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No.24886の一覧
[0] 「とある金髪と危険な仲間達」【とある魔術の禁書目録 TS 憑依?】[カニカマ](2012/01/31 15:53)
[1] 第零話「プロローグ」[カニカマ](2011/04/28 14:54)
[2] 第一話「私こと藤田 真はまだ元気です」[カニカマ](2011/04/28 14:56)
[3] 第二話「ファーストコンタクト」[カニカマ](2011/09/08 00:08)
[4] 幕間1「フレンダという名」[カニカマ](2011/09/08 00:09)
[5] 第三話「Nice Communication」[カニカマ](2010/12/12 07:46)
[6] 第四話「とある奴隷の日常生活」[カニカマ](2011/04/28 14:59)
[7] 第五話「今日も元気に奉仕日和」[カニカマ](2011/04/28 14:59)
[8] 第六話「ルート確定余裕でした」[カニカマ](2011/04/28 15:00)
[9] 第七話「  闇  」[カニカマ](2011/04/28 15:00)
[10] 幕間2「私の所有物」[カニカマ](2011/04/28 15:01)
[11] 幕間3「『道具(アイテム)』は闇へ……」[カニカマ](2011/04/28 15:01)
[12] 第八話「この台詞二回目ですね!」[カニカマ](2011/04/28 15:02)
[13] 第九話「暗部の常識? 知らぬぅ!」[カニカマ](2011/09/08 00:16)
[14] 第十話「『俺』の生き方は『私』が決める」[カニカマ](2011/09/08 00:18)
[15] 幕間4「知らぬ所で交錯するっていう話」[カニカマ](2011/04/28 15:04)
[16] 第十一話「原作キャラ可愛すぎです」[カニカマ](2011/04/28 15:05)
[17] 第十二話「友達が増えたよ!」[カニカマ](2011/04/28 15:06)
[18] 第十三話「来てしまった今日」[カニカマ](2011/04/28 15:07)
[19] 第十四話「とある金髪の戦闘行動(バトルアクション)」[カニカマ](2011/04/28 15:07)
[20] 第十五話「幻想御手と無能力者」[カニカマ](2011/04/28 15:08)
[21] 第十六話「話をしよう」[カニカマ](2011/04/28 15:08)
[22] 第十七話「電磁崩し」 幻想御手編 完結[カニカマ](2011/04/28 15:10)
[23] 予告編『絶対能力進化計画』[カニカマ](2011/02/10 17:36)
[24] 第十八話「とあるお国のお姫様」[カニカマ](2011/04/28 15:10)
[25] 第十九話「とあるお国のお友達」[カニカマ](2011/04/28 15:11)
[26] 第二十話「予想外」[カニカマ](2011/04/28 15:12)
[27] 第二十一話「やるしかない事」[カニカマ](2011/04/28 15:12)
[28] 幕間5「認めたくない過去、認められない未来」[カニカマ](2011/04/28 15:13)
[29] 第二十二話「フレンダですが、部屋内の空気が最悪です」[カニカマ](2011/04/28 15:14)
[30] 第二十三話「偽善」[カニカマ](2011/04/28 15:14)
[31] 第二十四話「覚悟完了」[カニカマ](2011/04/28 15:15)
[32] 第二十五話「最高の危機」[カニカマ](2011/04/28 15:15)
[33] 幕間6「それぞれの戦い・前篇」[カニカマ](2011/04/28 15:16)
[34] 幕間7「それぞれの戦い・後篇」[カニカマ](2011/04/28 15:25)
[35] 第二十六話「戦いの終わりに」『絶対能力進化計画』編 完結[カニカマ](2011/04/29 09:21)
[36] 第二十七話「お見舞い×お見舞い」[カニカマ](2011/05/23 01:07)
[37] 予告編『最終信号』編[カニカマ](2011/05/23 01:10)
[38] 第二十八話「復活ッッッ!」[カニカマ](2011/06/05 12:46)
[39] 第二十九話「俺、故郷に帰ったら結婚するんだ……」[カニカマ](2011/06/29 20:01)
[40] 第三十話「白と毛布とイレギュラー」[カニカマ](2011/07/16 15:41)
[41] 第三十一話「(話の)流れに身を任せ同化する」[カニカマ](2011/07/17 23:48)
[42] 第三十二話「朝一番」[カニカマ](2011/11/24 02:37)
[43] 第三十三話「ミサカネットワーク」[カニカマ](2012/01/31 15:49)
[44] 第三十四話「逃げたいけれど」[カニカマ](2012/01/31 15:52)
[45] *「簡単なキャラクター紹介」*キャラ追加&文追加[カニカマ](2011/11/24 02:37)
[46] 番外1「とある首輪と風紀委員」[カニカマ](2011/04/28 15:18)
[47] 番外2「転属願い届け出中」[カニカマ](2011/04/28 15:19)
[48] 番外3「二人のお馬鹿さんと一人の才女」[カニカマ](2011/04/28 15:19)
[49] 番外4「とある部隊の不幸体験」[カニカマ](2011/04/28 15:19)
[50] 番外5「宝物」[カニカマ](2011/04/28 15:20)
[51] 番外6「寝顔シリーズ」<『妹達』、佐天さん追加>[カニカマ](2011/06/25 16:11)
[52] 番外シリーズ1「『学園都市』の平和な一日・朝」[カニカマ](2011/04/28 15:21)
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[24886] 幕間7「それぞれの戦い・後篇」
Name: カニカマ◆b465aa7c ID:500ae757 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/28 15:25
「それぞれの戦い・後篇」



「フ……フレンダぁぁぁぁぁ!!!」

 倒れ伏すフレンダと声を上げる上条。爆発を終えた操車場でその音だけが耳に響く音となった。当然、声に気付いた『一方通行』はのんびりとした動作で振り向き、その視界に上条を捉える。

「何だァ、オマエ?」

 そのどこまでも平坦な口調と表情に対し、上条は怒りに燃えた視線を向ける。そして同時に気付く……目の前の人間が『学園都市』が誇る第一位、『一方通行』なのだということを。
 ミサカ妹を殺害した挙句、今上条の目の前で広がる惨状を作り上げた男だ。
 そこで上条は一方通行をフレンダと挟む形で反対側にいる存在に気付く。いつも上条にとっては最近知り合い、しかし記憶にない昔に付き合いがあったと思われる中学生、そして今回の実験に深く関わりを持つ少女、ミサカ妹だ。
 フレンダの怪我の具合も気になるしすぐに駆け付けたい衝動に駆られるが、ミサカ妹はフレンダよりも上条に近い位置にいる上に近くに『一方通行』はいない。それに怪我の具合が重いのはミサカ妹も同じだ。上条は全力でミサカ妹へと駆け寄り、倒れているその姿を抱き上げる様にして軽く持ち上げる。

(ひでぇ……)

 体中擦り傷と切り傷に塗れ、右足は完全に折れてしまっていた。うっすらと開いて上条を見つめる無感情な瞳は左目が痛々しく充血していた。一瞬痛みに息を呑んだように体を固くするミサカ妹だったが、すぐに上条へ真っすぐ視線を戻す。

「何故……何故ここに来たのか、とミサカは貴方に問いかけます。ミサカは施設と必要な機材さえあれは、いくらでも替えの利く乱造品。貴方は替えの利かないたった一人の人間です、とミサカは困惑しながら口にします」
「……」
「私の事は放っておいて逃げる事をオススメします、とミサカは貴方に対して必死に口にします。そしてフレンダさんもここから連れだして上げて下さい……今すぐここから離れれば、実験は正常に終了し貴方達は助かる事が出来ます、とミサカは……」
「うるせぇよ……」
「えっ……」

 自分の事を抱き上げたまま俯いて震える上条に対し、ミサカ妹は疑問の声を投げかける。上条はそのまま少し俯いたままだったが、怒りを抑える様にゆっくりとミサカ妹と視線を合わせた。

「そんなもん関係ねぇんだ! 乱造品だとか、すぐに替えの利く体だとか、そういう事なんて俺には関係ないんだ!」
『関係ねぇよ! カァンケイねぇんだよォ! 何が寝てろだ、何が命だけは助けてやるだ……!』

 上条の怒りは『一方通行』だけではなく、ミサカ妹にも向けられていた。それを感じたミサカ妹は少し驚いて目を見開くと同時に、心の中に今まで感じた事のない熱さを感じる。そして、それは先程一人の少女が叫んだ言葉と良く似ていた。

「俺はお前を助けるためにここに立ってんだよ! 他の誰でもない、お前を助けるために戦うって言ってんだ! クローンだとか、作り物の体だとか、そんな小せぇ事情なんかどうでもいい!」
『俺の手足が折れようが、鼓膜が破れようが、そんなのは関係ねぇんだ! ミサカは俺の友達だ、絶対に助けるんだ!』
「だから、俺は絶対にお前を見捨てない……! お前が死ななきゃいけないなんていう決まりがあるなら……まずはその幻想をぶち殺す……!」
『つけ上がるなよ、『超能力者』! ミサカを殺したきゃ俺を殺してからにしろよ!』

 先程フレンダが叫んだ言葉と上条が口にした言葉、それを聞いたミサカの体温が上昇し、何故か目頭が熱くなる。ついで心臓の鼓動が速くなっていき、体が震える。ミサカ妹はこんな感情を知らない。研究所で行った『学習装置』ではこんな感情を知る事はなかったし、誰一人としてこんな感情を教えてくれる人はいなかったから。
 とうしてこうなったのだろう? とミサカ妹は心の中で考えた。今現在近くにいる『妹達』と連携されたネットワークを介し、一瞬でこの感情の波を調べ上げる。が、全く見つからない。

(知らない……とミサカは動揺を隠せずに心の中で呟きます)

 自分は実験動物の筈で、最初から決められた運命だった筈だ。いつから歯車が狂ったのだろう……とミサカは考える。そして、唯一思い当たる事があった。

『御坂さんに良く似てるなー、って思って。殆ど瓜二つだよー』
『今度、一緒に遊ぼうよ。御坂さん達も一緒に……きっと楽しいよ』
『うん、また今度ね』
(あ……)

 あの時、研修で自分があそこに行かなければ、もし彼女に出会わなければ、自分はこんな事になっていない筈だ。『一方通行』に容易く殺され、目の前にいる上条が間に合う事なく……無論、上条が来てくれた事もミサカ妹にとってはとてつもない驚きだ。そして、たった二度……セブンスミストと公園で出会っただけの少女がこの結果をもたらしてくれたのだ。
 どうして彼女がこの実験を知っていて、どうやってこんな所まで来たのかはミサカ妹には分からない。だが結果はこうなっている。
 自分の為だけに『一方通行』という怪物の前に、この二人を引き出してしまった。その事実にミサカ妹は顔にこそ出していないが激しく動揺する。

「尚更です……とミサカは貴方に忠告します。『一方通行』には勝てません……それは何度も戦っているミサカ達が一番良く知っています。だから、すぐに逃げて下さい……!」

 だからこそ、この二人をここで死なせる訳にはいかないとミサカ妹は考える。自らこんな感情を教えてくれた二人を、こんな場所で犬死させる訳にはいかない……と。
 だが、上条はミサカ妹を優しく地面に横にして立ち上がる。ミサカ妹は追いすがる様に手を伸ばそうとするが、上手く力が入らずにそれは叶わない。

「お前には文句が山ほど残ってるんだ。だから、勝手に死ぬんじゃねぇぞ……だから、泣くなよ」
「……えっ?」

 ミサカ妹は不思議そうに顔へ手を伸ばす。それと同時に感じる湿り気。無感情な瞳から次々に溢れる涙はとどまる事を知らず、ミサカ妹の顔を濡らした。

(涙……涙腺が刺激されて流れる眼球の防御反応、とミサカは簡単な知識を頭の中でぼんやりと考えます)

 ミサカ妹にはその感情が分からない。ただ茫然と涙を拭いながら、『一方通行』へ歩んでいく上条を見送る。

(クローンであるミサカが……一度も信じた事のない存在に『祈る』という行為は初めてですが……)

 一定の距離まで近づき、立ち止まる二人。一人は怒りを込めた表情で、一人は馬鹿にしたように嗤いながら対峙する。

(どうか、あの二人を助けて下さい、とミサカは必死で祈ります。ミサカはどうなっても良い……だから……)

 瞬間、二つの存在が激突する。それを見たミサカはギュッと瞳を閉じて祈り続けた。

「うおおおおぉぉぉ!」
「ハッ」

 右手を振りかぶって突撃してくる上条に対し、『一方通行』は右足で軽く地面を踏むだけの動きで終わった、瞬間、地面に敷きつめてある砂利が散弾銃の如く上条に襲い掛かり、その衝撃で上条は後方へ吹き飛ばされた。

「ぐっ……!」
「あァ? 何ですか何なンですかァ!? そンなンじゃ全然つまンねェぞォ!」

 『一方通行』が隣にあったコンテナを殴りつけると、一瞬にしてそのコンテナと隣接していたコンテナ数個が空中へ飛び上がり上条に襲い掛かった。上条はそんな光景を見て目を見開き、慌ててその場から退避した。遅れて轟音と共にコンテナが地面に叩きつけられて砂煙が辺りに満ちる。

「おいおい……雑魚すぎンぞオマエ。もしかしてそンなので俺に挑もうとしてたってワケかァ? 全っ然笑えねェぞォ!」
「ち、くしょう……っ!」

 息つく間もなく、今度は近くに置いてあった鉄骨が飛び交う。それらは次々と上条に襲い掛かるが、上条はスレスレの所で直撃を避ける。無論、それだけの質量を持つ物体が猛スピードで迫ってきている為か、直撃しなくとも衝撃と風圧は上条の体を傷つけていった。
 そもそも上条は先程布束に対して切り札があると言ったものの、その切り札というのは右腕にある『幻想殺し(イマジンブレイカー)』で殴りつけるというだけだ。当然のことであるが上条の腕は人間と同じ長さであるし、ロボットの様に腕が飛んで殴れるわけではない。上条にある手段は最初からたった一つ……この攻撃をポンポン繰り出してくる『一方通行』に接近して、全力で殴りつけるだけなのだ。

(とりあえず近付かねぇと……けど、どうやって!?)
「おいおい、何てザマだよ? シラけちまうぞォ」

 退屈そうに言う『一方通行』に対し、上条は歯を食いしばって無言を貫く事しか出来ない。全く策が思いつかず、それでいて状況を打開出来る手段も思いつかない。
 どうすれば……と上条が考えている最中に、『一方通行』は何か思い出したかのように一人頷いた。そして邪悪な笑みを浮かべて口を開く。

「そういえばよォ、オマエ……この女の名前言ってたよなァ?」
「っ……! それがどうしたってんだ!?」

 倒れ伏したまま動かないフレンダは、当然先程と同じ場所から動いていない。体は傷だらけだし、何よりも『一方通行』が暴れているこの場所に気絶している人間を放置するなど本来なら危険極まりない事だ。すぐにでもどこかへ移動させたい上条だったのだが、そんな余裕がある筈もない。
 が、『一方通行』が突如として気絶しているフレンダの方向へ歩き始めた事に、上条は驚愕の眼差しを向ける。当然それを防ごうと走り出すが、一定の距離まで近づいた所で飛来した鉄骨に道を阻まれた。その間に『一方通行』は倒れたまま動かないフレンダまで後一歩という所まで移動を終えた。

「二人して仲良しこよしでこの『一方通行』に喧嘩売ったんだァ。ぶっ殺されても文句は言えないよなァ!」
「なっ……! やめろ、フレンダは関係ねぇ!」
「ギャハ! 関係ねェ訳ァねェよなァ!? とりあえず逃げ回ってるテメェは無視だァ……その前にこのガキを仕留めとかねェとなァ!」

 『一方通行』が右足を振り上げる光景を見て、上条は最早なりふり構わず走り出した。軽く触れるだけでコンテナを軽々と吹き飛ばし、鉄骨を捻じ曲げるあの能力……フレンダの体など一瞬で粉々にされても何ら不思議ではない。あの路地裏で見た光景……『妹達』の一人が物言わぬ肉塊と成り果てたあの現場を上条は忘れることなど出来ない。
 あと少しでも……ほんの少しでも良いから自分が気付くのが早ければ助けられたかもしれない命。自分が知ったからといっても何も出来なかったかも知れない……今もそうなのかもしれない。だけれど……

「死なせるか……もう誰一人死なせてたまるか!」

 記憶が無く、上辺だけの挨拶だったけれど……そんな自分にも優しく接してくれたフレンダ。何故知っているのか分からないが、それでもミサカ妹を友達と呼んで助けに来たフレンダ。そんなフレンダをこんな所で死なせる訳にはいかない。

「うおぉぉぉおおおおぉ!!」
「ハッ……!」

 フレンダを踏もうとしていた足を下げ、『一方通行』が上条へと向き直る。最初からフレンダを囮にして自分をおびき寄せたのか、それとも大声を上げて走ってくる自分を鬱陶しいと思ったのか? 上条には相手の心理を知る術はない。だが止まることなど最早不可能。自らの『幻想殺し』を信じて拳を振り抜くだけだ。

「ああああぁぁあ!!」

 瞬間、操車場に鈍い音が響き渡った。





 気付いた時には、一人ぼっちだった。
 最初からこうではなかったと思う。能力開発を受けるまで何をしていたのか明確に覚えていないが、それでも人並の生活は送っていた筈だ。そして能力開発が己の運命を大きく変えた事となった。
 第一位……
 多くの人が自分の事を恐れ、憎み、「勝手」に傷ついていった。少年が何もしなくとも、自分に向けて悪意を向けた者達は全員が同じ末路を辿る事になったのだ。それが自分が望んだ事ではないとしても、自らの能力の一つである反射は全ての者に対して全て同一の反応を返すから。
 いつしか少年に攻撃してくる者が誰一人としていなくなり、周囲は唐突に静けさを強めていく。憎むという事は少なくなっていったが恐れだけは日増しに強くなっていき、当然のことであるが少年は一人になった。
 だが、一人ならばマシだった。少年は全てを反射してしまうものの、攻撃してくる対象がいなければ当然反射の意味はない。少なくとも手に届く範囲にさえいなければ、少年から攻撃する事はないだろう。だが、それでも決して「一人」になる事は叶わなかったのだ。
 第一位の自分を倒せばという理解出来ない思考で戦いを挑む人間。ちょっと腕試しに、と軽い気持ちで来る人間。『学園都市』の科学者達の思惑……少年はそれら全てに対し平等に、圧倒的な暴力と残忍さで迎え入れた。そうすれば二度と自分には近づかなくなるだろうという考えで、事実一度少年に叩きのめされた人間は二度と少年に近付いてくる事はなくなった。
 しかし襲撃してくる人間の数はちっとも減らない。少年が倒せば倒す程興味本位や利益目的の為に少年を襲撃する人間は増えていく。いつしか少年は全てを受け入れ、近づいてくる人間を全て拒絶していくだけになった。自分に手を出せはこうなるのだとひたすら教え込む為に。
 そして、いつもの様に襲撃を受けた後に現れた科学者はこう言った。

『最強止まりでは君を取り巻く環境はずっとそのままなのだろうね』

 最強止まり……その科学者が提示した『絶対能力進化計画』。少年はその時何を感じ、どう思ったのかは明確に思い出す事は出来ない。だが、この環境が少しでも変わるのならば、自分に近づいてくる人間がいなくなるのであれば良いと思ったのか、とにかく少年はその科学者が受け持つ『絶対能力進化計画』に参加する事となった。
 そして、始まる実験。『妹達』と呼ばれる『超電磁砲』のクローンと二万回戦闘し、それらを処分することで『絶対能力』へ至るというもの。最初、少年は一番目に戦った『妹達』を見逃そうとしていた筈だ。だが自分が望んだ結果じゃなかったとしてもその『妹達』は死んだ。そして、少年は実験を止める事が出来なくなっていったのだ……何故なら、途中で自分が諦めてしまっては今まで死んでいったクローン達は何のために死んでいったのか分からないから。だから自分はどんな事をしてでも『絶対能力』にならなければならないと感じたからだ。そうなってしまえば『学園都市』の第一位、誰にも止められる道理はない。何故なら彼は紛れもない「最強」だから……

「はぁ……はぁ……!」
「がっ……ァ……?」

 だから、そんな第一位である少年が目の前にいる存在に殴り飛ばされるなどあってはならない事なのだ。少年……『一方通行』は不思議そうに痛む顔面に手を伸ばし、ぬるっとした感触を感じて手に視線を向ける。そこには赤黒い液体が付着しており、『一方通行』は目を見開いて驚愕の雄たけびを上げる。

(な、何だァ……何でこの俺がブッ飛ばされた!? どうなってやがる!!?)

 『学園都市』最高の演算能力、頭脳を持ってしても今何が起こったのかさっぱり分からない。混乱している暇もなく、いつの間にか近くまで近づいてきた相手にギョッ、とした視線を向けるがすぐに平静を取り戻してニヤリと嗤う。

(攻撃に集中しすぎて演算ミスッちまっただけだァ……ケッ、間抜け過ぎンぞクソが!)

 そう決めつけると、今度こそこの部外者を地に這いつくばらせるべく右腕を振り上げる。その時視界に入った相手の顔が、今まで見た事のない表情だった事に『一方通行』はいらだちと何かを含んだ顔になった。

「いいねェ……愉快に素敵にキマッちまったぞ! オマエはァ!」
「……」

 ばしん、と。
 自らの演算能力を駆使し、破壊の力を携えた右腕が相手の右手に弾かれる。そのまま大きく振りかぶって向かってくる拳に対して、『一方通行』は驚愕の視線を向けながらも反射を展開する。が、それらは何の役にも立たずに拳は『一方通行』の顔面を正確に捉えた。骨が軋む音と、鼻が折れる音が周囲に響き渡るのと同時に『一方通行』の体はそのまま後方へと投げ出された。久しぶり……というか記憶にある限りでは初めての痛み、それも相当の激痛に混乱する『一方通行』だったが
、相手はそれを許す程お人よしではない。一気に走って接近すると、また右腕を大きく振りかぶる。当然『一方通行』は反射的に能力を行使して防御しようとするが、その防御には何の意味も持たない。もう一撃顔面を殴りつけられ、『一方通行』の体が大きく傾いた。

(何だ!? 何が起こってやがンだ!?)

 やっと能力による防御では意味がないと気付いて腕を上げて防御するが、今まで戦ってきた癖は中々消えない上に能力行使しかしたことのない『一方通行』では大した打撃でなくとも大きなダメージを受けている。

「ごぶァ!」

 腕の間をすり抜けた拳が再び顔面に突き刺さる。痛みは既に臨界を突破し、『一方通行』には何が何だか分からない。

「がァァ! 何なンだその右手はァァ!?」
「そんなもんかよ「最強」……案外大した事ねぇな!」
「ッ……! 吠えてンじゃねェぞ! 三下がァァァ!!」

 一方通行の右足が地面を叩く。瞬間、先程上条を攻撃した時と同じように石礫が散弾の様に跳ねあがった。それを見た『一方通行』は相手の状況を想像してニヤリと笑みを浮かべるが、次の瞬間目の前で屈みこんで石礫を回避した上条の姿に目を見開く。そして、衝撃。
 そのまま全力で跳ねあがる位の勢いで、上条は『一方通行』の顎に強烈なアッパーを繰り出した。その一撃は大きく脳が揺さぶり、視界がチカチカと明暗する。断続的な意識障害を起こしながら吹き飛んで地面に背中を打ちつけた。それを見た上条は右手を握りしめながら怒りとも悲しみともとれない声で呟くように口を開いた。

「『妹達』だって、生きてんだぞ」
「が、ふっ……!」
「全力で精一杯生きて、こんな時に助けに来てくれる「友達」まで作って、今を必死に走ってる人間が……何でお前みたいな奴に食い物にされなきゃいけねぇんだ! 何でこんな下らない実験で死ななきゃいけねぇんだ! 俺はそんなの認めねぇ……そんな「幻想」は絶対に認めない!」

 下らない……その一言を聞いた『一方通行』は歯を食い縛り、一度地面を叩いて立ち上がった。そして目の前で自分に怒りの視線を向ける上条に対し、こちらも人間とは思えない程の形相で睨みつけながらも、今まで考えていた想いを心の中で叫ぶ。

 下らない実験だと言うのなら、何故『妹達』は死んだ? 何故誰も止めようとしなかった?

 周囲の風を計算し、その流れを掴み上げる。
 そんなに怒りを込められるのならば、どうしてもっと早く自分を止めに来てくれなかったのか? もしかしたらの話を『一方通行』は想像する。先程の少女も、目の前の男も、もっと早く来てくれれば何かが違っていたかもしれないのに。
 だが、もう既に遅い。『一方通行』にはこの実験を下らない物として終わらせる訳にはいかない。今まで死んでいったクローン達の為にも、目の前の障害を排除し、全てを終えるまで自分は止められない……止まらないと決めたのだから!
 両手を広げ、風を掴む。膨大な風の流れが周囲を取り巻き、何かが不味いと勘づいたと見える上条が『一方通行』に向けて走る。だが、そんなものは遅すぎる。

「くかきけこかかきくけききこかかきくここくけけけ――!!」

 その瞬間、想像を絶する風が操車場へ襲い掛かった。





 『学園都市』の夜空に、一筋の光が走る。それはスピードを上げつつも周囲の建物を避けながら真っすぐに操車場へと突き進んでいく。

「クソが……! 実験はもう始まってるってぇのに!」

 その光を撒き散らしながら空を飛ぶ人物……第四位「麦野 沈利」は焦った様子で呟く様に口を開いた。『猟犬部隊』の妨害を受け、本来の予定から大幅に遅れて動いている状態なのだ。更にジャミングを受けて通信機が故障し、滝壺や絹旗達とは全く連絡が取れない。それに一人で行動させておいた布束に関してはどうなっているかも予想すら出来ない状態だ。だが今の麦野はそちらを気にしている余裕など全くない。

(あいつ等はまだ良い……大丈夫だって信じるしかないが、滝壺と絹旗達は大丈夫の筈だ……だけど、御坂のクローンは……!)

 第一位と戦う予定になっている『異能力者』から『強能力者』程度の『電撃使い』。そんなもの第一位が本気になってしまえば一瞬すらかからない。そして第一位の強さが調べた通りのものだとしたら……それは『原子崩し』の自分でさえも……

(だからどうしたよ!? 私は誰だ……? 第四位の『原子崩し』、「麦野 沈利」だろうが!)

 頭に浮かんだ弱気な考えを振り払うようにスピードを上げる。作戦通り行かなかったからといって、ここで作戦を止めてしまえば実験はそのまま続いてしまう。それでは何の意味もないし、今以上に苦しんだ御坂が何を仕出かしてもおかしくはないと麦野自身思っていた。御坂が何らかの間違いをおかす前に、何としてでもこの実験を止める……それしか今の麦野に出来る事は無いのだ。

「滝壺が間に合ってれば良いんだけどね……」

 見えてきた操車場を見ながら麦野は呟くように口を開く。滝壺の能力ならば一瞬だけでも第一位の能力を阻害する事が出来るかもしれない。一瞬でも阻害出来れば、自分の『原子崩し』が第一位を粉砕する自信がある。上手くいかずとも今回の実験はイレギュラーが入り過ぎて中止にはなる筈だ。その後撤退するのは容易ではなかろうが、それも何とかするしかない。
  操車場の上空で減速し、そのまま落下して着地の瞬間も『原子崩し』でスピードを調節して着陸する。完全にスマートな着陸とは言えないものの、とりあえず体のどこにも不調はない。強いて言えば『猟犬部隊』の最後の一人が手榴弾で自爆を図った際、右腕に軽い裂傷を負った位だろうか?

「とりあえずどこに……ッ!」

 少し離れた位置でコンテナが上空に跳ね上がるのを見て、麦野はそこが実験場だという事を確信する。戦闘が続いているという事は少なくともまだクローンは無事なのだろう。それでも戦闘が始まっている事は変わりないので、麦野は急いでその場に向かって走る。コンテナを『原子崩し』でぶち抜いて進んだ方が早いのだが、確実にこちらの位置と存在を知られるのは痛すぎる。戦うのには奇襲が絶対条件であり、正面からぶつかる訳にはいかないのだ。
 進むにつれて何者かの怒声や何かを叩きつける音が聞こえてくる。第一位も興奮するとこうなるのか? と麦野は心の中で首を傾げたものの、それを気にしていてもどうしようも無い事だと決めて走る。そしてコンテナ一つ超えれば実験場に出られる。周囲に滝壺や絹旗達の姿がない所を見ると、どうやら到着していないようだ。もしかしたら間に合う間に合わないを抜きにして来れない状況なのかもしれないが、だからといってもう待っている余裕はない。

(仕方ねぇか……!)

 一度大きく深呼吸をし、両頬を叩いて気合い入れ直す。何とかしてこの実験を止め、御坂を光の下へ連れ戻す。そう考えれば第一位など怖くはない。そう考え、麦野は表情を引き締めるとコンテナを超えて実験場へ躍り出る。が、その瞬間自らを突風が襲った。

「ん、なぁ……!?」

 大きく体勢を崩し、背中からコンテナに叩きつけられる。激痛が麦野を襲ったものの、これがもし麦野に対する攻撃だとしたらこんなものでは済まないだろう。そう考えて麦野は慌てて『原子崩し』を放射してその場から離脱する。だが続けて攻撃される様子はなく、今の一撃が攻撃の余波であった事をようやく自覚して舌を打った。

「第一位とクローンは……!?」

 尚吹き荒れる風の中心部へ麦野が視線を向けると、そこには一人の人間がいた。両手を大きく広げて天を仰ぎ見る白い髪の少年……資料通りの見た目。間違いなく第一位だろう。そしてその第一位から少し離れているが、そこに倒れ伏す一人の少年。その姿を見て麦野は一般人が紛れ込んだのかと思いギョッ、とした視線を向ける。しかも第一位が攻撃しようとしているのはあの人物ではないのか? そして天空に集まりつつある光に麦野はギョッ、とした視線を向けるが、元々何を仕出かしてもおかしくないのが第一位の能力だろう。この程度で怖気づいていてどうする。と自らを叱咤する。
 幸いにも今自分がここにいる事に気付いている様子は見受けられない。通用するかどうか分からないが、とりあえず牽制として『原子崩し』を撃ちこむ事を決意する。演算を開始し、照準を合わせる。臨界まで高められた『原子崩し』を照射しようとした瞬間、『一方通行』の後方から一つの影が飛び出した。

「止まりなさい、『一方通行』!」

 その声が聞こえた方向へ麦野が視線を向けると、そこにいたのは自分が何としても助けようとした友人……『超電磁砲』、「御坂 美琴」の姿があった。御坂はコインを乗せた右手を真っすぐ『一方通行』に向けているが、生憎第一位はそんな事に構っている暇はないようで完全にスルーしている。歯噛みする御坂だったが、そこでようやくこの実験場にいるもう一人のイレギュラーに気付いた様で、驚きの眼差しを麦野へと向けた。

「む、ぎのさん……!? どうしてここに……」
「御坂……! お前こそ……」

 最悪の展開を予想した麦野だったが、よくよく考えるとまだ御坂には傷の一つもない。『一方通行』が完全にスルーしている所見ると、やはり『一方通行』が狙っているのはあちらに倒れている少年なのは間違いないだろう。
 と、そこで麦野の視界の端に何かが映る。向こうに居る少年から少し離れた場所に倒れている人物。最初は御坂のクローンかと思ったのだが、御坂のクローンは完全に違う場所で倒れている姿が麦野の視界に映った。そして、その倒れている人物の特徴として良く見えているのが、泥で汚れていても輝くように美しい金髪だ。

「……え?」

 素っ頓狂な声を上げ、麦野は『原子崩し』を放射して跳んだ。後方で御坂が何か声をかけてきた気もするが、今の麦野には何も聞こえない。先程まで轟々と唸っていた風の音も今の麦野の耳には入らない。

(そ、そんな筈ない……)

 そう、自分達は少女に作戦内容を報せてはいない。知ったらどんな事をするか分からなかったし、こんな危険な仕事に少女を巻き込む気などさらさら無かったからだ。だから今日は動向もチェックしていなかったし、特に気にする事もなかったのに……
 倒れている金髪の少女の隣に座り、抱き上げる様にして持ち上げる。傷ついた帽子がポロリと落ち、元々溢れていた金髪が更に周囲に広がった。自分と手を繋ぐ事も多い右腕は血塗れで妙な方向に折れており、白磁の様な肌は所々傷だらけで痛々しさしか感じられない程だ。いつも楽しそうに輝いている青い瞳は閉じられており、軽く上下している胸を見なければ死体と間違えても仕方がないだろう。

「な、んで……」

 息が苦しく、周囲に吹き荒れる突風なぞ今の麦野には感じられない。先程自分を驚愕の眼差しで見ていた御坂も今は何をしているのか全く分からなかった。それほどまでに「麦野 沈利」……『学園都市』が誇る『超能力者』である一人の少女は混乱の極みにあったのだ。

「どうして……アンタがここにいるのよ!? フレンダぁぁ!」

 覗き込んでいるフレンダの顔にポツリポツリと滴が落ちた。それが何なのか麦野にはしばらく分からなかったが、やがて自分の涙だという事に気付く。こんな事で泣くなんて『超能力者』として恥ずべきことだと思ってはいるが、どうしても涙は止まらない。
 何故だ? と麦野は必死で考えた。どうしてフレンダがこの実験の事を知っていて、そしてこんな所にいるのかが全く分からない。確かにフレンダがこの事をしれば底無しのお人よしの事だから助けに来てもおかしくはないだろう。だが、どうやってこの情報を知ったというのだろうか。
 フレンダ自身は情報を集めたり、そういった事は全く出来ない。それに腕っ節を強くないから暴力や脅迫で情報を手に入れたという事もないだろう。精々出来るのは家事や雑用程度の事なのだから。

「ん、ぅ……?」
「!? フレンダ、フレンダ!!」

 フレンダが軽く呻きながらゆっくりと瞳を開くのと同時に、麦野はいつもの冷静さも見られない程の声色で口を開く。フレンダは瞳を開いてから麦野の方に視線を向けたが、そのまま何の変化も見せずに動かない。まさか頭でも打って……と、麦野は青ざめる。

「フレンダ! アンタ……どうしてこんな所に……!」

 そう言いながら、麦野の瞳から涙がこぼれおちる。いつも奴隷の前で見せている女王様気質な麦野は姿を潜め、今いるのは麦野の本心から出てきた唯の少女だ。奴隷ではなく、親友としてフレンダの隣に立ちたいと願う本心しかない。

「どうして、こんな所にいるのよ……!? 私は、私達はアンタが心配だから……何かあったら耐えられないから、アンタには知られたくなかったのに! どうして……」

 いつも親友に接している高圧的な態度ではなく、普段の麦野からは考えられない程の叫びだった。まるで捨てられた子供の様に嗚咽混じりの声を上げる麦野に対し、フレンダはぼんやりとしながらも不思議そうな表情で首を傾げる。その動作は周囲で起きている血生臭い光景も相まって、麦野に夢を見ているのではないかという錯覚さえ生みだすものだった。

「だって……」
「だって?」
「ミサカを助けたかった……」

 その言葉に麦野は声を発する事が出来ない。そのままフレンダは軽く笑みを浮かべて言葉を続ける。

「それに、皆が心配だったんだ……」
「フレ……ンダ……」

 フレンダがどうしてこの実験の事を知ったのか、どうして自分達がそれに介入するという事を知ったのか麦野にはさっぱり分からない。一つだけ言える事は、フレンダは何らかの事情でこの事を知り、かつそれを何とか止めようとして行動したのだろう。結果としては麦野達がフレンダに秘密にしていたという事が仇となって今の状況を引き起こしたのは間違いない。
 その事を自覚した麦野はフレンダの目を上手く見る事が出来ない。フレンダを守ろうとした自分達が、結果としてフレンダを殺しかけたという事実……それが麦野の心を締め付ける。

(これじゃ……あの時と同じじゃない!)

 何が『超能力者』だ、と麦野は自分を激しく責める。親友一人守る事が出来ず、また危険な目に合わせてしまった。しかも両方共命に関わる出来事なのだ。強く歯を食いしばって麦野は後悔に打ちひしがれるが、ふと自分の服を掴まれている感覚にハッ、とフレンダを見る。そこには折れていない左手で服を握りしめ、笑顔を浮かべたフレンダの姿があった。フレンダは痛みで少し歪んでいるものの、いつも浮かべている笑顔のまま口を開く。

「信じてた」
「……」
「皆が来るって信じてたから、頑張れたんだ」

 その言葉を聞いた麦野は目を見開いて震えるのを感じる。フレンダは一度咳き込むと、とある方向に視線を向けて口を開く。

「上条君……」
「え……?」
「助けてあげて……」

 麦野がフレンダの視線と同じ方向を見やる。そこには先程まで血塗れで倒れていた少年が立ちあがり、『一方通行』を睨みつける姿が見えた。そして今まで規則的に流れていた筈の風が不規則な流れになっている事に麦野は気付く。見れば『一方通行』の表情は驚愕を浮かべ、その後方にいる御坂とクローンが起き上がっている所を見るに、何かしたのは間違いない。

「……フレンダ、それがアンタの望んでいる事なの?」

 麦野の言葉に対し、フレンダは軽く頷いて瞳を閉じた。どうやらまた意識を失ったらしいが、息をしている所を見ると命に別条はないだろう。無論、それが良い事だと麦野は決して思っていない。だからこそ、ここを一刻も早く片付けてフレンダを病院に連れていかねばなるまい。そう考えて、麦野は『原子崩し』を照射して軽く飛び上がり、上条の隣に着地する。上条は最初驚いた様子だったが、すぐに視線を『一方通行』へと戻した。

「アンタ、何でここにいるのか分からないけど下がってなさい。私がアイツをやるわ」

 この少年がどんな能力者か分からない麦野にとって、そいつを第一位に突っ込ませるほど麦野は鬼ではない。だから自分が何としてでも奴を倒さなければならないと必死なのだ。そしてそこで気付く。隣にいる少年が以前出会ったことのある少年なのだという事を。あの時、滝壺はこの少年を『無能力者』だと言ってはいなかっただろうか?

「この前会った事あるわね。『無能力者』なら邪魔よ。怪我もしているし下がってると良いわ」
「……必要ねぇよ」
「あぁ?」

 上条の返事に麦野はドスが効いた言葉でそう返す。だが、上条はその視線を第一位に向けたまま言葉を続けた。

「俺の右手ならアイツをブッ飛ばせる。だから、アンタが援護してくれ」
「はぁ、そんなの……」
「本当だ。俺の右手にはそういう能力があるんだ。今は信じてくれ」

 それを聞いた麦野が『一方通行』へ視線を戻す。確かに、『一方通行』は傷だらけというか、鼻は折れている様に見えるし、服に隠れて見えずらいが殴打された様な跡も見受けられた。もしもこの少年がやったとするならば相当の能力者だと思うのだが、それは今考える事ではないと麦野は頭の中からそれを追い出す。

(右手で触れたものの『拡散力場』を乱すとかそんな能力か……? 珍しい能力だけど、それなら反射を抜けられるのも理解できる。だだ……)

 麦野は目を細めるとゆっくり口を開いた。

「気に入らないわ。アンタ如きが私に指図するつもり?」
「んなっ……そんな事言ってる場合かよ! 今はフレンダを……」
「調子に乗んな。誰がアンタに頼まれて援護するのよ」

 そこで麦野は言葉を切り、その顔に獰猛な笑みを浮かべる。それを見た上条の顔が少し引き攣るが、それすら無視して麦野は肉食獣の様に引き裂かれた口を開いた。

「アンタを援護「してやる」って言ってんのよ!」
「ッ!? 頼む!」

 意図を理解したのか、上条が全力で走りだす。

(へぇ……理解力のある奴は好きよ。全力で援護「してあげる」!)

 そう心の中で呟いて麦野は『原子崩し』を発射する。無論、それを直接『一方通行』に命中させたとしても反射されるのは間違いない。だが、麦野が狙ったのは本人ではない。発射された『原子崩し』は地面を抉り取り、その余波として巻き起こった爆発が周囲を砂煙で包んだ。

「くっ、舐めンじゃねェェ!」

 『一方通行』が腕を振り上げると、砂煙が意思を持ったかのように周囲へ散っていく。が、それが晴れた瞬間目の前まで接近していた上条に、『一方通行』は目を見開き慌てて右手を振り上げた
が、それすらも遅い。

「歯を食いしばれよ、最強――」

 上条が右腕を振り上げる。『一方通行』の表情が凍りつく。麦野が獰猛な笑みを浮かべる。

「――俺の最弱は、ちっとばっか響くぞ……!」

 瞬間、固い物を殴りつける様な鈍い音と共に白い体が吹き飛ばされる。それと同時に上条の意識も途切れ、場には御坂と麦野が叫ぶ声だけが響き渡った。





 上条の意識が途切れ、戦いが終わってもそこから人はいなくならなかった。周囲に敵がいないか警戒しているのは田中と亭塔、そして怪我をしているものの滝壺と亭塔にここまで背負われてきた布束。そして倒れているフレンダを応急処置しているのは滝壺だ。麦野と絹旗はその光景を見たまま苦虫を噛み潰したような顔で耐える様に黙っている。
 そして御坂とクローン、次いで上条だったが現在ここにはいない。無論御坂が説明してほしいと言いたげな表情を向けてきたのは確かだが、一先ずクローンと上条を病院に連れて行けと麦野が言ったのだ。尚渋る御坂だったが、麦野が後日説明してやると言うと渋々二人を連れて去って行った。が、麦野としては御坂に説明するつもりは毛頭ない。最初から御坂をここから去らせたのは別の目的があるからだ。
 麦野はフレンダの治療を滝壺に任せると、倒れている『一方通行』へと歩を進める。絹旗も憎しみの視線を『一方通行』へと向けていた。当然、他のメンバーも大体はそんな感じだ。
 そう、麦野が今やろうとしている事……この作戦の本来の目的である『一方通行』の殺害だ。
 確かに実験は『無能力者』と変わりない上条、御坂よりも格下の麦野が若干協力して阻止した事により頓挫する可能性は高い。『樹形図の設計者』が無いので再計算される可能性もほぼゼロと言えるだろう。だが、それはゼロに近いだけで決してゼロではない。いつ実験が再開されてもおかしくはないのだ。
 だからこそ元凶である第一位を殺害する。それによって何かしら暗部でも動きがあるかもしれないが、それを考えている余裕などないのだ。

「はっ、第四位である私が第一位を殺す、ねぇ……ある意味下剋上みたいなもんなのかしらね」

 別に序列には興味無いけどね、と麦野は心の中で呟きながら『一方通行』から少し離れた位置で止まる。そして演算を始め、その右手に輝く『原子崩し』が顕現した。

「んじゃあ……悪く思うなよ第一位!」

 極限まで高められた『原子崩し』が輝き、そして……発射しようとした瞬間だった。

『そこまで』

 突如操車場に響き渡った声に、麦野はおろか全員が周囲を見回して警戒態勢に移る。だが姿は見えず、ただ周囲に声だけが響き渡っているだけだ。

『それ以上やると後悔する事になる。とりあえず止めておけ』
「誰だコラァ! 隠れてないで姿を見せやがれ臆病者!!」

 麦野が手当たり次第に『原子崩し』を撃ち込むが、声の主は動揺する様子を見せない。それにどこから声が聞こえているのか分からない。少なくとも一方向だけではなく、全方向から発せられている様に聞こえた。麦野は滝壺に視線を向けるが、滝壺は首を振り返す。近くに不審人物はいないらしい。

『俺から警告する事は止めておけという事だけだ。それにどう反応するかはお前達の自由だけどな』
「はっ……なら第一位はぶっ殺す。それが私達の目的だからね」
『ふぅ……噂通りの狂犬ぶりだな。仕方ない』

 そこで男は言葉を区切り、軽く咳をした。

『ならこちらもやる事をやるだけだ。フレンダとかいう人員を消す……というな』
「なっ……!?」

 予想外の言葉に麦野……いや、『アイテム』の全員が驚愕を露わにする。

「フレンダは関係ねぇだろ! やるなら私達じゃねぇのか!?」
『今回実験が失敗したのは、間違いなくそこで寝てるフレンダという奴のせいだろ? そいつがいなければお前も『超電磁砲』の奴らも間に合わなかったしな』
「ッ……! だけど……」
『何か勘違いしてないか? これは命令だ『原子崩し』。逆に言えばここで手を引けば今回の事を不問にしてやると言ってるんだぞ? これほどの好条件も無いと思うがな』

 その言葉に麦野は唸る。確かに今回の事を無かった事にしてくれるのは破格の条件と言える。下手をすれば『学園都市』の暗部、研究所等、相当数から狙われる事も覚悟していたのだ。それこそこの男の言っている事を断るのは愚と言えるだろう。
 だが、御坂を苦しめ……そしてフレンダを傷つけた第一位を生かしておいてもいいのかと麦野は手を握りしめながら考える。それこそ実験が続いては本末転倒……だが、ここで殺せばフレンダが危険に晒される。無論フレンダだけではなく、『アイテム』全体も危機に陥るだろう。だが……

「むぎの、ここは退こう」
「滝壺……でも……」
「滝壺さんの言う通りです。確かに第一位を生かしておくのは超危険ですが……それでも……」
「アンタ達はそれで良いの? コイツを殺しておかないと、御坂が……」

 そこで絹旗は首を振りながら口を開く。

「御坂も超大切です……しかし、私にとっては最も大切なのは『アイテム』です。それが確定で危険に晒されるのはゴメンですよ」

 その絹旗の言葉を聞いて、麦野は田中、亭塔、布束へと視線を向ける。三人ともそれに対して軽く頷くのを確認した麦野はしばらく黙っていたが、やがて顔を上げると口を開いた。

「亭塔、車を用意して。真っすぐ病院にフレンダを連れていくわ。あの医者なら事情を話せばこの時間でも受け入れてくれるでしょ。田中、布束、アンタ達はアジトに帰って待機。何かあったらすぐに連絡するわ」

 麦野がそう言うと全員が個々に動き出す。そして絹旗がフレンダを背負い、それに滝壺と麦野も続いた。麦野は最後に倒れている『一方通行』へと振り向いたが、すぐに踵を返して滝壺達に続く。こうして『学園都市』の闇の中行われていた戦いは、静かに終わりを告げた。いくつかの思惑を残して……





「っと……」

 一人の男がそう言いながら通信機のスイッチを切る。そして目の前にある物体へと視線を向けた。
 それは巨大なカプセルの様な物らしく、内部は何かの液体で満たされ、淡い光がそれを照らしていた。そして中には一人の人間が上下反対で浮かんでいるというシュールな光景が広がっている。

「これで良いんだろアレイスター。しかし良かったのか? これで実験は失敗だと思うが……」
『構わん、全く問題ない』
「……ふん」

 男、「土御門 元春」は舌打ちするようにそう呟くと背を向けて歩き出す。が、不意に立ち止まると首だけ向けて口を開いた。

「お前、本当は知ってたんじゃないのか?」

 それは様々な意味を含めた一言だった。が、アレイスターは表情すら変えず、いつも通りの無表情でしばらく黙っていたが、ゆっくりと口を開く。

『何の事か分からないな。だが、これも計画の一つだよ』
「……そうか」

 普段と何ら変わりない態度で返答してくるアレイスターに対し、土御門は憶測でしか今回の事を考えられないでいた。

(何故布束にだけ能力者を回した? 確かにカミやんは相手が『猟犬部隊』なら突破は難しいというのは分かるが……それなら最初から妨害しなければ良い。カミやんが到着する時刻を遅らせたかった……? でも何故だ?)

 結局、土御門は何を考えてもアレイスターの心の中まで読めない状態だ。とりあえず考えるのはここまでだ、と決めてそのまま土御門は壁際まで歩いていく。そこに辿り着いた途端一人の少女がどこからともなく現れ一言二言告げると同時に二人してその場から消える。そんな光景を見てもアレイスターの表情は変わらず、やがて何か一言呟いた瞬間アレイスターの周囲にいくつか画面が浮かびあがる。

『さて……』

 その画面に映っているのは『幻想殺し』、『一方通行』、『原子崩し』、『能力追跡』……そして最後の画面に、『金髪の少女』の姿……
 その画面を見て、今まで一度も表情に変化がなかったアレイスターの表情に変化が出る。それは人でいう笑顔……だが、アレイスターの笑顔に浮かぶのが何なのか、誰にも知る術はない。
 『学園都市』の闇は粛々と蝕んでいく。光の全てを……






<おまけ>

 ん……
 あ、麦のん……来てくれたの……
 遅いよ、体痛いよ……でも、来てくれたんだ……
 信じてたよ、麦のん……



<あとがき>

 とてつもない難産で遅れました! 大変申し訳ない……
 そしてとうとう姿を見せ始めた『学園都市』の闇……それらが巻き起こすのは何なのか、未だ前方は全く分かりません。今回フレンダに報せたのは誰なのか? それすらも『アレイスター』自身なのか? それか『アレイスター』の指令を受けた誰かなのか? まず間違いなく言える事は、アレイスターの掌で踊っていたとしか言えないのですね。木原くンも何があってあんな編成にしたのかは、色々と指令があったからですね。
 そして今回から視点変更の位置に*を入れてみました。他にも何か意見があったらどんどん言ってもらえると助かります。もしこれで良ければ順次直していきたいと思います。
 そしてようやく本編一つで『絶対能力進化計画』編は終了です。しばしお待ちください。



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