あらゆる万物の中でも偏見と先入観程、将校にとって有害なものはない。愚かな将校たちは、敵コマンドを無学な野蛮人だと侮っている。なるほど、一見するとただ『神は偉大なり』と叫んでやたらめったら乱射しているだけのバーバリアンだ。精強な軍にしてみれば、その様な連中ごとき恐れるには値しない。もしも、真にそうであればどれ程楽だった事か。実際の彼らはその正逆で、経験から授かった知恵と、しかるべき科学知識の両方を兼ね備えていた。いや、或いは卓越した自己制御の強固な自制心こそを強調するべきかもしれない。どちらにせよ、彼らは完全に合理的精神の持ち主だった。そうでなければ。まだ扱いの難しかった当時の初期術式で、あれほどの損害が与えられるはずがない。彼らは各部隊の飛行ルートや天候の影響、赤外線の放射特性や大気の状態すべてを勘案した。あろうことか砂漠の複雑な環境を全て理解し、環境を味方に付けているのだ。砂漠の民ですら、その知識と経験に感嘆するほどに。その上で、『神は偉大なり』とつぶやき術式を起動していたのだ。決して単なる神頼みで、でたらめに兵器をぶっ放していたわけではない。無計画に見える乱射が何度、『偶然』大損害を我々に与えたことか考えてみればわかる。一度ならば、『偶然』だろう。二度ならば、或いは『不幸な偶然』だろう。だが、三度ならば、それは『必然』だ。その現実を認識できる将校がいないのは単純である。理解できるようなまともな将校は、すでに墓の下だった。軍の根幹である頭と補給線。そこが彼らの目標であり、同時に我々が期待する若者達を配属した所だった。故に、彼らが標的にしたのは、同時に最優の将校らだった。敵は充分な知性と教養を持っていた。狡猾さと用心深さ、勇気と臆病さはこれ以上望み得ない程卓越した将兵達。足りなかったのは物資だけだ。われわれの信じる『精強な軍隊』と彼らの差は、たったそれだけにすぎない。私の勝利は結局のところ物量の勝利なのだ。南方大陸戦線回顧録連合王国、モンティ元帥著より暗号化された通信…キーの一致を確認…クリア周波数の整合性を確認…クリア傍受阻害用のデコイチェック…クリア解読した結果を確認…偽装通信回線の確立正常。いささか、偏執的だろうとも実際は丸裸に近いのだ。歴史は、エニグマが丸裸にされたことを知っている。ウルトラ情報とは、要するに帝国の通信に他ならない。故に。ターニャは二重化された暗号通信をわざわざ指向性通信で行う。偏執的と笑われるほうが、位置情報を垂れ流すよりもずっとましだから。『ホテル01よりレイピア・コマンド』高度20速度230位置情報確認、誘導ビーコン正常。対地走査継続複雑化された通信は定型文と数字のみでやり取りされ簡便とは言いがたいそれ。だが、ターニャにしてみればそうでもしなければ傍受され解読されるに決まっている広域通信など使う気にはならなかった。臆病者が生き残るのだから。『戦域管制情報』感度良好。コマンドの隊列確認。目標までの所定時間は飛行計画通り。襲撃行動のフェーズは順調に消化中。『砂嵐確認されず。繰り返す、砂嵐確認されず。』最大の懸念である砂嵐。それらは、先行している航空隊の報告ではクリア。突入に際しての支障は一切排除されている。せわしく地形に合わせて飛ぶ部隊にもやや安堵の念が浮かぶ。『敵飛行場守備部隊、増援の徴候なし。』気がつかれた兆候も無し。いい前兆だ、とレイピア・コマンドを指揮するデグレチャフ中佐はほくそ笑む。敵の各種検知波を避けるための超低空飛行。砂漠の起伏に富んだ地形に追随して飛行する魔導師の発見は困難。奇襲には最適だった。防塵ゴーグルの徹底的な改良がなければ、絶対に決断することはなかったが。『発観測機、気象情報転送。』転送されてくる気象情報。『レイピア01より、ホテル01。受信確認、データ正常。オーバー』『ホテル01了解。グッドラック。オーバー』正常に受信できたことに安堵しつつ、ターニャは自分が発案したコマンド奇襲作戦の成功をほぼ確信していた。主戦線と違い、コマンド部隊はかなりの独立行動権が付与された自立性の高い部隊。ロメール閣下の御好意もあり、ほとんど通常の指揮系統からは解き放たれている存在だ。あまりいい顔はされなかったが、人員の抽出許可まで確保できたのは望外の幸せである。消耗した部隊の再編に乗じたとはいえ、古参兵を集めることができたのは上の協力があればこそ。それだけに、仕事はしなければならない。闘志旺盛であることを示し、上官の決断が費用対効果に見合うものであるという事を示さねば。それが、あるべき経済人として当然極まる行動だろう。だが、逆に言えば仕事をしていれば掣肘されることも少ない部隊。いざとなれば作戦行動と称して敵地に浸透し投降することすら可能なのだ。まあ、今は敵拠点襲撃が最優先だが。『レイピア・リーダーよりレイピア・コマンド』突入に備えて、ターニャは手持ちの装備を再確認。ごく微弱な出力で部隊内用の暗号化された通信回線を開く。『突入に備えよ。装具の確認を怠るな。』突入前の最終確認を指示。特に、砂塵や気温の変化でやられたグリスによる銃の動作不良に留意。術式を封入した特殊弾が、発射されずに銃口内部で術式を展開というのは最悪の自爆だ。連鎖的に広がりかねないので、初弾は必ず通常弾にせよと念押ししてある。一人の失敗で全体が巻き込まれるのは堪らない。自爆するならば、敵地でやるべきだ。最低でも、私に迷惑をかけない距離でやってもらわなければ困る。『湿度、気温は想定通り。風はほぼ無風だ。』素晴らしいことに、超長距離狙撃戦には最適の環境。そして、目標の連合王国空軍基地には航空用燃料がたんまりとある。加えて、近くにある航空機が運ぶための航空爆弾や銃弾も備蓄されている。まず、可燃物には事欠かないだろう。さらにいえば、それらはターニャにとって何よりも重要な安全という要素も満たす。なにしろ、超長距離で全員が狙撃するだけなのだ。術式を封入する特殊弾による長距離ハラスメント攻撃の応用。有利な状況というのは動揺や焦りによるミスも抑制しうる。つまりは、適切な環境というもの。その上で、敵に対する最も費用対効果の高い攻撃を行う。それをおこなうためだけに、長距離浸透した揚句にぶっ放して逃げるのだ。敵は後方拠点の防衛のために主戦線から大量の戦力を引き抜かざるをえなくなる。そうなれば、数的劣勢にあるロメール閣下への最大の援護となることだろう。『一次襲撃は演習通り90秒だ。60秒経過後に戦果拡張か後退の指示を出す。』襲撃は、まず可燃物を吹き飛ばす。ごく短時間に、極力火力を投入してできるだけ混乱を拡大。敵部隊の反応が悪くなければ、やたらめったら乱射して後退。混乱が拡大し、対応がばらばらになれば徹底的に火力を投射。その見極めは、60秒という短い時間。まあ、安全策を重視して悪くはないだろうというターニャの配慮だった。勇気とは勇者が墓場に持っていけばよいものである。少なくとも、経済合理性を重んじるターニャには皆無な要素。『襲撃開始は、15:00。ただし、赤の信号弾が上がれば即時離脱だ。』むしろ、その行動原理は勇気とは真逆。臆病で緻密な計算に基づいた計画的行動。例えば。時間設定は、連合王国の警戒が最も緩むティータイムを狙った。連合王国では、こんな砂漠だろうと本国での生活と同様にティーを楽しむらしい。こんな砂漠でまでティーを嗜むのかという思いが無いわけではないが、活用すべき情報だ。お茶会にお呼ばれしていない無粋な来客らでドアをノックしてやろうという帝国流のユーモアでもある。ブラックなジョークが大好きな連合王国人ならきっと理解してくれるだろう。思いついたときの自分は、素晴らしく冴えているとターニャは自画自賛したほどだった。まあ、危険だと判断したら即時離脱は忘れない。深入りするのは自殺志願者の行為でしかないのだから。『配置に付け。』灼熱の砂漠に身を伏せるのは、最悪の行為。銃身への悪影響も怖い。だから、射撃開始前に最後の確認。各部正常、異常なし。大変結構だと頷き、ターニャは部下らのハンドサインで問題が無いことを確認。出撃前に合わせた時計が、あと数分で攻撃開始時刻であることを物語っていた。さすがに精密な帝国製の腕時計は素晴らしい精度。この砂漠で酷使しているにもかかわらず、一応動作する。設計者は、よほど冗長性確保と動作テストを念入りに行ったに違いないとターニャは感心していた。スコープの先で優雅に紅茶を飲み始めている連中には、100年たっても造れないことだろう。まあ、連中の奇想天外な発想力と創造性には本当に注意しなければならないのだろうが。『開始60秒前。』だが、埒もない思考は飛び込んできた観測員の言葉で吹き飛ぶ。すでに発見済みの燃料貯蔵施設。大きすぎて、外しようのない目標に照準を合わせてゆっくりと引き金に指をかけた。・・・狙撃というやつは、そっと優しく引かねばならない。その点、非力なこの体というのは狙撃だけにはある程度適しているのかもと笑いたくなった。『5・4・3・2・1・オープン・フォィァヤァ!!!』初弾は、通常弾。飛翔物体が奏でる飛翔音以外には、さほどの影響も基地には与えないことだろう。ライフル弾の拠点に対する効果などたかが知れている。運のない敵兵に当たりでもすれば、ましという程度。だが、要するに試射なのだ。問題が無ければ、即座に本命の術式封入済み特殊弾が装填され放たれる。つまり。装填されている次弾からが本命。爆裂系術式が、砲弾のように燃料貯蔵施設や弾薬庫に飛び込んでいくということになる。『着弾!着弾!』観測員の叫び声とほとんど同時に火が上がり、一瞬で轟音と共に燃え上がるのが視認される。航空用のオクタン価の高い最高の可燃物だ。さぞかし凄惨な勢いで燃えることだろう。間違っても近くには居たくないものだ。『弾薬庫誘爆!』『貯水塔崩壊!』加えて、副次的に戦果が拡大。敵の弾薬庫に叩き込んだ術式は十二分な成果を上げて、盛大な轟音を轟かせる。砂漠ではそれに劣らず重要な水のタンクにも打撃を与えることに成功。水がなければ生きては行けないし、短期的には消火用水にも事欠くことだろう。『完璧だ!駐機中の航空機へ攻撃をシフトせよ!』予定通りに事が進む素晴らしさよ。にんまりと微笑みを浮かべつつ、駐機中の航空機に攻撃目標を変更。空で落とすのは少々面倒だが、地上で駐機中の航空機は本当にただの的だ。飛べない豚は、本当にただの豚なのである。飛べない飛行機も同じようなものだ。『襲撃経過から45秒!』飛び込んでくるのは、襲撃時間が半分を経過したという観測員からの警告。襲撃の継続か、離脱かを即断する必要に迫られているのだ。みれば敵守備隊はやたらめったら右往左往するだけ。統制のかけらも存在していないと言い得るだろう。基地の主要な備蓄物資も吹き飛ばすか延焼が期待できる状況。本来であれば、戦果拡張が最も望ましい。だが、気になる反応が基地内部に複数見られる。輸送機から?・・・空挺降下させる魔導師か?『レイピア・リーダーより、コマンド各位。』そうである可能性が高い反応だ。地上で出会えたことを運が良いというべきか、ついていないと歎くべきかは難しい。だが、少なくとも対応しないわけにはいかないだろう。『魔導師反応を多数感知。』即時離脱?いや、送り狼を抱えての離脱はハイリスク過ぎる。即刻排除の必要性を実感。時間が惜しい。『速やかにこれを撃破せよ。撃破後、即時離脱だ。』取り敢えず、撃破すればそれでよいだろう。組織的戦闘力さえ砕けば、送り狼足りえないのだから。ともかく、必要最小限の投資と納得できるリターン。欲を掻きすぎて行動経済学で笑われるのはごめん被る。『敵魔導師、規模推定中隊ないし増強中隊。』観測される反応からして、地上で叩けるのならば叩けるだろう。敵の反応は悪くはないが、その程度に過ぎないのだ。此方が一方的に敵を捕捉しているというのは、揺るがない事実。最大射程で爆裂系術式を一方的に投射。秘匿性と軽快さが重視される近距離戦中心の空挺降下装備では、限界があるのだ。いくら精鋭だろうとも、そもそも射程が足りない装備では話にならない。奴らの仕事は近接戦。我々がしているのは、遠距離戦だ。距離の壁は、交戦において絶大な意味を有する。『敵部隊の反応消失!』結局のところ、投射される物量の差が物事を決する。強固な防殻だろうとも、度重なる爆発と鉄量の前には削られるのだ。航空燃料や各種弾薬の誘爆もその場にいる魔導師にとっては致命的。危惧するまでもなく、あっさりと事は決する。実に簡潔な撃滅報告。それに大きな満足を覚えつつターニャは待ち望んでいた後退に移り始める。『離脱する!ツーマンセルを保ちつつ全速だ。』損害なし。戦果は、極大まで期待できるだろう。まず、間違いなく偉大な勝利と呼びうる戦果だ。誇ってよい。『・・・我々の勝利だ。コマンド各位、Prosit!』『『Prosit!! Frau Oberstleutnant!!』』「・・・負けたな。」一時的に病気療養のために帰国していたロメール軍団長。飛んで戻るなり、そう呟かざるを得なかった。彼をしても、手がつけられないほどに状況が悪化していたのだ。参謀本部から南方大陸戦線の急変と、留守を任せていたシュトーメン装甲大将急死の悪い知らせを受け取ったのはつい先日の事。急遽駆けつけたロメールの前で、戦況図は絶望的な状況を示していた。それは、見通しの甘かった本国と彼の失策でもある。敵の攻勢は依然として先であるという戦況判断の過ち。徹底して秘匿されていた敵の攻勢は、正に奇襲と形容するほかになかった。加えて敵物量は警戒していたものの、現実に突きつけられた数値は予想をはるかに上回る始末。戦況はもはや、いかにして全滅を避けるかというところにまで追い込まれていた。それすらも。彼ほどの才覚があれば、もはや絶望的だと判じざるを得ない程に。しょっぱなから彼我の物量差を見せつけられる始まり方だった。総計45万個を投じた高密度の地雷原、通称『悪魔の花園』。まずもって正面突破は不可能と見なしていたその花園。これで時間がわずかなりとも稼げる公算だった。『悪魔の花園』を敵が避けるならば、と。可能性の問題ではあったが側面強襲の作戦すら立案されていたのだ。それを、あろうことか連合王国は砲兵隊の砲弾で悉く駆逐してのけていた。正面から、物量にモノを言わせて解決し突破してしまっている。同時に、戦線各所や航空写真から総合して集められた情報が物語るのは絶望的な戦力差。収集された情報を統合すれば、敵魔導師・装甲部隊の規模は彼我に4倍弱の差がある。総合戦力に至っては、彼我の比較が虚しくなるほどだ。航空優勢は完全に確保され、こちらの補給は必要量の2割強しか確保されていない。いくつかの部隊は補給線が完全に途絶し、悪いことに通信すら確保できずにいる。「潮時か・・。やむを得ない。戦線を下げる。」後退の決断を下すのは早かった。他に選択肢などない。状況を考えるまでもなく、損害の最小化と戦力再編のために戦線を下げる必要性が迫っていた。あとほんのわずか東進すれば運河も制することができたというのに。これまで、南方大陸で常に奇跡を起こして来た彼らですらも変えようがない現実。物量という現実に遂に直面せざるを得ない時が来ていしまっている。誰もが口惜しく感じる中で、合州国の介入を知っている将校らはそれもまた止むなしと諦観を抱いている。今回の連合王国軍及び自由共和国軍の砲弾供給量の実に8割強は、合州国製だという統計分析。連中の装備している装甲車両と演算宝珠の大半も、出所不明という名目で既に介入を始めたかの国の物。物量差という事に関してならば、高級将校は気が遠くなるような物量差を思い知らされている。いまや、前線の将兵らはそれ以上の脅威を直接実感しているに違いない。「装甲師団を殿軍としよう。機動防御を行いつつ、戦線を再編する。」部隊を下げるために必要な手順。それらを、一つ一つ手配し戦線の再編にとりかかる作業そのものは順調に進められる。ロメールが集め、実戦で育てた幕僚たちだ。技量も、職責に対する意識も、なにより敢闘精神も何ら不足することはない幕僚ら。参謀教育の賜物である彼らは、軍人としてほとんど理想に近い仕事ぶりである。「魔導師を遊撃部隊として出す。一部を総予備とするほかは、全力出撃だ。」「ガソリンを後送する手配を急げ!」絶望的な状況にもかかわらず、彼らは義務を素晴らしく履行していた。その仕事ぶりに満足しつつも、将兵の優秀さという質では限界があることを悟らざるを得ない。卓越した質を圧殺せんとする敵の物量は、合州国という製造拠点を得て完全に確保されてしまった。意味するところを理解し、ロメールはほとんど暗澹たる思いに駆られてしまう。こちらの装甲集団は、ほとんど鹵獲した旧式車両と現地で共食い整備された装備に依存。魔導師は少数のベテランを除けば、戦前の基準ならば訓練不足と判断される素人ばかり。補給に至っては、敵航空優勢化における困難さを嫌というほど味合わされてきた。辛うじて、戦術で持ちこたえさせていた戦線だが所詮は薄氷の上で踊るような無理が付きまとっていたのだ。戦力比が完全に狂っている状況で常勝せよというのは所詮机上の空論である。戦術で奇跡が起こせても、戦略にはなんら影響が及ぼし得ないというのは戦略の基本だ。前提条件が狂っている以上どうしようもない。「北部戦線の状況は?」「対戦車砲が砲・砲弾共に不足。88㎜に至っては、全戦線で24門しかありません。」少なく見積もっても1000台は敵戦車がいるというのに、こちらの88㎜は24門。軍団長が、24門の大砲の配置に頭を悩ませるなど末期も良いところだろう。これで、どうやって敵の物量に対抗しろというのか?報告を聞いて、ロメールはいっそ笑いだしたくなるほど絶望的な状況に頭を抱えてしまいたくなる。『悪魔の花園』によって、ある程度敵部隊を拘束し消耗させられるとの公算だった。その間に、稼いだ時間で増強部隊を投入し部隊を再編するという計画は完全に破綻。要請した補給は半分も届いていない。今では、共食い整備どころか完全に遺棄せざるをえない車両すら出てきた。散々念押ししたガソリンと砲弾に至っては、欠乏と評するしかない状況である。泥沼化しているという東部の状況も勘案すれば、これ以上を望むのは現実的な希望ではないに違いない。「では、南部戦線の状況は?」「ロメール閣下、ファルゴーレ義勇師団が」「突破されたか。」あの弱兵ぞろいでは、駄目かと思いこんでいただけにロメールとしてはそう聞かざるを得なかった。なにしろ、精鋭で守りを固めていた北部戦線からしてボロボロに崩壊寸前まで叩かれている。義勇兵程度では、到底持ちこたえられないだろう。“政治的理由から、存在する義勇兵”とまで酷評されるほど。そんな彼の思いこみ。ある意味では、それが義勇兵に対する帝国軍の正直な思いだった。だが。「いえ、戦線を支えて辛うじてながら撤退に成功しました。」報告する参謀自身、信じがたいという思いがあるが事実は小説よりも奇であった。弱兵と、弱卒と帝国軍どころか敵からも侮られていた彼らが。最も奮戦し、彼我の戦力比を数えるほども馬鹿馬鹿しい敵を相手に奮戦。辛うじてながらも、戦線崩壊を防ぐ最大の立役者として力戦してのけていた。「・・・なんとも。見誤っていたのは私の方か。」あの鉄量を投じられてなお組織的に動いてのけた。この事実は、思わずロメールをして評価を一変させてしまう。見誤っていたとも、素直に口にしてしまうほどに衝撃的だった。予想外の嬉しい誤算である。はっきり言って、絶望視していた戦局。それがなんとかなりとも、後退し得る可能性が見えてきたのだ。少なくとも、滅入りつつあった気分を明るくする材料ではある。ロメールらの眼には、戦線を下げて状況を再編するために必要な状況が整いつつあるように見え始めていた。南部戦線が無事に後退できたということは、北部戦線は側面を気にすることなく下がれる。そうなれば、敵が水や燃料の問題に時間を取られている間に防衛線を再編するための時間が得られるのだ。厳しい状況ではあるが、まだ戦術の妙を尽くすことで破局は回避できそうに見えた。「閣下!友軍潜水艦より、緊急です!」それだけに、血相を変えた通信将校が次に口にした情報に思わず誰もが凍りつくことになる。「ダカール沖に、連合王国艦隊出現!報告によれば、揚陸部隊を随伴しています!」「何だと!?」防衛線後方、補給拠点と現戦線の中間地点。当然、ここを断ち切られれば圧倒的物量の前に帝国軍は崩壊する、そこに揚陸部隊を伴う連合王国艦隊が出現という情報。意味するところは、誰もが理解し得た。口にせずとも、誰もが理解した。・・・終わりの始まり。誰もが、脳裏で思わずその可能性を悟らざるを得ない。あとがき新年おめでとうございます。コメントへの御返事やもろもろの追記は後ほど時間ができてからでご容赦くださいorz今年もよろしくお願いします。追記コメント、いつもありがとうございます。遅くなりましたが、ご容赦ください。>三葉虫様うーん、まあ戦争の未来を予言した人ってその時代ではよくて変人扱いですからね。ハミルトン中将とか、機関銃の時代を予言したら呆けたとか言われてますし。知ってる人は、狂人扱いでどうでしょう?>でんでん虫様同志ロリヤの頭の中は、連邦最大の機密に指定されています。情報公開を幸せな市民としてご希望されますか?必要ならば、モスコーにあるシルドベリアにつながったオフィスまでいつでもお越しください。手隙の担当官が御相談に応じられるかと思います。>翠鈴様ええと、つまり、死亡フラグ回避の方向で頑張ろうと思います。>ee様あら?Oberstleutnantって、中佐だとおもってました。>ななん様たぶん、ターニャにシマーヅのような根性ないと思います。どうにか、考えてはみますが。>庁様(・_・;)・・・うーん、難しいご指摘を頂いてしまいました。書いてる本人としては、数寄者同士まあわかるだろうと思っていました。はっきり言ってしまえば、こんなタイトルですしorz読む人選ぶかなーと。ただ、確かにご指摘通り問題があるとも感じています。次回以降、元ネタが分かりにくいようなものがあればお手数ですがご指摘ください。>ふ~せん様逆に考えてみれば、シンプルです。質で優れていようとも、コミー程の物量がなければ・・・。>haka様いや、どっちかっていうと毒を食らわば皿までのゼー閣下にご期待ください。ZAPしました。ZAP