「クルルル♪」
『うおーーーーーーっ!!!』
拠点の建物にある屋上。
斉藤浩二は、そこに自分の洗濯物であるシャツやズボンを物干し竿にかけていた。
その横には、堂々と干してある女物の白いパンツが揺れている。
「いや、ね……オマエはもうちょと慎みを持てよ……頼むから……」
浩二はソレをちらりと見て大きく溜息をついた。
干してあるのがルプトナの下着であるからだ
「俺が買った、組み立て式の物干しを、何の許可も無く使う事までは許そう―――
だが、そこに堂々と下着を干すのはどうだろうか?」
物部学園での生活と違い、身内だけの所帯であるし、自分もしている事だから、
共同スペースである屋上に洗濯物を干すのは構わないのだが、
下着くらいは自分の部屋に干せと浩二は思う。
「あ、おにーさん。私も物干し使わせて貰ってもいいですか?」
「ん? 別に構わないが……って、ハァ……」
「どうしたんですか?」
「いや。いいんだ……好きに使ってくれ……」
自分の洗濯物を、屋上に抱えて持ってきたユーフォリアを見て、
浩二はこめかみを押さえながら溜息を吐いた。
「ん……ちょっと、届かない……ゆーくん!」
「クルッ!」
神獣を呼び、踏み台になって貰って自分の洗濯物を竿にかけるユーフォリア。
その洗濯物の中には、ルプトナと同じく下着類も含まれていた。
「ユーフォリア」
「何ですか?」
「下着くらいは、自分の部屋に干さないか?」
「え? でも……洗濯物は、ちゃんとお日様の下に干さないと」
何でそんな事を聞くのだろうと言う顔をされて、浩二は引き攣った笑みを浮かべる。
もう、浩二はどうでもいいような気分になってきた。
下着泥棒をするヤツなど、このコミュニティーには居ないのだ。
「すまない。どーでもいい事を言った……忘れてくれ」
「あ、はい」
まだ洗濯物を物干し竿にかけているユーフォリアから背を向けて、部屋に戻ろうと振り返る浩二。
すると、自分の神剣が水を被ったようなベタベタな常体で地面に落ちていた。
「………なぁ、最弱……局地的に雨でも振ったか?」
『……雨や、あらへん……コレ、涎やねん……
相棒が洗濯物を干しとる間に……白いのに嬲られて、舐められたんやねん……』
「おまえ、ホントに気に入られてるよなぁ……」
精根尽き果てたような『最弱』を拾い上げると、そこに力を籠める。
すると、今まで涎で塗れて萎びていた『最弱』が、新品のように元に戻った。
ゆーくんの涎の臭いも消えて無臭になる。浩二はそれを確認してから『最弱』を腰に挿した。
『いやぁ、もう……酷い目にあいましたで……』
「ユーフォリアの神獣はアレか? 紙フェチだったりするのか?」
『どんなフェチやねん。そんなヤツはおらへんて!』
「なら、やっぱりアレはおまえに懐いてるんだよなぁ……」
『ケダモノに好かれても嬉しゅうないねん』
階段を降りながら『最弱』と談笑する浩二。
部屋に戻る前に食堂に立ち寄ってレモネードをコップに注ぐと、それを飲みながら自室へと戻った。
「さ、てと……」
腰の『最弱』をお手製の神棚の上に置くと、浩二は机に座って数学の問題集に取り掛かる。
そんなマスターの行動に『最弱』は、うげっと呟いた。
『なーなー。相棒。もう勉強なんてしぃへんでもえーがな』
「ただの暇つぶしだよ。別にしなきゃいかんからしてる訳じゃない」
『楽しいでっか? 勉強』
「楽しくは無いが……まぁ、頭の体操だな」
そう言ってノートにシャープペンシルを走らせる。
ちなみに今、浩二が挑戦している数学の問題集は、
元の世界では最高学府の入試試験の過去問題であった。
暇つぶしに本を用意しても、読み終わってしまったら、後はする事が無くなる。
物部学園に居た時は、生徒達の管理やコミュニティーの維持を考える必要があったので、
浩二に暇な時間というモノはあまり無かったが、今は永遠神剣マスターだけのコミュニティーになり、
雑務が随分と少なくなって、暇ができるようになったのだ。
勿論。仕事が無くなった訳では無い。
『箱舟』と名づけられたこの施設の、管理運営をする総責任者は浩二であるので、
それなりに仕事はある。だが、それは沙月も高く評価している斉藤浩二の事務能力からすれば、
自分を入れて、たった7人のコミュニティーを運営するのは片手間で十分にできる仕事だった。
故に、ものべーでの移動時間に暇を潰す手段として、浩二は元の世界の勉学を選んだのだ。
始めはクロスワードなどの、パズルの類も暇つぶしに考えたが、
どうせ暇つぶしに頭を使うのなら、元の世界の勉学の方が建設的だろうと考えたのである。
『そんなに暇なら、構ってーなー。ワイといつものアホ話しよーでー』
「じゃあ、俺が興味を引くようなネタをふれ。ネタを」
構ってくれと駄々をこねる『最弱』には目も向けず、
思考は数式の回答を解くことだけに回しながら、口だけで相手する浩二。
『そうやな。それじゃあ、みんな大好き恋の話でも―――』
「別に俺は好きじゃあないが?」
『この精神的EDめ……普通は好きなんやっちゅーの!』
視線さえ向けられずに否定された『最弱』は大声で叫ぶ。
『まぁ、ええ。とにかくや、相棒! 部屋でベンキョーなんかしとらんと、
若者らしく女の子を口説いてきなはれ。せっかくの一つ屋根の下なんやし』
「そんな事よりも、イルカの生態系について話さないか?」
『知るかいな。そんなモン! ええから行って来んかい。
でなきゃ、ワイは全力で相棒のベンキョーを邪魔するで?
ワイの十八番のレミオロメンメドレー、略してレミオメドレーを歌い続けるで?』
「チッ。なんてウザイ神剣なんだ……
てゆーか、そんなに暇なら望のレーメみたいに、自分で誰かの所に行って遊んでもらって来い」
『な、なんて事を言うんや……ヨヨヨ。
ワイに神獣が無い事を知っていながら、そんな酷な事を言うなんて……』
「じゃあ仕方ねーな。マスター様が勉強してる時ぐらい静かにしてろ」
『だーかーらー。もう勉強なんてしなくてもえーんやっちゅうの!
それよりも、自分のパートナーである、生死を共にする神剣と、
もっと親睦を深めたほうがええねん。ええねん!』
ジタバタと神棚の上で飛び跳ねる『最弱』に、浩二はチラリと視線を向ける。
「なぁ『最弱』よ、世界広しといえど……俺とおまえ以上の、
パートナーシップを持つ神剣マスターが他にいると思うか?」
『ハッ。世迷い事を……そんなのおる訳ないやろ。ワイと相棒のコンビは最高やねん』
「なら、別に無理して親睦を深めなくても、最高の力を引き出せるだろ」
『そうやな―――って、またんかい! それとコレは話が別やろ?』
「えーと、この問題にはこの方程式を用いて……と」
再び問題集に視線を向けた浩二は、それから振り向いてさえくれない。
仕方ないので『最弱』はコブシを効かせながら粉雪を熱唱した。
『こなぁ~ゆきぃ~ねぇ~』
神剣のくせにやたらと上手いのが癪に障るが、歌いだした『最弱』はのってきたらしく、
その後別の曲を三曲ぐらい歌い続けた。そして、四曲目に入ろうとしたところでハッと気づく。
『って、ちゃうねん! ワイはカラオケしたい訳やないっちゅーの。
もっと……こう、ラブいのを見たいんや。なーなーなー頼むからナンパしよーでー』
「……ったく、ホントうるせぇなオマエは……わーった。わーかった。
とにかく誰かに『甘い言葉』をささやけばオマエは満足なんだな?」
『マジで? マジでやってくれるんでっか?
言わんでも解ってると思うけど……世刻は無しやで? 女の子やで?』
「わかってるってーの」
浩二がペンを止めて立ち上がると『最弱』は期待したようにマスターが部屋を出ていくのを見送った。
『最弱』は浩二の相棒として、彼がいつまでも恋人一人、親友一人居ないのを心配しているのである。
浩二が部屋を出ていく瞬間。ガッツやでーとエールを送った。
*****************
「よう」
部屋を出た浩二は、階段を上がって二階の休憩室に顔を出した。
「あ、浩二くん」
「斉藤殿」
「うーーーっ」
すると、そこには希美とカティマとルプトナが集っており、
テーブルの周りに椅子を寄せて、トランプをしているようだった。
「今、三人でババ抜きしてるんだ。浩二くんも混ざる?」
そう言ったのは希美で、カティマは苦笑しながらカードをルプトナの前に出しており、
ルプトナはどれがババであるのかを真剣に悩んでいる。
「これっ!」
「残念……それがババです」
「あーーーーっ!」
叫び声と共にカードを投げるルプトナ。どうやら彼女が負けたようであった。
「ボク、このトランプって遊び嫌い! いっつもボクが負けるもん!」
そりゃ、あれだけ顔に出てれば当然だろうと浩二は思う。
「じゃ、俺とスピードやるか?」
これならば駆け引きや記憶力などは必要無い。
ただひたすらに反射神経だけを競い合うゲームだ。
「スピード?」
「ああ……」
自分の分の椅子を持ってきて、ルプトナの正面に座る浩二。
それから遊び方を説明してやると、彼女は嬉しそうにボクやると宣言した。
「じゃ、カードを赤と黒で分けて……と」
お互いに最初の四枚を手前に置く。
それからスタートの合図をかけると、永遠神剣マスターどうしの、
物凄い反射神経と、手を出す速度でのスピードが始まった。
常人がやっても5分あれば終わるゲームだが、永遠神剣マスターどうしがやると、
それは途中でお互いが出すカードに詰まっても一分で終わる。
「やった! ボクの勝ち!」
ガッツポーズをとるルプトナ。
その後、スピードが余程気に入ったのか20回ぐらい勝負を挑まれると、
4勝16敗でスピード勝負は浩二の大負けで終わった。
「なんか、最後の方……二人とも手の動きに残像が残ってたよね……」
「ああ……てゆーか、カードゲームで汗をかくとは思わなかったよ」
「斉藤殿。代わってください。私もやってみたいです」
「あ、いいすよ」
「へへーんだ。ボクの速さについてこれるかな?」
つい先程まで、トランプなんて嫌いだと言っていた人物とは思えぬほどに、ルプトナはノリノリだ。
浩二はそんな彼女の様子に小さく笑った。
「それじゃ、俺はそろそろ部屋に戻るわ」
「ん、わかった。それじゃまた、夕食の時間にね」
スピード勝負に熱中しているカティマとルプトナには、
声をかけても耳に入らないだろうと、希美に別れを告げて浩二は休憩室を出る。
「―――あ、そういえば『最弱』との約束を忘れてた……
……ったく、あーもーめんどくせぇなぁ……」
目的を忘れていた事に気がついて、もう一度休憩室に引き返そうとする浩二。
「あ、おにーさん」
すると、自分と入れ替わりで休憩室に顔を出すつもりだったらしい、
ユーフォリアに階段の所ででくわした。
「ユーフォリアか……フム。ちょうどいい。
休憩室に戻る手間が省けた。おーい、ちょっとこっちに来てくれー」
「はーい!」
浩二が名前を呼ぶと、ユーフォリアは笑顔で走りよってくる。
「……えと、何か御用ですか?」
「ああ。ちょっと耳貸してくれないか?」
「……はぁ……どうぞ」
そう言って、横を向くユーフォリアに、浩二はかかんで顔を近づけると―――
「砂糖。砂糖。砂糖。砂糖。砂糖。砂糖」
―――約束どうりに『甘い』言葉のささやきを連発した。
「サンクス」
「……え? 今のは?」
「甘い言葉」
「は?」
キョトンするユーフォリアの頭に、ポンポンと手をおいてなでる浩二。
彼女は、心底ワケが解らないという顔をしていたが、
撫でられるのは気持ちいいのか目を細めてされるがままにしている。
「協力、ありがとな」
「……あ、はい……何だか解りませんけど、どういたしまして……」
浩二は、そんな彼女にもう一度感謝の言葉を告げると、
やれやれと肩を叩きながら去っていくのだった。
とにかく自分は女の子に甘い言葉をささやいてきた。
誤魔化しだろうが、屁理屈だろうが嘘はついていない。
反永遠神剣『最弱』の失敗した所は、誰にも聞かれたくないだろう、
愛の言葉をささやくマスターに気を使って、自室に残ることを選んだ事であった。
「帰ったぞ」
『……お? 何や遅かったな相棒。で、誰に言うて来たんです?』
「ユーフォリア」
『はぁ……こらまた、えらい相手を選んだモノでんなぁ……』
浩二が告白するなら、沙月かルプトナだろうと思っていた『最弱』は、
まさかのユーフォリアという答えに驚いたような声をだす。
『反永遠神剣のマスターと、対極の位置にある存在―――エターナル。
やはり、恋は障害が大きければ大きいほど燃えるか……んで? 反応はどないでした?』
「戸惑ってた」
―――意味が解らず。
本当ならこの言葉を前につけるべきなのだろうが、あえてそれを省略して言う浩二。
『まぁ、ユーフォリア嬢ちゃんとは、まだ出会ったばっかりやからな……
けど……んーーー……んんーーーーっ!
……相棒……やっぱり、相棒もロリ属性が好みなんでっか?
本命は今日子女史だったとはいえ、光陰はんも属性的にはロリ好きやったけど……』
ちなみに、もう浩二は『最弱』の話しなど聞いていない。
数学の世界に没頭してしまっている。
こうなると周りのモノは一切目に入らないし、耳にも入らない。考え事に集中した証拠であった。
『う~む……なんかなぁ……ベンキョーできる人間ってロリコン率高いなぁ……
偉い肩書きの先生が、教え子に手ぇだしたとかで、ニュースにもなっとる時代やし……
―――ん? すると、何やねん? サレスもロリ好きの確率高いがな。
ナハハ……タリア女史も報われんなぁ、もう年齢が五つか六つぐらい低ければ……』
ひたすらに勉強する浩二と、妄想の翼をどこまでも羽ばたかせる『最弱』
彼等が勉強と妄想を止めるのは、風呂の時間になり、
望が大浴場に行くのを誘いにくるまで続いたのだった。
********************
「おにーさん。おにーさん」
風呂に入り、夕食を終え、食後の休憩がてら浩二は望と共に、
休憩室のソファーに腰かけてまったりしていると、
ユーフォリアが小さな足音をたてながら走りよってきた。
「ん? どうしたユーフォリア」
「私、思い出したんです」
「何を?」
「記憶」
その言葉に浩二はソファーからガバッと音をたてて立ち上がる。
隣では、望が驚いたような表所をしていた。
「戻った……のか?」
「はいっ!」
ゴクリと唾を飲み込みながら言う浩二。
その手は、さり気なく腰の『最弱』に伸ばしている。
「………ん? どうした斉藤?」
おまえも襲い掛かってこられても対応できるように立てと言う思いを籠めて、
望が座っているソファーを軽く蹴るが、彼は暢気な顔でこんな事を言う。
考えが伝わらなかった事に内心で舌打ちするが、
ユーフォリアは浩二の顔を見てニコニコと笑っているだけで、神剣を召喚する気配さえ無かった。
「あのですね。私―――パパにはユーフィって呼ばれていたんです」
「ほう……それで?」
「え? それでって……それだけ、ですけど……」
記憶が戻って最初に伝えるのが自分の愛称とはこれいかに?
ユーフォリアの真意を測りかねる浩二は、相変わらず警戒したままだ。
「いや、記憶が戻ったなら、他にもいう事があるだろ?
魔法の世界にやってきた目的とか、理由とか……」
「え? あ、あの……それは、まだ……
自分がユーフィって呼ばれていた事を思い出したから、
それをおにーさんと、望さんに教えに来ただけで……えへへ」
照れくさそうに笑うユーフォリア。
「だから、これからは私の事はユーフィって―――」
―――スパーン!
「あいたっ!」
浩二は無言でユーフォリアの頭にハリセンを振り下ろした。
それから、人騒がせなと言わんばかりにドカッと音をたててソファーに座りなおす。
「……って、なにするんですか! いきなり酷いです。
ドメスティックバイオレンスですよっ!」
「すまん。俺は無意味な事を言われたら、ハリセンで叩かずにはいられない男という、
オリハルコンネームを背負っているんだ。許してくれ。あと、DVの遣い方間違えてるからな」
そう言って『最弱』の一部分を毟り取ると、
胸ポケットに刺していたボールペンで、自分のステータスを書いて見せてやる。
******************
斉藤浩二
神剣:最下位『最弱』
神獣:無し
誕生世界:元々の世界
オリハルコンネーム
・無意味な事を
・言われたら
・ハリセンで
・叩かずには
・いられない男
******************
「……と、いう宿業を背負っているんだ。だから、悪く思わないでくれ」
神獣と誕生世界以外は、何もかも嘘のステータス表を渡す浩二。
その足元では、いきなり身体をちぎられた『最弱』が悲鳴をあげていた。
「―――フッ!」
力を籠めて『最弱』の千切れた部分を再生してやる浩二。
望は、相変わらずデタラメな神剣だなぁと言う顔でその様子を見ている。
ユーフォリアは、浩二が書いたメモを真剣な顔で読むと、
それならしょうがないですねと言いながら、ニコリと笑った。
「なぁ、斉藤……おまえ、心が痛まないか?」
「さ、流石に……ちょっと罪悪感を感じるな……
てゆーか、何でこんなの信じるんだよ……ここは何処の正直村だ……」
ボケと言うモノは、沙月のようにリアクションをとってくれるか、
希美のように更なるボケで返してくれないと、言ったほうが辛い。
仕方がないので浩二はユーフォリアに素直に謝った。
「嘘つきはどろぼーの始まりですよ。おにーさん」
「すみません」
「今回は許してあげますけど、次に嘘をついたら怒りますからね」
「恐縮の極みであります」
自分より一回りは幼い容姿の少女に説教される浩二。
望は、そんな二人を見ていて気づいた事があった。
「ユーフォリア」
「……え? 何ですか望さん?」
「そういえば俺の事はさんづけなのに、斉藤の事はお兄さんって呼ぶよな?」
そんな望の言葉に、浩二の腰の『最弱』は、心の中で好感度の違いやねんと呟く。
一人ぐらいは世刻望ではなく、自分のマスターを選んでくれる娘さんもいるのだと嬉しそうだ。
「ああ、その事ですか……えっと、望さんはおにーさんって言うよりも……その……」
「言うよりも?」
「雰囲気がパパに似てるので、おにーさんとは思えなくて……」
ポッと頬を染めるユーフォリア。
「なぁ、斉藤。俺っておっさん臭いかなぁ?」
「いえ、ちがうくて……決して、その……そーいう訳では……」
チラチラと望を見ながら言うユーフォリアに、浩二はああと呟く。
彼女はきっとファザコンだと当たりをつける。
そして、また世刻軍団が一人増えるわけだと頭が痛くなった。
『……相棒』
「何だ? 最弱」
『気ぃ……落とさんでも……ええからな?
ワイが……傍にいたるからな? 泣くんやないで……』
「は? 何を言ってるんだオマエ?」
浩二はユーフォリアの事が好きだと思っている『最弱』が、マスターを気遣うように慰めるが、
そんな気持ちは欠片も無い浩二は、思いっきり怪訝な顔をする。
『あーもー。いっそワイの性格が女で、人間型の神獣出せたら、
間違いなくヒロインは引き受けたるのに……』
「ハハハ。おまえ馬鹿だろう? てゆーか、神剣がヒロインなんてねーよ。
そんな人外をヒロインにする事なんて、望にだって無理だ。
できたら俺、鼻から牛乳を一気飲みしてやるね」
『ほう。絶対せーよ? 言質とったからな?』
「おう、してやるとも」
『ククッ―――そんな安請け合いしてからに……ハハハ』
「フフッ―――あるわけねーだろ、そんなもの……ハハハ」
「『 ハーッ、ハッハッハハハ!!! 」』
顔と刀身を近づけて笑いあう『最弱』と浩二。
「―――くしゅん!」
その瞬間。何処か別の世界でルプトナに良く似た少女が、
クシャミをしたとか、しなかったとか……
―――これは、ある日の『天の箱舟』における一コマである。