「とある奴隷の日常生活(これから)」
どうしてこうなった……
「早くしなさいよ愚図。荷物はまだまだあるのよ、日が暮れちゃうわ」
ソファーで寛ぎながらそう言う麦のんの顔は悪魔のような笑みを浮かべており、対する俺はロビーと、これから麦のんと俺が生活する二人部屋を何度も往復している。そして俺の手には大量の荷物(主に衣類)がある。
──荷物は私の部屋に届けなくていいわ、奴隷にやらせるから──
とか言って麦のんはマダオと、一緒に来ていた引越し業者らしき大人達を追い返した。そしてロビーに運び込まれる大量の荷物類……幸いだったのは家具自体はここの施設で用意するために無かった事であるが、それにしても荷物の量は半端ではない。
特に施設に入るのに何でこんなに服がいるねん、と言いたいくらい服は多い。しかも一着一着がかなり高そう……っていうか麦のんに「一着でも床に落としたら殺すわよ」、と伝えられているので実際高い物っぽい。
あ、ちなみに田辺さんは手伝おうとしてくれたんだけど、麦のんはそれすら許してくれませんでしたよ! という訳で俺は何度も何度も部屋を往復するハメになっている。
ホントね、どうしてこうなったと言いたい。声を大にして叫びたい。精神年齢こそ大学生だけど、肉体年齢はせいぜい小学一年生程度の体にこの重労働は本気でキツイ。腕はプルプル震えてるし、汗も凄い事になっている。正直もう休みたいです……あ、冷静に考えると今俺はフレンダの汗の臭いを直に嗅げてるのか。そう考えるとこれはこれで悪くないような気もするね、不思議!
……ん? そういえば俺こんな状況になっても特に違和感なく適応しちゃってるけど、トイレとかお風呂とかの事忘れてた。というか、考えても特に気にならないのは不思議だわ。大人の俺だったらすぐにこれで同人誌一冊描けるね! とか考えそうなモンだったけれど、今は興奮すらしないなぁ。もしかして転生した時の幼女の記憶と混ざっちゃって、女としての生活に慣れる様適応されたのかな? まぁそれならそれで便利だから良いんだけどね。トイレとお風呂でいちいち興奮してたら、まともに生活送れないし。
まぁそんな事よりも今はまだまだ残っている荷物を早く運ばないとなぁ、と軽くため息を吐いて俺はロビーへ向かった。
*
「ち、ちかれた……」
そう呟いてドサッ、と自分のベッドに倒れこんだ。反対側の壁際には麦のんのベッドがあり、麦のんはその上に座って呆れた視線を俺に向けている。
「情けないわね、家具とか運ばせなかっただけありがたく思いなさいよ」
実はあの後、俺が荷物運んでる最中とてつもない量の家具が届けられまして、それは流石に業者の人達がやっていってくれましたが、麦のんはそれすら俺にやらせる気だったのか……今麦のんが座ってるベッドなんて俺が寝転んでいる施設の簡易ベッドなんて問題にならない程重厚な作りになっており、この体で運べるものとは到底思えない。他にも年代物っぽい感じがするタンスとか、高価そうな置時計とか目白押しだ。ベッドとぬいぐるみくらいしかない俺の方と比べると、部屋の占有率が物凄い差になっている。
そこで俺の目に気になる物が写った。ベッドの横に置いてある何か大きな物。多分俺よりも大きいんじゃないかと思われるそれはすっぽり袋に収まっているため何かは分からないが、袋の上から見る感じ固い物ではなさそうな感じだ。そう、何か柔らかくて大きな物が入っている様な感じである。
俺がそれを訝しげな視線で見つめている事に気がついたのか、麦のんは焦った様子でそれを自分の後ろへと隠した。まぁ大きさ的に全然隠せてないんだけどね。しかしアレは一体何なんじゃろ?
「人の荷物ジロジロ見てんじゃないわよ!」
怒られた。まぁ確かに人の私物をジロジロ見るなんて良いことじゃないよね。
しかしこうして見ると、麦のんマジで美人だわ。原作知識で考えると、年齢はフレンダの二、三歳程度しか上じゃないんだろうけど、今の状態でもすげぇ美人。茶色の髪はパーマかけてるのか癖毛なのか分からんけどふわっふわだし、服着てるから細かい所までは分からんけど肌はシミ一つ無い。
そしてあのおっぱい。けしからん……実にけしからん。フレンダがちっぱいどころか絶壁(年齢考えれば当たり前だけど)なので余計気になるが、小学○年生であれは反則だ。レッドカードで即退場くらい反則だ。一瞬だけ詰め物でもしてんのかとか思ったけど、もし口に出ちゃったら今までにないほどの死亡フラグが立つ気がするので心の中に封印しておこう。
しっかし麦のんの荷物マジで凄いな……ベッドが重厚とか置時計がどうとか言ったけど、それ以外にも化粧道具っぽいものとか服以外にもアクセサリーとかみたいな小物も大量にあったりする。多分あれ一つで何回も吉○家の牛丼食べられる位の値段がするんだろう。
こうして考えてみると、麦のんが『置き去り』の施設に住むなんていう理由が益々分かんないなぁ。実家は多分だけどお金持ち、『超能力者』としての莫大な収入とか援助があるだろうに、どうしてこんなせまっちい部屋に住むことになったんだろうか? まぁ『超能力者』の生活なんて一方さんと御坂以外は良く分からないし、あの二人は居候と寮生活だからどこに金かけてるのかも分かりにくいけれども。
そんな風に考えていると、突然麦のんの置時計がオルゴールの様な音と共に、中に入っている小さい人形が踊り始めた。って、もう七時かい……道理で疲れと共に俺のお腹がハングリーになってしまっている訳だな。
「あら、もうこんな時間。ご飯でも食べましょうか」
麦のんも態度にこそ示してなかったけど、お腹空いてたらしくすぐに立ち上がって部屋から出て行った。俺も慌てて先に続く。
先を歩く麦のんの後ろに着いて廊下を歩く。歩幅が違うからなんだけど、麦のん結構足が速いから、この体だと着いていくのが結構大変だ。かといって現状「奴隷」の俺が遅れた日には、麦のんビームが炸裂しないとも限らない。折角生き残ったのに、これ以上馬鹿な真似をして死亡フラグを乱立するわけにいかないのでしっかり後に着いて行く。
やがて食堂の入り口に辿り着くと、そこで麦のんが立ち止まる。急に立ち止まられた為、俺は麦のんの背中に「わぷっ」、なんていう間抜けな声と共に顔をぶつけてしまった。正直恥ずかしかったので記憶から抹消したいぜ……
麦のんは入り口のドアに手をかけようともせず、俺にジッと視線を向けている。別に怒ってるとか不機嫌とかそういうんじゃないけど、何か訴えるような? あ、ちょっと不機嫌な感じになった……って、のんびり分析してる場合じゃないよ! む、麦のん俺に何か用なんかな……
「アンタは私の奴隷でしょ? ドア開けるくらい気を回しなさいよ」
……あ、そうなの。ドア開けて欲しかったの。まぁ、それ位ならお安い御用だけど。
「はーいなっ、と」
そう言いながらドアを開けると、麦のんは今の態度が多少気になったらしく顔を顰めて俺を見るが、言うほどの事でもないと判断した様でそのまま食堂へと入っていった。俺もそれに続いて食堂へと入る。
いやぁ、しかし麦のんの奴隷なんてなっちゃったけど、結構気を張ってないと、意外なところで麦のんの逆鱗に触れちゃいそうだな。このドアだって麦のんに言われてやっと気付いたくらいだし、麦のんの行動と目力で何とか理解していかないと……すっげぇ気ィ重いわ。これはもう麦のんに真っ二つにされるか、俺の胃に穴が空くかの競争になるんじゃ? とか考えてると、席に座った麦のんがこっち睨んでた。はいはい、俺が用意すればいいんですよね……心の中で反抗させてもらうけど、今の麦のん年下にご飯用意してもらってるダメな人なんだからねっ。
これ以上待たせると麦のんの怒りが有頂天になりかねないので、少女の記憶に従ってどうやって準備していたのか思い出す。思い出したとおりに冷蔵庫の隣にある棚を空けると、中にはお盆の上に乗った秋刀魚とサラダ、それと漬物(学園都市製サランラップにより完全密封状態)があった。それを出して秋刀魚だけレンジにいれてスイッチを入れる。さてその間に上の棚から茶碗と御椀を「チーン」って早いなオイ! 流石は学園都市のレンジ……やるじゃない。
均等に温まっている事を確認し、改めて茶碗と御椀を出してご飯と味噌汁をよそう。ちなみに味噌汁は冷えててダメになってるんじゃないの、って言いたげなそこの貴方。何とここの施設では、味噌汁はもう一つの炊飯器に入っているので冷える事はないのだよ! ていうか色々やれすぎて炊飯器じゃないだろこれ。黄泉川先生が炊飯器でアレだけの事が出来たのも納得出来るねこれは(色々機能付いてるけど説明すると長いので略)。
さて準備出来た。というか世界が違っても食べるもの自体は大して変わりはないんだなぁ。禁書目録の世界自体が現実の世界を模してるから当たり前と言えば当たり前なんだけど、これは予想以上に助かる。何せ飯が不味いとそれだけで俺は死ねる自信があるからな。
「準備できましたよー」
「ん、早く持ってきて」
「はいはい」
予想通り手伝う気ゼロの麦のんの前に食事を置く。それを見た麦のんが「しょぼっ……」とか言ってた気がするけどスルーして麦のんの対面に自分の食事を置いて座る。んんー、この味噌汁の臭いと秋刀魚の臭いは格別だね。作り置きでも美味しそうに見えてしまう不思議。では早速両手を合わせて。
「いただきます!!」
「はぁ?」
秋刀魚の身をほぐすように剥がし、上に大根おろしを乗せて醤油をかける。大根おろしと秋刀魚を合わせて口の中に運ぶと、大根おろしの何とも言えない苦味と秋刀魚の旨みが口内に広がった。そのままご飯を咀嚼すると、思わず破顔して呟くように口を開いた。
「うみゃい……!」
いや、本当に美味しい。作り置きとは思えないほど秋刀魚は生臭くなくて身がふんわりしてるし、ご飯は炊きたてと間違えんばかりの瑞々しさだ。学園都市の技術力なのか、それとも素材の良さなのかはさっぱり分からないが、自分の舌にはベストマッチしていると言える。こんな美味い飯が食えるだなんて『置き去り』も悪くはないね、とか不謹慎な事考えながら食事をする。あ、ちなみに味噌汁も超美味しいです。
「ねぇ」
「ん、ふぁい?」
と、至福の時間を過ごしてたら麦のんが声をかけてきたでござる。朝から浴び続けてるから分かるけど、今の麦のんは怒ってたりイライラしてる訳じゃなくて何か俺に尋ねたい事がある時の視線だ。だからこそ俺も飯食ったまま暢気に挨拶出来た訳なんです。麦のん怒りモードならここで飯とか全部置いて床に正座してます。負け犬根性万歳。
そんなおざなりの返事に、麦のんは気にもせず口を開いた。
「アンタ「いただきます」、って言ってたけど」
「それが何か?」
「いや、意味もないのに何でそんな事やってるのかなぁって思ってさ」
んん? 意味ってそりゃあご飯食べる前には普通言うでしょ。特に大きな意味こそないけど、それは常識って奴じゃないかな麦のんや。
あ、そういえば麦のん「いただきます」って言ってない。食事には既に手をつけてるみたいだし、どうやら挨拶しないで食べてたらしい。これはいかん、いかんですよ。挨拶っていうのは大事でしてね、それはもうネトゲの世界とか(前にも言ったので省略)とにかく大事なんですよ。それを言えない子供は将来きっと苦労する。これは注意してやらなきゃいかんね。
かといって、俺がここで注意してどうなるんだ? 何せ俺は麦のんの「奴隷」であり、奴隷からの意見を麦のんが大人しく受け入れるなんて思えない。いや、下手をすると……
──生意気なくたばれビーム──
──アッー(真っ二つ)──
……おぉ、こわいこわい。これは下手に口出し出来る問題ではなさそうだわ。だからといって俺は諦めません。ここは違う方向から攻めればいいのですよ。
題して、「怒って駄目なら褒めて伸ばそう作戦」。
まぁ、褒めるってゆーか、やんなきゃ駄目! じゃなくて、こうすると良い事あるんだよって言い方に変えるだけなんだけど。よく甥っ子にこうやって言い聞かせてたもんだ。とゆう訳で麦のんを真っ直ぐ見返して、笑顔を浮かべてと。
「それは簡単! こうするともっとご飯美味しくなるからね!」
「へ……?」
「黙ってご飯食べ始めるよりも、明るく挨拶してから食べた方がご飯は美味しくなる! これってば私が何回も続けて出した間違いのない結論なんですよ」
フフフ、子供ってやつぁ単純なモンさ。甥っ子も最初は中々言う事聞かなかったけど、何度も言い聞かせとけばこれが本当になる事だって信じちゃったもんね。ましてやこれだけ美人のフレンダの笑顔、これで落ちなきゃ人間じゃないね! さぁ、麦のん言うんだ。全身全霊の「いただきます」をな!
「アホらし、そんなんでご飯が美味しくなったら科学なんて言葉はいらないわよ。聞いて損したわ」
……ですよねー(泣)
*
その後は二人で黙々とご飯を食べ続けました。何かあの会話の後からご飯がしょっぱく感じたけれども、それはきっと塩分多い場所食べてたからですね。決して泣いてないです。
麦のんは食べ終わってすぐに「片付けておいて。終わったらここで待ってなさい」、って言ってどこか行っちゃった。片付けると言っても、食器は所定の場所に置いておけば朝までに片付けてくれる人がいるので、俺としては特に洗い物したりする必要はない。ぶっちゃけ暇です。
暇すぎるので、無意味に調味料を綺麗に並べ直してたり、テーブルクロスをきっちりセットしてたりしたら食堂のドアが開いて麦のんが入ってきた。
その手に握られているのはタオルとかブラシとか、シャンプーっぽい物が入ってる籠など。あー、お風呂入るのね。そういえば俺も荷物運びとかで汗一杯かいたし入りたいな。
その時、俺は予想だにしなかった一言を麦のんから告げられる事となる。
*
シャワーの準備はオッケー。浴槽も洗い直して新しくお湯張りなおした。もう遣り残した事はないはず。
今の俺は全裸にバスタオル。脱いだときはフレンダの裸に一瞬だけ羞恥心を覚えたけど、それはすぐに霧散した。どうやら想像したとおりらしく、女として生活するに適応してくれているらしい。じゃなきゃ自分の裸も満足に見れないし、これから起こる事なんて死んでも拒否したいレベルかもしれん。
「麦野さーん、もう入ってきてもいいですよ」
「今行くわ」
そう返答が返ってきた瞬間にガラス戸が開かれ、麦のんが入ってきた。
うわ、凄い。超凄い。麦のんマジ凄い。
多分年齢は十歳くらいかそれ以下だと思うけど、明らかに胸が出てる。そりゃ巨乳とは言えないけど、その年齢で出てるというのが凄いレベルだ。というか中学生の御坂よりでかいんじゃないか……?
「ボサッとしてないで、教えた通りやるのよ」
「う……は、はいです」
「何、緊張してるのかにゃーん?」
緊張というか貴方の体に恐れおののいていると言いますか……とりあえず麦のんのにゃん口調が聞けたのである意味嬉しかったとして、これから背中と頭を洗わせて頂くとですよ。
何かやけに手触りのいいスポンジに、やたらと高そうなボディソープをつけて泡立てる。おぉ、流石は安物と違って凄い泡が出ますね。それに香りは柑橘系かな? 個人的には凄い好みの臭いかも。
「変に緊張しなくていいわよ。でも丁寧にやりなさい」
「で、では失礼して……」
目の前に座る麦のんの背中へと手を伸ばし、スポンジでゆっくりとこする。麦のんの体がピクン、と跳ねるのを見てこちらの動きもぎこちなくなってしまう。ぶっちゃけ興奮してるんじゃなくて、失敗するのが怖いので慎重になってしまってるだけなんだけど。
でも麦のんマジで肌綺麗です。さっきも言ったけど、服の下もシミ一つないまさしく絹のような肌ですね。
「んっ、もっと強くしてもいいよ」
「えっと……こんな感じでしょうか?」
「あ……そうそう、いい感じよ」
さっきより力を込めて擦ると、麦のんが満足そうな声を上げてくれました。
やばい、これ慣れると結構楽しいかも? 奉仕精神とか別に関係ないとか思ってたけど、相手が喜んでくれるとかなり嬉しい。これは意外とやみつきになってしまうのかも分からんね。
「あわわ~~、あわあわわ~~♪」
「ふふっ、何よその歌。変なの」
つい気分が良くなって即興の歌を歌ってたら、麦のんが笑顔で返してくれた。今日一番の笑顔を見て、俺の気分はますます良くなる。
「だって洗うの楽しいんですもーん」
「あら、殊勝な言葉ね。褒めてあげるわ」
「にひひ。どーもどーも」
やべっ、楽しすぎる。「奴隷」とかそういうの関係なく、こういった仕事なら別に苦にもならない気がするし、麦のんとも警戒なく話せてる。俺ってばこういう仕事向いてたのかも知れないなぁ。まぁ男でこんな仕事ないだろうし、女でもその……かなり特殊な仕事だろうけれども。
そうこうしてる内に背中は擦り終わったので、シャワーで泡を流す。個人的に至福の時間だったので、終わるとちょっと寂しい。で、麦のんが正面を自分で洗っている間に、俺は自分の体を急いで洗う。起伏なさすぎてちょっと悲しくなったけど、まぁこれからだよね! 原作見る限りでは希望そんなにないけど。な、泣いてないからっ。
「そっち終わった?」
「あとは流すだけです」
「そ、じゃあ次は頭お願いね」
うおぉ、キタキタぁぁぁぁ! 麦のんの髪に合法的に触る事が出来る時間……洗髪タイムの始まりだぜー。さっきまではメンドクサイなぁ、とか麦のんの髪に触るの怖いなぁ、とか思ったけれど、今の俺は違う。先程の背中流しで何かに目覚めかけている俺にとっては、洗髪は逆に楽しみで仕方がなかったんだ。さて、麦のんよ……覚悟はよいな?
下を向いた麦のんに対して、熱すぎないように自分の手で温度を確認してからシャワーで髪を濡らす。均等に濡れた事を確認して、麦のんが持ってきたシャンプーを出した。ボディソープと同じくやたらと高そうなシャンプーだわ。
両手で軽く泡立ててから、ゆっくりと麦のんの頭へ手を運ぶ。頭皮を揉むように動かし、優しく髪を撫でて洗っていく。髪の毛が長い分、かなり気を使いながら洗わないと危なそうだ。パーマもかかってるし、髪に引搔けないようにしないとね。
「そこもうちょっと強く……」
「はいはい」
「んっ! いい感じよ」
……これはやばい。楽しい、そしてエ ロ イ。女の子に興奮なんてしないとかさっき言ってたけど、わりぃな、ありゃあ嘘だ。まぁ性的な興奮とかそういうのじゃないけど、何かドキドキしてしまう感じだ。楽しくなってゴシゴシと一心不乱に頭を洗っていくうちに、麦のんもリラックスしきっているのか何も言わなくなって俺に身を任せている。
「かゆいトコはないですかー?」
「んぅ、ない……」
「いい感じですかー?」
「(コクコク)」
うほっ、とうとう声じゃなくて仕草で返ってきた。麦のんの新しい一面を垣間見た気がするわぁ……可愛すぎだろ。まぁこのミニ麦のんは、初見からまだ一日も経ってないんですけどね。
とと、そろそろいいかな。
「じゃあ流しますよ、目ぇ閉じてて下さいね」
頭をマッサージするようにしながらお湯をかける。泡が次々と流されてゆき、麦のんの艶やかな髪が再度目の前に降臨した。洗う前も凄い綺麗だったけど、洗い終えた髪は更に輝きを増し、ふんわり漂うシャンプーの香りと相まって見た目以上の美しさを放出している。
手元にあったタオルで麦のんの髪を撫でるように拭き、終わったらそれを渡す。麦のんはそれで顔を拭くと、満足気な表情で俺に視線を向けた。
「中々やるじゃない。初めてにしては上出来だったわよ」
うっひょぉぉぉう! お褒めの言葉を頂いたわ。荷物運びから飯の間まで一回たりとも褒められた事なかったけど、これ超嬉しいよ。
麦のんが小躍りする俺に呆れた視線を向け、溜息を吐く。だが今の俺にはそんなの関係ないね! 今の俺のテンションならば『一方通行』にだって負けはしないさ。気分だけね
「あのさ、そんなに褒められたのが嬉しい訳?」
その言葉に対し、俺はテンションそのままの笑顔を浮かべる。
「当然っ! すっごい嬉しいって訳よ!」
ついフレンダの口調を真似て返答してしまった。まぁこの高揚している状態でシラフになるのは無理無理です。麦のんも呆れてるのか苦笑してるだけで怒らないので、このままで良いよね? いや、いいはずです。
*
ボーッとしたまま暗くなった部屋で天井を見やる。ふと反対側の壁に視線を向けると、そこには熟睡してる麦のんがいる。
あの後は軽く風呂に入って体を暖めて上がり、麦のんの髪を乾かして部屋へと戻った。ちなみに麦のん髪乾かすのも時間かかったけど、その後の化粧? っぽい事でも結構時間かかりました。お陰でもう十二時過ぎてます。
眠い頭のまま今後の事を考える。とりあえずこの世界に来てしまったのは仕方ないことなので、フレンダとして生き延びていく方法は勿論だが、とりあえず『置き去り』の自分には色々生きていきにくい世界なのは間違いないだろう。まぁこれは後々考えていくとして、当面の問題は目の前の麦のん、そして『アイテム』。
暗部に飲み込まれることだけは絶対回避したいので、これは麦のんとの関係を注意していかないとなぁ。と考えている間に、瞼がどんどん閉じていく。睡魔さん空気読んで下さいとか思うが、そんなのお構いなしに視界はブラックアウトしていく。
まぁ、麦のんの世話も楽しかったし……しばらくはこんな関係もいいかもなぁ。なんて考えながら、俺の意識はゆっくりと閉ざされていった。
こうして、俺の「フレンダ」としての初めての日が終わった。