暗澹たる思い。許されるなら今にでもワインに逃げたい気分とはこのことだろう。そう思うのは、自分だけではあるまい。心中で密かに、されど盛大に溜息をつくとレルゲン大佐は用意されている席に着いた。左右に並んだ顔の痙攣具合から察するに、誰もが不承不承この場にいることは良くわかる。「揃ったな?よろしい、始めよう。」通常、査問会議や軍法裁判は憲兵の管轄だ。しかし、今回の査問会はわざわざ参謀本部の重鎮らが自ら査問官を務めるという異例尽くめ。査問委員長に至っては、名目だけだろうが参謀総長が充てられるという具合だ。実質的に委員長を務めるゼートゥーア閣下からして、参謀本部の大黒柱と評されるほど。とはいえだ。レルゲン大佐は忸怩たる後悔の念に駆られてやまない。なにしろ、幾度となくその危険性は示唆されていたのだ。其れゆえに。自分は、よほど気を付けているつもりだった。だが、見誤っていたというほかにない。・・・第一報を耳にした時はデグレチャフを陸大に入れたことをこれほど後悔したこともなかった。レルゲン大佐は、それとなく気分を切り替えつつ眼の前の事態に気持ちを向け直す。さしあたり、査問委員会がデグレチャフの経歴を照会。其れに応じて、各種資料が委員に配布されると同時にデグレチャフに対して公的記録が記載される旨の通達。レルゲン大佐や他の参加者らがいかなる心情を抱えていようとも、とりあえず規定通りに査問会は進められる。良い機会なのは間違いないのだ。少なくともその真意を把握し、理解できる好機であるのは間違いないのだから。「以上に間違いはないな?」「はっ、ございません。」賞罰を含めた経歴。その確認は、あくまでも事務手続き。いわば前座にすぎない。「結構。では、少佐。貴官に対して解答を求めたい疑義がある。」「はっ、お伺いいたします。」本番はここから。集められた諸官の関心もそこにある。いや、そこにしかないと言えようだからこそ。だからこそだろう。突然、ゼートゥーア少将は書記官に退出を命じた。同時に、部下の将校に命じて如何なる者も会議室に近づけないように厳命。居並ぶ諸官に対しても、ここで耳にしたことは一切口外無用と睨みつけてきた。もちろん、否応など言えようもない。誰もが、戸惑いつつも同意する。「・・・本音でいこう。これは、何だね?」そこまでして。初めてゼートゥーア少将は手にした一式の報告書を地面にたたきつける。つい先日、デグレチャフ少佐によって参謀本部に送られたソレ。まともな政治感覚を持つ将校ならば、顔面蒼白とならざるを得ないようなソレだ。閣下の怒りを表すかのように、その紙束は勢いよく地面にぶちまけられヒラヒラと紙が舞う。大凡、軍に奉職して以来初めてみるような激怒の発露だ。訓練小隊付き軍曹とて、ここまで顕著に怒りの表情を表すことか。はっきりと言って、これほど人間が激怒できるのかと思うほど。だが。気がつく者は、さらに驚嘆しただろう。・・・デグレチャフ少佐は、それを唖然と見据えている。淡々とでもなく、否定されて激怒するでもなく。あの、あの戦闘人形が。人間の形をした化け物が。まるで、驚愕しているかの如き表情を浮かべているのだ。「答えたまえ、少佐。貴官は、いったい如何なる理由によりて連邦首都を蹂躙した?」「閣下、ご質問の意図が小官には理解致しかねます。」質問の意図は明瞭。はっきりと言ってやり過ぎなのだ。いったいどのような意図から、このように連邦の面子を粉砕し蹂躙するような攻撃が行われたのか?早期講和を座礁させるかのような行動に申し開きはないのか?誰もが、質問の意図をはっきりと理解した。にもかかわらず。にもかかわらずだ。質問の意図を理解しかねるだと?思いもよらないデグレチャフ少佐の解答。それによって思わず、誰も彼もが一瞬凍りつく。こいつは、デグレチャフ少佐は何を言っている?眼の前の存在が急に理解しがたい化生に思えてならない。一体、今何を口にした?「・・・何?理解しかねる?文字どおりの意味だ少佐。何故、連邦首都を蹂躙した?」ゼートゥーア少将すら思わず一瞬戸惑わせる解答。心理戦だとすれば、これほど見事な一撃はないだろう。密かに、本当に密かにだがレルゲン大佐は舌を巻く。居並ぶ将校の雰囲気が掻き乱されていることくらい、彼にとって容易に理解できた。誰もが一瞬のうちに混乱と困惑に突き落とされたのは間違いない。だが、戸惑いつつも閣下は追求を続けられる。そう。何故、あれほどやり過ぎたのか?「閣下、小官の受諾した御命令は連邦首都を直撃せよでありました。小官は参謀本部の命に従ったにすぎません。」「・・・本気でいっているのかね?」「もちろんであります、閣下。」だが、その点に関してデグレチャフ少佐の解答は堂々たるものだった。一切後ろめたいことがないとばかりに胸を張って誇らしげに解答してくる。容姿だけを見るならば、初めてのお使いを果たした子供が自信満々に胸を張るようなもの。頼まれたジャガイモを間違いなく買ってきたよと言わんばかりの雰囲気だ。・・・まるでこの場に似つかわしくない雰囲気。「では、貴様の行動は参謀本部の命令によって行われたというのか。」良く見ると。ゼートゥーア少将のこめかみが痙攣ぎみに。いや、見るまでもないことか。誰だって、今の閣下の真ん前に立ちたくはないだろう。あのゼートゥーア閣下が全身で激怒の意を露わにしているのだ。「はい、閣下。東部主戦線援護のために、小官に命じられた陽動任務を遂行いたしました。」「・・・自分の起こした事に気がついていないのかね?」火薬庫で火遊びする連中を眺めるのはこんな気分に違いない。いつ爆発するのかとはらはら。ドキドキというよりも、胃がキリキリする感覚だ。今日ここに居合わせた士官は、その身の不幸を嘆くしかない。運が良ければ、ウィスキーでも飲んで忘れるほかにないだろう。・・・忘れられるのならば、だが。「はい、いいえ閣下。小官は主戦線援護として十分な陽動を敢行したと確信しております。」聞かれたことが、質問の意図が理解できないとばかりに応える少佐。後ろめたいことは一切なさげ。それでいて、何故上官に問い詰められるのかを全く理解できずに困惑する表情がそこには貼り付いている。「少佐、私の質問にそれ以上何か応えることはあるかね?」対する少将。これ以上、怒りという感情を一個人の顔面に顕現させるのは不可能という水準まで怒りを満ち溢れさせている。できることならば、半径100メートル圏内には絶対に近づきたくない状況だ。こんな時にすら、そんなことが頭をよぎるものか。・・・レルゲン大佐は頭の片隅で、どことなく思考が逃避しつつあるのを実感しつつもそれを禁じえないでいた。「閣下、先ほどから申し上げておりますが小官にはそれ以上にお答えすることはありません。」「・・・・・・少佐、私は貴官の戦略眼を高く評価している。」ほとんど、ほとんど驚嘆するべき自制心でゼートゥーア少将は辛うじてながらも暴発を抑え込んだ。鋼の精神という形容すら、熔解させしめんほどの激怒でもってしてである。おそらく、その一事をもってして後世の史家からは賛嘆されてしかるべきそれだ。「光栄であります閣下。」そこで、しれっとのたまえる少佐も後世の史家が特筆に値するのだろう。・・・正直に言おう。言葉が通じるという事が、これほど不気味だと思ったこともない。一体、目の前の少佐は何を意味しているのか理解の範疇外だ。「本作戦の意義を申告したまえ。」「はっ、東部主戦線の援護として最適でありました。同時に、連邦に消耗を強いる第一歩となったと自負しております。」言葉を交わせば、答えが得られる?そんな馬鹿なと叫びたくなる世迷い事だ。一体、どこをどうすればそんな答えが出てくると問い詰めたい様な解答。やれと言われたからやったに過ぎないという態度。・・・そんな事を許可した覚えはないのだが。いや、それ以前に。少しも後ろめたく思っていないどころか、それを堂々と態度に表わすこいつは何だ?思わず、咄嗟に痛み止めを欲したとしてもソレは決して精神が弱いということではないだろう。これが。よりにもよって、こんな精神性の軍人が一個魔導大隊を統率する化け物なのだ。銀翼を柏で持っている代物。正に英雄とでも形容するしかない戦果。されども白銀という二つ名は、おそらくあまりにも実態から乖離している。優雅な白銀というよりは、返り血で錆びついた錆銀とでもいうべきおぞましい存在。「結構だ。貴官に早期講和の可能性を聞きたい。」「論外であります。そもそも、検討すら無為であるかと思われます。」迷いどころか、躊躇なき解答には隠しようもない自信が満ち溢れている。まったく、こんな事態に対して確信を持って答えられるとは。よほど先の事も見えない救いようのない馬鹿か、狂った現実に適合した狂人だけに違いない。そこまで考えてようやくレルゲン大佐は真に恐怖する。現実が狂っている。で、あるならば狂っている現実の中では奴が。狂っているデグレチャフ少佐の方が理を有するのではないのか?すなわち、逝かれた世界で狂った理屈を解するのではないか、と。「理由は?」あるいは、その可能性を考慮すればこそゼートゥーア少将は怒りを抑え込めたのやもしれん。そう判断したレルゲン大佐は咄嗟に気を引き締めて合理性を検討し得る程度の気構えを取り戻す。先入観を捨て、単純に理解しようという姿勢。もちろん、彼とて確固たる個人であり完全に事象を理解できるとまでは思えない。それでもだ。一から違うパラダイムの世界を理解しようという努力ができたこと。それは、少なくとも帝国高級軍人の知的柔軟性を限りなく良い形で発露したと言える。「まず、前提があります。連邦は我が国に対し、我々が知る限りにおいて開戦を決断する合理的な理由が存在しません。よろしいでしょうか?」「続けたまえ。」それは、当然の疑問。参謀本部の俊英ならば、誰でも『何故!?』と叫びかけた疑問。かの国の開戦理由は、今なお不明瞭な点があまりにも多い。そこに疑問があることは、良い。少なくとも、帝国軍参謀本部をしてもかの国の合理的な開戦理由には思い当たらないのだから。「そうである以上、我々が知る限りにおいて我々がかの国に交渉できる点すら不明なのです。」故に。デグレチャフ少佐は単純明瞭な解答を導き出す。不明である以上、我々がそれでもって交渉することは不可能。なにより、根本原因が分からない以上究明しようがない、と。「故に、早期停戦のための交渉はまずもって困難極まります。」結論としての、交渉の実現困難性。いわれずとも、その程度は誰にでも理解できる。しかし、ただ実現されないだけで困難と形容されることのなんと多いことか!「その困難極まる可能性を不可能としたのは貴様ではないのか?」なればこそ。参謀本部は可能な限り最大限の交渉チャンネルを通じて連邦とのコンタクトを試みた。外務省も他の省庁も、帝国のありとあらゆる機関が、全てのチャンネルで試みたと言ってよい。その努力をほとんどたった一撃で以て葬り去ったのが、あの首都直撃だった。面子を蹴り飛ばされ、踏みにじられ、木っ端みじんにされた連邦は引けなくなっただろう。高らかに高揚した我が国の戦意は、そう簡単に矛を収めることを許容しない。勝利を求めて、さらなる戦果を求めて、世論が高まっている。その事態を生み出したのは、デグレチャフ少佐の行動ではないのか?少なくとも、責任の一端はあるのではないか。「はい、いいえ閣下。」当然というか、自明というか。その解答は、何故か予想できた。後に、居合わせた将校と語ったレルゲン大佐は誰もがそれを予想していたことを知る。「・・・聞こうか。」ほとんど未知の感情。聞きたいという思いと、聞きたくないという悲鳴の様な感情。軍に入った時から、国家のために戦う事は覚悟していたつもりだった。だが、これは何だ?この目の前で淡々と解答する軍人とは、これが国家の望んだ軍人の最終形態だとでもいうのだろうか?「閣下、連邦は我々とは異なる視点で世界を見ております。本質的に排他的かつ被害妄想に至る傾向が強い国家です。」「・・・それで?」分析の視点は明瞭。少なくとも、連邦独特の世界観について彼女は専門家として既に参謀本部内で一定の名声を確立済み。いや、戦略家としてというべきだろうか。総力戦やそれに伴う兵站の新概念は参謀本部を打ちのめしている。消耗によって敵国を出血死に追い込むという名誉も人間味もなげうった戦略は恐ろしく有効に機能した。共和国軍野戦軍撃滅と出血死に伴う軍崩壊はみているこちらが唖然とするほど。断首戦術の成功や、ライン戦線での活躍は戦略家としての手腕のみならず卓越した野戦将校であることも証明している。「彼らが行動を起こす最大の理由は“恐怖”であります。軍事行動とてその例外ではありません。」その最も戦場の空気を理解する将校がだ。その鋭敏な戦略眼で、居並ぶ軍の俊英を圧倒する才能がだ。仮に、真実に迫っていたら我々はどうすればよいのか?「つまり、どういう事がいいたいのかね?」「閣下、帝国の存在が連邦にとって最早“恐怖”なのであります。である以上、連邦が矛を収めるには我々が滅ぶしかありません。」・・・それは、つまり。「早期講和はありえないと?」思わず、口を挟んでしまう。大戦争。どこまでも、拡大してく大戦争。頭をよぎるのは、何故眼の前の少佐があどけない笑みを浮かべているのかという疑問。何故笑えるのだろうか?何故、そこまで穏やかにこちらに微笑む?「はい、大佐殿。」まるで、良く我が意を得てくれた。そう言わんばかりの口調で紡がれる肯定の答え。それが、事実でないと思いたい。しかし一方では、それが事実であるのだという考えが何処からともなく湧いてくる。おぞましい大戦争。また、またラインの様な地獄を造れというのか?「講和の成立自体絶望的であります。我らが滅ぶか、奴らが滅ぶか。もはや、二択に一つしかありえません。」おお、おお、神よ。何故、何故貴方はこのような事態をお許しになられるのですか?「・・・10日やろう。」思わず言葉を失ったレルゲン大佐。いや、ほとんど全ての将校がそうだろう。それを視界の隅にとらえつつ、ゼートゥーア少将は辛うじて口を動かした。ほとんど執念と意地で紡いだ言葉。「はっ?」「10日やろう。レポートにまとめて戦略研究室に提出したまえ。ソレ如何で裁決を出す。」戦略眼は狂っていようとも確実なのだ。ならば、それを見極めてやろう。狂気の世界を狂気で分析したソレを見て使い道を決める。もはや、腹は括ったのだ。毒を食らわば皿まで。今更、今更後戻りもできまい。モスコーの地下壕薄暗い地底の会議場に集まった面々はたった一人を除いて顔面蒼白となっている。まあ、当然だろう。独裁国家で、偉大なる独裁者の面子を蹴り飛ばされた責任者となれば誰だって生きた心地もしまい。まして、事態に心底激怒する同志ヨセフ書記長とニコニコ笑っている粛清執行官のロリヤ同志だ。2人を見れば死んだと早とちりしてもおかしくない程に、場の空気は凍りついている。だが。予想外なことに、誰もが覚悟していた粛清劇は幕を開けることなく終焉する。「同志書記長。私に案があります。」「ふむ、何かね?」てっきり、粛清なり、処分なり、処刑なり、処理なりを言い出すに違いない。誰もが、責任者となることを恐れて凍りついたその時。同志ロリヤは誰もが予想もしない言葉を続けた。それは、同志ヨセフ書記長にとってすら予想外となる言葉。「目には目を、歯には歯を。魔導師を使いましょう。それに、将校も。」思わず、書記長ですら一瞬呆けさせる発言。粛清でも、責任者の処断でもない実に建設的な提言。よりにもよって、あのロリヤから!鬼畜と同僚の政治委員からすら密かに思われている彼が。よりにもよって、あのロリヤが。建設的な提言をするとは、まさかありえるのだろうかと思わず何人もが人前にもかかわらず動揺するほどだ。もしも、もしもここが眼をそらせばそれだけで反逆の意とありと断じる同志ヨセフ書記長の前で無ければ。誰もが隣の人間と向き合って、思わず正気かとお互い目配せしてしまうほどの違和感。それほど彼の態度は衝撃的だった。「・・・同志ロリヤ、本気で仰っているのですか?奴らは、反革命分子ではありませんか!」辛うじて、精神の動揺をある程度抑え込んだ党員から出されるのはイデオロギー上の発言。少なくとも、何も言わずに黙りこんで策謀していると思われたくないがためのもの。列席者にとってありがたいことに、少なくとも発言は全員の頭を再起動させる契機となる。「逆に考えたまえ。反革命分子同士、殺し合わせればよろしい。弾の無駄が省ける。」だが、同志ロリヤの解答は明瞭だった。一瞬の躊躇いもない実に明確な考え。そこには、まったく躊躇いが感じられない程だ。まさか、同志書記長の御意向でもあるのだろうか?ここで、この独裁国家でこれほどまでに自分の意志だけで発言し得るのものか?思わず、誰もかれもが疑念に駆られるほどの自信に満ち溢れた態度。「いつ裏切るかもわからない連中ですぞ!」「それを監督するための政治将校ではないのかね?」これが。これが、つい先日まで、その監督する政治将校に率先して告発させて大半をシルドベリアの収容所か銃殺していた男の発言だろうか。まるで、何を自明のことを聞いているとばかりに聞き返してくる姿からは想像もつかない程だ。「・・・いや、反対です。危険すぎる。」どう答えるのが正しいのだろうか?ここに至っては、全員が考えざるを得ない問題となる。ここで同志ヨセフ書記長の勘気を被れば、一生が即座に閉じることになりかねない。いや、少なくとも破滅は避けられないだろう。どう答えるべきか。いや、そもそも、同志ロリヤの真意は何処にあるのかを探らねばならない。彼は、いや、書記長は何を考えている?「危険すぎる?今、危険すぎると言ったが、では次は襲撃を阻止できるのだろうね?」「・・・なんですと?」「責任者は現有戦力で十分とでもいうつもりかね?だとすれば、今回阻止できなかった責任を私は問わねばならないのだが。」だが、のんびりと思考している時間的猶予は一瞬で吹き飛ばされた。・・・反対すれば、現有戦力でモスコー防衛を押し付けられる。押し付けられるが、それが可能だというならば今回の原因は怠慢となるだろう。そうなれば、可能と発言したにもかかわらず出来ないのは怠慢と受け取られる。待っているのは、良くて収容所だ。「同志ヨセフ書記長、どうでしょう。ここは、皆の意見を聞きたいと思いますが。」「そうしたまえ、同志。・・・帝国に勝つためだ。手段は選らばんでよい。」個々に至って、列席した政治委員達は覚悟を決めた。他に選択肢はないとも言えよう。叛徒として自分達が粛清していた連中を、国家の敵と断じた連中を。外敵と戦わせるために解き放つ決断に同意するしかないのだ。そうでなければおそらく、いや、間違いなく自分達の誰かが国軍を破壊した不穏分子として粛清されかねない。・・・あるいは、すでにめどが付けられているのやもしれないのだ。『全会一致』その日。連邦の政治局は全会一致で持って国家の敵と断じられた人々の釈放と軍部への編入を決定。躊躇なく、彼らは決断し行動した。帝国に対抗するために、彼らの行動原理である“政治”すら捻じ曲げて。まあ、原理原則というのは最優先事項に従うものである。連邦において、それは極めて単純かつ明瞭であった。粛清されるか、従うかである。その二択以外に、連邦に選択肢は存在しない。いや、それどころか二択あるのは幸福な部類ですらあるだろう。なにしろ。大半の連邦国民は、上によってそれを決められるのだから。みなさま、秋の夜長にいかがお過ごしでしょうか?小官は、日々の無聊とは無縁に執務に勤しむ日々であります。健全なる精神は、健康な肉体による。そう箴言が申すように、日々の適度なワークは精神衛生上大変望ましい効果をもたらすかと。大変厚かましいことではありますが、私も適度なワークによって精神の健全性が保てていると実体験を述べさせていただきます。申し遅れました。小官は、ターニャ・デグレチャフ魔導少佐。現在、参謀本部戦略研究室付きの特命将校を拝命しております。ええ、大隊の休養再編にともなう一時的な人事配置であります。まあ管理職の悲哀と申しますか、帰国後会議にかけられてどうも理解しかねる審問を受けまして。どうやら、私の部隊が行った首都直撃に対して上司がお怒りの様子。もちろん、私とて社会経験や軍隊の規律を弁えている良識人。自分が間違っているかもしれないし、上の人には上の人なりの怒る理由があるのではと考慮して適切な対応をしました。まあ、今一つ何故ゼートゥーア少将閣下がお怒りになるのか理解できなかったのですが。・・・考えてみるに、蹂躙した事と戦略眼の観点から激怒された。ふむ、そのパラダイムと上が求めていた早期講和の可能性。これを検討することが10日間の課題に違いない。幸いにも、閣下は私の戦略眼を評価してくださっている。・・・取りあえず。アカやコミーと対話可能かどうかをこの時代の人々が理解していない可能性を考慮しておくべきだった。コミー死すべしと米帝さまが悟るのは、少々時間を必要としたはず。具体的にはケナンとか頑張って以降。つまり、言い換えれば。この時点で、参謀本部はコミーを合理的な国家理性の持ち主と見なしているということか。ああ、何たるバイアス。何たる、誤解。確かに、確かにそれは誤解だ。なるほど、上が早期講和の可能性を求めるのも理解できなくはない話。つまりそうか。蹂躙したことが怒られたのも良くわかった。どうせならば、ヨセフの首でも持ってこいということか。そうすれば、戦争どころではなくなって早期講和できたかもしれないのに、と。・・・難しいものである。面子を蹴り飛ばすだけでは、相手が意固地になってしまう。ならば、抵抗する意欲のわかないように叩きのめしてくるべきだというのか。いや、しかし、やり過ぎは危険なのだが。特に、戦後の保身的に。・・・そこまで軍に忠義を尽くす義理があるかと言われれば悩む。給料相応の仕事はしているつもりなのだが。ううむ、どう報告書を仕上げるべきか悩む日が来ようとは。事務仕事に関しては、完璧に近い自信を持っていたのだが。やはり、何事も過信は禁物という事に違いない。仕事をきっちり。ともあれ、やれることから始めよう。そうして。とにもかくにも、ターニャは実に自然な帰結として自分の思うところを記したレポートを書きあげることになる。“連邦対外行動の源泉”と名付けられたそのレポート。それは、機密指定故に著者が公開されずにミスターXと名付けられたレポート。それにちなんで一般にはX論文として後に知られることとなる。後世の史家は言う。“まるで、現代の人間が歴史を語るように連邦を分析した恐るべき慧眼。あるいは、ほとんど狂気の産物。”と。あとがきなんと。気がつけば、この作品も五〇話に。ご愛顧に多謝。東部戦線は、坂道への一直線。もちろん、そろそろ民主主義の武器庫にも立ちあがってもらわねば。ご安心ください。自由を守るために、世界は戦います。一部コメント等において、敗北主義的・コミー的・ロリヤ的・好戦的発言が見られましたがご期待に沿う形でZAPZAPZAPによって、おもてなしする予定です。あと、ハムは純愛だと思います。少なくとも彼の愛はロリヤ並みの純粋さだと思います。ハムのガンダ○への愛は本物だと思います。王道的に考えて、ライバルは出したいと思います。でも、本作はライバルの結末は王道的に高め合うというよりは足の引っ張り合い?>翠鈴様ご安心ください。『本作は、まぎれもなく良識的な作品』であるとPC様及び、UV様に認定されています。うん、まあ、その。ご安心ください。 たぶん。なんだかんだ、頑張れば更新できました。今後も引き続き頑張っていこうと思います。よろしくお願いします。あと、誤字気を付けますがご容赦くださいorz+誤字修正orzZAP