「原作キャラ可愛すぎです」
ジリリリリ! という目覚ましの音で俺は目を覚ます。枕元に置いてある目覚まし時計に手を伸ばして音を止め、時間を確認する。朝五時半、いつも通りの起床時間だ。欠伸をしながら上体を起こして立ち上がり、先ほどまで自分が寝ていた布団を畳む。
ちなみに俺はいつもリビングで寝起きしております。というか部屋が一杯なんですよね……どうしてこうなった。
そのまま洗面所へと向かい、顔を洗って歯を磨く。うむ、やはり顔を洗うと身が引き締まるというか、何か朝起きましたって感じがするよね。まぁ、まだ六時にすらなってないし、他の住人が起きるのは最低でも七時半過ぎくらいなんだけれども。とりあえずそのまま洗面所に置いてある自分の着替えへと手を伸ばす。パジャマを脱ぎ、洗ってあった下着(無論女性用ですよ?)に取り換えて脱いだものは全て洗濯機に放り込む。個人的には二日くらい同じもの履いててもいい気がするんだけど、麦のんにそう言ったら頭を叩かれました。うむ、女性は毎日取り換えるんですね、分かります。
いつも通り、上はワンピースと上着を着て、下はジーンズだ。たまーにスカート履いたりするんだけど、滅茶苦茶動きにくいんですよね。こればかりは慣れないのですよ……この事を一番残念がってたのは、何故か田辺さんでした。謎すぎる。
着替えが終わったので、誰も起こさない様に注意しながら毎日やってる仕事に取り掛かります。まずは台所へと移動し、いつも使っているゲコ太のエプロンを装着する。実はこれ、田辺さんからの誕生日プレゼントとしてもらいました。あの時の「お揃いね」と言った田辺さんの笑顔は生涯忘れる事が出来ません。あの人笑うと、元々美人だったのに更に美人になるんですよ……とと、こんな話してる場合じゃないな。次は炊飯器の様子を見に行く。何度か炊き忘れがあって麦のんにオシオキされた事があるから、これは絶対最初に確認する事にしてる。今回は大丈夫だったみたいで、美味しそうに御飯が炊けておりました。これで主食はOK。
次は冷蔵庫から味噌とダシ(粉末)を取り出す。麦のん、昨晩の作り置きを出すと怒るんですよね。御飯も冷ご飯嫌がるので、朝はいちいち準備しないといけないのですよ。お陰で毎朝五時半起きです……でも慣れちゃったので、個人的には健康的だし良いんだけど。
具は油揚げにでもして、後で鮭でも焼くかな。滝壺は卵かけご飯が好きなので、卵も準備しておかないと……って、そうだ。何と滝壺と絹旗が仲間になったのですよぅ。
滝壺が来たのは結構前になるのですが、確か麦のんと暗部の仕事を始めて一年位した時だったかなぁ? 最初新人が来るって言われて迎えに行った時、心臓止まるかと思ったもんね。いや、滝壺は良い子だし『アイテム』に入らなきゃ浜面とのイベントが進まないので参加することは分かってたんだけど、予想より早くて驚いたのですよ。しかも最初出会った時とは違って『体晶』持ちだとも言うしさ……結局滝壺はあの副作用に苦しむのかと思うと、少し胸が苦しくなるね。ただ原作とは違って麦のんが余り使おうとしないのは救いかもしれないけど。まぁこれからドシドシ使っていくのでしょう。そして滝壺なんだけど、滅茶苦茶御飯食べます。多分俺と麦のん、絹旗の三人合わせた量かそれ以上に食べます。原作だと腹ぺこキャラはインデックスさん以外いなかったと思うし、滝壺にそんな描写あったとは思えないんだけど……まぁ大した誤差でもないし、ストーリーに関わる事でもないから良いけどさ。
絹旗は一年位前に『アイテム』へ加入致しました。これまたビックリしすぎて魂が抜けそうになったんだけど、それ以上に驚いたのが絹旗の性格だったんだよね。あのね、超暗くてネガティブ思考だった上に、超口調もなくてそれどころか全然喋らなかったんですよ。ぶっちゃけ同じ名前と顔した別人かと思いました。しかも必要以上に関わり合いたくないとか言ってた様な気がする。俺だって死亡フラグ立つから『アイテム』に入りたくなかったやい! とは言えなかったし、それに一緒に仕事したりする仲間として仲良くしたかったので、色々とやりましたよ。食事に誘ったり、色々と出かけたり……思い出すとギャルゲーみたいだな。ま、まぁそんな努力もありまして絹旗は徐々に明るくなっていき、現在の性格に至る訳です。ちなみに超口調は俺が教えました。超超言わない絹旗って、何か変な感じがしたんです。今は反省してます。
という訳で滝壺と絹旗とは合流済みなんですけど、何と今は四人で同棲生活送っているのですよ。いや、これは本当に予想外なんだけど、滝壺と絹旗は全く家事能力はないし新しい場所を用意するのは面倒などという理由で、麦のんがこのマンションに住まわせてしまいました。ちなみに今は最初に生活を始めた場所よりも、少し大きな場所に住まいを移しているので四人でも狭くないです! ただ寝室が足りないので俺がリビングで寝泊まりしている事以外はね! 泣きたくなってきた。
愚痴っても仕方ない、とりあえず後は麦のん達が起きる時間を考えてシャケを焼くだけなんだけど、その前にやる事があるのですよ。とりあえずエプロンを壁にかけ、玄関へと向かう。自分のスポーツシューズを履いていざ出発。朝日が昇り、早起きしてジョギングしている人達がすこーしだけいますね。ちなみに私もなんですけど。
そう、その暇な時間は走りこみをしているのでありまする。麦のんからの指示で基礎体力を付けろとの事でしたので、そのせいあってか毎日走りこみしてるんですよね。お陰で体力は結構あります。まぁ、それが強さに直結するかどうかと言われると……すいません、活躍出来てません。だって他のメンバーが強すぎるんですよ。近付く前に相手を瞬殺しちゃう麦のんに、近付いたら相手をするパワーファイターの絹旗、滝壺と俺は殆ど出番がありませんです。大体車の中で待機してる事も多いしね。
それでもやらないよりはマシと考え、こうして毎日努力し続けている訳なのです。あぁ、これが評価される日は来るんだろうか……くすん。
まだ夜明けって事もあって人は少ないけれど、その分毎日走っていると毎日のように顔を合わせる人がいる訳であります。そう、皆大好き……少なくとも俺はそのおっぱいに悩殺された先生。
「お、フレンダじゃんよ。今日も早いじゃんねー」
「おっと、黄泉川せんせーおはよ」
そう、黄泉川先生でありまーす。実は先生は俺が麦のん以外で初めて出会った原作キャラなのよね。麦のんに朝の走りこみを指示されてからすぐに知り合ったんだけど、最初の出会いは最悪と言えるものでした。まだ中学生になる手前だった俺が朝走ってる姿を見て、黄泉川先生は虐められてると思ったらしく、保護されたんですよね。いや、確かに首輪付けた少女が朝からぜぇぜぇ言いながら走ってたら、俺だって不審に思うし。
という訳で保護(捕獲)された俺は『警備員』の詰め所に連れていかれて、色々と話をさせられたのよね。しばらくしてから麦のんが血相変えて迎えに来てくれたんだけど、これ付けたの麦のんって黄泉川先生に言ってあったから、そこから麦のんに対する質問が凄かったわ。麦のんが半べそになる姿なんて想像出来なかったからね……黄泉川先生パネェ。ちなみにトラウマになったのはこの出来事じゃなくて、この後されたオシオキであります。ぶるぶる。
「相変わらず精が出るじゃん。ウチの新入りどもにも見習わせたい所じゃんよ」
「あは♪ 私はこれ以外やってる事ありませんからね~。他の教師なんて大変なお仕事やりながら『警備員』やってる人達とは違いますよ」
「うーん、何度も言ってるけど学校に通えばいいじゃんよ。私としても、フレンダみたいな歳の子が学校に通ってないのは、何となく諌めたい所じゃん」
「私は麦野さんのお世話がありますから、そんな暇はないのですよ」
ちなみに黄泉川先生には、俺は実験で忙しい麦のんのお世話をしているお付きの一人って設定で話しています。普通の生徒が学校に通ってないのは不味いしね。そんな俺を見かねてるのか、黄泉川先生は会う度に学校進めてきます。どうせ俺が入れる学校なんて底辺レベルなんだろうけど。
「全く……仕方ないじゃんね。とりあえず、あまりふらふらせずに戻るじゃんよ」
「りょっかいです。黄泉川先生も警備中に欠伸してるの見られたらかっこ悪いから、注意してくださいね」
「そ、そんな事しないじゃん……」
そう言って黄泉川先生と別れ、しばらく走りこみを続けて家へと戻る。極力音を裁てない様に玄関開けて中に入ると、誰かが起きている気配。そしてこの時間に起きる可能性がある人物というと……俺は小走りで台所に向かい、その姿を確認する。
「やっぱり滝壺さんかぁ」
「おはよう、ふれんだ」
そこにはジーッと味噌汁のお鍋を眺めている滝壺さんがいたでござるよ。滝壺はたまに起きて部屋の中をうろうろする癖がある。気が向けば料理も手伝ってくれるんだけど、包丁を持つ手付きが危なっかしすぎるので、基本的な事しかやらせてない。それでも手伝ってくれるという精神はとっても嬉しいんだけどね。後の二人は全然起きる気配すらないしさ!
「ふれんだ、今日も走ってきたの?」
「そだよ~褒めて褒めて」
「よしよし、ふれんだは偉い子」
わふぅ、滝壺に頭撫でてもらうと何故か安心出来るのですよねぇ。何となく餌付けされている犬の気分なんだけど、首輪付けてるし尊厳なんてもんはないのです。
さて、時間も七時になりそうなのでそろそろ本格的に御飯の準備をスルノデス。
「滝壺さん、リビングのカーテンと二人が寝てる部屋以外のカーテンも開けてもらえる? 私はその間に御飯の準備をしておくから」
「卵……」
「勿論用意してあるよ~」
「ありがとう、開けてくるね」
そう言ってとことこと足音を立てながら滝壺が台所から出ていく。うん、相変わらず可愛いぜ……浜面爆発しろ。
滝壺がカーテン開けてる間に鮭やらサラダやらの準備をして、他にも漬物とかそういう小物も用意しておく。醤油や箸立て、ソースとドレッシングも出してテーブルの用意は完成。後は味噌汁温め直して鮭が焼けるのを待つだけかな? と考えていたら開く寝室の扉。
「ふあぁぁ……おはよーございますぅ」
「おはよっ、絹旗」
我等が愛しの絹旗 最愛ちゃんの御起床でござるぞ! 髪が所々跳ねていて、目はまだ眠そうな感じでトロンとしている。ううむ、イラストでしか見た事なかったから分からなかったけど、絹旗も本気で可愛いわぁ。見た目は幼いけれど、それはそれでペネ。
「くんくん……今日は超和食ですか。最近パン続きだったので、超嬉しいですね」
「あはは~、とりあえず顔洗って歯磨きしておいで。それまでには準備しておくからさ」
「了解しました。では超行ってきます」
そう言って絹旗は洗面台へと向かっていった。これで後は我等が女帝、麦のんが起床すれば全員集合だわ。今は七時半、早ければそろそろ……
「おっはよーぅ」
「お、麦野さんおはよー!」
「ん、いつもゴクローさま」
「ふれんだ、カーテン全部開けたよ……むぎのおはよう」
「あうー、寝癖が超直りません。フレンダ後で……おっと、麦野超おはようです」
「おはよ。フレンダ、朝御飯の準備しておいて。私は顔洗ってくるから」
「後は鮭が焼ければ終わりですよ。麦野さんが顔洗い終わったら、皆で食べ始めましょうか」
「おっけー。んじゃ顔洗ってくるわ」
そう言って洗面所へと向かう麦のん。滝壺と絹旗は既にテーブルの席へと移動して、俺の準備を待っておりますです。毎日の事だから今さら突っ込まないけど、せめてお皿位は準備しようね!
まぁ、これが今の俺が毎朝繰り返しているサイクルの基本であります。皆も朝は早起きしなきゃ駄目だからね、フレンダとの約束だよ! 中身は男だけどな。
*
「ビ~ルの、谷間の暗闇に~」
口ずさみながらファミレスの中に入る。昼時なのでかなり混んでいたけれど、運よく一つだけボックスが空いていたのでそこに案内してもらえた。座って早速メニューを開く。ん、いきなりファミレスに来て何をしているのかって? んでは、簡単に朝起きた事を説明しますよ。
『今日は休日だからどこか出かけない?』(麦のん)
『行きたい』(滝壺)
『超行きたい』(絹旗)
『家でごろごろしてたいでござる』(俺)
『んじゃ、いつものファミレスに十二時集合。それまで自由時間ね』(麦のん)
と、まぁこんな理由なんですよ。大分脚色してるけど、とりあえず俺の意見は完全にスルーされたよ! 麦のんマジ外道。
いつまでも愚痴言ってても仕方ないので、俺は少しだけ早めにファミレスへと到着して目的の物を注文しているのです。注文してから約十分後、それは姿を現しましたでこざいます。黄金に輝くプリンと、それを彩る数々のフルーツに生クリーム、そしてアイス。そう、これが限定のデザートである「スーパージャンボマンゴーパフェDX」なのだぁぁぁぁ。基本的に飯は自分で作って食べるんだけれども、デザートだけはあんまり美味く作れないんだよね。だからこういう嗜好品は食べに来るのです。ちなみに俺の少ない給料の大半は食べ物関係に消えますですしおすし。
しかし美味そう。元々甘い物好きの俺にとってはパフェは大好物だし、女の子がガツガツ食べてても問題ない食べ物だから目立たないしね。これだけで2000円もするんだから、味わって食べるとしよう。それでは、いただきま……
「お客様、少々よろしいですか?」
「んが?」
突然店員が話しかけてきた。ひ、人の至福な時間を邪魔するだなんて……一体何の用だってばよ!
「大変申し訳ないのですが、只今席が大変込み合っていまして……相席でもよろしいですか?」
おぅ……確かに昼時とあってか、人がかなり込み合ってきてる。そのどれもが団体での来客であり、現状一人でボックスを占領しているのは俺だけみたい。でも相席は嫌だなぁ……ぶっちゃけ知らない人と一緒に座っても気まずいし、何より相手も嫌がると思うんだけどなぁ。
しかし、現状俺だけしか一人でいる奴はいないみたいだし、何よりこの店員さんが困っている様子なので寛大な俺としては相席しても別に良いですよとしか言えないのです。日本人は状況に流されるタイプだから許して。
「良いですよ~、ちなみに女性ですよね?」
「はい、勿論です。本当に申し訳ありません」
「いえいえ」
流石に男ではなかったか。ちゃんと配慮はしてくれてるようなので、好印象を持つですよ私は。さて、一体どんな女の子がこの席に来るのかな……と思ってたらこちらへ向かってくる女子学生。見て分かったけど、あれは中学生の格好だね……
黒い長髪は腰の近くまで伸ばされているが、全く痛んでいる様子もなく美しいストレートヘアである。見ているこちらも楽しくなるような笑顔を浮かべ、その少女は自分の目の前へと腰を下ろした。
「あ、どうも~相席になっちゃったけど、私の事は気にしなくていいですから」
「あ、はい……」
さ、佐天さん……佐天さんや! あの「とある科学の超電磁砲」でレギュラーキャラになった佐天さんやないか! いきなりの原作キャラ登場に、俺の頭の中はパニック状態です。というかいきなりすぎるだろ……目の前の佐天さんはそんな俺にちらちらと視線を向けたりしてきている。その仕草が可愛すぎて鼻血吹きかけたけど、根性で耐えた。そ、そんなに見られたら照れるですよ。気になって仕方ないので、とりあえず勇気を出して聞いてみる事にした。
「あの、私の顔に何か着いてます?」
「あ、いえ……そ、そのぉ……」
……佐天さん可愛すぎるだろ。頬染めてもじもじしてる姿はマジで反則レベルに可愛いですよ。世の男共は能力とか高レベルとかそんなものに構わず、佐天さんが可愛いと認識するべきそうするべき。
「す、凄く綺麗な人だなぁ、と……ちょっと見とれちゃって。そ、それにその髪の毛も綺麗だし」
「へ? そうかなぁ」
うーん、麦のんに言われてから少しは手入れしてるけど、俺って特にそういう事に興味ないんですよね。元々男だから当然なのかもしれないけど、興味なかった頃は一切手入れしてなかったし。そのせいで麦のんに怒られた上に、髪の毛の状態確認した麦のんから、「何で手入れしてないのに、こんなに綺麗なのよ!」って八つ当たりもされました。理不尽であーる。
「貴方の髪だって素敵だよ? 私そういうストレートヘアーに憧れてるんだけど、癖っ毛でどうしてもストレートにならないんだよね」
「え……わ、私の髪なんて普通ですよ普通! ただのストレートだし、それに大した手入れもしてないし……」
「そんなことないって」
佐天さんの髪で手入れしてなかったら、それこそ手入れしたらどれだけ綺麗になるねんって突っ込みが入りますよ。あわあわしてる佐天さん可愛いです。
「何なら触ってみる?」
「え? で、でも初対面の人に良いんですか?」
「私は構わないよー」
そう言うと、おずおず俺の隣に移動してくる佐天さん。隣に座るとぎこちなく、俺の髪へと手を伸ばして撫でるように触った。
「うわ……ふわっふわのサラサラ。凄い……」
「あふぅ」
麦のんに躾けられてきた事と、滝壺に良く撫でられる事もあるからか知らないけれど、俺は人に頭とか髪撫でられるのが気持ちよくて好きなんですよ。佐天さんも触り方が非常に良い感じで、触られてるとほんわかしちゃいますねぇ……
「あ、あの……もう一つ良いですか?」
「ん? なーに?」
「あの……何で首輪付けてるんですか?」
あー、最近言われなかったから忘れてたけど、コレも普通の人から見たら相当異質なアクセサリーなんだよね。今でこそ高校生になったから言われにくくなったけど、昔は街歩く度に『警備員』やら『風紀委員』に職務質問されてたっけ。まぁ幼女の首輪姿はアレな光景だしな……黄泉川先生にも言われたし。
「ファッションだよファッション~。昔に友達からプレゼントされたから付けてるんだよー」
「く、首輪をプレゼントにですか」
「そだよ~。似合ってる?」
そう言って見せつけるように髪をどかして首輪を見せる。実はこの首輪は初代の首輪ではなく、同居してから二年目くらいの誕生日に渡された代物です。あれから数年経ってるけど、誕生日とか
クリスマスになる毎に首輪プレゼントされるんですよね……お陰でもう十個以上の首輪が俺の物としてあります。毎日違うの付けるんだけど、相変わらず鍵は麦のんが持ってるので代える時以外外してくれません。最近はお風呂でも付けてますしね、全裸に首輪とか誰得。
「うう……普通なら変なのに、似合ってるから正直にしか言えません」
「えへへ、似合ってると言ってくれてるんだね学生クン」
「その通りです」
にひひ、と笑って佐天さんの顔を見る。その表情は先程の緊張した様子とは違って、アニメで良く見た笑顔と同じ物を浮かべていた。
「自己紹介しとこうか、私はフレンダ」
「あ、ご丁寧にどうも。私は佐天 涙子です」
そう互いに自己紹介して、佐天さんは元居た席へと戻る。いや、アニメ見てて知ってたけれど、佐天さんは本当に良い子だわ。完全に記憶してる訳じゃないけれど、確か超電磁砲のアニメ版最終回で結構重要な役割果たしてるよね? 敵の名前は……顔芸しか覚えてねぇ。
「いやー、いきなり相席とか言われたから、どんな人が来るのか心配だったけど佐天……さんでいいかな? 佐天さんみたいな良い子なら大歓迎だよ」
「そんな事言われると調子乗っちゃいますよ? 私もフレンダさんみたいな良い人で安心しました。そういえばフレンダさんはいくつなんですか?」
「私? 年齢は今年で十七歳だよ。ただ学校には行ってないけどね」
「うひゃあ、高校生だったんですか……って、学校に行ってないんですか?」
佐天さんが驚いた視線を向けてきました。まぁ黄泉川先生も言ってたけど、この『学園都市』にいる上、かつ俺くらいの年齢で学校に通ってないのって『武装無能力集団』か特殊な事情を持つ人間だけだからね。こうして驚くのも無理はない訳です。
「私は実験関係の仕事で学校に行ってないの。学生生活羨ましいです」
「あ、成程ー。という事はフレンダさん結構凄い能力者?」
「ノンノン。私は無能力者、付き添いの人が凄い能力者なのさ」
「付き添いなんですか? あ、私も『無能力者』なんですよ、一緒ですね!」
おお、『無能力者』だって分かった途端、更に明るい笑顔になりましたね。これは良くない癖だと思うけど、この『学園都市』に長い事居たから注意することは出来ないなぁ。それだけ『無能力者』の立場って辛いんですよ。暗部の仕事してれば尚更分かるんだけど、とにかく扱いが酷い。それに高位能力者の多くは『無能力者』を蔑んでる節があるしね。その心を知ってる身としては何となく仕方ないかなと思うのであります。
「そういえば佐天さんは何をしてるの?」
「あ、私は待ち合わせしてるんですよ。今日は友達と遊ぶ約束があって……って、来ました来ました。ほら、あそこにいる三人です」
……佐天さんの友達? それってまさか。
ゆっくりと入口の方へ視線を向ける。そこにいたのは、頭にお花畑を付けている佐天さんと同じ制服を着た少女一人、名門中学常盤台の制服を着た二人組。そう、佐天さんや黄泉川先生の様に強く原作に関わる訳じゃないサブキャラではなく、一人はメインどころかヒロインの一人に食い込む存在……そして、俺の主人である麦のんを超えた『超能力者』。
初春 飾利、白井 黒子、そして『超電磁砲(レールガン)』御坂 美琴。今日は原作キャラのパレード状態です……心臓が三個くらい無くなった気がする、驚きが多すぎるでしょう?
「佐天さん、お待たせしましたー」
「やっほー初春。こんにちは御坂さん、白井さん」
「こんちわ佐天さん」
「こんにちはですの。そちらの方は?」
「あ、混んでたから相席になったフレンダさんです。とっても良い人なんですよ!」
「あ……こ、こんにちは。フレンダです」
「どうもこんにちは、佐天さんの友達の初春 飾利です」
「わたくしは白井 黒子と申しますの」
「あ、御坂 美琴よ」
知ってます、とは言えないな。まさかここで主要人物の一人である御坂に会う事となるとは思いもしなかった……原作に何か支障が出るとは思えないから、大丈夫だよね。逆に考えれば初めて出会った主要キャラだし、嬉しさがこみ上げてくるわ。しかし俺が最初に座ってた席なのに、既に佐天さんグループの物となりつつあるな……まぁ隣が空いたみたいだし、麦のん達が来たらそっちに移動すれば良いか。
「外人さんですか? 綺麗な髪ですね」
「あは、佐天さんと同じ事言ってますよー」
人の良さそうな笑顔を浮かべて話す初春にそう返すと、御坂と白井も軽く笑顔を浮かべる。うむ、佐天さんと知り合いという事もあるだろうけど、とりあえず印象は悪くないみたい。このまま色々と話そう、次はいつ会えるか分からないしね。
という訳で色々と会話を進める。とりあえず聞きたかったのは今どんな時期だったかなんだよね。一体この四人の関係はどこまでかという話し。流石に小説の内容を日付まで覚えてる訳ではないし、もしかしたら既に幻想御手の騒動は終わってるのかとか……聞き出せたのは知りあって間もないとの事だったので、とりあえずまだ騒動は終わってないらしい。これが聞けただけでも収穫があった。
「しかし、よろしかったんですの?」
「ん、何が?」
「いえ、聞いた限り初めにここに座ってらしたのはフレンダさんの様ですし、もし待ち合わせ等していたとしたらわたくし達が席を奪った形になってしまいますが……」
そういえば、先程まで話していて不審に思ったことが一つだけありました。黒子なんだけど、やたらと冷静というか大人しいんですよ。普通なら少し位御坂にベッタリしてもいい筈なのに、それが殆ど見られない。いや、確かにふざけて体を触ったりとかはあったんだけど、アニメや漫画でやってた変態行動する感じとは思えないんだよね……御坂も黒子を警戒してる様子がないし。原作と少し違うのか……ただの気のせいかな? まぁ原作ではあれだけ御坂命の黒子だったし、今は他人の前だから自重しているのでしょう。
「大丈夫ですよぅ。知り合いが来たら隣の席に移りますから」
「わたくし達が移りましょうか?」
「いいよ。それに隣同士で話すのも楽しいしね」
冷静に考えると、後々戦う可能性がある御坂と麦のんをここで会わせるのは如何なものかと思ったんだけど、あの任務はストーリ上で重要性は薄いし、何より俺が御坂と戦うとかそれ何て無理ゲー? って感じだったので、あの任務は絶対に受けさせないつもりです。そんな事出来るのかと思われるかもしれないが、実は今の『アイテム』の方針として一人でも反対したらその任務は受けないという決まりがあるのですよ。俺が駄目もとで提案したら受け入れてくれたんですよね。という訳で御坂VS麦のんは無いのですよ、絶対に無いのですよ!
「何か悪い事しちゃったわね」
「大丈夫だよ御坂さん、私が好きでやってるんだから気にしない気にしない」
「うむぅ……分かったわ、気にしないでおく。というかフレンダさんの方が年上なんだから、呼び捨てで良いのに」
「これは性分なのでありまーす。どうしてもって言うなら努力はするけど?」
「いや、いいわ。不愉快って訳じゃないし、フレンダさんの好きな様に呼んでくれて構わないわよ」
御坂は相変わらず姉御みたいな性格してるわ。さばさばしてて俺は好みです。これがフラグ乱立主人公のせいでデレデレになってしまうのかと思うと……妬ましい。しかし改めて見るとこのメンバーは美人ばっかりだなぁ……作品の人気を取る上で仕方のない事だけど、メインキャラ達は本当に優遇されてるよね。ここにいるメンバー然り、浜面と一緒に戦う事になるであろう『アイテム』(俺を除いて)のメンバー然り。全員が何かしらでヒーローになりうるであろう能力と容姿を兼ね備えている。俺も容姿は中々だと思うけど、能力に関しては……な、泣いてないやい。
そう考えて少し鬱になりかけた瞬間、店員の声と共に客の来店を告げる音が響く。それと同時に聞こえてくる聞きなれた声が三人分。どうやら到着したらしい。
「私の友達が来たね。今こっちに来ると思うよ」
「どんな人達なんですかねー」
初春ののんびりした声と同時に、三人がこちらへ歩いてくる。向こうもこちらに気付いた様子で、滝壺が微笑んでこちら手を振ってきた。次いで絹旗もニコッと笑いこちらへ歩いてくる。そしてその後ろにはいつも通りの麦のんが携帯電話を見ながらこちらに向かってきた。
「遅いよ~」
「超すいません、途中でナンパされて時間をとられたんです」
「ありゃ、それでそいつ等どうしたの?」
「察しの通りだと思いますよ、それとも超聞きたいですか?」
「ううん、分かったからもう良いや」
不幸な……来世ではもう少しまともな女の子に声をかけれますように……と祈っておいて上げよう。
「ところでフレンダ、そこにいる人達は超誰ですか?」
「んー、今知り合った人達なんだよ~」
「ふれんだの友達?」
「あ……は、初めまして! 佐天 涙子です」
「初春 飾利と言います」
「御坂 美琴よ。よろしくね」
挨拶を受けた絹旗と滝壺だったが、御坂の名前を聞いた時に少しだけ眉を顰める。まぁ『超能力者』相手だし、多少警戒しても仕方ないか。でも御坂って、確か『学園都市』の『超能力者』の中では唯一表舞台で目立ってる存在なんだっけか? なら警戒もすぐ解けるでしょう、裏がないだろうし。
「ご丁寧にどうも。私は絹旗 最愛と言います。最愛と書いて「さいあい」と読みます。もあいって呼んだら超殺す」
「滝壺 理后、好きに呼んでくれて構わないよ」
よし、仲良く自己紹介も出来たみたいだし、これで超電磁砲組との接点が……って、麦のんと黒子はどしたのさ? と思ったら、二人は互いに見つめあってる。というか黒子が目を見開いて麦のんに視線を向け、麦のんはそんな黒子をいつもと変わらない表情で見つめていた。な、何……もしかして麦のんが『風紀委員』にとって許せない何かをしたの? 心当たりがありすぎて胃が痛いんですけど……そんな事考えてたら、黒子がゆっくりと口を開いて声を発した。
「あ、あの……その、えっと……」
「ん?」
「あ、ああ……あの、わ、わわわたくし……」
「白井さん、頑張って!」
「黒子、その人なの?
」
って、何故に初春は応援するし。それに御坂さんや、その人ってどういう意味やねん。というか黒子何であんなに動揺&混乱してるの? 麦のんと黒子とかどこでも見ないカップリングだし、接点があるとは思えないんだけど。
黒子はパクパクと口を動かすだけで中々話を出来ない様子だったが、それに気を使ったのか、それとも単純に今話そうと思ったのか分からないけど麦のんが口を開く。
「あの時の『風紀委員』じゃない。確か……白井 黒子だっけ? 元気にしてた?」
「えっ……お、覚えていて下さいましたの……?」
「当たり前でしょ、あんな出来事忘れる訳ないわ」
そう言ってウインクをする麦のん。それを見た黒子は顔を真っ赤にするとそのままそこで崩れ落ちた。それを見た初春や御坂が心配そうに寄り添い、訳が分からない佐天さんや俺&アイテムメンバーは首を傾げる。
というか、本当に何があったのさ?
おまけ
「へぇ、昔そんな事があったのね」
「うぅ……み、皆様には秘密にして下さいまし」
「もっちろん。口が裂けても言わないわ」
御坂の言葉に黒子はホッと息を吐く。そんな様子を見て御坂はニヤリと微笑むと口を開いた。
「でも、その人に会ったら黒子がいつもやってる事喋っちゃうかも」
「そ、それだけは止めて下さいまし! あ、あの行動は条件反射というかなんというか……!」
「人の風呂場に飛び込んでくるのが条件反射……ねぇ」