あれは、とにかく繊細さがない。機動性の定義を辞書で調べろと叫びたいほど機動性を誤解している。鈍重だし、小回りは利かない上に精密性とは対極の設計だ。火力はあるが、敵より味方を巻き添えにするような命中精度。正直、硬いことを除けば全く評価するところがない。とはいえ、そんな演算宝珠だ。まったく、厄介極まりない。T3476型演算宝珠に対する技術部レポート。ヨセフグラードの攻略が完了との報告。居並ぶ中央の参謀らは無意味な戦いだったと醒めた表情で熱弁をふるうために送り込まれた東部軍の参謀を見ていた。南方のハグー油田は制圧との誇らしげな報告に至り、延々名演説を聞かされ続けた座長が手を振って制止する。その心中にあるのは、だがほとんど諦観である。彼にしてみれば、状況が自らの手からこぼれおちていくのを傍観せざるを得ない状況なのだ。「で、施設が全壊、再建の見込みなし。進軍した友軍部隊は燃料切れ。詰んだな。」だが、それでも。職務に忠実であったゼートゥーア少将は足掻くだけは足掻いてみるつもりだった。辛辣極まる評価に一瞬凍りつく東部軍の人間。それが視界に入らないかのように淡々とゼートゥーア少将は手元の書類に眼を落す。状況は、ほとんど嫌になるくらい明白だ。燃料の尽きた機甲部隊と歩兵が魔導師部隊に護衛されて孤立中。みれば一目で誘い込まれていたという事がわかる。「いかがいたしますか?」訊ねてくる兵站担当の参謀はほとんど顔面が蒼白だった。この最悪の知らせがもたらされて以来、兵站部の雰囲気は絶望を漂わせ始めている。ただでさえ、当初から危惧していた兵站線の問題。なにしろ、43号作戦の発動は参謀本部の意向にそむく形で強行されていた作戦だ。碌でもない事態は覚悟していた。それでも、ここまで絶望的になれば全滅すら予期される。「中佐、連邦の鉄道網は使えないのだな?」居並ぶ参謀の中から見覚えのある技術将校の顔。顔色のよくない参謀らの中で、技術畑の連中はどこか居心地が悪そうだとこんな時にどうでもよいことを思う。無理難題を押し付けるつもりはないので、そこまで怯えられても困るのだが。「はい、規格が異なるためにほとんど使用は不可能であります。」「鹵獲した車両は?」「軍全体を賄うには到底足りません。そもそも、補給線そのものが確立し得ないのです。」無理なものは、無理なのです。そう言わんばかりに数学的統計を使用して説明を始めようとする技術将校。一応、敬意を払いつつも手を掲げて制止。必要なのは、専門家の判断。つまりは、補給や技術を専門とする連中に求めるのは補給が可能かどうかという判断。そして、彼らが出した答えは不可。「・・・撤退しかあるまい。無駄に広い連邦で寸土に拘泥することに何の意味がある?」故に、戦争を専門とする将校としてゼートゥーア少将は専門家としての判断を下す。そもそも、土地を征服し尽くせるほど狭くないのだ。そうである以上、対連邦は敵野戦軍撃滅以外に勝機はない。だが、この状況は必ずしも望ましくないものがある。深く入り込みすぎている。そして、当初予定されていた敵野戦軍の撃滅には至っていない。なればこそ。しかめっ面のままゼートゥーア少将は結論として下がることを決断するように強く場を促す。中央としては、それ以外に選択肢があるように見えないのだ。「いえ、決戦に持ち込むためにもヨセフグラードを保持し奪還を試みる敵軍を引きずり出すべきです。」しかし、東部派遣参謀はこれに異を唱える。彼らにしてみても、状況は理解しているし苦慮してもいる。なにしろ、彼らは戦陣にあるのだから。それでも、だからこそここまで粘った彼らは戦果を見込んでいる。彼らが切望した決戦、撃滅の機会が今にも近づいているのだ。少なくとも、集結中の敵を捕捉できる絶好の好機。そう考えて彼らは中央を口説く。参謀本部のみならず、軍事参議院や各将官に対してなりふり構わず。「最後の機会です。今こそ、敵を決戦に追い込むまで引き下がるべきではありません。」どのような形であれ、敵が出てくる。そうなれば、東方派が切望している決戦に持ち込めるのだ。故に、東方派の意見を代弁する参謀はほとんど感極まって懇願する。勝つためには、一か八かであっても包囲撃滅し敵野戦軍を叩かねばじり貧だと。だからこそ、全力を挙げて決戦態勢をと彼らは逸っていた。「本気かね?こちらが場所を選べるならばともかく、今回は選ばされているようなものだ。」対するゼートゥーア少将は醒めきった顔を浮かべていた。戦争をしているという現実は、少将にとって数字の意味を全く別次元にまで昇華させてしまっているのだ。つまりは、数が全てを支配しているという一つの諦念。10人に1人が勝てることはあるかもしれない。低い確率だが、ゼロではない。だが、100人に10人が勝つのは?あるいは、1000人に100人で勝つのは?いや、今の現実に適用してみよう。100万人に10万人で対抗できるだろうか?10対10を10回繰り返すならば各個撃破も可能かもしれない。だが、それはこちらが決戦の場を選びうるという前提があればこそ。選ばされている身となれば、否応なく10倍の敵とぶつかる羽目になる。「いるだけで衰弱していくような兵站線を抱えて、決戦戦力を張りつかせろというのは狂気の沙汰としか言えまい。」そして、10倍の敵は強まることこそあれどもこちらは弱る一方。救い難い事に、こちらの主力はなにもせずとも衰弱していく。故に、馬鹿馬鹿しい限りとゼートゥーア少将は淡々と撤退以外の道を否定する。「・・・東部軍は、この決戦によって敵を誘引撃滅し得ると確信しております。」「意味がない。」食いさがる東部軍参謀に対する解答は、おおよそ簡潔極まる切り捨てだった。「・・・・・・・なんですと?」「で?タンネーン・ニ・ベイクにおいて15万だったか、1個軍団撃滅したにもかかわらず連邦は情報部によれば新規に2個軍団編成したらしいな。」もし。この場で感情に支配されていない人間がいたとすれば。悟っただろう。傲然と立ちふさがるかに見える参謀本部の実力者。恐るべきライン戦の立役者が苦悩しているのだ。「なればこそ、回復しきれない規模の打撃を与えねばこちらがじり貧になるのではありませんか?」「こちらが衰弱してはそれ以前の問題だ。ヨセフグラードに戦力を張りつかせれば東部戦線全域が薄くなる。わかっているのかね?」「そのための機動軍団ではありませんか?それにある程度の規模であれば誘引撃滅の好機でありましょう。」ぽろりと。まだ若い参謀が冒険主義的な言葉を口にする。タンネーン・ニ・ベイクで覚えた禁断の果実は素晴らしい味だった。自軍に圧倒する敵軍を引きこみ、包囲撃滅。おおよそ参謀、軍人ならば理想とする戦い方。華やかしく、名誉に満ちた勝利。「・・・私ならば。」だが、狂った現実で勝ち抜くことを考える参謀というのは少々視点が違う。少なくとも、奇跡の類を祈るほど神頼みで戦争するほどおめでたくはない。偉大な勝利は結構だ。その事に特に何かをいうつもりはない。だが、偉大な勝利が偉大な終戦につながるかと言えば、そうではないとゼートゥーア少将は知っている。「主力が突出している好機を見れば、東部戦線の突破による兵站線破壊を狙うがね。そうなれば、決戦以前に主力は飢えてお終いだ。」単なる数の暴力。おおよそ、戦術と無縁の力押し。だが、伸びきった脆弱な戦線でこれに耐えられるだろうか?なるほど、戦術の妙を発揮すれば一部は押し返せるかもしれない。それでも敵に1点でも抜かれれば阻止するための予備隊が必要になる。広大すぎる防衛戦に予備隊を投入して火消しできるかといえば全く別問題だろう。「そうやすやすとは抜かせません。なにより、いざとなれば温存している大陸軍予備部隊を投入すれば良いではありませんか。」ああ、とゼートゥーアは理解した。さきほどから、妙に疲れると思えば。人間、苛立ちが募ると何もかも億劫になるらしい。思わず人目が無ければ手元の灰皿を能天気なことをのたまう馬鹿ものに叩きつけてやりたかった。「なけなしの戦略予備を前提にするべきではない。」「理屈はともかく、現状では取りうる最適な選択肢であります。」馬鹿なことをいう奴だと叫びたいが虚しい。はっきりと言って、この会議自体実のところガス抜き目的で行われているに過ぎないのだ。参謀本部は帷幄上奏権を有するが、帷幄上奏権を有する唯一の機関ではない。たとえば。各方面軍上がりが大勢を占める軍事参議院にも帷幄上奏権はある。作戦指導は参謀本部の管轄事項だとしても。皇室や宮中まで干渉できるほど軍は国家の中の国家たりえていない。「馬鹿なことを。機動軍団とて、まともに戦えるのは参謀本部が出した戦闘団程度ではないのか?」この会議は、作戦の打ち合わせが目的という話ではある。だが、より上の腹の中が見えないわけがない。本来は参謀本部が起草していた戦略方針への露骨な干渉。軍事参議院そのものは直接的な作戦作成権限が無いにしても、上奏はできるのだ。それが通れば、参謀本部は目的を追求せざるを得ない。・・・ここまで反対している参謀本部に、打ち合わせ?形式論だ。誰もが、心中で理解していながらも職務にせめて忠実であろうと機動軍団への懸念を提示。側面を守ることになっている機動軍団の戦力は、額面はともかく内実は空っぽ。帳簿上は、複数の部隊を有する。「新編の部隊を複数有することは事実ですが、問題はありません。一定の戦力は有しております。」だが。新編の新鋭部隊などいるわけがない。編成されたばかりの部隊とは、要するに部隊として未完成という事だ。まして、今の帝国軍に素質良好な兵隊からなる新編の部隊を編成できる余力も無し。なにより。「・・・私の下に届いている報告では、“まあ、銃を撃つ真似くらいはできるかもしれません”との評価なのだが。」「どなたが視察されたか存じませんが、現場を御存じないに違いない。」苦々し気に、これだから現場を知らない中央派遣将校はという顔をする東部軍の面々。それを冷静に眺めつつ、参謀本部側出席者は醒めた眼を向ける。なるほど、確かに自分達は参謀本部の中央組。現場の事を引きだされたら、口をつぐむべきだろう。「ふむ、まあ確かにラインで生き残って叙勲された程度の将校だ。下士官に言わせればまた違うかもしれないだろうがね。」だが、親愛なる“錆銀”がそう嘯いたのだ。つまりは、その程度の連中しかいないのだろう。そしてここまで会話しても、東部軍の連中は、東方派の連中は賭けに出る素振りを隠そうともしない。この事実にゼートゥーア少将はほとほと絶望する。「っ。では、其れ相応の増援を頂きたいものです。」戦力が厳しい。ソレを指摘されて、引き下がるのではなく増強要求。はっきり言ってしまえば、露骨すぎる。「単刀直入に言おう。増援は出せないし、そもそも余剰戦力がない。」「・・・苦境にある友軍を見捨てられるというおつもりですか!?」東部軍から派遣された連絡将校団。その中で、これまで静観していた団長格の大佐が立ち上がり口を開く。正直なところを言えば、彼が抑えてくれることを期待したかったのだが。「大佐、貴様は馬鹿かね?そもそも増援など無用と豪語した揚句43号作戦で戦力をすり減らしているのは貴様らだ。」心中、何度目になるかわからない溜息をつきつつガス抜きだろうというべきことを言う。それだけが、今ゼートゥーア少将にできる最善だった。ほとんど、何の役にも立たないだろうと諦観しつつも言葉を続ける。「状況が流動的なのは御存じのはず。硬直した運用で破局を迎えるおつもりですか!?」「ならばさっさと後退して防衛線を固めろ。それで時間を稼げば我々も増援を捻出する余力ができる。」「それでは、将兵の血で贖った勝機を逃します!」・・・合理的な判断ではないのか。やはり、東方派は酔っているに違いない。いや、彼らは常識的なのかもしれん。どちらにしても、彼らは情がありすぎる。将兵の血で贖うのは勝利ではない。国家の生存だ。そこまで考えて、ふと、違和感を覚える。狂った世界の理で持って、人を諭す?私も、狂った世界の住人になりつつあるらしい。「・・・すでに、そんなものはない。」勝機を探すことが、軍人の仕事なのかもしれない。だが、自分には破局への道しか見えてこないのだ。まるで、誰かに破局への道を繰り返し繰り返し予言されているかのような気配すら感じつつある。いや、言葉を飾るまい。『それで、どうやって勝利する?』『徹底的に敵に敵の血を流させることを貫徹し、敵の戦争継続能力を粉砕します。』自明の計算式を説明するかのような淡々とした解答。思い起こされるのは、初めて出会った時の会話。あのときは、感銘を受けたものだった。今になってあの会話を思い出せば背筋が凍りつかざるを得ない。・・・・・・・・・・・・・・化け物め。あの、化け物め。今の、この帝国の現状を。未来を、今の世界を平然と予言していやがった。『敵野戦軍の殲滅かね?』『それは理想ですが、おそらく困難と思われます。陣地戦で防御に徹するべきではないでしょうか。』ちがう、あれは。あれは、知っていなければ言えない。・・・だが、人の身でどうしてそれを知りえる?「っ、しかし!やってみねばわかりません!」「大佐、正直に言おう。貴様らがゴリ押しすれば要求している45号計画は承認されるやもしれん。」・・・いや、間違いなくされるだろう。もはや、阻止し得ない。勝利という幻想を追い求める軍人どもに災いあれ。この戦争は、奴らが知っている形態の戦争とはもはや次元が違うというのに。「だからいっておこう。全滅だけは避けたまえ。東部軍が崩壊すれば、それこそ終わりなのだ。」ああ、負けない。ただそれだけ。それだけが、どれほど遠いのか。『はい、いいえ。勝利を目指さないのではありません。ですが、まず負けなければ帝国の勝利であります。』貴様を消極的と。それで、どうやって勝利すると訊ねた自分の愚かしさは嗤うほかにない。ああまったく、狂気の世界で平然としていられるアレはなんだ?レルゲン大佐が忌避するのが、ようやく、ようやく理解できはじめる。化け物。生み出したのは、我々大人。ああ、畜生め!!!!!デグレチャフより、戦闘団要員へ。おしゃぶりを銜えたお子様の救援任務だ。どこかの防疫官が仕事をさぼったおかげで、前線で足を引っ張る馬鹿どもが出てきてしまっている。とはいえ、遺憾ながら救い難い無能だろうと形成しているのは防衛線だ。放置しておけば、我々も面倒事に巻き込まれる。未だに信じられないが、我々は側面防御部隊の側面を援護する。本末転倒にも限界があるが、致し方ないだろう。念のため、戦闘団本隊は三種戦闘配置。状況を勘案し、一個中隊により哺乳瓶の配達任務を行う。泣きやまない餓鬼どもにミルク瓶をくれてやろう。第一中隊、私に続け。上が子守りをやれと仰ったのだ。本意ではないが、最善を尽くすぞ。ノイズ交じりの通信。悲鳴交じりの通信を耳に、ターニャ・デグレチャフ中佐は全速で空を駆けていた。金髪をなびかせながら、彼女は白魚のごとき繊細な指で手元の演算宝珠を握りしめる。絵だけみれば、それは戦乙女。あるいは、天使と評してもよいほどの可憐な飛影。『グループリーダーより、戦闘団各員へ。敵の新型だ。遺憾ながら、かなりやる。』『防殻が分厚すぎる!爆裂式系では貫通できない!』『集束させろ!光学系術式で一点を貫け!』『駄目です!?硬すぎます!』凛とした強い意志を感じさせる碧眼は、恐れを知らない彼女の勇気を物語り噛みしめられた白い歯は、友軍の苦境への思いを表しているかのようですらある。だが、その外面とは裏腹にターニャは心中では自身の決断を盛大に後悔していた。新型が出張ってきたというので、鹵獲してやろうと思ったのがつい先ほど。たいていの場合、新型というのはモルモットだ。そして、連邦の新型というのは鹵獲できればそれなりの功績になる。側面防御が任務の友軍部隊。機動軍団所属の連中が、突発的な襲撃で混乱している程度であれば大した規模でもないだろうと油断していた。どうも、襲撃を受けたことによる混乱というよりも新手の敵に対抗できない事によるパニックで崩壊しているような気配がある。下手をしなくても、自分から危険地域に飛び込んでいるというのが現状だ。部下は戦争狂だが、私自身は保身主義者なのだがと心中で激しく後悔。『CPより戦域管制。サラマンダー戦闘団が戦域へ来援中。600以内に到着予定。』ともあれ、ここまでくれば阻止しなければ自分も厄介事に巻き込まれる。幸い、肉壁が全滅していない以上後ろから援護できるだけでもついていると思う事にしよう。「サラマンダー01より、グループリーダー。敵新型の位置情報送られたし。」さしあたり、通信回線の状況は良好。駄目でも要請するだけならば、タダだ。割り切って通信回線を開いてみれば、あっさりpingに反応がある。ふと頭に疑問が浮かぶ。・・・いったい、敵魔導師はジャミングを何故しないのだろうか?人形じみた顔を歪めつつ警戒の度合いを一つ上へ。碌でもない事態しか想像できないと眉をひそめる。『ち、チャーリーリーダーより、サラマンダー。現在データーリンク中。』「っ、驚いた。何故戦線崩壊していない?」だが、次の瞬間送られてきたデータに本当に愕然としてしまう。敵魔導師大隊に、友軍魔導師中隊が突破分断され友軍歩兵部隊が各個に抵抗中。一言で言えば、蹂躙戦を受けている最中と形容しても差し支えが無い状況。にもかかわらず、データを見る限りではどの部隊も持ちこたえている。練度がここまで低い部隊が、ここまで抵抗できるには何か別の原因が必要に違いない。「敵は撃ってこないのかね?それとも、撃ってきても当たらないのかね?」敵が撃ってこないのであれば、予想もつかない事態だ。その時は、取りあえず危機にないのだと判断したことにして全速反転しよう。引きしまった顔の裏側で、逃げる算段を考えつつターニャは返事を待つ。『ご冗談でしょう!?散々撃ってきますし、あの馬鹿げた威力に当たればタダではすみません!』「把握した。つまり、よほど頑強で馬鹿げた火力だが大して当たる不安はないということか。」解答は、どうやら火力馬鹿。命中率が低くとも、火力でその低さを補うつもりのコンセプト。恐ろしく硬いという防殻と防御膜を考えれば、蹂躙戦用なのは間違いない。幸い、敵の動きが鈍いので対応は可能だろう。だが戦術で対応しなければならない。つまりは、危険な綱渡りの必要も少しあるという事。今回は壁がいるのでだいぶ楽だが。「対魔導師戦闘の基本は、一撃離脱だ。諸君、少し見せてやろう。」超長距離ながらも、敵魔導師の一部はすでに攻撃射程圏内。すばやく魔力を演算宝珠に叩きこみ、造り置きの固めた魔力も惜しみなく注ぐ。長距離砲撃じみた爆裂系だが、幸い友軍は距離をとっていることもあり誤爆の心配はいらない。まあ、必要があれば誤爆やむなしと割り切っているが。ともあれ、高速で飛翔しつつ最大限絞って狙いを定めた爆裂式が発現。離脱不可能な速度で持って、敵中央にて強烈な爆発を惹き起こす。蹂躙戦用に固まっていたところへの規格外な一撃。短期間で注ぎ込める限界レベルまで注ぎ込んだ上で撃ち込んでやったのだ。「馬鹿な。目標が健在だと?」「・・・っ、驚きました。中佐殿の一撃を受けて浮いていられるとは。」だが、並大抵の魔導師ならば受けただけで墜ちる規模の爆発にも連邦の魔導師は耐えて見せた。正直、信じがたい。「っ、堅固にも限度がある。集束系統の光学系だ。ワンショットでしとめろ。」咄嗟に敵の防御膜自体は消失している事実に注目。防殻へも全く打撃が与えられないというわけではないらしい。そうであれば、広域に破壊力を撒き散らさずに集束させればと可能性を見出す。手早く攻撃方法を再検討。このような状況下において、何かをまくし立ててくる現地部隊への対応は後ほど考えることにしよう。今はともかく迎撃最優先だ。なにしろここまでリスクを冒して前進している。だが、思ったほどには手古摺らずに済んだ。中隊から前衛小隊を斬り込ませ、私は残りの後衛組を率いて長距離射撃戦を展開。光学系集束式ならば、分厚い防殻も貫通は可能。必ずしも一撃必殺とはならないが、少なくとも有効打は与えられた。後は、接近した連中が魔導刃で斬り伏せる。「ゾーン・クリア!」満足げに頷くと、ターニャは手早く部隊の損害を確認。自分の中隊はやけど程度。また、突撃を受けた友軍部隊は手ひどく追われたが損害自体は軽微らしい。とはいえ、損耗比率の詳細は調べる必要がある。逃げ惑うだけの新兵と、適当に追いかける連邦兵。練度も何も感じられない不毛な消耗戦の様相を呈しつつあるのが実感されて非常に不安を感じさせる結果だろう。「敵魔導師の墜落地点を捜索する。装備一式の回収が目的だ。できれば、遺体も収容したい。」一先ず、当初目的である敵新型演算宝珠の確保を優先する。可能であれば、連邦軍魔導師の遺体でも収容できれば敵の兵装や栄養状態も把握できるために回収を指示。「時間が限られている。手早く行動しろ。」辛うじて、統制を回復しようと足掻いている現地部隊の下士官をとっ捕まえて協力を命令。もちろん命令だが、“よろしく頼む”とプリーズを付けるのを忘れない。いやはや。現場から嫌われては、管理職などできることは限られているのだ。そんなことも理解できない新人を総合職として採用されているとわかった時の絶望ときたら。まあ、私は歴史に学ぶ。つまりは前例に倣う。「それと、友軍部隊の損害を調べろ。」「はっ?」「相対していた部隊の損耗が知りたい。犠牲を出すのは常に痛ましいものだ。」政治家の真似だが、まあ損耗に関心があるフリをしておくのは政治家にとっては必須の技能。お悔やみを申し上げますと同レベルだが、それでも効果があるのは選挙が実証済み。同情票など意味がわからない票があるのだ。世の中、痛みを共有するのはともかく共有する真似ならやって損はない。「了解。」ほれぼれとする敬礼で飛びだしていく我が戦隊の兵士ら。彼らならば、私の意図が疑われることもないだろう。私がニヤニヤ笑いながらお悔やみを言うよりも、彼らが真摯に同情してれば信憑性も増すというものだ。「厄介な相手だ。とにかく硬い。あれは、並みの魔導師では防殻を撃ち抜く前に蹂躙されかねん。」それにしても。本当に厄介な新型が出てきたものだ。とにかく頑丈だという点で、とにかく叩き落とすのに時間が取られる。物量主義の連邦相手にやるのならば、これは無視し得ない。手古摺っている間に、味方がやられかねない。或いは、自分の時に援護が期待しにくくなる。思わず、頭を抱えたくなるが自重。兵士の眼があることを考慮し、腕を組むことで代わりとする。「っ、毛色の違う相手が出てきたようだな。」さしあたり、戦闘団に警報を出しておくべきだろう。そう判断すると、ターニャは近くの野戦指揮所へ通信機を求めて足を向けた。第三種配置。それが、繰り上げられるのにはさほども時間を必要としなかった。「大尉殿!敵影急速接近中!規模、二個大隊相当!並びに後続多数確認!捉えきれません!」中佐殿が一個中隊を直卒されて友軍救援に赴かれため留守を任されたのはヴァイス大尉。当直室のすぐそばにある仮眠室で横になっていた彼にとってラインで聞きなれた音が耳に飛び込んでくる。そのまま跳ね起きると、即座に指揮所に飛び込む。「戦区に警報!機甲中隊へ即応命令。」当直士官が口を挟む前に部隊を動かすように命令。如何せん、親衛隊上がりの将校は攻勢には慣れていても突発的な襲撃を受けた経験が圧倒的に足りない。加えて、砲兵や補助魔導師中隊は右往左往しかねないほど練度に難点がある。「待機中の補助魔導師を索敵に出しますか?」「・・・いや、迎撃の用意だ。手早くやってくれ。」故に、彼は補助魔導師の索敵使用を早々に断念。統制を乱すよりも、手元にひと固まりの戦力として投入し得る状況を保持することを優先する。同時に、一番防御力が堅実な機甲中隊を外周へ配置するべく部隊へ出撃を命令。「了解であります!」訓練の賜物と、魔導師大隊付きの司令部要員らの経験が速やかな行動を生み出す。誰もが、咄嗟に通信機器や地図を取り出し一瞬のうちに状況を把握できるように動く。戦闘団の司令部だけは、24時間中佐殿の気分次第で抜き打ち訓練が施されるために一応の形にはなっている。限度はあるにしても、ひとまず満足のいく水準であることにヴァイス大尉は安堵。「機動軍団司令部へ急報。我、有力なる敵部隊と遭遇しつつあり、だ。」事態の急を告げる報告を、形式通り機動軍団司令部へ報告するように通信兵へ指示。命令を受け取った通信兵がキーを叩くのを見ながら、大尉は心中穏やかならぬ感情を辛うじて押し殺す。ここに残留している将校の中では、彼が最高位なのだ。部下が見ているという事を常に意識せざるを得ない。「・・・、よりにもよって中佐殿がおられない時にとは。」苦労人だと人に良くいわれる。自分の力量は、決して悪くはないが常識的な枠組みに留まりがち。言い換えれば、与えられた戦力相応の事はできるがそれ以上はできない力量。あの中佐殿のストッパーとしてならばともかく、戦術的才覚は平凡だと自覚している。それだけに、中佐殿が不在の時に攻勢を受けることには少々苦々しい思いを抱かざるを得ない。なにしろ、機動軍団が攻撃を受けているという事が何を意味するかわかるのだ。全戦線のうち、脆弱な横腹が集中的に襲撃されているという可能性。「グランツ中尉、一個小隊で後方警戒。連絡線の警戒を行う。」「後方に浸透されたとお考えですか?」そこまで考えた時、上官から命じられていたことを思い出す。そう、全面攻勢もしくは大規模攻勢におかれた際には包囲される可能性を考慮せよ、と。「考えたくはないがね。大規模攻勢だ。考えておく必要もあると思う。」敵が全面攻勢に出ているとすれば。中佐殿は、どこかが綻び決壊する可能性を危惧されていた。常に退路を意識せよ。兵には意識させるべきではないが、常に指揮官は逃げ道を把握するべきだという指示。それらを考慮すれば、やはり後方を信頼できる将校に守らせておく必要がある。「了解です。」手早く敬礼するグランツ中尉には、もはやライン戦線で見た情けない新米の面影はほとんど残されていない。頼もしくなったものだと思いつつ、答礼。足早に彼が退室するのを視野の隅に入れつつ、近づいてきた通信兵の方へ体を向けなおす。「大尉殿、戦闘団長殿からです。」受け取ったのはあまり暗号化されていない回線。本来は、あまり使用が推奨されないが緊急時に限って使用が許可されている。「ヴァイス大尉であります。」「大尉か、私だ。敵の新型と交戦。撃退はしたが、厄介きわまる。」ノイズ交じりながら、明瞭な声。そして、厄介きわまるという上官の評価。それだけで、敵の新型に関する警戒感が急激に高まっていくのが感じられる。「特徴はどのようなものでした?」「とにかく硬い。爆裂系では辛うじて防御膜を損耗はさせられても仕留められん。」第一印象は、強度。あの中佐殿が硬いと評価されるならば、それは間違いなく重防御なのだろう。「では、対処法は?」「確実に止めるには、集束系光学式。もしくは魔導刃だ。それくらいでしか防殻を越えられない。」そして、解決策は現状力技しかないらしい。聞いているだけで、あまり愉快な気分とは言い難くなる情報だ。近接戦闘になるまで近づくという事は、それまで火線に身を晒すということ。逆に、集束系光学式では動きが鈍くなりかねない。「あるいは、冷却するか燃やすのも選択肢かもしれないがこちらは試す暇がなかった。」試されていない情報が与えられるも、これは参考程度。「防御膜だけで長距離爆裂式や砲撃を無力化しかねん。」だが、防御膜だけで砲撃を無効化しかねないとは。硬いといっても限度があるべきだろうと、彼は溜息をつきたくなる。手早く、手持ちの対戦車ライフルを確認。光学系が使えない歩兵で落とせる相手かどうかで対応策は劇的に変わらざるをえなくなりかねない。「・・・随分と厄介な新型が出てきたものです。」それだけに、咄嗟に言葉となったのは諦観の言葉。戦場において、あまり良いモノでもないが。「幸い、火力はあるが命中率・機動性は共に鈍重だ。機動戦に持ち込み、狩るしかないだろう。」珍しく、中佐殿にしては歯切れの悪い解答。対応策が見当たらないらしい。伺う限りでは、中佐殿らは中隊の統制射撃と近接格闘戦で撃退したとのこと。結局、消耗が激しかろうとも機動戦で踊るしかないというのはあまり気分が乗らない仕事を意味する。顔色には出ないものの、大尉自身眉を顰めてしまった。普通の部隊で、それをやるとどれほど犠牲が出るかと思わず考えてしまう。高くつくというレベルではない。高すぎることにもなりえた。だが、彼の思考は唐突にオペレーターの悲鳴の様な怒号に割り込まれる。「大尉殿!アンノンです!魔導反応がライブラリにありません!」緊張が張りつめたような雰囲気。誰もが、一瞬アンノンという言葉に意識を向けてしまう。「どうやら、そちらにも出たらしいな。」だが、彼らの上官は実にこともなげに言ってのける。それを、当り前だと。驚くべきことではないと。いつものように平然とした口調で。「はっ。」そして、ヴァイス大尉は良識的な人間であった。つまり、いわんとするところは与えられた命題をきっちりと遂行する人物である。そして、彼はできることは確実に行う。そこには一切の例外が無く、誠実な任務の遂行があるのみだった。いつも通りにやれと言われれば、その通りに行う。「可能な限り損耗を抑制しつつ遅延防御。可能であれば、撃退せよ。」「了解。」故に。ヴァイス大尉は適切に対応する。少なくとも、誰が見てもソレが適切であると考えられる程度に。あとがき( ´ ▽ ` )ノ ネムイちょっと、勢いで書いた。追記・修正するかも。ええと、いろいろとコメント頂いたのでまずそれから。①感想板からの再び二次創作に関して(暫定ながらも、取り急ぎ)>金子様◆5f2c60f4⇒金子カズミ◆324c5c3d ID:41149635様と同じ方でしょうか?ええと、なんて言えばいいのかな、初めまして?正直、全く考えてなかったので如何したら良いのか・・・。らいとすたっふルール2004とか二次創作のルールそのものはいろいろあるみたいなんですが、それでご飯頂いている訳でもないので。あんまり、うるさい事を言わなきゃならないという立場ではありません。取りあえず、本作はXXX板とかオリジナル板とかを避けていただけるなら今のところArcadiaさん内に限り二次創作でどなたでも(まあ、いないだろうけど。)世界観とか使って頂いても大丈夫にしようと思っています。ただまあ、できれば、おんなじところなので一言なにか適当にでよいので事前に伝えてもらえると心臓にありがたいです。後、好き勝手本編は書くのでそこは最低限ご了承ください。予想外にも程がある事態なので(まさか、二次創作が出るような作品だとは!驚きでした。)率直に言えばこれで良いのかちょっと自信がありませんが一応こんなところにしたいと思います。Arcadia外では正直勘弁してください。たぶん、本質的にチキンなのでメンタルが耐えられるとは思えませんorz後、私自身いろいろなSSやコメントを読んで(実際できているかどうかは、別にして)勉強させてもらっています。それとコメントを頂けると励みになっています。これからもグダグダと書いていくかと思いますが皆さんよろしくお願いします。カルロ・ゼン===ここまで②うん、みんな大人なんだし、理知的にいこう。(´・ω・`)“私はあなたの意見には反対だ、だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る”ってボルテールの名言らしきものもあるらしいし。作品の好き嫌いあると思うけど、もういいじゃん。荒らさないで行きましょう。本当にヽ(;´Д`)ノ(チキンなので命かけられませんし、本当にボルテールが口にしたかは疑問でも)③お初の方々。(・ω・)ノタイトルドオリダッタデショウタイトルって重要だと改めて思いました。本当にorz④ロリコンは病気ですか?⇒アンサイクロペディアをご参照ください。⇔ロリヤはどうなるのでしょうか?⇒XXX版はありえません。⑤では、同志ロリヤの御顔を思い浮かべください。次回予告。罠が見破られたからどうだというのかね?見破られたところで、逃れられなければ良い話だ。諸君は知識と行動が常に一致するのかね?ロリヤ文書第22253号 ヨセフグラード攻防戦時期に作戦指令書に走り書きされたもの。次回、ヨセフグラード攻防戦。・・・君は、生き残ることができるか。追記作者はZAPされました。(誤字という反動的行為により)現在、新しい作者を培養中です。ZAP