「幻想御手と無能力者」
夜のバスって、何となく不気味だと思わない? 個人的には昔に見た漫画のせいで、自分以外に人が乗ってないバスとか、最終電車とか怖くて溜まらないんだよね。実は地獄行きのバスに乗りこんじゃってました! 的な。
「んっと……次の乗り場で降りればいいのか」
今現在俺は、佐天さんが住んでいるアパート目指して移動中でありまする。というか佐天さんが俺に何の用事なんだろ? この時の佐天さんって、もう『幻想御手』使ってたっけか……? 『超電磁砲』では確か友達と一緒に使った上、初春との電話が終わってからすぐに意識失ってたところまでは記憶にあるんだけど、いつ『幻想御手』使ってたかは覚えてないんだ。いや、まさかこの事件に関わるなんて思ってなかったから、完全に記憶から除外してしまっていた俺が悪いんだけどね……
とか何とか考えていたら後ろから肩叩かれた。それと同時に後ろへ振り返ると、目に入ったのはいつも見ている黒い髪の毛。
「ふれんだ、次で降りるんだっけ?」
「あ、うん」
そう、何故か滝壺が着いてきたんだよね。というか、俺が佐天さんの部屋に行ってきますって言ったら、他の三人にかなり怒られたんだ。いや、今日の仕事(食器の片付けまで)全部終わったのにね。どんだけ俺に仕事回す気なんだっていう。たまには自分達でお皿位洗おうね! こんな事言ったらムッコロされるだろうけど。
「でも、相談して欲しいって言われたの私だけなんだら、滝壺さんは来なくても良かったのにー」
「夜にふれんだが一人だけで出かけるの心配。それに『幻想御手』とかいう物のせいで、最近物騒だし」
んー、そこまで心配してくれなくても素人の『強能力者』位までなら何とかなるんだけどなぁ。それに出かける前に三人でジャンケンしてた所を見ると、心配だけど着いていくのめんどいから誰か負けたら着いていこうみたいな話だったんだろうか? それだったら悪い事したわ。
「そっか~。わざわざごめんね」
「気にしなくていいよ」
うーむ、これはいつか埋め合わせをしないとアカンかもね。滝壺さんには毎回毎回助けられるでぇ……
*
「そして、佐天さんのお部屋の前に着いたのであーる」
「ふれんだ、誰に言ってるの?」
「ちょっと独り言言いたくなって」
あれからバスを降りて徒歩二分、佐天さんのアパートに到着いたしました。綺麗なアパートで、中学生でここに一人暮らしとか贅沢すぎる……と、思うほどですよ。流石は『学園都市』というべきなのかな? 佐天さんの実家にお金があるとは思えないし、これが普通なんだろうね。さて、とりあえずチャイム鳴らす……
「ふれんだ」
「ん、何? 滝壺さん」
「私近くのコンビニにいるから、終わったら連絡して」
へ、どうして? ここまで来たんだし、入ればいいのに。
「気にしなくていいよ。とりあえずお話が終わったら、ね」
おおぅ……滝壺の無言の威圧というか、プレッシャーが感じられます。どうやら本当に部屋に入るつもりはない様子。怖いので大人しく言う事聞きましょう。
「うん、分かったよ。じゃあ、終わったら呼ぶね」
「うん、また後で」
そう言って滝壺は去って行きました。いや、まさか本当に俺が一人でここまで来るの危ないから一緒に来ただけ? し、失敬な! いくら俺が弱くても自分の身くらいは守れ……る? 守れるよ!? うぅ……言いきれないのが悲しいです。
このまま落ち込んだ気持ちになっては佐天さんの相談を受けるのもままならないので、とりあえず中にインターフォン鳴らして入れてもらうとしよう。それ、ポチッとな。
『はーい?』
「あ、佐天さん? フレンダですー」
『あ、すぐに開けますね!』
ガチャリと開くドアと同時に見える黒い髪。見ているこちらまで楽しくなるような笑顔、佐天さんはマジ天使……少しは麦のんも可愛さを覚えた方が良いと思うんだよね。絶対に言えないけどさ!
「ごめんね~、遅くなって。色々立て混んじゃってさ」
「い、いえいえ! こっちこそこんな時間に来てもらって……」
「その辺は気にしない気にしない。友達でしょ?」
「親しき仲にも礼儀あり、ですから」
おぉ、素晴らしい考え。親しき仲にも礼儀あり……そう、どんなに親しくても相手の事を思いやらないといけないよね。麦のん達もそういう所は分別付けてるので、個人的には佐天さんがそう言ってくれた事が嬉しいのですよ。
とりあえず誘われるがままに部屋に上がる。原作通り小奇麗で整頓された部屋でした。いや、フレンダになってからは整理整頓気を付けてるけど、俺だった時は確か酷かったはずだなぁ。そういう今度はまともに片付けよう、的な経験がないのにきちんと片付けが出来てる佐天さんは超偉いと思う。
「あ、あんまり部屋の中見ないで下さい。散らかってるから恥ずかしいです……」
「ええー、全然綺麗だよ? これで散らかってたら世の中の部屋の殆どが散らかってる事になるよ」
「そ、そんな事ないですって!」
しばらく談笑タイムに入る。佐天さんの友達の事や、俺が普段どういう生活をしているのかとか、そういう他愛もない話が続く。その間に佐天さんが入れてくれた紅茶を飲んだんですが、市販の物の癖に美味しかったです。佐天さんはこういう方面に才能があるのかもしれないね。能力だけで威張り散らしてる阿呆共は佐天さんの様な才能を見習うと良いです。
そのまま三十分ほど談笑していましたが、このままだと待たせている滝壺の怒りが有頂天になりかねないので、佐天さんからササッと話してもらわんと。という訳で、俺から切り出してみる事にしました。
「それで佐天さん、今日は何の用事があったのかな?」
「あ……」
「今まで切り出さなかった所を見ると、言いづらい事? それとも単純に忘れてただけ?」
「そ、その……」
あれ、少し怖がらせちゃった? いきなり切り出しすぎたか……反省反省。
「別に私は怒ってないよ。佐天さんが言いづらいのなら、別に話さなくても大丈夫。雑談出来ただけで私は楽しかったからね」
にひひ、と笑ったら佐天さんも緊張がほぐれたかの苦笑してこちらに視線を向ける。どうやら話してくれる気になったみたいね。さあ、佐天さんよ。恋愛? 友達関係? どんな相談でもバシッとこいやぁっ!
「これ……なんですけど……」
「ん?」
これは……携帯電話? 一体これがどうしたの? と、俺が首を傾げたのを見て察したのか、佐天さんはゆっくりと口を開く。
「携帯の事じゃないんです。この中に入ってる……『幻想御手』の事で……」
……え?
い、いや、ちょっと待って。今何て……
「『幻想御手』って、今巷で騒ぎを起こしてるあの?」
「はい、そうなんです」
「……本物?」
「音楽サイトに隠してあった場所から行けたので、間違いないと思います」
いや、佐天さんが持ってるのは本物だって知ってたけど、何でそれを俺に相談する!?あれか、能力者じゃない俺が『武装無能力集団』をブッ飛ばしたせいですか? な、なんてこったい……こんな所で原作剥離が起きようとは思わなんだ。い、いやいや……まだ原作剥離が起こったとは確定してないよ。佐天さんがこれをちゃんと聞いていれば、原作通りに話は進むよね!
「佐天さん、これ聞いてないよね?」
「……最初は使おうと思ってました。これを聞くだけで今まで悩んできた能力が、私の能力が使えるようになるならって……」
「聞いてないんだね?」
「……はい」
オゥノゥ! 俺に相談してきた所から何となく分かってたけど、やっぱり聞いてなかったか! た、確か原作だと、佐天さんが倒れたせいで初春とか黒子が本気出した記憶が……? こ、このままだと別に気にする事もなくのんびりとした感じで調査が進むのだろうか? そ、それって不味いよね……
何が不味いのかっていいますと、木山先生の事なんですよ。原作見てた時は放っておいても鎮静化してた筈だし、御坂達が出張っても問題ない事件だよねぇ、とかのんびり考えていました。が、裏事情を知ってるとそういう訳にもいかない事が判明したのです。何と木山先生……というか『幻想御手』の犯人が仕事の邪魔だから始末するか、的な任務が近々あるかもしれないと『電話の女』さんからあったのですよ。いや、正確には麦のんがモニターの向こうにいる彼女を脅して『幻想御手』の件吐かせたんですけどね……あの人半泣きだったな、主に声が。
要するに、このまま放っておくと木山先生はムッコロ、上手くいっても暗部に強制加入される末路を辿る恐れがあるのですよ。原作では御坂達がその前に捕まえたから良かったのね……しかも木山先生が暗部関連に巻き込まれると、連鎖的に顔芸さんが子供達を実験に使ってしまうという悪循環が発生するのです。それはあまりにも救いがなさすぎるだろ。救いはないんですか!?
「フレンダさんは、ないんですか……?」
「ん、え?」
俺が心の中で汗をダラダラ流し続けていたら、佐天さんが俯いたまま声をかけてきました。俺としては現在頭がパニック状態なので、まともに受け答えが出来るとは思えないから難しい質問は止めて欲しいんだけど……というか、佐天さんは何が言いたいのよ。
「能力を、自分だけの力を手に入れたいと思った事は、ないんですか?」
「あー……」
「私はありますよ」
佐天さん、目が怖いんですけど……巷で良く言うレイプ目、ではないけど確固たる意志を持ちながらも濁った目って言うのかな? 暗部で良く見る目ですね……まさか佐天さんがこんな目をするなんて思ってもいなかったけど。
「自分だけの力があればどんなに良いのかって、能力が使えたらどんなに嬉しいのかって、考えなかった事はありません」
「佐天さん……」
「だって、不公平じゃないですか!!」
佐天さんがテーブルを叩きながら大声を上げる。上に置いてあったカップが倒れて紅茶がこぼれてカーペットに落ちるが、俺も佐天さんもそんな事に気を向ける余裕はない感じだ。佐天さんは怒り? のせいで、俺は驚きのせいで。
「私だって頑張ってます! 私だって努力してます! 私だって『学園都市』の人間です! なのに、なのにっ……」
「……」
途中から嗚咽が入り始めた佐天さんの声は必死そのもので、自分の心をそのまま吐きだしてる感じだ。原作だとあんなに明るかった佐天さんが、ここまで能力に悩んでいたとは……いや、御坂との会話とかでかなり羨んでる様子はあったけど、まさかここまでとは思わなんだ。
「わた、しはっ……!」
とうとう泣きだしてしまった。だけど、ここで慰めてあげるのは何か違う気がする。佐天さんも慰めてほしくて俺を呼んだとは思えない。だって慰めてくれる対象には初春いるし。しかしどうすればいいのか……うむむ、こうなったら昔読んでいた漫画からかっこいい台詞を言おう! というかこれからどうすればいいのか分からなくてパニック状態なので、まともな台詞思い浮かばないんだよ!
「佐天さん」
「……はい」
「この際、好きなだけ吐きだしちゃえ♪」
「……え?」
「今ここにいるのは私と佐天さんだけ。だから今何を言っても大丈夫じゃない? これが良い機会だもん、今まで溜めこんでた物全部吐きだしちゃうと良いよ!」
その言葉に佐天さんは最初茫然としてたけど、すぐに顔を真っ赤に染めてあわあわ言い始めた。うわぁ……可愛すぎだろ。前にも言った気がするけど、世の中のヘボ男共は能力とか家柄とかそういうのはどうでもいいから、佐天さんを好きになるといいですよね。この可愛さは魔性ですよ……
「あ、いえ、その……い、今のは忘れて下さい! いきなりあんな失礼な事……!」
「気にしない気にしない。それだけ佐天さんの想いが強いって分かったからね」
俺は努めて明るく振舞いながら佐天さんに笑いかける。それを見て怯えながらこちらを見る佐天さん……やべぇ、犯罪犯しちゃいそうなくらい可愛いわ。
「佐天さんがどれだけ能力に憧れて、どれだけ努力したのかが今の言葉でよーく分かったよ」
俺がそう言うと、佐天さんは恥ずかしそうに頬を染めて俯いた。とりあえず、さっきのでの危うい感じは消えたかな?
「それだけ強い想いを胸の中に詰めてたら、息苦しくて窒息しちゃうよ? だから一回思いきって吐き出してみなよ。都合のよい事に、貴方の目の前にはほぅら、ぶつける対象がいるじゃない?」
「で、でも……」
「いきなりこんな事言われて混乱する気持ちも分かるけど、騙されたと思って一度やってみなさいって。効果の程はお姉さんが保障してあげよう」
微笑みながらそう言うと、佐天さんはおずおずとしながらも顔を上げた。目は潤んでるし、頬は赤い。これ何てエロゲ? なんていう状況なのかしらね、これは。
「フレンダさん、本当に良いんですか?」
「おっけい、どんと来なさいな」
「でも、私……一杯ありすぎて沢山時間かかっちゃうかも……」
あー、それだけ胸に秘めてる物があるのね。なら、仕方ないとですよ。と俺はポケットから携帯電話を取り出してアドレス帳から滝壺の番号を検索して送信ボタンを押す数回のコールの後、プッという電子音と共に電話が繋がった。
『ふれんだ、終わったの?』
「ううん。滝壺さん、送ってもらっちゃった上に悪いんだけど、今日は佐天さんの家に泊まろうと思うんだ。駄目かな?」
うぅ、ごめんよ滝壺。だけどこんな状態の佐天さんを放っておける程、俺は冷たい人間じゃ『いいよ、じゃあ先に帰ってるね』
え? やけにあっさりしてるな。てっきり不機嫌になるか、もしくは怒られると思ったんだけど……滝壺さん、何で?
『ふれんだが相談に行くって言った時から、何となく予想してたよ』
「え、何でそれだけで?」
『大丈夫だよ、私はそんな自覚のないふれんだを応援してる』
……何でだろう、何か馬鹿にされてるというか、微笑ましい顔でおバカな子供を見ている感じの感覚を受けるのは。何か納得いかないけど、とりあえず不機嫌にならないならそれに越した事はないか。地味に安心した。
「ごめんね滝壺さん、この埋め合わせはいつかするから」
『え、マジで? ……コホン、じゃあ今度一緒に出かけよう、二人で』
「? 買い物ならみんなで行けばいいんじゃ」
『二 人 で』
ヒ、ヒィ!? な、何故か今心臓を鷲掴みにされたかのような感覚に襲われたとですよ……な、何なの今のプレッシャーは……?
『でもふれんだ、むぎのには自分で連絡しないと駄目だよ』
「あ、うん。分かってる。これであの家二回連続で夜と朝留守にしちゃうね。朝御飯ごめんね」
『気にしてないよ。ふれんだ、やるからにはしっかりね』
「はーい、じゃあまた明日ね」
ピッ、と通話を切る。佐天さん、もう少し待ってねーとジェスチャーしながら次は麦のんに電話をかけます。二回連続で留守にするの久しぶりだから言うの怖いな……怒られたりして。え、ええい……これも佐天さん、引いては原作の為ですよ! ここで佐天さんが気絶せずとも立ち直る方向に持っていかないと……!
『はい、もしもし。どうしたのフレンダ?』
「あ、麦野さん……実は……」
今までの経緯と、今日は佐天さんの部屋に泊まるから留守にするという事を伝えました。勿論、朝御飯作れない事に関しては謝りまくりましたよ? 麦のんからは見えないだろうけど、ここで土下座をするのも厭わないですよ?
『はぁ……アンタはいつもいつもそうよね』
「え、何が?」
『自覚がないからタチが悪いのよ……』
麦のん、何言ってるのさ? いや、確かに人を励ましたりすることは多いけど、別に自分に負い目があったり、相手が暗いとこっちまで暗くなるのが嫌だからやってるので完璧自分の為ですよ? 代表的な例としてはコンビニにいる貝崎っていう男の子なんだけど、俺が股間蹴って昏倒したから介抱したという例もあるのです。流石に自分が怪我させた相手を見捨てていくほど、俺は外道ではないのですよ、まる。
『しょうがないわね、今回は勘弁してあげる。ただし、今後はより一層頑張るのよ』
「本当にすみません……今度何かで埋め合わせしますから」
『え、マジで?』
あれ、何かデジャヴ。とりあえずそのまま一言二言お話して、電話を切りました。さて、次は佐天さんですよ!
「さぁ、どんと来い!」
俺が気合いを込める様にそう言うと、佐天さんは戸惑う様にこちらを見遣るが、やがて決心したかのように深く深呼吸した。
「途中で、もう聞くの嫌だ! 何て言わないでくださいよ?」
そう言って、佐天さんは大きく口を開いた。
*
只今お風呂の中、なう。
「ふふふーん、ふんふんふーん♪」
鼻歌を歌いながら目の前にあるものをシャンプーで洗う。目の前の物体は俺が手を動かすたびに、「ひゃうっ」とか「くぅぅ」とか言ってます。超エロい……
現在夜中の二時でございます。あの後、佐天さんの告白(?)は一時間ぶっ通して行われました。近所迷惑と考えたそこの貴方! 『学園都市』製のガラスや防音技術舐めたらアカンのですよ? こういう人が沢山住むタイプのアパートとかの防音技術は超高性能なので、あれくらいの声では大した騒音にならないのです!
で、それが終わった後佐天さんがどうなったかと言いますと、号泣ですよ。もうさっきまでの大声が霞むんじゃないかって位の泣き声でした。結局泣きやむまでまた一時間、泣き止んだ後もぐすぐす言って動いてくれないでまた一時間、計四時間俺は佐天さんの面倒を見切ったのですよ! いやー、ここまで人の相手をしたのは久しぶりかもしれない。佐天さん涙もろかったのね、可愛いから許すけど。
で、冒頭に戻るんだけど、佐天さんの顔も髪もぐしゃぐしゃでこのまま寝ると朝大変な事になると思ったのでお風呂に入ってるのですよ。佐天さんは顔真っ赤にして嫌がりましたけどね……な、泣いてないやいっ。
「はい、終わりー」
「あ、ありがとうございます」
うほぅ、眼福眼福。佐天さんってどう見ても中学生には見えないよね……確実に御坂よりあるし、絶対インデックスさんよりも……将来神裂さん並になったりして。下手したら俺よりも……考えるのはよそう、何か悲しくなってきた。
さて、湯船に入った佐天さんに続いて俺も湯船に入る。ふぅ……やはり日本人は温泉ですよね。これがなければ死んでしまう自信があるのですよ。食事、お風呂、寝床、この三つが超大事だよね。首輪付けたままなのがアレだけどさ……慣れたけど。
「フレンダさん……その」
「ん?」
「今日は本当にありがとうございました。言いたい事全部言ったら、何かスッキリしちゃいました」
「そっか、それは良かった」
にひひ、と笑って応えると佐天さんも微笑んでくれた。ふぅ……全くけしからん可愛さをしおってからに。
「私は……今までずっと、能力を持ってる人達が羨ましくて、憎んでたんだと思います」
佐天さんが独白シリアスモードに!? こ、ここは空気を呼んで顔を引き締めるとですよ。
「今日フレンダさんに向けた言葉の中に、そういう言葉が沢山あって自分でも驚きました。自分はこんなに人を憎んでたんだって……そして、初春や御坂さん達の事も、心のどこかで憎んでたんだって……」
「佐天さん……」
「だけど、私はもう逃げません! 能力は欲しいけど、それは人から貰うものなんかじゃない。絶対に自分の力でそれを手に入れて見せます」
佐天さんが自信を込めた瞳で俺を見るのと同時に、俺の心の中では一つの暗雲が立ち込めてきた。それは、『素養格付(パラメータリスト)』の存在。
佐天さんはきっと、努力しても能力が手に入れられないって決められてるんだろう。それが決定づけられてるのが『学園都市』で、それが話の流れって奴なんだろうね。そして俺はその事を伝える事は出来ない。『滞空回線(アンダーライン)』に聞きとられたら確実に始末されるし、それでなくとも『素養格付』の事が漏れたら『学園都市』が大パニックに陥る。だから俺は軽く微笑んでこう言う。
「そうだね、佐天さんならきっと能力者になれるよ」
「はいっ、頑張りますよ!」
はぁ、何でだろう。佐天さんの事はとりあえず大丈夫になったし、明日には原作通り進めるにはどうしたらいいのか考えながら修正しなき駄目だし、とりあえずこの『幻想御手』を届けなきゃダメなのに……凄い気分が重くなった。何か、俺って凄い悪人な気がする……これで俺が本物のヒーローなら、佐天さん達に報せて、なお且つ『学園都市』が相手でも負けないのになぁ。
……はぁ。