物部学園の総意として、魔法の世界で行われる戦に参戦する事が決まった翌日。
浩二は、再び旅団本部にあるサレスの私室へと訪れていた。
「何も無い部屋だが、まぁ座ってくれ」
「まずは、時間をとってもらった事に感謝します」
「構わんさ。それに、今更敬語も使わなくていい。
オマエがここに来た理由は見当がついているからな。
今後の事だろう? すなわち、この世界での戦いが終わった後の話しだ……」
「ああ」
事ここに到っては、物部学園が戦いに参加する事にとやかく言うつもりはない。
この世界が『光をもたらすもの』に落とされたら、
自分達の世界にも影響が出るという弊害がある以上、戦うという選択にも一理はあるのだから。
もしも、ここで後の事は『旅団』に丸投げし、自分達の世界に無事帰れたとしても、
旅団が光をもたらすものに敗北し、その結果として自分達の世界も弊害で滅びましたでは、
何であの時、自分達は帰ってしまったのだろうと悔いが残る。
物部学園の皆が戦う事に賛同した理由の半分以上はそれが理由であろう。
中には、世界を護るために戦うという甘美な言葉に踊らされて賛同した者達もいるのだろうが、
それはあくまで少数。最初で最後の参戦だからこそ、何とか皆も心に折り合いをつけて納得したのだ。
「まず始めに、物部学園に所属する神剣のマスター……
世刻、永峰、斉藤の三名は、この度の戦に『旅団』側の戦士として参戦する。
それ以外の一般生徒達は、戦いの余波が及ばぬだろう安全な場所で、
戦火に巻かれて逃げてきた人達の救助をする衛生班として、この世界の人達を助けるつもりだ」
「その件については、世刻望より聞いている。
先日とは違う、ハッキリとした意思で、この世界の為に戦うと言った彼の意思を、
我々『旅団』と、この世界の長であるナーヤは受け入れることにした」
頷く浩二。そこまではいい。
今日話しに来た事は、その後の話である。
「この戦いが終わったら、俺達は元の世界に帰る。
もしかしたら、世界を滅ぼす『光をもたらすもの』を完全に潰すまで、
世刻は戦いたいと言うかもしれないけど……殴って、縛り付けてでも一度は元の世界に帰す。
その後で、やはり戦うと言うのなら、それは個人の意思を尊重するべきだから止めはしない」
「フム……」
「それで、今日頼みに来たのは元の世界に戻ってからのフォローだ」
自分達は、あの日の夜から今日に至るまで三ヶ月以上もの月日を過ごしている。
今頃、元の世界では大変な騒ぎになっている事だろう。
なにせ、100人を超える学生が、学校と共に突如として行方不明になっているのだ。
元の世界に無事帰ったとしても、その後、物部学園の学生達は世界中のマスコミの餌食に合うだろう。
浩二が危惧している事をサレスに説明すると、彼はなるほどと呟く。
「俺は、俺達は……アンタ達の世界の為に戦う。
世刻は100%の善意でそう言ったのかもしれないけど……
俺は、それに条件をつけさせて貰いたい。タダ働きじゃモチベーションも上がらない。
戦う事に不満をもっている生徒達を説得する材料も欲しい」
「なるほどな……それで、オマエは『旅団』に何を望む?」
「情報操作。俺達の世界への情報操作だ……
この三ヶ月間。もののべ学園は消える事も無く、
何事もなかったのように日常を続けていたと、情報操作してくれ」
分枝世界の危機を、人知れず救ってきたという組織―――旅団。
『人知れず救ってきた』と言うのなら、旅団にはそれを可能とする情報操作を施す力がある。
浩二はそう確信している。
そうでなければ『光をもたらすもの』に襲われた世界を『人知れず救う』なんてできる訳が無い。
真実はたぶん。救った後に、その事実を隠滅して護ってきたのだろうと思っていた。
「アンタ達には、それができるんだろう?」
「結論から言わせて貰えば、できると答えよう。
まぁ、正確にはこの情報操作は、我々が施すのではなく……
永遠神剣の力で世界の形態が変わる事を嫌い―――
『世界はあるがまま』にのスローガンを掲げるカオスエターナルがする事だがな」
「へぇ……世界はあるがままに、か……」
「我々『旅団』は、そのカオスエターナルに連なる組織と同盟を結んでいる。
それ故に、この件に関しては、わざわざ頼まれなくともするつもりであった」
サレスの言葉にホッと息を吐く浩二。これで一番の懸念事項が消えたからだ。
しかし、そこで浩二はある事にハッと気がついた。
「世界はあるがままに。永遠神剣の起こした事件は人知れず隠滅してくれるのはいい。
けど、その証拠隠滅の対象には、物部学園の生徒達も含まれるのか?」
「当然だろう。彼等だけが『真実』を知っていたら、情報操作した世界との齟齬が生じる。
一人二人くらいなら問題ないかもしれないが、これだけの数の人間が知っているのは拙い」
「そうか……まぁ、そうだろうな……阿川なんか、
今まで訪れた世界や、この旅団本部の建物をデジカメに撮ったりしていたのに、
何のお咎めも無かったから、おかしいとは思っていたんだ……」
「記録媒体に残された異世界の情報は、暗示をかけて自らの手で消してもらう。
それと同時に、物部学園に残った異世界の食料や衣服、生活用具などもココに置いていってもらう。
その変わりに、元の世界に戻るまでの食料やら生活必需品は、我々『旅団』が手に入れた、
おまえ達の世界の製品を提供させてもらう」
「徹底してるんだな……」
世界の理を知りすぎた自分達には、死んでもらったほうが手っ取り早い気がするが、
それをしない『旅団』は、まぁ信頼できる組織なのだろう。
沙月やソルラスカを見ていれば、それは察する事ができたが、
まさか自分達の世界の物資まで用意していたとは……
「これで懸念は無くなったか?」
「まぁ、一応……」
そう言って浩二は頷くが、顔はやや暗い。
サレスは浩二が暗い顔をしている理由に気づいていた。
物部学園の仲間に対して、情報操作を施す事が後ろめたいのだろう。
それしかベターな方法がないのだとしても、
他者から一方的に物事を押し付けられるのは浩二が最も嫌う事だから……
けれど、この件にも一理ある。
望のやらかした事にも一理ある故に、我慢したように……
この情報操作の徹底にも一理あるのだ。
そして、何よりも悔しいのが、サレスのベターな提案よりもベストだと思える提案が無い事である。
「なぁ、サレス……その、情報操作の対象には……俺や世刻も含まれているのか?」
「望むならば施そう。しかし、おまえ達は神剣のマスターだ。
その時点で、世界の理には足を突っ込んでいる。
情報操作で記憶を改竄しても、いずれはまた神剣の戦いに関わる事もあろう」
「それなら、知っていた方が理解も対処もできる、か……」
ふうっと浩二は溜息を吐く。
そして、自分に課せられた宿業というものを改めて認識した。
自分の世界の事を思うなら、自分は元の世界帰らぬ方がいい。
自分がいる限り、また今回の件のように巻き込まれる一般人が現れる可能性があるからだ
「結局、永遠神剣のマスターと普通の人は、似て異なる者か。
力を隠せば一緒に暮らす事はできる。
けれど、永遠神剣は永遠神剣と惹かれあうのが定め……か」
「斉藤浩二。おまえの持つ神剣は特殊だ。
一本しかない故に、引き寄せられる神剣は無いだろう。
しかし、もうおまえはその力を世界に知らしめてしまった。
ミニオンが物部学園を襲ったあの日―――
戦いの場に躍り出るという事をせず、一般人として振舞ったならば、
今も、これからも……その生涯を終えるまで、一般人として暮らすことも可能だった」
「神剣の定め故に巻き込まれて、もうどうしようも無かった世刻や永峰と違い……
俺の場合は、あくまで自分の選択の結果なんだな……」
IFの世界があるのならば―――
永遠神剣の戦いに巻き込まれても、あくまで一般人として振舞い続けた別の俺も居たのだろうか?
世刻や沙月先輩と行動を共にするのではなく、信助や美里と共に、
クラスのみんなと一緒に居る「唯の学生」である事を選んだ斉藤浩二も……
「……サンクス。おかげで、自分の立場ってヤツをやっと理解できた。
今後どうするかは……これから考えるよ……」
「ああ。前も言ったと思うが―――」
「解ってる。旅団に参加する事も視野にいれておくよ。
俺にはもう、帰る場所なんて無いんだから……」
そういい残して、浩二はサレスの部屋を後にした。
**************
サレスの私室からの帰り道。
浩二は、腰の『最弱』と喋りながら物部学園が停泊しているドッグに向かって歩いていた。
「結局さ……今の俺の立場って……
惹かれあう神剣の宿業というモノに巻き込まれた世刻と永峰や、
完全に被害者の物部学園の生徒と違って、
俺だけは選んだ結果としてココにいるという事なんだな……」
『そうやな。まぁ……どこまでも文句をつけていいのなら、
世刻達が同じ学校。同じクラスに居たのはオレのせいじゃねー!
オレも巻き込まれた側なんやー! ギャワワーーーーッ! と喚く事はできまっせ?』
「それはオマエ……行き着く所は絶対に……
生まれてこなければ良かった。だから止めようぜ?」
『ナハハ。時々いまんねんからな。そんな事をヌカすヤツ』
思えば、自分は随分と恵まれているのだろう。
選択肢を与えられず事件に巻き込まれた、物部学園の生徒達よりも、
否応がなく永遠神剣のマスターとして生まれてきた望や希美よりも。
自分がこの神剣と共にあるのは『最弱』のマスターになるのをYESと答えたから。
決して強制された訳でもない。前世からの宿業などでも無い。
自分が選んだ結果としてココにいるのだから……
「さーて、どーすっかなぁ。これから……」
『とりあえずは『旅団』に味方して、その後は元の世界に帰るんやろ?』
「ああ。俺が言ってるのは、その後の話だ」
『流浪の旅にでるんとちゃいますか?』
「それしかねーよな。やっぱし」
身の安全を保障してくれる組織に入らず、好き勝手にするなら、それしか方法は無い。
『もしくは、似たような境遇のヤツを集めて、
新しいコミュニティーでも作りるって手もありまっせ!
世界を大いに流離う斉藤浩二の団とか言って。略して―――』
「その先は言うな!」
―――ビターン!
「あべしっ!」
************
「……何だ、コレは……」
教室に帰ってきた浩二の第一声はソレであった。
「離せ! 希美っ! カティマ!」
「ダメダメダメ! 離さないーーーー!」
「望。早まらないでください!」
何やら望が教室で希美やカティマに押さえつけれている。
その周りでは、信助が腹を抱えて笑い、美里は苦笑いをし、ルプトナがオロオロとしていた。
「なぁ、ルプトナ……これ、いったい何事?」
とりあえずオロオロしてるルプトナを捕まえて尋ねる浩二。
すると、彼の顔を見たルプトナがパッと顔を輝かせた。
「浩二! 望を止めてよーーー!」
「だから、いったい何を? なんで世刻は押さえつけられている訳?」
浩二がそう言うと、今までジタバタともがいていた望が、浩二の顔を見て更にもがき始めた。
「斉藤。いい所に来た! 希美とカティマを引き剥がしてくれ!
俺は、おまえにアレをしなければならないんだ」
「……アレ?」
「えーと……何だっけ? 信助」
首をかしげる浩二に、答えようとしたのはルプトナだ。
しかし、望の言うところのアレの名前を忘れたらしく、近くに居た信助にヘルプの視線を向けた。
「斉藤スペシャル2007。何でも、自分は浩二に謝罪をせねばならぬから、
自分が知る限りで、最強の謝罪であるそれをやろうとして、
希美ちゃんに断髪を頼んだら、斉藤くんなら似合うけど、
望ちゃんにはボーズ頭は似合わないからダメだって押さえつけられてんだよ」
「カティマさんは、何で?」
「ん~~。どうやらカティマさんは、ボーズ頭は問題ないようだけど、
下着一丁で土下座するのはやり過ぎだと。
そのように誇りを丸投げするサマは騎士道に反するってね……」
別に世刻は騎士じゃないだろうと無粋な言葉は言わなかった。
カティマにとっては、世刻望という男は騎士なのだろう。
「……で、この有様か?」
「ああ」
「―――プッ」
信助が頷くと同時に、浩二は思わず噴出した。
コイツはどこまで真っ直ぐに物事を対処しようとするのだと、腹を抱えて大笑いする。
「はははっ、あははははは!!!」
ああ、もういいや。認めてしまおう―――
「く、くくくっ……はははは!」
おそらく自分は、このどこまでも真っ直ぐな、世刻望なる少年を気に入っている。
彼の純粋さと打算の無さは、自分には望むべくもないモノだから。
周りの状況や環境。顔色ばかりを気にしている自分には、彼の真っ直ぐさは眩しい。
「世刻。いや……望。俺は決めたよ。
俺は旅団には加わらない。光をもたらすものにも参加しない。
けれど、神輿になれる器じゃない。それを下から支える人間だ……」
全てに背を向けて、一人で生きていく事を選ぶのはいつでもできる。
けれど、その前に一度ぐらい挑戦してやろう。
組織に所属し、誰かに命令されて生きるくらいなら、世刻望という神輿を担ぎ……
『旅団』や『光をもたらすもの』を超える組織を作ってやろう。それが一番面白そうだ。
「望。頭をボーズになんてしないでいいから、ちょっと顔をかしてくれ。
これからの事で提案があるんだ」
「あ、ああ……それはいいけど……斉藤?」
旅団のメンバーではない永遠神剣のマスター達。
都合が良いことに全員この場所にいる。
「できれば、永峰にルプトナ。カティマさんも」
「え?」
「ボク?」
「私も……ですか?」
浩二に名前を呼ばれると、皆がそれぞれ不思議そうな顔をする。
いきなり笑い出した後に顔を貸してくれでは、戸惑いもするだろう。
しかし、浩二はニヤリを笑うだけで何も言わなかった。
************
「―――と、言う事を考えたのだが、どうだろうか?」
現在、望と浩二の部屋になっている宿直室。
そこで斉藤浩二が話した計画に、望達は全員がぽかんと呆気にとられていた。
「ボク達で―――」
「組織を作る……」
「旅団に参加するんじゃなくて、私達で……」
「そうだ」
浩二の提案は、皆にとっても青天の霹靂であったようであった。
今後、旅団に参加する事は視野に入れていても、
まさか独立するとは考えてもいなかったのである。
希美と、彼女の神獣『ものべー』があるので拠点と移動手段は確保できる。
カティマがいるので、補給と本拠地には『剣の世界』を使える。
もしくは、ロドヴィゴやレチェレに相談し『精霊の世界』を使ってもいい。
そして、戦力は永遠神剣のマスター4人に浩二。
組織を立ち上げるに足りないモノなど無いのだ。
「もちろん。旅団と縁を切る訳じゃあない。
目的が同じならば共同戦線を張っていく。けれど、彼等と俺達はあくまで対等だ」
浩二がそう言うと、賛成の声をあげたのは目を閉じて考えていたカティマと、
難しい事はよくわかんないけどと言った顔のルプトナであった。
「斉藤殿の提案は悪くないと思います。
組織に入れられたら命令は絶対ですが、同盟という事ならば断る事だってできます」
「そうだねー。ボクもあのサレスって人に命令されるよりも、
みんなで相談して物事を決めるほうがいいかな?」
二人の賛同が得られて、浩二は望の方を向く。
希美はおそらく望の決定に従うだろう。事実、彼の隣に座った彼女は、
望の顔を見ながら、どうしよう望ちゃんと言わんばかりの顔をしている。
「望―――おまえ、昨日俺に……一緒に戦ってくれと言ったよな?
それに対する答えがコレだ」
浩二はそう言って望の顔を見つめる。
望の神獣であるレーメも、彼の胸ポケットから顔を覗かせて、同じように見つめていた。
「―――わかった」
しばらくして、望は俯かせていた顔をあげる。
その目には強い力が篭っていた。
「作ろう。俺達で―――コミュニティーを。組織を……
リーダーは斉藤がやってくれるんだろ?」
「何言ってるんだ。オマエに決まってるだろう。
もともとこの組織を立ち上げようと考えたのは、
お前のバカヤロウな思想を貫かせてみようと思ったからなんだから」
望の問いに、浩二は肩を竦めて答える。
バカヤロウな思想とか言われて、少しへこんだ望だが、
周りを見ると、皆が望の顔を見ていた。
「サポートはここにいる皆でするから心配するな。
とりあえず望。おまえはこれから、暇な時にはカティマさんから帝王学を学べ。
元レジスタンスのリーダーにして、今は現役の王女から直接学べるなんてラッキーだぞ」
「―――げっ!」
「フフッ。私の教えは厳しいですから、覚悟してくださいね?」
「永峰。おまえは望のサポートだ。
主に栄養管理と体調管理。メンタル面の管理をしてやってくれ」
「うん。と言うか斉藤くん……
望ちゃんの事、名前で呼ぶことにしたんだね?」
浩二が望の事を名前で呼んでいる事に気づいた希美は、
ニコニコと笑いながら問いかける。
「まぁ、これからは運命共同体だからな……」
照れくさそうに答える浩二に、希美はうんと頷く。
「それじゃ、これからは私も浩二くんって呼ぶから、
浩二くんも私の事は希美って呼んでほしいな」
「あいよ。了解」
苦笑いの浩二。そんな彼を、まだ役割分担されていないルプトナが、目をキラキラさせて見ている。
ボクはボクは何をすればいいのと言わんばかりだ。
「あー、ルプトナは……えーと」
「何? ボクは何?」
「もうそろそろ昼だから、食堂でメシでも食べて来い」
「わかった! ボクはごはんを食べればいんだね!」
元気すぎる声でそう言うと、風のような速さで部屋を出いくルプトナ。
「……って、何でさーーー!」
―――彼女が戻ってきたのは、それからすぐだった。
「ねぇ、浩二くん。私達のコミュニティーの名前なんだけど、どうする?」
「特に考えてないけど『物部学園・永遠神剣組』でいいんじゃね?」
「ダメだよ~。そんな適当な名前……もっと、こう……考えようよ。
例えば、世界を大いに平和にする世刻望の団。略してSO―――」
「……永峰……オマエの発想は、どこかの似非関西弁のハリセンと同じだな……」
「いですか。望……リーダーと言うのはですね。
誰よりも前に立ち、行動で皆に結果を示す。すなわち―――」
「ちょ、カティマ。勉強は今からなのか?」
ルプトナが叫び声をあげながら戻ってきても、見事なスルー。
その光景に、ルプトナは肩をわなわなと震えさせ雄叫びをあげるのだった。
「ボクの話をきけーーーーーーーーっ!」
**************
「―――と、言う訳で沙月先輩。俺達、独立する事にしました」
「名前はまだ決まってません」
「え?」
斑鳩沙月は、突然独立しましたとか言いに来た五人の永遠神剣マスター達に、
驚きで目を見開いて固まっていた。
「ちょ、ちょっと待ってね………えっと、本気?」
「本気と書いてマジです。リーダーは望。メンバーはここにいる4人の神剣遣いです。
物部学園は元の世界に戻すから使えなくなりますが、
拠点となる建物は、カティマさんの『剣の世界』から砦を一つ貰うことで話しがついています。
この報告が終わったら、次はサレスの所に俺と世刻で赴いて、
『旅団』とは、同盟を結ばせて貰おうと思っています。条件としてこちらは―――」
冗談であって欲しいと願う沙月だが、浩二は更に具体的な説明を始める。
同盟を結ぶ際にこちらが『旅団』に希望する条件。こちらから『旅団』に提供できる条件。
本拠を何処に置くか、補給はどこを予定しているか。目的は、思想は―――
浩二は淀みなく説明し始める。その言動は、すでに組織のブレーンとしてのものだった。
「望くん……貴方は、それでいいのね?」
沙月が確認したのは、本当に組織のリーダーになるのかと言う事ではない。
元の世界に戻って、唯の学生に戻るのではなく……
永遠神剣のマスターとして、破壊神ジルオルという前世と向き合っていくのかと言う事である。
「はい―――俺の前世については、ナーヤから聞きました。
けれど、俺は破壊神ジルオルなんかじゃありません。世刻望です。
そして、世刻望としてこの世界に平穏を取り戻したいと思っています」
「そう……」
強い眼差し。ハッキリと宣言する言葉。どちらも揺らぐ事が無い。
仲間と立つべき場所を得て、彼は自分という存在を確立したのだ。
ここにいるのは、先日までの戦う意味が解らずに悩んでいた望では無い。
それは浩二も同じようで、今までのどっち付かずな日和見な考えは捨てていた。
開き直ったのである。もう戻れないならば、行くところまで行ってやろうと。
ただし、それは自分達の意思で―――
「解ったわ。でも、独立をするなら一つだけ条件―――ううん。お願いがあるの」
「何でしょう? 沙月先輩……」
ごくりと唾を飲み込む望。他の皆も真剣な表情だ。
しかし、沙月はそんな望達の顔を見ると、ニコッと笑ってこんな事を言うのだった。
「私も入れて♪」
「え、でも……沙月先輩は」
「だって、望くんの傍に居たいんだもーん」
そんな事を言いながら望の腕をとる沙月。
それを見た希美があーっと大声をあげて、引き剥がしにかかる。
「ね? ね? いいでしょ。望くん」
「いや、でも……斉藤?」
「いいんじゃね? 沙月先輩がこちらに加わってくれるなら、
旅団とのパイプ役にも適任だろうし」
いずれ沙月は引き抜いてやろうと思っていた浩二にしてみれば、
この提案は渡りに船である。反対する理由など何処にも無い。
「やたっ! よろしくね、望くん!」
「あーもう! 沙月先輩っ! 望ちゃんからはーなーれーてー!」
いつもの騒ぎ。よくある光景。世刻望を中心に集る少女達―――
浩二は、その騒ぎの輪から離れて窓際に立つ。
『なぁ、相棒……』
「何だ? 最弱」
『コミュニティーの名前なんやけど……
世刻望ハーレムWitt斉藤浩二の方が良いんとちゃいますか?』
「奇遇だな。俺も今そう思った所だ」