「とあるお国のお姫様」
空は晴天、風は柔らか。夏に近付いているというのにも関わらず、今日は春の様な暖かさを感じる過ごしやすい環境なのであります。こんな日は元気よく外で鬼ごっこでもしたいものなんですが、そうとも言ってられない状況なのですよね。
理由は二つ、まずは俺の怪我がまだ完治していないから。いやー、歩いたりとか普通に過ごす分には問題ないんだけど、あんまり激しい運動してはいけないとの事でした。普通ならあれだけ体打ったら完治まで結構かかりそうなもんですけど、『学園都市』の医療技術はそんなものでは止まらないのですよ。そして二つ目の理由なんですけれども、お仕事が入っているからなんですよねー。
「ふれんだ、怪我の感じは大丈夫?」
「あ、滝壺さん。大丈夫だよー、もう殆ど普段と変わらない感じで動けちゃうのですよ?」
今俺……というか俺を含めたアイテムのメンバーは仕事で指定された建物の前に来ています。ちなみにこの建物は外部の人間が『学園都市』に来た時に利用するものなんだけど、その中でもVIP専用のものなんですよ。見た感じは高級ホテルといった感じで、外から見るとまるでお城である。正直、最先端の建物が建ちまくっている『学園都市』の中だと浮いていると言わざるをえない感じです。ディ○ニーとかに建ってるといいよ、ハハッ!
「しかし、超待たされてますね。いい加減帰りたくなってきましたよ」
「文句言わない……とは言え、私もそう思ってた頃よ。あと五分待って来なかったら、この依頼はキャンセルでいいわよね? いいわね、私が決めた」
「「「(超)異議なし」」」
いや、個人的には一度受けると言った仕事を断るのはアレなんだけど、麦のんにこんな事言われたら文句は言えないよね!? ちなみに、既に一時間近く入り口で待たされております。どうしてこうなったかというと、連絡人さんから「詳しい依頼内容は相手から聞いてちょーだい」、と言われたためであります。面倒だからって、それくらい自分で言えよ……まぁ、今さらだけどね。
「しかし、外部の人間が私達暗部に超何の用でしょう? こう言っては何ですが、『警備員』に頼んだ方がコスト的にも安上がりですし、超意味が分かりません」
「詳しい事は分からないけれど、何か後ろめたいところがあるんじゃないかしら? もしくは『警備員』だと不安だから、それ以上の実力を持つ相手に任せたかった……とかね。何にせよ、久々に明るい所で仕事といきたいところね」
麦のんの一言には全面同意したい。暗部の仕事は大体夜に集中してる上に、基本的に路地裏とか廃墟とかで仕事が多かったりするので、洗濯とかが面倒になるのですよ……根本的に暗い所で仕事するのも嫌なんだけどな。贅沢言えないけど。
「あ……」
「? 滝壺さん、どしたの?」
「誰か来たよ」
滝壺が向けている視線の先へと顔を向けると、そこにいたのは一人のメイドさんでした。王道とも言える感じのメイド服に身を包んだ女性は、ゆっくりとした足取りでこちらに向かってくる。すげぇ美人……『アイテム』のメンバーのお陰で美人には見慣れてると思ってたけど、それは間違いでした。世の中にはまだまだ美人さんがいるのですね。
近づいてきた女性をよーく観察してみる。俺と同じ金髪の髪で、肩の辺りまで伸ばしている髪はフワフワしててとても柔らかそうだ。顔の造形も人形の様に整っていて、一つの芸術品の様な感じに見えるほど綺麗。そしてあの目……何か麦のん思い出す感じのつり目さんです。そ、そんな蔑む様な目で見られたら……ビクンビクン。
「失礼致します、今回『学園都市』から派遣してこられた方達でありましょうか?」
「ん、そうよ。私がリーダーの「麦野 沈利」、他は後で適当に紹介するわ」
「「麦野 沈利」様ですね。私はミーシャと申します、この度はこちらの無茶な要求に応えて頂いて本当に感謝して」
「ストップ、実は詳しい依頼の内容を聞いてないの。だから感謝してもらっても困るわ」
その言葉に、ミーシャと名乗ったメイドさんは驚いた様子でこちらを見る。びっくりした顔が美人過ぎて鼻血吹くかと思ったぜ! メイド服の破壊力も相まって、もうミーシャさんにメロメロになってしまいそうであります。
「では……もし依頼内容が気に入らなければキャンセルもあり得る……という事でしょうか?」
「いや、その心配はしなくていいわ。一度受けるって決めた仕事だし、信用問題とかもあるからね。ここまで来たら断らないわよ」
「そうでしたか……それは何よりです」
さっきまで面倒だから断ろうとか言ってたし、普段から嫌な仕事は断ってるからあんまり信用出来ない一言ですよね! まぁ、ここまで来て断るとかはあんまり考えてなかったけど。
「とりあえず、細かい話は中でする事にしましょう。私に着いてきて下さい」
そう言って歩き出したミーシャさんの後ろに着いて『アイテム』も続く。建物の中はVIP専用なだけあってか、高そうな壺とか飾りが所狭しとあったりしました。目が痛いんですけど……
そして気付いたんだけど、何か護衛というか警備の人が少ないとです。実はこの建物自体に『警備員』や『風紀委員』は入れないので、警備の人間はVIPが自分で用意したりするのですよね。数少ない『学園都市』で外の人間が多い場所なんだけれども、この少なさは異常だと思う。だってメイドが数人しか警備にいないってどういう事だってばよ。
『アイテム』に依頼を頼んだのも、警備の人間が少なかったからなのかな? でもそれだと絹旗が言ってた様に『警備員』に頼めば、半分以下のコストで大人数を呼べるんですけどね……マジで何か後ろめたい事があるんだろうか? とりあえず仕事すら始まってないから何とも言えないけどさー。
*
手に持ったモップで廊下の床を磨いていくと、心まで磨かれていくような気がして溜まりません。というか掃除とか洗濯とか家事全般をこなしている俺にとって、今やっている仕事は普段とあんまり変わらないんですよね。いやー、今回の仕事は楽勝だわ。
「なんで私がこんな事を……」
ブツブツ言いながら難しい顔して、麦のんも仕事をしております。というか、麦のんモップ掛け遅いんですけど。まだ俺がやった量の半分も終わってないじゃあーりませんか。こんなんじゃ昼食までに目標の場所まで終わらないとですよ。
「麦野さーん、大丈夫ですかー?」
「大丈夫な訳ないでしょ! くぅぅぅ、何でこんな目に……こんな内容だったら断ってたわよ!」
「そんな事言われましても」
「うっさい! 自分の場所が終わったなら私の分も手伝いなさい!」
「えー……」
「手伝え!」
「はーい」
何という理不尽なご命令……でも俺は従うのですよ! 掃除自体は嫌いじゃないし、このままだと麦のんは確実に仕事を終える事が出来なさそうだしね。しかし、麦のんメイド服が様になってるなぁ……美人さんは何を着ても似合うんだろうけども。
ここで今回の仕事内容を復習してみるとしましょう。まず仕事内容としては、ここに滞在中のVIPを護衛する事なんですが、条件として周囲の人間には護衛として見られない様にしてもらいたいとの事でした。要するに周囲に溶け込んで仕事をして欲しいって事なんだけど、普通に周囲をウロウロしてたんじゃ確実にばれてしまう。という訳で近くにいる人達と同じ仕事をしている状態で……という事だったので、何と四人分のメイド服が支給されたのでありまーす。
最初は麦のんが物凄い抵抗を致しまして……仕事をキャンセルするとか言い出しかねない感じだったんですけど、何か絹旗と滝壺が耳元で囁いたら渋々納得してくれました。あの二人に説得スキルがあったことが驚きなんですけど、なんやかんやで仕事に入る事には成功した訳です。という訳で現在、俺を含めた『アイテム』の全員がメイド服着用してるのだ。
ん? 男の俺がメイド服なんて着て気持ち悪くないのかって? そんなもん十年近く女として生活してきたら全然感じません。
とか何とか言ってるうちに、やっと掃除が終わりました。結局四分の三は俺が掃除した感じじゃないかしら? 麦のんは既に消耗具合が半端じゃない感じだし、この先やっていけるのか不安で溜まりませんの事ですよ?
「麦野さん、疲れました?」
「掃除なんて何で私が……こんな仕事だって知ってたら来なかったのに……」
駄目だ、これはしばらく立ち直れそうもないね。
「受けちゃったものは仕方ないですよ。とりあえずお昼御飯食べましょう」
「……そうね、今日は何?」
「今日は洋風のお弁当にしてみましたー」
「そう、楽しみね」
談笑しながら、用意された休憩室へと向かう。扉を開けると、そこには既に先に終わっていたらしい滝壺と絹旗が座ってのんびりしていた。勿論、二人ともメイド服を着ておりますですよ。滝壺は着やせするタイプでして、ちょっとサイズが小さかったのかメイド服はその大いなる胸を強調してしまっているのであります。エロすぎるでしょう……ふう。
絹旗はそれほどスタイル良くないけれど、中学生くらいの女の子がメイド服を着ているというだけで既に犯罪クラスに可愛いです。想像してごらん……あのスカートの下はガーターベルトなんだぜ? ふぅ……
「フレンダ、超何をボーッとしてるんですか? 早く御飯食べましょうよ」
「ハッ……! ごめんごめん」
いかんいかん、変な妄想してるなんて知られた日には、どんなオシオキをされるか分からない。『アイテム』の全員からやられるオシオキとか……ブルブル、想像したくもないぜ。ひとまず自分のバッグからお弁当を出して、と……
「ジャジャーン! フレンダ特製洋風幕の内弁当(お重)でーす!」
「おおー、相変わらず超凝ってますね。美味しそうです」
「ふれんだ早く食べよう、早く早く早く速くはやく早くHAYAKU」
「ま、こんなモンでしょ」
評価は中々かな? 麦のんはこんな事言ってるけど、不味そうなものにはマジで不味そう、と言ってくれる人なのでこれでも上々の評価なんだよね。滝壺は……獲物を見るような目をしながらバンバンとテーブルを叩いております。相変わらずだけど、食事のときだけは目の色変えるよね。絹旗は笑みを浮かべて弁当に視線を向けてくれているので、どうやら問題ないようです。
「はい、箸とお茶。今日は緑茶にしてみました」
「珍しいわね、いつも番茶なのに」
「商店街のお茶屋さんからいい葉を分けてもらえたんですよー。味わって飲んでみてね」
「良い香り……落ち着くね」
さて、お茶も箸も全員分行き渡ったところで、いつもの決まりと共に頂くとしましょう。では……
「「「「(超)いただきます」」」」
いただきますは万国共通の挨拶ですね。さて、まずはハンバーグから食べるとしましょう。うむ、焼き加減もちょうどいいし、特にしょっぱくはないか。今回は自分を褒めたいくらいの出来栄えなのです。
「しかし、ただメイドにするだけなら私達を雇う必要性は超ありませんよね」
「確かにね。ただ、『警備員』を雇わない理由は少し分かった気がするわ」
「ん、どうしてですか?」
絹旗の言葉に、麦のんは手に持っていたお茶を飲んで一息吐くと口を開く。
「ブリュスノイエって国、知ってるかしら?」
「ヨーロッパにある国ですね。イタリアから超独立してるんでしたか?」
「そう、とまあここまで言えば分かると思うけど、今回ここに来てるのはその国の関係者……もっと詳しく言えばそこのお姫様なのよ」
「お姫様ですか……なんか想像しにくいですねぇ」
王族とかそういうのなんかね? ぶっちゃけて言うと、そういう類の人は雲の上にいる人って感じで親近感というか、近くにいても現実味が無いなぁ。それに何でそんな人が科学の都市である『学園都市』に来るのか訳分からん。
「観光目的か何かなんですかね?」
「多分違うと思う。観光目的なら、暗部を使うのはおかしい」
むぅ、滝壺に駄目だしされてしまった。じゃあ一体何なんだってばよ?
「気になってさっきトイレに行った時に端末で調べたんだけど、そのブリュスノイエが『学園都市』との友好の為に、使者……じゃないわね。まぁ、外交官を送るっていう情報があったのよ」
「ニュースでは超見ませんでしたが?」
「情報統制されてるみたいね。理由は分からないけれど」
ふーん、要するに『学園都市』とその国との秘密の会談みたいな感じなのかな? ぶっちゃけて碌でもなさそうな気配しかしないんだけど、今回ばかりは騒動に巻き込まれるのはごめんなのでありますよ。
「それで、その外交官が今回の……?」
「うん、護衛対象みたいね。まだ顔すら拝んでないけど」
「その言い方だと超喧嘩腰みたいですよ」
「私に掃除なんかやらせたんだから当然でしょ」
うーむ、物騒な事ばかり言ってるな。麦のんの怒りが有頂天状態なので、正直お姫様には同情したい気持ちで一杯です。だけどその怒りが俺に向くのは勘弁な!
とか何とかやっている内に、弁当が空になっておりました。いや、相変わらずなんだけど滝壺が食べまくる。俺と絹旗と麦のん合わせた量と同じくらい食べてるんじゃないかな? 満足そうにお腹をさすって立ち上がる滝壺に、俺は一抹の恐怖を覚えちゃうのですよ。
「さて、これから超何をしましょうか? 掃除は終わりましたし、やることがありませんよ?」
「さっきのメイドさんに聞けばいいんじゃないかな? わたしも掃除終わっちゃったし」
「なら行きましょう。もう掃除はこりごりよ」
そんな掃除を俺は毎日こなしてるんだけどね! まぁ、麦のんが家事をやるとか似合わなすぎてワロス、になっちゃうんだけど。ではミーシャさんに次の指示をもらいに……
「その必要はありません」
「うわぉ!」
び、びっくりした! 扉を開ける音とか、足音すらしなかったんですけども? 一体どうやってこの部屋に入ってきたのかしら……
「聞くも何も、私が今から用件を伝えます」
「最初から言っておきなさいよ。面倒ったらありゃしない」
「申し訳ありません……ですが、それだけ姫様の立場は微妙な所にあるのです」
微妙な立場? どうしてよ。
「今から、今回貴方達を雇った理由と本当の仕事についてお話致します」
「雇った理由、ですか?」
「はい……姫様、名を「スワジク・ヴォルフ・ゴーディン」様と申すのですが、現在非常に微妙な立場にあるのです」
「まどろっこしい言い方は良いわ。で、どんな立場なのよ?」
「……命を狙われています」
わぉ、またこういう関係の依頼かい! たまには平和なお仕事をしたいと思うのですよラララ~♪
何ていう現実逃避してる場合じゃない。え、何でそんな事になってんの?
「王族といっても姫……継承権とかみたいなのはないんじゃないの? 詳しくは分からないけど」
「はい……確かに王位継承権などはありませんし、政治関係でも特に力を持っているとは言えません」
「んん? なら別に命を狙われるとは思えないんですけど。特別、何か恨みを買ってるとかなんですか?」
「姫様はそんな方ではありません!」
って、うわあぁぁぁぁ怖い! い、今の目つきは人を殺せるレベルの目でしたよ……今まで落ち着いてる感じの人だったけど、これが素の人格なのかな? と、俺が考えてたら、いきなり暗くなっていくし。マジでどうしたし。
「と、言いたいところです……認めたくはありませんが、貴方が言った通り姫様は恨みを買われておられます。本来であれば姫様は警備が厳重な屋敷にいなければならないのですが……」
「何かあった、と?」
「……『学園都市』の視察に姫様が選ばれたのです。恐らくは姫様を恨む勢力が、この機会を逃さずに行った工作だと思います。本来であれば従兄のフェイ様が選ばれる筈だったのですが……」
「ストップ、そういう情報はどうでもいいわ。相手がいればそれをブッ飛ばす。それが私達の仕事だからね」
麦のんマジ外道……最後まで話を聞いて上げようよ。ほら、ミーシャさんが不満そうな顔してますよ!
「私達の仕事はすわじくの護衛でいいのかな?」
「(よ、呼び捨て……?)は、はい……そう考えてもらっていいです。ただ、今回皆様にメイドを演じてもらったのには理由があるのです」
「聞かせて」
「襲撃者達をここで撃退して欲しいのです。今回失敗すれば、相手方も慎重にならざるを得ませんし、何より相手が襲撃してきたという事実を得る事が出来ます。もうひとつ、出来る事なら襲撃してきた相手を殺さずに捕えてほしいのですが……」
「おっけー、依頼内容は目標の護衛、及び敵の撃滅。出来れば対象の捕獲、で良いかしら?」
「はい、それで結構です」
うーむ、相変わらず血なまぐさい事になりそうな予感プンプンですね。たまには平和な任務をしたいと願う今日この頃です。
「では、これから貴方達は姫様の世話係として常に近くに待機していて貰います。無論不自然さを隠すためにも多少の仕事はして頂きますが……よろしいでしょうか?」
「む……仕方ないわね」
ここまで来ると麦のんは断ろうとしないな。流石麦のん、そこに痺れる憧れる! いや、別にいつもと変わらないけどね。
「超気になる事が一つだけあるんですが」
「はい、何でしょうか?」
ん? 絹旗が難しい顔してミーシャさんに声を掛けたでござるの巻。絹旗がこういう仕事の時に発言するのは珍しいんだよね。基本的に麦のんか俺の指示に従ってくれるし、仕事中の口数は少ないんですよ。どうしたんだろ?
「スワジク……さんで超いいですか?」
「よろしいですよ」
「恨まれていると言いましたが、何故恨まれているのでしょうか? 貴方の反応を見る限りでは、超悪い人には思えないんですよね」
「ッ、そ、それは……」
「あ、別に応えてくれなくても良いですよ。ただ、自分が護衛する人間がどういう人間なのかは超気になりまして」
まぁ、確かに俺も少し気になってた。ミーシャさんは本当に忠誠を誓っているように見えたし、それだけ慕われる人間が恨みを買うって何をしたのかって思った。逆恨み的なものならまだ分かるんだけどなぁ。
ミーシャさんは辛そうな表情でしばらく黙ってたけど、やがてゆっくりとした動作で口開いた。
「恨まれている理由は様々です。肉体的、精神的に痛めつけられたり、言われもない事で職失った者もおります。また、国の重鎮にも姫様を邪魔と思う方達が大勢。恨まれすぎていて、誰から命を狙われているのかも分からない状況です」
「……そうですか、超ありがとうございました」
そう言って下がる絹旗は、どことなく不満そうな顔をしている。そりゃあ、今聞いた感じの正確悪そうなお姫様相手だと、護衛する気も失せるよねぇ。いや、本人をまだ見てないから何とも言えないけど、聞いた内容だけで考えると外道さんじゃないか! 肉体的、精神的に痛めつけるとか一体どういうことなの……?
「……まぁ、仕事だから我慢しなさい。絹旗も失礼な事聞かないの」
「超了解しました」
「……では、姫様の部屋へ向かいます。仕事の方はしっかりお願いしますね」
そう言って背を向け歩き出すミーシャさんの後ろに『アイテム』が続く。まぁ、精々数日程度だろうし、それまでは我慢するしかないのですかねー。とか考えてたら、絹旗に服を引っ張られたでござる。如何しましたか絹旗殿?
「フレンダ、もし相手が気に入らなかったらフレンダは超帰ってもいいですよ」
「えっ、駄目だよ。麦野さんがそんな事許す筈ないしー」
「大丈夫です、私が超説得します……というか、まず麦野は超許可をくれると思うので」
え? それはいくら何でもないでしょー。気に入らない仕事は自分だけボイコットしますー、なんていう事は世の中通じないのでありますよ。絹旗が心配してくれるのは嬉しいけれど、仕事が終わるまでは頑張るとしましょう。
「ここです、ここが姫様のお部屋になります」
っと、考え事してるうちに到着。とはいっても、他の部屋と大して変わらない扉だ。護衛もいる様子がないし、どんだけ人が不足してるんだろ? マジで『警備員』も応援頼めばいいのに……『アイテム』は好き勝手出来なくなるだろうけどね。
「姫様、失礼します」
そう言ってミーシャさんが扉を開ける。それに続いて『アイテム』のメンバーも部屋へと入っていく。
部屋の中はVIP専用ともあり、かなり小奇麗で大きい。高級ホテルとかだとこんな感じだとは思うけれど、一人用なだけあってホテルとしては手狭かな? そして奥にある机で何か作業をしている少女が目に入った。
ぶっちゃけて言おう。言葉を失いました。
流れるような銀色の髪は澄み切った色をしており、本物の銀よりも美しく見える。顔はまさに職人が魂を込めて作ったかのように整っているが、決して人形ではなく生きている人間なのだと分かるほど生気に満ち溢れたものだ。正直、これが一つの芸術品なのだと言われても全く疑わない程の美しさだ。麦のん、絹旗、滝壺も目を見開いて少女を見つめている。やがて少女はゆっくりとした動作で立ち上がると、軽く笑みを浮かべて口を開いた。
「えっと、新しいメイドの方達ですよね? 初めまして、ボクの名前はスワジク・ヴォルフ・ゴーディンと言います。よろしくお願いしますね」
ニコッ、と微笑んだ顔を見て、俺は心底思いました。
俺の妹が……じゃなくて、こんなに可愛い子が悪人な訳がない!
<オリジナル用語・設定(という名のスワジクさん無双)>
『ブリュスノイエ皇国』
イタリアから独立している一国家。それほど大きい国ではないが、独自の体制をとる立派な国であり、それなりに発言力もある。現在、政争で若干国力が落ちている様子。
エリザリーナ独立国同盟とは立場も似ている為か、比較的仲が良い。