「装甲厚くても……刺しちゃえば同じ」
「……!!」
ぼーっとした言葉遣いで呟くフィフスだが、その銃剣には必殺の意思が込められていた。
狙うはコクピット。ここを突き刺せば終わる。マカリとの作戦なんて必要なかった。そう、つまらなさそうにフィフスはストライクを見ていた。
キラは銃剣突撃をしてくるジンハイマニューバ(以下ジンHM)の姿を見ていた。このストライクの反応速度では、間に合わないのではないか。
そう思った。以前の調整のままのストライクならば。
操縦桿を捻る。セカンドレバーを押し倒し、トリガーを引く。ストライクが、ヘリオポリスでは見られなかったように身体を捻り、
ストライクは半身を逸らして銃剣を紙一重で回避。その動きは実にスムーズで、一瞬フィフスは目を奪われてしまう。
「えっ……!?」
まさかMSがこんな細かい機動をするとは思わず、フィフスは驚きに目を見開いた。その勢いのまま、フィフスのジンHMとストライクの肩が激突!
何十台もの戦車が全速でぶつかりあうような轟音と衝撃が走り、コクピットの中でフィフスの小さな身体が大きく揺さぶられ、シートベルトに締め付けられて咳き込んだ。
「げふっ……!」
「くぅぅー!」
キラのストライクも、ジンHMの激突によって大きく弾き出され、同じく激震がコクピットを襲う。
キラ自身も、動物的な脊椎反射で回避しただけで何が起こったか一瞬わからなかった。だが、ストライクは上手く反応して回避してくれた。
すぐさまシュベルトゲベールを持ち直し、目の前で体勢を崩しているジンHMにすぐさまシュベルトゲベールを振り下ろす!
「このぉー!」
「やられないし……!」
フィフスとて、赤服を着ているトップガンだ。反応速度などは並みのコーディネイターよりも遥かに優れている。
素早くスロットルを引いて操縦桿を引き倒し、ペダルを踏んで横に回避。しかしジンHMの反応速度が遅れた。
左肩のショルダーが切り裂かれ、バランサーに障害が発生する。気にせずバーニアを噴かして距離をとる。
フィフスは自分の油断を自覚し、眠たげだった表情を顰める。そこへマカリの叱咤の通信が入った。
「フィフス! チャンバラはしないんじゃなかったのか!」
「……いけると、思ったのに」
「油断しすぎだ! 相手はクルーゼ隊を振り切ったヤツだぞ。例の作戦でいく!」
「了……解」
フィフスは、最初は油断していた。MS同士の初めての戦いになることに愉快さを覚えていたが、どこかで侮っていた。
所詮はナチュラルが作ったもの、ナチュラルが操るもの。MAよりは歯ごたえがあるかもしれない、程度に考えていた。
だが、この白いMSはどこか違う、別格のものだと分かってきた。初めてマカリと出会ったときのように。
フィフスはモニターでシュベルトゲベールを中段で構えるストライクを睨み据えて、追加武装の重斬刀をジンHMに持たせる。
「また格闘戦を!?」
キラは、ジンHMの持った武器を見て、意外に思った。この強力なソードの威力に警戒して、距離を空ける戦闘に持ち込むと思ったのに。
すると、青いシグーも重斬刀を握る。二人とも格闘戦に持ち込むつもりなのか。近接戦闘に特化したソードストライクに対して。
この二人は何がしたいのか、キラには読めなかった。でも、斬りかかって来るならばこのシュベルトゲベールで応戦するつもりだった。
シグーとジンHMが肩を突き合わせて並ぶ。ストライクがシュベルトゲベールを斜めに構え直す。キラの額に汗が浮かんだ。
(……来る!)
二機が同時に左右に分かれる。二機を素早く交互に見る。
この漂流物や小惑星が多い宙域だ。派手な動きは自滅の恐れがある。それを恐れずに、あんな大きな動きをする。
それどころか……
「なっ……!」
シグーは小惑星を蹴って加速している。それに一瞬見入ってしまって、ジンHMを目で追うのを忘れてしまう。
ジンHMもシグーと同じ勢いで迫ってくる。このままだと、シグーと全く同時にこちらに到達するだろう。
どちらを相手にしたらいいのか。キラは一瞬で判断することを強要された。
「一度下がれば…!」
距離を空けてやればいいのだ。そうすれば敵もタイミングがずれる。そう思いストライクを後ろに思い切り下がらせた。
すると目の前で青いシグーとジンHMの姿が重なって――シグーが、ジンHMに押し出される形で加速してきた!
「なっ!?」
シグーがジンHMを踏み台にしたのだ。正しくは、ジンHMがシグーの足の裏を蹴って更に加速させた。
回避するタイミングを僅かに逸したキラ。迫り来る重斬刀に対し、身体が勝手に動く。
がりぃんっ!!
「なんっ……手で受け止めるのか!?」
「…………!!」
反射的にストライクの掌で重斬刀で受け止めたキラ。フェイズシフトによって火花が飛び散る。
既存のシグーを遥かに上回る速度を含めた重たい斬撃を受け止められたことに、マカリも一瞬驚いてすくんでしまう。
警報音。第二関節部に過負荷。多元駆動系に異常発生。腕のセンサーがイエローコンディションを表示する。
マカリのシグーは咄嗟に重斬刀を手離し、ストライクの頭上をパスする。
同じように、ストライクの掌が、速度が加わった強烈なGに耐えられなくなって手首部分擬似神経がオーバーヒートする!
「くそっ、手が……うわっ!」
追撃で降り注いできた27mm弾。フィフスのジンHMが、乱射しながらストライクに迫る!
ストライクのボディに火花が咲き乱れ、バッテリーは既にイエローゾーンに到達していた。
「マカリの食べ残しは……ボクがお掃除する……」
ぽつぽつと呟きながら、迫るストライクを睨みつけるフィフス。全ての弾薬を使いきった27mm機甲突撃銃を投げ捨て、重斬刀を横薙ぎに振るう!
「やられっぱなしで……たまるかぁ!」
キラのプライドが爆発し、その横薙ぎの一閃をかわして、ストライクがシュベルトゲベールを力任せに振り上げ、ジンHMの右腕を切り裂いた!
「腕……!」
フィフスは重斬刀を握っていた腕を切り裂かれ、それでも、とジンHMの足を振り上げ、ストライクに蹴りを放った。
がぁんっ!!
フェイズシフトによって守られた表面装甲は無事でも、内蔵機関全てがフェイズシフトによって守られているわけではない。パイロットは尚更だ。
その衝撃を受け、キラはたまらず一瞬操縦桿を離してしまい、隙を作ってしまった。
「がっ……!」
その隙はほんの一瞬で、MS戦では隙とすら映らないと見えるかもしれない。が、マカリはそれが隙と取った。
重斬刀を煌かせ、真上からストライクに突撃をかける!
「いくら装甲が厚くても、ここらが限界じゃないかな……地球軍のMS!」
マカリは、殺った、と確信する。キラはすぐさま操縦桿を握って対応していくが、エネルギー僅少の警報が鳴る。
「しまった! エネルギーが!」
同時、フェイズシフトがダウン。ストライクが灰色になってスラスターからも火が落ちる。
それを目撃したマカリとフィフスは僅かに戸惑ったが、まるで枯れたみたいに色が無くなったストライクが明らかに弱体化しているように見える。
「随分とわかりやすいことだ。もらった……うおっ!」
ヴンッ!
マカリのモニターが一瞬、凄まじい閃光に満たされた。重粒子砲か。シグーを下がらせて振り返ると、迫ってくるのは白い戦艦。アークエンジェルだ。
「ヤマトをやらせるな。敵機をストライクから分断させるように狙っていけ。無理に当てようとするな」
「了解! 全火器、基本照準をトラックナンバー2-1-1から2-1-2に設定。CIWS起動。マーク。ヴァリアント、撃ち方始めぇ!」
「撃ち方始めぇ!」
ブリッジではギリアムとCIC要員の号令が響き、長砲身レールガン、ヴァリアントがシグーとジンHMに放たれ、マカリとフィフスはストライクからアークエンジェルへと意識を移す。
砲撃の的にならないよう、ランダムの機動を取ろうと二機は分かれて動き始めると、今度は金色の閃光が降り注いでくる。
「母艦…! こいつを仕留めれば――」
マカリは欲をかき、あわよくば白い戦艦も落とそうと唇を舐めると、ロックオン警報。同時に、突然機体の周囲を閃光が掠めていく。
上方向からのリニアガンの雨。上を見上げると、オレンジ色のMA――ムウのメビウス・ゼロがリニアガンとガンバレルを乱射させながら迫ってくる!
ムウに戦闘を仕掛けた二機のジンは、大破とはいかないまでも推進器をやられ、戦線を離脱しようとしているところだった。
「坊主!!」
「フラガ大尉!」
キラは心強い味方の応援に、全身に力が戻ってくるのを感じた。おまけに、アークエンジェルとゼロの攻撃で目の前のザフトのMSの二機は及び腰になっている。
そこにチャンスを見出し、青いシグーにロケットアンカー――パンツァーアイゼンを伸ばす!
またも見た事の無い兵器に不意を打たれ、マカリはそのパンツァーアイゼンに掴まれて強引にストライクに間合いを引き込まれてしまう!
「何ィッ!?」
「うおおおおお!!」
パンツァーアイゼンでシグーを引っ張り込みながら、腰に仕込まれたアーマーシュナイダーを引き抜いて……シグーの胸部に突き刺す!
シグーから飛び散る火花。冷却機能低下。バッテリー過熱。コンディション画面が次々と赤く表示されていく。
マカリは撃墜の危険を感じ、撤退の必要を迫られた。
「くそっ……こいつ、いきなり動きが変わった! 撤退するぞ、フィフス!」
「……惜しい……」
「ヴィーラント! これより帰還する。支援砲撃を!」
〔了解しました。道先案内をいたしましょう〕
マカリは唇を噛みながらシグーを反転させ、フィフスもシグーを掴んでバーニアを全開。
追撃をかけようとするストライクとゼロだが、直後に降り注いだ艦砲射撃によって追いかけるタイミングを逸し、見送る形になってしまうのだった。
「はぁ、はぁ、はぁ………」
やがて艦砲射撃が止み、シグーとジンHMがレーダーから消えると、ぐったりとシートに背を預ける。
(なんて、人達だ……本当に、死ぬかと思った)
自分に向けられる、徹底的なまでに鋭く絞られた殺意。刃が迫る瞬間。
彼らは熟練したパイロットだった。あの二機の息の合ったコンビネーション。敵の動きにも対応する柔軟性。
鹵獲されたG兵器のパイロットは確かに強かったが、キラと同じように地力だけの実力のようだった。
きっといくつもの死線を越えたパイロットだったのだろう。自分が生き延びたのは、ストライクの性能とコーディネイトされた地力のおかげだと感じる。
きっと次もやってくる。強くならないと……キラは、今を生き延びた安堵の吐息をついた。
(……そういえば)
あの時ストライクが今までとは違う動きをして避けられたのは、なんだったか。その瞬間の光景を思い出す。
(そうだ……リナさんが弄ったところだ)
リナと一緒にストライクのOSを弄ったあの時。運動ルーチンの伝達関数を書き換えたあのときだ。
あの動きでストライクの胴部の関節が嫌な悲鳴を挙げたけれど、結果的には助かった。彼女の助言なしには、きっと生き延びることはできなかっただろう。
それに。
(リナさん……あなたは、コーディネイター用のOSで、立ち上がってみせた……)
MS用のシミュレーターでの訓練のとき。あのとき、ムウが操ったあと、初心者用のOSに書き換える振りをして、実は自分用のOSに戻しておいたのだ。
だからすぐに書き換えが完了した。さすがのキラでも『初心者用のナチュラル用OS』なるものを、あんな短時間で作り上げることなどできない。
それをリナは、初心者用のナチュラル用OSと勘違いしながらも動かしてみせた。そして確信する。
――彼女は、コーディネイターだ。
(あなたは……なんで、地球軍の軍人なんだ……?)
後方を見ると、近づいてくるアークエンジェルが見える。キラは、艦内で働いている友達の姿を思い浮かべながら、ストライクをカタパルト口に向けてゆっくりと流れていった。
- - - - - - -
「敵部隊、我が艦から離れていきます。支援砲撃、沈黙。Nジャマー数値減少」
「……第一種戦闘配置命令解除。対艦用具納め。フラガ大尉のゼロとヤマトのストライクを収容しろ。
まだ敵部隊が潜んでいるかもしれん。…対空監視、怠るなよ」
「了解」
ギリアムの号令と共にブリッジの緊張が緩む。ギリアムはそれを肌で感じるが、叱咤することはなかった。
自分も初めての艦の指揮。敵を無事撃退し、気が抜けるのは否定できない。安堵の吐息をつくのを堪え、かつての上官であったロクウェル大佐が抱えていた重荷に思いを馳せていた。
ムウとキラが帰還し、ようやく船務科から解放されたリナ。
リナは戦闘が終わったこと、ムウとキラが無事に帰ってきたことに安堵の溜息をついて、小さな身体を目一杯背伸び。
まとめていた黒髪を解きながら格納庫に飛んでいく。直接戦闘に関わったわけではないから事情はわからないけど、なんか苦戦していたみたいだし、労ってあげたい。
リナが格納庫に着いたとき、ストライクのコクピットに取り付いている甲板要員達が見えた。マードックがコクピットを叩いて怒鳴っている。
「おーい! 坊主! 開けろってば!」
「? どうしたんだい?」
「あぁ、お嬢ちゃん。…ヤマトがコクピットから出てこねぇんだよ。寝ちまったのかな…」
なるほど、と思う。キラは実戦経験が少ないし、本格的な戦闘で疲弊するのは当たり前かもしれない。まだ学生なのだから。
コクピットに耳を当てて、何か聞こえるか…と思ったけれど、聞こえるはずがない。
「キラくーん? ……開けるよ」
まるで寝ている息子を起こす母親のような口調でコクピットハッチに語りかけながら、緊急用ハッチ開放キーを探し当てて入力。与圧した空気が吐き出され、コクピットが開かれる。
リナやマードック、遅れてやってきたムウも一緒にコクピットを覗くと…案の定、コクピットシートで寝息を立てているキラを見つけた。
そのキラの寝姿にリナは微笑み、ヘルメットにぽんと手を置いた。
「お疲れ様、キラ君……」
「リナ……さん……」
キラから返って来た返事は、寝言だった。
衛生兵がキラを起こさないようにコクピットから出して、医務室へと運び込まれていくのを見届け、自分も個室へ帰ろうとしたとき。
「そうだ、お嬢ちゃん。合体のことなんだけどな」
(うわっ、来た……)
マードックに呼び止められた。用件は今まで後回しにしていた、コアファイターとエールストライカーパックの合体の件だ。
リナは内心ヒヤヒヤしながら、くるりと振り返って、なるべく良い笑顔で対応することに。にっこりと笑って、後ろに手を組んで、少ししなっとした態度。
「は、はい…なんでしょうかっ?」
「……お嬢ちゃんのMAとエールストライクは、結論からいって『規格は違うが接続部構造は同じ』だったぜ」
「…………???」
つまり、どういうことだってばよ?
理解の色を示さないリナに、マードックはこめかみをペンの尻でかりかりと掻きながら言葉を探す。
「わかんねぇかな……要するに、他社の部品で全く互換性は想定してなかったが、たまたま出力や構造が同じだったからあの二機はくっついてたってこった」
「わかりやすい例えをありがとう。……でも全く違う技術で作られてるって言ってなかったかい?」
「そうなんだが、そこが不思議なんだ。まるで『エールストライクのほうがMAに合わせて作ってあった』みてえに、がっちり合っちまったんだよ」
「……ちなみに、ストライクとあのMAは、どっちが先なんだい?」
まるで、ニワトリが先かヒヨコが先か、という問答みたいだ。
「MAが先だ。その接続部も、俺たちには知らない技術で作ってあるってのに……これって、本当はお偉いさんが秘密で作ったストライクの支援機じゃねえのか?」
「技術屋じゃないボクに聞かれてもね……ストライクの開発計画の責任者に聞いてみないと」
肩をすくめ、格納庫に未だ吊るされているコアファイターを見上げる。
装甲が全て剥がされて、被弾した推進器が外されて核融合炉が丸見えで……まるで死体のようだった。
どうやら本気で解体するようだ。せめてブラックボックスや学習型コンピューター、核融合炉だけは置いておくように言わないと。
「おまけに核融合炉ときたもんだ。こいつぁオーバーテクノロジーの塊だぜ。学習型コンピューターってやつも調べちゃいるが、まだ解析できちゃいねぇ」
「戦闘記録は見れるの?」
「今は見れねぇな。なにしろブラックボックスの中だからな。こんな戦闘艦の中の設備じゃダメだ。もっと本格的な施設に持ち込まないとな」
「そうか……」
もし……もし、あのパイロットのものだったら、彼の戦闘記録が生で見られるかもしれない。
(このコアファイターが、もしかしたら戦争の勝敗を分けるかもしれないな……)
期待に胸を弾ませ、コアファイターを見上げるのだった。
※
夜遅くにこんばんは! PHASE 17をお送りいたしました! 読んでいただきありがとうございますっ
うわー。前の更新から5日くらい経ってます。引越し作業とかで遅くなってしまいました。皆さま、ストーリー忘れておられませんか…?(汗
主人公の王道といえば、やはり強敵の出現。キラもこのSSの主人公と位置づけておりますので、その挫折と成長も見守ってあげてください。
いっそ主人公のリナよりも、コアファイターのほうがチートなのか?
核融合炉が連合によって解析されたら……ザフトピンチか!?
本当に地球軍楽勝ムードでいいのか、このSS! がんばれザフト!(ぇー
次回! リナ大勝利! 希望の未来へレディーゴー!
…いや、最終回じゃないですよ? それでは次の投稿もよろしくお願いします!