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No.2521の一覧
[0] THE FOOL(聖なるかな)【完結】[PINO](2008/06/11 17:44)
[1] THE FOOL 2話[PINO](2008/01/13 19:13)
[2] THE FOOL 3話[PINO](2008/01/14 19:09)
[3] THE FOOL 4話[PINO](2008/01/15 20:00)
[4] THE FOOL 5話[PINO](2008/01/16 20:33)
[5] THE FOOL 6話[PINO](2008/01/17 21:25)
[6] THE FOOL 7話[PINO](2008/01/19 20:42)
[7] THE FOOL 8話[PINO](2008/01/22 07:32)
[8] THE FOOL 9話[PINO](2008/01/25 20:00)
[9] THE FOOL 10話[PINO](2008/01/29 06:59)
[10] THE FOOL 11話[PINO](2008/02/01 07:15)
[11] THE FOOL 12話[PINO](2008/02/03 10:01)
[12] THE FOOL 13話[PINO](2008/02/08 07:34)
[13] THE FOOL 14話[PINO](2008/02/11 19:16)
[14] THE FOOL 15話[PINO](2008/02/11 22:33)
[15] THE FOOL 16話[PINO](2008/02/14 21:34)
[16] THE FOOL 17話[PINO](2008/02/19 21:07)
[17] THE FOOL 18話[PINO](2008/02/22 08:05)
[18] THE FOOL 19話[PINO](2008/02/25 07:11)
[19] THE FOOL 20話[PINO](2008/03/02 21:27)
[20] THE FOOL 21話[PINO](2008/03/03 07:13)
[21] THE FOOL 22話[PINO](2008/03/04 20:01)
[22] THE FOOL 23話[PINO](2008/03/08 21:11)
[23] THE FOOL 24話[PINO](2008/03/11 07:13)
[24] THE FOOL 25話[PINO](2008/03/14 06:52)
[25] THE FOOL 26話[PINO](2008/03/17 07:07)
[26] THE FOOL 27話[PINO](2008/03/22 07:36)
[27] THE FOOL 28話[PINO](2008/03/26 07:27)
[28] THE FOOL 29話[PINO](2008/03/23 19:55)
[29] THE FOOL 30話[PINO](2008/03/26 07:18)
[30] THE FOOL 31話[PINO](2008/03/31 19:28)
[31] THE FOOL 32話[PINO](2008/03/31 19:26)
[32] THE FOOL 33話[PINO](2008/04/04 07:35)
[33] THE FOOL 34話[PINO](2008/04/04 07:34)
[34] THE FOOL 35話[PINO](2008/04/05 17:25)
[35] THE FOOL 36話[PINO](2008/04/07 18:44)
[36] THE FOOL 37話[PINO](2008/04/07 19:16)
[37] THE FOOL 38話[PINO](2008/04/08 18:25)
[38] THE FOOL 39話[PINO](2008/04/10 19:25)
[39] THE FOOL 40話[PINO](2008/04/10 19:10)
[40] THE FOOL 41話[PINO](2008/04/12 17:16)
[41] THE FOOL 42話[PINO](2008/04/14 17:51)
[42] THE FOOL 43話[PINO](2008/04/18 08:48)
[43] THE FOOL 44話[PINO](2008/04/25 08:12)
[44] THE FOOL 45話[PINO](2008/05/17 08:31)
[45] THE FOOL 46話[PINO](2008/04/25 08:10)
[46] THE FOOL 47話[PINO](2008/04/29 06:26)
[47] THE FOOL 48話[PINO](2008/04/29 06:35)
[48] THE FOOL 49話[PINO](2008/05/08 07:16)
[49] THE FOOL 50話[PINO](2008/05/03 20:16)
[50] THE FOOL 51話[PINO](2008/05/04 19:19)
[51] THE FOOL 52話[PINO](2008/05/10 07:06)
[52] THE FOOL 53話[PINO](2008/05/11 19:10)
[53] THE FOOL 54話[PINO](2008/05/11 19:11)
[54] THE FOOL 55話[PINO](2008/05/14 07:06)
[55] THE FOOL 56話[PINO](2008/05/16 19:52)
[56] THE FOOL 57話[PINO](2008/05/23 18:15)
[57] THE FOOL 58話[PINO](2008/05/23 18:13)
[58] THE FOOL 59話[PINO](2008/05/23 20:53)
[59] THE FOOL 60話[PINO](2008/05/25 09:33)
[60] THE FOOL 61話[PINO](2008/06/02 18:53)
[61] THE FOOL 62話[PINO](2008/06/07 09:36)
[62] THE FOOL 63話[PINO](2008/06/05 20:12)
[63] THE FOOL 64話[PINO](2008/06/11 17:41)
[64] THE FOOL 最終話[PINO](2008/06/11 17:42)
[65] あとがき[PINO](2008/06/11 17:42)
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[2521] THE FOOL 30話
Name: PINO◆c7dcf746 ID:28d4a174 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/03/26 07:18







支えの塔にある制御室。
世刻望は、己の神剣である『黎明』を構えながら、一人の少年と対峙したいた。
黒い上着に黒いズボン。白い髪と蒼い瞳。
居合いのような構えで刀の形をした永遠神剣を構える少年―――暁絶である。



「何だ……今のは何をしたんだ!」



望はワケが判らないとばかりに叫んだ。
旅団本部でレーメと他愛も無い話をしていた所を、永遠神剣の共鳴の音で呼び出され、
僅かな前口上の後に、自分達が戦うのは宿命だと言って戦いを挑んできた絶。

始めは友との戦いに躊躇する望だったが、絶はそんな望の様子に失望したような顔をすると、
冷たい瞳と声で、自分と本気で戦わないならば仲間を殺すと言ってきた。
おまえの目の前で惨たらしく殺し、それでも足りなければ、この世界を滅ぼすと冷たく言い放ったのだ。

その瞬間―――

望の中に抱えた強力な意思が表に現れた。
破壊神ジルオルの鼓動。周りの全てを吹き飛ばすが如く渦巻くエネルギー。
戦いを乗り越えるたびに強く感じるようになっていたもう一人の自分が、
絶を滅ぼすべき敵だと認識して力を暴走させたのだ。

絶は、そんな望を見ると喉を鳴らして嬉しそうに笑った。
腕を翳すと、行き場無く渦巻いていた望のエネルギーに出口を作ってやり、
それを空に向けて放ったのである。

「答えろ絶っ! 今のは何だッ!」

「意念だよ……対象を滅ぼそうとする意思。
おまえが身体中から噴き出したその意志を、俺は純粋な破壊エネルギーに変えて撃ち放ったんだ」

「おまえは何を企んでいる。俺をどうするつもりなんだ?」
「それを知りたければ―――むっ!?」

言葉の途中で絶は大きく目を見開いた。
先程放った破壊エネルギーの塊が、目標から撥ね返されて戻ってきたからだ。

「クッ! まさか撥ね返されるとは……望ッ!
力を貸せ、アレの直撃を受けたら支えの塔など吹っ飛ぶぞ!」

斉藤浩二がこの場にいたならば、自分でやっておいてそれはねーだろとツッコミを入れたであろうが、
ここに居るのは世刻望である。支えの塔が吹き飛ぶと聞いては力を貸さない訳にはいかず、
『黎明』に力を籠めたその時―――


「なに!?」
「女の子……っ!?」


―――撥ね返された破壊エネルギーの塊は、双竜を後ろに従えた少女が押し留めていた。


「まさか、アレを受け止めるとは……」


絶が目を見開いている。その肩に座った『暁天』の神獣ナナシも表情を固まらせていた。
やがて、少女は破壊エネルギーの塊を上空に弾くと、
起動を変えられた破壊エネルギーの塊は爆音と閃光を走らせる。

「マスター。衝撃波がきます!」
「ノゾム!!!」

絶と望。二人の神獣が危険を伝えるがもう遅い。
押し寄せた爆風が、支えの塔にいる望と絶の身体をさらっていた。

「くあっ!」
「―――っ!」

ガラスを割り、塔の上から投げ出される望と絶。

「ノゾム。体制を整えろ。このままでは地面に叩きつけれるぞ」
「わかってる!」
「マスター!」
「心配するな。ナナシ……」

レーメの声に叫んで返す望。
二人は落下しながらも空中で体制を建て直し、ズダンッと音をたてて着地した。

「はぁ、はぁ、はぁ……」
「やれやれ……運命は、時に予測もつかない結果を用意する」

荒い息を吐く望と、涼しい顔の絶。

「絶……おまえの目的は何だ?
俺を支えの塔に呼び出し、戦いを仕掛け……挑発して、訳の解らない事をして―――ッ!
オマエは何を企んでる! 何を考えているんだ!」

望は立ち上がると、涼しげな顔で立っている絶の襟首を掴んだ。

「悪いが、教えるつもりはない……
それに、実験が終わった以上、もうこの世界に用は無い。決着は、また今度の機会だな……」

「何でだよっ! 何でこんな事をするんだよ!
解らないっ! 俺にはオマエが解らない……どうして……」

「…………」

「俺達は……友達じゃ無かったのか?
俺は、おまえの事を……一番の親友だと思ってた。なのに―――っ」

「―――フッ」

嘲笑と共に絶は掴まれていた襟首を乱暴に振りほどく。

「あの日、俺に学園で襲われて……
今もこんな目に合わされておきながら、まだ俺を友と呼ぶか?
ホントに………おまえは、とことんまでオメデタイ奴だな」

「―――っ!」

その言葉を投げつけられた瞬間。
望は弾かれたように顔をあげて絶の横面を殴っていた。

「うぐっ!」

力任せに振り上げられた拳など、あっさりとよけられた筈なのに、あえてそれを受ける絶。
今まで欺いていた望に、一発ぐらいは殴られてやろうと思っていたのである。

「さて……これで欺いた詫びはすませたぞ。一応これも言っておくが……
俺は、誰かに操られている訳でも、命令されている訳でもない。
あの時も、今も至って正気だ。自分の意思でオマエに剣を向け、自分の意思で今ここに居る」

「絶っ………」

望の瞳に涙が滲んだ。彼にとって暁絶という少年は特別だったのだ。
誰よりも気の合う友達。困ったときにはさり気なくアドバイスしてくれて、
嬉しい事があった時には一緒になって喜んでくれる親友だったのだ。

そんな少年が自分を殺そうと刃を突きつける。その理由を語る事無く……
ならば、今までの自分の気持ちは何だったのだ?
彼を親友だと思っていたのは自分だけで、始めから彼は自分の事など何とも思って居なかったのか?
共に過ごしたあの日々は、一体なんだったと言うのだ……

「全ての答えが知りたいと言うならば、俺を追って来い。
そこで全てを教えてやる。俺の目的。俺の想い。どうしてオマエに近づいたのか、
どうしてオマエに剣を向けるのか……全部な」

俯いたままの望に、絶は背を向けながら呟いた。

「ナナシ」
「イエス。マスター」

「望の神獣……確かレーメだったな?
彼女に座標を教えてやれ。俺の世界の場所を―――」

そう言って絶は歩き去っていく。

「手を出しなさい。レーメ」
「むっ、偉そうだな。おまえ」
「貴方に言われたくありません。さっさと出しなさい」
「むぅ……」

強い口調でナナシに言われると、渋々と言った感じで手を差し出すレーメ。
ナナシとレーメの手が合わさると、そこから光があふれ出し、
その光がレーメの中に吸い込まれていくと、彼女はふらふらと望の傍まで飛び、
彼の頭の上にポテッと落ちた。

「これで、マスターの世界への座標をレーメにアップロードしました。
彼女が居れば、迷う事無くマスターの待つ世界へとこれる事でしょう」

「うむむ……頭がくらくらする……」
「大丈夫か? レーメ!」
「う、うむ……なんとか……」

望は、自分の神獣が無事である事を確認すると、
空中に浮かんでいる人型の神獣ナナシに声をかけた。

「おまえとレーメの関係は何だ? いや、俺の『黎明』と、絶の『暁天』との関係!
俺とレーメだけに伝わる神剣の共鳴や、今の情報伝達など、どうしてこんな事ができる!」

「……それは、マスターに直接お聞きください」
「絶は……次の世界に行けば、必ず全てを教えてくれるんだな?」
「マスターが話す気ならば話すでしょう。では……私もこれで……」

そう言ってナナシは絶が立ち去って行った方に向かって飛び去って行った。
後には望と、まだフラフラとしているレーメだけが取り残される。


「……絶……」


一度だけその名前を呟く望。
そして、この事をどう皆に伝えようと背を向けた時―――




「ひょおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーっ!!!!」




―――何か、どこかで聞いたことのある声が近づいているのに気がついた。






**************





「斉藤!?」




顔をあげる望。すると、上空には槍の様なモノにまたがった少女に手を引かれ、
今まさにこの場所に飛んでこようとしている斉藤浩二の姿があった。

「あいつ、何やって―――」

そう口にした瞬間。目的地についたとばかりに急ブレーキで止まる少女。
しかし、後ろから引っ張られている浩二には遠心力が働くわけで……
少女は塔の外壁直前で止まったが、浩二はビターーーンという物凄い音と共に塔に叩きつけられた。

「あべしっ!!!!」

「「あ!」」

少女と望の声が重なる。その時にはもう手遅れで、
壁に叩き付けれた虫のように、浩二はずるずると壁に張り付いたまま落ちてくるのであった。

「斉藤!」
「おにーさん!」

慌てて駆け寄る望と少女―――ユーフォリア。
望は、この少女が先に破壊エネルギーを弾き飛ばした少女だと気づいていたが、
それどころでは無いので、少女を無視して浩二を助け起こした。

「生きてるか? 斉藤! おい!」
「おにーさん! おにーさん!」
「……うっ、あ……あ……」

叩きつけられる瞬間に受身を取ったのか、目だった外傷は無い。
それでも気絶しているのか、どれだけ呼びかけても目を閉じたまま呻き声をあげるだけだ。

「斉藤! おい、起きろ斉藤!」
「うっ!」
「死ぬな! 斉藤ッ!」
「ううっ!」

ビンタをくらわせる望。左右に何度もビンタ。
浩二の頬がビンタをくらって赤く腫れ上がっていく。

「―――って、痛い! ちょ、やめてくれ! 痛いって!」
「おおっ!」
「何がおおっ……だ! おまえ、俺の顔をアンパンマンにする気か!」
「いや、その……ゴメン。斉藤が死んだんじゃないかと思って……」
「ったく―――」

そこで、望の後ろで心配そうな顔をしているユーフォリアに気がついた。
目と目が合うと、ユーフォリアはバッと大きく頭を下げる。

「ごめんなさい。おにーさん」
「いや……いいよ」
「でも―――」
「最後はアレだったが、空を飛ぶという貴重な体験をさせてもらったからな」

そう言って浩二が笑いかけると、ユーフォリアはパッと顔を輝かせる。
花が咲いたような明るい笑顔であった。

「……あの、お礼とお詫びにもう一回飛びましょうか?」
「いえ。丁重にお断りさせて頂きます」

スッと頭を下げて断る浩二。
挙措にも言葉の響きにも一部の隙も無い、完璧な断り方であった。

「……ううっ、つれないです………おにーさん……」

そんな浩二の態度にユーフォリアは拗ねたような顔をする。
一人だけ置いてかれたような形の望は、とりあえず浩二に事情を聞いてみる事にした。

「……で、斉藤。この娘は誰なんだ?」
「ユーフォリア」
「いや、名前じゃなくておまえとの関係だよ」
「俺とユーフォリアの関係……ねぇ……」

何でもないと言うのが事実だが、それでは望は納得しないだろう。
そう思った浩二は、簡単に出会いから現在に至るまでを説明してやる事にする。

「望。おまえ、外に居たならさっきの騒動見ていただろう?
あの、空に巨大なエネルギー弾が何度も横切っていったヤツ」

「あ、ああ……」

見たも何も望は当事者であるのだが、この場では曖昧に頷いておく。

「最後に、そのエネルギー弾を空に吹っ飛ばしたのが彼女だ。
俺は、たまたま用事があってあの近くに居たから、
その後に彼女が落下してきた場所の近くに見に行ったのさ」

「……それで?」

ゴクリと唾を飲み込む望。

「で、まぁ……その後の詳しいやり取りは省かせてもらうが、
目を覚ました彼女から話を聞く限り、それで記憶を失ってしまったらしい」

「え?」

絶の策略に嵌められたとはいえ、それならば彼女の記憶を奪ったのは自分だ。
望は青い顔で、自分の横に立つユーフォリアを見る。
ユーフォリアは突然振り返って自分の顔を見る望に、ハテナ顔を浮かべていた。

「ついでに言うと……敵意はないみたいだが、彼女は永遠神剣のマスターだ。
それも、第五位のおまえよりも上のマスター。エターナルと呼ばれる超戦士だ」

望はエターナルと言うモノが何であるのかは解らなかったが、
第五位の神剣マスターである自分よりも位が上だと言うのは理解できた。

「………正直、俺達の手に負える存在じゃない。
だから、とりあえずサレスの所に連れて行こうと思うんだ」

「でも……」

そう呟いて望はユーフォリアの顔をもう一度見た。

「何ですか?」

何度も自分の顔を見てくる望を不思議に思ったらしく、首をかしげながら尋ねてくるユーフォリア。
そんな彼女のあどけない仕草に、望は居た堪れなくなった。

「―――っ! 斉藤!」
「……ん、何だ?」
「この娘……記憶が戻るまで、俺達のコミュニティーに来て貰ったらダメか?」
「……おまえ、俺の話しをちゃんと聞いてたか?」
「ああ」
「彼女は俺達の手に負えないって―――ハァ……」

真っ直ぐな瞳で自分を見つめてくる望に、浩二は途中で言葉を切ると軽く溜息を吐く。
この四ヶ月余りの付き合いで解ったのだが、望がこういう瞳をする時は、
彼なりにどうしても譲れない時がある場合だと知ったからだ。

「理由は……説明してくれるんだよな?」
「勿論。でも、それは皆も交えて……」
「オーケー。重大事項はみんなで相談して決める。だもんな?」

浩二はそう言うと、ユーフォリアの正面で少しかがむ。
まずは本人に確認をとるのが先だからだ。

「ユーフォリア」
「あ、はい!」
「記憶が戻るまで……俺達と来るか?」


「………はい! おにーさん達さえよろしければ!」



浩二の問いに力強く答えるユーフォリア。
それは、今までに見た笑顔で一番だと思えるほどに嬉しそうな顔だった。






******************





「そ・れ・で・は……ありゃ、全部……
暁にホイホイと誘い出された、おまえが原因かーーーーーーッ!!!」

「おぐっ! ギブギブ!!!」

事情を聞いた浩二は、望に逆エビ固めをかけていた。
希美、沙月、カティマ、ルプトナという他のメンバーは呆れたような、
怒っているような表情で望を見ている。

「あの、あのあの! 私、気にしていませんから!」

一人だけオロオロしてるのがユーフォリアだ。

「いいか! おまえはっ! 俺達のっ! リーダー! なんだぞッ!」
「ぐえっ、ぐあっ、ぐおっ!」

「そこんとこを、もっと自覚して……
軽率な! 行動を! 取るんじゃ! ないっ!」

「ギブ! ギブ! ギブ! あーーーーーッ!」

今までの自分の軽率さは棚上げして望を締め付ける浩二。
だからこそ女性陣は呆れたような目で見ているのである。
おそらく、どっちもどっちだと思っているのだろう。

「ま、まぁ……落ち着いてよ浩二くん。
望ちゃんも、暁くんに騙されて利用された訳なんだし……」

「そ、そうですよ。おにーさん。
私も望さんのせいだと思ってないし、気にしてませんから」

「―――チッ!」

被害にあった張本人であるユーフォリアがそう言うなら、止めるしかない。
浩二は舌打ちして望を開放する。

「ユーフォリアを、このコミュニティーに入れたいと言い出した理由はこれで解った。
てゆーか、そーいう事情なら入れるしかねーだろ」

「ううっ……すまない……みんな……」

「望! 俺は組織を作ろうとは言ったが……
世刻軍団を作ろうと言った訳じゃねーんだからな!」

「世刻軍団?」

希美が浩二の言葉に不思議そうな顔をうかべる。
同じようにカティマとルプトナも、世刻軍団なる意味が解らず首をかしげていた。
一人だけ、意味がなんとなく解った沙月は苦笑している。

「でも、部屋は沢山空いてるのが幸いだったわね……」

この場を取り成すように沙月が言う。
今、浩二達は明日引き渡される自分達の拠点に来ていた。
どうせリフォームは済んでいて、明日から自分達のモノになるのだから、
今日からこちらに移っても同じだろうと、待ちきれずにやって来たのである。

ちなみに、今のところ部屋割りは、二階を沙月達が使うことになり、
浩二と望は一階の部屋をそれぞれ自分の私室とした。

今後人が増えたら部屋割りについても話し合わなければいけないが、
今は十六人が住める拠点に、飛び入り参加のユーフォリアを加えても七人しかいないのだ。
アバウトに二階が女性部屋。一階が男性部屋と決めたのだった。

「あの、本当に……私もお部屋を貰っちゃってよかったんですか?」
「勿論いいわよ。むしろ部屋が余ってるぐらいなんだし」

ユーフォリアが遠慮がちに尋ねると、沙月が笑いながら答える。
礼儀正しく人懐っこい彼女は、すっかり他のメンバーとも打ち解け、
今はどういう訳か、一番小さいサイズの物部学園の制服を着ていた。
ついでに言うと、ここにいるメンバーはみんな物部学園の学生服である。

「それじゃあ、バカヤローのせいで話しが横道にそれたが……
今から第一回目の会議を始めるぞ?
とりあえず、今までの話し合いで決まった事を纏めるから」

「うん。お願い斉藤くん」

作戦室にあるホワイトボードの前に立つ浩二。
それから、箇条書きで決まった事を書き出していく。
今まではその役目は沙月だったが、立場が変わったので今は浩二が書いていた。
ちなみに、その字は沙月よりも綺麗で読みやすいと皆が思ったのは秘密である。



***************************************************************************



物部学園・永遠神剣組(仮)
ディスカッション 『第1回』

~ 今後の対外活動 ~


一つ。次の目的地は暁絶に指定された世界。
二つ。そこで暁絶の真意を尋ね、できる事なら説得。できなければ撃破。

―――――――――――――――――――――――――――――――――


~ 内部条例 ~


一つ。洗濯物は各人でやる。その際に洗剤は使いすぎない。
   永峰が書いた洗濯物と洗剤使用量の目安を見て、節約しながら使うこと。

二つ。料理当番は交代でやる。永峰、カティマ、斑鳩のグループと、
   斉藤、世刻、ルプトナ、ユーフォリアのグループで10日毎に交代。

三つ。風呂の時間は、ここの時計の時間で17~18時が男性。18~20時が女性。
   自室のシャワーは自由とするが、節水の為にできる限り大浴場を使うことにする。

四つ。食事の時間は、通常形態で朝食が八時。昼食は十三時。夕食は二十時。
   補給の目安が立たなくなり、食料の備蓄が減少してきた場合は緊急形態へとシフトチェンジ。
   朝食十時の夕食二十時という一日二食とする。

五つ。食料は生鮮食料品が冷蔵庫に七人で日に三回食べて20日分あり、
   缶詰や乾物などの非常食が、倉庫には25日分ある。
   すなわち通常移動で45日分があり、緊急形態ならば60日。
   嗜好品としてある菓子も食料に含めれば、最大で65日までの移動が可能である。

六つ。食料庫の鍵については永峰が管理。嗜好品の鍵については斉藤が管理するものとする。

七つ。コントロールルームでの夜勤は、基本的に二人組み。
   これはローテーションで毎日バラバラの組み合わせにして回すものとする。

八つ。みんな仲良く喧嘩しない。


********************************************************************************





「……以上。何か質問がある人は?」




ホワイトボードに決まった事を書き写すと、皆の方を振り返る浩二。
何だか取り決めが後半に進むにつれ所帯じみてきたなぁと思ったが、
すぐに所帯をもつのだから、所帯じみて当然かと苦笑した。

「はーい」
「はい。沙月先輩」

「質問じゃ無いんだけど……斉藤くんと望くんが出かけている時に、
私達の組織の名前を決めたから、それを伝えようと思って……
いつまでも物部学園・永遠神剣組(仮)じゃ締まらないでしょ?」

「俺は別にそれでも構わないのですが……」
「私達がイヤなの」
「……そーすか」

別に名前に拘りはないが、SOS団とかだったらマジでやめてくれと思う浩二。
しかし、沙月がじゃじゃーんと前置きをした後に言った名前は予想に反してまともなモノだった。

「私達のコミュニティーの名前は『天の箱舟』
みんなで意見を出し合ったけど、最後はカティマが考えたコレに落ち着いたわ」

沙月がそう言うと、カティマが少し照れくさそうに名前の由来を説明し始める。
これは、彼女の世界にものべーが降り立った時、
天より現れた沙月達の乗り物『ものべー』を、天の遣いが乗ってきた箱舟に見えた事が理由らしい。

「ボクは、ルプトナと愉快な仲間達がいいと思うんだけどなぁ……」

最後まで名前決めの際にその名前を押したルプトナは、まだ諦め切れないような顔で呟く。
浩二と望は、心の底から『天の箱舟』に決まってよかったと思った。

「それでは俺達『天の箱舟』は、明日正式にこの建物を『旅団』から譲渡されたら、
ものべーで暁が指定してきた世界に向かう。これでいいな?」

皆を見回しながら言う浩二。
すると、ルプトナがはいっと言って手を上げた。

「何だ? ルプトナ」
「えーと、そのなんとかの絶って人は―――」
「永遠神剣・第五位『びっくり暁天』の絶だ」
「ちょ、おま」

余計な言葉を加える浩二に、望が思わず声を上げる。
しかし、ルプトナはそれを信じてしまったらしく、何度もびっくり暁天を繰り返していた。

「その『びっくり暁天』の絶は、望達のトモダチなんでしょ?
本当に倒しちゃっていいの?」

「さぁな。とりあえず望の話しでは、ヤツが指定した場所に俺達が行けば、
事情を全部説明してくれるそうだから……ボードに書いたとおり、
戦うかどうかを決めるのは、まず話を聞いてからだな」

「そっか。戦わないで済むといいね」

納得したようなルプトナの隣では『びっくり暁天』の絶がツボだったらしい希美が、
身体を震わせて笑いを堪えている。おそらく、何にでもビックリ驚いて、
仰天してばかりの暁絶を想像して笑っているのだろう。

「オーケー。それじゃ、もう質問と疑問は無いようなので、
第一回『天の箱舟』の活動会議は終わり。
それでは最後に、我等のリーダーのお言葉で締めさせて頂きたいと思います」

そう言って浩二が望の方に皆の視線を誘導すると、
いきなり締めの言葉をと言われた望はびっくりしたように瞬きを繰り返す。

「……俺?」
「おまえ以外に誰がいると言うんだ……」
「あ―――うん。それじゃ……みんな。これからがんばろうぜ?」

凄まじく早い締めの言葉であった。
沙月と希美は、噴き出しそうになるのを押さえている。
カティマは頷き、ルプトナはおーと言いながら腕をあげている。

「……それだけ?」
「……え、ダメ?」

「ダメじゃないが、もうちょっと……ほら、あるだろ?
もっと、こう……記念すべき一回目の会議なんだから……」

「ゴメン。俺、こういうの苦手なんだ! 斉藤。頼む!」

パシッと手を合わせる望に、浩二は眩暈を感じたが、
コレをフォローするのも自分の役目かと思い直して、締めの言葉をいう事にした。


「我等『天の箱舟』は、私利私欲の為に戦う集団にあらず。
理不尽なる暴威に泣く、力なき民草を護るために立ち上がった、
崇高なる目的を抱いた戦士の集まりである。

敵は、己が欲望の為に世界を混沌に陥れようとする者すべて。
世界に平和を、世界に安らぎを、我等これより時空をかける天兵とならん!」


「「「「 ぶっ―――あっはははははははははは!!! 」」」」


「ちょ、ププッ―――やめて、斉藤くん……そんな真面目な顔で……
さ、さっきの……望くんとのギャップで、お腹が……」

「あははは! こ、浩二くん……望ちゃんのアレと違いすぎだよ……ブッ―――
あは、ははっ、あはははははは! もうダメ……アハハハハ!!」

「わ、笑っちゃダメだとは思うんだけど……
……ご、ごめんなさい。おにーさん……これはちょっと―――ぷぷっ」

芝居がかった口調で、さも立派な志を掲げる浩二の言葉は、
先の一言で終わった望の言葉とのギャップが凄すぎて、皆は思わず噴き出してしまう。
その後、会議は爆笑のうちに終わり、手を掲げた浩二だけが作戦室にいつまでも立ち尽くしていた……



『……相棒。いつまでも手をあげて固まっとらんと、ワイらも食堂に降りようで?
今日はこの後、みんなで結成記念パーティやるんとちゃうんでっか?』


「……初日から……心が折れそうだよ……俺……」





******************






「それではな。のぞむ……主らの活躍。期待しておるぞ」
「ああ。ナーヤの期待にどこまで応えれるかは分からないけど……」

世刻望をリーダーに仰ぐ永遠神剣マスター達のコミュニティー『天の箱舟』は、
魔法の世界で世話になった人達や『旅団』のメンバーに囲まれながら、最後の別れを惜しんでいた。

「それじゃ、タリア。そっちは任せたわよ」

「ええ。けれどアレね? どうせなら斑鳩じゃなくて、
この馬鹿を引き取ってくれればよかったのに」

「何だと!」

そんな中で、斉藤浩二は『旅団』のリーダーであるサレスと向かい合って居た。

「……世話になったな」

「なに、この程度の事はどうという事も無い。
それよりもサプライズは楽しんで貰えたか?」

「そりゃもう十分にね」

皮肉を籠めて浩二が言うと、サレスはフッと笑う。

「ならば、これ以上は何も言うまい。おまえ達の組織『天の箱舟』だったか?
名目上は世刻望がリーダーであるが、アレはおまえの組織だ。
上手く動かして見せろ。私が一から『旅団』を立ち上げたのに対し、おまえは随分と恵まれている。
永遠神剣のマスターを6人も抱え、その内1人はエターナルなのだからな」

その気になれば、いくつもの世界を牛耳る事だって可能な戦力である。
全員が浩二の部下である訳では無いが、その辺は上手く立ち回ればいいだけの話である。
サレスは、自分が浩二の立場であるならば、
彼等を自分の目的に沿うように誘導できると言外で言っているようだった。

「勘違いするな。組織を立ち上げる切っ掛けを作ったのは確かに俺だが、
別に俺はそれで何かをしようなんて思ってない」

「……ほう?」
「本当にアレは望の為に立ち上げたんだ。俺はそれを見守るだけさ」
「そんなに気に入ったか? 世刻望が……」

「少なくとも、破壊活動を繰り返す『光をもたらすもの』や、
真意の分からない『旅団』の為に、この神剣を捧げるよりは十分に良い」

反永遠神剣という一本しかない神剣を持つ自分は、
それこそ色々な者達に狙われる立場にある事は理解した。
そんな者達から身を護る為には、何処かの組織に従属して庇護を受けるか、
全てに背を向けて、力を隠しながらコソコソと生きていくしか無い。

神剣のマスターとしての力を隠して、誰も気がつかないような世界で、
身分を偽り生きていく事が嫌な訳では無いが……
それは、この身体がある限り、何時でもできる事である。

「アンタ達『旅団』が、本当に『光をもたらすもの』の破壊活動を
止める為だけに作られた組織であるならば、俺は『旅団』に入ってもよかった。
けど、それだけじゃないだろ? 『旅団』は、それだけの為に作られた組織じゃない。
ヤツィータさんやアンタが説明してくれた『旅団』は表の部分だけで、
きっと『旅団』には、人には言えない裏の部分があるんじゃないか?」

「…………」

「嫌なんだよ。そーいうの……分からない所で利用されて、
その結果として、ワケの分かんない責任を押し付けられるのが……」

一度きりの人生なのだ。歩く道くらい、全てを自分で決めて歩きたい。
覚悟して望んだ茨の道ならば、どんなに辛くても納得して歩けるから……

「望には裏が無い。本当に真っ直ぐに、自分の想いを曝け出して進んでいく。
裏が無いから、気づかずに利用なんてされる心配が無い。
だから俺は、この神剣を―――反永遠神剣を振るい、護る相手に望達を選んだ」

浩二はそこで一旦言葉を切る。
そして、眼鏡の奥のサレスの瞳を見つめてこう言った。

「察しの良いアンタなら気づいてるかもしれないけど……俺、基本的に人が嫌いなんだわ。
けど……孤独には耐えられても、孤立には耐えられない弱虫だから、
いつも皆に良い顔をしてる―――それが俺。斉藤浩二」

斉藤浩二なる少年が、その神剣である『最弱』にだけは心を開いている訳は、
本当にシンプルなものである。自分の『相棒』である『最弱』は、
決して自分を裏切らぬから、傷つけぬと知っているからこそ心を開いているのである。

「こんな俺だから、浅い付き合いの表面的なトモダチは多くても……
親友や恋人という特別なヒトが一人も居ないのも当然だと思ってる。
だって、俺が嫌ってるんだから、こんなヤツ好きになってくれるヒトなんかいる訳ねーじゃん」

誰にも言ったことの無い、浩二の偽り無い本心だった。

「……どうして、それを私に話そうと思った?」

「何でかな? たぶん、今の俺ではアンタに何一つ敵わないと思い、
どれだけ隠したって、仮面を被ったって、アンタには全部見透かされてると思ったからかな?」

手札は全部バレているのに、隠せてると思って白を切るのはマヌケだ。
そんな事をするぐらいなら、サレンダーして新たに手札を作って挑んだほうが良い。

「さて―――これで敗北宣言はお仕舞い。
次にアンタと会うときは、今よりマシな俺になってるだろうから覚悟してろよ?」

ニヤリと笑いながら不敵な宣言をする浩二。
サレスは微かに笑いながら、なるほど、この少年は手強くなるだろうと思った。

始めは世を拗ねた捻くれた子供だと思っていたが、
何が彼を変えたのか、こうして負けを認めて直挑んでくる気概を見せている。
敵にすれば一番嫌なタイプだ。自分の方が下だと開き直っているから、
負けても当然とばかりに何度も挑みかかってくる。

そういう手合いが一番性質が悪い。強さを求める事に貪欲で、諦めない。
そんな人間は凄い速さで成長していくのだ。

目を背けて寝ていた浩二の、戦士としての部分を目覚めさせたのはベルバルザード。
一人の人間として浩二を目覚めさせたのはサレス。

この二人は、自分は優れた人間であると思い込み、全てを見下して寝ていた斉藤浩二を、
ベルバルザードは力で、サレスは人間としての大きさで、
文字どうり叩きのめして目覚めさせたのだ。

「それじゃ、そう言う事で……施設は有り難く使わせてもらうから」

手を振って去っていく浩二。今の彼ならば……
自分が手元に置いて3~4年ぐらい育てれば、
真の意味で自分に成り代わり、この『旅団』を率いる事のできる人間にできたかもしれない。






「逃した魚は……思った以上に大きかったのかもしれないな……」






そう呟き、サレスは飛び立っていくものべーの姿を見上げるのだった。








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