ミニオンの生産工場と化しているピラミッドに向かう永遠神剣のマスター達と、
ロドヴィゴ率いる青年団と、長老ンギ率いる精霊達。
彼等は、ピラミッドの近くまでやってくると、休むのに丁度良さそうな洞窟を見つけたので、
そこで小休止がてらピラミッド攻略の作戦を練ることになった。
まず始めに、ピラミッドの周りにはマナの嵐による結界が張られており、
永遠神剣のマスターは近寄れないようになっている。
マナ自体はどこにでもあるモノであり害悪な訳ではないのだが、
ピラミッド周りに発生しているような強いマナは、永遠神剣のマスターには害になるのだ。
普通の人間には問題なく、神剣のマスターには害悪という説明を受けたとき、
望や希美は、自分達が普通では無くなってしまっている事にショックを受けていた。
では、どうするかと言う話しになると、精霊の長ンギは事も何気に、
近づけないようにさせている嵐の結界を解除してしまえばいいと言い放った。
そして、嵐の結界解除の実行班に名乗り出たのは、
マナ嵐に近づいても何の問題も無い、ロドヴィゴと青年団である。
沙月や希美は、人間だけで結界を発現させている装置まで乗り込むのは危険であると止めたが、
ロドヴィゴが、この世界の問題解決を貴方達だけにやらせる訳にはいかないと強い意志で言ったので、
最終的には彼等に任せる事になった。
その後、永遠神剣のマスター達は結界の近くで陽動作戦を展開し、
防衛に配置されていたミニオン達を誘き出す事に成功する。
これが功を成し、ロドヴィゴ達はミニオンに襲われる事無く結界の維持装置を爆弾で破壊。
しばらくしてマナ嵐は収まり、晴れてピラミッドの中に侵攻できるようになったのだった。
「よーし、後はピラミッドの中に乗り込んで、ミニオンの生産工場をぶっ壊すだけだ!」
拳と掌をパンと合わせてソルラスカが言う。
そんなソルラスカを嗜めるようにタリアが溜息を吐く。
「油断は禁物よソル。これだけ大規模な生産工場なら、
そこを防衛する責任者は、間違いなく大物でしょうから」
「なーに、そんなの関係ねぇ! 誰が出てこようと、俺と『荒神』が叩き伏せてやるさ」
「まったく……その根拠の無い自信は何処からくるんだか……」
そんなソルラスカとタリアを尻目に、浩二は小声で腰の『最弱』に声をかける。
「中には誰がいると思う?」
『さぁ、見当もつきませんわ。ワイかて『光をもたらすもの』が、
どれぐらいの組織であるのかは知りまへんねん』
「まさか、ベルバルザードやエヴォリアクラスの、
化け物がいるって事はねーと思うけど……」
『何言うてまんねん。あの二人は確かに強いねんけど、
あれぐらいで化け物とか言うてたら……
もしもこの先、戦闘経験が豊富なエターナルに会ったら、一呼吸の間に殺されるで?』
「な、こんだけ永遠神剣のマスターがいてもかよ?」
『そうや。化け物って呼び名は、こいつ等の為にあると言っても過言ではあらへん』
「前も言ったが、本当に規格外なんだなぁ……エターナルって……」
『けど、無敵っちゅー訳やない。神剣の位の差が、絶対的な力の差であるとは言わへん。
ワイが知っとるマスターの中には、第五位の永遠神剣マスターでありながら、
仲間の神剣遣いを巧みに率いて、エターナルと互角に戦ってみせた兵もおんねん」
「ほー……ソイツはどんな英雄だ?」
『……相棒と同じで、元々は争いの無い、相棒の世界と良く似た世界から、
神剣に呼ばれて異世界に飛ばされた学生やねん。
今は確か、ガロ・リキュアって言う名前の世界で、その世界を統べる王女の側近を務めとる』
「……やけに詳しいな……もしかして知り合いか?」
『……碧光陰。ワイの、以前のマスターの……大切な人や……』
懐かしむように言う『最弱』に、浩二は不機嫌な顔になる。
「あー、はいはい。どーせ俺は、その光陰とか言う奴と比べて無能だよ。
てゆーかオマエ。俺の前にもマスターがいたのかよ?」
『おったで。岬今日子という名前の女の子やねん』
「……ソイツも、強かったのか?」
『んー……光陰はんと比べると微妙やな……
光陰はんは、ある意味何でもできる天才やったからなぁ……』
「ま、その天才の光陰さんは神剣も世刻の『黎明』と同じ第五位で、
今日子さんはオマエが神剣だったんだから、比べてやるのも可哀想か」
『ナハハ。そやな……』
以前のマスターと仲間の事を楽しそうに語る『最弱』に、
何だか面白くない浩二は、フンとそっぽを向く。
それを察した『最弱』は、曖昧に笑ってこの話はもうやめようと思うのだった。
『……今日子女史の神剣はワイやないねん。
所有者やったから、一応はマスターとは言うたけど……
このワイと……反永遠神剣『最弱』と、契約を結べたマスターは……相棒が始めてや」
心の中でそう呟くと『最弱』は浩二の顔を見上げる。
『それに、ワイは……相棒は、光陰はんともタメを張れる器やと思っとる。
マスターとしての資質も、戦いのセンスも……
光陰はんと比べて、相棒が劣っとると思った事は一度も無い。
差があるとすれば……それは修羅場を潜って来た経験の差だけやねん……』
それに頭も同じ、ボーズ頭だしとは言わないでおいた。
***************
ピラミッドの中に侵攻した永遠神剣のマスター達は、
ミニオンの増援を阻止する精霊回廊の押さえはンギと精霊達にまかせ、
施設の破壊はロドヴィゴと青年団に任せると、
頂上に安置してあると思われる、ミニオンを作る元となっているマナ結晶を破壊するために、
ひたすらにピラミッドの中を駆け上がっていた。
「―――来たか」
頂上に辿り着くと、そこには一人の男と、三十名近い大量のミニオンが待ち構えていた。
「フム……貴様等か、侵入者と言うのは……
この施設を爆破するとは、やってくれるではないか」
「貴方……ベルバルザード……」
「ほう、ヤツィータか……貴様がいると言う事は、これはサレスの差し金か?」
ベルバルザードの言葉から察するに、ロドヴィゴ達は途中にあった管制官の破壊に成功したようだ。
沙月達は内心でガッツポーズを取る。
「それにもう一人―――見知った顔がいるようだな?」
ベルバルザードの姿を見た途端、何となくソルラスカの後ろに隠れた浩二だったが、
どうやらバレバレだったようなので、仕方なく前に出る。
「……あの、人違いじゃないでしょうか?
俺って、ほら! どこにでもいるような顔をしてますから」
「………そんな馬鹿馬鹿しい形の、永遠神剣モドキが何本もあるものか。
それに、貴様から受けた傷……忘れはせん」
見ると、ベルバルザードの被っている兜の布の部分が少しだけ溶けている。
顔の傷は治したようだが、硫酸で溶けた布までは新調していないようだった。
「え? 斉藤くん……アレと知り合いなの?」
浩二が『光をもたらすもの』の一員と顔見知りであった事に驚く沙月。
浩二は苦笑をうかべると、ここに至っては隠す事もできまいと教えることにした。
「剣の世界で、俺が行方不明になった事があったでしょう?
……その時に戦ったのがコイツです」
「え? あの時、斉藤くんが戦ったのは鉾じゃなかったの?」
「すみません……それは嘘です。
皆に心配かけたくなかったんで、あの時はそう言いました」
「それじゃ、まさかエヴォリアとも……」
「ええ。その時に会ってます……そこで、仲間にならないかと誘われました」
浩二がそう言うと、沙月の目が険しくなる。
それは他の『旅団』のメンバーも同じだったようで、
望と希美を除く全員が、浩二を疑いの目で見つめていた。
「……どうして……嘘をついたの? 何で、私達に隠し事をしたの……」
「…………」
浩二は何も答えない。
「斉藤浩二! 答えなさ―――」
それに焦れた様に、タリアが喋りかけた瞬間。
「敵を前にお喋りか!」
ベルバルザードが永遠神剣『重圧』を構えて突進してきた。
「―――っ!」
全員すぐに思いの方向に飛びずさり、その突進を避ける。
それに呼応するように、待機していたミニオン達も一斉に襲い掛かってきた。
「……何故だ!?」
そんな中で唯一人。浩二だけは襲われない。
まるで、斉藤浩二は自分達の味方であると言わんばかりに背を向けていたりする。
「ククッ……」
「っ!」
浩二は確かに見た。ベルバルザードの目が笑っていたのを。
彼は、この状況を使えると判断して、瞬時に離間の計をしかけてきたのである。
『あかん! この状況はあかんねん!』
状況を判断した『最弱』は、叫び声をあげる。
そう、これではまるで、浩二は『光をもたらすもの』の側だ。
ベルバルザードが飛び出してきたタイミングも、何も知らない者から見れば、
裏切り者であるのがバレた浩二を救出したようにも見える。
「違う! 俺は―――」
慌てて浩二は弁解の言葉を言おうとするが、それは誰かの声に遮られる。
「裏切り者っ!」
タリアだった。ミニオンの神剣を鍔迫り合いで受け止めながら、
敵意を籠めた目で浩二を睨みつけている。
「貴方……私達と出合った時から『光をもたらすもの』の仲間だったのね!」
「それは誤解だ! 俺はこいつらの仲間なんかじゃない!」
「なら、どうしてミニオン達は貴方だけ襲わないのよ!」
「それは……」
それこそが『光をもたらすもの』の離間策だと何で解らない! と怒鳴りつけたかったが、
今の彼女には何を言っても無駄だろう。
「くっ! ベルバル……ザアアアアアーーーード!!!」
叫ぶ浩二。硫酸のお礼がコレとは、やってくれるじゃないかと唾を吐き捨てる。
そして、この誤解を解くには戦いで証明するしかないと思った。
「行くぞ最弱! ヤツは俺が倒すしかなくなった!」
『……え?』
「肉体強化だ! 出し惜しみはするな!
後遺症がでてもいいから全力で俺を強化しろ!」
『……いや、相棒。それは……』
「さっさとしろ! マスターの言う事が聞けないのかっ!」
『……わかった……やりまんねん』
反永遠神剣『最弱』から、浩二に強化がかけられる。
「あ、ぐうっ!」
それは、いつもの強化の二倍近くの強さだ。
ドクン、ドクンと心臓が張り裂けんばかりに動き出す。血液の流れが流水のようだ。
頭痛が酷い、吐き気がする。無理な強化は肉体に大きな負担をかける。
「うおおおおおおおおっ!!!」
浩二は精神力でそれを押さえ込み、猛然とベルバルザードに飛び掛った。
凄まじい脚力で大地を蹴り、雄叫びと共にとび蹴りを放つ。
「ぬうっ!」
それは、沙月と神剣をぶつけあっていたベルバルザードの横腹に命中した。
神剣による攻撃ではなくとも、流石にこの蹴りは効いたらしく、グラリとよろめくベルバルザード。
「くらえっ!」
そこにアッパーカットをぶちこんだ。
インパクトの瞬間に手がグキリと嫌な音をたてたが、浩二の攻撃は止まらない。
「おっ! あ、あああああああーーーーー!!!!」
ラッシュ。次々と拳を、蹴りをベルバルザードに叩き込む。
「せいっ! はあっ! くたばれっ!」
「ククッ……もう、猿芝居はいいのだぞ? 貴様の敵は、俺ではなかろう」
しかし、その攻撃は―――
「―――っ!」
鉄壁の防御力を誇るベルバルザードに与えるダメージよりも、
無茶な攻撃をし続ける浩二の方がダメージが大きかった。
「はあっ、はあ……ハァ……」
「下がっていろ!」
―――ガツンッ!!!
ベルバルザードは、仰け反りながらも『重圧』による石突を浩二にくらわせた。
吹き飛ばされる浩二。ガアンと音をたてながら壁に叩きつけられて吐血する。
「―――がはっ! ち、くしょう……」
『……これまで、やな……』
ポツリと呟きいた『最弱』は、そこで浩二にかけている強化を切った。
「っ!? なぜ強化を止める! 俺は、まだ……やれるッ! 俺は―――」
『やめぇや! 今の相棒は何やったかてベルバルザードには勝てへん!
それどころか、ミニオン一人にも負けるわ!』
斉藤浩二の戦闘スタイルは、このような力押しでは無い。
絶体絶命であっても客観的に物事を捉えられる洞察力と、閃きこそが彼の最大の長所。
『道化が……ピエロが、騎士に真正面から殴りかかってどうすんねん!
……相棒には、相棒の戦い方があるやろうが!
以前にベルバルザードとやりあった時! ルプトナとやりあった時!
自分よりも格上の敵と戦った時―――アホみたいに何も考えんと突撃したか! 違うやろ!』
「…………」
『誤解を解きたい? ええやろ。やりなはれ。
けどそれは、ベルバルザードを倒さなあかんのか?
他には何も誤解を解く方法は存在しないのか? それが唯一の方法か?
―――ちゃうやろ!
無い訳はないんや! 思考を停止させとるんやないで!
考えなはれ! どんな時でも考える事ができるのが、アンタの長所やろが!』
耳に痛い言葉であった。
言われてみれば、さっきまでの自分は今までで一番無様である。
「……そう、だな……」
浩二はぽつりと呟くと、自らにビンタを張る。
頬にジンジンと響く痛みが、冷静さを取り戻させた。
「ありがとよ……最弱……」
あの時は、いきなりの離間策に戸惑い、我を忘れてしまったが……
冷静になって考えれば、それは誤解だと証明するのは簡単ではないか。
冷静に浩二とベルバルザードが交わした会話を最初から聞けば、
浩二が裏切り者などと言われる筋合いはないのだ。
まず始めに、ベルバルザードが言った言葉―――
(それにもう一人―――見知った顔がいるようだな?)
斉藤浩二が『光をもたらすもの』に寝返っており、スパイをしているのなら……
味方である筈のベルバルザードが、そんな事を浩二に言うのはおかしい。
そして、次の言葉―――
(………そんな馬鹿馬鹿しい形の、永遠神剣モドキが何本もあるものか。
それに、貴様から受けた傷……忘れはせん)
浩二が『光をもたらすもの』ならば、何でベルバルザードに貴様から受けた傷とか言われるのだ。
沙月との会話の途中で、絶妙なタイミングで攻撃を仕掛けられたので戸惑ったが、
冷静に考えてみれば、このようにボロボロと矛盾がでてくる。
「…………ふうっ」
すうっと息を吸い込んで、大きく息を吐く。
そして、ゆっくりと瞳を閉じた。
「……冷静になれ。思考を止めるな。考えろ……
俺が……この俺が、この程度の困難で負けるものか……」
―――マインドコントロール。
それは、強敵と出会った時に、いつも自身に言い聞かせるように紡ぐ……
斉藤浩二という人間を構築する勇気の魔法。
思い込む。自分が負ける筈がないと。信じ込む。自分が死ぬ訳がないと。
「―――ハハッ」
笑みが、零れた。
「そうだ。俺は……こんなヤツに……この程度の雑魚に……」
口元がつり上がる。
瞳は、獲物を狙う猛禽類の獣のようにギラギラ輝いている。
「―――負けるタマじゃねぇんだよっ!」
脳内ではドーパミンがどばどばと作られている。口の中はアドレナリンで一杯だ。
向けられる疑いの視線。それすらも心地よく感じられる。
状況は悪い。最悪と言ってもいいだろう。しかし、そんな時だからこそ思えるのだ。
俺は、今、生きていると―――
「抗ってやる。最悪を……覆してやる。
運命なんてクソくらえだ。絶対に越えられない壁なんてあるものか!」
そう叫ぶ浩二を、彼の神剣……反永遠神剣『最弱』は、静かに見つめていた。
敵が何者であろうとも、どんな状況であろうとも諦めない。絶望しない。
冷静に、冷徹に、勝つ為の思考を止める事がない。
そんな彼であるからこそ、神の剣―――
永遠神剣に反逆する人の剣・反永遠神剣『最弱』は、
斉藤浩二という少年を相棒と呼び、マスターと認めているのだ。
「いくぞ、最弱!」
『はいな!』
今度こそ、浩二が口にした『行くぞ』と言う言葉に、
反永遠神剣『最弱』はしっかりと答えるのだった。
****************
「おっ! しゃああああああーーー!!!」
『最弱』を構えた浩二は、壁際からダッシュをすると、
ベルバルザードと正面から格闘をしていたソルラスカにとび蹴りをくらわせた。
「何っ!?」
先程のやり取りがあったとはいえ、タリアと違って半信半疑だったソルラスカは、
まさかの浩二の攻撃に面食らって、それをまともにくらってしまう。
「ぐわっ!」
横から蹴り飛ばされたソルラスカは、しばらく転がったが、
すぐに手を突いて立ち上がると、燃える様な怒りの瞳で浩二を睨みつけた。
「テメェ! 本当に裏切り者だったのか!」
浩二は、そんなソルラスカを無視してベルバルザードに視線を向けると、
すぐに彼を護るように背を向けて、沙月やタリア達と向かい合う。
「ベルバの旦那! こいつらは、しばらく俺が引き受けるぜ!
雑魚の集まりとはいえ、神剣のマスターがこれだけいては、
一人ずつぶちのめすのは効率的じゃない!
旦那の最強の一撃で、纏めて押しつぶしてやりましょうや!」
そう言って、浩二は沙月達に向かっていく。
ベルバルザードは、この展開にしばしどうするべきかと考えた。
自分の立場が危うくなったと思って、本当に沙月達を裏切って自分に尻尾を振ってきたのか、
それとも、何か考えがあってのブラフなのか?
「―――フン。まぁいい」
しばし迷ったが、ベルバルザードは神剣を構えなおした。
アレが本心であろうが、ブラフであろうが、
確かに浩二が言ったように、敵を一人ずつ倒すのは効率的ではない。
己の持つ、最強の一撃を持って纏めて叩き潰す方が効率がいいのだ。
それに―――
「ぬおおおおおおおっ!」
浩二の意思がどちらであろうとも……
敵もろとも潰してやれば、どちらであろうとも関係ないのだ。
ならば、貴様の望むとおり、自分の最強の一撃を叩き込んでやろう。
もっともそれは、貴様ごとだが―――そう考えて、ベルバルザードは構えをとる。
「いけないっ! でかいのがくるわ!」
「ソル! アイツを止めるわよ!」
「おうっ!」
沙月が叫び、タリアとソルラスカが、
ベルバルザードを止めるべく飛び掛ろうとする。
「させるかよ!」
「――っ!」
「浩二っ!」
しかし、その間に浩二が割って入った。
手刀と蹴りを放ち、ベルバルザードに近づけさせるものかと牽制する。
見ると、ミニオン達もベルバルザードの周りに集まり、
詠唱の邪魔はさせないとばかりに円陣をくんでいた。
「ガリオパルサ!」
ベルバルザードの叫びと共に、姿を現す神獣ガリオパルサ。
獰猛なレッドドラゴンが、雄叫びをあげてその姿を現す。
その巨体。大地を震わす咆哮に、永遠神剣マスター達の動きが一瞬止まった。
『今や! 相棒っ!』
「おうっ!」
しかし、そんな中で唯一人、この展開を予想していた斉藤浩二だけが、
サッと身を翻して疾駆する。その先には神獣ガリオパルサ。
「むっ!」
ベルバルザードの横を、風と共に駆け抜けた。
己の神剣。反永遠神剣『最弱』に力を籠めて、ガリオパルサに振りかぶる。
「消え、ろおおおおおおおおおっ!!!」
スパーンと快音が響いた。
ガリオパルサの足元に叩きつけられた最弱は、ハリセンの音を響かせる。
そのまま横を駆け抜けていった浩二は、急ブレーキをかけると、バッと後ろを振り向いた。
「―――やったか!」
『グオオオオ……ルゥルルオオオオオオン!!!』
ガリオパルサの絶叫が響き渡る。
見ると、浩二が『最弱』を叩きつけた場所が消えかかっている。
『あかん! アレだけのヤツともなると、一発じゃ消せん! もう一度くらわせるんや!』
もう一度と『最弱』がそう叫んだ瞬間。
浩二は無言で大地を蹴って飛び上がっている。
先程よりも反永遠神剣『最弱』に力を加えて、振りかぶりながら跳んでいる。
「戻れ! ガリオパルサ!」
しかし、浩二が追撃を振り下ろすよりも、ベルバルザードが神獣の姿を消すほうが早かった。
攻撃対象が消えた事により、浩二はチッと舌打ちしながら着地する。
「消し損ねたか!」
『……そのようやな。まぁ、及第点やろ。
ワイの一撃をくらったんや。消す事はできなんだが、大ダメージやねん』
忌々しいと言わんばかりに浩二が言うと『最弱』は落ち着いた声で答える。
しかし、浩二以上に怒りを滲ませた声でベルバルザードが叫んだ。
「貴様! 何をした!」
「ツッコミだよ」
ニヤリと笑いながら浩二。それに続くように『最弱』が笑い声をあげる。
『ハハハハ! どーや、ワイの一撃は。反永遠神剣『最弱』のツッコミは!
力が足らなんだから、完全に消すことはできへんかったけど……しばらく神獣はだせへんやろ?
それに、神獣のダメージはそのまま永遠神剣にも伝わるねん。
今やアンタの永遠神剣は、そこらのミニオン以下の雑魚神剣やでー!』
「―――くっ!」
顔を歪めるベルバルザード。
確かに『重圧』から感じられる力の波動が、普段の十分の一以下まで落ちている。
心の中で何度もガリオパルサに呼びかけるが、返事は返ってこなかった。
「形勢逆転だ。今度は、あの時のように油断はしない……
……テメェの……息の根を止めてやる!」
そう言って跳びかかる浩二。空中で縦にくるりと回転して、踵落としを放つ。
ベルバルザードは、その攻撃を『重圧』の柄の部分で受け止めた。
「むうっ!」
弱体化した『重圧』では、攻撃を受け切れなかったようで、肩膝をつくベルバルザード。
浩二は空中で、先程の踵落としをくらわせた方とは逆の脚をベルバルザードの肩に当てる。
そして地面に着地した。地に脚をつけた途端に、再び突進する。
「みんな! 何をやってるんだ!
絶好のチャンスだろうが! 俺に続け!」
拳を放ちながら叫ぶ浩二。
その瞬間に、望が横から『黎明』の一撃をベルバルザードに向けて放ち、
希美が浩二に向けて回復魔法を唱えていた。
「―――チイッ!」
ベルバルザードは横に転がって『黎明』の斬撃を回避するが、
それに合わせる様に、先回りしていた浩二が蹴りを放つ。
「な!?」
「だっはーーーーッ!!!」
「ぐおっ!」
それは、ベルバルザードの顔面を的確に捉えていた。
吹きとばされるベルバルザード。
轟音と共に壁に叩きつけられ、バタリと地面に倒れる。
「ぐぐっ……ムッ」
『重圧』を杖代わりにして立ち上がる。
しかし、その身体はダメージに震えており、彼のダメージが深刻である事を告げている。
「いけるぞ! 世刻!」
「ああ!」
望と希美だけは信じていた。斉藤浩二が裏切り者な筈がないと。
『旅団』のメンバーが全員疑いの眼差しを向けたとしても、
同じ物部学園の一員であり、目的を同じくする浩二が裏切る訳がないと信じていたのだ。
もっとも、浩二が味方に攻撃を仕掛けてきた時だけは流石に面を食らったが……
「まさか……俺が……このような輩に……」
ベルバルザードの視線は、浩二だけに向けられている。
「一度ならず……二度までも……っ!
あのような……雑魚に……遅れを、とるとは……」
侮っていた。否。侮りすぎていた。
見た目と、言動と、神剣の放つ力の弱さに……
アレは強敵だ。どういう原理で神獣にこれ程のダメージを与えたのかは謎だが、
唯の一撃で、自分の戦闘能力をここまで奪い去る神剣など、見た事も聞いた事もない。
あの神剣は何だ? そして、あの男は―――
「―――うおおおおおおっ!!」
「潮時か……」
雄叫びをあげながら向かってくる浩二と望。
ベルバルザードは、最後にもう一度だけ浩二を睨みつけると―――
「覚えておくぞ……神剣もどきと、そのマスター!」
エヴォリアのように、その姿をスッと消して撤退するのであった。