「お見舞い×お見舞い」
『一方通行』にやられ、腕を折ったり火傷してたりと大人しくしてなきゃ駄目なのは分かるんだけど……
「暇だなぁ……」
超暇です。いや、確かに麦のん達は頻繁にお見舞いに来てくれるし、一緒に入院してるミサカ妹も良く遊びに来てくれるから死んじゃう位暇だって事はないんだけど、普段は家事とか雑用とかで色々忙しい俺にとってはベッドで横になっているだけで気力が消耗していく気がするのですよ。普段忙しいからこんなに休めるのも良いよね! とか最初は考えてましたけど、撤回します。俺に家事をやらせてくれ……というか出かけさせてくれ……
仕方なしに絹旗が持ってきてくれた本とか見てるんだけど、右手が使えないので凄く読みづらいです。普段は俺が絹旗を抱きかかえて、絹旗がページをめくる感じで読んでるんだけどね。絹旗は本当に俺の事を考えてくれる良い子やでぇ……!
さて、何して過ごそうかなぁ? とか考えていたら突如ノックされる扉。麦のん達は仕事の整理があるとかでしばらく夜まで来ないとか言ってたし、ミサカ妹も調整だから今日は来れないとか言ってた様な気がする……看護師さんかね?
「はーい、どうぞー」
上体を起こしてそう言うと扉が開く。視線の先に居たのは快活な笑みを浮かべたジャージ姿の女性と、その後ろから笑みを浮かべて着いてくる眼鏡の女性の姿でしたそれを確認した瞬間、俺は嬉しさと驚きに笑みを浮かべて口を開いた。
「わ! 黄泉川先生と鉄装さん!」
「おーっす! フレンダ、元気か?」
「フレンダちゃん、こんにちは。はいこれ」
「おとと」
元気一杯に入ってくる黄泉川先生とは対照的に、鉄装さんはのんびりとした動作で近づいてくるとバスケットを手渡してきました。中にはメロンやらバナナやらの色とりどりのフルーツが満載……ってこれは。
「うわぁ、これ高かったんじゃないですか?」
「いつも何かしら持ってきてくれるお礼じゃんよ。それに私らだけで買ったんじゃなくて、詰め所に居る連中から少しずつ出したから大丈夫じゃん」
「皆心配してたのよ」
うーむ、これは大変申し訳ないな。退院したら何かしらのお礼をしなくてはならないねぇ。
「すっごく嬉しいです。退院したらアップルパイでも作って持っていきますね!」
「あっはは! 楽しみにしてるじゃんよ!」
そう言うと黄泉川先生は置いてあったパイプ椅子に腰かける。
「しかし本当に心配したんだぞ? フレンダが怪我して入院したって話を聞いた時は、詰め所中騒然としたくらいじゃん」
「誰かから聞いたんですか?」
「滝壺が電話してくれたじゃんよ。しっかし階段から落ちて大怪我するなんて……注意力散漫すぎるじゃん」
成程、俺が今回怪我したのはそういう理由にしたんか。本当の事話す訳にもいかないし、当然の処置ではあるか。
「うぅ……言わないで下さいよぅ。今は反省してるんですから」
「すまんすまん。ま、とりあえずしばらく養生してるといいじゃん」
「案外、神様がフレンダちゃんに休んだ方が良いよ。って言ってるのかも知れないしね」
鉄装さんが苦笑しながらそう言うと、部屋内に笑い声が溢れる。その神様っていうのが何でも反射する白い子なんですけどね! マジで怖かったのよ……
*
黄泉川先生と鉄装さんが来た翌日……あ、ちなみに昨日の夜は滝壺が部屋に泊まって行きました。何かその前に麦のんがめそめそ泣いてたんだけど何かあったのかな? ちょっとだけ心配です。
「どうもー、フレンダさん!」
「お邪魔します~」
「お邪魔しますわ」
「およ、佐天さん、初春さん、白井さん。久しぶりー」
佐天さん、初春、黒子がお見舞いに来てくれました。三人とも各々が何かしら袋を持ってますね……一体何を持って来たのでしょうか?
「フレンダさんが階段から落ちて怪我をしたって聞いて驚きましたよ。佐天さんなんか少しパニックになっちゃった位で……」
「わわっ! 初春、秘密にしてって言ったじゃん!」
「にひひ、心配かけちゃってごめんね」
真っ赤になって慌てる佐天さんマジで可愛い……そしてそんな風に秘密をばらす初春マジでドS。黒子はやれやれと言いたげに首を横に振りながら初春と佐天さんの間に割って入ると口を開く。
「病院内ではお静かに。それにフレンダさんも入院しておられるのですから、騒がしくすると傷に響くかも知れませんわよ?」
「う……す、すみませんフレンダさん」
「ごめんなさい……」
「気にしてないよー」
誰かいないと暇すぎる位なので、少しくらい騒がしくしてても問題ないんだけどな。実際麦のん達がいる時はこれ以上に騒がしい事も多いしね。
「あ、そうそう! フレンダさん、これを……」
「お、何これ?」
「前フレンダさんがアップルパイ焼いてくれたので、私はクッキー作ってみたんです。良かったら食べて下さい」
おぉ……! 佐天さんのお手製クッキーとかマジで至宝。頬染めながら渡してくれるその姿は例え同性でも襲い掛かりたくなる位可愛いです。犯罪犯しちゃいそうだぜぇ……
「あ、それと皆でお金出しあってお花買って来たんですよ」
「そんなに高い物じゃないんですけどね」
「わたくしとしてはもう少しグレードの高い物でもよろしかったんですけど……」
「白井さんがオススメするお店は凄くて私達には手が出せないんですよ……」
「お嬢様ですからねー白井さんは」
あははー、と笑いながら言う初春に対して黒子は「お黙りなさいっ」、と言いながら飛びかかる。二人が取っ組み合いをしている間に佐天さんが花瓶に花を飾ってくれました。うーむ、中々色合いも好みだけど結構いい値段しそうだなぁ。
「わざわざごめんね、お金使わせちゃって」
「いいえ! フレンダさんはそんな事気にしなくていいんですよ。私達が好きでやった事ですから」
佐天さんが笑顔でそう返してくると、俺としては何も言えないなぁ。ここは素直にお礼を言っておくとしましょうかね。
「にひひ、ありがとね。こんなに心配されるならたまに怪我する位は良いかも?」
「馬鹿言っちゃ駄目です!」
「ひぅ!?」
「本当に心配したんですから……この前の『幻想御手』の時だって、私の事助けてくれて……無茶して……」
あ、あれ? 空気が少し変わっちゃいましたよ? 何か初春と黒子も空気を読んだのか取っ組み合いを止めて俺にジト目を向けてきてるし……し、失言でしたか? 目の前にいる佐天さんは俯いて涙目になっちゃってますし、どう見ても俺の発言が原因ですよね? まさかここまで心配されているとは……これは失敗。
「ごめんね佐天さん。皆に心配かけたのに軽率だった」
「い、いえ……私こそ怪我してる人に言う事じゃなかったです……」
「にひひ、それにしても佐天さん達が来てくれて嬉しかったのは本当だから、そういう意味では特をしたのは間違いないと思ってるよ。本当にありがとう」
笑みを浮かべながらそう言うと、佐天さん達の雰囲気も戻ってきました。中身が男の俺にこんな美少女三人組がお見舞いに来てくれるってだけで、本来ならヘブン状態だから佐天さんの心遣いが嬉しすぎるわ。
それからしばらく雑談し、また来ますと告げて佐天さん達は帰宅していきました。
*
そんでまた翌日、今度もとてつもない事が起こったのでござるよ。
「おねーちゃん!」
「ねぇちゃ、ねぇちゃ!」
「ねっちゃん手ぇ痛そうやん。大丈夫、本当に大丈夫?」
「ちょ、貴方達どきなさいってワケよ! 私がおねえちゃんに近づけないってワケよ!」
「ミキ、大人げないからやめなさい。陸、能力使ったらブッ飛ばすわよ」
「あはは……」
目の前に広がる光景に俺は茫然として苦笑する事しか出来ないのです。いつもはゆとりある一人部屋の筈なんですが、今はすし詰めとは言わずともかなりのギュウギュウ状態。その原因は大量にいる幼稚園児から小学生、若干の中学生とそれを見ながら微笑みを浮かべる田辺さんのせいです。
そう、只今俺の入院部屋には施設の子供達と田辺さんがお見舞いに来てくれているのです。いや、普段から大人三人(麦のん、滝壺、絹旗)と俺がいるから結構人口密度は高い部屋なんだけど、ここまでになったのは初めてですね。本当に座るスペースもない……というか、これって迷惑にならないのかしらね。他にも入院してる人とかいそうなもんだけど……まぁ、注意しに来ないから大丈夫なんでしょう。
「ねぇちゃ! これ!」
「ん?」
目の前にいるのは今年幼稚園の年中さんになる子です。少しだけ茶色の混じった黒という感じの髪で、それをポニーテールに纏めてます。将来美人になる事間違いない有望株さんです。その子が差し出しているのは……飴?
「ねぇちゃにあげる!」
「いいの?」
「うん!」
「ありがとね」
受け取ると太陽さえ陰る位に眩しい笑顔を浮かべてくれました。釣られてこちらも微笑みを浮かべてしまう。子供の笑顔ってのはいつ見てもいいものだねぃ。
「フレンダちゃん」
「あ、田辺さん」
付き添いで来たと思われる田辺さんが申し訳なさそうな顔してこちらへと近づいてきた。途中にいる子供達は田辺さんの道を作る為に自主的に体をどかしているんだけど、部屋の隅にいるミキちゃんと陸君はこちらに来ようとすると子供達に阻まれてます。ディフェンス力パネェ……あ、強引にこっち来ようとした陸君がレイちゃんに絞め落とされた。南無。
「ごめんね、来るのが遅くなっちゃって」
「いえいえ、施設の方だって忙しかったでしょ? 電話もらえただけで嬉しかったですよ」
はい、入院してすぐに電話は来たんですよね。で、田辺さんから少し遅れるとも聞いてましたし。というか来るのだって大変でしょうや。子供達は大勢いるし、そんなに近くないから電車とか乗り継いで来ただろうしね。
「遅れた理由は他にもあるの。これなんだけどね」
「おぉ……!」
田辺さんが箱から取り出したのは、何と色とりどりの折り紙で作られた鶴の束……そう、千羽鶴ですね。よくよく見ると鶴一つ一つが綺麗に作られている訳ではなく、中には鶴の見た目をしていない折り紙の何かも混じってた。これはもしや……
「ウチら皆で作ったん! ねっちゃんの怪我、はよう良くなりますようにって!」
「すごい……」
この子はエセ関西弁を操る小学二年生の女の子です。何と金髪、というか祖母が外国の方らしいです。無論、この子も『置き去り』だから二度と会えないと思うけれど……いかんいかん、悲しくなってどーする。
「おねーちゃん、嬉しいか?」
「すっっごく嬉しい!」
この坊主頭で生意気そうな顔した男の子は小学六年生で、来年中学生に上がる子です。うーむ、俺ってば顔見ただけで名前と年齢が一発で分かってしまうな……記憶力が凄いって訳でもないんだけどね。
「これ作ってたら遅れちゃったの。施設の皆で作って、代表としてこの子達と一緒に届けに来たんだけど……行きたいって子達が多くてね。何とか説得してこの人数になったの」
「……ちなみに聞いておきますけど、本来は何人来たいと言ってたんでしょうか?」
「施設の子達ほぼ全てね」
oh……正確に何人いるか知らないけれど、多分50人位はいそうな気がするぜよ。
「とりあえず、鶴はここに飾っておくわね」
そう言いながらベッドの横にある壁かけに千羽鶴をかけてくれる。うむ、何か色とりどりで華やか。こういう手作りの物は嬉しいですよね。
「お姉ちゃん、怪我したって聞いて本当に心配したんですよ」
「あ、レイちゃん。ごめんね」
「ほんとだぜ! 階段から落ちるなんて姉ちゃんもドジだな、気を付けた方がいいぜ」
「おねえちゃんは無理し過ぎでいつ倒れてもおかしくないってワケよ」
いつの間にか目を覚ました陸君を筆頭に、レイちゃんとミキちゃんがベッドの近くに来ていました。というか何気にディスられてる……まあ、階段から落ちて大怪我なんて間抜けともとれるしなぁ。ち、違うやいっ、頑張った勲章だいっ。
「今度は違う子達を連れてくるわ。勿論、迷惑なら止めておくけど……」
「迷惑だなんてそんな。暇だからいつでも来て下さいよー」
麦のん達がいる時に来てもいいんですよ。偶には顔見せしとけば麦のんも喜ぶと思うしねぇ。
*
その翌日……っていうか一日おきだな。また違う人がお見舞いに来てくれたよ! その人物とは……
「Hello、久しぶりね」
「あ、布束さん」
部屋に入ってきた布束さんは手に持っていた袋からりんごを取り出すと、置いてあった果物ナイフで剥き始める。手に持っていた袋には大量のりんごが見えました……りんご買いすぎワロタ。
「剥けたわよ」
「あ、ありがと」
皿に置かれたりんごを一つ取って食べる。うん、美味い……酸味も程良く、甘味も良い感じ。果物はりんごが一番好きかもなぁ……手頃だしね。
「怪我の具合はどう?」
「ん? いやぁ、ここの病院凄いよ。手が折れちゃってたのに、もう大分良い感じなんだ。あと一週間くらいで退院は出来そうだよ」
あ、そうそう。上条さんと一緒の病院に入院中の俺ですが、当然医者はあの『冥土返し』です。どんな技術持ってるのか知らんけれど、あんなにバッキバキに折れてた腕が既にうっすらくっついてるらしいです。そりゃああんなに重症で運び込まれる上条さん直してるんだし、それくらいの治療は朝飯前だよね! 何してるのか分かんないから怖すぎて困る。
「is that so、良かったわ」
「にひひ、心配してくれてありがとう」
「お礼を言うのはこっちの方よ」
布束さんはそう言うと、俺に対して頭を下げました。俺としてはそんな事されても困るので、驚いた顔を向ける事しか出来ません。
「ちょ、布束さん?」
「貴方達……特に貴方のお陰であの実験は終わった。『妹達』がこれ以上死ぬ事もなくなったわ」
いや、それは上条さんが一方さんを倒してくれたおかげですよね? 俺はただ時間稼ぎ(出来たのか怪しいけど)しただけだし、あんまり役に立ってなかったと思うけど?
「感謝……ではないわね。本来なら私が一人でもやらなければいけなかった事を、貴方達はやってくれたの。本当にありがとう……」
「……布束さん、それは違います。私は決して人の為にやったんじゃないです」
それを聞いた布束さんが疑問符を浮かべる様な顔でこちらに顔を向けた。俺はそんな布束さんを見ながら口を開く。
「ミサカさんは私の友達だから、私は助けに行ったんです。頼まれたわけでもないし、誰かの為でもない。ただ自分の為……我儘を通しただけです」
うん、それに加えて自分の死亡フラグとこれからの原作フラグを壊さない為にというかっこ悪いものが着くんだけどね! 少なくとも布束さんの為にやった訳じゃない事で感謝されるのは何か違う気がするので、ここはハッキリとさせておこう。
布束さんは茫然とした様子で俺の方を見ていたが、やがて苦笑すると首を横に振った。む、何か含みのある笑い方だなぁ……
「何だか……彼女達が貴方を大事にする理由が分かる気がしたわ」
「誰ですか?」
「oh dear、鈍いのは罪かもね」
む、むぅ……何か小馬鹿にされてる気がするよ!
「とりあえず、私はこれで帰るわね」
「あ、うん。また会いましょうね」
布束さんとの付き合いはこれっきりだと思うしね。もしかしたら入院中にまた会えるかも知れないけれど、これが終わったら布束さんは普通の生活に戻るだろうし……ちょっと残念だが仕方ないね。
「えぇ、どうせ嫌でも会う事になるわ。またね」
そう言って布束さんは帰っていきました。嫌でも会うって……なんなのかしらねぇ。
*
今日泊まって行った絹旗が帰った後、ごろごろしてたら看護師さんに呼び出されたでござる。とか思っていたら渡される電話。これって外部からの連絡が来る電話じゃなかったっけ? とか考えながら受話器を耳に当てる。
「もしもし、フレンダですけど」
『あ、フレンダ? ボクだよ、覚えてるよね?』
「もしかしてスワジク!? 久しぶりー!」
電話の相手はなんとブリュスノイエのお姫様にして、以前警護の任務をした相手であるスワジクだった。って、何でまた病院に電話が……
『麦野さんがメールで教えてくれたんだ。お見舞いにはいけないけど電話がしたいって言ったら、病院の電話番号教えてくれてね、ミーシャに頼んで外に連れて行ってもらって電話させてもらってる』
「あれ? もしかして外出してるの?」
『うん、家の電話だと隣に見張りとかが居て話しにくいんだ。フェイ兄には悪い事しちゃってるけど……どうしてもフレンダが心配で』
「にひひ、ありがと。とりあえずもう殆ど大丈夫。スワジクも調子はどう? 危ない目に会ってない?」
『ボクは大丈夫。ミーシャ達もいるし今は平気だよ。それにしてもフレンダこそ気を付けてね』
スワジク、ええ子や……記憶喪失前のがどんな感じか知らんけれど、今のスワジクが良い子過ぎて泣けるんだよ。自分だってかなり複雑な環境に置かれているのに、俺の心配をしてくれるなんて良い子過ぎるでしょう?
「ミーシャさんも元気なの?」
『うん、あの時いたメイドの人達もミーシャも凄く元気だよ。今はボク専属で働いてもらってる』
「そっか……元気みたいで何よりだよ」
『そっちもね。あ……そろそろ行くね、戻らないと』
「あ、そっか……」
無理して出てきてるって言ってたしなぁ。そりゃあ戻らないといかんよね、一応王族だし。久々なのにこれしか話せなくて残念だけど、仕方な……
『フレンダ』
「うぇ!? ど、どしたの?」
『絶対ブリュスノイエに招待するから、楽しみにしててね』
「お……う、うん! 待ってるよ!」
『じゃあね、また連絡するから。元気でねフレンダ』
「うん、またねスワジク」
そう言うと同時に電話が切れる。
いやぁ……びっくりした。今まで結構良い人数がお見舞いに来てくれたんだけど、まさか遠方にいるスワジクから連絡があるなんて全く思ってなかったからね。王族でお偉いさんだし、意外と俺のことなんかすっかり忘れてるもんだと思ってた部分もあったからなぁ。とりあえず看護師さんにお礼をして部屋から立ち去るとしましょう。
「あ、電話ありがとうございました」
「いいえ、どういたしまして。ふふ、貴方も大変ね。こんなにお見舞いが来たら逆に疲れちゃうんじゃないの? 友達が沢山いるって事だし羨ましくはあるけどね」
「あはは……って、まさか誰かお見舞いに来てました?」
「貴方が電話してる間にね。電話してるって伝えたら部屋に行くって言ってたわよ」
「どんな人ですか?」
「うーんと、男の人が三人と女の子が一人ね。一人は亭塔さんっていうらしいけど」
あぁ、下部組織の面々さんですか。亭塔さんと田中、木舞とかやさんかな? 毎日毎日お見舞いに来てもらえると逆に申し訳なくなるねぇ……早く怪我直して退院せんとな。
「ありがとうございます。部屋に戻りますね」
「はい、お大事にね」
そう言って部屋へと速足で戻る。ドアを開けると、そこには四人で雑談している下部組織ーズの四人組がいました。田中が笑みを浮かべて手招きをするのを見て、俺は軽く苦笑するとその輪の中へと入っていった。
*
「ふわぁ~……」
ここ最近毎日お見舞いに来られ、更に色々な物を持ってきてもらっている為か入院してる部屋にも関わらず大量の食糧が置いてある部屋になりました。というか俺はそんなに大喰らいじゃないんだからそんなに持って来られても困るんですよね。だからといって善意で持って来られてる物だし、施設の子供達がお金を出し合って買ったケーキとかは残すわけにはいかないのです。そういう物はその子達がいる間に食べ切ってるんだけど、果物とかはそういう訳にいかない。特にりんごが凄い量に……どうしたもんかな?
とりあえず一つ手にとってそのまま齧る。シャクリ、という音を立ててりんごの一部分が俺の口内に収まり、甘酸っぱく癖になりそうな味が広がる。うむ、美味い。だけど食べれても一個だよね……この二十個以上あるりんごをどう始末したら良いものか……
と、考えていたらコンコンと鳴る扉。いつものお見舞いかな、と思ってたけれど冷静に考えたら今はもう八時過ぎ。見舞いの時間は過ぎてるのよね。今日泊まる筈の麦のんはちょっと遅くなるという事で十時過ぎると聞いているし、一体誰かしら? 看護師さんかな?
「はい、どうぞー」
「っとと、お邪魔します」
「お邪魔するんだよ」
って、あら?
「よっす、元気そうだなフレンダ」
「上条君にインデックスさん!?」
うぉぉ!? 予想外にも程があるのですよ! 上条さんが入院してるのは知ってたけれど、病室が近い訳でもなく特に用事もなかったから完全にスルーしてましたよ。
「入ってもいいか? 時間も遅いしアレなんだけど……」
「いーよいーよ! ちょうど暇してた所なんだ」
「お言葉に甘えるんだよ」
そう言ったインデックスはパイプ椅子に座る。上条さんももう一つのパイプ椅子に腰かけると、笑みを浮かべたまま口を開いた。
「怪我の具合は良さそうだな。あの時のフレンダは詳しく見てなかったから分からなかったけど、結構怪我してそうだったから心配したんだぞ」
「あー、腕以外は軽い打ち身で済んだみたいなんだ。それよりも上条君こそ大丈夫だったの?」
「俺は体の丈夫さだけが取り柄だからな。そんなに大した怪我じゃなかったし」
一方さんと戦ってそんなモンで済むのはアンタだけです、と言いたいけど自制自制。くだらない事言って失言なんてした日には溜まらないからね。
「全く、あの風邪の時といいフレンダは無茶し過ぎなんだよ。私が帰ったら家には誰もいないのに鍵だけは開いてるし……とうまは帰ってこないし、本当に心配したんだからね!」
「だあぁぁ! 歯を剥きだしにするな! 悪かったって!」
「あはは……本当にごめんなさい」
「反省してるなら良いんだよ」
インデックスさん許してや……上条さんだって御坂の事を助けるためにやった事ですしね。人助けしすぎワロタ。
「あ、そういえば上条君はまだ入院中?」
「いや、俺は明日の朝に病院を出るよ。で、まだフレンダと顔合わせしてないなと思って来たんだ。迷惑だったか?」
「まさかー、お見舞いに来てくれると嬉しいですよぅ」
ふむ、退院するって事はそろそろ『御使堕し(エンゼルフォール)』の話かな? 『絶対能力進化計画』の次の話だった記憶があるし……って事は上条さん『学園都市』から一時的とはいえ出るんだね。ちょっと羨ましいかも。
「そっかー、私はもう少ししたら退院出来そうだし、今度は麦野さん達も誘って上条君の家に遊びに行くよ」
「ひ、人に見せられる程大層な部屋じゃないけどな……上条さんは貧乏なので大きな家はないのです」
「言ってる事が情けないんだよ……」
それには全面同意せざるを得ない。それでももてる上条さんが羨ましいのですよ。このフラグ乱立魔め!
……あ、そうだ。
「上条君上条君」
「ん、どうした?」
「このりんごいらない? 食べきれなくて腐らせちゃいそうなんだ」
「って、うお! 凄い量だな……」
果物はすぐに悪くなるし、ちょうど退院する上条さん……しかも大喰らいのインデックスがいるんだからこれくらいの量は朝飯前に消費してくれるでしょうや。ほら、既に獲物を見る目でりんごの袋
見てるしね。
「本当に良いのか? 本当ならフレンダが見舞いでもらって物だろ?」
「沢山食べたし、腐らせちゃうよりはいいかなって思ってさ。腕がこうなってなくて、ここにキッチンでもあるからお菓子作ったり出来るんだけど、流石にそんなにはねー。食べなかったらお隣さんとかにでもお裾分けして上げて」
隣にはシスコン軍曹もいただろ? だから素直に貰っとけい。
「とうま、受け取った物を返すのは逆に失礼なんだよ! だからここは受け取っておくべきかも!」
「涎垂らしながら言うんじゃありません! ありがとなフレンダ」
「なんのなんのー」
それにこれから上条さんと話すのにもこういう話題が出来るかも知れないっていう打算がありありなので、お礼なんて言わなくて良いのですよー。相変わらず打算でしか動けない自分はちょっと天罰受けた方が良いのかもしれない……
上条さんも退院し、神裂さん(だよね?)と一緒に『御使堕し』も楽々に片付けてくれる上条さんに期待を込めて、俺も退院まで何してようかな……と考えながら上条さん、インデックスと一緒にお話を楽しむとしましょうかね。
<おまけ>
「ひ、ぎゃあああ!」
夜の『学園都市』に悲鳴が響く。が、その悲鳴は路地裏という闇の中に掻き消えていき、表の世界までは届く事はない。悲鳴を上げた男はねじ曲がった己の腕を抱え込み、その場に無様な姿で倒れ伏した。そこには既に数人の人間が倒れており、いずれも死なないまでも骨折等の重傷を負っている者達だ。
「ぐ、ひぃ……お、俺達が悪かった……」
一人の男が折れた鼻を押さえつつ、目の前に立つ人物に対して恐怖と謝罪が入り混じった声を上げる。
その人影は暗闇に包まれた路地裏で異彩を放つかのような白さを持った人間だ。目は血の様に紅く輝き、黒い衣装を身に纏っているのにも関わらず白い髪と肌のせいでその闇を消しているかのようにも見える。
「もう二度とアンタに手は出さねぇ……だ、だから見逃し」
どん! と白い人物……『学園都市』が誇る第一位の『一方通行』は男を軽く足蹴にした。が、何の勢いも威力も感じさせない蹴りを受けた男は数メートル吹き飛び、骨が折れる音と共に地面に叩きつけられた。蛙が潰れた様な悲鳴を上げ、泡を吹いて気絶した男を見た『一方通行』は詰まらなさそうに溜息を吐いて口を開く。
「テメェから襲いかかっておいて勝てなくなったらゴメンナサイですかァ? それで済むと思ってた
のかァ?」
それを見て気絶していなかった者達は悲鳴を上げると、次々にその場から逃げだしていく。後に残ったのは気絶している者、そして気絶していなくとも逃げる程の余力を持っていない者達だけだ。『一方通行』はそれらを見渡し、一度軽く溜息を吐くとその場から立ち去った。誰にとどめを刺すわけでもなく、痛めつける訳でもなく。
(ハッ、下らねェ……)
コーヒー缶が入った袋を揺らしながら『一方通行』は考える。誰を殺しても、痛めつけても結果が変わらないのであれば何もしない方が疲れないし楽で良い、と。『絶対能力進化計画』が頓挫したという事を聞いてから、『一方通行』は現状何にも興味が持てない状態となってしまった。例え自分に危害を加えてくる存在でも興味はない。何故ならどんな相手でも自分を傷つける事は出来ず、抗う事が出来る者なぞいないのだから。
路地裏を抜けた『一方通行』はそのまま自分の家へと向かう。そこでふとある物に目が止まった。アクセサリーの店に置いてあった、シックな黒と銀色で纏められた首輪……無論、『一方通行』にそういった趣味などない。だが、その首輪には見覚えがあったのだ。
『私が出会った貴方は、間違いなく一人の人間だったよ。私が遊ぼうて誘ったら悩んでくれて、それに対してしっかりと応えを返してくれて、残念そうな顔までして、人間よりも人間らしかったと思う』
『関係ねぇよ! カァンケイねェんだよォ! 何が寝てろだ、何が命だけは助けてやるだ……! 「俺」の手足が折れようが、鼓膜が破れようが、そんなのは関係ねぇんだ! ミサカは「俺」の友達だ、絶対に助けるんだ! つけ上がるなよ、『超能力者』! ミサカを殺したきゃ「俺」を殺してからにしろよ!』
金色の髪が眩しかったあの少女の事を思い出す。自分の様なくすんだ色ではなく、眩しくて手を伸ばすと焼けてしまいそうなほどの輝きを持った少女だった。
そして、どうやっても自分に勝てない筈なのに……自分に痛めつけられた筈なのに、烈火の如き瞳で真っすぐ睨み返し、言葉をぶつけてきたヒーロー。そして、その後自分の前に姿を見せて男……
『歯を食いしばれよ、最強……俺の最弱は、ちっとばっか響くぞ……!』
それを思い返した『一方通行』は噴怒に顔を歪ませるでもなく、悔しさに歯を食いしばるのでもなく、特に何のリアクションも起こさずに首輪から視線を外すとそこから立ち去る。だが、ショーウインドウに映っていた顔に一瞬だけ示した変化……何かに焦がれるかのように目を細めた表情を見た者は、誰もいない……