東部主戦線 帝国軍第25戦区いつものごとき、団体客。いつものごとき、お土産。いつものごとき、大歓迎。どこぞの戦争フリークスどもなら随喜の涙を流しかねない約束された地と叫ぶことだろう。あるいは、化け物による化け物のための戦場であるのやもしれない。・・・常人にしてみれば、とにかくはた迷惑でしかないが。重砲がほとんど絶えまなく砲声を轟かせる様は、ある種の戦場音楽だ。それは、狂ったように通常の理屈を捻じ曲げる戦場において一種の秩序を生み出してすらいる。火力は大地を耕し、人間を吹き飛ばし、その果てに敵砲兵に粉砕されてしまう。それだけに、支援に付けられた魔導師の観測小隊に対する連邦の執着は凄まじい。今も、まだ若い魔導師が集中砲火を浴びて防殻を撃ち抜かれている。直前に送信した弾着情報を受け取った砲兵指揮官は、あっさりと砲撃を命令。繰り返し行われる行為に過ぎないとばかりに、誰もが無感動だ。珍しくもない光景が、盛大に人類種の英知を結集した営みとして繰り広げられるそれ。見慣れたソレを、指揮所から見つめる将校らはどこか悟りきった表情を並べる。わずかに、双眼鏡を覗き込む眼だけがギラギラと輝く姿は幽鬼のソレを連想させるだろう。「要求は無理難題で、問題は山積か。」地図に書き込まれた赤い旗。それぞれが、一個連邦師団を意味する赤い旗にぐるっと包囲されるのは最悪の気分。消耗前提の東部戦線といえども、全滅という言葉の持つ意味はやはり重たい。ここが、連邦の主攻点になったという事実。参謀本部の連中にしてみれば、完全に想定の範疇内なのだろう。しかし、耐えしのぶ師団にしてみればたまったものではない。実際、慣れているはずの司令部すら一瞬背筋を冷たいものが走るのだ。「いかがされますか、師団長殿?」そんなときだからこそ。必要以上に絶望的にならないという事がどれほど大切か戦場に出たことのない連中は知らないだろう。参謀が重くなりがちな精神状況を慮ってか辛うじて軽い口調で口を開く。わかりきったこととはいえ、場の空気を解きほぐす程度の効果はある。「増援を要請するほかにないだろう。まったく、キリがない。」やれやれと軽く肩をすくめるという行為。信じられないような重圧下において、そうふるまえて初めて戦場に立てる。少なくとも、できる努力は徹底して行った。塹壕は掘った。障害物も張り巡らしてある。陣地防衛用の火器は数個師団程度を撃退できるだろう。だが、それがどうしたというのだ?冷静になって、考えれば考えるほど師団長の背筋は寒くならざるを得ない。相手は連邦だ。我々との損耗比率が7:1だろうともまだ軍組織を維持し得る相手である。連邦軍人を倒すのは極めて容易。なれど、連邦軍を倒すのは至難の業である。大砲が必要であった。なんとしても、火力が必要なのだ。いや、それ以前に数が絶対的に不足している。まずもって、数が必要でもあるだろう。当然、いつもの如く増援を求める悲鳴は前線から後方に送られている。司令部からも、前線司令官からも。とはいえ、泣き付かれた側にも事情はある。空手形以上には、無い袖を振れないというのだ。たいていの場合、慰めにもならない言葉が返ってくる程度。尻に火がつき初めて、ようやく軍集団予備が虎の子を捻出して送ってくるあり様。だが。その日に限って言うならば。少なくとも、参謀本部は気前が良くなったらしい。『一個戦闘団の増派』確約。耳慣れない単位の増援だが、聞くところによれば旅団よりは役に立つらしい。少なくとも、上はそう主張している。まあ、それよりもそもそも本当に送られてくるのやらという疑問はあったが。なにしろ手元にない戦闘団とやらよりは、手元にある小隊の方が100万倍も役に立つのだから。グーテン‐ターク!親愛なる帝国臣民の皆さま!戦局は日々一進一退を続ける厳しい状況でありますが、我が帝国軍は極めて意気軒高に戦線を維持しております。小官も、軍人としてこの戦列に加わったことを無上の誇りとするものであります。ああ、申し遅れました。小官は、帝国軍にて参謀本部戦略研究室付きで魔導中佐を拝命しておりますターニャ・デグレチャフ中佐であります。初見となる方には、御挨拶申し上げることができる名誉を嬉しく思う次第であります。再見となる皆々様、武運に恵まれ再び相まみえることができることに感無量であります。ええ、少々込み入った事情がありましたが現在後方のデスクワーク勤務を拝命しております。現在の仕事は、帝国軍参謀本部が各方面より収集した情報の分析が主たるもの。一番直近の仕事は、“連邦対外行動の源泉”という専門家向けの小冊子です。なかなか各方面より良い反響を得ることができたらしく、どうやら無事に才覚が認められたという事になると思います。いやぁ、なかなか嬉しい限りですね。自分の作品が世の中に認められるというのは、そうそう容易には得難い経験です。ええ、一生デスクワークするつもりですよ。やはり適材適所こそがこの世の理。人材管理は、如何なる組織においてもまずもって重視されてしかるべきモノ。そんなことに思いをはせながら、ターニャは淡々と資料を整理していた。前線の報告によれば、主戦線は辛うじて拮抗状態に持ちこめているらしい。大変結構なことである。損耗比率も、7:1を維持。いくら畑で兵隊がとれる国家だろうとも大きな打撃に違いない。・・・懸念があるとすれば、やはり世界最大の武器庫が後ろから襲ってくることだろう。幸か不幸か、帝国の産業界は合州国と良好な関係を維持しているが競合関係にもある。産業界が戦争に反対してくれれば良いのだがなぁ・・・。武器売りたいだろうし、困ったところだ。東部戦線を抱えつつ、なおかつ叩き切れていない連合王国を抱えた状態で反則IC国家が加わっては絶望あるのみ。当然、帝国の外交課題は彼の国を戦時工業体制に移行させることなく穏便に宥めること。土下座外交でも良いので、とにかくかの国の民意を抑え込むことによって時間を稼ぐことでもしない限り無理だろう。その合州国であるが、政治体制は当然の如く民主主義。民主主義国家が開戦する時は、本当に怒った時なのだ。つまり、合州国を怒らせては本当におしまい。今度のペーパーはそのことを主眼に置いて帝国の戦略的外交でも論じてみるつもりだった。だが、そのことについてメモを作成していたターニャの作業は珍しい来客によって妨げられることとなる。「中佐殿?デグレチャフ中佐殿?」「ここだ。久しいな、ヴァイス大尉。」つい先月、実戦部隊指揮官から解放された時に面倒事一式を部隊ごと纏めて私が押し付けた元副官。まあ、引き継ぎは円満に行えたし詫びも兼ねて階級も昇進できるように手はずした。少なくとも、良好な関係を維持できているとは思う。休養再編とのことなので、まずまずやれているようだ。「はっ、一月ほどでありましょうか。ご無沙汰しておりました。」「良くやっていると聞く。私も、前任者として誇らしいよ。」聞けば、グランツ中尉を副官にしたとか。新しい人材の積極的登用を試みてくれるのは、私としても大変うれしい。帝国の未来を担うに足る人材がたくさん出てくれば、私の様なデスクワークは前線に出る必要もなくなるに違いないからだ。やっと、やっとローティーンらしい文化的かつ保護された生活を送る毎日。素晴らしい限りであるが、如何せん戦場に長くいたためか身長が伸びない。そんな他愛もないことを気にとめられるほど、最近の私は充実した生活を楽しんでいる。つまり、彼らには感謝こそすれども邪険にする理由はない。ぜひとも、帝国の防人としてこれからも盾として頑張ってほしいものである。そんな彼らへの激励の言葉を惜しむつもりは、もちろんない。「ありがとうございます中佐殿。」「それで、今日はどうした?まさか、今更教導隊に教えを請いに来るほどの技量でもあるまい。」ちょくちょく近況報告の手紙をもらってはいたが、直接本人がお出ましとは珍しい。ヴァイス大尉自身、実戦経験豊富な尉官でもある上に部隊も練度は折り紙つき。正直多忙に違いない指揮官が、わざわざ教導隊まで足を運ぶ理由に心当たりはないのだが。「中佐殿、本日はお願いがあってまかり越しました。」「・・・ふむ、聞くだけは聞こうか。」とりあえず、協力できることならば協力しても良いと思う程度にターニャは鷹揚だった。最も、それは後方の安全な地帯から協力できるという前提があればこそであるが。・・・はっきりいえば、前線で戦ってもらうためにならば多少の骨折りも惜しむつもりがないという他人事感覚である。それだけに、軽い気持ちで聞くそぶりを見せる事となってしまう。一方のヴァイス大尉は、少し考えた後で聞くそぶりを見せる上司に安堵。言ってしまえば、断る気があればそれ以上聞く気がないと断られると思っているからだ。それくらい、両者の考えには断絶がある。「中佐殿の戦闘団に、ぜひ203を。我々は、中佐殿指揮下で戦う事を切望致します。」「戦闘団?悪いが、何の話かね?」いったい、何のことか?さっぱりわからないとばかりに首をかしげるターニャ。自分の指揮下で戦いたいと言われたところで、そもそも戦略研究室の下でどうしたいのかという気分。「ご安心ください中佐殿。漏らす真似はいたしません。」だが、その姿勢をヴァイス大尉は『機密保持』を重んじる厳格さなればと思い込む。それはそうだろう。参謀本部戦務参謀らから内々と念押しされた話だった。本来ならば、尉官が知りえる情報ではない。関係者なれば耳打ちしてもらえた程度の関わり。軍務に厳格な中佐殿が、容喙されるのはむしろ大尉にしてみれば想定内だった。機密保持だろうと、解釈した大尉はごく穏当に抗議を聞き流す。そして、運命へごく単純に神の悪戯が働く。「中佐殿、参謀本部のゼートゥーア閣下よりお電話です。」「なに?すぐ行く。すまないが大尉、しばし後だ。」そうして、これ幸いとヴァイス大尉に断って部屋を後にするとターニャは受話器を取る。内線であるために、傍受される危険性が乏しいために館内連絡用の電話程度は参謀本部も採用していた。まあ、各人のデスクに一台というわけにはいかないが。それでも、企業戦士にはなじみ深い受話器だ。ワンコール精神を発揮し、即座に鳴り次第飛んでいく。『デグレチャフであります。』『御苦労中佐。単刀直入に言おう。東部へ戻ってもらう。』だが、電話を即座に拾ったことをターニャはすぐに大後悔する。出来ることならば、聞きたくなかったことだ。一瞬、受話器越しに叫び返したいという衝動にすら駆られつつも不本意な転勤命令を受けた軍人として完璧に自制。『・・・御命令とあれば無論否応ありません。所属は?』行きたくないが、行けと言われれば軍人に拒否権なぞない。それこそ、民間でもやれるだろうとか、便利屋扱いするなとか叫ばないのと同じだ。行けと言われれば、軍人に拒否権は原則ないのだ。サイレントネイビーならぬサイレントアーミーとしてターニャは統制に服するしかない。だが、電話先の相手はこちらが喜ぶだろうとばかりに話を続けてくる。最近の少将閣下が何を考えているのかいまいち読めないターニャにとっては、これは判断が難しい。『喜べ。戦闘団を新編させてやる。』喜べと言われても。そもそも前線に送り返されたくないのだが、と思う。出来ることならば、文化的かつ比較的にせよ安全な後方から一歩も出たくないというのが切実な願いだ。コミーを叩き潰すのは愉快だが、危険を冒すのは別の人間にやってほしい。というか、私は対コミーで危険を随分と引き受けているのだ。もう、他人に頼っても批判されない程度に国家へ献身したつもりでもある。『戦闘団の件でありますか?』だが、軍人であり組織人でもあるターニャは完全に不満を飲み込む。言いたい不満だけで、一日潰せるとしても命令が撤回できないならば建設的な要素を見出すべきという世知があるのだ。取りあえず、“新編”と“戦闘団”という要素は時間を稼ぐ口実になるのではないのだろうか?以前、大隊を編成するように命じられた時のことを思い出しながら何とか前向きな姿勢をターニャは保つ。『そうだ。貴様の主張したカンプグルッペ・ドクトリンを試行させてやる。成果を出して見せろ。』そう、ドイツ軍にならって帝国も戦闘団を編成するべきではないか?そんなことを、少しばかりまえに『柔軟な軍運用と戦術多様性に関する諸提言』で出したばかりだ。きっと、上はその素晴らしい思いつきに感銘を受けて実験してみる気になったのだろう。畜生め。こんなことならば、もう少し後から報告書を出すなりしとくべきだったか?後悔後先にとは良く言ったものである。やはり、ゼートゥーア閣下の意向を最近読み違えている事と言い注意力が散漫だと切実に反省。・・・次からは上手くやりたいものである。『基幹部隊は古巣の203魔導大隊を宛がう。歩兵大隊と砲兵中隊に加えて多少の人事裁量権は認めてやろう。候補リストは後ほど正式な命令と共に届ける。』取りあえず、ヴァイス大尉の話は良くわかった。前線配属が断れない話ならば、古巣で良くわかる部隊が使えるのは歓迎できる話だ。上がそのことを配慮してくれるというのは、まあ配慮が得られているという事。一応とはいえ、こちらの事も配慮してくれていると感謝すべきか。一先ず、どの程度物分かりが良いかを調べねば。『失礼ながら、編成期限は?何週間度頂けるのでしょうか?』『5日だ。』調べようという思いで、稼げる時間を訊ねる。そして、質問に対する答えを得たとき、一瞬ながら彼女は凍りつく事となった。耳から飛び込んできた言語。それが、理解できなかった。理解したくなかった。理解する気も、さすがに生まれなかった。『は?今何と、仰いました?』『5日だといった。それで、部隊を編成して10日以内に東部戦区へ移動せよ。戦線投入は遅くとも今日より3週間後だ。』一瞬ばかり、聞き違いの可能性を考慮して聞き返すが答えは変わらない。もしも、見る者がみれば愕然としている“錆銀”という大変希少光景を目にすることになるだろう。まあ、それを喜ぶかどうかは人間性に対する極めて微妙な問題があるのだろうが。・・・誰だって、化け物が愕然としているという光景を心理的に解釈するのは愉快ではないだろうから。ともあれ、無理難題を耳にしたという事実はターニャの頭を強烈にシェイクする。5日。たった5日。いや、3週間で実戦投入というのはほとんど夢物語に違いない。現地について6日程度の猶予しかないではないか。かき集め、移動させ、そして実戦投入までの期間がほとんど不可能な水準。いくらなんでも、現実可能性の欠片も見当たらない無茶な命令も良いところ。そんな命令を受諾すれば、誰であろうとも耳を疑う事になるだろう。いや、疑わざるを得ない。間違いなく、全帝国指揮官が同じ反応をすることだろう。『閣下、御命令とあれば全力を尽くす所存でありますが・・・。』暗に、絶対に間にあうわけがない。無理難題どころか、不可能。そんなニュアンスを含めて命令の撤回を求めるに至ったのは、むしろ穏便な抗議だと言えるほど。戦闘団を編成しろと言われても。そもそも、新設の部隊単位を一体どうやって作れというのか。『“多少”は大目に見る。手段は問わずに、やってのけろ。』『・・・了解いたしました。』だが、悲しいかな。軍というのは、会社以上に上司の無理難題に何としても応じなければならないのだ。皮肉も抗議も全て飲み込まざるを得ない立場としては、実に泣きたくなる状況である。自由を束縛されているという点において、これだから軍事国家というやつはと叫びたくなるほどに。まあ、比較対象がコミーとなるとまた別。とはいえ、所与の条件で戦わざるを得ないのだ。『結成式は6日後に行う。新編の部隊だ。おめでとう、嚮導戦闘団ということになる。コードは“サラマンダー”だ』『大げさな名称ですな。さぞかし、強そうに聞こえてくる。』・・・歴史の皮肉だろうか?何故か、国民戦闘機という言葉が頭をよぎる。『全くだ。それに見合った戦果を期待させてもらう。』そういうなり、一方的に電話が切られる。しばらく、呆然と受話器を握りしめて歎きたい衝動に駆られるものの彼女は鋼の精神でもって取りあえずやるべきことを確認。時間が無い以上、行動を開始するべきだと結論。時間が無いのだ。寸刻たりとも無駄にはできない。即座に、待たせている執務室へとんぼ返りし待たせてある元部下へ悪魔の微笑みを浮かべることにする。「・・・ヴァイス大尉、喜べ。許可が出たぞ。当分は地獄に連れて行ってやる。」「はっ、お供いたします戦闘団長殿!」いやはや。やはり、嘆かわしいことだが現実は無情。世の中は悪魔がいこそすれども、善なる神は存在しないに違いない。とある国の、とある工場。資本主義の総本山と呼ばれるにふさわしい国家の工場で、ジョンおじさんは楽しい楽しいショッピングに励んでいた。もちろん支払いは、ジョンおじさんの財布ではない。ジョンおじさんのお友達、フィラデル持ちだ。まあ、御国元に請求書が行くので買い過ぎは禁物。とはいえ、必要なモノは買う必要があるのだ。例えば、『新型トラクター』。41.9tながら500馬力はまずまず。もう少し、早いトラクターも検討候補ながら防衛戦が多い連合王国は速度よりも頑丈さを求めている。「Mr.ジョンソン、さすがにそれはあんまりだ。」だが、さすがに買いたいと言われて全て売れるほど合州国にも在庫があるわけではなかった。なにしろ、『新型トラクター』はようやく生産が始まったばかり。おまけに、新型という事はいろいろと企業秘密というやつもある。交渉を持ちかけられた担当者が渋るのは当然とも言えた。「おや、貴社の新型トラクターを買いたいというのはそれほど無謀ですかな?」「“新型トラクター”なのですよ?“国内の需要”も満たせていない状況で“輸出”とはいささか・・・。」州軍とかに余剰品を売るのと異なり、陸軍の需要すら満たせていない状況。そんな時に、“中立国”に“トラクター”を売り払うのはさすがに厳しい。「タダでとは申し上げていない。お支払いはきちんとしますとも。フィラデル持ちですぞ。これほど確実な支払いもないでしょうに。」「せめて、“旧型トラクター”では駄目ですか?あれなら、在庫もたくさんあります。」もちろん、商人としては諦めが悪い。なにしろジョンおじさんのお財布は大きいのだ。ニーズがあれば、もちろん売りたいと思うは資本主義ならずとも当然の発想。マネーの入ってくる話として、彼が代わりに提案するのは少し古いトラクターを買わないかという提案だった。幸い、在庫は頗る豊富にある。生産性も良好なので、追加生産も可能。生産ラインを稼働させることができれば、それはそれで嬉しい知らせとも言える。少なくとも売り手にしてみれば。「おお、悲しいかな。砂漠や高温多湿の地域で使えないと聞いています。なにより、脆弱だと。」だが、ジョンおじさんの手持ちカタログではソレは買ってはいけない品物リストに載っている。なにしろ、柔らかい上にパンチが効かないというのが本職の評価。そんな“トラクター”は“トラクター”ではないと一部の連中は酷評する始末。確かに、機械的信頼性が高いのは評価できるが400馬力も評価を下げる一要因。「・・・我が社としても本当に残念です。」取りあえず、他を当たろう。ジョンおじさんは切り替えることもできる紳士だ。必要とあれば、取りあえず最悪は“重トラクター”でなく古い“中トラクター”で妥協することも検討するべきかと思いなおせる。同時に、別の課題を並行して解決しようという意欲もあるのだ。例えば一つが主力戦車や主力航空機よりも高価な“精密懐中時計”を切実に必要としているので先にこの商談とか。「ふむ困った。“精密懐中時計”はお取り扱いで無いのですよね?」「ええ、それは我々スカンク組合取り扱いですね。」そして、カウンターパートナーとしてスカンク組合の技師がニコニコとでてきたのでジョンおじさんは気分よく相談できた。やはり売り手が親切で、技術に通じているとなるとやりやすいだろうと思いながら。これが、良いカスタマーサービスだとジョンおじさんはスカンク組合を高く心中で評価する。すでに、ジョンおじさんの心中では、本国に送るレポートで高く評価するつもりだった。「率直におたずねしますが、“6F型耐水精密懐中時計”はどれほど取り扱われていますかな?」船に乗っている連中が、ぜひともという6F型。まあ、大人気らしい。海の潮風でさびたりしない上に、動作信頼性が高いので船に乗る連中は喉から手が出るほど欲しいと言ってきた。買ってきてほしいリスト筆頭でもある。「“6F型”ですか?あれは、まだラインに乗ったばかり。正直、発売できるのは当分先の話になります。」だが、悲しい事にやはりかの国のでもまだまだ数が足りないらしい。やれやれ、あれも駄目これも駄目。これではまともに使い物になるのは、いつになれば買えることかとジョンおじさんしょんぼり。しかし、嬉しい事にスカンク組合は売り込みにかける熱意が違った。「ですが、“4U型汎用精密懐中時計”はいかがでしょうか?」それは、やや不人気とされるタイプ。しかし市場の評判とは裏腹に、ジョンおじさんのリストでは割と高く評価されていた。確かに、特化してはいないし性能も程ほど。だが、同時に大体の事に使用できるとして緊急輸入用としては4Uも悪くないなぁというところなのだ。「おや、在庫がおありで?」「ええ、500ほど。必要とあれば、明日にでも納品いたしますよ。」幸いにも素晴らしい事にスカンク組合はいささか不人気故にこの“精密懐中時計”を大量に抱え込んでいた。捨てる神あれば拾う神あり。ジョンおじさんは、躊躇うことなく即座に購入を決断する。同時に、この金払いの良さがスカンク組合におまけさせる意思を沸かせた。「素晴らしい。ところで、他にめぼしいものは?」「コンペ落ちで良ければ、“G-58モデル試作精密懐中時計”がいくつか。性能は本採用の物とも遜色ありませんよ?」ちょっとばかり、おまけとして新型に匹敵するものを彼らは持ち出すことにしたのだ。まあ、ジョンおじさんは買い物にけちけちしない性格。そして、スカンク組合は取りあえず技術者だった。造ってみたら、試したいというのが彼らの性質。故に、取りあえず売りこんでみようとスカンク組合のエージェントが思ったことは両者にとって幸運だった。「面白い。どうちがうのですかな?」「安定性重視で、拡張性が乏しい上に製造コストが高騰いたしまして。」新型として取りあえず、ためしに作ってみた。結果は、まずまず。しかし、コストやら拡張性やらを徹底的に検証された結果スカンク組合の試作は採用されなかったのだ。本採用とやらが、安定性を欠くときに拡張性とはこれいかにとこっそりスカンク組合が不満を持っていたのも大きい。まあ、要するに見返してやりたいという思いがあったのだ。こうして、ジョンおじさんは予想以上に良いモノを提示されるという幸運に恵まれることになる。デパートの店員から、こっそり秘蔵の商品を紹介されるようなものとして彼は実に鷹揚に購入を決める。「あの性能で安定とは。ふむ、在庫を全て頂いても?」「先行試作ロット20基でよろしければ。運用データを頂けるのであれば、原価だけで結構です。」なじみ客になってもらえるに違いない。そう判断し、即座に値引きを提案。商売人としても、スカンク組合のエージェントは実に有能だった。実際に使ってみた感覚が欲しい。そう思っていたところなのだ。テスト代金を払わずに済むどころか、開発コストの一部でも回収できれば。未来志向の発想で、取りあえずデータをスカンク組合は求めジョンおじさんは経費削減に成功。「おや、これはありがたい。」「いえいえ、お使いになった感想に期待させていただきます。」本国へは、最上級の賞賛をレポートにしたためよう。そう決断しつつ、ジョンおじさんはホクホクがおで契約書を差し出してくるスカンク組合のエージェントににこりと微笑むとペンをとりだす。そして、鮮やかな筆跡で“ジョンソン”とサイン。素晴らしい契約だった、と彼は後にすばらしい友情に感謝しながら述べたと言われる。=======あとがき>ssssssssss様よりご要望がありましたが・・・。いや、やってみるという愚挙の試みは文章力という制約で放棄されました。無理でした。私には無理です・・・orz書ける人へリスペクト。>通りすがり様はじめまして。折衷的というか、つなぎ合わせてと申しますか(・_・;)おおざっぱさというご指摘は次回以降に反映させたいです。>通様女っ気が少ないというご指摘は御尤もでした。次回以降、少々成分構成を再検討いたしたく思います。なお、後者のご指摘につきましては同志ロリヤとご検討ください。>ラッキー様m(_ _;)mこんなタイトルですからね。・・・いや、わかってはいるのですが。一部たびたび言及されている極東の某国について。⇒たぶん、出ません。あと、X論文は学術論文ですよね。むしろ長文電報の方が政策的には。X人気に嫉妬してしまいそうな・・・。取りあえず、今回は『デグレチャフ少佐殿、ご昇進』+『戦闘団長おめ』『ジョンソンおじさん、お買いもの』の二本立てでお送りいたしました。次回の予定は未定なようで若干書きつつあります。それにしても、国民戦闘機のやばさは異常です。あれぞ、ドイツの科学力を物語るに違いない。一晩で、一晩でやってくれれば完璧だったのですが・・・。orzまた誤字修正orzさらに、誤字修正。ZAP中...ZAP