ネームドの来援?有力な戦闘団の御到着?ああ、おかげで糞ったれの戦争だ。信じられるか?中隊丸ごと全員がネームドという化け物の様な部隊があったんだ。いやはや、おとぎ話なら悪魔でも祓ってくれるような連中じゃないか。そんな連中がだ。血相変えて人間殺しに突っ込んでいく。来援というよりは、むしろ狂気を感じるよ。おかげさまで助かったのは、感謝するがね。指揮官に付き合わされた連中にはほとほと同情するよ。連中、きっと敵より上官が怖かったことに違いない。子供を見るたびにびくびくする連中ときたら、酷いことこの上ない。なにしろ、敵を見た時ほっとしたからな。きっと綺麗なお顔の指揮官様じゃない事に安堵したのだろうよ。連中、嬉々として引き金を引いていたからな。無名戦士の証言集第22師団所属第16連隊所属兵士の呟き。※同師団は、東部戦線の転換期となったクルスノルク機動戦に参加。戦線崩壊後、緊急投入された『サラマンダー』戦闘団の来援により辛うじて撤退に成功。しかしながらその後、崩壊していく前線で激戦を生き残れた兵士は一握りである。なお、その後の『サラマンダー』戦闘団は第二次ライン戦役に従軍。記録が散逸しているため不明な点が多いが、アールデン大攻勢に参加、壊滅したものと思われる。親愛なる帝国臣民の皆さま、ごきげんよう!最前線より、さらに一歩手前の激戦地より皆さまに御挨拶を申し上げますは帝国軍サラマンダー戦闘団にて、戦闘団長を拝命しております私こと、ターニャ・デグレチャフ魔導中佐であります。皆さまの、健康とますますの御武運を祈って御挨拶申し上げます。日々苦難の絶えない戦役といえども、やるべきことは単純明瞭。明確に、為すべきことを為すだけの実にシンプルかつシステマチックな日々であります。我ら、帝国軍人一同は国家のために為すべき事を為すのみ。皆さま、御唱和ください。『帝国に、黄金の時代を!』・・・どうしてこうなった?心中では、激しく自問自答しつつもターニャは外見だけは淡々と無表情を保つ。良くも悪くも、ポーカーフェイスであることを感謝したい気分。なにしろ、上司が不安げな表情をしていれば部下の不安度は比例関数的に膨れ上がる。例えば、リストラされるという噂がある時に上司が顔に陰を造れば一発だ。リストラの事実をリークするに等しいだろう。おかげで、労働組合に騒がれたものだった。まあ、今となってはほとんどその程度ならば、と笑える出来事。なにしろ、可愛らしい御顔を与えられて気がつけば戦場に放り込まれている。叶う事ならば、いつか無神論で世界を覆い尽くしてやりたいものだ。・・・いや、現実逃避はその程度にしよう。ちょうど、各級指揮官も集合を完了した。気分を切り替えてコミー狩りに備えなければ。「サラマンダー01より、サラマンダー戦闘団へ。」無理やりかき集められた部隊を前に、訓示を垂れることほど無意味なことはない。そう判断したターニャはこっそり気分を切り替えつつ表面上は淡々とブリーフィングを開始。やり方は、シンプル。わかっているべき人間が、わかっていさえすれば良いのだ。どこの組織だろうと、末端にまで経営戦略なり方針なりを細微に至るまで詰め込むことはない。徹底すべき大方針さえ徹底してしまえば、あとは自発性に任せるべきこと。もしくは、マニュアルで代替可能性を担保するかのどちらかだ。「昨夜より敢行された連邦軍攻勢によって、第七戦区にて友軍連隊が孤立。これを受けて東部軍司令部より、我が戦闘団に対し救援命令が発令されている。」眼の前に居並ぶ連中は、全員自分よりも身長が高いという状況。これ幸いと、弾よけには使えるのだろうがいささか会話には不便。そこで、自分の椅子は特注品だ。まあ、少しだけ高さが高くなっているだけであるが。ともあれ、効率良いミーティングのためには共有すべき情報とやるべきことの伝達が不可欠。コミーに囲まれた友軍の救助。短く言えば、その程度。態良く言えば、友軍に対する増援任務。逆に言えば、孤立した連中の救援という無理難題。「幸い第224連隊は防衛陣地で防戦中。状況を勘案し、魔導師を先遣する。機甲・歩兵混成大隊は攻囲解除が目的の突破支援だ。」・・・どう考えても、一個戦闘団に割り当てる任務ではない気がするというのは指揮官の胸の内に秘めておくべきものだろう。この体、大事を秘めておくには少々胸が小さすぎるのでこっそり不満を漏らしてしまうかもしれないが。まったく、“適当”な部隊編成をしておかねば着任と同時に全滅しかねないようなハードルの高さ。方面軍の連中め、豊富な補給物資と兵站を約束しておきながらしょっぱなから割り当てる任務がこれとはふざけているとしか思えない。「敵の補給限界を勘案すれば、二三日耐えきれば攻勢限界に到達する。すでに、攻勢開始より8時間強が経過済み。」一応、上も全く考えなしというわけではないと思う。根拠としては、兵站線の限界という概念。確かに、ライン戦線でも塹壕を突破するために軽装の歩兵が保持できる食料・装備は3日が限界だった。敵の攻勢限界が2・3日というのは、一応理論上はありえる話だ。まあ、あくまでも理論上は。「試算では、最大でも64時間防衛に成功すれば敵攻勢を頓挫させうる。」希望的観測によれば、という条件付きだというのは飲み込む。敵が増援を投入してくれば?交代部隊が用意されていれば?大規模な補給に敵が成功すれば?考えるまでもなく、高くつく。具体的には、自分の命とか、自分の安全とか。「だが、第224連隊はすでに組織的抵抗の終末状況とのこと。速やかな救援が必要だ。それも、今すぐに。」盾にしようにも、本来の防衛任務に従事している第224連隊はすでにズタボロ。これらの状況を伝達される指揮官らの表情もまるで蹂躙されたかのように真っ青となっていく。だれだって、こんな状況下で増援に送り込まれたくはないのだろう。私だって、御免蒙りたい。命令で無ければ、今すぐに反転して安全な後方拠点に帰る。「状況は最悪の一言に尽きる。孤立した連隊は、一個基幹大隊をほぼ損耗。砲兵陣地は壊滅済み。」駄目押しとばかりに、火力支援すら望めない状況下。少数が多数に対峙する上で、絶対に必要不可欠な火力の支援すらおぼつかない。連邦の連中、真っ先に火力陣地を叩きにきたという。第224連隊が間抜けなのか、それとも敵が狡猾なのかは不明だが。ともかく、貴重な火力支援は無し。砲兵抜きで歩兵が多数の敵に囲まれている状況。「対する敵部隊は、最低でも4個師団。司令部は、これを広域浸透部隊と想定。撃退が我らに期待されている。」・・・全滅判定して見捨てる方が楽な気がする。そんなことができないとわかっているので、全く嫌になる話だ。こっそりと溜息を吐くと、部下らを一瞥。悲しいかな、やはり新編の戦闘団司令部は空気が重い。古参組のヴァイス大尉らはまだマシだが、戦争処女どもは真っ青である。彼らは、泣きたいのだろうがこっちも泣きたくなるというものだ。こんな連中抱えて戦争しろといわれるとは、ほとほと運が無い。「幸い、敵魔導師の姿は確認されていない。」対して、こちらは一個増強大隊に加えて補助中隊を強引に引っ張って来てある。“適当”に対応していただけの事はあると自画自賛。まあ、訓練も碌にできていない新兵に等しいお嬢様がた。使えるかどうかは、まあ鉄火場で試してみるしかないだろう。駄目ならば、まあ弾よけ位にはなると思いたい。駄目なら、『事故』か『不幸な偶然』に依存しよう。弾は貴重なので、そうならないことを希望するが。「故に、速やかに合流後防衛支援だ。我が大隊戦士諸君、案ずるな。ラインに比べればどうという事もない。」本当に、こんな時に頼れるのは古参の大隊だけだ。カエサルが自分の子飼い兵士をことのほか大切に扱った理由が理解できる日が来るとは夢にも思わなかった。禿の女たらしと馬鹿にしていたことを本当に恥じる。こんなにストレスがたまる仕事をしていれば、禿げても仕方ないだろう。ついでに、古参兵どもをどれほど頼りにしても不思議ではない。というか叶うならば、私も歴戦の百人隊長がダース単位で欲しいくらいだ。我が大隊諸君には、それこそ道理を捻じ曲げてでも為すことを為してもらわなければ。「新兵諸君、案ずるな。ネームドとは、伊達ではないのだ。」そして、真っ青な御顔の戦争処女諸君。頼むから、もう少し使えそうな顔をして欲しい。お願いだから。いや、本当に。リップサービス程度で良ければ、いくらでも惜しまないから本当に空元気でも良いから出してほしい。「味方で良かったと感動させてやる。なにしろ、我々は君たちの側のネームドだ。」ほら、友軍にネームドついてるよ!安全だと思うよ!だから、ほら、元気を出して進軍しようじゃないか。誘う意味も込めて、表情筋を極力動かす努力。一応、微笑みの様なものを浮かべて元気づけるという事ができたと自分では思えるのだが。やはりぎこちないのか、部下らの反応は芳しくない。・・・慣れないことはするものではないなぁ。「さて、ブリーフィングはこれくらいにしよう。口より手足を動かす時間だ。」気まずいのと、恥ずかしいのを誤魔化すために手を振って行動を促す。ソレを持って指揮官らは散会。取りあえず、それぞれの部隊を指揮するために行動を開始するようだ。「歩兵前進!歩兵前進!」「戦車前進!パンツァーフォー!」見ていると、どうもやる気はあるらしい。掛け声には多少とはいえやる気も満ち溢れている。期待以上だ。やはり、歩兵は親衛師団から引き抜いただけあり儀仗兵以上の練度は期待できる。機甲部隊は、兵員の質はともかく装備はそこそこ。ロメール閣下にはいくらお礼を申し上げても、尽きることが無い。危惧することは多いが、まあ何とかなると希望は抱くことにしよう。「大変結構。さて、大隊戦友諸君。仕事の時間だ。」何処の軍でも、秘蔵扱いするに違いない貴重な魔導増強大隊だ。4個師団相手とはいえ、防戦ならば多少は持ちこたえられる。駄目だったら、救援の努力むなしくと言って撤退しよう。その時は、撤退支援と収容くらいはするので恨まないでほしい。わざわざ機甲部隊と歩兵部隊に同伴するのはソレが目的である。素人目には、有力な部隊から離れるのは危険に思えることだろう。だが、私に言わせれば有力な盾よりも危険地域から離れる方に意義がある。つまり、精鋭部隊を前線に投入。私はやや頼りないけれども後続の増援を率いるという態で安全地帯からアプローチするというやり方。なにより、予想通りならば到着するころには敵の攻勢も限界に近いだろう。運が良ければ、ヒーローは遅れてやってくるを体現できる。それはそれで戦功だろう。「ヴァイス大尉、貴官に期待する。」捨てゴマ扱いとまではいかないが、まあ駄目ならすまん。謝れば良いという問題ではないかもしれないが。とはいえ、必要な行為である以上私が命じなくても誰かが命じたに違いないのだ。恨むならば、こんな命令を私に出させた上を恨んでほしいと思う。「はっ、中佐殿のご到着まで死守してご覧にいれます。」「結構、では、行動を開始。」運が良ければ、また生きてあえるだろう。「食後の軽い戦争だ。不味い食事とはいえ食べた分だけ仕事はしたまえ。生きていれば、上手い食事を馳走してやる。」その時は、戦場用の塹壕食以外を御馳走してやろう。まあ、頑張ってほしい。執務室で遅い食事をとりながら、前線から送られてくる報告書に眼を走らせていたゼートゥーア少将。その執務を妨げたのは、余裕を感じさせない切迫した足音だった。顔を上げて、入室してきた部下を見たゼートゥーア少将は一瞬訝しむような顔になる。優秀な期待している将校。だが、彼が血相を変えて飛び込んでくる?「ゼートゥーア閣下!デグレチャフ中佐に戦闘団を任せるというのは、本気ですか!?」「レルゲン大佐、どこで知った?機密事項のはずだが。」その疑問は、彼が口をひらいたことで氷解する。良くも悪くも、レルゲン大佐は軍の良識派に属する将校。言い換えれば最も“デグレチャフ”の行動を危惧する人間だ。そして、彼の懸念は概ねにおいて正しい。一般にはデグレチャフ中佐を高く買っていると評判のゼートゥーア自身、同じ危惧を抱いているのだ。だが、彼に言わせれば勝つためならばどんな劇薬でも飲むしかない。戦争なのだ。手段をどうこうという場合ではない。副作用でのたうち回ろうとも、戦争に勝ってから考えることにしていた。「第二親衛師団の大隊を強奪したという報告がつい先ほど飛び込んできました!」口から、泡を飛ばす勢いでまくし立てるレルゲン大佐。彼が担当する部署に関わりがあるところでの出来事から今回の戦闘団編成を嗅ぎつけたらしい。まったく、そこは予想通りに優秀であるのか。そんなことを思いつつゼートゥーアは溜息をつく。「“適当”に処理した結果だろうな。」軍において、適当とは要するに最大限できる全ての事を活用するということだ。多少といったが、あの中佐相手である。武器強奪を行われなかっただけ、よほどマシだと彼は悟りきっていた。統帥権干犯じみた行為だが、少なくともあれのことだ。逃れられる程度の名分は手配してあるのだろう。ならば、なんら問題はないということだ。とやかく言おうとも思えない。「・・・確かに、第二親衛師団は現状遊兵です。しかし、これは明らかな越権」「そこまでだ大佐。」それ以上は、聞く気が無い。明確な意思を込めたメッセージを発して制止。「閣下!?」「練達した野戦将校だ。遊ばせておく余裕はない。」前線からの要請は、日々深刻さを伝えてくるのだ。確かにアレのレポートは優秀だが同時に限界もある。レポートの実用性を試行しつつ、前線の困難も緩和するためには使わざるを得ない。魔導将校で、あれほど部隊指揮に卓越した士官はほとんどいない。いや、皆無と言っても良いだろう。あれにしか、使いこなせない代物を抱えた傑物。後方で活用すべきというのはわかるが、火消しにも使えるのだ。少なくとも、上に引き上げて有効活用するためにも前線で功績を上げさせるのも悪くはない。ならば、今は前線に投じるべき時期と判断した。「せめて任地を南方大陸にすべきです!」「あれはもう持たん。ロメール将軍は健闘しているが、やはり物量戦に引きずり込まれると苦しい。」軽い戦局揺さぶり策として派兵された南方大陸派遣軍団。一応、戦術的勝利を連続して収めているが敵の物量にやや苦労しているという。しかも厄介なことに、輸送船団に対する連合王国海軍の襲撃もあって兵站はボロボロ。当初目的の一撃はすでにぶつけてある以上、これ以上の戦力投入という事には疑問が付いている。「しかし、彼我の物量差は。」「かの国の援助だ。間違いない。かなりの量が流れ込んでいる。止めようもない。」危惧されていた事態。デグレチャフは悪魔かと叫びたいほど、レポートが警告していた通りの事態。合州国製の軍需物資が大量に連合王国経由で流れ込み始めている。不味い事に、民間企業の取引を偽装してわざわざ中立船籍の船で。撃沈しようにも第三国の船舶。あるいは、かの国の船舶だ。撃沈や臨検は、あの合州国を戦争に招きこみかねない。少なくとも、デグレチャフ・レポートはそう主張している。蓋然性はかなり高いだろう。つまり、阻止し得る可能性はなかなか乏しい。陸揚げされたところを空爆するのが、唯一の方法だがそれも厳しいものがある。なにしろ、高高度からの爆撃航程。命中率が乏しい以上、絨毯爆撃になるが爆撃機をそれほど集中運用できる状況にはない。魔導師を使おうにも、主戦線に張り付かせていてソレも困難。現状、打つ手なしなのだ。「合州国の物資が!?しかし、彼の国の政策は局外中立ではないのでありますか?」「大統領はそうではないということだ。」実際、かの国は主観的には中立国だと思い込んでいるらしい。まったくはた迷惑なことだが商売程度という事。加えるならば、あの国の大統領はまた別の意見があるらしいが。「・・・いかがしますか。」「我が帝国といえども連邦と連合王国だけで手が一杯だ。これ以上は避けたい。」結局、有効な妨害方法が無い以上手を出すのは高くつくだけだ。合州国の戦争介入派が露骨な挑発を仕掛けていると考えざるを得ない。そんな毒りんごを自分から齧りに行く必要はないのだ。「みすみす利敵行為を見逃すのはしゃくだがな。」そんなわけだ。東部で勝つしかない。そのためには、如何なるタブーもないのだ。それが帝国を利するかどうか。全てはそれで考えねばならない。「そんなわけだ。大佐。勝つためには、何でも使うぞ。」「・・・はっ。」彼らは、ちょっとした待機命令にいらついていた。連邦軍の中では、希少な稼働状態にある魔導師部隊。大隊規模の彼らは、これまで監視されほとんどいつ何時粛清されてもおかしくなかった。それが、少しばかり扱いが変わり始めたのがここしばらく。何かあったのかと訝しむ彼らの待遇改善は、部隊内で主戦線の戦局悪化という理由が挙げられていた。だが、実際に主戦線に配属されても彼らに与えられた命令は待機。信用されていないのかとも思ったが、それにしては監視も何もほとんどない。部隊に付けられた政治将校に至っては、これまでの連中とは毛色の違う中央組。監視強化というよりは、何か別目的に投じられるのではないか?そんな噂を大隊長が抑え込む日々の繰り返し。今日もそんな一日になるのだろうと誰もが考えていた日の事だ。「戦友同志諸君、獲物が現れた。」ほとんど、取り乱すことのない政治将校がやや緊張した表情で爆弾を投下。「モスコーの特命だ。」「モスコーの!?同志政治委員、私は知らされていないが。」一応、抗議する大隊長。まあ完全に信頼されているわけではないが。しかし、わざわざモスコーからとは穏やかではない。「申し訳ありません、同志大佐殿。最重要機密事項としてつい先ほど党本部から伝達がありました。」「・・・いったい、我々は何を倒せばよいのかね?」一体何事か?そんなことを訝しむ大隊士官らに政治将校は一方的にまくし立て続ける。「帝国のネームド部隊指揮官です。コードネームは『サラマンダー01』。」彼にしても、必死なのだ。成功すれば、出世につながる状況。しかし、モスコーの特命をしくじったとあれば彼もタダでは済まない。「この新手の帝国軍部隊を指揮する、コードネーム『サラマンダー01』の完全な撃滅をモスコーは望む、とのことです。」「完全な撃滅?」わざわざ個人を特定して、魔導大隊を投じることの異常さ。何かがあるというのは、誰にだってわかる。そして、つまりモスコーは犠牲を織り込み済み。言い換えれば、その上で犠牲を問責しないと言っているのだ。どの程度まで、モスコーは我々に死ねというのか?暗にそれを問いかける大佐の疑問。「・・・損害は考慮する必要が無いと。目的以外は、一切無視してかまわないとも。」全滅しようとも、成功しろ。政治将校の立場としては、そう答えるしかない。その意味で、この解答は良心的な範疇。少なくとも死ねと明言はしていないのだから。「つまり手段も問わない。如何なる方法でも良い。だから、撃滅せよと?」「その通りです同志大佐殿。モスコーは、ヨセフ閣下は『サラマンダー01』が地上から撃滅されることをお望みです。」「なるほど、モスコーの意向は良くわかった。」ここまで言われて、連邦において了承する以外にどのような選択肢があるだろうか。快諾する以外に、彼らにどのような解答方法があるのだろうか?連邦において、モスコーの、同志ヨセフ書記長の意向以上に優先されるモノなどない。「同志士官諸君、聞いての通りだ。何としても、これを撃滅したまえ。」『『『はっ!』』』それは、一瞬のうちに幕の上がった光景だった。「神よ、我が敵を許したまえ。」傍で歌い出したのは、化け物と敵からおぞましく恐れられる我らが上官殿。大言壮語は、大言どころか謙虚なそれ。現実は、あまりにも、あまりにも非現実的。狂っている。何かが、おかしい。「神よ、我が敵を許したまえ。」逃げ惑う敵魔導師。たった、たった一人相手に二個中隊規模の連邦魔導師は遊ばれている。こちらの一個中隊はほとんど手出しすらする余裕すらないというのにだ。頭を押さえこまれて全滅すら覚悟した筈の我々。それが、たった一人の参入で立場が逆転するとは。「そは、無知にしてあわれな子羊。」ライフルに特殊封入式で守られた魔力弾が挿入される。けらけらと、いや、童心の笑みを浮かべる中佐殿。愛おし気に敵兵を見つめるまなざしと、ぺロリと舌なめずりする様はほとんど非現実的な光景そのもの。クスクスという何がおかしいのか笑うあり様の恐ろしさ。「そと戯れるぞ、楽しけれ。」ほとんど、教本で禁じられそうな緊急回避を強いられる連邦。何処の誰が見たところで、危険極まりないと非難するそれ。しかし死神の鎌を振り切ろうとする動きも、はたから見ていると無様なもがきにしか見えない。あまりにも、鈍重。迫りくる刃を避けるには、あまりにも遅い。「主を讃えし歌、我歌わん。」恍惚と。ほとんど喜ばし気に彼女は歌う。ころころと微笑み、楽し気に歌う。一切の咎めも感じさせない笑顔。一枚の絵になるような、本当に素晴らしい場違いな笑顔だ。「帝国が怨敵と遊ぶぞ、楽しけれ。」形成される発現式。4層の信じがたい密度の魔力式を形成するのは、信じがたいほど乏しい魔力。保持魔力がこれほど乏しい魔導師が形成したとは信じられない式にもかかわらず、だ。「怨敵が血で持って大地を染め上げん。」歓喜の声を上げて、放たれるソレ。その瞬間、全て飛散する。赤い赤い何かが、盛大に大地へ飛散する。「そを乾かし遊ぶぞ、楽しけれ!」滴る赤い液体。飛散するピンク色の人間だったもの。そして、対峙するのは晴れやかな笑顔の幼い少女。自分が狂ったと思った方がまだ現実的な光景。いや、案外狂っているのかもしれない。「おお、我ら主を讃えん。」満足げに頷き、盛大に信仰告白を始める上官の姿は恐ろしいものだ。綺麗な、澄んだ目。一片の狂気すら感じさせないその目。それが、逆に恐ろしい。まるで人形の様な御顔にくっついたその瞳。「約束の地ぞ、開かれん。」戦意が崩壊した敵魔導師が散開を試み、容赦なく追撃が襲う。いつの間にか展開された光学系狙撃式。音もない世界で、あっさりと敵が刈り取られている。まるで、祈りを妨げさせないための静寂。「いざ、歌え、いざ、歌え。」戦場にもかかわらず。戦場だというのに。静まり返ってしまった戦場で。「主の御心を、我ら讃えん。」我々の上官が、盛大に嗤っていた。あとがきεε= κ( ` ▽´)κご新規様初めまして。タイトルがアレでm(_ _;)m いや、別にタイトルが間違っているとは思いませんが・・。今回はこんな感じ。①狂犬投入!←参謀本部②狂犬投入!←現地司令部 ↓③危険だから部下を先遣しよう←中佐殿④後続の部隊護衛する戦闘団長殿ぱねぇ←皆⑤狂犬きたこれ←連邦軍☇⑥ぶっ殺せ←親愛なる同志ヨセフ☇⑦さあ、信仰告白を歌わせよう←???>Q猫様うん、頑張って書きます。なので、こっちを先に投稿させてください。たぶん、たぶん、次までには。ああ、今日も頑張って起きよう...では、おやすみなさい((_ _ (´ω` )ペコ補足説明言葉足りずで混乱させてしまい申し訳ないです。52話の最初のやつは、中佐殿が大戦末期(WWⅡ的に言えば1944年の春くらい?)に暴れ回る姿。第203遊撃航空魔導大隊がすり減って生き残りで編成された中隊的な。この幼女戦記の最初のページはなんか、イントロ的な奴でメインストーリーとの関連性はあんまりないです。タイトルから誤解されると思ったので有り難いお言葉を教皇特使アルノー・アモーリから頂き『Tuez-les tous, Dieu reconnaitra les siens』を描写してみようかなぁと思った次第です。95式は、基本的に動かせる人がいないのが原因でデグレチャフにまかされました。うん、専用装備なんだすまないね。呪われていようとも専用装備は専用装備!バクー油田は知らないのですが、ハグー油田ならあると思います。(本作は、愉快な夢と希望に満ち溢れたフィクションです。)そんなところです。後誤字修正しました。>kakkaka様言及があったリストは間違いなく活用しました。わらしべ長者的に。ZAP