「―――ゴホッ……」
岩に背を持たれかけさせて、エヴォリアは血の混じった咳をした。
見上げる空は赤い。まるで自分の血の色のようだと自嘲する。
「負けた―――か……」
完膚なきまでに自分はジルオルとその仲間に負けた。
彼等がとどめを刺さずに駆け去って行ったのは『暁天』の絶が気になったのか、
虫の息の自分など、捨て置けば死ぬだろうから殺すに値しないと思ったからなのか。
それとも―――
「……ゲホッ―――ゴホッ!」
彼等と交戦する前に、戯れで話した自分の戦う理由に同情したからなのか……
「……死ねない……私は、こんな所で……死ぬわけにはいかない……」
自らの吐血で赤く染まった掌を、岩場に重ねてエヴォリアは立ち上がる。
そして、覚束ない足取りで、よたよたと歩き始める。
「やれる……私は、まだ……戦える―――だから……」
歩きながら、うわ言のように呟くその言葉は、誰かに話しているように見える。
「離れろ―――っ……私から、離れろ―――ッ!」
望や『天の箱舟』との交戦で、ボロボロになるまで傷ついた身体からは、
血と共にマナの粒子が零れ出ている。
マナとは世界の命そのもの。
すなわち、永遠神剣のマスターは世界を構成するのと同じ力をその身に宿しているのだ。
俗に言う魔力なんてモノが身体に宿っているのは、このマナがあればこそである。
マナがあるからこそ、魔法や超常能力といった類のモノを行使できるのだ。
「貴方達の……力なんて―――」
言葉を言いかけて、前のめりに倒れるエヴォリア。
倒れたエヴォリアの傷が塞がり始め、零れ出るマナの流出も収まった。
「そう……もう、私には任せておけないと―――
そう、言うのね……貴方達……」
ドクンと、心臓が跳ねるように鼓動をうつ。まるで、そうだと言わんばかりに。
「いやっ、いやっ―――嫌ッ!
奪わないで、私を……盗らないで! 身体を―――ああっ!」
のた打ち回るエヴォリア。
誰も居ないのに許しを請うように、悲痛な叫び声をあげて悶え続ける。
「せめて―――心だけは! 家族と、故郷の記憶だけは消さないで!
忘れたくない! 忘れたくないの! お願い! イスベル!」
自分の身体を支配しようとする何者かに、
エヴォリアはいままでのプライドや誇りも全部投げ捨てて、縋るように懇願する。
彼女を裏から操っていた南天神達の思念が―――
はるか昔に破壊神ジルオルの浄戒の力によって滅ぼされた、古の神々が、
エヴォリアの身体を乗っ取ろうとしているのである。
それは嫌だと、止めてと叫ぶエヴォリア。しかし、その呼びかけに答える者は居ない。
「いやあああああああっ!」
悲鳴をあげた。歳相応の少女のように、涙を流しながら……
身体を乗っ取られる事を恐れて、エヴォリアは悲鳴を上げた。
「……岩場の陰から女の悲鳴がするから、何事だと思って来て見れば……
……あの、アンタ……さっきから一人で何やってるわけ?」
**********************
「……え?」
思いもよらない所から聞こえた声に、エヴォリアは顔をあげる。
そこに立っていたのは、ボロボロの学生服を着た少年。その腰には何故かハリセン。
普通の人がみれば、うわぁと思わず唸ってしまいそうになる格好の―――
「や、久しぶり。俺とは剣の世界以来だよな?」
―――斉藤浩二。
絶対を否定するヒトの想いが詰まったヒトのツルギを持つ、
運命を否定する少年が立っていた。
『ん? なぁ、相棒……なんか、彼女―――
何者かに身体を乗っ取られかけとりまんねんで?』
「マジか! 何に?」
『そこまでは知るかいな』
「ああああああああっ!!!」
「うおっ! 苦しみだしたぞ!」
『あかん。もう殆どのっとられかけとる!
はようツッコミいれるんや! 相棒! 間に合わなくなるでー!』
「よっしゃ! コノヤロウ!」
―――スパーン!
倒れて苦しんでる女性にハリセンでツッコミ。
元の世界でそれをやっていたら、確実に警察を呼ばれそうな状況だが、
この世界には警察なるモノどころか、誰も住んでない。
『もういっちょ!』
「よっしゃ!」
「あうっ!」
―――スパーン!
『もういっちょ!』
「おらあっ!」
「ああっ!」
―――スパーン!
『おまけにも一つ!』
「うおおおおおおおおおおおっ!!!!」
「あああああああああああーーーーっ!」
―――スッ―――パーン!
とりあえず『最弱』に言われたとおりに四回ほどエヴォリアに、
力を籠めたハリセンでツッコミを入れると、
今まで苦しみにのた打ち回っていたエヴォリアの表情が元に戻った。
「はぁ……はぁ……」
今は、荒い息を吐いて呼吸を整えている。
「なぁ……最弱」
『何やねん?』
「さっきの状況―――第三者がみたら、どんな状況だと思うんだろうな?」
『身悶える女をビシビシ叩くドSな変質者』
「だよな……って、はぁーーーーーー」
頭を抱えて落ち込む浩二。
そして、心の底から誰にも見られなくて良かったと思った。
悪い事をした訳じゃないのに、何だろうか?
この、思わず生まれてきてスミマセンと言って自殺したくなるような罪悪感は。
「……はぁ……はぁ……どうして?」
『お? 意識が戻ったようでっせ。相棒』
「……ん? お、ああ……」
頭を抱えてしゃがみ込んでいた浩二は『最弱』に呼ばれて立ち上がる。
そして、寝そべったままのエヴォリアを見下ろした。
「どうして、私を助けたの?」
「どうして助けたんだ? 最弱」
『どうして助けたんや? エヴォリアはん』
「―――ふざけないでっ!」
「おおう!」
怒鳴られる。何故だろう?
彼女を前にすると、おちょくりたくて堪らなくなるのは。
理由を考えて、瞬時に答えを導き出す。
―――ああ、きっと最初の出会いの時に、話に飲まれて敗北したからだ。
意識としては忘れていたのに、本能では覚えていて仕返しする辺り、
自分の負けず嫌いは相当だと思って苦笑する浩二。
「頼まれたからだよ―――敵と書いてトモと呼ぶ男に」
「ベルバ?」
「ああ、よくわかったな……」
「貴方の事は、時々話していたから―――彼。
そっか……貴方がココにいて、ベルバから頼まれたって事は……
負けたのね……貴方に……」
そう言って、エヴォリアは身体を起こす。
そして、自分の身体をぺたぺたと触り、頭をコツンコツンと叩くと、真剣な表情で浩二を見た。
「貴方のソレ……永遠神剣モドキは何?
彼女を―――南天神イスベルの思念を掻き消すなんて普通じゃないわ」
「普通じゃない永遠神剣モドキだ」
「だから、それを教えなさいと言ってるの!」
相変わらずのらりくらりな浩二に怒るエヴォリア。
浩二は、普段の彼女らしいキレがないなと思った。
こんな風に感情を剥き出しにする女では無かった筈だがと首を捻る。
「俺の神剣の秘密は、仲間にしか教えない事にしてるんだ。
どうしても知りたければ仲間になれ」
「…………」
「できないよな。それは……なら、諦めろ。アンタの事情はベルバルザードから聞いた。
それに、その様子じゃ俺達『天の箱舟』に『光をもたらすもの』は敗北したんだろ?」
「……ええ―――って、天の箱舟? 貴方達、旅団じゃないの!?」
「俺と望で旗揚げした、永遠神剣マスターの新しいコミュ二ティーだ。
リーダーは世刻望。副官が俺。スローガンは、みんなが笑いあえる明日を掴む!
賛同してくれる永遠神剣マスター及び、スポンサーを募集中」
「…………」
「おっと、話しが逸れたな。とにかく、アンタは死んだ事にして身を隠していろ。
とにかく理想幹神は、俺達が―――『天の箱舟』がぶっ潰すからさ」
そう言って浩二は口元をニヤリと歪めた。
エヴォリアは、そんな浩二を黙って見つめている。そして、ポツリと呟いた。
「……そんな事が……できると思ってるの?」
「俺にできない事は無い」
斉藤浩二にそんな問いかけをすれば、確実にその答えが返ってくるのは当然である。
そして、もう話は終わったとばかりに背を向けた。
「待ちなさい!」
「……何だよ? 俺は早いところ望達に追いつきたいんだよ。
ただでさえ、時間をくっちまってるのに……」
こう見えて、浩二は結構焦っている。
まさかの『光をもたらすもの』との戦闘で、当初の予定が随分と変わってしまったのだ。
予定では、望と対峙する絶との間に、上手い事言って間に入り、
浄戒の力で絶の神名を消し去った後に、口先三寸と少しの武力行使で、
絶に自分達の力を認めさせ、共に戦おうという流れに持っていく筈だったのに……
肝心の自分が一人でこんな所にいる。
一人でベルバルザードと戦ったのは間違いだったとは思わないが、
これでは予定を修正するどころの話ではない。
下手すれば望と絶の間で話しがこじれ、自分が方便で言った事を実践しているかもしれないのだ。
「ちょっと俺、マジで急いでるんだけど! こう見えても」
「一つだけ教えて……」
「おう。解った。早く言え」
「貴方は一体……何者?」
真剣な瞳で自分を見ながら言うエヴォリアに、
浩二は何を言ってるんだコイツはという視線を向ける。
「斉藤浩二。運命とか、宿命とか……未来を勝手に決め付ける理不尽に……
そりゃねーだろとツッコミを入れずには居られない―――人間だ!」
そう言い残して、浩二はその場を駆け去って行くのだった。
「……人間……人間ね……フフッ―――ハハハ……
人間が、あのベルバを倒し……私を乗っ取ろうとしていた神を叩き消した……
はははは、アハハハハ! くっ、ふ―――くっ……ワケ―――わかんないわよ……」
ぺたんと座り込み、岩場に背を預けて赤い空を見るエヴォリア。
自分でも抗えなかった神に、ただの人間が勝つと言っている。
確信したような瞳で、自分に出来ない事は無いと―――
「……人間が、カミサマを倒すって言ってるのに……
私が―――仮にも神の生まれ変わりである私が……負けるわけにはいかないじゃないの……」
そう言ってエヴォリアは立ち上がる。その目に宿っているのは、反逆と反抗の強い意思。
意識を半分以上乗っ取られた所に、浩二の反永遠神剣のエネルギーを叩き込まれた事によって
増幅された、絶対に抗う反抗の心。
南天神により半分は既に奪われていた、彼女の心の半分を埋めたのはソレだった。
浩二が、以前に会ったエヴォリアとは違うと思ったのも当然である。
「今頃は、ログを見る事のできるエトル達にも……
私は死んだと思われてるでしょうから、行動を見られずに自由に動ける。
そう思えば、決して悪い状況では無い―――」
腕輪を握る。永遠神剣・第六位『雷火』を。
そして、眼前に出現させた白いゴーレム。神獣『ギムス』を見つめる。
「ベルバ……貴方がここに居てくれないのが残念だけど……
『光をもたらすもの』は、今より理想幹神と手を切り反逆する……
膝を屈して庇護を求めるのではなく、戦い、勝って、未来を掴むわ……」
彼女がそう呟いて赤い空を見上げると、その神獣ギムスが笑ったような気がした。
ゴーレムに表情など無いが、この時のエヴォリアには、確かに笑って頷いたような気がしたのだった。
*******************
「……遅かったな。望……
来客多数で暇はしなかったが、少し待ちくたびれたぞ……」
砂の荒野。崩れ落ちた塔の前。
赤い夕陽を背にしてその男は立っていた。
「絶っ!」
「暁くん!」
暁絶―――
その姓が表すとおりに、赤い夕陽を背負って彼は遠くを見ていた。
その周りには、幾多もの屍。
『光をもたらすもの』の尖兵であるミニオンが、返り討ちにあったのか、
ゴロゴロと転がっており、砂漠を赤く染めている。
横たわる人造生命体は、どれも仮初の命を『暁天』の刃で一刀両断にされたのか、消えかかっていた。
「あの日―――物部学園をミニオンが襲い……
全てが変わった運命の日から……もう半年ぐらいだな?」
「……ああ」
「長い旅だっただろう? 戦いに身を置いて過ごす日々は……
だが、安心しろ。その旅はここで終わる。ここがおまえの終着駅だ」
静かな、ゆったりとした響きの声でそう言うと、
絶は無造作に刀の形をした永遠神剣・第五位『暁天』を鞘から抜き払う。
「抜け。望―――決着をつけよう」
「話しが違うぞ、絶!
おまえは、ココに来たら全部の事情を説明してくれるって言ったじゃないか!」
「フッ……ククッ、そうだったな……いや、許せ。
逸る気持ちに、つい約束を忘れてしまっていたな……」
苦笑しながら、再び『暁天』を鞘に収める絶。
「少しばかり長い話になる……立ち話もなんだ。
―――来いよ。もう少し見晴らしの良い所にでも行こう」
そう言って背を向けると、崩れ落ちた塔の方に向かって歩き出す。
塔の近くにある廃墟の所までくると、様々な機械が錆だらけで軋む音をたてながらも、
まだ生きており、稼動しているのに気がついた。
「何コレ? ここって滅んだ世界なんでしょ?
どうして生きている機械があるの?」
驚いたような沙月の言葉に、絶はニヒルな笑みを返すだけだ。
そして、見晴らしのいい場所まで出ると、絶は立ち止まって振り返った。
「さて、何から話したものか……」
そう言って目を閉じる絶の肩に、ふわりと何処からか飛んできた彼の神獣ナナシが座る。
そんなナナシに、望の肩に座っていたレーメが、案内役のクセに吾等をほっぽって、
先に言ってしまうとは何事だと文句を言っていた。
「許してやってくれ。ここまで来れば、戦いに参加できない以上……
居ても居なくても同じだっただろう?」
「吾はそう言う事を言ってるのではない。
きちんと責任という言葉の意味を―――むがっ!?」
このままレーメに文句を言わせたら、話しがグダグダになると察した望が、
プンプンと怒ってる彼女の口を塞いで、ポケットに突っ込む。
「むがーーーっ! これ、ノゾム。何をする! 出せ!」
懐のポケットに強引に押し込んで、丁寧にチャックまで閉める。
くぐもった声と共に、しばらくレーメはジタバタと暴れていたが、
やがてその抵抗も弱くなり、動かなくなった。
それを確認した望は、何事も無かったかのような顔でレーメを再びポケットからだして、
再び自分の肩に座らせる。
「うう~っ……ノゾムぅ……おぬし、最近コウジに似てきたのか、
パートナーの扱いが酷いぞ……ううっ……この鬼畜め……」
「何を言ってるんだ。浩二なんか自分の神剣を、ちぎって、燃やして、踏んづけて……
あまつさえ千切った部分をトイレットペーパーにしたりしてるんだぞ?」
「うむぅ……」
望が鬼畜ならば、浩二はすでに鬼畜外道天魔であろう。
「ハハッ―――」
望とレーメのやり取りを、絶はさも可笑しそうに見ていた。
「……絶……」
「いや、笑ってすまなかった……
おまえと、その神獣―――レーメと言ったか? おまえと彼女は仲が良いのだな」
そう言った後に束の間、自分はナナシに優しくしてやった事などあっただろうかと考える。
しかし、すぐに首を振る。今頃そんな事を考えても詮無き事かと。
「なぁ、絶……」
「何だ?」
「俺は、おまえと戦いたくない。おまえが、俺をどんな風に見ていたとしても……
俺はおまえの事を友達だって……親友だって思ってる」
「そうだよ。暁くん! 私達と一緒に行こうよ。
もう、あの……エヴォリアって人も倒したし、ベルバルザードって人も、
今頃は浩二くんが倒してくれているはず!
もう、私達の生活を脅かす人は居ない。だから―――」
「元の世界に戻り……また、あの平和で穏やかだった学園での生活に戻ろう―――
……そう言いたいのか? 永峰」
「そうだよっ!」
叫ぶように希美が言うと、絶は天を仰いで目を閉じる。
「穏やかな日々―――騒がしくも、平和な日常に戻る………か」
「希美の言うとおりだ。戻ろう、絶! あの日々に帰ろう」
望が絶の傍へと駆け出そうとするが、サッと顔を下ろした絶は、
素早い動作で『暁天』を抜き放ち、振り払う。
拒絶するように、これ以上自分に近づくなと言わんばかりに刃で牽制する。
「―――っ、絶!」
「間違いだったんだ。あの日々は……
俺は、あそこに居てはいけなかった……全ては間違いだったんだよ」
「どうしてっ!」
明確な拒絶。望と出合った事だけではなく、
物部学園に自分が居た事さえも間違いだったと言い捨てる絶に、望は顔を悔しそうな顔をする。
「……望。おまえは……この世界を見てどう感じた?」
「え? 滅んだ世界だって、寂しい場所だって思ったけど……」
「滅んだ世界……寂しい場所……
おまえがそう言ったこの世界こそが、俺の故郷―――生まれ育った場所だ」
絶の言葉に全員が固まった。
それから、この世界がどのようにして今の状況になったのかを語り始める。
ナナシが浩二に教えたように、自分の背負った宿業を言葉にする。
「マスター……」
饒舌とは言えないが要点はしっかりと掴んだ説明で、
淡々と事実を口するマスターの横顔を見て、ナナシは泣きそうになった。
どうして、自分のマスターはここまでの業を背負わねばならないのだと。
唯でさえ『滅び』という神名を刻まれた彼は、永くは生きられぬ身体なのに、
復讐を背負わされ、何一つ自分の意思など持てぬままに、
神の、人の生贄となって戦うだけの人生しか許されぬのだと。
知っていた事とはいえ、本人の口から改めてそれを言われると、
ナナシは絶が痛ましすぎて泣きそうになる。
「……これで解っただろう?
俺がおまえの命を狙う理由―――戦わねばならぬ訳」
そう言って絶が神剣の切っ先を向けると、望はその蒼い瞳でしっかりと絶の姿を捉えた。
そして、微かな笑顔と共に小さく呟く。そんな望に、絶のほうが面食らったかのような顔をした。
「……良かった」
「何だと?」
「前世からの因縁なんかじゃなくて―――
ここに居るおまえは、ルツルジなんてヤツの生まれ変わりなんかじゃなくて……
俺の親友の暁絶なんだって解ったから」
そう言って望は自らの神剣を抜く。永遠神剣・第五位『黎明』
暁絶の『暁天』とは対を成す双剣を……
「ノゾム?」
まさか自分のマスターが剣を抜くとは思って居なかったレーメは、驚いたように叫ぶ。
「―――フッ。よく解らないが、おまえがやる気になってくれたなら行幸だ。
無抵抗のおまえを斬り捨てるのに躊躇いはないが……
やはり、こうして刃を交えあう事こそ我等には相応しい」
絶は、再び『暁天』を鞘に収め、腰を落とした。居合いの構えである。
カタナという形の反り身を生かして、一撃で敵を屠る暁絶の戦闘スタイル。
「自分と向かい合え。力を受け入れろ―――
そうしなければ、絶を救えない。望む未来は掴めない……
俺の、もう一人の親友の言葉は正しかった!」
「もう一人の……親友?」
「あの世界で、未来の世界で……過去を拒絶し―――
ジルオルの浄戒の力なんていらないと、背を向けていたら……俺はきっと後悔していた」
望は『黎明』に力を注ぎ込む。全ての宿業を消し去る浄戒の力を。
「絶! オマエを救ってやる! おまえと『暁天』に注ぎ込まれた呪いを消してやる!
俺にはそれができる! 絶対に出来る! できない筈が無い!」
そう叫んだ望に、ああもう一人の親友とは斉藤かと小さく笑った。
自分にはできない筈が無いなどと言う台詞は、
かつての望ならば決して口にしかっただろう類の大言だから。
斉藤浩二が世刻望に影響を受けているように、
世刻望も斉藤浩二の影響を受けて変わり始めている。
「運命なんてクソくらえだ! 宿命なんて知ったことか!
俺は、俺が描く未来を実現する為ならば何だってやってやる!
―――返してもらうぞ!
絶から未来を奪った人々の、願いという名の呪いから!
復讐なんてモノを背負わせた神々から!
俺の親友を……暁絶を―――返してもらう!」
「戯言を―――おまえに俺の何が解る!」
「ああ。解らないさ! けど、たった一人きりで……未来を見つめず……
過去の怨念に捕らわれて、今を大事にしないおまえは、人として間違ってる事だけは確かだ!」
「―――っ!」
望の言葉にナナシが息を呑んだ。
彼女が、自分のマスターに言いたくても言えなかった言葉がソレだから。
絶は何も言わない。鋭い目つきで『暁天』を構え、歯を噛み締めるだけだ。
「みんな! 手出しは無用だ! 暁絶は―――
俺の親友は、俺がこの手で救う!」
もう、何を言っても無駄だろう望のテンションに、
今までのやり取りを見ていた斑鳩沙月は、溜息と共にわかったわと返事する。
「斉藤くんといい……暁くんと望くんといい……
すぐに自分の世界に入っちゃうんだから……もう……」
仕方ないなぁと呟いて、自らの神剣を納める沙月。
「ホント―――これだから、男の子ってヤツは……」