「話をしよう」
「おぉー、ここが『風紀委員』の詰め所なの?」
「はい! 初春も白井さんもここで『風紀委員』のお仕事してるんですよ」
「私は入るの初めてだから、ちょっと緊張しちゃうかも。 佐天さん、お願い出来る?」
「任せて下さい! ……っていうか、私は何度か入った事あるから特に緊張しないんで当たり前ですけど」
あはは、と朗らかに笑う佐天さんの顔を見て、つい俺も顔が緩んじゃうのです。
ちなみに私が今いるのは『風紀委員』の詰め所前でございます。どうしてこうなったのかと言いますと、昨日(っていうか今日の二時くらい)まで佐天さんの部屋にいて、その後お泊りしたのですね。んで、今日は佐天さんが持っている『幻想御手』を黒子とか初春に渡しに来たのだ。まぁ、ぶっちゃけて俺が来る必要性とか全然感じれないんだけど、佐天さんにあんな事言った手前来ない訳にもいかないし、御坂の件もあるからスルーは出来なかったんですよね。という事で、麦のんに連絡して今日は『風紀委員』詰め所に行きますと伝えてここに来たのです。麦のん達は後で来るって言ってたよ。
……どうしてこうなった。いや、佐天さんを助ける事が出来たのは良いんだけど、この事件にはあんまり関わらない方向で行きたかったのになぁ。実際問題木山先生は危ないし、このままだと原作から外れてしまいそうなので介入は止むを得ないものと考えてはいますけどね。くそぅ、全部引きこもりスターさんのせいだわ! 最新刊だと引きこもって無かった記憶があるけど!
「あ、フレンダさん。入ってもいいそうです」
「おとと、じゃあ行こうか。佐天さん、携帯電話持ってきてるよね?」
「う……は、はい」
おずおずと携帯電話を取り出す佐天さん。その表情は暗い。
うむ、やはり今まで友達にも隠していたのが後ろめたいみたいだね。朝食(俺が冷蔵庫の中のもので適当に作りました)の時も、何度も俺に対して、「今まで隠していた事を言ったら嫌われたりしないでしょうか?」、って聞いて来てたし。不安になる気持ちはよく分かりますよ、そういう子達は沢山見てきたしね、主に施設の子達ですけど。
「佐天さん」
「は、はいっ」
「心配しなくても大丈夫、私が保証してあげよう」
「あ……」
いつも子供達を落ち着かせるときに使う台詞を吐いてみた。いや、実際のところ保証なんて出来ないし、いざ駄目だったら俺が責任取れる筈ないんだけども。だけど、とりあえず安心させる事だけは出来る効果があるのです。別にセコくないですよね!? 駄目ですかそうですか。
とかアホな事考えてたら、みるみる内に佐天さんの表情が笑顔になってきた。うむうむ、とりあえず安心させる事は出来たみたいね。それに佐天さんが悲しい顔してると、周辺の空気の湿っぽさが上がった気分になるんですよ。佐天さんの笑顔マジ太陽……
「よっしっっ! フレンダさん、行きましょう!」
「おけおけ」
そう言って佐天さんと俺は詰め所の中へと向かう。さて、後は御坂の事だけかしら? それが終わったら、麦のん達が詰め所に来るのと同時におさらばするとしましょう。いくら何でも、これ以上首を突っ込むと木山先生と戦うところまでずるずる行っちゃいそうですしね!
*
「このデータが『幻想御手』、ですの……?」
「ちょっと、調べてみますね」
はい、只今俺は部屋にあったソファーに佐天さんと一緒に座っている所であります。現在部屋にいるのは俺を含めて六名。俺、佐天さん、御坂、黒子、初春、固法先輩です。そして最近気付いたんだけど、固法先輩ってフレンダ……俺と大して年齢変わらないのね。でも原作のイメージから、常に固法先輩と呼び続けるのですよ、ワタクシは。
出された紅茶を啜っている間に、初春が物凄いスピードでキーボードを叩くのを眺める。いや、早いとかそういうレベルじゃないんですけど? ブラインドタッチの世界チャンピオンとかいるのか分からないけど、初春ってそういうレベルなんじゃないか? 原作でも御坂とハック勝負して互角だったとかいうしね……冷静に考えると、『超能力者』の『電撃使い』と引き分けるとかパネェ。『強能力者』辺りでも、簡単なハックとかは出来るんですよね。それが『超能力者』だとどうなるか……想像してみると、如何に初春が可笑しいのか分かるよね。
「むぅ……」
「どうしましたの、初春?」
「御坂さんの推測通り、何か音楽データの中に特殊な波長があるみたいです。これを共有? させてるんでしょうか?」
「そうとは限らないし、あれはあくまで推測の域を出ない仮説よ。大体、誰が何を目的にこんな事をするのか分からないし……」
「そうですわね……ひとまず、木山先生にもこのデータを送信しておきましょう。何か掴めるかもしれませんわ」
その木山先生が犯人なんだけどね。いや、俺以外で知ってる人いないだろうけど……スターさんなら知ってるか。あと『滞空回線』の存在を知ってる『統括理事会』とかな。でも、この紅茶本当に美味しいわ。普通の葉っぱだし、そんなに高い物じゃないんだろうけど淹れ方が非常に上手。固法先輩はマジで家事万能ですね。
とか考えてたら、御坂が苦笑して佐天さんに視線を向けたでござるの巻。な、何か嫌な予感がするのでせうが……
「でも、佐天さん『幻想御手』を見つけたなら、すぐに言ってくれれば良かったのに。その分調査も早く進むしね」
の、のぉう! いくら何でも無神経すぎまっせ御坂さん! ほら、佐天さん困った顔して笑ってるじゃないですか。いや、御坂の一言に悪気も悪意も一切無いのは分かるんですけど、元『無能力者』ならその辺り考えて上げましょうよ。
「御坂さん、ちょっと……」
「ん、何? フレンダさん」
「いいから、ちょっと」
ソファーから立ちあがって廊下に出た俺の手招きに、御坂は首を傾げて訝しげな表情を浮かべながら着いてくる。佐天さんも着いてこようとしたのか、こちらに視線を向けたけども首を横に振って断っておいた。原作だと御坂は自分で気がついて、黒子に打ち明けてたみたいだけど佐天さんの目の前では特に何かやってた訳じゃない筈。変な所で原作剥離させちゃアレだしね。ここは俺が黒子の代わりを務めるとしましょう。
少し急ぎ足で階段を上り、屋上の扉を開いて外に出る。本日は晴天お出かけ日和。せっかくならこんな所でパソコンいじってないて、アウトドアにでも行きたい気分です。キャンプで焼き肉したい……
「フレンダさん、こんな所で何の用?」
おっと、不機嫌そうな顔で御坂が来たでござる。まぁ、理由も話されずに一方的に呼ばれたってあっては不機嫌になるのも当たり前ですよね。
「ちょっと話があって。時間いいかな?」
「話? ならあそこですれば」
「いいかな?」
えぇい、あそこだと話しにくいと気付けぃ! いくら何でも鈍すぎるでしょう? いや、上条さんへの恋心に気付いたのもかなり後半だし、意外と本当に鈍いのかもしれん。めんどくさい演算は出来る癖にー。
御坂は軽く眉を顰めると、ゆっくり首を縦に振ってくれた。よし、これで安心して話が出来る。
「佐天さんの事なんだけどね」
「佐天さん? 佐天さんがどうしたの?」
「白井さんから聞いてたと思うんだけど、佐天さんが『武装無能力集団』に襲われたのは知ってる?」
「勿論、それをフレンダさんが助けたのも聞いてるわ。私もそいつ等ブッ飛ばしてやりたかったわね」
その言葉を聞いて、自然と笑みがこぼれてしまった。御坂の顔は参加出来なくて詰まらなかったとかそういう感じじゃなくて、佐天さんに危害を加えた連中に対して怒りを覚えた感じに見えたからね。無神経かも知れないけど、実際は優しいし正義感が強いんですよね……流石はヒーロー、紛い物の俺とは違うのだぜ。
さて、ここからが本番。変な事言って怒らせないと御の字だけど……上手くいくかしらね。
「佐天さん、『幻想御手』を手に入れて、凄く悩んでた」
「悩んでた……?」
「うん、これで自分も能力を使う事が出来る。これで自分も御坂さん達と一緒だって……だけど、だからといってこれを使っていいのかな? ってね」
「……」
「すぐに出せなかったんじゃないんだ。佐天さんは悩んで悩んで……結果的に出すのが遅れたけど、決して遅かった訳じゃないよ」
そこで一息吐いて、御坂に視線を向ける。御坂の気の強そうな視線と真っ向から目が合ってちょっとびびったけれど、ここはかっこよく決めないと恥ずかしすぎるので我慢します。
「まぁ、私も聞いたのは昨日の事なんだけれどね」
「昨日?」
「佐天さんに呼ばれてお部屋に行ったんだ。そこで話を少しね」
御坂の視線が困惑を帯び、少しずつ不安そうな表情へと変わっていく。うーむ、こうして見るとやっぱり幼いよね。実際レイちゃんとか陸君と同じ年なんだし、幼いのは当然なんだけど。
「佐天さん、とっても苦しんでた」
「そ、れは……」
「『学園都市』に来て、一向に能力が使えない自分が憎くて仕方がなかった。そして……」
そこでキッ、と御坂に視線を向け直す。その視線に御坂は怯えるように視線を反らした。いや、本気になったら俺なんて御坂に、瞬☆殺なんだけどな。この時だけは期待通りのリアクションをしてくれてサンクスですよ御坂。
「御坂さんや白井さん、そして……初春さん達も、憎くて仕方なかった」
俺の言葉に、御坂は明らかに怯んだ様子で俯いた。原作だと佐天さんを無神経に励ました事を自覚してたし、今もその事で後悔してるのかな? ちょっと辛辣に言いすぎたかも知れないけど、佐天さんが倒れてないからちょっと派手にやらないと理解しないかと思ったんです。今は反省している。御坂をこれ以上虐めると後々黒子に何されるか分からないので、そろそろ自重しておきましょうかね。
「でもね」
俺はそう言いながら屋上の柵に体を預ける。ギシ、という音がしてかなり怖かったけど、こういうシーンでは雰囲気を出したいので、「にひひ」、と笑いながら口を開いた。
「それ以上に、御坂さん達の事が大好きなんだってさ」
「え……」
「自分がこういう感情を持っていても、それでも大切な友達だと思える御坂さん、白井さん、初春さんが、好きなんだって」
俺の言葉に御坂は茫然とした様子で口を開いたままだ。ちょっと可愛いと思ったのは秘密です。
しばらくそのまま制止してた御坂なんだけど、やがてゆっくりとした動作で俺の隣に移動してきました。両手を支えにして柵によしかかる様な体勢をとって体を預ける。
「私、凄く無神経よね……」
「ん?」
「私は昔『低能力者』で、ずっと努力して『超能力者』になった……他の人達も、同じ努力をすれば、いつかは強度だって上がるものって……ずっと考えてた」
「御坂さん……」
「私、『超能力者』とか言ってるけど……そういう所は全然駄目だよね。私は、目の前にハードルがあったら……それを乗り越えて進まないと気が済まない。『超能力者』だって、自分が努力して着いてきた、ただの名前の筈だった」
御坂の言葉に、俺は上手く言葉を返す事は出来ない。御坂も『素養格付』の存在を知ったらどうなるんだろうか……自分が努力してきた結果が、最初から運命づけられていたなんていう皮肉。ある意味、知らないという事は幸せなのかもしれないね。
「強度なんてどうでもいいなんて……無神経な話だよね……」
落ち込んでる落ち込んでる。ぶっちゃけここまで落ち込むなんて想像してなかったでござるよ。気の強い御坂でも、気にする事は気にするんだね。
でもこのままだと困るのですよ! 御坂には何日後だか忘れたけれど、木山先生と戦ってもらわなくちゃならない。『自分だけの現実』っていうのはその日の気分も強く影響するって、麦のんが言ってた。落ち着いたり、楽しい状況だと能力は発動しやすいし強力になるらしい。だから麦のん生理の日だと能力が上手く……や、やめておこう。心の声だとしても、麦のんに聞かれたらオシオキ確定の言葉だった。いかんいかん、あぶないあぶないあぶない……さ、さて、御坂のフォローをするとしましょう。幸い、俺には話のネタがあるしね。
「私は、そうは思わないけどね」
「えっ……?」
「御坂さん、私は少なくても他の人よりは『超能力者』っていう存在を理解してるつもりなんだ」
そう言って視線を街へ向ける。今日は学校も休みなので、学生が沢山歩いている。女学生たちが仲良くアイスを食べながら歩いていたり、友達同士で何の気なしに笑い合う。表側だけ見ると、『学園都市』って通ってみたい場所ではあるよね。裏側やばすぎワロス。
「私は、『置き去り』の施設にいた時に麦野さんと会ったんだ」
「チャ、『置き去り』!? フ、フレンダさんって『置き去り』だったの……?」
「ん? 白井さんから聞いてないの?」
「き、聞いてない聞いてない! そ、そのっ……ごめんなさい!」
「? 何で謝るの?」
「だ、だって……!」
「白井さんにも言ったんだけど、気にしなくて良いよ。私は今が楽しいし、気を使われると逆に辛くなるから」
「うぅ……」
「とりあえず続きを聞いて欲しいんだけど、良いかな?」
俺の言葉に御坂が渋々頷くのを見て、俺は軽く笑みを浮かべて話を続ける。
「麦野さんは『超能力者』、絹旗と滝壺さんは『大能力者』、これは知ってるよね?」
「う、うん。良く話してたし……」
「だからこそ、私は佐天さんの気持ちが分かったんだ。能力に憧れた事なんて、一度や二度じゃないから」
いやー、毎回毎回仕事する度に思うんですよね。あとドラゴンボールみたいにビームみたいなの撃ってみたいとも思ってます。男はいくつになっても厨二病からは逃れられない運命にあるのですよ……
「でもそれ以上に、『超能力者』の苦しみも知ってる」
「私と麦野さん、の事……?」
「うーん、全ての……かなぁ? 当てはまらない人もいるかも知れないけど」
削板とか『心理掌握』とかは楽しんで使ってるイメージがあるし、第六位に関しては姿形ともに知らんし。垣根はどうか分からないけど、少なくても『超能力者』の悩みというか、苦しみは原作込みで良く分かるのよ?
「『超能力者』は、この『学園都市』にいる全ての能力者の上に立たなければならないけど……御坂さんはそういったものになりたくてなった?」
「……いいえ、私はそんなものになりたかった訳じゃない。さっきも言ったけど、ただ進んでた結果がこれなだけよ」
「だよねぇ」
「何が言いたいの?」
「麦野さんは、かなり昔……私が出会った頃には、もう『超能力者』だったんだ。出会った時からずっと、私は麦野さんと一緒に生活してきたんだけど」
「だけど?」
「それまで沢山の人に会って、沢山の付き合いがあった。けど、麦野さんを本当の意味で見てくれてる人なんて、ほんの一握りだったんだ」
『超能力者』最大の悩みですよね、これ? 御坂は友達という友達が殆どいないし、『心理掌握』もあくまで勝手な想像だけど派閥に仲間はいても、友達と言える存在なんて極僅かなんじゃなかろうか? そして麦のんも、結局『アイテム』のメンバーを除いたら田辺さんとか施設の人達位しか付き合いがないのです。いや、今まで出会った人間の大半が暗部とか言う真っ黒人間共ばかりだったのも問題なんだけどね。そして、『一方通行』。過去の話とか色々見てきたし、あの計画でも『妹達』とか『番外個体』、『打ち止め』とか色々いたけど、最初にああなったキッカケは周囲の人間が勝手に騒いだ結果だった筈。実際『超能力者』なんてものにならずに済んでいれば、『一方通行』は決してあんな人間にならずに済んだはずだ。
『超能力者』は確かに強力で、『学園都市』で最大の力を持っているのかも知れないけど、それと引き換えに普通の人間が送る生活とは隔絶されちゃうのですな。俺だったら友達はいない、ギスギスした人間(組織)関係とか無理でござる。なるのなら『強能力者』くらいがいいでござるな。
「莫大な力と引き換えに、『超能力者』達は常に『学園都市』が誇る存在でなければならない。そんな場所にいる事が出来る麦野さんや御坂さんを、私は凄いと思う」
「あ、そんな……」
「あ、話は戻るんだけど」
いかんいかん、ちょっと感傷的になりすぎて話が脱線してた。御坂に対してのフォローなのに、何で俺の過去を赤裸々に語ってるんだ。は、恥ずかしい!
「御坂さんは、佐天さんを見下してた訳じゃない。『無能力者』を蔑んでた訳じゃない。佐天さんを本当に心配して、そう言ってあげたんでしょ?」
「……うん」
「なら、後悔はしちゃいけないと思う。御坂さんが本当に佐天さんを思って言った一言後悔するなんて、もったいないしね。反省をするのは良いと思うけど」
俺はそう言って、「にひひ」、と笑う。さて、言いたい事は全て言った。原作でもそれほどフォローされずに立ち直ってた御坂だし、これ以上はいらないでしょ。とか思ってたら、御坂がいきなり自らの両頬を叩きました。気合い入れる時とか、そういう時にやるアレです。かなり良い音なったから、結構痛かったんじゃないかな? いきなりどうしたの?
「フレンダさん」
「な、何?」
「ありがと、スッキリした」
おお、流石は若干だけど姉御肌気味の御坂さん。そんなに男らしい所を見ちゃったら惚れちゃうのですよ? 元から可愛い御坂さん、俺が女じゃなければ……!
「じゃあ、部屋に戻りましょうか。黒子とか初春さんも置いてきちゃったし」
「だねー。御坂さんごめんね、付き合わせちゃって」
「ううん、こちらこそどういたしまして。スッキリしたわ」
「なら良かったよー」
勝った、『幻想御手』編、完ッ! 後は放っておいてもも御坂や黒子が解決してくれる事でしょう。さて、後は麦のん達が来るのを待って……
「ねぇ、フレンダさん」
ん、御坂が話しかけてきたでござる。一体何の用、と視線を向けると軽く笑みを浮かべて御坂が口を開いた。
「フレンダさんは、麦野さん達の事をどう思ってるの?」
「麦野さん達? 滝壺さんと絹旗も?」
「うん……さっき、佐天さんが私達を憎んでたって言ってたでしょ? 似た立場のフレンダさんは、どう思ってるのかなって……」
「……気になる?」
軽く頷いた御坂を見て、俺は思いついた言葉を口に出す。やはり佐天さん絡みでこういう話になったんだし、ここはこう応えておくのがベストですよね。
「佐天さんと同じだよ」
「同じ?」
「羨やんだ事も、憎んだ事もある。だけど、それ以上に大切なの。そんな関係だけど……うーん、憎むとか言ったら麦野さん達に捨てられちゃいそうで怖いー」
「……ぷっ、ないない」
「えー、分かんないよ?」
「絶対無いわね。万が一捨てられる様な事があったら、すぐに私に連絡して。麦野さんの事ブッ飛ばしてやるから」
「あはは、怖いねーそれは」
「万が一にも無いでしょうけどね」
麦のんVS御坂とか、一番想像したくない戦いなんですけど……最後に少しだけトラウマを刺激されて、ちょっと凹んだ俺でした。クスン。
*
部屋に戻った俺達を待っていたのは、窮屈になる位の人口密度でした。
「あ、おかえりなさい。御坂さん、フレンダさん」
「ただいま、ごめんねー席外しちゃって」
「あ、私のせいだから。御坂さんは悪くないからね」
いきなり席を外して、不信感を御坂に持たれたら溜まらん。そんな事くらいでこのメンバーに亀裂が入るとは思えないけど、少しは気を使うのです。
で、人口密度が増えた理由は麦のん達が到着していたからです。滝壺や絹旗まで一緒に来てるし。わざわざ全員で来なくてもいいのにさー、別に気にはしないけれど。
「それで、初春さん。『幻想御手』の解析とかは進んでるの?」
「流石にまだ分かりませんね。木山先生と共同で進めていくしかなさそうです」
「わたくしも、『幻想御手』を悪用している能力者達の摘発に向かわなければなりませんわ。ただでさえ、使用すると昏倒するという曰くつきの代物。これ以上広められたら、取り返しが付かなくなるかもしれませんし」
「私も少しは情報集めてみるわ」
「お姉さま、無理はしないでくださいましね」
「なにおぅ」
それにつられて俺と佐天さんは笑う。一瞬佐天さんと視線が合ったので、軽くウインクをしたら頭を下げられました。ふぅ、これで御坂と上手くいくといいですよ。では、これで帰るとしましょうかね。いい加減これ以上留守には出来ないし。
「じゃあ、今日はこれで帰りますね。麦野さん達も来てますし」
「あ、はい! フレンダさんもまたどこかに出かけましょうね」
「また今度ー」
そう言って麦のん達に近付く。というか、何で黙ってるのかしら? いつもならやる事やって、さっさと帰るのが基本なのに。
「麦野さん、お待たせー。帰ろうか」
「……」
ど、どうしたの麦のん? ま、まさか二日連続で家を空けた俺にお怒り、ですか……? お、オシオキダケハカンベンシテクダサイオネガイシマスオネガイシマス……って、わぷ。
「む、麦野さん?」
「ん」
と、突如麦のんに頭を撫で撫でされているでござる!? い、いきなりどうしたの麦のん……いや、頭を撫でられるのはとても好きだし、落ち着くんだけど、いきなり過ぎて意味が分からねぇ。で、でも……悔しい、和んじゃう!
「あふー……」
「……行くわよ」
「あれ、終わり?」
いきなり切り上げられた。結構のほほんとしてたのにー……というか、麦のんから出るオーラが何か柔らかいというか、不思議な感じだな。不機嫌とも言えるし、嬉しそうにも見える。何かあったのかしらね?
「フレンダ、行こう」
「う、うん」
た、滝壺も何か優しい?
「た、滝壺さん?」
「何?」
「何かあったの?」
「……大丈夫だよ、私は正直で優しいフレンダを応援してる」
う、うわあああああ! な、何か怖い! い、一体何があったというの……? 明らかに怒っている感じはないし、別に不機嫌にもなってない。不自然な優しさになってて怒りゲージMAXな事は何度かあったけど、こんな事は初めてですよ? 不気味すぎる……
とか考えてたら、突然右手を掴まれました。そちらに視線を向けると、そこには『アイテム』一の幼女、絹旗の姿が。というか、絹旗って中学生だし別に幼女じゃないな。という無駄な事を考える位に混乱してる俺です。
「フレンダ」
「な、何?」
「……超何でもないです」
うぉう……マジでどうしたのかしら? それに絹旗、結構強い力で握ってきてるな。これで能力発動してると俺の手がミンチなんだろうね。
でも、絹旗と手を繋ぐのも久しぶりかも? 来てしばらくの頃は結構こうしたもんだったっけか。まあ、しばらくぶりに手を繋いで帰るのも良いかもしれんか。
「にひひ」
「ん……」
軽く握り返したら、更に強く握ってきた。絹旗可愛すぎるでしょう? さて、麦のんに遅れたら怒られるし後を着いていかないと……
「フレンダの気持ちは、超分かりましたよ……」
「ん、何か言った?」
「いいえ、別に超何も言ってません」
んぅ? 変な絹旗だな。まぁ、いいか。後は御坂達が『幻想御手』を解決してくれる事を祈りつつ、今日の晩御飯の仕込みしないとねー。