『第五師団、戦線を維持できません!』『第一空挺師団より緊急!師団長の通信途絶、指揮系統に深刻な混乱が生じています!』
『第三航空任務群、出撃限界に迫りつつあります。』『第225輸送飛行隊の損耗率、35%を超えました!これ以上は、限界です!』
『第30機甲軍団、先鋒部隊が壊滅!混乱が急激に拡大しています!』『未確認情報ですが、友軍誤射の報告です。』
『全戦域で情報が錯綜!指揮系統はすでに機能を発揮しえておりません!』『っ、緊急です!第30機甲軍団、進軍を停止。軍団長より、突破不可能との報告あり!』
『パルトン中将閣下より、至急電。燃料が枯渇しつつあり!敵主力の拘束は、もって24時間とのこと!』
『情報部より至急!敵本国より増強進発の報あり!規模、3個師団相当と推定!』『戦闘工兵の損耗が許容値を突破しています!』
『第一多国籍義勇空挺連隊、残弾途絶!緊急の支援が無ければ、持ちこたえられないと主張しています!』
押し寄せる情報の嵐。
その全ての情報が、事態は破局的であることを居並ぶ司令官らに告げていた。
政治的な事情によって、元より“損害”は度外視で強行された作戦ではある。
だが、ここまで破局的な失敗を想定していたかと言われると慎重派や懐疑派であっても首を縦には振れない。
誰が此処まで状況が悪化すると予期し得ようか。
敵戦線後方への電撃的な降下作戦だ。
それも、多数の精鋭からなる空挺師団と機甲師団の同調攻撃である。
加えて現地のレジスタンスから重要な支援も受けられると情報部が確約していた。
損耗が許容値を超えることは想定しえても、全面的な失敗というのは想定の範疇外である。
だが、だからこそなにがしかの対応が必要だというのは自明だ。
すでに、状況は加速度的に悪化してしまっている。
何がしかの対応が無ければ、作戦参加部隊の大半が壊滅することは明らかだった。
特に、この作戦で主役としてしゃしゃり出た連合王国空挺部隊と機甲部隊は壊滅の危機に直面していた。
最精鋭を自他共に自負する第一空挺師団では、前線で師団長自身が敵魔導師部隊に包囲され戦死。
ガーデンマーケット作戦司令部が投入した多国籍義勇兵らに至っては、残弾が無くなり近接戦に移行せざるを得なくなっている。
蜂起したレジスタンスらは、冠水によって孤立し各個撃破されてしまっている。
そのほかにも、空挺部隊と連絡線を確保するべく進軍した機甲部隊が包囲されて逆に救援が必要となる始末だ。
確かに、なにがしかの行動が必要なのはわかる。
だが合州国将官らは、ガーデンマーケット作戦司令部が求めてきたなけなしの合州国空挺師団投入要請は蹴っていた。
どう考えても、ここまで悪化した戦局が1個空挺師団の投入程度で打開できるとは思えないのだ。
なにより、現実には使える燃料の制約が付きまとっている。
輸送機で前線に空輸や空挺投下支援を行った結果として、前線のデポでは既に燃料が欠乏しつつあった。
もちろん、直ちに作戦行動に支障が出るほどではないが懸念材料としては大きなものだろう。
空軍の航空支援が途絶すれば、空挺部隊への支援が途切れることを思えば決して無視し得ないものだ。
最前線の機甲部隊は、より事態が深刻だ。
特にパルトン中将の部隊は進撃スピードに補給が追いつけない状況が続いている。
そんなところで、前進を再開させられたのはすぐ終わるという見込みがあればこそ。
だが、このままでは全面陽動作戦を敢行したために文字通り身動きとれなくなるのも時間の問題だ。
まずいことに、パルトン中将の警告通り敵主力を拘束し続けなければ降下部隊は一瞬で蹂躙されかねなかった。
そして、パルトン中将の部隊は既に相当無理をしておりこれ以上時間を引き延ばせというのは物理的に困難と判断されている。
つまるところ、せいぜい24時間程度しか敵主力は拘束し得ない。
その後は、重装甲・重装備の機動部隊に空挺部隊が粉砕されるのは目に見えている。
どころかこちらの重装備で突出している機甲部隊も撃破されかねないほどだ。
「パルトン中将の機甲軍団に緊急補給だ。司令部備蓄を出す。」
それを打開するために、アイゼントルガー将軍は最後の備蓄を放出することを決定。
現状の兵站状況では、攻勢を再起するための備蓄をため込むには絶望的な時間を要することになるだろう。
だが、それを甘受してでも行動しなければならないことは自明だった。
モントンメリー元帥の発案したプランに押し切られた時点で、こうなることは覚悟しておくべきだった。
苦々しい思いながらも、アイゼントルガーは状況を受け入れる。
「…なんたることだ。これでは、秋季大攻勢どころの話ではないな。」
地図に記載されている前線の戦力図。
それだけみれば、圧倒的優勢は自分達のはずだった。
驕ったか、と自嘲気味に自分の不注意さを笑う。
相手は、帝国なのだ。
世界有数の軍事国家にして、並みいる列強を相手に孤軍奮闘してのけた強国。
手負いの獣を甘く見るべきではないという教訓に違いない。
どちらにしても、今は破局を回避することで手いっぱいになることだろう。
そう覚悟し、アイゼントルガーは善後策を打ちはじめる。
だが、ここまで合州国・連合王国を追い詰めているかに見える帝国とて盤石とは程遠い。
優位に戦闘は進められているものの、直面している困難さは多様なものに及ぶ。
特に、圧倒的な機甲部隊を有するパルトン中将による前線への圧迫は危機意識を誰もが刺激されていた。
もちろん、現状では持ちこたえてそれなりに反撃もなしえている。
しかしながら、厄介なことに拘束され主戦線に貢献できていない。
どころか、救援として合州国軍の新手が押し寄せてきた場合の戦力にも不安がない訳ではないのだ。
なにしろ、防衛線は部分的に機能しているだけ。
つまるところ、本格攻勢を仕掛けられた場合への懸念は根深いものがある。
仮に、ノルマルディー規模の攻勢を受けた場合防衛線が瓦解するのは自明と見なされている。
そして、ノルマルディーでも空挺降下が先ぶれだった。
ノルマルディーでも、敵空挺部隊の排除は優勢に進められたとはいえ最終的には敗退している。
秩序だって後退できたとはいえ、突破されたという事実は背後に守るべき本国がある現状では慰めにならない。
これ以上の後退は許されていないという危機感が、防衛司令部を悩ませる。
そして、それは指揮下の部隊に対する過酷な要求となって表れていた。
ただし一言、司令部の名誉のために言及しておくならば。
彼らの仕事量も、また文字通り忙殺されかねないほど煩雑なものを適切に処理していたという事を特筆しておこう。
後世に驚愕される帝国軍将校の質の高さ。
人的資源の恐るべき速度での摩耗にもかかわらず、帝国の人的資源はまだ持ちこたえていたのだ。
とはいえ、それらの事実は前線でこき使われる部隊にしてみれば慰めにも程遠い。
忌々しい糞袋を親愛なる連合王国の諸君に押し付け帰還したターニャを待っていたのは再出撃命令だった。
しかも、混乱した防衛指揮のためか命令事態が支離滅裂に近い無理難題。
曰く、機動力をもって敵全戦線を翻弄しつつ高度な火力で持って拠点を防衛せよ?
まともなように見えるかもしれないが、どこか狂っているにちがいない。
「少しは、休ませてほしいものだ。まったく、不味い珈琲を啜る時間すらないではないか。」
仮設の戦闘団司令部。
司令部というよりも、バリケードと通信機器を設置しただけの簡易陣地でターニャは悪態を漏らす。
この混戦のおかげで、イルドアから持ち帰ってきた珈琲の袋までなくしている。
正確には、ホテルに置いたままであるがともかく手元にないのだ。
出撃命令が急すぎて持ち出す余裕すらなかった。
戦局に余裕があれば、付けられたであろう従兵にでも持たせたのだが。
いちいち将校に従兵を付けるような余裕など、そんなものは東部で無くなっている。
おかげで、不味い珈琲で耐えねばならない。
「兵站状況も最悪だ。司令部は、補給も無しに行動させる気か?」
「限られた兵站状況故に、とのことであります。」
ヴァイス少佐とて、本意ではないが他に言いようもない。
実際、兵站が厳しいのは明白。
とはいえ、敵の空挺降下作戦以来混乱しているのも事実。
要するに、上は何とかしろということを仰っているのである。
「ふん!初心者は無理難題をおっしゃる。」
それに対して、ターニャは鼻で笑いたいと言わんばかりの表情で吐き捨てる。
参謀本部にいた時以来気にかかっていることだが、前線経験が乏しい参謀のなんと多いことか!
レルゲン准将閣下ですら、数度というのは笑うほかにない。
一度、塹壕で一緒に泥水を啜ってみればよいのだ。
「上が沸いた人でも、下がしっかりしていれば、『被害を最小限に止める』手段を思い付くようになると、言いますが。」
「ふん、被害を最小限に留めるというのは、詭弁だ。無駄な損害など、最小限もくそもない。無駄以外の何物でもない。」
災害でもあるまいし、戦争というのは本質的に利益がない限り無駄だ。
そして、人的資本の浪費と社会資本の浪費という観点からして、最小限の犠牲も糞もないのだ。
経済的に考えれば、無駄は何処まで行っても無駄なのである。
最小限の無駄というものは、必要だからある無駄である。
戦争において、犠牲が出るというのは全くの非生産的浪費に他ならない。
故に、ターニャは熱狂的な平和愛好主義者なのである。
「では、いかがなされます、中佐殿?」
「貴様も私も軍人だ。」
とはいえ、ターニャ自身は契約と義務で拘束された身である。
なにしろ職務専念義務が世の中には存在する。
もちろん命に勝る優先価値などありはしないが。
ありはしないのだが、抗命、敵前逃亡というレッテルも拙い。
「つまりは?」
「やれといわれたら、せいぜい呪詛でも呟きながら、やるだけのことだ。」
「一言多いですな。」
仕事はきっちり。
嫌でもしっかり。
これが、社会人のルールである。
近代人のマナーである。
つまり、ターニャという一個の近代的合理人にとって譲れない一線である。
「貴様もだ。」
「それで、どうされます?やつら、懲りずに押し出して来たようですが。」
「そうらしいな。では、一つ、教育してやるか。 」
まあ、手負いの人間や組織を甘く見るべきではない。
敵は倒してから、余韻に浸るべきなのだ。
敵対的買収は、完了してから祝うべきもの。
要するに、経済と戦争はそういうところでは似ている。
まあ、生産的か非生産的かというところで根本が違うのだが。
ともあれ、上から敵を眺めでもしないかぎりやってられないというのがターニャの本音だ。
意欲的かつ有能な軍人としての、模範解答としてもこれで正しいのだろう。
「では?」
「だが、魔導師とはいえ限度があるという事を上の連中は理解するべきだ。」
それでも、少しばかり上に言いたいことがあった。
ヴァイス少佐がたしなめてくることを思えば、上官批判は程ほどにしておくべきなのだろう。
だが、ターニャにしてみれば言うべきことはきっちり言っておかねば仕事が増えるという事は自明だった。
どう考えても、自分のノルマを終えたら帰宅していいはずなのに次からノルマが増える?
軍隊だって、それは例外ではないのだ。
「そもそも、機動戦が本務の魔導師なのだぞ?」
まだ、機動防御に努めよという命令ならば理解しやすい。
それならば、本来の任務だ。
しかし、敵を翻弄しつつ拠点を防衛するとは意味がわからない。
いったい、司令部の連中はそもそも『どこ』を守れというだろうか?
まさか、全戦線すべての拠点を固守しろとでも言う気か?
「機動防御ならいざしらず、わざわざ拠点防衛に貼り付ける方がどうかしているのだ。」
「指揮系統の一時的な混乱によるものかと思われますが。」
「…だとすれば、是正は早めに行うべきだろうな。」
ターニャにしてみれば、軽い気持ちで仕事を押し付けられることへの反発がある。
なにしろ、生死がかかっているのだ。
真剣にもなろうというものだろう。
合理的に考えて、ここで使い潰されるような命令を受け入れるのは自殺行為だ。
即座に状況を打開する必要があるのは間違いない。
だが、どうやって?
答えは、簡潔明瞭。
行動によってだ。
なにしろ、命令は極めて広範な解釈の余地にあふれている。
言い換えれば、敵軍に打撃を与えることさえできれば如何なる手段でも正当化し得る。
そこで、自分の兵科に対する誤解を解くことも可能だろう。
「中佐殿?」
「そもそも私の大隊は、戦闘団は何が得意なのか思い出せ。出撃するぞ。今すぐに、だ。」
そういうなり、ターニャは部隊に出撃準備を命令。
目標は、敵前線司令部。
といっても、別段ご立派なモノを叩く訳ではない。
この手の空挺作戦の指揮は、前線航空管制官無しでは不可能だ。
つまり、空挺部隊の命綱をたたっ切るという効率的な方法による戦局の打開。
まあ、ハンニバル以来の敵主力無力化による勝利というのは古典的手法だ。
それこそが、現状におけるターニャの選択しうる安全策にして効率的な方策である。
ベトコンが採用した、窮余の策だが一応とはいえ正規軍の帝国軍ならば余裕だろう。
「目標、敵前線司令部。諸君、無理難題を上が押し付けてくるとはいえ仕事は仕事だ。」
市街地での交戦である以上、敵の航空支援は面制圧も困難に違いない。
ピンポイントの誘導弾もない以上、拠点爆撃以外で敵航空機は無能に等しいだろう。
まあ、さすがに完全に無視するわけにはいかないが。
それよりも大きいのは、空輸能力の方だ。
降下した部隊の兵站は、航空管制官の誘導によって輸送機が担っている。
つまり、兵站を根こそぎ断つためには航空管制官を排除すれば一発。
「防衛司令部、こちらデグレチャフ。」
「?いかがされましたか、中佐殿。」
「全力出撃する。」
簡単な話だ。
結局のところ、快刀乱麻を断つ。
一撃だ。
無駄のない、外科的手術が効果的なのである。
前線付近に増援として展開した合州国軍。
第6師団並びに第12師団を中心とした第4軍。
彼らに課せられた任務は、孤立している友軍救援だった。
さしあたっての任務は、突出し、孤立した連合王国第三十機甲軍団との連絡線回復にある。
実際のところ、押し込んでいるとはいえ帝国にも余力は乏しい。
なればこそ、新手の増援部隊は比較的軽微な抵抗に直面するだけで進撃できていた。
それは、彼らを派遣することを決断したアイゼントルガー将軍の想定通りと言える。
なにしろ、彼らの多くは初の実戦をノルマルディーで過ごすという過酷な初陣を体験してきた。
それだけに、当初は損耗を考慮し、休養を必要とすると判断され彼らは予備部隊に回されている。
それだけに、当初アイゼントルガー将軍は彼らの投入を躊躇していた。
しかしながら、状況の悪化と使える手札の問題から不安を抱えながらも投入せざるをえなくなる。
だが、アイゼントルガー将軍の危惧とは裏腹に、彼らは比較的順調に進撃に成功。
状況は良好であるようですらあった。
後わずかで第三十機甲軍団との連絡回復が可能な距離にまで進出済み。
そんな彼らは、きっちりとレーダーを監視し警戒を怠らない。
だから、接近してくる敵性反応にも敏感に対応できた。
「レーダーに敵性反応!警戒せよ。」
手順通りの対応。
レーダー及び対魔導師センサーを展開し、前方を走査。
「反応は2つだけだ。」
結果は、たったの2。
そう、敵の反応はわずかに2だ。
だが魔導師という事を勘案すれば、油断すれば手痛い損害を被ると理解できる。
なにしろ、高速で接近してくる敵魔導師である。
一撃離脱を専門とする敵部隊を想定すれば、油断できる相手ではなかった。
故に、彼らは慎重に接近してくる敵に狙いを定める。
「一撃離脱部隊か?正確に狙うぞ。」
「追尾しろ!少数とて侮るな!」
だが、彼らの手順は正解ではあるものの十分ではない。
少なくとも、手なれた古参兵ならば魔導師だけに気を取られないものだ。
確かに魔導師は脅威だとしても、歩兵や砲兵といった古典的な兵科も人間を殺すには十分すぎる。
なればこそ、大勢が上を向いている時は。
いや、そういう時こそ古参兵は対地警戒を厳にするのだ。
だが不幸にも、そのような古参兵はこの戦場の合州国軍には望みえない。
そして、それ故に帝国軍サラマンダーの顎に噛まれることとなる。
『・・・、レーダーに依存し過ぎですな。』
『塹壕戦を知らない間抜けども相手だ。伏撃が此処まで簡単だと笑えてしまいますね。』
演算宝珠を使わず、人間の持つ足によって前進。
たったそれだけ。
たったそれだけで、レーダーや対魔導師索敵兵装は高価なおもちゃだ。
ハイテク兵器といえども、使うのが人間であり用途以外には無力という事実を忘れるべきではないのである。
だからこそ、損耗が激しくなることを承知で用心深い指揮官は哨兵を出す。
機械はごまかせても、人間の眼で目視されれば浸透作戦は阻止されるのだ。
それを、どうにも合州国の人間は失念してしまっているらしい。
実際、この手の戦術は経験則によるところも大きいもの。
塹壕戦での騙し合いを体で経験していない連中には少々厳しいのだろう。
シャベルを抱えて這いずり回った経験は、経験していないものには理解しにくい。
『総員、着剣。おしゃべりは帰ってからにしたまえ。』
『っ、失礼いたしました、中佐殿。』
古典的な戦争では、歩兵こそが全てを決するという事が嫌というほど強調されている。
素人ですら、マッセナの異常な行軍速度がイタリア戦役において決定打になったことを理解できるのだ。
その常人離れした行軍速度が、連戦し、疲弊し尽くし、機械化どころか馬匹にすら事欠く軍隊によって為された。
この事実を、もう少ししっかりと記憶しておくべきだろう。
全く、歴史から学ぶ賢者たれというつもりはないが、歴史のお勉強はするべきだ。
「ん?・・・、そんなはずは。いや、しかし。」「どうした?」
「魔導師反応です。第七区画に展開している友軍魔導師はいないはずなのですが。」
「スクランブル展開している友軍ではないのか?」「問い合わせてみよう。こちらCP,繰り返す、こちらCP,展開中の」
『…まだ味方だと思い込んでいるのか?かまわん、ぶっ放せ。』
間抜け具合にも程がある。
罠の可能性を考慮したとしても、ここまで魔導師を近づける罠があるとは考えにくい。
であるならば、一心不乱に吶喊するべきだ。
『よろしい、制圧するぞ。グランツ、貴様の隊で続け!』
『了解、中佐殿!』
呼びかけてくる無線発信源に対し、術式を展開。
哀れなほどに対応が遅いために、展開が非現実的なまでに遅い重気化爆裂術式を展開し得るほど。
ぶっ放した術式は、あっさりとテントを中心とした合州国軍通信要員を包み込み炸裂。
『蹂躙せよ!蹂躙せよ!ラインを思い出せ!』
咄嗟に事態を理解できていないであろう敵兵に対し、部下らが情け容赦なく襲いかかるのを傍目にターニャは護衛を率いて突進する。
生き残った将校によって指揮系統が回復されるのを阻止するためにも、頭は根こそぎ刈り取らねばならなかった。
それも、できる限り迅速かつ徹底的に。
とはいえ、弱い者いじめだ。
奇襲を受けて、混乱しきった哀れな集団を嬲るだけである。
まさに、ターニャ好みの展開であった。
飛び出してくる生き残りに対して、精密無比な狙撃術式を展開。
個別にたてこもる連中の掃討は、手間暇を惜しみ爆裂術式で建物ごと粉砕。
少数の魔導師に対しては、二個中隊を割り当て狩りたてさせる。
これほど、一方的な展開は随分と久々。
『諸君、後180秒で離脱する。最大限、敵設備並びに物資を破壊せよ。』
なにしろ、自分は比較的危なくない一方で最大限の戦果を見込める。
費用対効果、リスク分析の観点から言って完璧だった。
戦争という非生産的作業に従事するならば、常にかくありたいというほどに。
同時に、深入りする危険性を理解している。
ターニャは時間を区切ってきっちり引き際も忘れない。
スクランブルが飛んでくる可能性を考慮し、一撃離脱に徹する。
とはいえ、電光石火で蹂躙される側にとってみれば堪ったものではない。
いきなり通信手段を粉砕された挙句、援護なしで司令部要員だけで突入してくる大隊規模の魔導師と殺し合うのだ。
言葉を飾らずに言うならば、一方的な虐殺の幕開けに他ならない。
事態を合州国・連合王国が把握した時、第四軍司令部は文字通り地上から消失していた。
この世の地獄という表現がある。
文学的表現であれば、感情に訴えるだけですむ。
だが、体験させられる方にしてみれば堪ったものではない。
だが、一度体験すればもう終わっただろうと考えてしまうのが人間の性である。
俗に、東部戦線と呼称される戦線。
帝国軍の一大攻勢によって、双方共に疲弊し尽くした筈の戦場。
この戦いにおいて、帝国は当初の目的こそ達せえなかったものの、連邦軍に痛打を与えていた。
参謀本部をして、再建には1年強程度を要すると判断させるほどの大戦果である。
帝国軍にしてみれば、ようやく一息つけると期待してしまう。
誰もが、状況の好転を期待していたのだ。
だからこそ、一部の部隊を西部の危機に捻出する余力まで確保できていたほどである。
だが、連邦軍はロリヤ同志と書記長同志の指導により恐るべき速度で再建されていた。
もちろん多大な犠牲を払い、並みの国家ならば軍が崩壊するほどの損害を受けたのは事実である。
しかし、厳密に言うならば先の帝国軍との戦いで摩耗したのは実のところ一線級の部隊ではない。
それこそ、根こそぎ『革命的』に招集した『愛国的』かつ『模範的』兵隊を『鉄の前衛集団』が導いて戦ったのである。
もちろん『崇高な』犠牲を多く必要とした事は、『祖国防衛』のための『尊い』犠牲だった。
だが、彼らの『党への信頼』と『同志書記長への信頼』は報われることになる。
なにしろ、『革命防衛の崇高なる使命感』に満ちた犠牲によって温存されていた親衛軍が遂に動き出したのだ。
奔流の勢いで各戦線を蹂躙する親衛軍は、まさに連邦の威信を体現し各所で戦局を優位に進めていた。
それを為し得るだけの装備と、兵站は十二分に行われていたのである。
いや、そのためだけに温存されていたと言ってもよい。
だからこそ、今の劇的な戦果があるのだから。
そして彼らの戦果を、戦争指導に従事するロリヤは淡々と謙虚に党の政治局で誇るでもなく述べていた。
「つまり、消耗し、疲弊し、疲れ果てた帝国に対し、我らが連邦軍の精鋭は圧倒的優位に戦局を進展させております。」
合州国との貿易によって確保したトラックや弾薬。
全て親衛軍に割り当て、代わりに他部隊は余剰兵器で戦い抜かせただけあって親衛軍の装備状況は良好だった。
それこそ、開戦前の帝国軍親衛師団並みの充足率と練度を保ち、なおかつ合州国軍なみの装備。
軍団規模のそれを、疲弊し尽くした帝国軍戦線にぶち当てるのである。
「戦局は極めて優位に進展し、すでに前線からは突破の報告が相次いでおります。」
なにより、連邦にとっては幸いにも。
合州国と連合王国が重い腰をようやく上げて第二戦線を形成した。
まあ、ロリヤにしてみれば確保すべきイデアが横取りされかねないという危惧もあるのだが。
というよりも、もっぱらそれこそがロリヤにとっての問題である。
なにしろ、報告によればあの可憐なイデアは野蛮な合州国の狂信者と殺し合っているらしい。
まったくもって、ロリヤの心配も知らずに困ったことだった。
ともかく、合州国や連合王国(それとおまけで共和国)といった連中には彼女の素晴らしさが理解できていないのである。
みすみす貴重な奇跡の塊のようなイデアを壊される訳にはいかないのだ。
「故に、この勢いを活かし帝都まで圧迫し得るようにさらなる攻勢を企図すべきかと考えます。」
まったく、叶う事ならばこの身一つでも駆けていきたいものだ。
その心だけならば、常に彼女の傍にある。
身を焦がすような衝動ではあるが、ともかく耐えねばならないのだ。
ロリヤはただひたすら想いが成就する時を待ち焦がれている。
だが、彼にしてみれば満願成就の時は近いように思えてならない。
あとがき
ZAP終わってから、書きます。
ご容赦ください。
誤字ZAPしてきました。
今日も真理省は残業で大忙しです。
真理省は、常に真理をお届けします。
夢も希望もないのですが、デグさんの部下は野郎どもです。
あと、希望とか救いとかのリクエストがあったので
神様と聖女様に頑張ってもらいたいとおもいます。
それと、デグさんを昇進させることも検討します。
なんという問題の積み増し大盤振る舞い。
加えて、ロリヤの純愛にご期待ください。
『帝都の中心で、愛を叫ぶ?』
微修正。