ごきげんよう。帝国軍、挺身先遣隊イルドアヌス戦闘団、戦闘団長ターニャ・デグレチャフ魔導中佐です。卑劣にも、同盟国を裏切り先制攻撃を行ってきたイルドア王国に対する防衛行動を指揮しております。この心中の動揺を、皆様に如何にお伝えするべきでしょうか。私には、この心を言葉にすることができないのです。願わくば、どうか名誉を知る者達の歎きをお聞きください。悲しむべき裏切りでありました。卑しむべき裏切りでありました。許しがたい裏切りでありました。帝国は、その剣の名誉を、護国の誉れを、共に高め合う事を誓った朋友から刺されたのです。名誉と自らの誇りにかけた誓いは破られました。信じがたい裏切りが、軽蔑されるべき背約があったのです。違えることなき鋼鉄の盟約と謳われた誓約が、誇りによって結ばれた盟約が破られたのです。名誉を汚す忌むべき裏切りによって!我らにとって、もはやイルドアはこの地上において共に天を仰ぐことのできない忌むべき裏切り者なのです。おお、祖国よ。おお、我らが祖国よ。復讐するは我らにあり!ラインで、東部で、南方大陸で我らは名誉と祖国の安寧を保つべく微力を尽くしてまいりました。その努力あたわず、祖国を危急の事態に追いやらんとする忌むべき策動を粉砕できない軍をお許し願いたい。どうか、御理解いただきたいのです。いや、願わくばどうか、御存じいただきたいのです。今度こそは、祖国を侵さんとする侵略の策動を粉砕して見せると。我ら、最後の一兵に至るまで祖国を侵さんとする邪悪な敵を打ち滅ぼさんと。この身が動くこと能う限り、祖国に害為さんと働く輩に喰らいつかんと。勝利万歳!祖国に栄光を!ジムナスト作戦艦隊、艦隊旗艦HMS ヴィクトリアウス帝国軍の南方大陸放棄とそれに伴うイルドア連合王国制圧作戦。これに対するカウンターとして発動された『ジムナスト作戦』は初めから躓いた。大量に出港した輸送船は、確かにイルドア王国に逃げ込んだ。それを確認するや否や、イルドア王国は対帝国宣戦布告に踏み切り越境を開始。ところが、直後に輸送船に乗っているのは少数の義勇イルドア兵のみと発覚。それどころか、国境から下がったところに重防御陣地が構築されているという始末。複層の縦深防御陣地で、正面からの突破は到底不可能な代物。にもかかわらず、塹壕戦の経験が浅いイルドアはこれに正面から突撃。あとは、大惨事だ。「いやぁ、困りましたね。これでは、戦争どころじゃない。」海兵魔導師指揮官、ドレーク少佐をして彼の長いキャリアの中で初めてみるほど間抜けな醜態だった。意気揚々とイルドア王国が撃沈した帝国軍輸送船に乗り合わせているのはなんと、イルドア義勇兵。あまつさえ、病院船に踏み込んでみれば連合王国・自由共和国の捕虜だ。つまり、連合王国海軍とイルドア海軍は間抜けにも意気揚々と味方を砲撃していたという事になる。「ラビッシュ極まりない、間抜けとはこのことだ。」そして、一方的な『侵略』を帝国は強く批判。正々堂々と、迎え撃つと称して即応してきた。観戦武官らの悲鳴のような報告によれば、すでに侵攻したイルドア主力は包囲殲滅の危機にあるという。明らかに、いくら帝国といえども手際が良過ぎた。なにしろ、南方大陸に上陸した我が方の部隊も水際殲滅の危機に晒されているのだ。ここまでくれば、どんな馬鹿でも嵌められたことくらい理解できる。「・・・状況を理解しているのかね?少佐。」それほど小さな声で呟いていたわけでもない。当然、ドレーク少佐の独り言というには大きすぎる呟きに居並ぶ将官らが不愉快そうに問いかけてくる。まあ、このような戦局でニコニコできるわけもないのだろうが。「問題なく。状況は、一言で言い表せば“最悪”でしょう。」情報部が一体何を嗅ぎつけてきたのかは知らない。だが、一杯喰わされたのは事実だろう。なにしろ、イニシアチブが全て帝国軍に握られてしまっている。イルドア王国軍は、崩壊寸前。こちらの攻撃部隊は壊滅寸前。どちらにしても、最悪と以外に形容しようがない。「なにしろ、奇襲したはずが手際良く反撃される。どころか、南方大陸では奇襲上陸部隊が包囲せん滅されたとか?」奇襲作戦の筈が、完全に看破されていたと考えるほかにない結果だ。「情報参謀が現在情報分析中だ。」「意味が無いでしょう。状況を勘案すれば、我々が嵌められたのは明白だ。介入するべきです。それも、速やかに。」実際、ここまで見事に嵌められれば手放しで称賛するほかにないだろう。しかしながら、同時に見事すぎる手際の良さというやつは相手の意図を理解する助けでもある。迅速極まりない、イルドア制圧作戦。これが何を意味するだろうか?もちろん、意図だけ見れば多面的な要素が介在するのだろう。だが、海兵魔導師からしてみれば単純だ。「・・・許可が下りない。これは、本来帝国が先制するはずだったものなのだぞ!」高度に政治的な理由とやらで、ジムナスト作戦中、イルドア王国は第三勢力として帝国と戦いたがった。そのため、実に面倒ながらもイルドア王国と連合王国は公式には中立関係に置かれている。まあ、公然の秘密であり実際にはかなりの『観戦武官』を初めとする関係者が従軍しているとしても、だ。要するに、政治的な配慮というものらしい。「ですが、これではイルドアが先制した揚句にカウンターで沈みます。」だが、はっきり言ってイルドア王国が崩壊するとなればドレークとしても座視することはできなかった。開戦した揚句に、速攻で叩き潰されるなど迷惑も良い新しい同盟国だが、それでも味方だ。まあ、その程度ならばことば程度で慰みと共闘を謳うだけでもよいだろう。しかし、それを許さない事情があるのをドレークは知っている。いや、全ての海軍軍人ならば遅かれ早かれ悟るだろう。「イルドアのピッツァ程度ならば、ジーベンルタルのワインで忘れられますが主力艦は難しい。」イルドア王国の海軍。国力相応以上の規模を唯一かの国が誇るものが、その海軍力だ。帝国軍の技術支援もあり、高海艦隊並みの『質』をかの国の艦艇は有している。そして、残念ながらイルドア海軍の海兵魔導師の練度はそこら辺の新兵並み。「せめて、艦隊が離脱する時間を稼ぐべきです。」イルドア王国軍が、対帝国宣戦布告まで機密保持に努めたのはよい。だが、その結果としてほとんど開戦用意の出来ないうちに奇襲を優先せざるを得なかったのは致命的だった。国内の各所に手配を行う間もなく、開戦に至るのだ。混乱の規模は、眼もあてられない程だろう。そんな状況で、唯一組織的に動いていたイルドア軍主力部隊が屠られれば混乱は、もはや回復しようがない。艦隊の離脱まで、時間が絶対に必要だった。「・・・その程度ならば、イルドア陸軍とて持ちこたえうるはずだ。」「残念ながら、イルドア海兵魔導師の練度に問題がありすぎるのでしょう。」そして、数少ないイルドア駐在経験者としてドレーク少佐は知っていた。あの国の海兵魔導師は、数はともかく質は三流以下だという事を。彼が、以前追跡した厄介なネームドクラスの人間ならば片手間で弄べることだろう。そして、ネームドクラスの帝国軍魔導師は、対艦艇制圧強襲もこなせるのだ。この意味を海兵魔導師は、よくよく理解している。「なに?」「私の隊でも、イルドアの戦艦一隻くらいならかっぱらえます。」やれと言われれば、実際できるだろう。一個小隊もあれば、奇襲で接舷強襲。艦橋を抑えて、機関区に突入するだけ。混乱しきっている連中ならば、鎮圧用のガスなりで落ち着く頃には全滅だ。一隻どころか、場合によっては数隻分捕ることもできるかもしれない。そして、昼寝をしきっている連中から取り上げれば戦艦というのは大変有用な兵器である。「我々が、イルドア同様にシェスタを楽しめば、イルドア艦艇がそっくり帝国海軍に分捕られかねません。」「ドレーク少佐!口が過ぎるぞ!」たしなめる声。だが、ドレークはここで留まるよりも自身の危惧を口にする。「不味いことに、ヴィネツィアとジェノバは帝国に近すぎます。」地図を見たときから、思っていたことだ。イルドア御自慢の大規模軍港。そのうちの二つは、あまりにも帝国領に近過ぎる。それこそ、開戦と同時に制圧されたと考えても不思議ではない程に。「私でさえ、開戦と同時に制圧を考える程ですから帝国ならばぬかりはないでしょう。」なにしろ、獲物としてみれば最高の獲物なのだ。設備だけ見ても、帝国がこの海域方面に持ちえなかった最良の潜水艦拠点たるだろう。そこに残されている燃料・資源は、帝国海軍にとって喉から手が出るほどに貴重なモノ。加えて、ドッグにお宝が転がっている。「不味いことに、ラ・ペツィアの造船場は艤装が完成間近のボロニョーナ級がドックに転がっています。」イルドア海軍御自慢の新鋭艦。完成間近のそれが、ドッグで最終整備中だ。クルーの乗り込みが確認されていない上に、爆破して自沈するには浅瀬が多すぎた。やすやすと制圧されることだろう。まず、逃げることは叶わない。「加えて、ヴィネツィアから本拠地のターラントまでは長距離兵装の魔導師ならば襲撃可能です。」そして、ヴィネツィアだ。こちらも、泊地の艦船ごと降伏するか自沈するかのどちらかに違いない。運が悪ければ、制圧されている可能性もある。そして、整備されたヴィネツィア空軍基地は帝国軍がラインで活用したという長距離巡航兵装が運用可能だ。あれならば、ターラントを電撃的に襲撃し得る上に艦艇すら撃沈し得る爆薬も運べる。「航続半径が足りない。まさか、歩いて帰るとでもいうのかね?」「船に乗れば良いでしょう。臨戦態勢も取っていない艦艇が、大隊規模の魔導師に奇襲されれば結果はわかりません。」例の狂った長距離巡航兵装。あれに搭乗するほどのベテランならば、艦の数隻程度は強奪しえる。大隊規模でも投入されればターラント軍港は諦めたほうが良いほどだ。「対案は?」「即時介入です。全力出撃すれば、ターラントの艦は救えるかもしれません。」それを阻止するためには、ターラントで迎撃するほかにない。忌々しいことに、イルドア海軍に、イルドア魔導師にできないのであれば自分達が出るしかないだろう。そうすれば、或いはターラントの艦艇は確保し得る。加えて、これはおまけだが見捨てるのではないという政治的なメッセージとやらにもなるだろう。「それに、最悪撃沈か拿捕も可能でしょう。」最後に、万が一の際は撃沈で帝国に利用されることも阻止し得た。かくして、それらの理由に納得した艦隊司令部はドレーク少佐の提案を採用するに至る。その15分後、ジムナスト作戦の挫折により待機中であった海兵魔導師一個旅団が行動を開始。彼らはイルドア半島へ向けて、順次編隊長より急速発艦。その後、空中にて隊列を形成し急遽イルドアへ向かう。結果だけ言えば、彼らは間にあった。間にあってしまった。グーテンターク!ピッツァとパスタはお好きですか?あるいは、素晴らしいエスプレッソ!素晴らしい。これぞ、人生。これぞ、生命。これぞ、喜び。なにより素晴らしいアドリアーノ海。眼下に広がる白磁の如き町並みは、アドリアーノのクイーンに相応しい高貴さすら漂う代物。高度5000からの眺めは絶景そのもの。ジャーマンが、半島北部を制圧してしまうほど観光に押し寄せてしまうのも道理というモノ。二次大戦中も、今も変わらず大人気というわけだ。ああ、素晴らしい資産価値に違いないというのに。まったく、リタイア後は租税回避地に資産を移してヴィネツィアを満喫したかった。何が悲しくて、強制労働まがいの軍務に就く人生を送る羽目になったのやら。忌々しいのは、速やかな軍港制圧のために町並みを楽しむゆとりすらないことだ。いや、成功のためには悲観主義は忌むべき。ビジネスの鉄則は、心が折れたモノから没落するのだ。資本主義とは、すなわち市場の競争。そう、競争だ。生存競争なのだ。だから、連合王国なりあるいは下手をすればそのうち合州国が南進してくるかもしれない南下は囮にやらせる。で、ピッツァの国のヘタレ兵士共と戦争ごっこを自分は満喫。完璧極まりない作戦だ。万全に整えられ統合された機動作戦。作戦目的は以下の通り。まず、イルドア陸軍の速やかな撃滅。第二に、イルドア海軍艦艇の速やかな確保。第三に、第二目標の達成が困難である場合は撃沈しイルドア海軍戦力を撃滅。これらの達成によって、連合王国・自由共和国ないし合州国の介入を阻止。同時に、イルドア戦線が帝国軍にとって負担にならない形で早期終結が期待される。素晴らしいことに、ラインでの塹壕戦から十分にイルドアは学ぶ機会が無かったらしい。縦深防御陣地を微弱な抵抗と誤解し、正面から強襲。あっけなく、機関銃と機動防御部隊によって大部分が屠られている。さらに、我々イルドアヌス戦闘団が後方連絡線を遮断。あまりにあっけなさすぎるほどだが、それだけで大混乱が発生。結局、機動防御の必要性すらイルドアヌス戦闘団に関してはないほど。辛うじて、中隊規模の敵歩兵を散発的に撃つ以外には仕事が無い。そのため速やかに第二作戦目標の実行を発令。本国からわざわざ空輸したV-1を活用して長躯し各イルドア軍主要軍港に対する同時奇襲作戦を発動。すでに、ヴィネツィアとジェノバの軍港制圧は完了済み。残る目標は、ロマーニャ・シチリニア、ターラントのみ。距離の問題と、限界攻勢点を勘案しシチリニア軍港の艦艇は確保を断念。こちらは、事前に展開した潜水艦隊によるV-2を使用した漸減作戦で対応。ロマーニャは軍主力によって突入、制圧する予定だった。そのため、包囲作戦の完遂を優先しイルドアヌス戦闘団の本隊は掃討戦を継続。まあ、ロマーニャの防衛体制を混乱させるために空軍による無防備都市勧告のビラが出されているが微妙なところだ。なにしろ、あそこは政治的にヤバイ。曲がり間違って、ぽーぷに誤射でもしたら大事だ。正直、かかわり合いになりたくない。おまけに、市街地での交戦で民間人を巻き添えにするのも面倒。そんな判断でのんびりと、逃げてくるイルドア兵を適当に爆破していたターニャの優雅なイルドア旅行。楽しい時間は、想像だにしていなかった報告によって突如として終わりを迎えることになる。「なに?ターラント班が迎撃されただと?」予期せぬ事態。はっきりと言えば、新兵が多いとはいえ二個大隊規模のV-1を投じた大規模長距離浸透襲撃だ。イルドア海兵程度ならば、火力で圧倒できるはずの作戦である。「ノイズ交じりですが、報告によれば1個増強大隊と不意遭遇。現在交戦中と。」「・・・なんだと、早すぎる。イルドアの魔導師部隊がそこまで統制のとれた緊急展開だと?」だが、返される報告はより深刻な事態が進展していることを物語る。二個大隊規模の襲撃隊が、増強大隊にてこずる?悪い予想をするならば、相手がベテランかそれに準じる練度の可能性を意味しかねない。魔導師は、個体差があまりにも大きい分野。まして、帝国は特にそうだった。少数精鋭主義故に、技量未熟者を戦力として運用するノウハウが乏しい。・・・一線級の魔導師ならば、簡単に鴨撃ちできる。だが、逆に言えば一線級の魔導師ならばだ。「ありえん。」即座にその可能性を切って捨てられるほど、イルドア魔導師の一般的な練度は低い。技量未熟にも限度があるほどだ。なにしろ、まともな演算宝珠すらイルドアは自前で調達できていないほど。例外はあろうとも、組織的に有効な戦力足るとは到底考えない。つまり、論理的帰結としてこれはイルドアの戦力ではありえないのだ。「近隣の敵性艦隊の配置を参謀本部に要求しろ!今すぐにだ。」「はっ、直ちに。」悪い予感。何かが、いや、言葉を飾るまい。勝利が手からこぼれおちていくような予感。「・・・っ、奴らか!」届けられた敵情は近隣に極めて有力な魔導師部隊を有する艦隊の存在を示唆。ダカール沖にてフッドとやり遭った時、執拗に追撃してきた部隊だ。嫌になるくらい統制され、かつ隙の乏しい連中。あの嫌な性質の部隊だ。指揮官の性格も押して測れるというもの。きっと、こちらの意図を理解し妨害するべく介入してきたのだ。「ダカール沖以来、しつこい連中だ。」しかも、厄介なことにこちらの優れている速度・高度を無力化しうる点を突いてきた。V-1による機動中は、諸元の関係からして追撃を振り切れ得るだろうし、阻止され得ない。だが、襲撃地点では分離・突入する以上混戦だ。まして、対艦攻撃が目的では距離を取ってちまちまと削ることもできない。「御存じなのですか?」「なに、連合王国に海水浴を楽しんでもらったら奴らが追いかけてきた。今日はボート遊びが気に入らないらしい。」軽口をたたく一方で、彼我の戦力差を計算しターニャは愕然とする。あの部隊では、ましな兵隊とはいえ新兵が大半の襲撃隊には荷が重すぎた。全滅しようとも、ターラント軍港の艦を撃沈できればまだ良いが。いや、それはあまりにも希望的観測だろう。阻止攻撃を掻い潜り、敵艦に肉迫攻撃を敢行できるだけの合理的判断は期待できない。「不味いぞ。ターラント軍港の戦艦は何隻だ?事前情報では、3だったな。」事後策を。対応策を。なんとか、対応しなければ。その思いに駆られるターニャにとって、次の報告は脳を殴られるに等しい衝撃だった。「ターラント班によれば、6です!。」6隻?戦艦が、6隻!?人眼が無ければ思わず、『馬鹿な』と盛大に叫んでいるところだった。イルドア海軍の主力艦は分散配置されているのではなかったのか?と。「なんだと!?増えた三隻の内訳は!?」「ヴィットリオ級2、ドゥイリオ級1です。」そして、その内訳は考えうる限り最悪。イルドア海軍最大を誇る超弩級戦艦、ヴィットリオ級が二隻も!「・・・最悪だ。超弩級はロマーニャ軍港にいるのではなかったのか!?」これは、外交で穏便に接収するなり自沈を許して無力化する予定ではなかったのか?ロマーニャ軍港で降伏式に使えますなと、笑っていた情報参謀。友軍の将校をこれほど撃ち殺してやりたいとおもったのは、従軍して以来随分と久々のことだ。「ドゥイリオもだ!やつらは、シチリニアに所在があると情報部が報告してきたはずだ!」加えて、やや古いとはいえ快速のドゥイリオ級。停泊しているところを襲撃することで、撃沈ないし無力化する計画が完全に崩壊する。さすがに、戦艦六隻を取り逃がすのは許容できる水準をはるかに上回ると言わざるを得ないだろう。事態を想像し、ターニャは思わず歯ぎしりする。放置すれば間違いなくイルドア残存艦艇は協商連合残存艦艇のように連合王国・自由共和国に吸収される。小型艦ならばまだしも、戦艦6隻となれば断じて論外だ。連合王国艦隊と辛うじて拮抗している高海艦隊にとってはヘビーブローも良いところ。それどころか、こちらの接収する戦艦群すら動かすには危険すぎるほど制海権を確保されてしまう。こうなってしまえば、無力化されてしまったも同然。思わず、背筋を冷や汗が流れる。「っ、計画が崩壊する!なんとしても、ターラントの艦を確保するぞ。」解決策はたった一つ。即座に、ターラント軍港を強襲。確保ないし撃沈を前提に、なんとしても攻撃しなければならない。そうでなければ、戦争にならない。別段、帝国の命運には身を呈するほどの関心もない。だが、アカに対抗するフィラデルフィアのアンクルが立ち上がるまでは長引かせねばならないのだ。断じて、断じて大陸を赤くされるような終戦だけは受け入れがたい。つまり、帝国にまだ崩壊されては困る。「し、しかし予備戦力が足りません!」「独断専行する!包囲網の一角を放棄!即時離脱だ、全速でターラントを叩く!」そのために。そのためだけに。ターニャは実に豪快な即決を行う。安全地帯に自らを置くことを、苦渋ながらも放棄。即座に使用できる部隊を取りまとめて、予備のV-1を使用することを決断。「V-1の残機をこちらに廻せ!」無線で、技術廠からの要員にほとんど脅しつけるようにして手配を命令。貸しが腐るほどあることもあり、向こう側としても否応はないらしい。幸い、中隊分程度の予備はあったためにそれを確保。問題は、誰を投入するか。だが、今回ばかりは手元に使える連中がある。まったく、なんという幸運だろう。「ライン帰り共!」「「「はっ!」」」大変心得た連中は、これから何をすべきか完全に理解している。そうでなくては、そうでなくては到底使い物にならない戦線を生き残ってきたのだ。仕事をいちいち教えなければ、できない新入社員とは別である。自ら、考え、積極的に行動するグローバル人材だ。素晴らしい。実に、世界に誇れる戦争職人の集団だ。「戦争の仕方を素人に教えてやるぞ!私に続け!」新兵ばかりで数の優位も活用できない間抜けしか与えられない現状。いや、魔導師の資質を碌に活用しない新兵も新兵か。どちらにしても、万全とは程遠い状況の中での最善を尽くすしかない。「ちゅ、中佐殿!?」「宛、イルドアヌス作戦司令部、発、イルドアヌス戦闘団、我独断専行ス、繰り返せ、我独断専行スだ!」最低限度の引き継ぎは、イルドアヌス作戦司令部に押し付け放置。状況からして、混乱するばかりの新兵や経験不足の連中は足手まとい。肉壁にすらならないことを思うと、速度優先でこの場に放置を決断。「事前情報が違いすぎる!前提が崩壊する前に、行動せねばならない。」作戦前提、つまりイルドア海軍艦艇の確保という点から行動が必要なのは自明だった。それ故に、それを高らかに叫ぶことで行動の自由は確保される。「最低でもヴィットリオ級は沈める。でなければ、作戦目標が達成され得ない。」即席ながら、ブリーフィングを開始。作戦目標は、すでに周知徹底されている。故に、作戦目標達成に必要な条件の告知。そう、超弩級戦艦の撃沈は最低条件だ。確保できることが望ましいが、不可能ならば撃沈する必要がある。「諸君、帝国のため、帝国を賛美し、歌いそして地に降りて死ね。」見渡せば、ラインで平然と突撃戦を敢行した将兵らは泰然と命令を待ち望んでいる。まったく、どうして彼らは戦争にこんなに平然といけるのだろうか?自分は嫌で嫌で仕方ないのだが。まあ、そんな戦争狂をかき集めて造られた部隊が母体だからかと自己解決。「ラインで生き残った諸君。私の大隊にて出会った親愛なる戦友諸君。懐かしい大隊の栄光を新たにしよう。」ライン戦線で鍛えられた古参兵というのは今では相当に貴重だ。補充要員の質が深刻に低下しつつある中、もはや望みえないような質の高さだ。それが、思わぬことに手元に再び戻ってきたことは望外の幸運。「ああ、楽しいぞ。戦友諸君と、共に帝国を讃えて歌おうではないか。」実に、不幸中の幸いというものだ。ターニャはその碧眼を細めて、自らの運、或いは悪運の良さに笑う。まだ、まだ流れは変えられるのだ。「ラインで、東部で、南方で果てし戦友のためにも、我らが威を誇示しよう。」手にするのは、ライフルと演算宝珠。滑走路に並ぶ、V-1はラインで使った極めつけの突撃用兵装。縦横に張り巡らされた共和国軍防空網すら突破した代物。やれる。間違いなく、これならばイルドアの間抜けな防空ラインはいとも容易に突破可能だ。そして、ターラントも制圧は困難だろうとも破壊くらいはできる。「我らこそが、我らこそが帝国の魔導師だと。類なき覇者だと思い知らせてやろう。」なにしろ、部下らの戦意は上々。煽るだけで、戦意の高さを反映し怒号の様な歓声が上がる。少なくとも怖気つくということとは無縁だろう。大変人間として、失格な連中だ。真人間の自分としては隣人愛の精神にも限界があるがなんとか耐えることにしよう。自分の人品は卑しからぬと自負しているが、これこそたぐいなき愛だ。近代以降の合理的自由を愛する自分にとって、他者の意志もまた尊重されねばならないのだから。これもひとえに、自由への愛故にだろう。そして、自由を愛するがためにコミーに対峙せねばならないのだ「目標!ターラント軍港!総員、行動を開始せよ!」そう、だからまだ帝国の崩壊は阻止する必要がある。手段を厭う暇はない。「敵は殺せ!全て殺せ!必要とあれば、疑わしいものもだ!それは、歴史が判断する!」あとがきコメントでターニャが皆さんに愛されている?、と知りちょっと蹴り飛ばすのを爪先で突くくらいに加減しました。プランA⇒ロマーニャ進軍ルートプランB⇒ターラント軍港お祭りルート☜採用コミーの破壊工作による誤字脱字にはZAPで対応します。追記:早々と行いました。カルロ・ゼン05はきっとうまくやることでしょう。>dasf様個人的には此処のAlto様『リリカルなのはAnother~Fucking Great!~』とかお勧めです。取りあえず、歴史的に嫌がらせ・阻止攻撃・火刑に定評のあるサー・ドレイクのハラスメント妨害にご期待ください。某ゲーム風にするとロリヤがシルドベリアと畑から徴兵中です。合州国は、フィラデルフィアでルーシータニア号合同追悼式典中。自由共和国、そろそろ独自行動を計画中。ロマーニャで聖人がアップを始めたようです。サー・ドレイクが生まれる時代を間違えているようです。ちょっと今週末から所用があるので更新は遅れると思います。ご容赦ください。追記誤字修正しました。ZAPの嵐が吹き荒れています。ZAP