天よ、我にあと一個中隊を与えよ。さらば、三千世界の鵺をも弑せん。D-DAY,帝国軍サラマンダー戦闘団、戦闘団長××××・××××××魔導中佐(記録散逸により姓名不明)交差射撃が失敗。これで三度目。しぶといネームドだった。東部で勇名を轟かせたサラマンダー戦闘団。その大隊が誇る編隊戦闘技量。単なるイノシシ武者程度ならば、息をする感覚で刈り取れる。なにしろ強固な連邦魔導師の防殻を相手にしてきた。並大抵の連合王国魔導師ならば、一撃で落してみせる。だが、忌々しいことに目の前の連合王国軍魔導師はしぶとい。ヴァイス少佐にしてみれば、並大抵の魔導師ならば一撃で落して見せる自信があった。驕りでも過信でもなく、単純に実績に裏打ちされた確固たる経験則。それでいながら、彼は同時に組織的戦闘を重視しているのだ。にも関わらず単騎で斬り込んできた勇敢な魔導師程度、屠れないとはどうしたことか?『ツヴァイ中隊!まだ突破できないのか!?』『申し訳ありません!糞ったれ!火線を集中させろ!ハンツ、さっさとそいつを落とせ!』本来ならば、遊撃の任に就くべき最後部のツヴァイ中隊。ヴァイス少佐としては、敵上陸部隊を叩くときに投入するつもりの切り札。だが、やむを得ないとはいえすでにカードは切らされてしまっている。側面からこちらを拘束しようとする自由共和国軍魔導師。『駄目です!ああ、畜生!』突破する程度ならば。中隊ながら東部で二個大隊を突破してのけたこともあるというのに。タダの寄せ集めにすぎないような技量の大隊に最精鋭が拘束されている。個々の戦闘を見れば、部下はすべからく最善を尽くしていた。おおよそ、人智で叶う限りの力戦。それは、東部で地獄の釜底を彷徨ったヴァイスの眼から見ても納得できる水準で、だ。中佐殿にですら、部下の敢闘精神と戦技にはご満足いただけることだろう。にもかかわらず、突破できない。押しているのは間違いないのに、どうしても最後の一突きが足りない。崩せそうだという感覚があるのに、どうしても破れない。『ドライ中隊!まだ持つか!?』『アカの津波に比べれば可愛いものですよ!まあ、いい加減ウンザリしていますが!』加えて、自由共和国軍と挟撃する形で合州国軍・連合王国混成部隊に側面を牽制されている。東部での戦力比に比べれば可愛いとはいえ、練度・装備共に優秀な部隊相手となれば話は違う。機動防御で時間を稼ぐのは得意だが、遺憾ながら機動防御は動けることが前提なのだ。拘束されつつある部隊の側面を防御してという制約が多すぎる環境では限界がある。一方で、先鋒では信じられない光景が展開している。あの、中佐殿。あの、錆銀と敵味方問わず恐れられるデグレチャフ中佐殿。その中佐殿が全力で突破を図り、突破を為し得ずにいる。展開されている重爆裂術式、光学系狙撃式は矢面に立った敵は悉く粉砕される代物。過剰すぎる火力を惜しむことなく投じてなお、デグレチャフ中佐ですら喰いとめられている。ヴァイスにとって、何かがおかしかった。彼の経験則から言えば、何か歯車が狂っていなければ起こりえない筈の事態。ある筈のない事態だ。『戦闘団長よりアインス中隊。我に構わず、敵上陸部隊を叩け。』だが、混乱しかけていた彼の頭は衝撃で一瞬のうちに冷却される。中佐殿の直掩に就いている中隊への離脱命令。突破の衝撃力を担保するために、中佐殿が直卒されていた中隊。突破できない以上、衝撃力を喪失した部隊は再攻勢を発起するために再編が必要だった。それは理解できるし、理解できない話でもない。しかし、明らかに大隊規模の敵を抑え込んでいる状況下で中隊に転進を指示できるだろうか?『サラマンダー02より、01!中佐殿、よろしいのですか!?』『貴様の中隊が動けない以上、選択肢はない。』凍りつくように冷徹な判断。ヴァイス自身が指揮するフィア中隊。忌々しいことに、ネームドらに纏わりつかれ本来の支援ができていないのだ。ここで最も余剰戦力があると言えば、間違いなく中佐殿だろう。単独で発揮している火力は下手な中隊並みなのだ。だが、言い換えれば中隊程度でしかないとも言える。『せめて、グランツの小隊を御同伴ください!』『無駄だ。戦力を分散するよりは、集中運用するべきである。』状況が悪すぎた。あの中佐殿が突破し得ないほど苦戦している。そればかりか、歴戦の部隊で持ってしても想定以上に手間取る始末。火力が、衝撃力が、決定打が足りていない。もどかしい焦燥感。焦りが如何に危険か知悉していようとも、思わず不安が頭をよぎってしまう。だが、ヴァイスの焦燥感は対峙する連合王国軍魔導師らにとっても共通のものだった。視点を変えれば、その内側はほとんど戸惑いと衝撃に満ち溢れている。何故、喰いとめられない?叫びだしたいほどの焦燥感に駆られながら、ドレーク中佐は暴れ牛の様な帝国軍の突撃を辛うじて流す。刺し違えても阻止するつもりで突撃を迎え撃った。にもかかわらず、彼我の損害比はけた外れ。一瞬でも気を抜けば、容赦なく叩き落とされる。この高機動であるというのに、信じがたいことに交差射撃が的確に飛んでくる恐怖。共和国御自慢の統制射撃をより昇華させた信じがたい精度と連携。何より恐怖せざるを得ないのは、強固な防殻を唯の一撃で抉り取る貫通術式。『パイレーツども!格闘戦だけは避けろ!糞ったれの情報参謀め、何が、素人が展開中だっ!!!』『帰ったらぶち殺してやる!あの無能どもめ!ッ、ブレイク!ブレイク!』格闘戦を志向し、生半可な阻止火力は防御膜で弾く部下らだった。にもかかわらず、現状では一撃足りとも受けることができないという信じがたい状況にある。イルドアで、南方大陸であの悪魔と戦い抜いたベテランらがである。唯の中隊ごときに翻弄されている。側面をそれぞれ左右から挟撃し圧倒的優勢を確保している筈の友軍も突破できていない。それどころか、突破されないのが精いっぱいであるというほど敵の勢いは猛っている。通常では考えられないほど持続力を保っての突撃など悪夢でしかないというのに。『何なんだ連中は!なんで平然とこんな状況で突破してこられる!?』『無駄口を叩く暇があれば手を動かせ馬鹿野郎!』敵前降下から、敵前上陸まで。ありとあらゆる難題を達成するために必要な技量を。パルトン中将肝煎りの地獄の特訓を。生き残り、乗り越えたはずの部下らが。まるで素人の様にあしらわれている。『高度を落すなっ!上を取られたら鴨も良いところだぞ!』高度8000。限界戦闘高度のぎりぎり上。開戦前は、戦闘が絶対に推奨されない高度。この高度で、低高度でも著しく消耗する高機動戦を戦い抜くのは地獄だ。酸素の欠乏と低温で感覚が狂い始め、思わず本能に従い高度を落としたくなるがそれは甘美な罠に過ぎない。戦争において、上方を確保されるという事の恐怖は歩兵が一番理解しているだろう。『ああ、畜生!帰ったら、嫌になるまで酸素を吸ってやる!』『その時は、奢ってやるよ戦友!生きて帰ればなァっ!』低酸素高度での戦闘行動など、誰も本気で想定していなかった。少なくとも、既存の演算宝珠は全てそうだ。カタログスペックはともかく、この高度での実戦使用までは想定していない。到達し、飛ぶという事は可能だろう。だが、到達しそこで高機動戦闘を行うとなると全く次元が違う。高地で登山をゆっくり行うのは、まあ出来ないこともないだろう。だが、高地で全力疾走の長距離走となれば大半の人間は肺が持たない。『突破阻止すら手間取るとは…。それにしても、あの馬鹿共は何をやっているんだ!?』ここまで高度を維持してなんとか喰いついているというのは、ひとえに奴らを自由に動かさないためだ。化け物を下に放つ訳にはいかないという一心でここまで阻止戦闘を行っている。だというのにだ。メアリー・スーに毒されたアホどもときたら。一体何を血迷ったのか身を呈して友軍を守りますと言い始めた。魔導師としての資質と、戦術眼の乖離が甚だしい無能ども。なまじ防御力があるだけに、敵前衛との接触部に置いた。確かに、突破そのものは阻止し得ているように見えたのでその判断は正しかったのだろう。だが、馬鹿どもの手綱を管理していないことをドレーク中佐は壮絶に後悔し始めていた。肉迫攻撃を敢行し、敵の行動を阻害するのが求められているというのに。何を血迷ったのか防御膜と防殻で地上への攻撃を阻止するという理解しがたい行動に移っている。アレでは、1人の魔導師の攻撃を阻止するために中隊が全て張りつかされてしまう。戦力の完全な誤運用も良いところだった。馬鹿にしているのかと嗤いたくなるほど、無駄な戦力運用。あんなアホどもが、一個中隊だというのは最悪の皮肉だった。敵の中隊は、此処まで有能で。自分の中隊は此処まで無能で。『ッ!スー少尉!敵中隊が離脱する!追撃しろ、何としても足を止めさせろ!』『逃げる敵は、逃がしましょう。それよりも、あの卑劣な敵が先です!』『ええい、切りやがった!あの馬鹿がァあ!』あの近視眼の無能に期待したことを後悔。ここまで有能な連中が、中隊規模で離脱する?そんな馬鹿な話を、この戦局で信じるのは奴くらいだ。どう考えても、本来の目的に立ち帰って対地攻撃に向かうに決まっているだろうに!『手隙の部隊!誰でもいい!早く、追撃しろ、地上部隊を守れ!』こんな混戦だ。追撃を行えるような余力はどの部隊にもない。それどころか、包囲しているものを食い破られないように阻止するので手いっぱい。一個でも部隊を引き抜けば、即座に微妙なバランスが崩壊する。左翼だろうと右翼だろうと、中央だろうと。どこか一つのバランスが崩壊すれば、即座に全部に波及しかねない。だが、ただでさえ酷く叩かれている地上部隊。そこに、あんな連中を中隊規模で放り込むのは論外だった。『ええい、糞ったれ!地獄だぞ、まるで!中隊、続けぇ!』『小隊前進、奴らを止めろ!断固阻止しろ!』ドレークの部隊から中隊が離脱。同時に、自由共和国軍からは古参小隊が捻りだされる。増強中隊程度の投入。少なくとも、少なくとも地上部隊への攻撃を逓減することは叶う程度の支援。同時にその程度の代価を払うために、各部隊は急激に危機的状況に追い込まれる。連隊規模の部隊が展開していながら、増強中隊を展開させるだけで破綻する戦局。『抜けた穴を埋めろ!入りこませるな!入られたら、食い破られる!』『ええい、あの狂人どもめ、手を焼かせるっ!』死にそうなほど忙しい戦局が、棺桶に半分以上足を突っ込んだ戦局に変化。火力が欠如し、連携が欠如し、一気に各員の負担が跳ねあがる。1人が落ちれば、その負担は残った者にのしかかる。そして、連鎖的に負担が増大し、戦線の維持が急激に困難に陥っていくのだ。指揮官にとってはほとんど悪夢に近い。現在進行形で直面しているドレーク中佐にしてみれば、吐き捨てたいほどである。だが、それらの感情は次の瞬間に完全に吹っ飛ぶ。『ドレーク中佐、こちらにも、援軍をお願いできますか?』『…なんだと少尉?』全く後ろめたくない堂々とした声。一瞬、一体何を口にしているのかと考えてしまうほど非現実的なことを馬鹿が囀っている。一体、誰の失敗でこんな窮地に陥っていると思っている?『ご覧のように、友軍部隊への敵攻撃阻止に全力を注ぐためにもこちらへも増援を頂きたいのです。』それを阻止するために、部隊が身を呈して肉迫阻止攻撃を行っているのだ。よりにも寄って、それが理解できないのか?いや、どころか言うに事欠いて増援を寄こせ?『ならば、直ちに高度を上げ阻止攻撃を行え。』中隊規模の余剰戦力で遊んでいるのは連中だけだ。狂った趣味で盾になるのを放り出し、阻止攻撃に転じればすぐにでも帳尻が合う。にもかかわらず、いうに事欠いて増援を寄こせ?『それでは、地上部隊に被害が生じてしまいます。中佐殿、中隊程度の増援で構わないのですが。』『…中隊程度?』そして、眼前の敵と斬り結びながら聞くにはその言葉はあまりにもドレーク中佐の逆鱗に触れすぎていた。『はい、その程度で結構です。』『余剰戦力があるとでも思ったのか!?つべこべ言わずに、高度を上げろ!』曲りなりにも部下を相手に、痛い目にあってしまえと思ったのはこれが初めてだ。死んでしまえと思わなかったのは、同じ軍に所属する軍人としての最低限度の躊躇があればだ。ぶちのめしてやりたい憤りを敵よりも、部下に感じつつドレーク中佐は叫ぶ。『いいか、高度を上げ、交戦しろ。それ以外はない!』上空の死闘。だが、下界とて凄惨さは勝るとも劣らない。眼前の光景を見れば、誰だろうとこれが入念に用意された防衛線であるという事は理解できる。自分達が突破しなければならない敵の防備が、想定をはるかに上回るという現実は物言わぬ骸が全身で物語る。圧倒的火力でトーチカを叩き潰し、脆弱な防衛隊を蹂躙する?論外だった。「…攻勢を中断しましょう。これでは、人命の浪費だ。」「しかし、今オハマでの攻勢を中断すれば防衛隊が自由に動けてしまう!」司令部の緊急会合。集合した幾人かの顔面は、殴打された痕跡で酷く歪んでいた。上陸部隊の将校が、血相を変えて情報将校に殴り込み拘束されるという椿事。偶々近くにいた彼らが引きはがす際に受けたのは巻き添えだ。だが、泣きじゃくり怒り狂った上陸指揮官の焦燥感は誰もが理解していた。海岸線のトーチカは下手な艦砲では弾かれてしまう上に狡猾に隠蔽されている。上陸部隊を支援するべき魔導師部隊は、友軍支援どころか遅延戦闘に追われてしまう。揚陸する筈の戦車に対しては、敵の対戦車砲が降り注ぎ上陸の障害物になり果てる始末だ。「阻止攻撃に切り替えましょう!」「無理です、阻止攻撃を行えるだけの火力がありません!」散々議論されているのは、火力支援の増強。だが、戦艦群が展開しているにもかかわらず対地砲撃支援の効果は十分ではない。それどころか、上陸部隊は火力の支援が足りないために次々と追い詰められてしまう。「揚陸出来ないのか?」「近づけません!艦砲射撃でトーチカを潰してください!」「間接照準ではとてもではないが、無理だ。効果的な排除は期待できない!」延々と繰り返される議論。艦隊は、艦砲射撃以外の提案を出せと要求する。陸上部隊は、とにかく艦砲で何とかしろと言って引かない。だが、さすがになにがしかの行動が必要だった。誰もがソレは理解し得ている。「結構!ならば、駆逐艦乗りの腕を見せてやりましょう!」「各艦続け!乗り上げて直接照準で叩き潰してやれ!」事態が動くのは、しびれを切らした駆逐艦乗りらによる突撃だった。各艦の艦長が示し合わせることなく、全速で陸に向かって突撃。意図的に座礁させ、敵弾から友軍部隊を遮蔽する構造物を提供。同時に、陸に上がったことによって目視圏内にあるトーチカを直接照準によって砲撃。対戦車砲どころか、対艦攻撃を想定した127㎜砲による徹甲弾の直射。さすがに、この近接火力支援は帝国軍の想定した火力支援を上回った。直上から降り注ぐ砲弾くらいならば、直撃しない限り防ぎえるだろう。実際、ターニャやロメールが構想したトーチカは203㎜砲弾程度の直撃に頂上は耐えられるようになっている。問題は、正面にある。銃眼の関係上、どうしても正面の構造は脆弱になるのだ。加えて、限られたコンクリートという資材の問題。これによって、トーチカの正面防御力は戦車砲の75㎜程度しか対応していない。無論、揚陸される重火器が限定されるという想定。直接照準による火力支援で提供されるのは軽火器程度という前提は上陸戦ではおおむね正しい。しかし、国力にモノを言わせた駆逐艦の挺身攻撃。これは帝国軍にとって最悪の展開だった。対艦攻撃を行おうにも、座礁した駆逐艦は無力化に頗るてこずる相手となる。海の上ならば、沈めることも可能だろう。だが、着底している船体は射撃によって穴をあけられても致命傷にはならない。むろん、身動きできない以上酷く撃たれるのは間違いないが。しかし、火力は卓越している上に排除するには貴重な重火器を集中させる必要がある。『中佐殿、各トーチカが!』『敵艦艇を排除、無力化しろ、今すぐに。』咄嗟に魔導師部隊が上陸艇から駆逐艦に照準を変えるも、駆逐艦というのは簡単には沈まない。洋上ならば、転覆させるなり舵を壊すなりで無力化し得る。だが、爆雷を投げ捨て、魚雷を投棄して突進してくる駆逐艦を止めるのは至難の業。此処に至り、辛うじて持ちこたえているオハマですら敵圧力に直面し始める。捻出した予備戦力の早期投入と入念な地雷による防衛陣地。これらによって本格的な戦線崩壊こそ阻止し得ているものの、帝国軍一般の戦局は加速度的に悪化しつつあった。『…タユ・ビーチが突破されつつあります。』そして、圧力の巨大さに圧迫された戦線の一部では融解し始める。突破の希望に湧きあがる上陸部隊と、覚悟を決める帝国軍防衛部隊。だが、突破しつつあった連合王国海兵師団は側面を狂犬じみた勢いで吶喊してきた降下猟兵に食い破られる。『サラマンダー戦闘団より、第116降下猟兵大隊が大隊長独断で緊急展開中!』『構わん、良くやった!』裁量権を任せておいた歩兵部隊による独断の救援行動。眼下で進展している事態を見やりつつ、報告を受けたターニャは即座に行動を追認する。オハマに配置するよりも、破裂しつつある戦線の維持を優先した部下の意図は正解だと認めるからだ。『戦闘団長より、各位。何としても突破しろ。これ以上は、地上が持たん!』大隊程度とはいえ、東部で生き残った百戦錬磨の古参降下猟兵。防衛戦における彼らの存在感と安定性は、機動防御や陣地防衛において十二分に発揮される。それは、ほとんど理想的な兵隊として語られることだろう。だが、眼下を見下ろすターニャの前で合州国二個機甲師団が部分的ながらも重装備を揚陸し始める。駆逐艦群による身を呈した支援によって、対戦車砲の対応能力は限界を突破。飽和攻撃により、各防衛線は各個に近接防衛を迫られるほどに追い込まれている。降下猟兵らの緊急展開によって持ちこたえているとはいえ、わずかに破局までの時間を稼げたに過ぎない。そして、空中での突破戦もあと一押しが足りなかった。敵の限界を見据えて投入した筈の中隊も、増強中隊に纏わりつかれて思うようには戦果がでていない。加えて、ターニャの貫通炸裂術式を封入した『対上陸艇』術式が直撃している不愉快な存在。すでに最低でも二桁の直撃を与えているにもかかわらず、まだ浮かんでいる。随伴魔導師はほぼ処理し得たものの、如何せん奴らの手先だけあってしぶとかった。魔導師の防殻どころか、局所的には戦艦のバイタルパートを撃ち抜けるだけの火力。それらを全力で投射したにもかかわらず、相手はまだ辛うじてとはいえ健在。『サラマンダー01より、02。進路掃討完了。残敵制圧中。突破発起用意。』『02より01、申し訳ありません。各隊が手間取っております。』一応、突撃路はメアリー・スーなる糞袋を制圧しているために確保は完了。必要とあれば、中隊程度は突破し得る間隙を無理やりこじ開けてはある。だが、忌々しいことに各部隊が拘束されるか交戦中のため一個中隊が足りなかった。『…後、一個中隊あれば。』『中佐殿?』『忌々しい限りだ。後一個中隊あれば、三千世界の鵺すらも弑せんというのに。』ほとんど無意識の一言。上陸艇どころか、上陸部隊司令部の位置する敵艦すら射程におさめうる距離。今、統合する頭を刈り取れば。艦橋に、接舷し対人術式を叩きこむだけで良いのだ。そのたった一撃に投ずるための中隊が手元にあれば。一瞬で雲霞のごとき敵兵を、混乱しきった群衆に叩き落とすことができた。烏合の衆ならば、この防衛線は抜かれることもないだろう。つまりは、牧羊犬を駆逐するだけの単純な一手。臆病な人間を勇者にする魔法を解く、最善手。これだけで、戦局を一変させることが為し得るだろうと確信できた。余人が言えば、無謀・過信と嘲笑されるであろう呟き。『…本願成就ならずか。』だが、デグレチャフという軍人を知る人間ならば無条件でソレを肯定し得た。一個中隊で、奴ならば間違いなくやってのけるであろうことを。一大隊程度の魔導師部隊と圧倒的劣勢な数の地上部隊による戦闘団。それで、圧倒的優勢な敵を相手に此処まで防戦を戦える指揮官である。そのターニャの表情に浮かぶのは、最善を尽くしなお一歩及ばないことへの悔恨の念だ。目の前に、この流れを変える全てが見えている。たった一個中隊、たったそれだけで地上最大の上陸作戦を覆し得るだろう。そう、それだけの余力が今の帝国には無いのだ。その事実が、ターニャをして悲嘆させずにはおられない。それは、ロリヤならば思わず有無を言わさず収容所から一個中隊と言わず大隊程度を送るほどの悲壮さ。だが、全滅による有終の美などの趣味までは持ち合わせていなかった。なにしろ、自己保全最優先思考である。離脱する前に、奴だけは撃墜するとしてもそれ以上のリスクは取る必要性を最早感じていない。『ロメール閣下につなげ。…総撤退ないし水際決戦を進言する。』まあ、撤退だろう。だが、罷り間違って突撃するなら離脱しよう。…此処までか。あとがき週末という訳で、更新いたしました。多数のコメントを頂いたことに感謝いたします。作者の対処能力を飽和しておりますので、全てにお答えできないことを御寛恕くださいorz本作では、お前が避ければ…、的な展開や卑怯?勝てば官軍、的な展開は友情や努力といった要素から望ましくないために排除しております。本作は、R18的要素やロリヤの理想とする展開などを排除したいや、末期戦なんで東部の悲劇は検討しましたが。『極めて健全』な末期戦モノです。一部感想よりご要望がありましたが、水着撮影など論外です。ですが善き意図からであると判断し、優しい連邦対外連絡室は御友人に面会するための『シルドベリア』直行旅行券を発行いたしました。どうぞ、お友達を助けに行ってあげてください。追伸完結までスパートヾ(・∀・´+これからが本当の地獄だ!誤字ZAPなお、更新は順調に遅延中。ZAP