「俺、故郷に帰ったら結婚するんだ……」
「たっだいまー……っと」
「フレンダ、それはリビングに運んでおいてよ」
「はーい」
只今午後六時半。今日は御坂達『超電磁砲』一行に誘われて買い物に行ってきました。いつもはセブンスミストばっかりなんだけれど、今日は俺の退院祝いも兼ねてか色々と連れて行ってもらえたのですよ。まぁ、『学園の園』とかはあんまり興味ないお店ばっかりだったけどね……なんだよあの値段、ブルジョワが買う物って何で全体的にあんな値段するんでしょう?
「ふれんだ、晩御飯どうする?」
「少し時間かかりますけど昨日準備しておいた肉団子にしましょうか。それまで適当にテレビでも見てて待ってて下さい」
「おっけー。絹旗、リモコンとって」
「ヤです。麦野は超面白味のない番組しかかけないんですもん」
そして俺が準備すると言ったらこの始末……少しは手伝う気概を見せなさいよ! やっぱり昨日の手伝いは偶然というか気まぐれだったのかなぁ?
文句言っても仕方が無いので、さっさと準備をするとしましょう。昨日の内に作っておいた肉団子のタネを冷蔵庫から取り出し、状態を確認する。まぁ誰も手を出したりしてないでしょうから問題はないとして、次に調理器具を出す。普段の場所にある事は非常に助かるんだけど、ある意味で俺以外触る人間がいないから当たり前なんだけどね! 考えると少し悲しくなるな。
「ふれんだ、手伝うよ」
「あ、滝壺さん」
って、急に滝壺が手伝うと申してきたでござる。普段はボケッ、として御飯を待ってる滝壺が珍しいな……まぁ、昨日も手伝ってくれてたし、麦のん達と違ってまだ俺の怪我の状態を考慮してくれているのかもしれないね。
「ありがとう滝壺さん、でも私一人でも準備は出来るから座ってても良いよ?」
「ううん、ふれんだはまだ怪我が治ってないから心配。それにそんなふれんだに一人でやらせるのは鬼畜生の外道としか思えないから」
な、何か物騒な事言ってるな。何でそんな事言ってるのか知らないけれど、手伝ってくれるのならば特に問題はないか……
「フレンダ、それ貸しなさい」
「フレンダ、次は超これを出しておけばいいんですか?」
って、後ろから唐突に現れた麦のんにタネの入ったボールを奪われ、絹旗に次出そうと思っていた容器を出されました。先程までゴロゴロしながらテレビを見ていた二人がどうしてここにいるのか分かりませんが、一体何があったんでしょう?
「むぎの、きぬはた。別に二人は休んでてもいいんじゃないかな? 私がふれんだの事を手伝うからゆっくりしててもいいよ」
「べ、別に良いじゃない。ただ昨日も手伝ったし偶には良いかな、って思っただけよ」
「麦野に同じくです」
……なんだろうこの空気。ギスギスとまではいかんけれど、若干緊迫した空気が流れているんですけど。一体どうしてこうなったと言わざるをえない。まぁ、食事の時間になったら滝壺は機嫌よくなるし麦のん達も落ち着くでしょうや。放っておいても大丈夫でしょう。
「しかし最近は仕事が超楽すぎてある意味体が鈍りそうですね。悪い事ではないんですけど」
「フレンダがいなかったから仕事も断り気味だったしね。それにアイツ、私達が『一方通行』に挑んだ件で色々と忙しいみたいだから仕事を頼む暇もないんじゃないかしら?」
「忙しいとは?」
「他の組織からのやっかみとか上層部からの詰問とかね。まぁ、私達の知った事じゃないけど」
『連絡人』さんェ……暗部の人間とはいえちょっと可哀想かもですね。いつか出会う事があったら慰めてあげるとしましょう。永遠に来ないとは思うけどさ。
「とりあえず晩御飯をちゃっちゃっと食べちゃいましょう。その後はお風呂に入るわよ、フレンダ」
「はい?」
「怪我してた期間分、きっちり髪の手入れしてもらうからね」
「あ、りょーかいです」
ん? 何の話かって? 毎回じゃないんだけど、麦のんが風呂に入る時は俺も一緒に入って頭洗ったり背中流したりしているのですよ。それこそ昔は毎回毎回やってた事なんだけど、いつからか毎回じゃなくなったんだけど、それでも頻繁に一緒に入浴しています。麦のんの体は日増しにエロさを増していっている気がするのですよ、ふぅ……
「むぎのずるい。今日は私が一緒に入ろうとしてたのに」
「うっさい、早い者勝ちよ」
「汚いなさすがむぎのきたない」
「むぅ……私も超一緒に入りたかったのですが……」
ちなみに滝壺と絹旗も偶に背中流したりしてます。特に絹旗は来た当初は無理矢理一緒にお風呂に入ってました。そうでもしないと会話がなかったせいもあるんですけどね。
「にひひ、今度一緒に入ろうね」
美少女三人に背中流して欲しいとか言われてる俺マジで幸福すぎる……だけど偶には自分の背中を流してくれると助かるんだけどね!
*
「結局こうなるかぁ……」
そう呟きながら俺は体に付いた泡をシャワーで流す。食事の後、麦のんと一緒に風呂に入る事になったんだけれども、麦のんの世話が全て終わった瞬間に何と滝壺が風呂場に入ってきたのです。危うく麦のんと険悪な雰囲気になり始めたんだけど、俺が仲裁することでそこは何とか治める事が出来ました。そしてその後……滝壺が終わったところを見越したのか絹旗まで入ってきたんですよ。「久々に超髪洗って欲しかったんですよ!」、との事でした。
んで、その間俺は自分の体も髪も洗えずじまいでした。三人全員の世話を終えるまで一時間近くかかってしまったので、俺は今体と髪をようやく洗い終えたんです。全く……湯冷めして風邪ひいたりなんかしたら、困るのは麦のん達なんだからねっ。とか考えながら湯船に体を沈めます。口元までお湯に浸かり、軽く息を吐くとぶくぶくと水面が揺れる。やっぱりお風呂は良いわ。
「ふれんだ」
「ん、なぁに?」
「むぎのがお風呂から上がったらすぐに来てほしいって」
麦のんからの指名ですか。普段は風呂上がりに髪拭いたり世話をしてるからその件についてかな? いい加減麦のんはもう少し自分の事を一人で出来るようにならないと駄目だと思うのですよ! 主に生活面で。
とりあえず体も温まったし上がるとしましょうか。風呂場から出る前に風呂の蓋を閉め、ちゃんと水が止まっているか等の確認を終えてから外に出た。
しかし……毎回毎回思うのはこの髪の毛邪魔くせぇなぁ……という事なんですよ。いや、確かに綺麗で切るのは勿体ないとか思うのも分かるんですが、風呂から上がった時とか朝の時とかは本当に邪魔くさいと感じる。どんだけ拭いても全く渇く気配が無いし、少しでも手を抜いてそのまま寝たりすると、朝方には悲惨な状況を呈しているのですよ。男でも長髪の人は良く見るけれど、あれはマメな人だから出来るのだろうか? 俺だったら麦のんが止めてなければさっさと髪切ってるだろうし。
適度に体と髪を拭き、洗濯してあったパンツとブラ(Aカップ)を身に着ける。隣に無造作に置いてあった麦のんと滝壺のブラを見て泣きそうになり、絹旗のブラを見て全てを許す気持ちになれたのは秘密です。ついでにパジャマを着て準備完了。いや、まだ麦のんのお世話をした後に自分の髪を乾かす作業があるんだけどね。
「麦野さん、お待たせしましたー」
「ん」
テレビのリモコンをいじくってチャンネル回しをしている麦のんにそう声をかけると、麦のんは短く言葉を返す。それを聞いた俺はいつも使ってるくしとドライヤーを手に持って麦のんへと……
「用事はそれじゃないわ。とりあえず座りなさい」
「へ? あ、はい」
これじゃないのか? じゃあ一体何の用だってばよ。と考えながらも口応えはせずに座ります。着壺と絹旗も俺が座るのと同時に俺の隣に座る。
「さて、全員揃った事だし仕事の内容を伝えるわ」
「仕事? って、今日仕事入ったんですか?」
「そうよ、滝壺から聞いてなかったの?」
聞いてません。というか滝壺は麦のんが俺に用事があるからという事しか聞いていませんです。ま、まぁ滝壺が言葉足らずなのは偶に有る事なので、特に気にする事もないだろう。麦のんの様子から見るに危険な仕事という線はなさそうなので安心してもよさそうだしね。
「しかし超急な話ですね。一体どんな内容なんですか?」
「臨時で入った仕事なのよ。少なくとも明日までには仕上げて欲しいって言われた仕事なんだけど……」
「どんな仕事なの?」
そこで麦のんは一息吐くようにお茶を飲み、一人一人の顔を確認しつつ口を開いた。
「……『絶対能力進化計画』に関係する仕事だって聞いたら……どうする?」
瞬間、部屋の温度が一気に下がった……気がします。少なくとも俺はそう感じました……いや、仕事の内容が何なのか分からなくてびびったのもあるんですけど、それ以上に雰囲気が変わった滝壺と絹旗にびびりまくった。二人とも麦のんを射殺せそうなほどの眼力放ってますよ。いや、確かにこんなこんな仕事を請け負った麦のんに怒りを覚えるのは分かりますが……
「むぎの、どういう……」
「話は最後まで聞きなさいな。今回仕事を依頼してきたのは信用できる相手……言っちゃうと田辺なのよ」
「田辺さんが!?」
「超どういうことでしょう?」
な、何故に田辺さんがこの実験に……というか本編に関わってくんの? い、いや……あれか。原作でいう裏では実は、的な感じの仕事なんだな。驚かされちゃったよ。
「それで、あのクソッタレな実験の後始末みたいなものでしょうか?」
「そんな感じね。そして、絶対にやらなきゃいけないものでもある」
そう言って麦のんが表情を引き締める。先程の様に寒気が走る雰囲気ではないが、緊迫した空気が周囲に立ち込め、嫌が応でも身が引き締まった。
「今回の仕事の内容は……『打ち止め』と呼ばれるクローン体の保護、及びそれをある研究所まで送り届ける事よ」
……え?
「それは……言葉通りの意味と超とって良いんでしょうか?」
「好きに解釈しなさい」
麦のんがそう応えるのを聞き、滝壺が思い切り眉を顰めた。
「みさかのクローンがまだいるんだね」
「まだ……超終わっていないという事ですか」
続いて口を開いた絹旗も辛そうな顔で呟くように口を開く。そして俺は……かなりパニックになってます。
いやいや、完璧に原作の中身覚えている訳じゃないから何とも言えない所はあるんだけど、少なくとも『アイテム』がこの事件で関わる事は絶対にないでしょう!? それを言ったら『絶対能力進化計画』の時もそうだけど、あの時は結果的には原作とあまり変わらない結末でいけたから良しとしましょうや。
だけど今回はそうはいかなそうな予感ビンビン。『最終信号』……んぅ、何か表現が違う気がする。『打ち止め』……そう、『打ち止め』を『アイテム』が確保するとか一体どういう事だってばよ。少なくとも原作でそんな描写は欠片も無かった筈。
というか、一方さんと『打ち止め』を会わせないと不味い状況になる気がしてならない。だって一方さんは『打ち止め』と出会う事によってこれから色々とやっていく筈だし、何より一方さんが怪我をする事がなくなってしまう。いや、人に怪我させる為にウィルスに苦しむであろう『打ち止め』を研究所に行かせない、とかどんだけクソ外道なの? とお言いになるかもしれませんが、流石にこれは不味いでしょうや。
「『打ち止め』は現在施設にはおらず、『学園都市』内を徘徊してるって情報よ」
「何故そんな事に?」
「さぁ? 馬鹿な研究者達の事だからやらかしちゃった、とかそんなんじゃないかしらね。いずれにせよ、『打ち止め』とやらは私達で必ず見つけるわ」
その言葉に強く頷く滝壺、絹旗。そして弱弱しく頷く俺。いや、だって全然いい考え思い浮かばないんだもんさ! 『打ち止め』がどうして芳川達に捕まらないのか詳しくは覚えていないけれど
本気の暗部に狙われたらそれこそアッという間に見つかってしまうだろう。麦のんは全然手を抜く様子が見られないし、滝壺と絹旗も本気でかかるっぽい。滝壺が能力しようしたらそれこそすぐに見つかりそうだしね……
何とか、何とかしないと。このままじゃ一方さんは『打ち止め』と会う事が出来ないじゃん……それが今後どう響いてくるのか分からないし、何より一方さんの精神状態とかどうなるんだ? 知らなきゃ知らないままでいいけど……だけど、この大事なイベントを狂わせるわけにはいかない気がする。何となくそんな気がするのだ。
「よしっ、じゃあ田中と亭塔に車を……」
「あ、あのっ」
麦のんが何かを言おうとしたのを封じて声を上げる。突然声を上げた俺に驚いたのか、滝壺と絹旗、麦のんまでも驚いた様子でこちらを見やっていた。俺がこういう仕事の時に意見するのは珍しいから、かなり驚かれたっぽいね。普段が口出ししない分余計なのかもしれないけど。
「私も自分のツテ使って探したいです。『武装無能力集団』の知り合いとかにも声かけたりとかして……」
「ちょ……! 馬鹿言ってんじゃないわよ、アンタ一人で行動させたら何をするか分かったもんじゃないし、それにそれなら私達と一緒になって聞きまわれば……」
「で、でも『武装無能力集団』の人達に暗部の仕事ってばれる訳にはいかないし、麦野さん達と私に分かれて探せば効率も良いと思うんだ。だから……」
「だからってアンタ……」
ぐ、しつこいよ麦のん! こうなったら……
「黙ってられないんです!」
「!?」
「御坂さんの事だし、ミサカも心配だし……黙ってられないんですっ! 早く解決しなきゃって……だから……!」
そう言うと同時に麦のんの顔を真正面から見据える。そう、俺が今からやろうとしているのは泣き落とし……とまではいかなくともそれに近いお願いです。涙を流すとまではいかなくとも少しの涙目ならすぐに出来る自信がある。麦のんは俺の涙には弱いのか言う事聞いてくれる事が多いんですよね。
とりあえず何としてでも許しを得ねば……一方さんと『打ち止め』の出会いを邪魔する訳にはいかんのですよ!
「麦野さん、お願い……」
「うっ、ぐ……」
滝壺と絹旗は麦のんの動きを窺っているのか、俺と麦のんに対し特に何も口出ししてくる様子はない。麦のん加勢してこないだけマシかな……俺の事を援護してくれると助かるんだけど、邪魔してこないだけありがたいと思わないと駄目か。
「絶対に無理だけはしない。必ず連絡する、だから……」
「むぎの……」
「麦野、フレンダだって前回の事もありますし、しっかり反省してると思います。今回は良いんじゃないでしょうか?」
おぉ、滝壺と絹旗も協力してくれた! 流石二人は話が分かるでぇ……後は麦のん、貴方が認めてくれるだけなのですよ。
「麦野さん、お願い……」
「っ……! 分かった、分かったわよ! アンタは知り合いの『武装無能力集団』とかから情報探って行動なさい。た・だ・し、絶対に連絡とかはするようにね!」
それを聞いた瞬間、俺はパァッと笑顔を浮かべてしまいました。麦のんは何だかんだで優しいね。そういう優しさを随時見せてくれてると凄く嬉しいんだけどなぁ。
「分かりました! 必ず守ります」
「ふん……全く、心配ばっかりかけさせて……」
ぶつぶつと麦のんが文句を言いつつ外出の準備を始める。俺も必要な物を取りに行く為に自分の荷物を整理しつつ考えを巡らせます。
ひとまずこれで『アイテム』の面々と別行動する事は出来る。後は麦のん達の妨害が入らない様に一方さんと『打ち止め』を会わせ、原作通りに話が進むように『アイテム』を関わらせない様にしないと駄目か。いや、本当なら一方さんが怪我しないのが一番なんだろうけど、怪我しない場合の一方さんが木原くンとか暗部反乱の時の話とかがとんでもない流れになりそうな予感がするんですよ……バッテリーに頼らない一方さんはチートだし、それに黒翼とかも発現しなかったりしそうで怖いンですゥ。
うーむ……冷静に考えてみると、俺は一方さんに怪我をさせる為に頑張っているのだろうか? 端から見たらマジで救いようのない外道ですよね。何かテンション下がるわぁ……だけど、こういう大きな分岐点で怠けたら絶対に碌な事にならないだろうし、俺はどんなに外道でも頑張るのですよ! だけど全部終わったらどっかで懺悔でもした方がいいよねぇ……
*
「と、言う訳で俺は只今一人で行動中であります」
独り言乙。あの後、準備を終えた『アイテム』メンバーは亭塔さんが乗ってきた車で出発。俺は途中の路地で下ろしてもらいました。普通の路地裏とかなら危なくて一人にはさせてもらえないんですけど、俺や『アイテム』の面々はとある路地裏なら安全が確保されているので大丈夫なのです。何故ならば……
「あ、フレンダさんじゃないですか。ちぃーッス」
「お、久々だねフレンダー。今度遊びにいかない?」
「にひひ、麦野さん達に聞いておくね」
はい、俺が下ろしてもらった近辺を仕切っている『武装無能力集団』のチームは知り合いなんです。というか、仕事関連で巻き込まれそうになったの『アイテム』が助けた連中なんですよね。『武装無能力集団』も様々でして、原作の駒場さんの様に『学園都市』に不満を持ちテロ行為に近しい事をする連中、暗部からの仕事を請け負って生きている闇に限りなく近い連中、ただのチンピラ集団等々多くの人達がいるんですよね。ちなみに彼等は最後に言ったチンピラ集団に近くて、犯罪とは無縁な方達です。いや、喧嘩とかは日常茶飯事なんだろうけど、少なくとも殺しとかとは無縁なのよね。
で、とある仕事中に相手方の連中に殺されそうになったところを俺達に助けられてから、妙に仲が良くなってしまいました。たまーに麦のん達を交えた飲み会とか遊びに行ったりとか結構関わりはあったりする。それに無駄に大所帯という事もあってかこの辺り路地裏は比較的安全だったりする訳なんです。
と、そこで俺の携帯電話が震える。
「はい、もしもし」
『あ、フレンダさんですか? さっき言われた毛布姿の子供の事なんですけど』
「うん」
『俺達の仲間は誰も見てないですね。一応知り合いの奴等にも声はかけてみますけど』
「ごめんね、ありがと」
『いえいえ、じゃあ何か分かったらすぐに連絡します』
ピッ、という音と共に通話が切れる。
ふぅむ、『武装無能力集団』にすら見つかってないのか。『打ち止め』って確か研究所関連の相手からは逃げるようにプログラムされてるとかいう設定があった気がする。だけど『武装無能力集団』になら少しは見つかってると踏んだんだけど……アテが外れたかな?
だからといって麦のん達に先に見つけられる訳にはいかない。俺が見つけられなくても、一方さんが先に『打ち止め』を見つけてくれれば何の問題もないんだけど……
「あ、そうだ」
くふふ、俺は今閃いたとですよ。『打ち止め』が見つけられないのであれば、逆に目立つ方を見つけてしまおう作戦です。そう……必ず『打ち止め』が来る場所に俺が行けばいいのですよ! そして必ず『打ち止め』が来る場所で、かつ目立つ相手……そう、一方さんです。一方さんの近くに居れば、ほぼ確実に『打ち止め』と出会えるという完璧すぎる計画……俺ってば天才ね!
……いや、本当は怖いんですよ? 何せ自分に大怪我負わせた相手ですし、今度は何されるかマジで分からん。一方さんの事だから殺されるという事はないのが唯一の救いか……というか放っておいても大丈夫なんじゃないか? という思いもあるしマジで行きたくない……
で、でも俺がここで妥協して変な事になっても困るし、とりあえず一方さんと『打ち止め』が出会う所を見るのだけなら良いよね……? 一方さんには正面から会わずに少し離れた所で様子を見てれば良いんだしね!
そうと決まれば『武装無能力集団』の人達に連絡をとって一方さんの場所を教えてもらわないとアカンな。一方さんは目立つ人ですし、すぐにでも見つかると信じたい。よーし、張り切っていきましょう!
<おまけ>
「そうなの、今回は別行動なのね」
「何よ、何か文句あんの?」
「nay、別にそんな事ないわ。ただせっかくこれから一緒に仕事する事になるんですもの。挨拶はしておきたかっただけよ」
「別にいつでも会えるでしょうが……っと」
麦野はそう言いながら携帯電話を手にとって通話ボタンを押す。
「どう? 何か情報あった?」
『いえ、特に情報はないッスね。『超電磁砲』に似た子も最近は見てないって事ですし』
「うーむ、研究所の連中から逃げてるって話だし、路地裏とか監視にかからない所にいると踏んだけどアテが外れたかしら?」
『とりあえず俺はもう少し昔のツテを使って調べてみます。何かあったら連絡しますわ』
「よろしくね、田中」
そう言うと、麦野は通話を切って軽く溜息を吐いた。現在『アイテム』は滝壺、絹旗、亭塔のメンバーと麦野、田中、そして新しく『アイテム』のメンバーとなった布束がグル―プを組んで各自捜索をしている。が、全く『打ち止め』という名の影すら踏む事が出来ない状態なのだ。フレンダからも連絡がない所を見ると、向こうも全く情報を掴むことすら出来ていないのだろう。
「でも心配ね、あの子無茶ばかりするし」
「大丈夫よ。流石に前回の事で懲りてるだろうし、少なくともアンタが心配する事でもないわ。何かあったら私達でフォローするしね」
そこで麦野は言葉を切ると布束へジトッ、とした視線を向ける。
「というかアンタも元々研究に携わってたんでしょ? 何か少しでも分かる事はないのかしら?」
「残念だけど、『打ち止め』という個体は私が研究から外れていた時に作成された様ね。話を聞いたことすらないし、そんなものを作っているという事すら知らなかったわ。残念だけど今回の事で役に立てる事はないかもね」
「ったく、役立たずね」
「oh dear、悪かったわね」
そこで二人の会話は途切れ、布束はパソコンへと視線を戻した。