『予想外』
「ホットケーキ、ホットケーキ」
「滝壺さん、早く食べたいならバターとか蜂蜜も出しておいてね」
「分かった」
バンバンとテーブルを叩きながら座っている滝壺にそう言うと、滝壺は素直に立ちあがって準備を始める。流石滝壺は仕事をしてくれるでぇ……さっきからテレビに夢中な二人とは大違いですよね! というか、滝壺が手伝ってるんだから手伝いなさいよ! 絶対に口には出来ませんが。
今日は暗部の仕事もなく、全員朝早くから起きてのんびりしている最中なのでございます。今は十二時少しを過ぎた所で、今作ってるホットケーキはお昼御飯の代わりなんですよ。いやー、楽な割に喜んでもらえるから良いわ。施設でも大人気のメニューだったしね。
「はい、一枚目焼き上がったよー」
「ふれんだ、相変わらず美味しそう」
「よいしょっと。麦野、超バター取ってください」
「自分で取りなさいよ……」
そう言いながらも取ってあげる麦のんテラヤサシス。でもさ、出来あがった途端にテーブルに来てるのはどういうことなの……そんなに素早く動ける力があるのなら、それを少し手伝いに回しなさいよ!
「どうしたのよフレンダ? 早く座りなさいよ」
「いえ、私は二枚目焼かなきゃ駄目なんで先に食べてて下さい」
「そうじゃなくて、「いただきます」言えないでしょうが。早く座る」
えー……それ位俺無しでやればいいじゃん。それでもし焼き加減間違えて焦がした場合、命の危機に会うのは俺なんですよ? 全く麦のんは……とか何とか考えながらも座る俺ってマジヘタレ。でもそんな俺をヘタレと呼ぶ奴は、今目の前で麦のんに逆らってみなさいよ! もれなく天国に昇れます。
「「「「(超)いただきます」」」」
それと同時に席を立つ俺。うぅ、俺だってお腹空いてるのになぁ……滝壺は相変わらず物凄い量を食べるし、次々と作らなきゃいけない分俺が座れるのってかなり後なんだよね。何という理不尽な仕様なのでしょう。
「今日も美味しい」
「ホットケーキを不味く作るのは才能だと思うけどね」
滝壺の賞賛の声は嬉しいんだけど、何で麦のん余計な事言うのさ! そういう空気を読まない発言はいかんのですよ。まぁ、ホットケーキミックス使ってるから、確かにそうなんだけどね。
『本日の天気は晴れますが、夕方より雲行きが怪しくなっていきます。傘を忘れずに……』
「つまんないニュースしかしないわねぇ……退屈で死にそう」
「麦野的にはどんなニュースが超楽しいんですか?」
「そうねぇ……こう、血沸き肉躍るニュースが良いわね。『統括理事会の一人が乗った車が大爆発、犯人は一体誰か!?』、なんてどうかしら?」
「いや、どうかしらと超言われましても……」
うわぁ、絹旗すらドン引きしてるじゃないの。麦のん、そういう物騒な話は止め……
「そうなったらパーティですよね?」
き、絹旗ァァァァァ!?
「まぁね。世の中のゴミが一つ減ったという事で、パーティくらいは開いても良いかもしれないわ。そうなったら私が奢ってあげるわよ」
「おお、超太っ腹ですね麦野」
「やったー」
「わ、わーい……」
とりあえず空気を読んで喜んでおくが、この会話が上層部に筒抜けだと知ってる俺からすると怖くて仕方ないんですけど。いやこういう会話をしてるって事は『滞空回線』の存在を知らないという証明にもなるから、逆に危険は減るんだろうか? それにしても会話が物騒なのは変わらないけど。
「あー暇暇暇ー。何か楽しい事でもないのー?」
あ、麦のんが駄々っ子モードに入った。こうなると面倒なんだよね……何か楽しい事を見つけるまでは常にダラダラとした状態に……あれ、いつも通りじゃね?
「麦野、食べてからゴロゴロすると超太りますよ」
「太らない! 私はアンタ達と違って努力してるのよ!」
「あれ? この間体重計見て何かボソボソと……」
「うわああああぁぁぁ! 言うなぁぁぁぁぁぁ!!」
絹旗の言葉を聞いた麦のんは、鬼の形相になって絹旗に飛びかかる。絹旗は絹旗でケラケラ笑いながら麦のんと取っ組み合いをしているし……良く怖くないよね。俺だったらあんな事口には出来ないぜ。
「うぅ、くそっ……! 何でアンタ達は碌な努力もしない癖に太らないのよ……」
「大丈夫だよ、私はそんな太ってるむぎのを応援してる」
「オーケー。滝壺、アンタ喧嘩売ってるのよね? 絶対そうよね?」
「そんなことないよ」
涙目で滝壺に組みかかる麦のんだったが、何故か逆にアームロック喰らってる。あれではまさに『超能力者(笑)』なんだけれど、仕事中はそれこそリーダーとして相応しい感じなんだよねぇ。
「たっ、滝壺……ッ! ギ、ギブ! お、折れ……!」
「なにぃ? 聞こえんなぁ~?」
「あ、ちょ、ギブ! 本当に駄目、駄目だって……アッー!!」
現実逃避と思いつつも二枚目を焼きながら、俺は心底思うのですよ。
あー、今日の晩御飯何にしよう。
*
「やはり暇なときは、超ショッピングに限りますね」
「ねー」
現在、セブントミストにてお買い物中でありまーす。あの後、いじけていじけて仕方のない麦のんの気分を晴らすべく、気分転換に買い物に出かけたのです。幸い麦のん、腕は大丈夫……っていうか、全然怪我とかしてませんでした。滝壺の無駄な技術に憧れるぅ。
ちなみにあの後、俺は麦のんを慰めたんだけど……
『何もしてないのに太らない、肌が荒れない、髪が痛まないアンタも敵だゴルァァ!!』
って、突撃されました。勿論、俺はそのままはっ倒されましたよ! 麦のんの体当たりマジですげぇ……絶対アメフト選手になれるって。肋骨折れたかと思ったもん。
お、このズボンいいなぁ。適度に動きやすそうだし、デザインも俺好み。早速購入……
「フレンダ、アンタまさかそれ買う気じゃないでしょうね?」
「へ? そうですけど」
って、さっきまで滝壺と一緒に向こうでスカート見てた麦のんが戻ってきたのか。滝壺も後ろで俺の事ジトッ、と睨んでるけどどうしたの?
「駄目、それを買う事は許さないわ」
「えぇ!? 何でディスカ!?」
「うっさい! 少し目を離せば男物のズボンだの服だの買おうとして!」
「良いじゃないですか、好きなんですから」
長い間女として生活してきてるから普段は気にしないんだけども、やっぱり男物の服の方が着やすいし、好きなんですよね。だから良く買おうとするんですが……
「良くない、私の隣で歩いてる奴隷が女なのに男物の服着てるとか……主人の品性を疑われるでしょ」
それはない(断言)。そもそも俺が奴隷だってばれたら、品性疑われるのは麦のん、貴方だってばよ。
そうなんです、大半はこうやって麦のんか滝壺の妨害を受けるんですよね。そのせいで絹旗まで警戒しまくってたんですけど、絹旗は全然邪魔しない上に止めもしないんですよ。気になったので、何で邪魔しないのか尋ねてみたら。
『私、それはそれで超アリだと思ってますから』
ぶっちゃけ意味分からん。それはそれでってどういう事やねん。
「とにかく、それは買わせないわよ。それよりもこれ履いてみなさいよ」
と言いながら、麦のんは俺の手からズボンを引っ手繰る。没収されたズボンの代わりに渡されたのは、緑色のスカートでした。
いやいや、またスカート? 前回滝壺が買ってくれたから、もうスカートは間に合ってるんだってばよ。しかも値段見たら、これまた二万六千円とか書いてあるし。チョイスが一般人じゃねぇ……
「スカートはこの前滝壺さんに買ってもらったし、仕事とかジョギング用のズボンが欲しいんですよぅ。だからそのズボ……」
「何、アンタ滝壺が進めるスカートは受け取れるのに、私からのは受け取れないって言いたいの?」
ひ、ひぃ!? いつの間にか滅茶不機嫌になっとるぅ!? これは怒らせたら真っ二つ確定でしょうが!
「そ、そんな事ないよー! ちょうどこの色のスカートが欲しかった所なので、買ってきますね!」
スカートを持ってレジへと走る。後ろで、「あ、ちょっと!」、とか麦のんが叫んでた気もしますけど、今立ち止まって下手にお怒りを受けるのが怖いです。
レジに到着し、スカートを台の上に置く。あぁ……これで二万六千円とか泣けるです……ただでさえあのメンバーの中ではダントツお給料が少ない俺。これで今月も厳し……って、あれ?
「お客様、如何なされました?」
「あ、いえ。ちょ、ちょっと待って下さい」
さ、財布が無い。さっきまで間違いなく持ってたはずなのに! ど、どっかに落したのか……今慌てて走ってる途中しか考えられないので、そんなに慌てる必要もないかな? とりあえず、自分が来た道を戻って……
「少し待って下さい、とミサカは慌てた様子で元来た道を引き返そうとしている貴方を引き止めます」
「え……?」
聞き覚えのある声……そして記憶の片隅に文章として残っている、特徴的な声を聞いて俺は振り返った。
シャンパンゴールドの髪を肩くらいまで伸ばし、常盤台中学の制服を着込んだ、よく一緒に遊んでいる『超能力者』そのものの少女。だがそれ故に、頭部に着けている軍用ゴーグルが一際異質な空気を醸し出している。その少女は右手を俺に差し出した。視線を向けると、そこには落したと思われていた俺の財布。
「先程、貴方が落とした財布ですよね? と、ミサカは首をかしげながら問いかけます」
「あ、うん……ありがとう」
「いいえ、とミサカは心の中ではお礼を求めつつも謙虚な姿勢でそれに応えます」
何か聞き捨てならない一言を言った気がするけれど、そんな事も考えられない程に俺の頭はワニワニパニック……じゃなくてパニック状態。時期的にそろそろじゃないかな? とは思っていたけど、まさかいきなり目の前に『妹達』の一人が現れるなんて誰が予想したでしょうか?
餅突け、じゃなくて落ち着け。冷静に、クールになるんだ俺。この『学園都市』にいるんだから、こういう事は予想していた筈。それに原作でも『妹達』は一般人にも目撃されている筈だから、俺が出会ったところで何の問題もない筈だ。深呼吸深呼吸……
よし、幾分か落ち着いた。目の前のミサカ妹(何番目か知らんけど)は、さっきからウンウン唸っている俺に対しても表情は変わらず、冷めた目でこちらを見つめている。ある意味で、こういう視線に晒されるというのは一部の人達の間で御褒美に当たるのかも知れない。とりあえず、ありがとうございますッ!
「先程から随分と変な顔をしているのですね、とミサカは正直に今の気持ちを打ち明けます」
「うぇ!? そ、そんなに変な顔してた?」
「はい、千変万化とはああいう物を言うのですね、とミサカはちょっとだけ難しい言葉をどや顔で貴方に言ってみます」
どや顔て……全然表情変わってないけどね。無表情だけど、端正で整った顔立ち……これで単価18万円……というか、クローン技術の力凄すぎるだろ。流石は『学園都市』という所なのでしょうかね?
「ほんと、良く似てる……」
「似てるとは、一体だれの事でしょうか? とミサカは貴方に問いかけます」
「へ?」
って、口に出てた? な、何やってんだよ俺ぇぇ!
「あ、いやね、それはねー……えーと」
「?」
そんな可愛く首を傾げないでください! 普通にキュンと来ちゃうじゃないの……というか、別に焦る必要はないよね。確か原作でも一般人とかが目撃してる訳だし、出会ったところで特に問題はない筈だ。
「御坂さんに良く似てるなー、って思って。殆ど瓜二つだよー」
「お姉さまを御存じですか、とミサカは少しの驚きと共に応えます」
「え、妹さんなの?」
「……はい、とミサカは貴方から視線を反らして動揺を隠しつつ応えます」
知ってるけどね。あとミサカ妹よ、それって隠せてないんじゃ……という無粋なツッコミは無しでいきましょう。
でも、本当に良く似てる……というか、クローンなんだから当たり前なんだけど、ゴーグル外して隣に並ばれたら、多分見分けつかない。常盤台の制服着てると尚更だしね。体型も殆どそのまんま……ひんぬーはステータスです。
「御坂さんに妹さんが居たなんてビックリしちゃったよ。今まで聞いた事もなかったし」
「それは当然です、とミサカは冷静に受け答えします」
うん、知ってる。というか、知ってるくせにのうのうと知らないふりをしてる俺って相当外道じゃないかな? もし上条さんが事前に事件の事を知っていたのなら、絶対にこの事件を見逃すはずがないよね。
いや、俺だって助けたいよ? だって人が死なないのが一番じゃない。それに暗部の外道さん達とは違って、『妹達』は本当に良い子達だし。それこそ布束さんが言ったように、人間以上に人間らしいしね。
でも俺にはそんな力は無い。『一方通行』を倒す力もないし、だからといって下手に事件に関わる訳にはいかない。事件を知っているというだけでも、それは始末の対象と成りかねないから。事件を妨害して成功したのは、上条さんだったからというのが大きい気がする。他の人達ならアレイスター辺りに始末されてそうな気がするのよね。
「どうかしましたか、とミサカは突然黙った貴方に対して声をかけます」
「あ、いや! ごめんごめん、ちょっと考え事してた」
どうやらボーッ、としてたみたいで心配そうに声をかけられた。どっちかというと、こっちは君達の事が心配ですよ。
「では、ミサカは研修中なのでこれで失礼します」
「あ……うん」
そう言って背を向けて遠ざかって行くミサカ妹に対して、俺は上手く声をかける事が出来ない。このミサカが何番か分からないけど、恐らくこれが最後の出会いになるのだろう。それに、これ以上関わった所でいざ死んだ時に悲しくなるだけだ。それにミサカ達の半分以上は元々死ぬはずだった存在……だからここで気兼ねなく別れる。それが一番だ。
と、考えた筈なのに……
「あ、あのさ」
「はい? とミサカは去ろうとする足を止め貴方へ振り返ります」
「今度、一緒に遊ぼうよ。御坂さん達も一緒に……きっと楽しいよ」
何故かそう言ってしまった。何でだろうねぇ……あれかな? 少しでもこのミサカ妹を助けない事に悪気を感じたのか?
「……はい、とミサカは一応の約束を果たします」
「うん、また今度ね」
俺って、偽善者だなぁ……
*
「はぁ……」
「「「……」」」
あのミサカと別れた後、俺は麦のん達と合流したんですけど気分が優れません。今はファミレスの中で食事をとってる所なんだけど、俺だけは今食べると戻しそうな位気分が悪いのでテーブルに突っ伏している状態だ。周囲の雰囲気暗くして申し訳ないんだけど、マジでこれはどうしようもないので許して欲しい。
「フ、フレンダ~?」
「……絹旗、何?」
「ほら、フレンダの好きなパフェ頼みましたよ、超食べませんか?」
「ううん、今はいい」
絹旗が超驚いた顔してるけど、マジで体調が優れないんだるだから今は放っておいてもらえると助かる。この後、俺は一人でタクシー使って帰るからさ。
「ふれんだ、大丈夫?」
「大丈夫……」
滝壺の言葉にも、俺はどんよりとした口調でしか返す事が出来ません。
あぁ、元々施設の子供とか助けたり、自己満足でしかない事やってたけれど、いざ自覚すると本当にヘコむわぁ……何かきつくなってきた……
「あ、あのねぇフレンダ」
「どしたの、麦野さん?」
「無理矢理買わせた事は……わ、悪かったわよ。だから機嫌直しなさ」
「ううん、あのスカートの事とは関係ないんだ。本当に具合悪いだけだから……」
あ、麦のん固まってる。普段なら心配させないように振舞う俺だけど、今はそんな気持ちすら萎えてしまっているのですよ。ごめんね麦のん。
「そ、そう……それなら良いのよ……絹旗」
「? 超何でしょう?」
「何か楽しい話しなさい。フレンダの気分を紛らわすような」
「!? な、何という超無茶振りですか!」
あ、絹旗困ってる困ってる。というか麦のん、無茶振りしすぎでしょ。俺の事は大丈夫だから、別に放っておいてくれてもいいのになぁ……滝壺はのんびりとした様子で絹旗に期待の眼差しを向けている。絹旗はしばらく頭を抱えて唸っていたが、思いついたのか両手を叩いて顔を上げる。
「そうだ! 噂なんですけど、『学園都市』で御坂さんのクローンがいるという噂があるんですよ」
「御坂のクローン?」
「眉唾物ですけどね」
絹旗の言葉に、俺はドキリと体を跳ねさせる。というか、話題がタイムリーすぎるだろ……そんな話に滝壺は食いついたみたいで、絹旗の話に聞き入っている。
「街中でも、路地裏でも、御坂さんが目撃されているんですよ」
「……でも、それって本人じゃないの?」
「常盤台の授業の時間帯ですよ? あそこは厳しいという事で評判ですから、超ないと思います」
「ふぅん……クローンかぁ」
「噂の域を出てませんけどね。目撃した人もそれほど多くないみたいですし」
ここにその目撃者がいるけどね。というか、あんだけ目立つのに意外と気づかれてないのかな? 人間意識の外にある事には意外と気付かないもんだからなぁ……逆に堂々と歩いてるからね「あ、似てる」くらいで済んでるのかも。
「ふぅーん、面白そうじゃん」
麦のんの声に反応してそちらに視線を向けると、携帯電話を取り出してどこかに電話をかけておりました。まさか……
「む、麦野さん?」
「本人と知り合いなんだから、直接聞いてみればいいのよ。からかう口実にもなるしね」
麦のんマジドS……御坂の神経を逆なでするような事にならないと良いけど……まあ、俺は何があっても御坂とは戦わないルートで行くぜ!
「あ、もしもし御坂? ちょっとアンタに聞きたい事があるんだけど」
そう言って、麦のんは用件を伝えている。その様子を絹旗と滝壺は興味津津といった様子で眺めてる。俺は興味というか、御坂がどんな反応をするのかによって時期が分かるので体を起こして麦のんへ顔を向けています。
「へ? そうそう、アンタのクローンって奴よ。あの噂どうなのよ?」
麦のんと御坂、何か言い合ってますね。
「あ? ちょっと、待ちなさっ……切りやがった」
「みさかは何て……?」
「それの事は言わないで、関わらない方が良い……だってさ」
麦のんは不機嫌な様子で携帯電話を閉じると、テーブルに肘を突いて掌に顎を乗せた。麦のんが考え事する時の癖ですね。
しかし、御坂がこの話に関してそういった反応を返してきたとなると……『一方通行』との出会いはもう済ませているっぽいな。という事は、実験の事を知って各所の施設を襲撃している最中……
来たぜ、ぬるりと……『幻想御手』とスワジクの時は予想もしない死亡フラグだったからカウントしないとして、これがフレンダにとって最初の難所……『絶対能力進化計画』ですね。難所というか、フレンダが原作(外伝だけど)で初登場&危機に陥る話だな。御坂との対決が迫ってきている証拠……あんなのと戦うと考えるだけで震えがくるわ。だって原作仕様とはいえども麦のんに勝つ御坂さんですよ? 俺が勝てる道理は無し。
「みさか、クローンの話で何かあったのかな?」
「よくよく考えてると、自分のクローンが街中を超歩いてるなんて噂は嫌なものですよね。もしかしたら御坂にとっては超嫌な話だったのかもしれません」
そうそう、だから深く関わらない方が良いって。さっき『妹達』の一人と出会ってしまい、まして話しかけてしまった俺が言うのもなんだけれどね。俺達が変に関わらなくても、上条さんが何とかしてくれるさ! だから本当のヒーローに任せましょうや。
「……そうね」
あれ? 麦のん、何か上の空状態ですね。御坂の様子がどうしても気になるのでしょうか?
「滝壺、絹旗、フレンダ」
「? 超何でしょうか?」
「今日は帰るわよ、ちょっと調べたい事があるわ」
む、麦のんどうしたし。普段のおちゃらけている感じではなく、怒っている様子でもない。長年付き添っている俺の視点から見ると、今の麦のんは暗部の仕事を受ける前の感じとかに似てる……思いつめてるというか、何か深く考え込んでる感じだ。立ちあがってレジへ向かう麦のんを、俺を含めた三人は慌てて追いかける。
さ、さっきまでは俺のせいで重くなっていた空気が、今度は麦のんのせいで重くなっているでござる。ま、マジですいませんでした。なので機嫌直してくれよぅ麦のん……
<おまけ>
「全く、最初から超買ってあげると言えば良いじゃないですか」
「だ、だって恥ずかしいじゃない。それに、そういう事をしてる奴隷を調子づかせるかもしれないでしょ? だから私がやっている事は正しいの」
絹旗の言葉に対し、麦野は顔を真っ赤にしながらそう返す。そんな麦野を見て滝壺は軽く首を傾げて口を開いた。
「……うーん」
「何よ、滝壺?」
「いや、最近むぎのが可愛く見えてきて……」
「どういう意味だ、こら!」
「全く……って、ほら。フレンダが超戻ってきましたよ」
じゃれあう二人を眺めていた絹旗がそう言うと、麦野と滝壺が取っ組み合いを止めてそちらへ向き直る。麦野は一瞬で表情を引き締めると、ふん、と鼻を鳴らして口を開いた。
「あ、フレンダ遅かったわn」
「ただいま……」
「「「…………」」」
(((何か落ち込んでるー!!?)))
ガビーン!! という効果音と共に、三人が同時に心の声を上げた。