「うっは―――でてくる、でてくる。
アホみたいに波状攻撃してきやがるなぁ、理想幹神め……」
「望さん達……大丈夫でしょうか?」
「ま、どれだけ数を揃えようと、ミニオンぐらいには負けないさ」
斉藤浩二とユーフォリアの二人は、箱舟のコントロールルームから、
ものべーの遠見の力で、陽動部隊として先行している望達の様子を見ていた。
20分ほど前に望を先頭にして、理想幹の中に突入していった彼等は、
さっそく理想幹に配置されているミニオンと戦っている。
理想幹の中に居るミニオンは『光をもたらすもの』が引き連れていた奴よりも、
強化されているらしく、少しだけ手こずっているようにも見えるが、
自分たちとて、最初の頃と比べたら数段レベルアップしている筈だ。
「……よし、そろそろ時間だ。作戦は第二フェイズに移行するぞ」
「はいっ!」
「いいか。ユーフォリア! ブッ飛ばさなくていいからな!
……安全に、セーフティにだぞ」
「わかっています。任せてください。おにーさん」
ドンと胸を叩くユーフォリア。望達が理想幹に突入して三十分。
途中に何度か伏兵にあったりして手こずっているが、望達は順調に進んでいる。
ここまでは作戦に大きな問題が無いという事は、今から自分とユーフォリアは、
予定どうりに理想幹神に強襲をかけるという事だ。
「ゆーくん!」
「クルル」
理想幹の大地に降り立つと、ユーフォリアが自分の永遠神剣『悠久』を手元に出現させる。
「わかってるな! セーフティだぞ!」
「はい。セーフティですね」
本当なら、二度とユーフォリアに手を引かれて飛ぶのは御免だったが―――
状況が状況だ。飛ぶしかない。流石の理想幹神達も、敵の伏兵が自分達の本陣めがけて、
空から強襲してくるとは夢にも思っていないだろう。
「それじゃあ、いきます! ハッ!」
永遠神剣『悠久』を放り投げるユーフォリア。
そして、浩二の手を握ってジャンプすると、それに飛び乗った。
「いくよ! ゆーくん! 全速前進!」
「なにィ―――ちょ、まて、何を聞いてたんだ。ゆー」
焦る浩二。セーフティは何処に行ってしまったんだ!?
何があって消えてしまったんだ?
ユーフォリアの中の安全と言う言葉は、望の浄戒で消されてしまったのか?
そんな事を浩二が思っていると『悠久』に飛び乗ったユーフォリアは、キリッとした顔で前を見る。
「いっけえええええええええーーーーーーー!」
「フォリアアアアアアアアアアアアア!!!!」
空飛ぶ神剣『悠久』に乗り、高らかに叫ぶユーフォリア。
それに応える様に『悠久』は、カタパルトで加速したような速さで、
一直線に理想幹神達が陣取っている、理想幹の中枢へと飛び立つのだった。
「ぇぇぇぇぇ......」
「ァァァァァ......」
後にはドップラー効果音を残して……
************************
「むぅ。ミニオンぐらいでは止められる相手ではないと思っておったが……
彼奴らめ、我々の予想を遥かに上回る侵攻速度だ」
「ふむ。どうやらサレスが手引きしておるようだのう……
すぐに我等を追いかけてくるとばかり思っておったが、サレスと合流するとは……
確かにあやつがいれば、この中枢までのルートを最短距離で向かってくるのも納得よ」
「バカモノ! 何を暢気に言っておる!」
「安心せいエトル。ファイムをそちらに向かわせたわ。
ジルオルはファイムに勝てぬ。それは神名が示すとおりだ。
そして、ジルオルさえ討ち取れば後は烏合の衆。恐れるに足らん」
理想幹神エトルとエデガは、理想幹の中枢で遠見の力を使い、
攻め込んできた望達の様子を見ていた。
エトルは、自分達の予想を裏切った行動をしてきた望達に焦っているが、
もう一人の理想幹神エデガは、切り札は自分が押さえているとばかりに、
どっしりとした態度で戦況を見ている。
「そんなに不安ならば、あの時にジルオルを討ち取っておけばよかったのだ。
それを貴様が策に拘るから……」
「バカモノ。あのまま我等が戦っておれば、ジルオルはあの場で覚醒しておったわ!
ファイムを押さえずして、一か八かの賭けで勝負をするなど馬鹿のする事。
己が力を過信して、ジルオルに挑みかかり……
アレにことごとく返り討ちにあった南天神の事を忘れたのか」
エデガの言葉に、何を馬鹿な事をと言わんばかりのエトル。
「むう……」
「馬鹿な事をほざいとる暇があったら、お主もミニオンの指令を送り、指揮をしろ。
我等が後ろから操るミニオンと、ファイムがおれば、
たとえサレスがジルオルに加担しようとも、我等に負けはないわ」
「う、うむ。解った……そうだな」
頷き、自分もエトルと同じようにミニオンの一部隊を操って指揮しようとする。
「突撃ぃーーーーーーーーーー!」
「あああああああああーーーーーっ!」
しかし、その時であった―――
「むっ!」
「何奴!?」
永遠の少女に手を引かれて、絶対を否定する神剣を持つ少年が現れたのは。
「エトル!」
「むうっ!」
自分達に向かって、弾丸のように突っ込んでくる物体を、横に跳んで避けるエトルとエデガ。
シュオンと、風を切る音と共に通過していった蒼い弾丸は、
攻撃が避けられたことを知ると、急ブレーキで止まった。
「おっ、おおおおおおお!」
もちろん、魔法の世界のように急ブレーキには抗えずに、吹き飛ばされる浩二。
しかし、今度は流石に二回目なので反応する事ができ、
壁にぶつかる瞬間に、スパーンと手を叩きつけて受身を取った。
「おいっ、しゃー!」
そして、ズダンと地面に着地する。
「わ、すごいです。おにーさん!」
「……………」
すると、ユーフォリアがニコニコと笑いながら駆け寄ってきた。
浩二は、傍まで来たユーフォリアの頭をガシッと掴む。
「………え?」
そして、満面の笑みをうかべてユーフォリアのコメカミをグリグリした。
「オ・マ・エの辞書には、安全と言う言葉がないんかーーーーーーっ!!!」
「た、たった今、ツールバーの所にある単語/用語に登録しました!
―――って、いたい! いたい! いたい! わーーーーん!
おにーさん。ごめんなさいいいいいーーーー!」
「………フン。これに懲りたら反省するように」
「うう~っ、おにーさんにキズモノにされた……」
「人聞きの悪い事をいうな!」
―――スパーン!
「あいたっ!」
ハリセンでどつかれて、頭を押さえるユーフォリア。
本来ならば、もう少し折檻をしたいところだったが、状況が状況なので、この辺りで許してやる。
そして、振り向き様にハリセンの先を二人の理想幹神に向けた。
「おい、神―――いや、神を気取ったスットコドッコイに、オタンコナス。
人間が来たぞ! 無力で、ちっぽけな人間が貴様等に挑みに来たぞ! コノヤロウ!」
「何者だ! 貴様!」
「人間だって言ってるだろ、このオタンコナス!」
そう叫んで浩二は『最弱』を棒の形態に変える。
頭を押さえていたユーフォリアも、浩二が構えたので自分も神剣を構えた。
「ユーフォリア。俺はオッサンで、おまえはジジイ―――いいな?」
「は、はいっ! 私はスットコドッコイの方ですね!」
「わかってるじゃねーか」
ニヤリと笑う浩二。
「一人はエターナル。もう一人は……
よく解らないが、神剣のマスターのようだな……誰だアイツは?」
「……そう言えば、ファイムを覚醒させた場所に居たの。あの男……」
「ああ。ファイムに一撃でのされた雑魚か」
やはり、そういう認識かと浩二は苦笑する。
もう、雑魚呼ばわりされるのは慣れたから腹も立たない。
「エターナルと言えども、たった一人で何ができる!
小娘め! 我が神剣『伝承』の力、思い知らせてくれるわ!」
「やれやれ。我等の想定外のイレギュラーか……」
二人の理想幹神は、それぞれの永遠神剣を構える。
エトルは球体の第四位永遠神剣『栄耀』を、エデガは杖形の第四位永遠神剣『伝承』を、
それと同時に、二人の身体から凄まじいマナが噴き出す。
自らの手で神の座を掴み取った二人の神―――北天神エトル。エデガ。
圧倒的な力の波動を全身に纏わせる二人を、浩二は怖いと思わなかった。
これなら、ベルバルザード一人の方がよっぽど脅威だったと。
彼と初めて出会った時の絶望感に比べたら、屁でもないと。
「―――ハッ……」
故に笑う。二年前の『最弱』に出会う前の自分が、今の自分を見たら何と言うだろうか?
神に挑む自分の姿など、想像もしていなかっただろう自分が。
けれど、きっとこう言う筈だ。自分が、斉藤浩二が困難を前にして言う言葉は……
昔も、今も、これからも―――きっと、一つなのだから。
「これぐらいの困難乗り越えて見せるさ! 俺に出来ない事は無い!」
***************************
「……よし」
天の箱舟が理想幹を覆う結界を破ってから10分後。
まだ、斉藤浩二とユーフォリアが理想幹神に強襲をかけるよりも先に、
異国の装束をまとう一人の少女が、精霊回廊よりこの地に降り立った。
「敵の目は全部、あの子達が引きつけてくれている……
今なら私は、誰の目にも触れられずに理想幹中枢までいけるわ」
その少女とは『光をもたらすもの』エヴォリアである。
浩二により、己を縛る枷の全てを外された彼女は、虎視眈々と理想幹に侵入する機会を伺っていた。
自分では理想幹を覆う結界は破れぬが、破壊神ジルオルの転生体である少年と、
あの不思議な神剣マスターを有する『天の箱舟』なる組織ならば、
何らかの方法で破ってくれる筈だと思い、理想幹へと通じる精霊回廊の中に身を隠していたのだ。
ベルバルザードが隣に居てくれたなら、また違ったかもしれないが、
自分一人では、あの二人の理想幹神には叶わない。ならば、彼等を倒せる者に倒させれば良い。
漁夫の利を狙うのは理想幹神の常套手段だが、今度は自分が漁夫の利を狙って理想幹神を滅ぼすのだ。
「……ギムス。力を……」
自分の神獣に呼びかけ、肉体強化を施すエヴォリア。
力が全身に漲ってくるのを感じると、彼女は一陣の風となって理想幹中枢を目指した。
「まずは、相克の神名を持つファイムを封じる」
彼等の主力であるジルオルを押さえるカードが、理想幹神の手に落ちたのは暁絶の世界で見ていた。
それを岩場の影から見ていた時は舌打ちしたものだが……
その後に起こった出来事に、まだ望みはあると思った。
ファイムの生まれ変わりである少女は、強力な支配力をもつ相克の力に逆らって見せたのだ。
エヴォリアは、洗脳の魔法を得意としている。そんな彼女だからこそ気がついた。
あの少女の意識は消えていない。ただ、深層心理の奥深くに眠らされただけだと。
完全に消滅させられて居ないのなら、それを覆すことはできる。
理想幹神が理想幹の力を使って相克を植えつけたのなら、
自分が同じように理想幹の力を使って、彼女を元に戻してやればいい。
それで、理想幹神のアドバンテージを無くせる。
ただ、問題なのは理想幹中枢に陣取るエトルとエデガの目を掻い潜って、
この工作を成功させられるかという所だが―――
「ぇぇぇぇぇ......」
「ァァァァァ......」
―――今しがた、自分の上を飛んでいった二人がなんとかしてくれそうだ。
「私の運が良い―――と、言うよりも……あの子達の運が良いのかもね……」
風が吹いていると思った。人知の及ばぬ大いなる力が風となり、
神の打倒を目指す者達に、追い風として吹いている。
自分には自分なりの目的があって動いているのだが……
考えようによっては、彼等の手助けをしている事にもなるのだから。
「思えば、凄い強運よね……」
勝つべくして勝つ戦いというのは、きっとこういう事を言うのだろう。
運命なんてチャチなモノではない、もっと大きな力が『天の箱舟』の帆を押している。
自分が何をやっても、どれだけの策を弄しても勝てぬ訳だと苦笑した。
自分達の敵は『旅団』などではなく―――
この、神の意思さえも押し返す、見えないチカラだったのだから……
思い返すほどに、彼等の行動は無軌道のように見えて意味を持っている。
自分が、強い神剣の持ち主であるダラバを手駒とするべく、
以前から工作をしていた剣の世界に『偶然』やってきて阻止する。
ミニオンの生産工場を置いた精霊の世界に『偶然』やってきて、工場を破壊する。
そのどちらか一つでも欠けていたら、魔法の世界での戦いは『光をもたらすもの』が勝っていただろう。
なのに彼等は、すべて『偶然』でこちらの布石を叩き潰し、魔法の世界の崩壊を阻止したのだ。
そして更に、暁絶の世界で、斉藤浩二なる少年が、消えかかる自分の前に『偶然』通りがかり、
自分を操る南天神の意思を払った結果―――今、自分はココにいるのだ。
「偶然も三度続けば、それはもう必然……
すべての出来事が、彼等の勝利を引きよせる布石となっている……
何なのコレ? こんなの相手に勝てる訳ないじゃない……嫌になっちゃうわ。もう」
勝利の女神なる存在がいるならば『天の箱舟』なる集団は、それに確実に愛されている。
そんなモノと戦わされた自分が可哀想だと思えてしまうエヴォリアだった。
******************************
「―――ペッ」
浩二は、血の混じった唾を吐き捨てた。
「流石は、神の座についただけの事はあるわ……アイツ」
魔法による攻撃が浩二に効かぬと知るや、すぐさま杖での直接攻撃に切り替えてきたエデガ。
メインの攻撃が魔法のみであったならば、浩二にとっては美味しい相手であったが、
彼は戦士としての技量も高く、ベルバルザード並の膂力を持っていた。
「フンッ!」
「ちいいっ!」
そして、間合いが離れると、すぐさま魔法攻撃を放ってくる。
浩二はハリセンの形をした『最弱』を横薙ぎに振り払った。
「このおっ!」
―――スパーン!
このとおり、魔法攻撃は『最弱』で消せるのだが、何故かエデガが魔法攻撃を放つたびに、
周囲のマナから根源力をごっそりと持っていかれる。これが浩二を苦しめていた。
何故なら、浩二が『最弱』に送るエネルギーは、普通の永遠神剣マスターと同じ根源力である。
―――では、根源力とは何か?
永遠神剣のマスターが神剣の力を行使する時は、周囲のマナを自身に取り込み、
そこから、魔法やら超常能力を行うのに必要な力を捻出するのだ。そして、その力こそが根源力。
神剣の力を引き出す工程は、反永遠神剣のマスターである浩二も変わらない。
周囲のマナを取り込み、自身の根源力に変えて『最弱』の力を引き出しているのだから。
「はっ、ぜっ、はっ―――」
『大丈夫か!? 相棒!』
「……ああ」
だが、理想幹神エデガの永遠神剣『伝承』の力は、周囲のマナから、
永遠神剣マスターが、力の行使に必要な根源力をごっそりと奪っていく。
なので浩二は、周囲のマナから微弱な根源力しか吸収できず、酸欠のような感じなのだ。
『来るで! 相棒!』
離れたと思ったら、再び接近戦。
「はああああっ!」
「ぐっ!」
ヒットアンドアウェイが理想幹神エデガの戦闘スタイル。
渾身の攻撃を一撃だけ叩き込んでは、その場に留まり打ち合うことをせず、
弾幕のように魔法を放って、再び距離をあけてくる。
「てめっ!」
「―――フッ!」
『伝承』の打撃を受け止めると、浩二は反撃に棒の形に変えた『最弱』を薙ぎ払うのだが、
その時にはエデガは魔法の弾幕を張りながら、後ろに飛んでいる。
単発の攻撃ならば避けることもできるのだが、雨のように降ってくる魔法から身を護るには、
『最弱』をハリセンの形に変えて、反永遠神剣の波動を放って掻き消すしかない。
広範囲に波動を放つには、本来の形態であるハリセンの状態ではないと無理なのだ。
「……解っちゃいたけど……」
自分の得物である反永遠神剣『最弱』は、戦闘向きの神剣では無い。サポート形の神剣だ。
そして、物量や数の多さで攻めてくる範囲攻撃に弱い。
消せない事はないが、反エネルギーを展開する範囲が増えるので燃費が悪くなるから。
それでも、普通の状態ならば問題なく防げる筈だった。
だが、今は戦場のマナから吸収できる根源力が枯渇状態なので、
全部自分の根源力を使って力を使わねばならないのだ。
「なんだよ……アイツの神剣……辺りのマナから根源力を全部吸い取っていくクセに、
自分はガス欠をおこしやがらねぇ……どーいう原理だ……クソ」
力の回復は微弱で、魔法の絨毯爆撃から自分と足場を護らねばならぬので、力の消費量は二倍。
なのに敵はノーリスクという理不尽なバトルフィールド。
消費量が二倍なので力の無駄使いはできず……
持久戦になれば、補給路を断たれたこちらがジリ貧。
これでは、無謀だと解っていても突撃するしか方法が無い。
「……けど、そんな無茶な突撃こそヤツの思う壺なんだろうな……」
エデガはきっと、今まで自分の前に塞がった敵を、この方法で打ち破ってきた筈だから。
こういう時にこそ、コレはという大砲があればと思う浩二。
だが、彼には世刻望が使う浄戒の力のように、一発で戦況を変えることのできる大砲が無い。
何故なら斉藤浩二の戦闘スタイルは、反永遠神剣『最弱』の特性で、相手の大砲を封じ、
敵を自分と同じ条件下に引き摺り下ろし、駆け引きや小技で相手と戦うモノなのだから。
―――事実。ベルバルザードはその手で倒した。
彼に『重圧』の能力で戦っても、霧散させられるので無駄だと思わせ、
純粋な技量の肉弾戦という自分のフィールドに引き摺り下ろして、彼を撃破したのだ。
「どうする? 考えろ。考えろ……」
エデガに直接攻撃と魔法攻撃で削られながらも、浩二は頭を最大限に回転させ、思考を巡らせる。
そして閃いた。今、ここに居るのは自分だけでは無い。
戦い方を変えるのだ。このように一対一と一対一という状態ではなく、
ユーフォリアと合流して二対二に状況を変えればいいのだと。
「ユー」
フォリアと、続けようとした所で、エトルと戦っている彼女の姿を見て止めた。
彼女はエトルを押していたからだ。空飛ぶ永遠神剣『悠久』に乗って大空を自由に飛び、
エトルの魔法攻撃を全部回避しながら、エトルを翻弄している。
絶の世界では理想幹神に一蹴された彼女だが、それは皆と行動を合わせるという枷があったからだ。
彼女と、彼女の永遠神剣『悠久』は連携プレーに向いていない。
ユーフォリアはエターナル。
力を合わせて戦うという術は、弱い存在が大敵に向かう為の戦術であり、
もう既にエターナルという一個の完成形である彼女を組み込むのは愚かである。
誰かと力を合わせて戦う時には、彼女は周りに力を合わせなければならないと言う事なのだから。
それに加えて、空を飛べる彼女の永遠神剣は、特に単独戦闘向きだ。
故に、自分が彼女と合流したら、ユーフォリアは地に足をつけて戦わねばならず、
最大の武器である機動性を奪うことになると言う事だ。
「……踏ん張りどころだな」
やはり、ここは一人で打開せねばならない。
先に思ったとおりに、望のように一撃で状況を引っくり返せる大砲―――必殺技や、
無くともユーフォリアのように自由に空を飛べれば、フィールドのマナなど気にしないで済むのだが、
どちらも自分には無い。そして、無いものを嘆いても仕方ない。
手持ちのカードで工夫してやっていくしかないのだ。
「おい、最弱……おまえに必殺技はあるか?」
『相棒が考えた、ワイを硬質化させてぶん殴る。
相手の防御を霧散させる一撃。100%直撃があるやんけ。
それは相棒が工夫して考えたワイの特性を生かした、立派な必殺技やねん』
何となく呟いた言葉に、自分の相棒である『最弱』は、何を馬鹿な事をと答える。
その一言で、浩二はハッと気がついた。
「ククッ―――」
ああ。なるほど……考えるのは自分の長所であると思っていたが、
どうやらまた、自分は考えすぎで空回りしていたようだ。
追い詰められて無闇に突撃するのは、エデガの思う壺だから危険だと―――
馬鹿馬鹿しい。それに当てはまるのは普通のヤツだけだ。
自分の神剣『最弱』は、たとえどのような罠があろうとも、
それが永遠神剣の能力であるならば、すべて霧散させられるのだ。
深く悩む事は無い。単純に、シンプルに―――突破して、殴りつけてやれば良いのだ。
「神に挑むは、愚かなる愚者―――」
自分でそう言ってた事を忘れていた。アレは全て計算で動くタイプ。
そんなヤツを相手に、こちらも計算で戦ったら、一日の長がある向こうに押さえ込まれるのは当然。
ユーフォリアがエトルを押しているのだって、彼女の神剣が空を飛べるからでは無い。
アレは計算などではなく、闘争本能だけで戦っているからだ。
それが予想外の動きとなり、エトルを翻弄しているのだろう。
「ならば、アホはアホらしく……ガムシャラにって事だな!」
斉藤浩二にとって、がむしゃらに突撃は負けフラグなので、今まで自重してきたが、
おそらく、今回に限っては吉。
計算して動くのではなく、全て閃きと思いつきだけで戦った方が良い。
「最弱!」
『はいな!』
浩二は『最弱』を再び棒の形態に戻して、構えをとった。
そこに魔法の弾幕が襲い掛かってくる。しかし、浩二は―――
「はああああああああっ!」
棒を風車のように回して、正面の魔法を防ぎながら突撃するのだった。
「なに―――っ!」
「ダッ!」
跳躍でエデガに迫れる距離まで近づくと、浩二は大地を蹴って飛ぶ。
エデガは、それに合わせるようにカウンターの魔法らしき光の槍みたいなものを左手に構えているが……
「効くかよっ!」
それは、ハリセン状態に変えた『最弱』で霧散させた。
カウンターを封じた今、エデガは無防備である。
「おおおおおおっ!」
浩二はそこに、ベルバルザード戦でも大活躍だった『最弱』のバンテージを巻きつけた右手で、
渾身のパンチをエデガの顔にぶち込んだ。
「ぐおっ!」
吹き飛ばされるエデガ。浩二は地面に着地する。
戦いが始まって、ようやく浩二の攻撃がヒットした瞬間だった。
「っ! よっしゃーーーーーー!」
思わずガッツポーズをする浩二。
そこに、吹き飛ばされながらも撃ち放ったのだろう、エデガの魔法弾が腹に直撃する。
「ぐおっ!」
―――浩二は吹き飛ばされた。
『またこのパターンかいな!?』
「うっ、げほっ……ごほっ、油断した……」
幸いなことに、意識を刈り取る程の一撃では無かったので、
浩二はゲホゲホと咳き込みながら立ち上がる。
『ああもう。うちの相棒は頭いいのか悪いのか……悪いんやろなぁ……
爆破的な集中力の後には、どうしてこう気が抜けるんやろ……』
それさえ無ければ、何処に出しても恥ずかしくない一流の戦士たりえる器なのにと、
浩二の神剣『最弱』は思わずに居られない。
「ふふっ。おにーさんだって、私と一緒じゃないですか」
そして、その光景を見ていたユーフォリアが、
浩二も自分の仲間だと言わんばかりに、空を飛びながら小さく笑うのだった。