「白と毛布とイレギュラー」
『……以上です、何か他に聞きたい事はありますか?』
「ううん、大丈夫。わざわざごめんね」
只今俺は電話で知り合いの『武装無能力集団』とお話をしている最中です。え、何の話かって? そりゃあ当然『打ち止め』に関係するお話ですよ。そしてその話の内容とは……
『あの、フレンダさん……言いたくはないんですが、どうして『一方通行』の所在なんて聞くんですか?』
「あー……少し野暮用かな? 大した事じゃないんだけど……」
『ハッキリ言っておきますよ。『一方通行』には絶対近づかない方が良いですって』
あや、心配してくれてるのかな? まぁ、いきなり知り合いの女の子が危険人物(と思われている)と接触するなんて聞いたら、俺だって止めるだろうしな。ただ一方さんは本当は優しい人なんですよ。危険人物には変わりないけどね。
「大丈夫、本当にちょっとした用事があるだけだから。『一方通行』に直接用事がある訳じゃないしね」
『……なら良いんですけどね。俺達の仲間は関係ないんですけど、最近『一方通行』に挑んで怪我したって話を良く聞くんですよ。今は近付くのは危険なので本当に注意して下さい』
「怪我? 一体どうして?」
『嘘か本当か知らないですけど、『一方通行』が『無能力者』に負けたって話があるんですよ。ウチのチームの若い連中も挑もうとしてたんですけど、何とか止めておきました。そしたら他のチームの連中が案の定……って感じですね』
ふむ、ここは原作通りに話が進んでるのね。確か一方さんはあの事件の後に色々と絡まれたりしていた筈。というか、実際自分の目で見てもいないのに一方さんに挑むとかアホだよね、一部の『武装無能力集団』とか能力者の人達。第一位に勝てば自分は……! という考えもアホらしいんだけど、それ以上にそんな事をしても何にもならないという事に気付きましょうよと。そして第一位がどんだけ強いのか噂だけからでも良いから理解しなさいよと。
「分かった、注意しておくね。心配してくれてありがと」
『分かってるなら無茶だけは……っと、麦野さん達には連絡しない方向で良いんですよね?』
「うん、もう話はつけてあるから大丈夫だよ」
というか絶対に連絡しないでくれ……麦のん達には単純に『打ち止め』捜索としか伝えてないから、もし俺が一方さん捜索なんていう訳の分からない事してたらオシオキされるのは間違いない。ただでさえ無茶するな、って釘刺されてるしね。
「じゃ、私は行くね。今度何かお礼するから……今日はありがと」
『いえいえ、フレンダさんには返しきれない恩がありますし気にしなくて結構ですよ。では、また今度』
そう言っ携帯電話の通話ボタンを押す。うーん、今の人は義理堅すぎると思うんだよね……返しきれない恩って言ったって、実際のところは俺が助けた訳でもなんでないんだけど。麦のんと絹旗がメインで助けたにも関わらず俺にも恩返ししてくれるとか申し訳なさ過ぎて涙が出るぜ。
さて、とりあえず一方さんが現在どの辺りにいるかが分かりました。現在一方さんはコンビニにいるそうです。こんな時間にコンビニ……いや、こんな時間だからこそのコンビニか。一方さんの事だから大量のコーヒーを買いに行ったに違いない。缶コーヒーばっかり飲んでたら体に悪いと思うんだけ……って、もしかしたら反射とかで体に有害な物は取り込んでないのかもしれないな。何というチートな体……そんな能力が俺も欲しいですよ。
っとと、無駄口叩いてないでさっさと移動するかな。一方さんがこれからどう移動するか分からないし、見失ったらまた探し直しだ。とりあえず一方さんがいるというコンビニまで移動するとしましょうかね。
*
途中でタクシーを拾い、30分程度で目的地に着いた俺は運転手のおっちゃんにお金を支払ってタクシーを降りる。おっちゃんは優しげな感じの初老の男性で、代金の端数をおまけしてくれました。こういう人情あふれる所に俺は感動を覚えるのですよ。名前と所属してる会社は見たから、今度タクシー呼ぶ時は指名でもしてみようかしら。
とりあえず一方さんが居たというコンビニへ入店する。店員のやる気なさそうないらっしっせぇー、という声を聞き流して店の中を見回すが、やはりというか一方さんの姿は見えない。まぁ、30分ここで無駄な買い物している訳もないし一方さんが立ち読みしてたらそれはそれで驚く光景であるんだけどな。
「あの、すいません」
「はい?」
先程やる気のなさそうな挨拶をした店員に声をかけると、店員が疑問符を浮かべた顔でこちらに視線を向ける。うーむ、俺よりは年上か? いや、もう12時近くなるし学生ではないか。
「えっと、人を探してるんですけど……」
「人、ですか?」
「はい。髪が白くて目が赤くて、それで黒い服を着てる人なんですけど……」
……冷静に口に出してみると、一方さんの容姿ってかなり怪しいんだな。ファッションセンスがウルトラ○ンとか言われてるだけの事はある……白い髪と赤い目も相当だけどね。
「あぁ、いつもコーヒーばかり買う人の事ですか?」
「うん、私の知り合いで待ち合わせしてたんだけど」
「10分程前に店を出て行きましたよ」
うん、待ち合わせとか嘘です。というか店員さん、聞いた俺が言うのも何なんだけど、知らない人に個人情報っぽいものをペラペラ喋るのは関心しませんな。コンビニの店員にそこまで求める方が酷なのかも知れないけど。
「そうですか……少し遅くなったから心配して探しに行ったのかも。どっちに行ったか覚えてます?」
「えっと……確かあそこの路地裏に入っていった様な……」
……何か曖昧な答えだけど、この人を信用するしかないか。とりあえずは一方さんの姿を確認する事が先決ですしな。
「ありがとうございました、少し追いかけてみます」
「って、お客さん。あっちの路地裏は危ないですよ。『武装無能力集団』がたむろしてるし、治安も良くないから行かない方が……」
「へーきですよ。いざとなったらすぐに逃げますから」
そう言ってコンビニから出る。最後店員が何か言った様な気がするけど、気にする必要は特にないよね。
しかし治安が悪いのか……2、3人なら対処できるけど、能力者か多人数に囲まれると危ないし注意していかないとあかんね。とりあえず一方さんを遠くから確認し、『打ち止め』と合流を確認するまで監視しとかないと。そして麦のん達にはこっちはちゃんとやってるから来なくても大丈夫ですよー、的な事を言って遠ざける。うむ、完璧だな! 本当なら安全に麦のんと一緒に行動し、かつ麦のん達をわざと遠ざければ良かったんだけど仕事中は俺の意見は大体却下されるし、何より下手な方向に誘導して一方さんと鉢合わせしたりしても意味ないしな……お陰でこんな危険な真似をする羽目になっちまったい。
「とりあえず、行こうかな……」
一度気合いわ入れる様にフンっ、と息を吐いて路地裏に入り込む。時間は既に12時に近いので、路地裏に入ると本当に真っ暗と言えるくらい暗いです。夜目はまぁまぁ利く方なんですが(麦のんは真っ暗でも余裕で相手を判別したりするけど)、少し先になると暗闇になってしまいますな。これは注意して進まないと、いきなり一方さんとばったり遭遇とかありそうで怖いです。それ以上にこの辺りの『武装無能力集団』とは知り合いでも何でもないから絶対に絡まれない様にしないとな。
先に進むにつれて闇が深くなっていくが、俺の目も慣れ始めたので逆に周囲の状況は良く見えるようになってる。どこまでも変わり映えのしない風景が続いている。人がいる様子も見えないし、これ本当に一方さんはこっちに行ったんだろうなぁ? さっきの店員さんを疑う訳じゃないけれど、間違ってたら恨みますよ本当に。
仕方ない……これ以上進んで危険な目に会うのもアレだし、一旦引き返すか。一方さんはまた別のルートから探すという方向で……と、俺が考え始めた瞬間でした。
「あれ、貴方はもしかしてって、ミサカはミサカは元気一杯に声をかけてみる!」
「えっ……?」
先程まで歩いてきた方向に振りかえり、視線を少し下に向ける。そこには青い毛布を身にまとった小さい何かが元気にぴょこぴょこと飛び跳ねている姿が見えた。呆然として言葉が出ない俺を不思議に思ったのか、何かは覗き込むように顔を上に上げて俺と視線を会わせる。
「あれ? もしかして違う人だったの? でもネットワークで何度も見てるから間違ってないと思うんだけど……って、ミサカはミサカは自分の能力の片鱗を簡単に口にしてしまったり」
「え、えっと……」
や、やべぇ……言葉が出ない。いや……自分の目的としてはこの子に会うのは何の問題もないんですよ? 何せ一方さんとこの子が会うのを見届けるのが今回の俺の目的ですし。
だけどいきなり自分が遭遇するなんていうのは全く想像していませんでしたのことよ! こ、これはどうすればいいんだ……
「もしかして聞こえてない? おーい、ってミサカはミサカは元気一杯声を張り上げて見る!」
「だ、大丈夫……聞こえてるよ」
「そうなら早く返事をしてほしかった、ってミサカはミサカはブーたれてみたり」
「ごめんね、いきなりだからびっくりしちゃって」
そこで言葉を切り、俺はその場にしゃがんで少女……『打ち止め』と呼ばれるクローン体と目線の高さを合わせた。驚いた様子で目を見開く『打ち止め』に対し、俺はニッコリと笑みを浮かべる。これって小さい子と話す時の基本なんだけど、目線の高さを合わせるのって重要なんですよ。上からだと威圧的だし目を見て話せないからね。
「こんばんは。えっと……『打ち止め』ちゃん、だよね?」
「おぉ? 貴方は何故私の名前を知ってるの? ってミサカはミサカは驚愕を露わにしてみたり!」
「にひひ、大人の女は色々と知っているものなのさー♪」
単純に原作知ってるのと、貴方の捜索命令が出ているからなんだけどね。まぁ、その辺りの事は言わなくても良いでしょう。
「いやー、やっと知り合い? に会う事が出来て嬉しいかも、ってミサカはミサカはこんな時間にはしゃいでみたり!」
「私と貴方は初めて会うんじゃ……?」
「それはそれ、これはこれ! ってミサカはミサカは細かい事を気にしている貴方にビシッと言ってみる」
うーん、アニメでも思っていた事なんだけど、文章で見た場合そうでもないのに実際に聞くと『打ち止め』の台詞ってかなり聞き取りづらいな。小さい子特有の声の高さもあるんだけど、台詞が繋がり過ぎてるっていうのもある気がするぜ。
「でも良かった! これで心細くないかも、ってミサカはミサカは安心してみる」
「え、何が?」
「貴方に協力してほしいかも、ってミサカはミサカは初めて出会う相手に対して図々しく協力を求めてみたり」
……? え、何の話よ。いきなり出てきて協力しろって言われても訳が分からん。正直嫌な予感しかしないんだけど……
「協力って、何の話? ていうか、一体どうしてこんな所に……」
「何も言わずに着いてきてほしいな、ってミサカはミサカは貴方に言ってみる。きっと貴方ならあの人も……」
「?」
「ううん、何でもないよってミサカはミサカは必死で今の発言を誤魔化してみる」
……本当に嫌な予感しかしない。でもとりあえず『打ち止め』は発見する事が出来た。直接出会うという予想外すぎる形だったとはいえども、これで俺が誘導していれば『アイテム』と『打ち止め』が接触する事は有り得ないだろう。
「駄目かな? ってミサカはミサカは貴方に問いかけてみる」
真剣な眼差しを俺に向けてくる『打ち止め』……施設の子達が真面目な話をしている時を思い出してしまった。俺はこういう子供の視線に弱いんだよなぁ……無条件で真剣に話聞いて上げないと、とか思ってしまうのですよ。しかも目の前にいるのは普段友達でいる御坂のクローン……いわゆるミサカの姉妹みたいなもの。
どんな用件か知らないけれど、多分御飯とか関連でしょう。この恰好じゃコンビニとかにも入れないだろうし、俺に何か買ってほしいとかそんなのだろう。うん、そうに違いない。
何よりここで振りきって別れるのは簡単だけど後味悪いし、何よりここで俺が離れて見失ったら『アイテム』と接触してしまうかもしれない。それだけは避けないと……
「うん、分かった。私で役立てる事なら協力するよ」
「おぉ……貴方の優しさに感動しちゃった、ってミサカはミサカは目を輝かせながら貴方に抱きついてみる!」
「って、わわっ」
いきなり『打ち止め』に抱きつかれました。ウホッ、いい幼女! この毛布一枚の下には『打ち止め』の裸があるのですよ……いや、現在の俺は女性なんで何の興奮もないんですけどね。というか幼女に興奮したらアカンですよね!
「じゃあ着いてきて! ってミサカはミサカは貴方の手を引きながら口にしてみたり」
「引っ張らなくても大丈夫だよー。それで、一体何を手伝って欲しいの?」
「うーん、手伝って欲しいというか……ただ一緒に来てほしいだけなの」
来てほしいだけ? また謎な手伝いだな。
「それはいいけど……」
「来れば分かるよ! ってミサカはミサカは気にしてる貴方の不安を拭う為に笑顔を見せてみたり」
そう言いながらニコッ、と笑みを浮かべる『打ち止め』ちゃんマジ天使。この笑顔を見たら断れないよねぇ……仕方なくこちらも笑みを浮かべて後を着いていく。そうしながら俺は今後の計画を頭の中で考えるのですよ。
とりあえずは『打ち止め』との用件を済まし、何かしら理由を付けて手頃な所で別れる……ふりをする。そうして『打ち止め』の後を着けつつ、『打ち止め』と一方さんが出会うまで『アイテム』が介入しない様にすれば良い。合流してしまえば『アイテム』にも手が出せないだろうし、一方さんが『打ち止め』を見捨てるなんて事も有り得ないだろうから原作通り話が進むだろう。原作通りって事は一方さんが怪我をするって事なんだけどね……心苦しいけど、一方さんが怪我をしないと色々と不都合が起きそうだからなぁ……許してくれい。誰に許してもらう訳でもないけどね。
「早く早く! ってミサカはミサカは足が止まっている貴方を急かしてみたり!」
「にひひ、分かったよー」
そう返して『打ち止め』の後ろに続いて歩く。『打ち止め』は早歩きで歩いてるみたいなんだけど、俺は普通の歩幅で歩いて進んでます。こういうの見ると小さい子供ってやっぱり微笑ましいですよね。『打ち止め』に限らず施設の小さい子達も超可愛いしな。
「うーん、と……こっち、ってミサカはミサカは指さしして進んでみたり」
途中いくつか分かれ道があったけど、『打ち止め』は特に迷う様子もなく進んでいく。というか結構奥まで来たな……どこまで行く気だよ。
「『打ち止め』ちゃん、これ以上奥に行ったら危ないと思うよ。『武装無能力集団』の人達もいるだろうし、これ以上は……」
そこまで俺が言いかけた瞬間、何かが聞こえてきた。叩きつける様な、何かが落ちた様な音……それが聞こえた瞬間、俺は目の前にいた『打ち止め』を抱きかかえて音がする方向と打ち止めの間に自分の体を潜り込ませ……って、何してんの俺!? い、いつもの癖が……
「どうしたの?」
「あー、いやー……」
『打ち止め』は気付いてないのかな? というか今の音って……喧嘩か何かだと良いんだけど……
「『打ち止め』ちゃんはここで待ってて。私が様子を見てくる」
「え? いや、ミサカはミサカは」
「良いから、向こうは少し危ないかも知れないし、様子見たらすぐに戻ってくるから。ね」
「いや、そうじゃなくってミサカはミサカは」
「待ってるんだよ」
何か言いたそうな『打ち止め』を置いて暗闇の路地を進む。いや、俺だって怪我したり危ない事にわざわざ首突っ込みたい訳じゃないんですけど、今回はちゃんと打算的な考えがあるのですよ。一方さんと出会う前の『打ち止め』を危険に晒すわけにはいかないし、ただでさえ『アイテム』と出会わない様に気を使ってるんだからさ。少しくらい危険でも俺が危ない橋を渡らないとアカン訳です。
さっき反射的に『打ち止め』を庇った事については……うん、言い訳のしようがないです。いや、これはもう自分の体に染みついた反射でして……施設の子供達とか仕事中に救出した子供達を助け続けていたら、こんな反射行動が身に付いてしまったのです。だ、だけど結果的に『打ち止め』に怪我はさせられないんだし、これはこれで良かったですよね! 駄目ですかそうですか。
そんな事を考えつつも先に進む。そして曲がり角の先から聞こえる声……これは、呻き声か? さっきまで聞こえてた騒音からまだ喧嘩は始まったばかりだと思ってたんだけど……もう終わったのか? もしかしたら強力な能力者でもいるのか?
もしもの時の為に落ちていた石ころを拾い、いつもポケットに入れているハンカチわ取り出す。俺が使える数少ない武器(?)の一つ、石つぶて飛ばしです! いや、武器かどうかも怪しいんだけどね……でもどこでも入手できて整備いらず、かつ意外と強力なのですよ。使ってみて初めて分かる便利さです。
いつでも逃げるor反撃出来る様に呼吸を整え、そーっと曲がり角から顔だけ出して様子を窺う。暗くてよく見えないけれど、何人か倒れている様子だけは確認できた。
「よっ、と……」
近くで倒れている男を軽く蹴ってみる。気絶しているみたいで、鼻が綺麗に曲がって鼻血がドバドバ出ていました。これは痛い……周囲に目をやると、全ての男達は倒れて気絶しており、悪夢でも見てるのかうんうんと呻き声だけ上げている。
というかこいつ等をぶちのめした相手はどこいった? というかやり方が中途半端すぎる。普通なら自分達に逆らわない様に徹底的に痛めつけててもおかしくないのに、こいつ等はただ気絶させられているだけで怪我自体は重くても骨折が良いところだ。それに財布とかを漁られた形跡も……
瞬間、ゾワッとする寒気が俺の体を走った。
寒気というか、怖気というか……これは前にも似た様な感覚を味わった事があるぞ。しかも極々最近、俺が大怪我をする原因のあの時だ。目の前に怪物ともいえる相手がいて、それにどうしても立ち向かわなくちゃならなかった時の……
ゆっくりと顔を後ろに向ける。それと同時に暗闇には似つかわしくない真っ白な何かが視界に入ってきた。その白は赤い視線を俺へ真っすぐ向け、驚いたような、イラついている様な表情をこちらに向けてきている。先程まで聞こえていた男達の呻きも、遠くで聞こえていた車の音も、何もかもが消えた様に路地裏を静けさが覆う。
「『一方、通行』……」
「テメェは……」
『一方通行』がこちら向けて一歩踏み出し、俺は無駄と分かっていても持っていた石をギュッと握る。冷や汗と動機が凄い……というか、息が苦しい。潜在的な恐怖感か? 実際の一方さんは優しいと分かっていても、あの時俺を痛めつけた光景が重なる。
やっぱり、無理なんかするんじゃなかった……と考える俺に向けて一方さんは歩を進める。
<おまけ>
「全く、あの人はミサカの話を聞いてくれないんだから、って憤慨しながらミサカはミサカは急ぎ足で追いかけてみる」
そう言いながら『打ち止め』は先に行ってしまったフレンダの元へと急ぐ。多分自分を心配して先に進んだのだろうが、それ以上に『打ち止め』はフレンダの事を心配していた。
「あの人は無茶ばかりするもんね、ってミサカはミサカは独り言の様に呟いてみたり」
『打ち止め』自身フレンダと出会った事はない。『MNW(ミサカネットワーク)』と呼ばれる『妹達』が構成している特殊なネットワークを通じてその存在を知っただけだ。とてもお人よしで、自分達の様なクローンを人間として扱ってくれた人……初対面のクローンという存在に対してそんな事を言ってのけたのは今まで彼女と上条という人物だけだ。
(そんな人を危ない目に会わすわけにはいかないよ、ってミサカはミサカは心の中で呟いてみたり)
だからこそ、そんな彼女だからこそ今から出会う人物の心の支えになってはくれないだろうか? 自分の心を殺した第一位を救い、許してくれるのではないだろうか? 無論、彼女に怪我を負わせた第一位を彼女が許してくれるとは到底思える事ではない。だが、彼女ならはもしかして……と『打ち止め』はそう考える。
そんな『打ち止め』の視界にとうとうフレンダの姿が映る。そしてその前に立つ第一位の姿も……