「ここが……絶の指定した世界―――」
「見事に砂の荒野だなぁ」
ナナシに指定された座標の世界へとやってきた『天の箱舟』のメンバー達。
ものべーから降りると、全員がその有様に驚いていた。
「私の役目はここまでです。
マスターは、あそこに見える崩れた塔の麓にいらっしゃいますので」
ふわりと、空に浮かんだナナシは、それだけ言うと絶がいると言った塔の方に飛び去っていく。
「ちょっ、おま、どうせなら最後まで案内しろ!」
その後姿に浩二が叫び声をあげるが、一刻も早くマスターの所に戻りたかったのか、
ナナシは振り返りもせずに行ってしまう。
後には砂の荒野にぽつんと残された『天の箱舟』のメンバー達だけが残った。
「ま、仕方ないわね。私達は歩いていきましょ?」
「ええ。ここまで来たら焦る必要はありません」
苦笑しながら言う沙月と、表情を引き締めたカティマ。
二人が先頭に立ってしばらく歩くと、上に嫌な気配を感じた。
「みんな! 危ないっ!」
「飛べっ!」
沙月と望の声に、全員が神剣の力を解放して瞬時にその場から散る。
その瞬間、爆音が響き渡り砂埃が舞った。
「みんな、無事!?」
叫ぶ沙月。彼女が焦ったような顔で言うと、多方面から返事が聞こえてきた。
「けほ、けほ……なに、いったい?」
「無事です……なんとか」
「俺と希美も無事です」
「うう~、目に砂が入った~」
「……むむっ、何ですか? もう」
ルプトナ。カティマ。望に希美。ユーフォリア。
5人からは返事が返ってくるが、一人だけ返事が聞こえない。
沙月は、もしやと思って彼の名前を呼んだ。
「斉藤くん!」
返事は無い。最悪の事態を想定して顔を青ざめる沙月。
しかし、砂埃が風に飛ばされていくと、爆心地の中心に人影が見えた。
「手荒い歓迎じゃねーか………」
浩二。立っている。自分の神剣―――
反永遠神剣『最弱』をカイトシールドの形に変えたモノを頭上に掲げ、ずっと一点を見つめている。
その先には、薙刀を構えて立つ鎧姿の偉丈夫が立っていた。
「ベルバルザアアァァァァド!!!」
叫ぶ浩二。それと同時に神剣を棒の形に変える。
名前を呼ばれた偉丈夫―――ベルバルザードは、笑っていた。
「フッ―――まさか、おまえ達までこの世界にやって来ようとはな……」
「それはこっちの台詞だ。なんでテメーがこの世界に居やがる!」
「俺だけでは無い。エヴォリアも来ておるぞ」
愉快そうなベルバルザード。
「……目的はなんだ?」
「ルツルジの抹殺―――」
「―――っ!」
息を呑む。まさか『光をもたらすもの』が、
絶を狙ってこの世界に来ていたとは思いもしなかったからだ。
「望。みんな……先に行け。暁が危ない……」
「でも、斉藤くん」
「なぁ、おまえの狙いは俺だろ? ベルバルザード」
そう言ってベルバルザードの顔を見ると、
彼は首を縦に振って永遠神剣『重圧』を頭上に振り上げ、一回転させると腰を落とした。
「そういう訳ですよ。沙月先輩……
俺がここに留まれば、ヤツは邪魔をしてきません」
「でも、一人じゃ……」
「大丈夫です。負けません。倒して後から追いかけます。
その間―――望を頼みます」
「浩二……」
浩二は『最弱』を頭上で回転させると、腰を落として棒の先をベルバルザードに向ける。
その構えはベルバルザードの構えとまったく同じ型。目はギラギラと輝いていた。
「いけ、望。こいつは俺にとって越えなきゃいけない壁なんだ。
大丈夫。俺は負けない。こいつに負けるのはもう沢山だ!
俺は、こいつを―――ベルバルザードを倒さなきゃ前に進めないんだよ!」
浩二の意思は固い。これは、もう止めても聞かないだろうと、沙月は溜息を吐く。
そして、これだから男の子ってやつはと呟いた。
「それならアイツは斉藤くんに任せるわ。
でも、一つだけ約束して。絶対に死なないって」
「……沙月先輩。その台詞って死亡フラグみたいで不吉だからやめてください」
「―――っ! いいから、約束しなさい!」
「はいはい。解りました。死にませんよ、俺は―――」
そう言って望を見る。目が合うと頷きあった。
それが合図であったかのように『天の箱舟』のメンバーは、
神剣の力を解放してこの場を走り抜けていく。
「……なぁ、精霊の世界の時と違って……
今回は、きちんと話が終わるまで待っててくれたのは何でだ?」
「俺が認めた男の最後の時だ……
永久の別れの挨拶を交わすぐらいは待っててやるさ」
「ハッ―――ぬかせよッ! 俺はやっと始まったんだ!
生きる場所、仲間、夢……やっと手に入れて―――
俺は、やっと始まったばかりなんだ! 序章で蹴躓いてたまるかよ!」
「貴様の物語……最初の壁が、この俺か……フッ、ククッ―――
ハハハハハハ!!! 面白いっ! ならば越えてみろ!
このベルバルザードを! 全てを押しつぶす『重圧』の壁を!」
***************
「「 ハアアアアアアアアッ!!! 」」
二人の気合が砂の荒野に響き渡る。
互いに同じ構えで、気を身体に漲らせている。
『うほほー! 今日は最初からマジモードやな。
反逆と反抗。絶対を否定する意思が、ビンビンと伝わってくるでー!』
肉食獣のケダモノのように、ギラギラと瞳を輝かせている浩二。
それはベルバルザードも同じようで、鋭い眼光で浩二を睨みつけている。
魔法の世界で対峙した時は、ベルバルザードの眼光に怯んだ浩二だが、今は負けていない。
気合の高鳴りが、見えない螺旋を紡ぐように広がっては消えていく。
その螺旋は、波打つごとに大きくなっていき……
浩二とベルバルザードの放つ気合の螺旋がぶつかり合うその瞬間―――
「うおおおおおおっ!!!」
「ハアアアアアアッ!!!」
二人は、大地を踏み抜くように前へと跳んだ。
『重圧』のエネルギーを籠めた薙刀が、空間を切り裂くかの勢いで振り下ろされる。
浩二は『最弱』にエネルギー伝導で力を送り込み硬質化させると、
その一撃を気合と共に『最弱』で弾き返した。
ぶつかり合った瞬間に、ベルバルザードの『重圧』のエネルギーは、
浩二の『最弱』に無効化されて、ただの重く速い一撃となる。
だが、それでも永遠神剣マスターが振るった渾身の一撃は、ビルを薙ぎ倒す程の威力だ。
「―――がっ!」
「ムゥ!」
お互いの力を籠めた初撃は互角。
神剣をぶつけ合った際に巻き起こった爆風が砂煙をあげた。
「でぇーーーりゃりゃりゃりゃ!」
神剣をぶつけ合い、お互いに足を地面についた時。
間合いは距離にして3メートル。薙刀と棒の間合いだ。
浩二は、しっかりと足を踏みしめてベルバルザードに棒の連続突きを放つ。
頭、喉、腰、胴―――
その全ての箇所を狙って、ランダムに突きを放つ。
その突きの速さは、すでに残像を残すほどであり、もはや壁だ。
受けるベルバルザードは、凄まじい圧力の壁が迫ってくるように感じられた。
「フンッ―――!」
気合と共に、ベルバルザードは地面に『重圧』で石突をくらわせる。
その瞬間。周囲の地面がボゴッと音をたてて埋没した。
「なっ!」
突如として足場が下がってバランスを崩す浩二。
次の瞬間には、薙刀の刃が自分の頭をカチ割るように振り下ろされていた。
『相棒!』
「うおおおおおっ!」
気合と共に『最弱』を袈裟斬りに薙ぎ払う。
間一髪の所で間に合ったその一撃は、ベルバルザードの『重圧』の起動を反らし、
『重圧』の刃は、地面を抉り取るに終わった。
「チィ―――ッ!」
陥没した地面から跳躍して、間合いの外に飛びずさる浩二。
ベルバルザードは、再び腰を下ろして構えを取っていた。
「頭使うようになったじゃねーか? ああ?」
「貴様の神剣の特性は、先の戦いで知っていたからな……」
斉藤浩二へ『重圧』の一撃を叩き込んでも、その神剣で力を消されるのなら、
浩二ではなく、その足場となる地面に叩きこんでやればいい。
あの神剣の能力は、その刀身を魔法や神剣に叩きつける事によって、
こちらの神剣の効果を打ち消す能力なのだから。
『研究されとるなぁ……相棒』
「……まぁ、俺なんかとは比べ物にならないぐらいに戦闘経験は豊富そうだからな?
だから、たぶん……一度使った技は、対策を立てられると思ったほうがいい」
『ほほう、ピンチなのに落ちついとるやんけ?』
「まだまだ。俺達の技のネタは切れてない―――そうだろ? 最弱ッ!」
『―――って、アレをやるつもりかいな!?』
「そうだっ!」
浩二は、棒の形態にしていた『最弱』を、薄い正方形の紙の形に変えると、
徐にそれをビリビリと千切る。
『いてぇえええええ!!! ちぎられるぅぅぅぅぅ!!』
「はあああああっ!!!」
薄く伸ばした『最弱』を、適当な長さで何個か千切った浩二は、
力を籠めて千切った部分の『最弱』を再生させ、再び棒の状態に戻す。
ベルバルザードは、その間も油断無く神剣を構えていた。
『いててて……つーか、この攻撃はワイが痛いからやめてーなー』
「勝つ為だ。我慢しろ! それよりも解ってるな?」
『オーケーやねん。クソ……これで有効打を叩きこめんかったら、
二度とやるのは禁止やからな……』
「きっと効くさ!」
そう言って浩二は、棒形態の『最弱』を片手に飛び掛る。
『―――ハッ!』
もう片方の掌には、紙吹雪のように細かく刻んだ『最弱』の欠片。
浩二はそれをベルバルザードに投げつける。
エネルギー伝導により硬質化されたその破片は、ショットガンのようにベルバルザードに降り注いだ。
「笑止ッ! それで目くらましなど、子供騙しだぞ!」
ベルザードは『重圧』の薙ぎ払いだけで、
散弾銃の弾丸のように降り注ぐ『最弱』の欠片を吹き飛ばす。
しかし、その次の瞬間に目を見開いた。
「何だとっ!?」
覆いかぶさるように倒れてくる壁。
否―――正方形に大きく広がった浩二の神剣『最弱』
これもエネルギー伝導で硬質化されているのか、質量を持って倒れてくる。
『ぬりかべーーーーっ!』
目くらまし二連発。始めの紙吹雪はおとりで、次の正方形に広がる壁こそが本命。
しかも、その二発目の目くらましも、硬質化した『最弱』で押し潰すという攻撃になっている。
ベルバルザードは、白い壁を睨みつけた。
「クッ―――なめるなあああああああっ!!!」
そして、白い壁に向かって斬撃を放つ。
渾身の力を籠めたその一撃は、白い壁を真っ二つに切り裂いた。
「―――なっ!?」
しかし、その先に浩二は居ない。
白い壁を盾にして、押しつぶそうとしてる筈の敵の姿がない。
「なめてねーよ」
「!?」
その時、横から声が聞こえた。
視線を向ける。斉藤浩二。がら空きになった脇腹を狙うように、
白いバンテージのようなモノを巻きつけた拳で、強烈なフックをベルバルザードの脇腹に叩き込む。
「うごっ!」
白いバンテージは彼の神剣『最弱』で作ったモノ。
反永遠神剣の力が、ベルバルザードの魔力で防護した守りを霧散させ、
浩二の放った脇腹へのフックはクリティカルヒットとなる。
全てはこの一撃を叩き込まんが為であった。
ベルバルザードの目の前で、これ見よがしに『最弱』を千切ってみせたのは、
新しい武器を作るのはこれからだと思わせるため。
もうすでに戦いの仕込みはできており、ポケットには『最弱』で作ったバンテージが入っていたのだ。
白い壁も目くらまし。
『最弱』の本体による攻撃だから、ベルバルザードはこの攻撃が本命だと勘違いしてもおかしくない。
だが、浩二の本命は、あくまで『最弱』を千切って作った欠片による攻撃だった。
「最弱!」
『はいなっ!』
ベルバルザードにより、真っ二つに切り裂かれて再び薄い紙になっていた『最弱』は、
浩二の呼び声と共に、棒の形態になる。その数二つ。
二つに両断された『最弱』は、二つとも棒の形態になって浩二の手に収まった。
「うおおおおっ!」
剣ぐらいの長さになった『最弱』の二刀流。
脇腹の骨を砕かれたベルバルザードの身体が、ぐらりと揺れるところに、次々と乱撃を叩き込む。
神剣の力による防御を全て無効化する『最弱』での一撃は、
その身に受ければすべて直撃―――クリティカルヒットとなる。
永遠神剣マスターがエネルギー伝導で硬質化させた棒という凶器で、
永遠神剣マスターの強化された一撃をその身にくらうのだ。
ベルバルザードの纏っている鎧が、ボコボコにへこみ、あるいは吹き飛んでいく。
「飛べ! おらあああああっ!!!」
最後は右と左でクロスを描いた攻撃だった。
この技は、世刻望が繰り出す双剣の斬撃を真似たものである。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
力の限りの攻撃を叩き込んだ。ありったけの力を神剣に籠めて、
息が続く限りの連続攻撃を叩き込んだのである。
これをくらって生きている訳がない。生きていていい訳がない。
「はぁっ……はぁっ……」
浩二は吹き飛ばされて倒れているベルバルザードを見る。
ベルバルザードは、倒れたまま動かない。
「はぁっ……」
乱れた呼吸が整ってくる。
ベルバルザードは、倒れたまま動かない。
「…………」
剣ぐらいの長さで二つだった『最弱』を、再び一つに戻し、
使い慣れた槍ぐらいの長さに戻して構えるが……
ベルバルザードは、倒れたまま動かない。
「勝った……」
その姿を見ながら、浩二はポツリと呟いた。しかし、その瞬間―――
「うおおおおおおおっ!!!!」
咆哮と共に、赤い鎧を纏った戦士は立ち上がってきた。
「……訳ねーか……だと思ったよ!」
やっぱりと言わんばかりの浩二は、再び表情を引き締める。
立ち上がってきたベルバルザードはボロボロだった。
鎧はひしゃげ、曲がり、いたる所が欠けている。しかし、その目はまだ死んでいない。
燃えるような瞳で、浩二の姿を睨みつけている。
「ハハッ―――クソ! とことんまでやってやるよ! バカヤロウ!
何度だって叩き伏せてやる! オマエがくたばるまで神剣をぶち込んでやる!
勝つのは俺だ! もう、オマエに負けるのは沢山なんだよ! コノヤロオオオオオ!!」
************************
「ムッ―――ぐうっ……」
対峙してから、どれだけの時が過ぎたであろうか?
ベルバルザードは、脇腹の傷が痛み、型膝をついた。
正面には、いたるところに傷を負って、なお闘争心を失っていない敵の姿がある。
「いい加減……死ね、テメェ―――不死身か……」
強くはなったが、その口は相変わらずかとベルバルザードは笑う。
気力だけで支えていた身体に、限界がこようとしていた。
凄まじい膂力の攻撃を全身に浴び、身体中の骨がきしんでいる。
永遠神剣の力で補強しているが、それももう限界だ。
「斉藤……浩二……」
敵の名前を呼んだ。
自分をたった一人で打ち倒した素晴らしい戦士の名を……
「あん? なんだ、テメー」
満身創痍である筈なのに、未だその軽口は変わらずかと苦笑する。
「おまえの……勝ちだ……」
もう、握力さえも残っておらず、手にしていた『重圧』を落とした。
粒子となって消えていく。幾多もの戦場、幾多もの敵と戦ってきた己の半身が―――
「―――クッ」
それでも、残った気力を振り絞って膝をついた常体から立ち上がった。
果てる時は、立ったまま果てる。
膝をついての死など冗談ではないと、武人の意地で立つベルバルザード。
「頼みが……ある」
「……何だ?」
「エヴォリアを―――あの、哀れな女を……救ってやってくれ……」
自分では彼女を支えることも、救うこともできなかった。
故郷の世界と家族を人質にとられ、神々の走狗になったエヴォリアという女を。
「……アレは、もともと戦いに身を置くような女では無い……
理想幹神に、自らの世界と家族の命運を握られ……従っている……
……いわば、神々の奴隷だ……」
「…………」
「俺では……救えなかった……手駒となり、従う事でしか……
アレの……役には立てなかった……」
ベルバルザードは、自分で戦士を名乗る男が聞いて呆れると自嘲する。
「……俺は……戦えなかった……アレを―――
エヴォリアを……何とかしてやりたいとは……思いながらも……
結局は―――自分よりも、遥かに上の力を持つ理想幹神を恐れ……
彼等と……グフッ―――戦う事をしなかったのだからな……」
「……嘘だな。ソレ」
「……何?」
『最弱』をハリセンの形に変えると、
浩二はベルバルザードの傍まで歩いていき、軽くパシンと頭を叩く。
「アンタが戦わなかったのは……自分が理想幹神に反旗を翻したら、
それはそのままエヴォリアの反乱と取られ、世界と家族を潰されると思ったからだ」
「…………」
「戦えるものなら、戦ったよ。アンタ―――
生粋戦士ベルバルザードが、強い敵を恐れたりするものかよ。
アンタはどんな敵でも、勝てないなんて恐れたりしない。どうすれば勝てるのかを考える。
絶対に諦めたりなんかしない。俺と同じように……」
「―――ククッ」
浩二が真面目な顔でそんな事を言うモノだから、ベルバルザードは笑う。
「あの……剣の世界で、おまえを誘ったエヴォリアの目は正しかった……
おまえが……俺達の―――光をもたらすものに、加わっていれば……
……俺は、その道を選べたかもしれないのに……」
「買い被りすぎだ」
そう言ってそっぽを向く浩二。
その、子供のような照れ隠しの仕草に、ベルバルザードはまた笑った。
「こんな事を……言えた義理ではないとは解っているが―――
……頼む。俺の代わりに……彼女を……救ってやってくれ……」
まぁ、無理な話であろうと思いながら、ベルバルザードは言っていた。
しかし、彼は―――斉藤浩二は……
「前向きに善処する」
彼らしい捻くれた答えで、頼みを承諾してくれた。
「努力はするが、約束はできねーぞ。
てゆーか、もしかしたら、もう沙月先輩達にやられてるかもしんねーし」
「その時は、それが……アレの運命だったのだろうよ……」
そう呟く、ベルバルザードの身体が消えかかっている。
「……斉藤浩二。俺の認めた戦士よ―――」
「何だ?」
「手を出せ」
突然そんな事を言われて面食らったかのような顔をする浩二だが、
この期に及んで罠もクソも無いだろうと、言われたとうりに手を出す。
「……餞別だ。持っていけ―――
オマエならば……アイツも認めるだろう……」
浩二が差し出した手に、自分の掌を重ねるベルバルザード。
その瞬間。赤い光がベルバルザードから浩二へと流れていく。
「熱―――っ!」
火のような熱を感じて、浩二は反射的に飛びずさった。
ベルバルザードは、そんな浩二の様子を微かに笑って見ている。
「さらば―――俺を倒す者が、おまえで良かった……」
「チョッ、オイ! 今のは何だ!」
身体は何ともない。おかしな事はされていない。
ならば、今のに何の意味があるのだと焦る浩二。
しかし、ベルバルザードの姿はその時には光となって消えていた。
「説明していけコノヤローーーーーー!!!」
そして、一人砂の荒野に残された浩二は、
天に昇っていく光の粒子に、ありったけの声で叫ぶのだった……