『大使というのは、自国の利益のために、外国で嘘をつくために派遣される誠実な人間をいう。』ある島国の外交官は、書類の余白にこう書き記した。ちなみに、その君主は自分の部下にかような精神の持ち主が存在することに驚嘆したとか。以後、彼がいくら手慰みに書いた軽口だと主張しても登用することはなかったという。実際のところ、良い外交官とは嘘をつく生き物ではないのだ。嘘は、何れ明るみに出るときがある。それは、外交官の、ひいては国家の信頼を損なう。で、あるならば。外交官とは、つまるところ沈黙することを学ばねばならないのだ。「・・・事態は、我々の知る限り、遭難した将兵かと思われますが。」例えば。明らかに、こんな問題を惹き起こすような佐官に心当たりがあったとしても。言い換えれば、生存に手段を選ばない佐官を知っていても。公式に知らされない限りは、知らないとしらを切ったところで全く問題はない。むしろ、それが今彼に与えられた仕事だった。如何にも、困惑を隠せないという表情を保ちながら駐在武官は嘯く。「どちらにしても、友好国に救助されたのは幸いでした。」『友好国』をわずかに強調しながら、それとなく微笑む。重要なのは、イルドアが友好国であるという形式上の事実。こちらの意図を偽って言葉にするのは、『嘘』だろう。だけれども、言葉というのは多様な意味と印象を相手に与えることができる物なのだ。それ故に、外交官という生き物は専門に養成されねばならない。言い換えると、そんな言葉で魑魅魍魎の跳躍跋扈する舞台で渡り合う外交官というのは存外対処が厄介な存在だ。お互いがお互いを天敵と感じていると言ってもよいだろう。だから、この場合相手が意気がって駆け込んできた軍警であるというのは帝国にとって僥倖ですらあった。「夜分に友好国とはいえ、貴国を我が国将兵のために煩わせたお礼をさせていただきたい。」言葉にするのは、外交上全く意味のない謝罪。言葉だけみるならば、誠実さにあふれる言葉になるだろう。行動に注目するならば、それなりに誠実に見えるかもしれない。実際のところ、帝国とイルドアの関係が微妙であるというのは事情通には知れた話。それゆえに、鬼の首を取ったように軍警がねじ込んできた時は駐在武官も心得たものだった。なにしろ、すでに速やかに手配させたワインと饗応の手筈が整いつつある。そうなれば、帝国による心からの『歓待』を楽しんで軍警諸君は引き返すのだ。途中、適当なところで記念撮影を行い感状でも送れば事足りる。救助したという名目での『感謝』を受け取って彼らは帰っていくのだ。結果は、『抑留』ではなく『救助』にすり替えられるだろう。「ささやかですが、饗応を用意しております。また、後ほど司令部に煩わせてしまったことに対する謝辞を。」「結構なことです。我々としても、『友好国』のために骨を折った甲斐があるというもの。」権勢慾やら、出世志向やら。ともかく、微妙な関係の国の鬼の首を取ったという幻想を抱いているのだろう。少なくとも、駐在武官は仕事がこうまでもやりやすいことを神に感謝する。実に、実に満足そうな中年の佐官が平均的な軍警というイルドアを哀れに思わざるをえない。はっきりと言えば、それがアレならばアカどもなり連合王国なりがいい値で買い取ったことだろうに。それを高々数本のワインと地元の料理で買いたたかれるのだ。つくづく、無知と無教養は恐ろしいものだと彼は嘆息しつつ、この幸運を神に感謝した。かくして、名もなき駐在武官らの尽力によりデグレチャフ中佐ら一行の身柄は秘密裏の内に帝国に移ることとなる。本国の意向により直ちに、身柄は本国に送還される事となっていた。最も、丁重な扱いながら本国までは一切の通信・行動の自由が許されなかったのであるが。「・・・せめて、新聞くらいもらえないものか?私は、士官としての名誉と待遇を要求する。」「申し訳ありませんが、中佐殿。それらは、参謀本部の命により禁じられております。」規則と規律を遵守することに生涯をささげた様な野戦憲兵による丁重な拒絶。すでに、何度目になるかわからないやりとりだ。ほとんどうんざりするような思いで、ターニャは延々と要求を繰り返し主張していた。お役所仕事相手にうんざりするのは、いつものことだが軍でもここまでとは!心中穏やかならぬものを感じ、遂にターニャは踏み込むことを決断する。「小官の軍籍が抹消されるか、将校クラブから除名されたのかね?」軍籍、そして軍籍以上に重い意味を帝国で持つ将校クラブへの所属。言い換えれば、これらは帝国において将校に対する名誉と権利を担保するものだった。参謀本部ですら、将校クラブの意向には配慮せざるを得ないほど将校クラブの権威は突出している。その将校クラブについて言及するのは一つの賭けだった。「いえ、中佐殿。中佐殿の軍籍も名誉も保たれております。」「軍曹。ならば、私の言わんとするところは理解できるかね?」全ての現役・予備役を問わず将校であるという事実は将校クラブによって保障されている。現役の将校だろうとも、クラブから追放されればその身の安全は保障されないも同然。逆に言えば将校クラブは同質性の高い集団であり、同時に極めて排他的な性質も伴う。将校クラブは名誉を重んじ面子を重んじる。将校クラブの者を将校として遇しないのであれば、それは将校クラブへの挑戦を意味した。ここまでされるのだ。ひょっとしたら、追放されたのかもしれないという危険性があった。しかし、将校としてあるまじき惰弱さで名誉を汚したものだけが追放されるのだ。言い換えれば、議論がある将校であろうとも勇猛でありさえすれば将校クラブでは賞賛される。そして、少なくともデグレチャフ中佐の名誉と誇りに対しては将校クラブが太鼓判を押しているのだ。「小官に軍人としての待遇を与えよ。」当然、将校クラブからの保障があるのならば『デグレチャフ中佐』には権利がある。名誉と其れ相応の対応を求める権利があるのだ。「中佐殿、大変失礼をいたしますことをお許しください。ただちに、指揮官に取り次いで参ります。」「・・・結構だ、憲兵軍曹。私が聞きたいのは、引き延ばしではなく解答なのだ。」苛立っているという表情をことさらに露わして、威圧。感情を表にすることは、こちらの意図するところを相手に理解させるという意図からだ。顔は口ほどにモノを言うという。将校ならば、誰でも自分の表情が部下からどのように見られているかを初めに叩きこまれる。逆に、下士官らは将校の顔色をよく理解してこそだ。「中佐殿、小官は中佐殿のお世話を命じられておりますが、指揮系統が異なります。」だからこそ、出来る下士官というのは敵に回すと厄介だった。舌打ちしたくなるような模範解答をしれっと言ってのけられる。少なくとも、筋は通っている逃げ口上。それだけに、ターニャとしてはままならない状況に嘆息したくなるのだ。イルドアで駐在武官らの手によって身柄引き受け手続きが進められた時は素直に感謝できた。だが、本国への移動が鉄道、それも『封印列車』モドキとなると少々事情が異なってくる。しかも抗弁が許されず、一切の情報が与えられず問答無用ときた。コンパートメントに部下と切り離されて放り込まれたのがつい先ほど。悪意かどうかは知らないが、あまり愉快な気分になれる待遇とは言えないだろう。「貴様は、随分と優秀なようだな。」加えて、監視要員として世慣れた軍曹がついてくるとなれば少々困惑せざるを得ない。「はっ、光栄であります中佐殿。」気鬱になることだ、と歎きたくなる。厄介な道中になりそうだと思う。よりにもよってこんな下士官に世話されることになるとは。そう、歎きかけた時ターニャは気がつく。・・・いや待て。この死ぬほど忙しい時期に熟練の野戦憲兵がこんなところをうろうろしているものだろうか?憲兵の本務は軍内の綱紀粛正と占領地の秩序維持であり、共和国領域や東方が主たる勤務地。そもそも、イルドアは管轄違いだ。どこをどう解釈しても、本来中立国のイルドアに帝国の憲兵がいる必要は皆無である。イルドアとの外交関係上、帝国軍人が入国は許可されてはいるだろう。だが、人手が渇望される野戦憲兵がわざわざこんなところにいること事態がおかしな話だ。「そこで軍曹、ひとつ貴官に聞きたいのだが。」なにか理由があるのだろう。結局のところ、人間は何処まで行っても行動原理に大差が無いとすれば、理由が絶対にある。嗅ぎつけた自身の嗅覚を信じ、ターニャはそれとなく当たりを付けた違和感を突きつけてみた。「何故、人手不足の野戦憲兵がこんなところ、そう、イルドアに“居た”のかね?」本国から送られてくる移送列車。それが、封印列車であるという事はなにか奇妙なものがあった。自分に対する悪意というよりは、丁重な隔離。そう、隔離だ。情報が与えられないというのは、一見すれば情報封鎖と封印列車の封印維持を思わせる物でもある。これらをみれば、なるほど憲兵付きで『私』が監視されている。「・・・、中佐殿、小官にはおっしゃることがいささか理解致しかねるのでありますが。」だが、おかしな話だった。隔離されながらも、拘禁されず将校としての名誉は保障されている。それでいながら、事実説明や何もブリーフィングなしで隔離された。将校クラブの面子を考えれば、あまりに微妙なラインを押し渡ろうとしている。外交上の配慮や機密保持など理由など、いくらでもねつ造できるだろうに。まるで、隔離が口実であるかのような扱い。そして、摩訶不思議なことに『憲兵軍曹』と数人が乗った列車が『封印列車』になっているということ。自分を移送するために、わざわざ彼らが本国からやってくるものだろうか?逆に考えてみればどうだろう?発想の逆転だ。我々は、確かにイルドアで憲兵に引き渡された。だが、なにも憲兵は『我々』を受け取るために帝国から来たのではないとすれば?つまり、『我々』の移送を名目に野戦憲兵を動かしたとすればどうだろう。「ああ、聞き方がわるかった。この時期に、『貴官ら』がイルドアから私と帰国するのはなぜかね?」例えば。封印列車の客室に、他に誰が乗っているのかと考えてみれば面白いだろう。なんでも、私と部下は引き離されてそれぞれ個別の客室に移されているらしい。それは結構だが。空きコンパートメントに誰が何のために乗っているのだろう?・・・いや、違うか。歴史が物語るのは、結局のところ同じ話だ。イタリアがドイツを裏切るのはほとんど既定事項。そうであるならば、ドイツはそれに備えていた。・・・帝国がイルドアの裏切りに備えたところでごく自然なことだろう。「そうだな・・・イルドアの占領政策の下見といったところかね?」そっと、なにげなく爆弾を放り投げ相手の表情を凝視。一瞬たりとも動揺を見逃すことなく、観察するべく相手を見つめる。そして、その反応は一目瞭然だった。眼がわずかながら泳ぎ、驚愕の色が顔に浮かぶ。一歩足が乱れたことがその動揺の大きさを物語っていた。無機質な視線で睨みつけられることの動揺以上に、真実が見抜かれたことへの驚愕。隠し通すべき秘密を見抜かれたもの特有の、動揺と躊躇いだ。間違いない。適当に考えてみたが、まさにアタリだ。「まさか、こんな時に観光旅行という事もあるまい。」そうなると、この封印列車事態が我々の送迎ではなく秘密裏に潜入した憲兵の回収列車。参謀本部の特命で送りこまれた軍偵が、堂々と国境を超えるということか。「・・・どうだろう、軍曹。貴官の見解が聞きたいところなのだが。」そこまで、口にして。ターニャは自分が何を口にしているか少しばかり冷静に考えることができた。うん?イタリアの裏切りと同じ時期?・・・ちょっと待ってほしい。良くも悪くも回転の速い頭は、見抜かれて硬直する憲兵軍曹を視界から早々に追い出し一つの解を導き出す。ターニャにとってみれば、あまりにも望ましくない結論。だが、合理的に考えてみればその可能性を否定するにはあまりにも状況が悪すぎた。それは、ひょっとして、そういうことか。あれなのか?帝国が本格的に敗北する時期が近いということか?いや、思い出せ。思い出すんだ。歴史上、ヘタリアは一次大戦では敵についても結局大した脅威ではなかった。二次大戦でも、イタリア戦線自体は戦後まで保たれていた。つまり、むしろ、これは、好機だ。これ幸いとイルドア王国戦線に留まれば、最悪の場合でも混乱の内に亡命できる。すくなくとも、コミー共に捕まる可能性はゼロ。安全度を勘案すれば、それが正解だ。「中佐殿、失礼ながら小官では判断いたしかねます。」「ふむ、それで?」頭の中の思案は、明瞭。それだけに、次に憲兵軍曹が口にした言葉はターニャにとって渡りに船だった。「・・・指揮官のところへご案内いたします。どうぞ、これまでの御無礼をご容赦ください。」「かまわんとも。貴官の義務を尊重する。」悠然と許しつつ、心中は好機到来に沸き立つ。これほどまでの好機は、ほとんどなかったのではないだろうか?ようやく、ようやく運が向いてきたに違いない。トルカイナ共和国の優雅な喫茶店。名高い海峡を一望できる喫茶店は、駐在外交官の間でも評判の店だ。そこで楽しめるトルカイナ珈琲についても、なかなかなモノと誰もが評価する。好みの差こそあれども、そこの喫茶店は常日頃から評判が良い店だった。それ故に、重要な商談で場所を望む顧客はここを貸し切り相手方に誠意を示す。心得た店側は、余計なことを囀らないように心得つつ、聞き耳を立てることなく場所を提供していた。そんな喫茶店である。本来ならば、誰もが喜んで商談に挑む場だろう。だが、ジョンおじさんは安物の紅茶を飲まされた紳士の様に苦々しい顔を浮かべ不本意そうに杯を空けていた。「いや、困った。これは、本格的に困った。どうしたものだろう。」ここに来たのは、仕事でだった。連合王国情報部との接触を連邦が非常に高度なレベルで望むというのはきっかけだ。行って来いと言われ、公務員の定めとして否応が無かった。「・・・我々はイデオロギーの相違を克服すべき。貴国はそうお考えにはならないのですかな?」モスコーにあるシルドベリア直通と噂される地下室発のメッセンジャーからのお誘い。きっと、碌でもない案件だろうと誰もが予想していた。それだけに、のらりくらりと交わすことを当初は求められたものだ。ジョンおじさんの仕事は、韜晦することだと本人すら覚悟していたものである。だが、蓋を開けてみれば予想外にも程があった。連合王国情報部にとってみれば予想だにしないメッセージ。いつもならば、建前仲良くしましょう、本音は糞喰らえだ。しかし、今回は建前仲たがいしましょう、裏では協力しましょうのメッセージ。言い換えれば、相互不信にもかかわらず協力の要請である。正直に言ってしまえば、信じられない。「うーん、仰ることはよくよく理解できるのですがね?」はっきり言って、喧嘩を売られるよりもよほど対処が難しい。かくして、秘密裏に中立国を経由してトルカイナ共和国入りしたジョンおじさんは、喫茶店で苦虫をかみつぶしていた。相手が目的も理由もわからずに、協力的になる?ありえるはずもない事態が、眼前に繰り広げられているとなれば驚くほかない。「いやはや、唐突な申し入れでして。私としても、いささか困惑せざるを得ないのです。」連邦の秘密主義は悪名高い。そんな連中が、情報資料を公開してくると一方的に通告してくる?本来ならば、欺瞞情報の山を掴まされると考えるべきところだ。だが、正直に言ってメリットがあまり先方にあるやり方でもない。すぐばれる欺瞞情報の山など渡されてもすぐに見抜ける。戦術的な欺瞞は可能かもしれないが、戦略的に欺瞞するための偽情報というのは正直扱いが複雑だった。「信頼していただけないだろう、とはロリヤ長官も申しておりました。」「ほう?」だが、驚くべきことに。信じがたいことにというべきか。「それ故に、一度だけ本部資料室を公開する用意がございます。」・・・今何と?ジョンおじさんは、思わず紅茶のお代わりを頼むことすら忘れて連邦特使の言葉を噛みしめていた。本部資料室とは、秘密警察の心臓部。それを、公開?よりにも寄って、一度限りとはいえ敵対する情報部に機密資料庫を公開!?「随分と、そう。随分と大胆な提案ですな。・・・見返りに何をお求めになることか。」例え誘い水であったとしても、すげなく一蹴するにはあまりにも魅惑的に過ぎる条件だった。はっきり言えば、『絶対に断れないような条件』である。これを拒絶する情報員がいるとすれば、その忠誠心が何処に向けられているかを問われることになるだろう。それほどまでに、この提案は連合王国情報部にとって魅力的すぎた。少なくとも、話を聞くべきか。ジョンおじさんの判断は、素早く纏められる。そして、その判断は直後の要求で揺らぐことになった。「ロリヤ長官は、モスコーを襲撃した魔導師らの身柄をお求めであります。付随して、そちらの記録を抹殺していただきたい。」「・・・失礼。例の魔導師部隊についてですかな?」求められる物は、『情報』でも『利権』でもなく魔導師らの身柄。普通の要求であれば、手放しで商談を取りまとめてしまいたくなるような案件だろう。だが、今回ばかりはジョンおじさんをしても見積もりが容易には出せない案件だった。「『サラマンダー』、あるいは『ラインの悪魔』とでも呼ばれていた部隊長が指揮する部隊です。」こちらが度々後手に回らされている案件の山。本国の机が粉砕されるほど、ハーバーグラム閣下を激怒させたあの『悪魔』。つい先日は、我が方の巡洋戦艦と空母を含む艦隊を沈めた『怪物』。捕まえて、尋問したいことは山ほどある。聞かねばならないことは、それこそ情報源から始まり腐るほどあると言っても良い。単純にその突出した戦闘力と驚くべき狡猾さを考えれば、簡単には譲れない。なにより、相手の対価を思えばその裏にあるのを勘繰りたくなるというモノ。「驚きましたな。いったい、このキツネに何をお望みなのですか?」はっきり言えば、重要な案件なのは間違いない。しかし、わざわざこちらが断れないほど魅力的な条件を出すべきものかと言えば微妙なのだ。理由を聞く必要があると考えざるを得なかった。「モスコーが蹂躙されるなど、あってはなりません。そのような記録は各国から抹消していただきたい。」だが、答えを聞いた瞬間、ジョンおじさんは納得が行きかける。あの面子と官僚主義的な連邦での醜聞だ。モスコーが直撃されるなど、誰にとっても悪夢だろう。その隠蔽に走ったところでなんら怪しくない。少なくとも、あの国ならば、やりかねないだろう。そう判断できる程度に、理由には筋が通っている。「醜態を隠匿されたいという事ですかな?・・・しかし、アレは我が国としても捕えたいのですがな。」それでもなお、ジョンおじさんは引っ掛かりを覚えてしまう。元より、相手が正直に話しているという保証はないのだ。こちらが、信じそうな理由を適当にでっち上げている可能性は否定できない。というよりも、それを当然疑ってかかるべき。「当然、貴国の醜態も隠匿されます。その上で、実行者らを引き渡していただきたい。」だが、この案件は微妙だった。相手方の理由がどうあれ簡単には、拒絶できない。こちらの醜態が隠匿できるとなれば、恥をかいた海軍は応じることを望むだろう。少なくとも、戦時報道管制は楽になるに違いない。「無論、事はそう簡単ではないでしょう。お返事は後日で結構です。」ジョンおじさんの苦悩を楽しむように一瞥した後、特使は微笑んで解答をすぐには求めないことを伝えてくる。少なからず、緊張していたのは双方共に同じらしいが相手はもう楽だろう。羨ましいことだと思いつつも、ジョンおじさんは平然とした表情を取り繕って意外そうに頷いて見せた。「おや、そうですか。」「ですが、ぜひご検討ください。」「ええ、そうさせていただきましょう。」後は、形式的な社交辞令に留まる。商談が取り纏まらなかったにしても、少なくとも意向を双方が把握できたのは幸いだった。そういう態で立ち去るだけだ。「ああ、失礼。杯が空いておりますな。・・・君!済まないがタンジール風ミントティをもらえるかね?」あとがき・・・orz更新できるように努力したいところです。たぶん、あと5話くらいで合州国にやってもらえるはず・・・。予定は未定といいますが。あまりお待たせすることのないように努める所存です。たぶんですが…。誤字修正。反動分子の作者をZAP中...次の作者は上手くやることを期待しています。ZAP