「ミサカネットワーク」
「あ、『打ち止め』ちゃん。その辺はまだ片付けてないから歩き回らないでね」
「はーい、ってミサカはミサカは素直に承諾して向こうの部屋で遊びにいく!」
俺の言葉を聞いた『打ち止め』は走って隣の部屋へと向かっていく。それを見届けた俺はそのまま部屋の片づけを続けるのですよ。
ん? 今何をしているのかってですって? うん、部屋があんまりにも汚い……というか、色々と散らかり過ぎているからお片づけの最中です。別に一方さんはこの事件の後黄泉川先生の家に行くから片付けても意味ないんですけど、正直暇すぎるので始めてしまったら止まらなくなっちゃったんです! 黙ってこの部屋に居て気まずい空気になるよりは全然良いしな。
本音を言うと今すぐこの二人からは離れた方が良いと思うんだけど、朝切羽詰まったように見せかけた電話を麦のんとしたばかりなのに、それから数時間程度で帰ったら確実にオシオキされてしまう。それならどこかに逃げていれば良いんじゃ? っていうのもナンセンス。麦のんの勘、滝壺達の情報網さえあれば俺がどこにいても見つけられる気がして堪らないのです。よって今ここから出るのはNGなんですよ……マジでどうしたもんか。
「ま……考えるのは後かな……」
気を紛らわすために独り言を呟き、掃除の続きを始める。ちなみにさっき『打ち止め』が行った部屋は既に片付けを終えています。『打ち止め』は未だに裸足なので、ガラスが散乱しているリビングとかは危なくてハラハラするから、先に向こうの部屋片付けておいた。簡単な片付けしかしてないけれど、危ない物が落ちていたりする事はない筈だ。乙女の柔足を傷つけたら一方さんに何されるか分かったもんじゃないしね!
「るーるるー♪」
鼻歌混じりに掃除を進めていく。というか、ガラスとか壊れた家具が散乱してるから汚く見えるだけであって、一方さんの部屋は非常に物が少ないです。冷蔵庫、テレビ、ベッド、テーブル等の一般的な家具くらいしかないっぽい? 例えば趣味的なものとか本とか、青少年に必須のアハンウフンなブツとかは影も形も見当たりませんね。こんな部屋で生活してたら一時間もせずに暇で死ぬ自信があるぜ……
ちなみに一方さんは現在ボロボロのソファーで横になったまま動かない状態です。朝食食べ終わったらすぐに寝転がってしまったので、多分二度寝でもしてるんじゃないでしょうか? 多分というのは本当に寝ているのか、さっぱり分からないからなんですよ。朝の時もそうなんだけど、一方さんは寝てるのか死んでるのか分からない位動かないのでね。
「そういえばお昼御飯はどうするの? ってミサカはミサカは朝御飯の美味しさに続いてお昼御飯の期待もしつつ口にしてみたり!」
「え? あー……」
隣の部屋から顔だけ出した『打ち止め』がそう口にする。麦のんと話をするまでは、すぐにここから出ていこうと思っていたから何にも考えてなかったわ。朝御飯の時に買っておくべきだったかな?
「まだ考えないけど特に何も無いから……買い物してこないと駄目かなー」
「ミサカは朝の残りでも良いよ? ってミサカはミサカは貴方に気を使ってみたり」
「そんな所で気を使わないの」
外食が楽そうではあるが、麦のん達に見つかる可能性があるからあんまり利用したくないのよねぇ……その辺りもどうにかしないと……
「まぁ、後でゆっくり考えようか。時間はまだあるしね」
「はーい! って、ミサカはミサカは元気よく返事をしてみる!」
本当に純真な子やでぇ……というか、実際年齢的には何カ月単位のレベルのなんだけどね。真正のロリキャラ。そして他の『妹達』は合法ロリって奴か……ゴクリ。
でも、今俺の目の前で笑ってる『打ち止め』は、正確な時間は覚えてないけれどそろそろ倒れる事になっちゃうんだよねぇ……物語上どうしようもない事ではあるけれど、せめてそれまでは一緒にいて美味しい物でも食べさせてあげよう。本当はどこかの料理屋とかに連れて行ってあげたいくらいだぜ……
「はぁ……」
半分開き直った頭で考えてみると、本当に俺は外道だなぁ。物語上仕方ない、という建前だけれど、実際は目の前で苦しむであろう『打ち止め』を見捨てます、と言っている様なモンなんだよね。『絶対能力進化計画』の時も自己嫌悪しまくってしまったけど、今回もそんな感じになってしまいそうだぜ。
でもこの事件が起きなければ『打ち止め』と一方さんが一緒に住む事がなくなって、原作から外れるどころか一方さんが救われる事かなくなってしまう気がする。ついでに『打ち止め』だってどうなるか分からない。原作の様に上手くいったのは、マジで偶然に偶然が重なったせいだろう。しかも一方さんの黒翼イベントが起きなかった場合、どれだけイベントを逃す事になるか分からんからなぁ。特に垣根との戦いや、ロシアでの戦い時は黒翼必須だったと思うしな。
「どうしたの? ってミサカはミサカは急に難しい顔して黙った貴方を心配してみたり」
「あ……」
いかんいかん……気取られた所でどうというところではないけれど、無駄に心配させたりするもんじゃないな。とりあえず難しい事は考えない様にして、これからどう動くかだけを考えよう。どうせ考えたって、俺に出来る事は限られてる。
「ごめんね、少しボーッとしてた」
「ううん、ってミサカはミサカは全然気にしてないよって貴方にアピールしてみたり!」
そう言って笑顔を浮かべる『打ち止め』に対し、こちらもニコリと笑みを浮かべて対応する。その笑顔でまた気分が落ち込みそうになってしまったが、出来るだけ考えない様にして掃除の続きに移った。
*
「ふぃー」
右腕で額に流れる汗を拭いながら部屋へと視線を移す。
なんということでしょう、あんなにガラスや残骸が散乱して危なかった室内が、部屋の端にあるゴミ袋以外全く見当たりません(ソファーの上に寝転がってる白い『超能力者』は除く)。更にベッドもシーツがかけられ、まるで新品の様に(中身はボロボロ)。
うん……すまない、悪乗りしてしまった。とりあえず外見だけはかなり綺麗になりました。まぁ、主目的は『打ち止め』の足が危なかったから片付けただけで、部屋の見た目を綺麗にしようと思ったわけではないんだけどね。部屋の隅にはゴミ袋に詰めた色々な残骸などが入っています。『学園都市』のゴミ袋はどんな加工されてるのかしらないけれど、ガラス程度では破けませんので安心。というか銃弾でも貫けない……とかいう謳い文句が書いてあります。何の目的で作られたんだろうね?
「終わったの? ってミサカはミサカは綺麗になった部屋を見ながら疑問を口にしてみたり」
「とりあえずはこんなモンかな? 本当は全部綺麗にして家具とかも揃えてみたい気もするんだけど……」
「それまでやっちゃうとまだまだ終わらないね、ってミサカはミサカは貴方の綺麗好きっぷりに少し呆れてみたり」
いや、別に綺麗好きって程でもないんだけどね……ただ、散らかってるのを見ると、無性に片付けがしたくなってしまうのは否定しないけど。こ、これも全部麦のん達のせいなんだい!
掃除が終わった後の満足感に浸っていたら、急にきた空腹感に眉を顰める。掃除に集中してたから特に感じてなかったけれど、もうお昼を少し過ぎた時間なのね。朝御飯食べたの自体が結構早かったしなぁ……
「『打ち止め』ちゃん、お腹空いてる?」
「お腹空いたー、ってミサカはミサカはホームレス中に味わった空腹感をまた感じつつ口にしてみたり」
『打ち止め』の言葉にホロリ、と涙が零れそうになったけれどそれは我慢する。朝買ってきた食材がまだ少し残ってるし、簡単なお昼御飯でも作るか……だけど、『打ち止め』が倒れた時間を詳しく覚えている訳じゃないし、そろそろ離脱しないと危ない気がする。本当ならそろそろフェードアウトしなくちゃいけない頃なんだろうけど……
だけど俺の足元で空腹に苦しんでいる(と思われる)『打ち止め』を放っておくなんて出来ない訳ですよ。いや、後どれくらいか詳しく分からないけれど、倒れる子供のお願いは聞いて上げたいのが人情って奴でしょう。なぁに、まだ時間的には大丈夫(な筈)さ!
「んー……御飯があれば炒飯にでもするんだけどな……サンドイッチは朝食べたし、どうしようかな」
「ミサカはサンドイッチ美味しかったから、またそれでもいいよー」
「んー……」
芸がないんで嫌なんだけどなー……麦のん達は二食続けて同じ物を出すと不機嫌になるので、本能的にそれを避けようとしているだけなのかもしれないけど。んー、あるのは食パン、卵少々に各種調味料か……やっぱり物足りない。
「んー、お買い物にでも行こうかな? 簡単な物買って食べるのもいいかも」
「おー、じゃあミサカも着いていきたい!」
え? って言っても、貴方のその格好だと物凄い目立つんですけど……
「駄目、かな?」
「んんー……」
この辺りの店は『武装無能力集団』を相手にしてるだけあってか、割と周囲でいざこざがあっても無視してるみたいだったから、大丈夫かなぁ? 毛布いっちょの幼女を連れまわすのは本来勘弁願いたい所なんだけど、『打ち止め』が着いていきたいって言うのであれば……
「……分かった、じゃあ近くにあるコンビニまで一緒に行こうか」
「うん! ってミサカはミサカは嬉しさのあまり飛び跳ねてみたり!」
……やっぱり、こう見ると普通の女の子だねぇ。『打ち止め』……というか『妹達』は実験がなければ生み出されなかった事は確かなんだけど、それでも普通の家庭に生まれていればこんな辛い経験をする事もなかったんかなー……考えれば考えるだけ落ち込んでしまうわ。嫌な気分にしかならないね。
とりあえずこんな事を考えるのは後だ。まずは買い物に行って御飯を作る、それだけを考えるとしましょうかね。
*
キングクリム(ry
いや、買い物してきただけであって、別に何かあった訳じゃないしね。途中で余った食材と合わせて作れるものを考えて牛乳とバター買ってきただけだし。ただコンビニの店員に白い眼で見られたけども……違うんです、『打ち止め』が毛布しか着てないのは俺のせいじゃないんですぅ。
「牛乳とバター買ってきたけど、これ使って何を作るの? ってミサカはミサカは貴方に疑問の視線を向けてみたり」
「そんなに難しい物じゃないよ。『打ち止め』ちゃんは少し向こうで待ってて」
「えー、手伝ってみたいかも。ってミサカはミサカは口にしてみたり」
「にひひ、出来あがるまで何が出てくるか分からない、っていう楽しみを『打ち止め』ちゃんに教えてあげたいのさー♪」
その言葉に『打ち止め』が眼を丸くする。
「おぉ、それは未知の体験かも!? ってミサカはミサカは眼を輝かせてみたり」
「それじゃ、少し向こうで待っててねー」
「はーい、ってミサカはミサカは猛ダッシュ!」
そう言って『打ち止め』はリビングへと走っていく。あっちには一方さんが二度寝してるから静かにしててあげて欲しいんだけど……まぁ、一方さんが『打ち止め』に手を出すとは到底思えないけどね。さーて、さっさと作ってしまおうかな。
まずは食パンを手頃な大きさにカットします。そしてとりあえず何でもいいんで、ボールか何かに卵、砂糖、牛乳を適量……いや、適当な訳じゃないよ? 何となくなだけだよ。そしてそれに先程カットしておいた食パンを軽く浸します。あんまりベチャッ、と浸さない様に注意しましょう。まぁ、この辺りも好みで良いですが。
準備を終えたらフライパンを熱します。この時にバター(さっきのサンドイッチで使った余り)を使うのがポイント。非常に風味と良い香りが出るんですよねー。個人的にバター大好きだし。そしてフライパンの熱の様子を見て先程の食パンを投入! かるーく焦げてもいいので、様子を見ながら両面を焼きましょう。
んー……良い臭い。思わずヨダレが出てしまうけれど、我慢して最後の仕上げにいきますよ! 適度に両面を焼いたら弱火にして蓋を閉めます。この時に焦げてしまわない様に注意をしながら焼いていきましょう。頃合いを見計らって蓋を開けると……
「ほいっ……かんせーい」
うーむ、辺りに立ち込めるバターの香り……フレンダ特製フレンチトーストの完成でーす。簡単レシピだし、材料もそんなに高くないから良いよね! 臭いもすげぇ美味そう……胃が引き攣りそうです。
よーし、とりあえず適当に更に盛って、余った牛乳も飲んで処分しちゃいましょう。牛乳にフレンチトースト、人数分の皿とコップをお盆に載せてっと……
「さてっと……」
とりあえず作り終わったけれど、これからどうするか『打ち止め』と一方さんがいない内に簡単に決めておかないとな。原作で『打ち止め』が倒れたのはお昼御飯を食べてる最中……だったかな? 一方さんが少し遅れたか何かで遅めの昼食になっていた筈。時間的にはまだお昼を少し過ぎた位胃の時間帯だし、とりあえずこれを食べてからでも大丈夫だいじょう……
「あ……ああー!?」
ここで俺は重大……いや、単純なミスに気が付きました!
大丈夫じゃないに決まってるでしょ!? ここでお昼御飯食べたら『打ち止め』と一方さんがお話をするファミレスに行く用事がなくなる。そして、天井が『打ち止め』を発見する事もなくなってしまう訳だ。結果、どうなる……? 少なくとも一方さんが怪我を負う事はなさそうな予感がする。
「ど、どうしよう……このままトンズラするか……?」
いや、ここで逃げたらそれこそ一方さんに疑惑の眼を向けられてしまいそうだ。何より出口はリビングを通らなきゃいけない訳だから、二人に気付かれずに抜け出す事は不可能だ。大体いきなり出ていくのは余りにも不自然すぎる……一方さんに実験関係者だと疑われた時点で死亡が確定してしまうのだから、慎重に行動しないと……
「いきなり叫び声が聞こえたけど何かあった? ってミサカはミサカは心配して顔を覗かせてみたり」
「うぇっ!? だ、大丈夫大丈夫、少し焦げそうになっただけだから!」
「そう、良かった! ってミサカはミサカは何事もなかった事に安心してみたり」
うぐっ! 何という純真な笑顔なんだ……打算的な考えしかしていない自分があまりにも情けなく、そして汚く感じてしまうぜ……
しかし良い考えが浮かばない。もう昼食を出さない訳にはいかないし、これは詰んだかも分からんね。ズルズルと流されてしまった自分が悪いんだけどね……これなら最初から麦のん達と行動しておいた方が良かったのか……
……いや、諦めるのはまだ早い筈! 確かに詰んでしまっているように見えるけれど、絶対どこかに突破口はあるよ! というか、見つけないと終了のお報せなので、どうにかしないといけない。もういざとなったら強引に外に連れ出そう、そうしよう。とりあえず逃げる訳にもいかんので、お盆を持ってリビングに向かう。
「あ」
「あ、ってなンだよ。昨日も同じ反応してなかったか、テメェ」
「いや、さっきまで寝てたから起きてるのに驚いちゃって」
「そこのクソガキがうるせェンだよ」
「だってお昼御飯だもん、貴方も起きなきゃ駄目でしょ?ってミサカはミサカはブー垂れてみたり」
流石はロリコンェ……幼女の言う事はホイホイ聞いちゃう一方さんは真正ですね。まぁ、冗談はさておき、飯を出します。本当は出したくないけれど、もうやけくそじゃー!
「おおー! これは何?」
「フレンチトースト、簡単で美味しい主婦の味方だよ♪」
主婦じゃないけどね。でもフレンチトーストは簡単だし、割と適当な分量で作ってもそれなりの形になるから重宝する。特に滝壺が好んで食べるから良く作るんですよ。ただカロリーは中々のものなので、その辺りに注意して食べましょう。
「すっごく良いにおい! ってミサカはミサカはヨダレを垂らしながら野獣の如き視線をフレンチトーストに向けてみる!」
「にひひ、じゃあ食べようか」
「はーい!」
「……」
相変らず一方さんはノリが悪い。けどまぁ仕方ないか……『打ち止め』というか『絶対能力者計画』の事で頭一杯だろうし。
「じゃあ、両手を合わせて……」
「「いただきまーす!」」
相変わらず一方さんはいただきますしてくれません。明るくいただきますする一方さんも怖いっちゃ怖いがね。それに反して『打ち止め』はフレンチトーストを食べた瞬間から笑顔を浮かべて美味しそうに食べている。本当に心休まるなぁ……施設の子達元気にしてるかな? ちゃんと御飯食べてると良いけど……田辺さんもいるし心配いらないか。
「んぅー……美味しいー! ってミサカはミサカは感激してみたり」
「甘ェ。つーかテメェ朝飯の時も似たような事言ってなかったか?」
「美味しい物は美味しいんだもの。それに皆と食べる御飯は美味しいから、てミサカはミサカは食べるのを止めずに口にしてみたり」
「照れるなぁ」
つい口にしてしまった……自分が作った物を褒められるのは嬉しいからね。麦のんは滅多に褒めてくれないし。にひひと笑いながら口にした言葉に対し、『打ち止め』も笑顔を浮かべて応えてくれた。対する一方さんは大きく溜息を吐くと特徴的な赤い眼をぎろりと見開く。怖すぎます。
「昨日も言ったけどよォ……オマエ等どういう神経してやがンだ? オレがオマエ等にナニやったか忘れちまったってのか? 痛かったし、苦しかったし、辛かったし、悔しかったンじゃねェのかよ」
『打ち止め』に対してそう言った後、一方さんは俺にも視線を向けてきた。今のは俺に対しても言った言葉だったのね。いや、俺の場合は完全に自己責任なんで、全然恨んでないし復讐しようなんて考えはないのでご安心を。痛かったし苦しかったのは否定しないけどね。
『打ち止め』はその言葉を聞いて最初は「うーん」と唸ってたけど、一方さんを真っ向から見返しながら口を開いた。
「ミサカはミサカは現在9969人全てのミサカ達と脳波リンクで精神的に接続されているんだけど……その脳波リンクが作るネットワークがあるの」
「人間でいう集合的無意識って奴か?」
ごめんなさい、専門用語多すぎて何言ってるかさっぱり分からないです。ただ一つだけ分かるのが、多分ミサカネットワークについて説明してるんだよね、これは。と、いう訳で俺は蚊帳の外にいるけども、説明はどんどん続く。
「それとは少し違うかも? 脳波リンクと『妹達』の個体一つ一つの関係は、シナプスと脳細胞みたいなものなの。ネットワークを一つの巨大な脳だとすると、『妹達』は脳の指示の従う構成要素みたいなものかな、ってミサカはミサカは説明してみる。もっと簡単に言えば、『妹達』はネットワークから与えられる指示に従って行動する体の一部一部」
「……」
「例えば『妹達』の一人が死亡しても、ミサカネットワーク自体には大きな支障はない。人間の脳細胞が一つ失われた所で脳の機能に影響がないのと同じで、その機能が失われる事はないの、ってミサカはミサカは言ってみる。まぁ、脳細胞が消滅してしまってその『妹達』が蓄積した経験を失うのは痛いけれど、ネットワークが完全に失われる事はない。失われる事があるとすれば。それはミサカ達が全て死に絶えてしまった時だけ……」
『打ち止め』の声が少しだけ低くなったと同時に、一方さんの雰囲気も変わる。だけどそれは威圧感とか殺気とかそういうんじゃなくて、何と言うか……これはアレだ。何となくだけど、一方さんは怯えてる感じがする。
「だけどね、それは違うんだ。ってミサカはミサカは口にしてみる」
「ァ?」
「『打ち止め』ちゃん……?」
一方さんに向けていた視線を『打ち止め』に移した瞬間、俺は息を呑みました。つーか、息を吸うのも忘れたかもしれない。半端じゃない目付き……いや、目付き自体は全然変わってない。変わったのはその雰囲気……怒りじゃない、けど明確な何かを持った『打ち止め』がゆっくりと口を開く。
「ミサカは教えてもらった、ってミサカはミサカは口にしてみる。ミサカは全体としてでなく、一人一人に価値があるんだって。例え同じミサカであろうとも、ミサカが死ぬ事で悲しんでくれる人がいるんだって事を教えてくれた人達がいるから。だからミサカは死ねないし、死なない。これ以上は誰一人として「死んでやる事は出来ない」、ってミサカはミサカは考えてる」
なんつーか……すげぇ重い一言だな。擬似体験といえども、感覚を共有して死ぬ事を知っているからこそ言える一言か? 普通の人は死んだらそれまでだし、この一言を言える奴なんていないんだろうなぁ……俺みたいなその場しのぎで適当な嘘ついて、自分だけ助かろうとしてるちっぽけな奴とは大違いかも……いかんいかん、自己嫌悪してどうする。
「はっ……」
対して一方さんは弱弱しく息を吐き出すと、ソファーに深く座り込んだ。何かアレだな……さっきまで滅茶苦茶怖かった一方さんが、今ではやたらと小さく見える。何か言おうとして口を開き、そのまま口ごもる様に閉ざすのは、どこかで見た事ある光景だ。施設の子供達が悪戯をして、それに対して謝ろうとするけど上手く言葉が出ない、それに似てるかもしれない。
「でもね」
そんな俺と一方さんの雰囲気を壊す様に、『打ち止め』がゆくりと口を開いた。
「貴方には感謝してるんだ。貴方がいなければこの実験もなく、『妹達』が作られる事はなかった。貴方がいたから、私達はこの世に生まれてくる事が出来たの。って、ミサカはミサカは感謝してみる」
「……ンだ、そりゃあ」
一方さんがイライラした口調で深く座り込んでいた姿勢を正しながら口を開く。
「意味分かンねェな。確かに産ンだ原因は俺かもしれねェが、それでも感謝って言葉は可笑しいだろ。どっちにしようが、俺がオマエ等を喜んで望んで殺しまくった事に変わりねェだろうが」
一方さんの自虐する様な一言……まるで開き直った子供みたいな言葉。やったことはやったこと、それは悪い事でもう取り返しがつかない事だ。一方さんが『妹達』を殺しまくった事実は消えないし、変わらないのは間違いない。だけど……だけどさ……
「「嘘」」
驚いた様子で『打ち止め』が俺に視線を向ける。不機嫌そうな顔のまま一方さんが俺に視線を向ける。
つーか、今俺何した? いや、分かってる……自然と口から洩れた一言が、偶々『打ち止め』と一緒の言葉だった、それだけだ。口に出すつもりは全くなかった、だけど……一方さんを見ていたら、自然と口からその一言が漏れてしまった。
「あ、えっと……」
やばい、若干パニック気味。先程まで饒舌に話していた『打ち止め』は、真面目な顔をして俺に視線を向けたまま黙ってるし、一方さんも特に何か言う様子はない。ど、どうしましょう……これだから俺ってばバカね! つーか何で口に出したし。
えぇい……とりあえず俺が話進めなきゃ駄目って事でおk? 原作での話の内容みたいに進めないと……少ししか覚えてないけど。
「『一方通行』……」
「なンだよ……」
「貴方、本当は実験なんてしたくなかったんじゃないの?」
「はァ?」
一方さんがキチガイでも見たかのような顔をする。いや、確かに何言ってるのコイツ、って感じはあるかもしれないけれどね……とりあえず口にしてしまった手前、もう引き下がれない。俺って本当に考えなしすぎる……もうちょっと平穏な人生を送りたいです。
「オマエも俺に何されたか忘れちまってるみてェだな。俺が嫌がって実験やってる様に見えたか? 手加減してる様に見えたか? 残念、俺はオマエ等の命なンざァ気にしてなンかいなかったンだよ」
「少なくとも手加減はしてたよね。私もミサカも、貴方が本気を出せばそれこそ一秒もかからないで微塵にされたって不思議じゃない」
「遊ンでたンだよ」
「そうだったかもね……だけど、遊びって理由だけじゃ考えられない事があるよ」
一度大きく息を吸って口を開く。
「どうして、ミサカに声をかけたの?」
「はァ?」
「答えられる?」
「それは……」
「私はあの時、近くにいたんだ。怖くて、ミサカがあんなに怪我をするまで中々出る事が出来なかった。その時、貴方はミサカに対して何度も声をかけていた。それは何故?」
すんません、ただ麦のんと上条さん早く来ないかなー、って待ってただけです。まぁ、怖くて出られなかったのは本当だけど。
「それを毎回やっていたのかどうかは私には分からない。だけどミサカが全然動揺も疑問もしてなかった所を見ると、貴方は毎回あんな事をしていたんじゃないかな?」
「……」
「遊びでやるには少しおかしいと思う。それなら貴方の圧倒的な力で捩じ伏せればいいだけだからね。だけど、貴方はミサカに対して声をかけていた」
「テメェ……」
「これは私の勝手な推測だけど……貴方は、ミサカに逃げてほしかったんじゃないかな」
原作だと、否定して欲しいでしたっけ? そんなニュアンスだった気がするけど、流石にそこまでは覚えてないな……
「ミサカにかけていた言葉、まるで相手を脅しかける様な言葉だった。あんなの聞いたら、私は怯えて動けなくなっちゃう。わざわざそんな言葉をかけたのは、それが理由じゃないかなって思ったの」
実際、一方さんにあんな事言われた日にゃ気絶する自信があります。
「これは私の勝手な妄想だけどね」
「ハッ……下らねェ考えだ。しかも俺はオマエを殺そうとまでしたンだ、そんな相手にかける言葉でもねェ」
「だから言ったでしょ。貴方が本気になれば私なんて一秒もかからない、そんな私が今日ここで息をしてるのは、貴方が手加減したという決定的な事実なんだよ」
「……」
「……ミサカは」
おっと、ここでようやく『打ち止め』さんが口を開いてくれました。というか、俺に任せすぎですよ『打ち止め』さん! 正直もうこれ以上言える事がなくなってて、どうしようかと思っていた所ですよ。
「ミサカ達は、貴方のサインに気付く事は出来なかった……ただの一度さえ、気付けなかったの。って、ミサカはミサカは後悔してみる。でも、もし仮に……ミサカが戦いたくないって言っていたら、貴方はどうしたの? って、ミサカはミサカは終わった選択肢を聞いてみる」
その言葉を聞いた一方さんは眼を見開き、何かを反論しようと口を開きかけたが、やがて「クソが……」と一言呟いて天井を見上げた。ふぅ……細かい部分は違うだろうけど、これで大体原作通りでしょうか? 額に流れる汗を拭いながら『打ち止め』に視線を向けると、笑みを浮かべながらこちらを見ていました。
「やっぱり貴方を連れてきて良かった」
「え、いや……別に私がいなくても大丈夫だったと思うよ。だって『打ち止め』ちゃんなら」
「ううん、私だけじゃこんなに綺麗に収まらなかったと思うの、ってミサカはミサカは口にしてみる」
そう言って『打ち止め』は俺の手を握る。
「本当にありがとう。ミサカ達だけじゃなく、あの人も貴方は救ってくれた……」
「い、いや……」
照れるというか……打算でやっていた自分が恥ずかしくなる言葉を言わないでほしい。如何に自分が自分本意な人間か思い知らされてしまう。確かに咄嗟に一方さんに対してあんな事言ったけれど、本当は『打ち止め』に全部任せる気満々だったしな。うぐ……恥ずかしくて顔が熱くなってくる、それに『打ち止め』に握られた部分まで熱くなって……
って、これは俺の体温じゃなくない? と考えるのと同時に『打ち止め』の体が倒れ伏した。
<おまけ>
「……OK、分かったわ。アンタ達も合わせて探して頂戴」
『すみません麦野さん……フレンダさんの言い分を全部信じてしまた俺の責任です。きっちりケジメは付けますから……』
「下らない事をしなくてもいいわ。今はフレンダを探す事に集中して。責任を感じてるのなら、結果を出しなさい」
『……分かりました』
そう言って『武装無能力集団』の相手が電話を切ると同時に、麦野はその隣に置いてあったゴミ箱を蹴倒した。大きな音と共にゴミが辺りに散乱し、強烈な臭いが広がる。
「麦野、焦った所で自体は好転しません。超落ち着いて下さい」
「分かってる……!」
フレンダの情報が入ったのは、麦野が電話した『武装無能力集団』からのものだった。それによると、何と『一方通行』の居場所を探しているという物らしい。麦野の指示を受けたという旨も伝え、そのままどこかに行ってしまったそうだ。
「ふれんだ……」
滝壺が祈る様に腕を組み、絹旗は不気味に静かなまま立っている。麦野は苛立ちを隠そうともせずに携帯電話へと視線を向けた。
(アンタ、今どこにいるのよ! また無茶ばかりして……!)
<あとがき>
今回は大変遅れてしまい申し訳ありませんでした! 次も少し遅れてしまいそうですが、必ず戻ってきますので気長に待って頂けたらと思います。
そしてぶれまくりの主人公ですが、それには必ず理由があります。まだその理由はあかせないのですが、それも今後の物語で明らかになっていく予定です。無駄にお人よしで優柔不断な主人公を見守ってくれたらと思います。