グランドに現れたミニオンを3体を相手にしながら、
浩二は『最弱』を片手に跳び、走り回り、なんとか猛攻を凌いでいた。
「神剣の差が、絶対的な戦力の差では無い事を教えてやる!
―――と、言いたい所だけど……うおっちゃあ!」
横から斬りつけられて、後ろに跳ぶ。制服の脇が少しだけ切れた。
おかえしだと言わんばかりに『最弱』を振り下ろすが、
ハリセン形である『最弱』でいくらどついても、パーンと気持ちの良い音がするだけだ。
「解ってはいたけど攻撃力ゼロだよな! オマエ!」
運動能力は、ミニオン達よりも自分の方が上だ。けれど攻撃力は天と地ほどの差がある。
これならば殴りつけたほうがマシだ。そう思って浩二は試しにボディブロウを叩き込んだが、
ミニオンは威力にのけぞるだけで、絶対的なダメージを与えるにはいたらない。
『そら、ま。ワイはハリセンやからなぁ』
「できるのはツッコミだけか?」
『そのとおりや』
「―――くっ!」
嘆くまいと思った。たとえツッコミだけしかできなくとも、
永遠神剣の肉体強化があるだけ、他の一般生徒よりは自分は恵まれている。
ミニオンという脅威から身を護る事ぐらいはできるのだから。
「世刻ぃーっ! はやくこっちも片付けてくれーーーー!」
けれど、永遠神剣のマスターであるから戦いに駆り出される事を思えば、
どっこいどっこいじゃねーの? と考えると、浩二はやるせない気分になった。
「死ぬ気はしねーけど、結構苦しいぞーーーー!!」
***********
「ふーっ……はーっ、ひぃーっ……あーしんどかった!」
グランドに現れたミニオンを片付け、
増援を呼びに向かったのであろうミニオンを追った沙月達に追いつく為、
浩二と望は森の中を飛ぶように駈けていた。
「……斉藤……オマエの永遠神剣『最弱』って……本当に弱かったんだな……」
「ふぅ、ふぅ……ああ。俺に出来る事といったら、
精々が数人のミニオンを引き付ける事と……んぐっ、はぁ……かく乱する事ぐらいだ」
望の言葉に、浩二は息を整えながら答える。
レーメは望の肩に座りながら、相変わらず浩二と『最弱』を胡散臭そうな目で見ていた。
「……あれは、本当に永遠神剣なのか? でも、身体能力は増幅されてる……
……けど……あの攻撃力の無さは……うーん……」
「何だレーメ。俺の顔をじっと見て。世刻から俺に浮気か?」
「ばっ、馬鹿を言うな。痴れ者っ!
おまえなんか、ノゾムと比べたらドラゴンとサナダムシだ!」
「……うわぁ、もはや生物どころか寄生虫扱いかよ……
でも、よかったな世刻! オマエ、愛されてるぞ」
「―――んなっ!」
ボッと顔を赤くするレーメ。それから望と浩二の顔をチラチラと見比べると、
最後には浩二に暴言を吐いて望の胸ポケットに隠れてしまった。
そして、顔だけ出しながらボソボソと呟く。
「ノ、ノゾム? 誤解するなよ? 吾はその、えーと……
ノゾムの事はマスターとして認めてはおるが……
あ、いや―――そ、それだけではないぞ。あの、その……」
「はいはい。ツンデレ、ツンデレ」
「オマエは余計な事を言うな! ムキーッ!」
「あいてっ!」
望の胸ポケットから飛び出して、浩二の額にとび蹴りをくらわせるレーメ。
二人のそんな様子を見ながら、望は戦いで険しくなっていた顔を綻ばせるのだった。
***********
「お、そっちもカタがついたみたいだな」
「……え? 望ちゃん?」
浩二と望が沙月達に追いつくと、戦いはすでに終わった後だった。
戦闘中から今まで、望の姿を見るまでの希美は、敵であるミニオンのように冷たい、
瞳に何もうつしていないかのような表情をしていたが、
それに気づいていたのは一緒にいた沙月だけである。
「……私が、しっかりしないと……護らないと、ね……」
「どうしたんすか? 沙月先輩」
「ひゃっ! え? 斉藤くん?」
「ぼーっと永峰の顔を見てましたけど、何かあったんすか?」
「ううん。何でもないわよ」
どこかの誰かのように、首筋の汗を舐めなくても沙月が嘘をついてるのは解ったが、
それなら別にいいんですけどと言って引き下がった。
それから望と希美がお互いの健闘を称え合っている所に茶々を入れに行く。
沙月はそんな後輩達の様子を眺めながら、この子達を―――皆を、絶対に護らねばと誓うのだった。
「―――ムッ? ノゾム! 気をつけろ、新手だ!」
「え? 嘘だろ……」
「―――多いっ!」
レーメが警告の声を上げると、木の陰からミニオン達が姿を現した。
浩二は素早く視線を走らせて数を数える。
「17、18、19……20。チッ―――20体かよ!」
「みんな、神剣を構えて! 幸いな事にこっちは4人……2人1組でいくわよ。
望くんと希美ちゃん。私と斉藤くん。ノルマは1組10人。いけるわね?」
「あの、先輩! ちょっと、俺は―――」
「沙月先輩! 斉藤は―――」
光の剣を構え、跳躍しようとしている沙月を、浩二と望は止めようとした。
「っ!」
それと同時に沙月の動きがピタリと止まる。しかし、制止の声で止まった訳では無い。
こちらに向かって、ミニオンなど比較にならない程の気が近づいてきていたからだ。
「何かが―――来る!」
沙月の声と同時に、黒い影が飛び出してきた。
大剣。横一文字に走らせる。両断。あるいは薙ぎ倒される数体のミニオン。
「はああああっ!」
黒い影の正体は、大剣を手にした少女であった。
長い金色の髪を風に靡かせて、気合を走らせる。
大剣を力任せに振るうのはでは無く、洗練された動きでミニオンを屠っていく様子は鬼神の如くである。
「―――フッ!」
7体程を一人で倒してしまった少女は、タンッと地を蹴って望達に前に立つと、
見惚れてしまいそうな美貌に違わぬ澄んだ声でこう言った。
「我が名はカティマ=アイギアス。
異変を察して駆けつけました。微力ながらお味方させて頂きます」
「ヒュウ。大剣と美女。絵になるねぇ」
「か、かっこいい……」
口笛を吹きながら軽口を叩く浩二と、キラキラした瞳をうかべる希美。
沙月は、そんな二人を嗜めると、カティマと名乗った少女に視線を向けた。
「ありがとうございます。ご協力お願いします」
「はいっ!」
カティマが応援に駆けつけた事により、形勢は逆転した。
そこで浩二は一計を思いつき、ポンと手を叩く。
「先輩! せっかく5人いるのだからインペリアルクロスでいきましょう!」
「は? 何を言ってるの斉藤くん?」
「いいから、先輩。インペリアルクロスと叫んで!」
「~~~っ、もう、わかったわよ! インペリアルクロス!」
浩二が何を言ってるのか意味不明だったが、口論している暇はないのでとりあえず叫ぶ。
すると、他の四人は沙月を中心に十字を作るように、東西南北の方向にジャンプした。
「はぁ……斉藤……おまえってヤツは……」
「ハハハ。世刻よぉ。ため息なんて吐きながらも、
ちゃっかり合わせたってこたぁ、オマエだってまんざらでも無いんだろ?」
「えへへーっ。ノゾムちゃん。あのシリーズ好きだったもんねー」
クロスの上の位置にジャンプした望がため息交じりに言うと、クロスの右にジャンプした浩二が笑う。
後ろにジャンプした希美は、望を見ながらニコニコとしていた。
「―――ハッ!? え? あれ?
何で私は、ごく自然にこのポジションにジャンプしてしまったんでしょう……」
「………何、コレ?」
戸惑っているのはクロスの下にジャンプしたカティマで、呆れているのは中央の沙月。
沙月はこの不思議現象に納得がいかなかったが、この陣形自体は悪くないので、
そのまま戦う事にするのだった。
「流し斬り!」
「二段斬り!」
「エイミング!」
「切り落とし!」
一人だけ攻撃技をもっていない浩二は、
俗に言うベアポジションで攻撃を受け流す技・パリィをひたすらしていたが、
他の四人が次々と攻撃技を繰り出してミニオンを倒していく。
「うおおおっ! パリィ! パリィ! パリィ!」
そして、ベアポジションで一番攻撃を受けながらも、浩二は何とかパリィで凌ぎきるのだった。
「HPがアップ!」
「愛がアップ!」
戦いが終わった後に、浩二と希美がくるくると回って誰も居ない所にキックしていたが、
沙月はそんな二人の言葉を聞かないように、見ないように、耳を押さえてしゃがみ込む。
「ほら、沙月先輩も一緒にやりませんか? 魅力がアップ!」
「あはは、楽しいですよー」
「あーあーあー! きこえなーい!」
望は苦笑を浮かべながら沙月の肩をポンポンと叩き、
カティマはそんな彼等の様子を不思議そうに見つめるのだった……
***********
その後。沙月達はカティマと名乗った少女と軽く情報交換をし合うと、
カティマに自分達はこの世界を救いにやってきた天の使いとやらと勘違いされてしまい、
自分の拠点としている村に招待するので来て欲しいと言われ、
沙月達はカティマの村にお邪魔する事になった。
その際に誰が行くかという話になったが、結局のところは永遠神剣のマスター4人と、
カティマの村に行って見たいと希望する学生達を連れて行くという所で落ち着いた。
『そんなゾロゾロと連れていかんでも……
斑鳩女史と世刻の二人にでも行かせればええんとちゃいまっか?』
大所帯で移動する様子を見て、浩二の神剣『最弱』が呆れた様に言う。
「学園のみんなだって、異世界がどんな所か見てみたいだろうさ。
それに沙月先輩は、カティマの招聘を受ける事により、
もしかしたら、この世界の戦争に巻き込まれるかもしれないと警告した上で、
学園の皆の総意を取り、行くと決めたんだ」
『すなわち、永遠神剣のマスターとしてではなく、
この学園のリーダーとして話し合いに行くっちゅー訳やな?』
「そういう事だ。そして、まず危険は無いと判断できる以上、
一緒に言って話を聞きたいと言う学園の者達を止めることはできねーよ」
そう言って、カティマに色々と話しかけてる信介や美里の様子を見る。
一緒に写真なんかもとったりと、楽しそうであった。
『相棒は、この決定に思うところは無いんでっか?』
「まぁ、見た限りカティマに敵意は無さそうだ。なら、反対する理由は無い。
それに、この世界の情報が欲しいというのも事実だしな」
『そやな……』
それで話は終わったようで『最弱』は黙り込む。
それからしばらくすると、美里がカティマを囲んで皆で写真を撮ろうと誘いに来たので、
浩二は頷いて信介達の所へ歩いていった。
***********
夜。皆が寝静まった頃―――
浩二は宿として与えられた部屋から抜け出して村の外に出る。
幸いにして、誰にも気づかれる事の無かった浩二は、村の外の森を一人で歩いていた。
「気分が悪ぃな……」
そして、誰に言うでもなく一人ごちる。浩二は村であったやり取りを思い出していた。
この世界に居るミニオン―――この世界では『鉾』と呼ばれている者達についてと、
『鉾』を使役して、この世界に破壊と混沌を振りまいている男。ダラバ……
自分達は、その男を倒す為に、カティマに協力する事になったのだった。
「ああ、気分が悪い―――」
カティマに協力する理由が、単純にカティマが好きだからとかならいい。納得できる。
けれど、協力する理由が、この世界から出られぬように結界を張り巡らせているのもダラバであるので、
この世界の住人として、暴君ダラバを倒そうとしているカティマと利害が一致したから協力するのである。
この理由の何処が気に入らぬのだ?
利害の一致ではないかと普通の人なら思うだろうが、浩二はそうは思わない。
こんな風にあっさりと大事な物事が決まってしまうと、胡散臭く感じてしまうのだ。
―――誰かが裏で手を引いている。
そんな事を思う自分は狷介なのだろう。
物事を真っ直ぐにではなく、何でも斜めから見てしまう。
そこで一つの事実に思い至り、浩二は声を押し殺して笑った。
「……くく、ははは……ああ……解った……何で俺が、世刻や永峰……
それに、今日出会ったカティマや、カティマの村の人達に苦手意識を持つのか解ったよ……」
彼等は純粋で真っ直ぐで、自分は不純で曲がっているのだ。
だから、世刻望が良いヤツだとは解っていても、トモダチになれない。
「俺の居場所……ココじゃないのかもな……」
「なら、私の所に来る?」
ボソリと呟いた声に答えるように、誰かの声が聞こえた。
浩二は腰の『最弱』を引き抜いて後ろに飛びずさる。
「―――っ!?」
そこに居たのは、占い師のような身なりをした細身の女と、
モンゴル武将のような身なりをした巨体の男であった。
「だ、誰だっ!」
浩二は他にも誰かが居ないのか周囲の気配を探りながら、女と男に声をかける。
すると、女が一歩だけ前に踏み出し、優雅に腰を折って微笑んできた。
「私の名はエヴォリア―――光をもたらす者」