ダカール沖 連合王国本国艦隊所属第二戦隊(アグリーメント作戦前衛集団) Operation Agreement発動より13:25限定上陸による敵の締め上げ計画。さほど抵抗も予想されていない作戦だった。それが蓋を開けてみれば、地獄の釜を開けてしまったようなものだ。誰もがこんなはずではなかったと叫びながら、のたうちまわる羽目になっている。「フッドが!マイティ・フッドが!」水兵らが上げる悲鳴の様な叫び声。そちらに目を向ければ、事態は一目瞭然だった。戦場に響き渡った轟音と直後に立ち込める煙。そして傾斜しきった船体は最早フッドを救う術がないことを示している。開戦前には、列強海軍最強を誇った巨艦。連合王国海軍の誇る最大の軍艦にして最高の巡洋戦艦。海軍の誇るマイティ・フッド。それが、たった一撃。たった一撃で海の藻屑となり果てる?この眼で見ていても、あんまりだと誰もが叫びたいような光景だ。「アーク・ロイヤル被雷しました!」フッドの被雷で咄嗟に艦隊は陣形を解いて回避行動を選択。練度・反応共に望みうる最良の水準でそれは行われていた。しかし乗員らによる懸命の操舵も虚しく空母から轟音と水飛沫。不味いことに衝撃で揺れた影響で発艦しようとしていた艦載機同士が衝突し出火。艦隊のクルーがあっけにとられる間もなく、みるみる延焼し始めた。咄嗟に離脱に成功した海兵魔導師とクルーが消火を試みているが火の勢いは増すばかり。護衛部隊にしてみれば、これ以上雷撃を許すわけには断じていかない。フッドのクルーを救助するにしても。アーク・ロイヤルを救うにしても。敵潜水艦が徘徊していては、到底作業を行うために船を止めることすらできないのだ。怒りと焦燥に胸を焦がしながら、無意識のうちに誰もが歯を噛みしめる。だが、連合王国海軍駆逐艦バミューダのクルーは次の瞬間思わず神を盛大に呪う事となった。すぐ前方を全力で疾走していた巡洋艦イリアストラル。一瞬、嫌な音がしたかと思うと、水柱。「イリアストラル、イリアストラルが!」急速に傾きつつある船体と、沈み始めた状態からして艦を救う見込みはほとんど絶望的だった。巻き込まれるのを避けるためにやむをえずバミューダは針路を転進。イリアストラルより指揮権を継承し、傷ついた友軍を守るべく叶う限りの努力を全て行った。少なくとも、聴音手らの血のにじむような努力は報われる。「感あり!これは・・・推進音!?敵潜と思しき感1!」「直ちに転舵!急げ!これ以上雷撃させるわけにはいかん!」これに対して、連合王国の軽巡と駆逐艦の対応は迅速だった。聴音に支障が生じようともこれ以上の雷撃を阻止することを決断。迅速に敵潜水艦を制圧するため、直ちに多弾散布型のヘッジホッグが発射される。「音源を逃すな!ルイス、ヴィクターにも敵潜水艦を叩かせろ!」復讐戦への衝動と仲間を守るという義務感から、彼らは最善を尽くした。水兵らが次弾を装填するべく駆けずり回り、下士官らが声を枯らして作業を追い立てる。そこにあるのは、人為の限界にまで祖国に献身する将兵らの姿だ。だが、悲しいかな。彼らの動きは完全に裏目に出ることとなる。その時を待ち望んでいた海からの悪魔。魚雷に纏わりつくようにして運ばれてきた災厄。連合王国最悪の敵が海から姿を現すこととなる。「さ、左舷に敵魔導師!本艦に急速接近中!」「糞っ!総員、衝撃に」警告の声。其れすらも間に合わず、指揮をとっていた艦長の意識が肉体もろとも吹き飛ぶ。対潜戦闘用の投射爆雷や駆逐艦が積み込んでいる戦艦をも屠りうる魚雷の誘爆。「バミューダ爆沈します!」一瞬、理解できない感情に駆られる残存艦の乗員。彼らが、我に返ったのは見張り員の悲鳴のような警報だった。「魔導師!?魔導師です!帝国軍の魔導師が!」後続艦が警報に対応するいとまを与えず、突如として現れた魔導師らは術式を悠々と展開。本来ならば、戦闘機と海兵魔導師によって接近が阻止されているべき連中の出現。だが、少なくとも狙われた駆逐艦は義務を最後まで完遂した。駆逐艦ヴィクターは再装填済みだったヘッジホッグを敵潜推定位置に向けて投射。駆逐艦ルイスは咄嗟に使用し得る全ての砲口を開いた。そして、次の瞬間に誘爆させられた自らの武器弾薬によって瞬時に戦闘能力を奪われる。「ルイス、ヴィクターがやられました!」「・・・なんということだッ!」あまりと言えばあまりな事態。戦艦・空母を含んだ前衛が一瞬でほとんど全滅に近い損害だ。有力な敵艦隊に襲われて力尽きるならばともかく、わずか数発の魚雷と魔導師によって?連合王国関係者にとってみれば、誰にとっても、悪い夢としか思えない光景だろう。「直ちに爆雷・魚雷を投棄!誘爆させられる!急げ!」「撃ちまくれ!敵の数は少数だ!落ち着けば、制圧できない相手ではない!」だが、当事者達にしてみれば悪夢に魘される訳にはいかない。なんとか、手を、体を動かし懸命に足掻くしかなかった。数だけ見れば、襲撃してきた魔導師はたった一個中隊にも満たないような少数。理屈の上では、簡単に阻止し得る程度の敵でしかない。祈るような思いで、張られる弾幕と艦を隠すための煙幕。しかし、戦いの天秤は無情だった。人の努力をあざ笑うかのように、傾いた天秤は戻せない。「ヴィ、ヴィンセントが!」中隊規模にも満たないとはいえ、魔導師らの集中砲火を浴びたヴィンセント。辛うじて浮いてこそいるが、その戦闘力は瞬時に叩き潰されるところとなってしまう。喫水線を狙われたのだろう。その傾斜は浸水によって劇的に悪化していく。「・・・敵魔導師、本艦に急速接近中!?」そして、ヴィンセントが最早脅威たりえないと判断した帝国軍魔導師の行動は決まっている。急激に傾きつつあるアーク・ロイヤルから海兵魔導師らが牽制攻撃を行い介入するも、掣肘するには至らず。それどころか、応射される術式によって鎮火しかけていた火災がさらに悪化する羽目になる。精強な海兵魔導師といえども、火災や爆炎に包まれれながら、さらに敵魔導師と交戦するというのは限界が過ぎた。わずかばかりの援護を行った代価として、いとも容易くねじ伏せられてしまう。そして全力で対空砲火を開いていた最後の駆逐艦の運命が決されようとする。帝国軍魔導師らはこんな時でなければ見惚れてしまうほど見事な襲撃隊形を形成。「悪魔め・・・ッ!」ほとんど天を呪わんばかりに誰がこぼした時だった。今にも、今にも突撃を開始しようとしていた連中が、突如として陣形を乱す。直後、つい先ほどまで彼らが飛んでいた空域に対して、雨霰と光学系狙撃式が降り注ぐ。「救援です!本隊からの救援が!」沸き上がる歓喜の声。誰もが、生き残った誰もが、素早い友軍の救援に随喜する。対する帝国軍の反応は真逆だ。直前で増援に気が付き、咄嗟に散開してのけた彼らの損害自体はない。だが、最後の最後で邪魔が入ったことに嫌でも気がつく。『中佐殿!』咄嗟に散開してのけた練度の高さ。ほとんど奇襲じみた射撃を受けてなお統制を保ちえる組織力。何れも、卓越した技量を物語る。それだけに、彼らはよく状況を理解していた。『旅団規模の魔導師反応!我に対して急速接近中!』『ッ!時間切れだ!』急速接近してくる連合王国海兵魔導部隊は、最低でも旅団規模。追撃を受けながら、小型潜水艇で発艦した母艦と合流するのは不可能だ。いや、そもそも旅団相手となればそもそも振り切って離脱することそのものが困難だろう。『各自、残存艦に任意で撃ちつつ後退!』直ちに。ほとんど、躊躇なく部隊を指揮するターニャは後退を決断。同時に、追撃してくる部隊を少しでも割くべくハラスメント攻撃を即断した。辛うじて、健在の駆逐艦。それに対して、対艦攻撃の術式ではなく主として対人攻撃を想定する爆裂系術式を発現。吹き飛ばされる艦橋と、燃え始める船体は足止めに最適だった。追撃してくる部隊にとって手を割いて救援せざるを得ないだろう。あの傾斜で艦を保ちえるとは思えないが、空母の方も足止め要素たりえる。クルーを救うために、敵は追撃よりも救援に手を割かざるを得ない。つまり、それだけ送り狼が減り安全性が高まるというものだ。『離脱を優先する!乱数回避を怠るな!』ダカール沖について語るために少し時間をさかのぼろう。それは、不幸な経緯によってサラマンダーを率いる羽目になる前の話だ。人間、誰しも自分が使う訳でなければ幾らでも無責任になりうる。少なくとも、開発理念を提示した当の本人は自身が使用することなどまったく想定していなかった。そんな乱暴な経緯で開発が決定された兵器。連合王国海軍を恐怖のどん底に叩きこんだそれ。正式開発名称『海中汎用加速装置』、秘匿呼称V-2。開発がスタートするのはデグレチャフ中佐の短い参謀本部戦略研究室勤務中の事である。その日、技術研究計画に対して前線経験者として招聘されたデグレチャフ中佐は愕然とした。議論されていたのは、優勢な連合王国海軍並びに共和国残存艦艇対策。軍艦なんぞ、航空攻撃なり潜水艦作戦で減らせば良いではないか。延々と戦艦の主砲の大鑑巨砲論を聞かされ続けていたデグレチャフ中佐の我慢は限界に達し口が開いていた。『対艦戦闘?魚雷でもぶち込めば良いではありませんか。』と。パールハーバーなりマレー沖航空戦なりを知っている人間としては。魚雷をぶち込んでやれば、戦艦だろうと何だろうと撃沈できない洋上艦などないことは自明であった。だから。極言すれば、大量の攻撃隊を配備しようというのがターニャの結論である。潜水艦も悪くはないだろう。一次大戦時には、一隻の潜水艦が三隻の重巡洋艦を一度の遭遇戦で撃沈したこともあるのだ。もちろん、オブラートに包み込み官僚的修辞で持って言い繕ってはある。「昨今の優勢なる敵海上戦力を勘案するに、帝国軍をして優勢なる敵海上戦力を撃滅する最良の方策は雷撃であります。」だが、これに対する解答はターニャをして一度も想定し得ない類の解答だった。「・・・中佐、我が軍の潜水艦戦力では、阻止し得ない。」はっきり言って、何故潜水艦なのか?思わず思考が追いつかずにフリーズしてしまうほどに相手の解答はターニャにとって理解しかねるもの。別にターニャとしては潜水艦に決戦をやれなどというつもりは微塵もない。空母航空隊なりなんなりで、撃沈すればいいではないかといいたいところ。「いえ、小官は航空機による雷撃を話の中心にしているつもりでありますが。」「ないものねだりだ中佐。我が軍には対艦攻撃に使える雷撃隊は存在しない。」迂闊にも魔導師として空軍に疎いが故の誤解。その時、その場で知らされるまで。デグレチャフ魔導中佐は、空軍に雷撃機が無いという事実に気がついていなかった。なにしろ、知識にある太平洋戦線で散々航空雷撃が繰り広げられている。ビスマルクに痛恨の一撃を与えたのが旧式のメカジキ複葉機であることも知っているのだ。そんな人間にしてみれば、魚雷を抱えて飛ぶ航空機というのは、あって当然であった。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」え、ないの?なんで?なんで、ないの?その瞬間、ターニャは全身全霊で思った。一体何故か?と。あまりの疑問の深さに、思わず一瞬素で疑問を顔に浮かべてしまうほどに。そして鉄面皮と一部で囁かれる表情が一気に崩れ去った彼女。軍人然とした表情が崩れ去ってまるで年相応に見えた、と居並ぶ列席者が思わず、唖然とするほどだったという。「知らなかったのか?」「いえ、マルタール島で空軍は敵艦を撃沈したのでは?」空軍の戦闘詳報に眼を通す時間はなくとも、軍全体の一般状況を知る程度の事はしていた。御自慢の敵艦撃沈という戦果があったために、てっきり雷撃機が普通にあるものと見なしていたのだ。対艦攻撃時にも空軍との合同作戦はたびたびあったと記憶している。・・・いや、普通あるものだろう。ターニャにしてみれば、あるものだと見なしてきたもの。無いと言われない限りある程度情報にバイアスがかかってしまう。なにしろ、促成教育で実戦投入された挙句海軍との共闘は基本的に艦隊決戦の支援のみ。どこかにいるのだろうくらいにしか思っていなかった。「急降下爆撃によるものだ。戦果の大半は、駆逐艦か輸送船だよ。戦艦には通用しない。」だが、蓋を開けてみれば。何ともお粗末なことに帝国軍は大陸軍に代表されるように典型的な陸軍国家だった。海軍こそ近年の急激な拡張政策と増強に次ぐ増強で一線級をそろえられている。しかし、空軍は航空優勢と対地支援がメインの陸軍国家のソレ。「開発は?」「行ってはいるが、一朝一夕に完成するものでもない。1-2年はかかるだろう。実戦化はさらにかかるとみていい。」ほとんど懇願に近い問いかけは、いとも容易く希望が断たれた。唯一の希望は、高い技術力ながらもそれも期待できそうにないと来る。感情のままに行動することほど不合理な結末を誘引することがないとしても。経済的合理性を重んじる人間が、不合理を憎んでしまうという感情に囚われる皮肉は止めがたい。「では、潜水艦なり魚雷艇なりに肉迫攻撃を敢行させれば。」それでも、賢明な社会人として、軍人としてターニャはあくまでも代替案の提示を行った。空軍が対艦攻撃で無能なのは課題としてともかく、対艦攻撃はなにも空軍の専業ではない。むしろ、海軍にとってこそ主任務なのだ。だとすれば、魚雷艇や潜水艦といったオプションを海軍が展開するのはむしろ義務であった。特に、帝国軍の潜水艦配備状況は極めて良好であり連合王国のシーレーンを脅かしている最中である。洋上を航行中の艦船に魚雷を命中させる技量は、想像以上に困難であるが彼らはそれをやってのける技量があるのだ。「現状では厳しい。なにより、技術的制約が大きく命中率が期待できん。」だが、逆に言えばそれだけの技量をもって立ち向かわねばならない技術的制約が介在するのも事実。接敵し、雷撃を行うだけと言葉にするのは容易だ。しかし実際に雷撃を行うには信じられないほど複雑な手順が必要となる。理想的なポジション、艦首前方を確保し至近距離から雷撃できるかどうかはほとんど僥倖次第。目標の進路や識別といった初歩的な要素ですら熟達した士官ですら判別に困難を覚えるのである。魚雷の航行コースの計算に必要な的速・照準距離測定・方位角の算出に加えて魚雷の信管・深度を選ばねばならない。海軍側に言わせれば、デグレチャフ中佐の要求する肉迫攻撃を行う事は理想に過ぎないのだ。もちろん、自身が海軍関連について専門外であることをターニャとて自覚はしている。だが、合理的に考える人間には発想の転換と逆のアプローチという応用力も伴うのだ。具体的には、命中率が低いならば数で補えば良いという単純な発想。百発1中だろうと、百門用意すれば、目標には必ず当たる。「逆に考えましょう。魚雷はあるのですね?数で押せば良いではありませんか。」「あるにはあるが、運ぶキャリアーが限られている。洋上航行中の船団を殲滅できるだけの規模はないのだ。」しかしながら、そのような思考程度は実のところ既に出尽くしている。技術者というものは、新機軸での打開に傾きがちだが運用側は最善を尽くすもの。訓練や運用で低い命中率を補うための工夫は徹底して取り組まれているのだ。故に、現場の意見聴取という名目で何か案が無いのかと追い詰められている参加者にしてみればいつも通りの議論だった。すでに出尽くした意見の繰り返しならば、今日も特に得るところなしか。参加者がそう考え始めた時、その一言は呟かれる。「では、魚雷に魔導師を乗せて魚雷発射管なり潜水艦分離形式なりで射出するのはいかがですか?」追い詰められた人間の発想力というのは存外馬鹿にならない。そして、実際に実用化されたものは如何に狂気であったとしても平然と語られるものなのだ。狂気の兵器など世界の歴史を紐解けば、本が何冊かけることか。人類を何度滅ぼしてもなお余るとされる核の時代。核の傘と相互確証破壊理論というブラックジョークにしては愉快すぎる時代。そんな時代で暮らしたターニャにとって人間魚雷という名は一つの帰結だった。イタリアの小型人間魚雷や、日本の回天。「は?」「魚雷を有人化し、航行能力を与え体当たりさせましょう。なに、乗員は直前で離脱させれば問題はありません。」どちらにせよ人間魚雷のような狂った発想の兵器も受け入れられる土壌がある。そして、自分の命が一番可愛いターニャは護国のために死んだ先達と違い『命を大事に』がモットーだ。・・・まあ博愛主義とは程遠く、『自分の命を大事に』であるのだけれども。加えて人的資本の重要性について嫌になるほど理解している。だから、イタリアの人間魚雷の方がクレバーだと考えたのだ。ならば回天の破壊力とイタリアの人命重視の良いとこどりに躊躇はない。「・・・改修しろというのかね?しかし、時間がかかるのには変わりないだろう。」「改修自体は、比較的簡便です。艦隊で採用している魚雷を操舵可能とするだけです。」イタリアのアレはすごく合理的な設計だ。まあ、厳密に言えば魚雷というより小型潜水艇というべきだろうか?それで接近した揚句、機雷までセットしてのけた。アレクサンドリア港攻撃では、わずか3組に分かれた6人のチームが戦艦2隻を撃破。驚くべきことに油送船・駆逐艦も機雷で撃破している。費用対効果という点に関していうならば、回天よりもマイアーレに分があるだろう。というか、乗るならマイアーレに限る。(なにしろ安全だ)だが、回天の破壊力もまた魅力的なのは事実。「仕様は?」「艦隊魚雷に跨り操縦席を付けるだけです。射出形式が理想ですが、困難であれば分離方式でも良いでしょう。」つまり、良いとこ取り。魚雷の上に乗っていって、魚雷がぶつかって混乱している敵艦隊に吸着機雷をセットすればよい。「魚雷を最終コースに乗せたのち、吸着機雷による破壊工作を敢行。そのまま回収すれば良いでしょう。」「敵のド真ん前。自殺行為だ。兵器として致命的すぎる。」「費用対効果をお考えください。」イタリアが、6人で、戦艦2隻だ。コストをこれ以上削減して戦艦を沈めるのは相当に難しい。なにより、作戦に従事した6人は囚われたとはいえ死人は出さなかった。そう、人的損耗ゼロで圧倒的戦果が叩きだせるのだ。加えて海兵魔導師ならば、案外捕虜とならずに離脱も期待可能。無茶な話ではない。「本気かね?」とはいえ、特攻兵器、自殺前提の兵器の類は狂気の産物。戦争という狂気に追い詰められた国家が窮した末に苦悩しつつ発案する代物。あの極東の某国家ですら、特攻には異論が噴出したのだ。帝国において感覚的に許容される一般的な水準との乖離は凄まじい。「使えるのであれば、もちろん。」だが。戦争とは、『そういう極限状態に追い込まれるものだ』そんな前提条件で行動しているターニャにそんな機微は理解できていない。一次大戦前に日露戦争の戦訓から未来を導き出したブリテンの将軍が呆けたと評されたように。戦争というものは固定概念を経験という授業料の高すぎる教師から学ぶことでやり方が変わるのだ。まともな人間というものは、逆に言えば固定概念や常識から未来を考えがちなもの。言い換えれば、ターニャというのは彼らからすれば理解できない行動原理と理屈で動く怪物に他ならない。・・・ターニャとしては、ごくごく真っ当に歴史の知識を持ってきているだけなのだが。「・・・そもそも、実現性はあるのか?」それが、実現性困難性を言い立てて狂気の香りのするプランを阻止せんとする発言者の意図とはつゆ知らず。「アクティブ索敵術式と酸素供給式は高高度用の物を転用可能です。実用性・費用対効果、共に卓越すると信じております。」ターニャは淡々と疑問に答えていく。頭の中によぎるのは、技術に拘泥して失敗した別世界の悪例。ジャーマン系の悪弊は奇妙な新型兵器による戦局の打開に拘泥して既存の生産ラインに悪影響を及ぼすことだ。だが、この点に関しては人事管理で期待値と現実との乖離に悩まされた社会人経験は合理的たりえる。なにしろ、理論上の可能性ではなく知っている完成形から語っているのだ。実現可能性という点に関して、ターニャは軽々しく事を進めることのないようにと万全の配慮を常に行う。「技術廠としてはいかがお考えでしょうか?」加えて、ごく一般的社交辞令と責任回避の一環として専門家に話を振ることも忘れない。(他の参加者からしてみれば言い逃れを許そうとしない態度にしか見えないのだが。)ターニャの自意識としては、ごくごく真っ当なプロセスの踏襲。技術分野の議論に関しては専門家の意見を尊重することは当然だとすら感じているからだ。エンジニアを無視して社内管理ツールを造ったところでまともに動かないのは当然だろう。要するに、それと同じこと。「技術廠としては、試作命令があれば実現可能性はあるかと。」そして、専門家というのは聞かれたことには概ね正直に答えるものである。彼らとしても、簡単な技術上の障壁も克服できないと見られるのは望まないことだ。「・・・技術廠で研究するにとどめよう。兵を軽々しく摩耗させるのは賛成しかねる。」「もちろん、人命第一であります。その点には、なんら揺らぎがございません。」何ら打開策の見当たらない関係者にとってみれば、使える物を渇望していた。はっきりと言えば、座長以下誰もが渋々ではあるものの否定するだけの理由が無いという結論。それだけに、ともかく試してみようという程度の意図から開発だけには許可が下ろされる事となる。「結構。ぜひとも海軍さんで“小型潜水艇”として試験して頂きたいかと思います。」あとがき少しばかり忙しくて、更新が遅くなってしまい申し訳ないです。今回は、イタリアのマイアーレと日本の回天の良いとこどりです。個人的には、回天のような兵器を使わなければならない戦争をした時点で負け戦だと思います。ですが、回天に込められた狂気のような護国の執念は形容しがたい思いを抱くのも事実です。一方で、イタリアのマイアーレは何と言えばいいのでしょうか。ヘタリアがイタリアになったとでもいうのでしょうか?アレクサンドリア軍港での戦果は、圧倒的すぎて何とも言い難いものがあります。兵を無駄に死なせないという事を、イタリアに教えられるのは複雑な気分。・・・本作はフィクションですのでそこらの葛藤はさておきましょう。航行中の水上艦艇に魚雷をぶつけるのは、本当に難儀なこと。(サイレントハンターで、ちょっと外れた時のorz感。そして当たった時の爽快感ときたら、堪りません。)ついでに、一発くらいじゃ戦艦は沈みません。何本魚雷を当てろというのかというくらい、頑丈です。マイアーレの操舵性と、回天の破壊力を足してしまえば完璧じゃない?そう考えてみました。←巡洋戦艦・空母・巡洋艦はこいつで撃沈。あと、駆逐艦は爆雷や魚雷が誘爆して轟沈した例を参考にしました。(e.g.秋月とか)これからもご愛顧いただけると幸いに存じます。※誤字修正+誤表記修正前衛艦隊の編成(損害)は以下の通り巡洋戦艦(フッド)☜轟沈(雷撃による)正規空母(アーク・ロイヤル)☜浮力喪失・沈没(雷撃及び火災)巡洋艦(イリアストラル)☜轟沈(雷撃による)駆逐艦(バミューダ)☜爆沈(弾薬誘爆)駆逐艦(ルイス)☜爆沈(弾薬誘爆)駆逐艦(ヴィクター)☜爆沈(弾薬誘爆)駆逐艦(ヴィンセント)☜大破後、浮力喪失・沈没(被弾及び誘爆)駆逐艦(コール)☜中破、自力航行困難(被弾による)8隻中7隻沈没、1隻大破(=事実上の全滅)本隊・揚陸部隊は別に。