罠が見破られたからどうだというのかね?見破られたところで、逃れられなければ良い話だ。諸君は知識と行動が常に一致するのかね?ロリヤ文書第22253号 ヨセフグラード攻防戦時期に作戦指令書に走り書きされたもの。懐かしい地について語ろう。怨恨の地だ。私の部下が、戦友が、幾多の戦士がこの地で亡くなった。そして、私は生き恥をさらしている。軍人としての私は、ここで死んだのかもしれない。いや、生き恥を晒し続けているのだ。残されたものの義務もほぼ果たした。もはや、私がすべきことは語る事のみだろう。『ヨセフグラード201』 著 エルンスト・ウィルヘルム退役元帥「第七区画通信途絶!」「第332突撃猟兵中隊より緊急、敵戦車部隊です!」「第54戦区に中隊規模の敵魔導師浸透中!」「即応中隊、予備が付きました!」「友軍航空部隊、来援まで300!」「第六ブロックのFACがやられました!」飛び交う無線通信。銃声や断続的に響き渡る砲声をバックに通信兵が声をからして叫び続ける。かき消されないようにと声をからして叫ぶ通信兵らを避けながら、第24戦区と名付けられた戦域を担当する若い中尉は最後の予備隊を率いるために駆け出す。市街地の区画ごとを争う市街戦。入り組んだ市街地は、その路地一つ一つの支配権を争い壮烈な激戦が繰り広げられている。『広域管制。第六ブロックは以後第七ブロックFACへコネクト。第54戦区に敵魔導師浸透中。』耳に飛び込んでくる広域通信に舌打ちしながら、彼は辛うじて中隊と共に送りこまれた第24戦区に到着。昔は立派だったであろう小学校の残骸に紛れながら、突破を図ってくる敵の歩兵部隊を迎え撃つ。手持ちのライフルは、超近接戦では役に立たないのでとっくの昔に放り出していた。手には、近接戦に優れた短機関銃とナイフ。小銃は選抜歩兵だけに与えて、機動力と投射火力を重視している。「着剣!突き殺せ!!!」怒号が飛び交い、各下士官らに率いられた分隊が各個に近づいてくる連邦兵と交戦。銃剣やシャベルという原始的な道具で人間が殺し合うというこの世で最低の戦場の一つ。いや、この世というよりはあの世の最寄り。はっきり言えば、碌でもないところだ。「Ypaaaaaaaaaa!!!!」「っ、押し返せぇ!!」同時に、最も油断できないところでもある。叫び声をあげながら斬り込んでくる敵兵にシャベルの刃を叩きつけ、痙攣するそいつの頭に叩きつけると蹴り飛ばす。辛うじて、というところだが中尉の分隊は浸透してこようとする敵歩兵を撃退できていた。「左翼の弾幕が薄い!機銃班、何やってるの!?」「押し返せ!押し返せ!敵はド素人も良いところだぞ!」幾人かの古参下士官らが中心となり、部隊は苦闘しつつも良好な統制を保持。押し込まれそうな陣地や、危うい場面もギリギリながらもベテランらの献身によって耐えられた。防衛線を瓦礫沿いに構築することにも成功。突撃してくる敵歩兵の流入量も、わずかながら減少しつつあるようだった。よし。上手くやれている。彼は、一先ず安堵の息をつく。状況は、流動的ながらも押し返しつつある。悪くはない。小康状態を確保し、逆襲への備えができつつあるのだ。ともかく、報告しなければ。そう判断した中尉は通信兵を探して視線を左右に動かす。だが、戦区司令部に向けて拠点確保の報を入れようと通信兵を探すために視線を動かした時。その時だった。「た、退避ィイイイ!!」魔導師。連邦軍魔導師。それも、一個大隊規模の魔導師が巨大な術式を形成しているソレ。ソレが眼に飛び込み、知覚と同時に中尉は叫び声を上げていた。確認された連邦の新型演算宝珠の威力。帝国軍技術廠によれば、馬鹿げた火力もお粗末な命中率でさほどの脅威もないとか。だが、とにかく頑強な連中で歩兵はとにかく奴らが苦手だ。そして、市街地では命中率も糞もない。区画ごと爆破されれば避けられるはずもないのだ。近くの物陰に飛び込もうと体を動かす。それは、叫ぶとほとんど同時だった。叫ぶと共に、行動を開始。しかし自分の行動があまりにももどかしく感じられて仕方がない。まるでスローモーションで敵の魔導師を見ているかのような感覚。信じられないほど、体の動きが遅く感じられるのに愕然とした時意識が突然墜ちた。「中尉殿?・・・フォスター中尉殿!?」シャベルは持ったかね?お子様たちの眠る場所を掘るためには絶対に必要な一品に違いないだろう?もちろん、敵の頭蓋骨に穴を掘るためにも使えるという意味では逸品といってよいものだ。ああ、5キログラムまではポテトマッシャーを許可しよう。諸君に限らず皆はポテトが大好きだからね。もちろんだが、いざという時のための鉛飴はたくさん抱えておくように。お子様たちが泣いているかもしれないのでね。舐めさせてあげれば静かになるだろう?うん、素晴らしい装備の手配は各自ぬかりないようだ。よろしい。準備はできているようだ。第一中隊、いつもの如く私に続け。いつもの如く、帝国に尽くせ。いつもの如く子守の時間だ。だが、あまりにも同じことの繰り返しでは飽きるというのも事実だ。なんなら、子守唄でも歌ってやろう。『ホテル7よりサラマンダー01。ホテル6よりコネクトを引き継いだ。確認されたし。』『サラマンダー01コネクト。感度が悪い。電波状況は最悪だな。目標を指示されたし。』ノイズ交じりというより、ノイズに通信が混じっているかのような通信状況。耳が馬鹿になりそうな雑音が多すぎると、ターニャは秀麗な顔を盛大に顰める。高度8000最大戦速で飛ばすには、連邦の空は夏でも寒過ぎだ。おまけに誘導ビーコンが散々混線した揚句に、信号そのものが喪失。ようやく繋がった友軍管制とのコネクトもノイズが8割というありさま。寒くて雑音にまみれながら不完全な情報で戦場に放り込まれるのを喜べるのは狂った歩兵指揮官くらいだ。『結構。友軍の歩兵中隊が第24戦区で中隊規模の敵魔導師と交戦後通信途絶。エリア24へ急行せよ。』舌打ちしたくなるのを堪えて頭に地図を思い浮かべる。第24戦区といえば、ホテル6管制下にあった戦区。FACが区画ごと爆撃か砲撃で吹っ飛ばされでもしたのだろうか。いや、友軍部隊が抵抗中という事はFACが狙撃兵にでもやられて混乱していることだろう。『サラマンダー01了解。敵部隊撃破と友軍残存部隊の収容を試みる。』通信障害から勘案するに、通信が途絶したのは一時的なトラブルによるものと判断。全滅していれば、友軍部隊の救援という手間が省けて楽なのだが。まあ、壁になるべき友軍部隊が摩耗すること自体は望ましくないと判断。一方で最大戦速にて追随してくる部下らは最後の盾だ。これもそう簡単にすりつぶしたくはない。だが、すでに戦区全域で連邦が攻勢を開始しているため手札を全て使わざるを得ない状況。機甲部隊と猟兵どもはすでにグランツ中尉の一個魔導中隊を付けてドーン河で交戦中。友軍連絡線の死守が目的だが、正直戦闘団程度に任せるべき任務ではない。辛うじて、機甲部隊と自走砲の機動力で浸透してくる敵の頭を叩いてひっこめさせてはいるが対処療法にも限界がある。『ホテル7了解。・・・っ、待て、追加情報だ。』難しいな、と唇から我知らずに溜息が洩れて白い溜息を生み出す。白銀の世界を駆ける姿は憂いもあって美しいと形容できるかもしれない。だが、当の本人にとっては頗る不快きわまる状況だ。『第23、25にも中隊規模の敵魔導師との報。くわえて後方より大隊規模の敵部隊がそれぞれ進撃中だ。撃退し得るか?』切迫した管制官の音声に頭を切り替える。咄嗟に思い浮かべる戦区地図で、第23-25戦区に撃ち込まれた楔の打撃力を想定。防御の固い連邦魔導師を先頭に強行突破を図る意図は明白。問題は、それを阻止するためには組織的な防衛線が不可欠という事。『難しい。引っ張りだこでな。この中隊で我々も打ち止めだ。』技量で劣るつもりはないが、如何せんあれは強固な防御力を誇る。あの防御膜を吹き飛ばし、本命の防殻を撃ち抜くにはどうしても時間が必要だ。どこか一つの戦区なら排除し得るにしても、そのころには残りが落ちているだろう。『ホテル7了承。阻止もしくは遅延戦闘で構わない。友軍の再編まで時間を稼いでくれ。』『サラマンダー01了解。』忌々しい事に、FAC共はいつも無理難題をいってのける。友軍爆撃機でせめてコミーの歩兵だけでも排除してもらわなければ到底手が足りるとは思えない。「・・・全戦域で攻勢を受ける?」ウラヌス作戦か?しかし、それにしては早すぎるような気もする。だが、タイムスケジュールなど信頼するべきではないしそもそもタイムスケジュールがあるかどうかも不明だ。気分を転換。やるべきことは、単純明瞭と割り切り効率を追求する。仕事は、雑念を払って専心すべきもの。まして、戦場だ。呑気に考えごとをする前に、敵を殺さねばこちらが死んでしまう。後悔や懺悔をするならば、せめて殺してからにするべきだと部下にもいってある。なにしろ、それは生者の特権だ。生命を賛歌したい気分である。これこそ、人間だ。『機動防御を提案する。防衛線を一段後退させたい。』生き残るためにも最善を尽くす。頭の中の地図を纏めると、ルートが分散している状況で抵抗するよりも後退して戦線を再編するべき状況と判断。幸い、第23-25戦区への交通路は第16戦区に流れ込む形だ。第23及び25戦区の防衛戦力と第16戦区の部隊を合流させればある程度の抵抗力は確保可能。同時に防衛線を下げれば、防衛正面に敵を誘導させることもできる。防衛線を後退させつつ、各個に敵を撃破する機動防御にとって最適な状況だ。市街地で機動防御というのは、教本にはないやり方だが成功の公算は高い。なにより、機動力に優れる魔導師部隊は動くのが本分。定点防御は機動力を持つ火力点を単なる火力点にしてしまう。『・・・FACの権限を越える。貴官の部隊は、遅延戦闘を行われたし。』『ホテル7、私には独自行動権がある。・・・認められなければ離脱すらできるのだぞ?』だが、提案に対する耳を澄まして返事を待った解答は聞くなり顔をしかめざるをえないようなもの。秀麗な眉をひそめるというよりも、鬼の様な形相を浮かべて通信機越しに声を少し落とす。やりたくはないが、死守命令を喰らうよりは独自行動を選択する方がマシに違いない。同時に、相手にFACの命令を唯々諾々と頂戴する訳ではないという意思表示。敵を造る行為でやりたくはないが、命に勝るものはない。ノーと言えるデグレチャフでなければならないのだ。『ホテル7より、サラマンダー01。貴方を敵に回すつもりはない。少しだけだ。すぐに上級司令部につなぐ!』結構だ。わかっているのならば、妥協しよう。『いや、済まない。感謝する。』やれやれ。後手後手に回りすぎている。先んじれば人を制す、というのだが。これでは、制されてしまうではないか。一応、友軍に事態を警告するためのレポートなり書状なりはばら撒いたのだが効果はいま一つらしい。主導権を回復し得ずとも、なんとか相手の意図を封じ込め続けたいものだ。せめて、コミーに国土が蹂躙される前に資産だけでも。どうにか、資産だけでもスイッツァランドに逃がす時間が欲しいところ。本音で言えば、帝国には東部戦線を再編して何とか条件講和に持ち込めればよいなぁとも思う。そうすれば分断は避けられるし、コミーの不愉快な拡張も見ずに済む。だが、今は目の前の事に集中するとしよう。『戦域まで60秒!総員、ツーマンセルを確認せよ。小隊ごとに、突入用意。』『『『了解。』』』B集団司令部を司るエルンスト・ウィルヘルム上級大将は憂鬱な表情で手元に届けられた情報を見比べていた。一つは、たった今前線の強行偵察部隊が収集してきた前線の情報。それによれば、連邦軍主力部隊はルージエンフ付近に集結中の徴候が顕著に表れているらしい。第9軍指揮官は、ただちに増援を要請してきていた。増援を送らねば、モスコーへ進軍するための起点であるルージエンフ突出部が包囲殲滅されかねない状況だという。通常の状況であれば、ただちに予備部隊を急派するべき状況。だが、一つのレポートがウィルヘルム上級大将の頭にストップをかけていた。機動軍団所属の野戦将校が書いたというレポート。ただの、参考という程度にはあまりにも連邦の行動原則を分析しすぎているとまで恐れられたソレの著者によるものだ。通称X論文として知られるレポートの著者が記した連邦軍の行動予想。それによれば、連邦軍はヨセフグラードを罠にかけるために各戦線で陽動攻勢にでると予見していた。あの病的に白い中佐。人形じみた表情に、らんらんと光る碧眼は狂気を感じさせて止まない。聞けば、戦場で盛大に讃美歌を歌っているという。白い外見と銀翼突撃章受賞の栄誉からから、“白銀”と二つ名を付けたらしい。だが、はっきり言って返り血に染まって“錆銀”も良いところだ。あの金髪など、月光で焼かれた狂気の色にしか思えない。通常であれば。あんな狂人の口にする予想など一顧だにしない。だが、あれは狂人ではあっても本物の狂気と知性が同居している。すくなくとも、味方より敵をたくさん殺せる士官だ。そんな狂気と英知のブレンドされたような戦況予想によれば。『敵の攻勢は全てヨセフグラードを起点とした作戦行動であり、我が軍は直ちに後退するべきである』という結論だ。東方派にとってみても、少なくとも撤退するべきであるという意見はともかく予想の正確さは認めている。なにしろ、第43号作戦に対する危惧は正しかったのだ。その点は誰もがしぶしぶ認めている。「本命は、ヨセフグラードでしょう。アレの嗅覚は信頼すべきだと考えます。」その最先鋒が第四軍団のヴィクトール・フォン・シュラー大将。東部派の中ではいち早く東方派の提唱する包囲撃滅作戦の危険性を指摘している人物でもあった。同時に、彼は東部派の将校としては珍しく西方のライン戦線で戦火の洗礼を受けてもいる。それだけに、ラインで鍛えられた狂犬の『鼻』に対しては経験則から強い信頼がある。あの戦場を生き残るには、何がしかの特別な嗅覚が必要だったのだ。その嗅覚を持ち合わせている戦場帰りの中でも、『錆銀』は卓越した勘を有す。「なにより、我々はヨセフグラードに大部隊を密集させ脆弱な横腹をわずかな機動部隊で防衛しております。」加えて、とシュラー大将は憂慮が止まらない。脆弱な横腹に、突出した集団。まるで、タンネーン・ニ・ベイクが立場を逆転して再現されているかのようだ。煙草に火を付けて、一服する態で動揺と湧きあがってくる恐怖を抑えながら彼は恐れている事態を口から吐き出す。「我々が引きずり込まれている可能性は無視し得ません。」「いえ、危惧自体は御尤もながら敵の本命はモスコー防衛にあるかと思われます。」だが、複数の参謀や将軍は強行偵察の結果を重視してやまない。集結中の連邦軍は、すでに軍団規模を凌駕し総兵力で100万とも予想される巨大な戦力。車両だけで戦車2000両。魔導師の規模も2000名はくだらない反応だという。これが、モスコー付近の突出部に集中して配備されていればその意図は明瞭だろう。偽装を考慮しても、さすがにこれだけの規模が動いているとなればどうやっても誤魔化せる許容量ではない。「ルージエンフ突出部は43号作戦の陽動でしたが、同時に包囲殲滅するために敵軍を誘引する目的も兼ねています。」連合王国ではなく、東方戦線、東部軍を優先するべしとする東方派、もしくは東部派にとってみればこれは絶好の好機でもある。確かに危機だが、彼らは同時に待望の決戦に敵の大部隊を引きずり出すことも可能になるのだ。この事実は、敵が主要な攻勢を駆けてくる地点をヨセフグラードと予想するシュラー大将ですら認めざるを得ないもの。シュラー大将自身、ウィルヘルム上級大将と同様にどちらが敵の主要な攻撃地点かは定かに判じ得ないでいるのが実態だ。ただ、シュラー大将はラインでの経験から狂犬が狂った理で持って真実を嗅ぎあてている可能性を排除し得ないでもいる。あれは狂っているが、同時に戦機に対しては誰よりも鋭敏だった。「しかし、現実にはヨセフグラードで激戦が繰り広げられている。増強があるとすれば、そちらの優先度は低くないはずだ。」我ながら、確信が無いというのは困ったものだと自嘲しながらの反論。ヨセフグラード攻防戦は、徐々に市街全域を制圧しつつある帝国軍と、なんとか時間を稼ごうとする連邦軍による局地戦だ。すでに実質的には攻略したも同然の地域。残敵掃討の段階にあるというのが、一般的な認識だ。ときおり、増援部隊が戦線を掻き乱すことで乱れることはあっても状況はこちらに優位とされる。実のところを言えば、連邦軍がより重要度の高いモスコーを面子にかけて今度こそ防衛しようとしたところで一向に不思議ではないのだ。「敵が、当初の想定通りモスコーを重視したとしても不思議ではありません。」事実、東方派の参謀らは当然の如くその事実を指摘してくる。面子を重んじる連邦が、狂犬に散々辱められたのはつい先日の事。その記憶も生々しい連邦にとってルージエンフ突出部は、確かに深刻な問題に見えることだろう。排除を切実に望んだところで、おかしなところはなに一つとしてない。いや、むしろそれを放置していることの方が理解に苦しむほどだ。「幸い、ルージエンフ突出部の防衛はある程度整っております。」自信ありげに、口を開く東方派の作戦参謀ら。彼らとて、ヨセフグラードの可能性を考慮しないわけではない。だが、彼らの常識にしてみればここまで大規模な戦力が1点に向けられることの意味は明白だった。たまたま、モスコーかヨセフグラードのどちらかが争点たりえた。そして、偶然ながらもどうやら連邦はモスコー防衛を優先しているということ。結論が導き出された後は、迅速かつ速やかに対応策が立案されている。「ここで、誘引した敵部隊を包囲しえれば敵の予備戦力をことごとく叩き潰すという当初目的が達成されるはずです!」戦争機械としての帝国軍参謀らは実に精緻な計画を立案し終えていた。大規模反攻作戦による敵の逸った攻勢を、逸らしつつ包囲に持ち込みその後撃滅。複数の部隊が連動し、各級指揮官の判断力が試されることになる作戦でもある。だが、これまで培われてきた帝国軍という組織はそれを可能と為し得るほどに精緻な軍機構を有した。同時に帝国軍人の力量は、過ちも多かったが決して劣ってはない。むしろ、野戦指揮官に関する限りは卓越したと形容し得る力量を現状でも保持し得ていた。それが意味するところは単純かつ明瞭。夢にまで見た包囲撃滅作戦があと一歩手前にまで迫っているという事実。誰もが。帝国中の誰もが切望してやまない完全な連邦軍撃滅の好機。「閣下、ご決断ください!」「閣下!!戦機は熟しました!御命令を!」誰もが、居並ぶほとんど全員が確信してしまった状況。ごく一部の将官だけが与えられた機密論文と情勢分析から危惧を覚えて躊躇するも、大勢は決している。なにしろ、根拠の乏しい一野戦将校の“勘”とやらだ。魔導師などという個人が卓越した力量を持つ世界で殺しあっている連中の“勘”というものの意味を理解できる人間は少ない。きっと、狂った世界の狂った仲間達だけがその“勘”とやらを理解できるのだろう。なにしろ、一般的には“白銀”というよりは“錆銀”とでも呼ぶべきおぞましい何かが囁くのだ。それを根拠に、自信に満ち溢れて決戦を待望する参謀らを説き伏せられるかと言えば答えは断じて否。シュラー大将は、舌打ちを堪えつつ煙草の煙を肺に吸い込み頭を回転させてどうすべきか急速に思案。不味い事に、ウィルヘルム上級大将自身はルージエンフ説に当初から傾いているようだった。ここで、大勢が決してしまえばおそらく上級大将は主戦場をルージエンフに設定してしまう。だが、悲しいかな。制止する材料が乏しい。加えて、自身もはっきりと確信を持ちえずにいる。いや、そもそも本当にルージエンフなのではないか?あの狂犬も勘所を外したのではないのか?そんな疑問が常に付きまとうのだ。故に、彼は躊躇した。そして、それ故に生涯その決断を後悔することになる。=====あとがき※白銀☜白い肌+銀翼突撃章=白銀だね!⇔現在、物騒すぎて“錆銀”呼ばわりされます。ええと、肌は白ですが、銀髪じゃないんです。残念。とりあえずターニャたん(*´Д`)ハァハァとかはZAPZAPして良いでしょうか?後、ロリヤの深謀遠慮に惚れた方は是非、お気軽に彼らのオフィスのドアをノックしてみてください。なにしろ、お気軽にと看板がかかっていたらしいので。今回は、第二次ルジェフ会戦を用意中です。次回、夢にまで見た大勝利にご期待ください。※>ゼブラフィッシュ様Σ(・ω・ノ)ノ驚きでした。(´・ω・`)ナンゾソレ?状態です。なんと言えばいいのだろう。知らんうちに、またなんか・・・。取りあえず、スルー。※また誤記という反動的行為があったので作者を培養槽から取り出しZAPZAPしておきました。本当に、困ったものです。あと、銀髪ロリカードとか、うん、危なすぎる。それは、ロリヤ勝利フラグすぎるので自重しましょう。一応、中佐殿はドイツ系ですので。いや、今から銀髪に変更も・・・・うん、自重。それにしても、東部軍不憫な評価orz弁護しておくと、彼らは有能なんです。というか、くまー族がおかしいんです。つ実際のスターリングラード攻防戦時に“NKVD”に処刑されたソ連軍人:その数なんと、一個師団を上回る1万3千人!損害を考慮せずにただ物量でひら押しするのが、これほどに恐ろしい。ZAP