「認めたくない過去、認められない未来」
初めは、自分の力が少しでも人の役に立てるのなら、と思っていただけだった。
筋ジストロフィーという病気の人達の為に、『電撃使い』である自分はDNA情報を提供した。そんなに深く考えていた訳ではなく、本当に単純に人の役に立ちたかっただけなのに……
『お姉様』
『単価にして18万円の、実験動物ですから』
『『一方通行』だ、ヨロシク』
どうしてこんな事になったんだろう、と御坂は施設の中を進みながら考えていた。最初の始まりは確かに自らの意思で提供したDNA情報が引き金となった事は間違いない。だけど、御坂はこんな事を望んでいた訳ではない。本当の善意で提供したのだ。
悪かったのは幼い御坂を騙した研究者だったのだろうか? または深く考えずに提供した御坂なのだろうか? 正直に言えば、この問題には答えなど無い。あるのは現在も進められている『絶対能力進化計画』というものだけだ。
不気味に静まる施設の中を御坂は駆け抜ける。破壊すべき施設はここを含めて残り二つ。それを潰してしまえば、『学園都市』でこの実験を続けられる施設は無くなるはずだ。そう考えて御坂は微笑む。これであの娘達が殺される事はなくなるのだと信じて……
が、そんな御坂の頭には、そんな『妹達』の声が聞こえていた。
『今まで殺された妹達は関係ないのか』と、『そんな事をしてもお姉さまの罪は消えない』と、『原因は貴方にあるのだ』と……
「五月蠅い……五月蠅い五月蠅い!! 分かってる、そんな事分かってるわよ!」
御坂は小さかった事を言い訳になどする気はない。もっと考えていれば、この悲劇は未然に防げた筈のものなのだから。だが、心の中でそう思っていたとしても、まだ中学生の御坂にはその事実は重すぎるものだった。当たり散らす様に周囲に電撃撒き散らす。機材の一部は爆発し、パイプ管からは蒸気の様なものが噴出する。
「まだ、まだ助けられる……私はまだあの娘達を助けられるんだから……!」
そう呟いて御坂は奥へと向かう。この施設を破壊し、そして最後の施設も破壊する。その目的だけの為に……
だが、御坂はやがて気が付く。
「静かすぎるわね……」
確かに警備は自分の能力で簡単に通過してきているし、夜中だから警備が薄いのかもしれないが異常とも言えるほど静かだ。少なくとも、今まで襲撃してきた施設はもう少し警備が厚かったし、機材も動いていたはずだ。
(考えても仕方ないか……どっちにしても、ぶっ潰すだけよ!)
御坂はそう考え、更に奥へと進む。
長い通路を超えた先は広い空間だった。中央には大きな支柱らしきものがあり、全体が白い見た目は清潔感以上に、ある種の不安さえも覚える。小さな子供が病院に来た時の感覚と似ているだろうか?だがそれ以上に御坂には、この施設が行ってきたと思われる非人道的な実験の感覚を味わっているかのように感じた。
「ここは……」
御坂はポケットから端末を取り出し、現在の位置を確認する。どうやら順調に奥まで進んできてる様で、右側に見える扉を超えればすぐに中央のコントロールルームに行ける筈だ。一度軽く頷いて先へと歩を進め……なかった。
右腕を振りかざし、『超能力者』としての力を行使して電撃を放つ。電撃は真っすぐに通路の奥へと向かい、何かに着弾したのと同時に砂煙を上げた。御坂は軽く笑みを浮かべて口を開く。
「そんなところに隠れて奇襲でもするつもりだったのかしら? 残念ね……私は常に電磁波で周囲の状況を確認してるの。私に奇襲は効かないわ」
そう言い放ち、その方向へと視線を向ける。砂煙で姿は確認できないが、その中に何者かの影は見えた。レーダーでも何者かが一人いる事を確認している。徐々に晴れ始める砂煙の中にいる人間に対して、御坂は鼻を鳴らしながら口を開いた。
「次はないわよ、私の邪魔をするなら怪我じゃ済まなくなる。だから大人、し……く……」
晴れ始める砂煙の中に立つ人物を見て、御坂は目を見開いて動きを止める。まるで呼吸すら忘れてしまったかのように唇は震え、体中からはドッと汗が噴き出した。
目の前にいる人物もまた、苦渋の表情を浮かべている。長く美しい茶色の髪に、少しつり上がった瞳を持つ美貌。ただ服装だけは普段のブランド物やセンスを感じるスカートなどではなく、動きやすいズボンと上着を着た姿であった。
「な、んで……」
「御坂……」
砂煙から現れた人物が一歩踏み出すのと同時に、御坂は一歩後ずさる。御坂が怯えるように一歩後ずさる度に、その人物の表情は更に歪んでいく。やがて、御坂はその場で頭を抱えて絶叫するように口を開いた。
「何でよ……何で麦野さんがここにいるのよおおぉぉ!!?」
「こっちの台詞だ御坂……お前何してるんだよ……」
悲鳴の様な声を上げる御坂とは対照的に、麦野は怒りを抑えるかの様な声を絞り出した。まるで御坂に怒りを覚えるう様な声であるが、それ以上の感情が籠っている様にも見える。御坂はゆっくりと麦野へ視線を向けて口を開く。
「わ、たしは……こんな実験を潰す為に……!」
「実験……? まさかとは思うけど、前にアンタに話したあのクローンの……」
「前に……あぁ、そうかぁ」
御坂がクスクスと笑う。その異常な状態に麦野は慌てて駆け寄ろうとするが、足元に電撃を撃ちこまれてその場に踏みとどまった。
「来ないで!」
「御坂、聞けっ! 私は……」
「麦野さん……いえ、アンタ達の言葉なんて聞く耳持たないわ。こんな実験に加担してる奴の言葉なんて……!」
「お前……」
「私はこの実験を止めるっ! 邪魔するなら誰だって容赦しないわ!!」
御坂の体中から電撃が迸る。それが全て麦野へと襲い掛かるが、寸前でその軌道を変えて麦野の後方で火花を散らした。それを見た御坂がギリリッ、と歯を噛みしめる。
「私の電撃に干渉する……流石は同じ『超能力者』。能力の系統も似てるだけあるわね!」
「くっ……!」
続けて放たれる電撃も何とか捻じ曲げる麦野だったが、正直言ってかなり厳しい状況にあった。
御坂も麦野も同じ『超能力者』にして、系統は違うにしても本質は『電撃使い』である。『超能力者』は全部で七人いるが、同じ特性を持つ能力者は御坂と麦野だけだ。それでいて、この二人は全く能力の方向性が違うというのも面白い。御坂は強力な電撃を操り、それを応用した磁力、電磁波、名前の由来となっている『超電磁砲』等の多彩な攻撃方法を持つ。また攻撃以外にも自らの体を磁力で支える等、攻撃以外にも色々な活用方法があるのだ。
逆に麦野の『原子崩し』は、それこそ破壊力という一点に尽きる。御坂の『超電磁砲』以上の射程と貫通力を持ち、大気で減衰するものの『超電磁砲』程ではない。また媒体を必要とせず、余程『原子崩し』対策に特化したものでない限りは殆どの物質を撃ち抜く事が可能だ。が、破壊力しかないというのも事実(技術的な応用は麦野の知る所ではない)であり、御坂が三位で麦野が四位というのはそこが決定的な差なのかも知れない。だが、今はそれが逆に麦野の足を引っ張っていた。
「どうしたのよ、全然反撃もしてこないで……『超能力者』の名前が泣くわよ!」
「クソがっ……! こっちの悩みも知らないで好き勝手言いやがって……!」
御坂の言葉にそう返す麦野は、未だに一発の『原子崩し』さえ発射していなかった。そう……『原子崩し』最大の武器にして最大の欠点……それは破壊力が強すぎる事。
麦野は御坂を殺す気なんて最初から無いし、出来る事なら怪我もさせたくはないのだ。あんなに追い詰められた様子の御坂をこれ以上傷つけたくは無かったし、数少ない友人に対して自分の能力を行使したくなどなかった。確かに自分はクズで救いようのない人間なのかも知れない。だが御坂は違う。自分とは違って光の下を歩き、いつも朗らかに笑って友人と一緒に普通の生活を過ごす。そう過ごしていれば良い。
(あぁ、畜生! 違ぇだろ……アンタはこんな所にいる人間じゃないでしょうが!)
「ああああぁぁぁぁああ!」
「ぐっ、ぅっ!?」
電撃の余波が麦野を襲う。戦う前から麦野自身分かっていたことだったが、『電撃使い』としての実力は間違いなく御坂に軍配が上がる。いくら麦野が御坂の電撃を防ごうとした所で、完全に防ぎ切れている訳ではない。ダメージは徐々に蓄積していくし、このままでは長くもたないだろう。
(長くなればなるほど私が不利だってかぁ……? だからってどうすれば……!)
麦野よりは戦闘慣れしていないものの、御坂とて低い戦闘力の持ち主ではない。縦横無尽に壁や天井を動き回る御坂相手に能力行使無しで勝つのは不可能だ。だが麦野の能力では確実に御坂が怪我をする。それだけは避けなければならない。
それに御坂の状態も心配だ。先程から能力を行使する度に体はふら付き、尋常ではない程の疲労をしている様子だ。長引けば危険なのは御坂も一緒なのだ。
「御坂、私の話を聞け!」
「断るっ! 誰がアンタ達の話しなんか聞くもんか!」
血走った瞳でそう返す御坂を見て、麦野は舌打ちをしながら電撃を曲げる。それでも電撃が麦野の体を襲い、体に痛みが走る。が、麦野は一つの事にも気が付いていた。
(手加減はしてくれてるのね……)
御坂が最初から殺す覚悟で向かってきているのなら、麦野は既に立っていない。無意識なのか、意識的なのかは分からないが、その御坂の姿勢に麦野は軽く笑みを浮かべる。やはり御坂は一般人で、暗部とは関わりのない人間なのだと。が、次の瞬間目に入った光景に顔が引き攣った。
「おいおい……」
御坂の周辺には先程からの戦闘で砕けて散らばっている金属片などが浮いていた。どうやら磁力でそれを浮かせているらしい。そして御坂が腕を振り下ろした瞬間、その金属達が麦野へと襲い掛かった。
「がっ……!」
麦野は磁力にまでは干渉出来ない。よって避ける手段もない。能力の行使を控えていた為か盾の展開も間に合わず、麦野はいくつかまともに受けて倒れた。運悪く頭に一発当たった様で、意識が飛びかけたが歯を食いしばって耐える。痛む箇所に手をやると、ぬるりとした感触があり手を見ると血が付着していた。血を流す……しかも一方的にやられるなんて、奴隷を救えなかった時以来だなと自嘲気味に麦野は笑う。ゆっくりと立ちあがって御坂へと視線を向けると、顔面蒼白になってこちらに手を伸ばす御坂の姿があった。すぐにハッとして手を引っ込める動作に麦野は軽く笑みを浮かべて立ち上がる。
「御坂、見ての通り私はアンタと戦おうなんて思ってない。だから私の話を聞きな」
「む、ぎの……さん」
「大丈夫だ、私はアンタの敵じゃない」
そう言いながら御坂へと近付いていく。御坂はビクッ、と体を跳ねさせたもののそこから動く様子はない。その事実に麦野はホッと一息吐いてゆっくりと近づいていく。
「……されないわよ」
「えっ?」
「騙されないって言ってんのよ!!」
瞬間、御坂の体から激しい放電が起こる。先程とはケタ違いの電撃に、麦野はそれ以上近付く事が出来ずに後ずさった。御坂は怒りの表情と……涙を流しながら叫ぶ。
「もう私は騙されない! 私があんな言葉に耳を傾けなければ……あの子達は死ななくても済んだのに! こんな実験が起こる事もなかった!」
「御坂……」
「誰も信用できない……もう、あんな事になるのは嫌なのぉ……!!」
バチバチという放電音を鳴らす御坂は、まさに『超能力者』としての力を発揮する電撃姫と呼ばれるに相応しい姿をしているだろう。だが麦野の目には、助けを求めて泣いている中学生の姿しか見えなかった。涙にまみれた目を麦野に向けて、御坂は口を開く。
「これが最後よ……そこをどいて! じゃなきゃ……っ、殺してでも通るわ!!」
まるて捨て猫だ、と麦野は思う。どんなに優しく近付いてきた相手にも噛みつき、引っかき、誰も寄せ付けないのが似ていると。優しく、希望に満ちた日々を送っていたからこそ、今の自分の現状が辛くて誰も信用出来なくなっている。麦野自身が感じた絶望とはまた違う種類の絶望だ。
必死に考えても解決策が見つからない。今の御坂には話は通じないだろうし、冷静な判断は出来まい。言葉だけでの説得は不可能だ。だからといってここで自分が引けば、今度は『スクール』が御坂の相手をする事になる。そうなったら、それこそ御坂の命が危険だ。
(どうする……どうすれば……!)
御坂も麦野自身も限界だ。これ以上長引けば、碌な事はならないだろう。御坂が倒れるか、麦野が倒れるかの二択。何とかして御坂を止めなくてはならない……麦野はそう考え、普段の麦野なら絶対にやらない行動に出た。
突然両腕を上げてホールドアップした麦野に対し、御坂は驚愕の眼差しを向ける。そんな様子の御坂を見ながら、麦野はゆっくりと……言い聞かせるように口を開く。
「御坂、聞きなさい。私はアンタの敵じゃないし、アンタに危害を加えようなんて思ってない。だから、話を聞いて」
「う、ぅぅ……」
「御坂……お願い」
「う、ああああああぁぁあああ!」
電撃が舞う。御坂の姿が麦野の目に映る。絶叫して電撃を放つ御坂の姿を目にした瞬間、雷光が麦野の体を貫いた。麦野の口から空気が漏れる音が響き、周囲の機械が御坂の電撃に耐え切れず爆発する。やがて電撃がゆっくりと収まって行った。
「あ……」
周囲は電撃の余波でボロボロになり、御坂の息遣い以外は機械が上げるバチバチといった音しか聞こえない。御坂は先程まで立っていた麦野へと視線を向けた。
そこには、倒れ伏した麦野の姿があった。
「あ……」
御坂は一歩後ずさる。自分の友人が倒れている姿を目にして、怯える様に。
「あぁぁ……!」
そして、それをやったのが自分だという事に恐怖を感じて。
「う、あああぁぁああああぁあぁぁああ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
御坂は背を向けてその場から逃げ出した。後に残ったのは、ただの静寂だけだった。
*
「う、おぇ……ぇ……」
路地裏で御坂は腹を押さえながらその場にうずくまる。運が良かったかどうかは分からないが、ここ最近食べ物がまともに喉を通らなかった事が幸いして、口から出るのは胃液だけで済んだ。息を荒げて御坂は先程の麦野との戦闘を思い返す。
『御坂、見ての通り私はアンタと戦おうなんて思ってない。だから私の話を聞きな』
『大丈夫だ、私はアンタの敵じゃない』
麦野はそう言っていた……あの時、耳を貸していれば違う未来があったかもしれない。でもそれは永遠に潰えてしまった。他ならぬ、自らの手でそれを振り払ったのだ。
「う、あああぁぁぁ……あ゛あ゛ぁぁあ……!」
神様、私はこんな目に会うほどの罪を犯したのでしょうか? と御坂は思う。もし謝って罪を許してくれるのなら、今の御坂は土下座でもするだろうし、靴だって舐めただろう。
(どうして、こんな事になっちゃったの……?)
「あ゛あ゛あ゛あ゛……」
路地裏に御坂の泣き声と嗚咽が響く。最早引き返してなかった事には出来ない、認めたくない過去を背負って少女の心は絶望へと堕ちていく。
少女を救うヒーローは、まだいない。
*
「ん、ぐぅ……」
御坂が立ち去ってから数分後、麦野はゆっくりとその体を起こした。服は所々焦げて破けているが、思ったよりも体の痛みが少ない事に麦野は首を傾げる。確かにあの時、御坂の電撃は自分の体を貫いた筈だ。が、すぐに不機嫌な様子で鼻を鳴らした。それは周囲の状況というよりも、自らに憤りを感じている様子ではあったが。
(んなモン決まってるでしょ……)
御坂が手加減したのか、限界に近くて最大の力で電撃を撃てなかったから以外に他ならない。御坂を助けに来た自分が、御坂を逆に追い込んでしまった……その事実に麦野は歯を食いしばり、怒りの矛先を求めるかのように地面を思い切り殴りつけた。手の皮が破れて血が出ようとも、そんな痛みなど気にもならない程の後悔だった。
「クソがっ! 私は馬鹿か……御坂を止めれなきゃ何の意味もねぇだろうがよぉぉ!」
一発、二発と地面を殴りつける度に血が飛び散る。そして一際大きく腕を振りかぶった瞬間、麦野の方に手が置かれた。表情を歪めながら振り向くと、そこには険しい顔をした滝壺の姿があった。
「むぎの、怪我してる」
「……大した事ないわよ」
「駄目、少しそのまま座ってて」
そう言うと、手早くバッグから包帯や消毒液を取り出して麦野を治療していく。頭と腕に包帯が巻かれ、滝壺に軽く礼を言って立ちあがった。そしてそのまま滝壺に視線すら向けずに口を開く。
「滝壺、調べれた?」
「うん、逃げようとしてた研究員の一人に「協力」してもらったよ」
「「協力」ねぇ……」
「うん、「協力」」
そう言いながら滝壺は麦野に紙の束を手渡した。
滝壺が今回麦野と行動を共にしていなかった理由はこれだった。『連絡人』をいくら脅しても最後まで吐かなかった情報……御坂が施設を襲う理由は何かを調べる事だ。混乱に乗じて今回の原因を探り、御坂を止めて日常に帰すのが目的だった。が、麦野は資料に目を通していくにつれて手に力が籠るのを抑える事が出来ない。やがて怒りが絶頂に達し、麦野はコントロールルームのある方向へ今出来る全力の『原子崩し』を放った。途中にある壁を豆腐の様に貫通し、コントロールルームは一瞬にして鉄くずへと姿を変える。元々御坂の電撃で周辺の機械が壊れている為、この行動自体に大した意味はない。が、麦野はやらざるえない程の怒りに包まれていた。
「ふッッざけんじゃねええぇぇぇぇ!! 何なんだよこれはぁ!」
『絶対能力進化計画』、まさしくこの街に相応しい狂った事件だ。だが、麦野が最も許せなかったのは、こんな実験に御坂という光を巻き込んだ事だ。
「アイツは違うだろぉ! こんな事と関係なく生きていく筈だろぉが!」
「むぎの……」
こんな事に巻き込まれるのは自分たちだけで充分の筈だ。更に許せないのは御坂……
見ないふりだって出来た筈だ。知らないふりだって出来た筈だ。なのに自分から巻き込まれ、御坂が堕ちていく……そんなのは認めない。認められない未来だ。
「滝壺、通信機貸して……絹旗達と連絡を取る」
「うん……これからどうする?」
「アジトへ戻ってからね。滝壺、アンタの力が必要になるかもしれないわ……」
「うん、私は平気だよ」
その滝壺の言葉に、麦野は軽く笑みを浮かべる。そして、通信機のスイッチを入れた。