警戒されれば後退が安全にできるという事でもある。要するに、やってみて損がある作戦ではない。「了解です。」取りあえず、眺めているロメールの前で帝国軍は後退を開始。最後尾の連中は、盛大に混乱する様子を偽装しながら後退中である。遺棄車輛に欺瞞したブービートラップ等すら仕掛ける余裕がない風を装えと指示済み。おかげで、敵は警戒行動を取らずに進軍できるので楽だろう。「さて、どうしたものだろう。釣れれば楽なのだがなぁ。」釣れるかどうか。さて、どうなることかと考えていたロメール。もちろん、出て来てくれるに越したことはないのだがなぁと思いつつ冷めた珈琲を啜る。状況次第だが、撤収が成功すればそれも悪くはない。自分の手筈に何か問題はなかっただろうか。最善を尽くしているつもりでも、やはり見落としがないだろうか。そんなことを考えながら、ロメールは自分の行動を振り返り一先ずは納得する。少なくとも、自分にできる最善は尽くした。後は、結果が出るのを待つだけだ。「・・・やりました!閣下、連中のこのこと出てきています!」「よし、軽く揉んでやろう。魔導師はまだ出すな。引き付けるぞ!」そして、結果は吉とでる。軍事的浪漫に逸ったのか、単純に理解できていないのか。どちらにしても哀れなことだが共和国軍部隊が防衛陣地からノコノコと姿を現し始める。少なくとも、勢いだけはあるようだ。帝国軍を撃退したという思い込みが、彼らの士気を高めている。「中央の部隊で時間を稼ぐ。その間に、部隊を再編。」もちろん、そんな連中とまともにぶつかりたいとは思わない。即座に、対応を検討しロメールは部隊の配置を動かさせる。ある程度後方に引き始めている部隊の指揮系統再編を行わせるための時間稼ぎ。「撤退を装う。主力部隊は一度敵との距離を取らせろ。」どちらにしても、遅延戦闘に努める以上できるだけ鋭気を逸らすに限るだろう。同時に、相手は頭に血が上った連中なのだ。まともにぶつかることは、無意味極まりない。だが、逆に言えば士気さえ挫けば鴨同然。自分達が包囲されているという事実を理解した瞬間に今度は浮足立つことだろう。連中が動揺したところを包囲して袋のねずみにしてやるつもりだ。「迂回機動でありますか?」「その通り。撤退するように偽装して包囲してやろう。」視野狭窄中の連中だ。姿が見えなくなった部隊の事を逃げたと勝手に判じてくれることだろう。其れゆえに、甘い脇を強襲するという戦術が通用する。やはり、自由共和国軍とやらはド・ルーゴのように経験豊富な指揮官は乏しいらしい。奴が直卒していない部隊ならば、ここまであっさりと小手先の戦術で釣りだせる。弱いところを徹底して叩くのは戦争のやり方に過ぎない。申し訳ないが、そこを徹底的に叩かせてもらうことにしよう。「では、魔導師はどう動かしますか?」「ああ、魔導師らは中央部隊が崩れかけた時の補強兼追撃用だ。」そこで、魔導師部隊に指示を出していないことを思い出して命令を発令。自分では注意しているつもりでも随分と気を張っていたのだろう。いつの間にか、言わなくとも魔導師部隊が動くという前提で考えてしまっていた。「かしこまりました。直ちに。」「・・・やれやれ、やはりデグレチャフは扱いやすかったなぁ。」いわずとも、こちらの意図を理解し最善の戦術的行動を取れる指揮官だった。使い慣れれば、これほど使い勝手の良い士官もいるものではない。ようやく、お互いに呼吸もつかめてきたので連携も上手く行き始めていたのだが。「返してもらえれば、楽になるのだが。」本国に召還されてしまうとは。つくづく、自分の手札は上の都合に掻き乱される。それが軍人の定めとはいえ、やはり歎きたくもなるというもの。特に、優秀な魔導師は喉から手がでるほどに欲しいのだ。「まあ、連邦とのごたごたがありますからな。難しいでしょう。」とはいえ、それはどこも同じなのだ。だからこそ、上はアレを引き抜いて本国に持って帰っているに違いない。情勢の悪化を勘案すれば、まあ妥当と評するべきだろう。遊撃戦が得意という事も、対連邦ということでは評価されるべき要素。上の判断は、忌々しいことに仕方ないと許容せざるを得ない。「やれやれ。まあ、連邦にお悔やみ申し上げることにしよう。」「はっ?」「私だって、あの大隊を相手にしたくはないからな。」まあ、ここはせいぜいデグレチャフ少佐の武運を祈ることにしよう。祈るまでもない気がするのは、さすがに信頼しすぎか。まあいいさ、とロメールは気分を切り替えるべく飲みさしの珈琲を飲み干す。砂漠で飲む珈琲はよいものだと思う。気分が切り替わるし、何よりアルコールと違って常飲しても非難されない。まあ、アルコールはアルコールでよいものなのだが。ともあれ、仕事だ。「なるほど、御尤もですな。」「さて、そろそろこっちも自分の仕事に取り組むか。」さしあたり、こっちはこっちで共和国に止めを刺さねば。あとがき状況説明((o('∇'*)oドキドキo('∇')oワクワクo(*'∇')o)) ハヤクコミートバシタイナァー↓サンボウホンブ]_・)Go!Go!Go!↓εε= κ( ` ▽´)κヒャッハー>Oージンジ様うーん、ルーさん入れると帝国が勝つ気がしてしまって・・・。あと更新速度は当分がくっとなると思いますが、ご容赦ください。ZAP