「反永遠神剣。永遠神剣に対抗する為に作られた、人の想いで出来たツルギ……か」
「はい。そうですわ」
「ようやく納得がいったわ。今まで浩二がやって見せた不思議な事全てに……」
エヴォリアは、テーブルを挟んでポニーテールの少女と話していた。
この少女のマスターは奥の部屋で相変わらず寝ている。
「とんだジョーカーもいたものね」
斉藤浩二なる少年には何かがあるとは思っていたが、その答えをやっと知るに至りエヴォリアは納得する。
そして、この少女が以前は『重圧』だった事を知ると、不思議な親近感を感じていた。
「そろそろ、夜になりますわね……」
少女はそう呟くと、椅子から立ち上がって奥の方へと歩いていく。
そして、自分が調理するために使っている場所に立つと、そこにある調理器具や食材などを調べ始めた。
「ふぅ、エヴォリア……全然使ってませんわね。コレ……
この様子じゃ、今まで本当に適当なモノばかり食べていたんじゃありませんこと?」
「……え? だって、別にそんなのあまりこだわらないし……」
「ダメですわ! 貧しいものばかり食べていたら、心まで貧しくなってしまいますもの。
規則正しい生活の始まりは、きちんとした食事からっ!
ベルバルザードと居た時は、もう少しまともな食事を取っていたはずじゃなくて?」
「……うっ」
この少女は『最弱』であり『重圧』である。
故に『重圧』であった頃の事も、ガリオパルサを通して知っているのだ。
ちなみに、これは余談であるが、ベルバルザードは斉藤浩二ほどではないが料理が出来る。
調練だけでなく、きちんと栄養バランスのしっかりしたものを食べねば、
強靭な肉体をつくる事はできないと知っていたからだ。
ただ、ベルバルザードは栄養バランスの優れたモノを作ることはできたが、味は大雑把であった。
「エヴォリアは、お湯を沸かしておいてくださいな。わたくしが食材は調達してきますわ」
「あ、あの……本当にいいのよ? 私の為に食事を作らせるのも悪いし……」
「ダメですわ。私の言葉はベルバルザードの言葉でもあると思って、食べなさいな。
いいですこと? 私の言葉は、あ・な・た―――の為に命を懸けて戦った、
ベルバルザードの神剣でもある、わたくしが言っているんですからね」
少女はそう言うと、隠れ家を出ていく。
エヴォリアは、仕方がないので瓶に溜めてあった水を鍋に移して火をかけた。
程なくして『反逆』は戻ってくる。その手には何種類かの野菜と、兎のような動物。
エヴォリアがきちんと湯を沸かしておいた事に満足したらしく、にこりと笑っていた。
「それじゃ、肉と野菜のスープでも作りますわね。
調味料があまりありませんから、アバウトな味でしか作れないのが悔しいですけど……」
そう呟くと、エヴォリアに鍋を持ってついて来いと言う。
何だかこの少女には逆らえない雰囲気があった。
それは何故なのだろうかと考えると、すぐにその理由に気づいた。
似ているのだ。雰囲気が妹に似ているからだと理解してエヴォリアは苦笑した。
その後、少女の言うところの肉と野菜のスープを作ると、
少女はそのスープを寝ている浩二の所に持って行った。
そして、寝ている浩二の口を開くとレンゲに掬ったスープを飲ませる。
甲斐甲斐しく世話をする少女の後姿を見ながら、エヴォリアはスープを飲むのだった。
エヴォリアと『反逆』それに浩二。
三人での生活は、浩二が昏睡から目覚めるまで三日にも及んだ。
その生活が、苦痛とは感じなかったのがエヴォリアには不思議であった。
それどころか、満たされているとさえ思えたのだ。
まるで、故郷の世界で家族と共に暮らしていた時の様に……
「ねぇ。反逆……」
エヴォリアは、何度目かの食事の時にぽつりとそう言った。
「何ですの?」
「私のやりたい事……見つかったわ。
人には偽善と言われるかもしれない……でも……」
「口ごもる事なんてございませんわ。お話しになってくださいな」
反永遠神剣『反逆』は、その話を最後まで聞くと、今まで見た中でも一番の笑顔を見せてくれる。
花が咲いたような、可愛らしい、思わず心が温かくなるような笑みであった。
「素晴らしいと思いますわ。偽善でもよろしいじゃありませんか。
それで救われる方がいるのなら、わたくしはそれでいいと思います」
「……うん」
自分がやろうとする事を、世界に一人でも、
そう言って自分を肯定してくれる事が嬉しかった。
「エヴォリア」
「……何?」
「貴方は自分の事がお嫌いかもしれないけど……
わたくしは、貴方の事が大好きですわ」
真面目な顔でそんな事を言う少女に、顔が赤くなるエヴォリア。
そして、自分も貴方の事は嫌いじゃないと告げると『反逆』は嬉しそうな顔をする。
その笑顔に、エヴォリアは救われた様な気がしたのだった。
「ほんと、主従そろって調子が狂うわね……」
**********************
「ふうん。俺がぶっ倒れた後にそんな事があった訳か……」
箱舟にある斉藤浩二の私室。そこで浩二は、椅子に背をもたれかけさせながら
自らの神剣『反逆』の話を聞いて相槌を打つのであった。
昏睡から目覚めた浩二は、自分が三日も寝ていた事に驚くと、
写しの世界の事が心配だったので、別れの言葉もそこそこにエヴォリアと別れ、
精霊回廊から写しの世界に戻ってきた。
故に今頃になって、あの後の事をこうして『反逆』に聞いていたのである。
「つか、目が覚めたときに、初めて人型のおまえを見たとき……
本気でエヴォリアの妹だと思ったからなぁ……」
「あの時のマスターのうろたえ様は愉快でしたわ。
だって……あれ? あれ? 俺の神剣は何処だ? ですもの」
「笑うな。バカタレ」
ベッドの上にちょこんと座っている自分の神剣に、
勝手に言ってろと告げて、浩二は椅子から立ち上がる。
「どこへ行かれるんですの?」
「何処でもいいだろう」
「そう言う訳にはいきませんわ。マスターと神剣は一心同体ですもの」
ベッドから降りると、部屋から出て行こうとする浩二の後をついていこうとする『反逆』
浩二は、仕方ないと言わんばかりに溜息をついて頷く。
「なぁ、別にこの建物の中なら構わんだろう。少しぐらいは一人になれる時間は作ってくれ。
一日中張り付かれていると、監視されてる見たいで気が滅入る」
「……言われてみればそうですわね。善処しますわ」
そんな話をしながら、浩二が『反逆』を連れて向かった場所は作戦室であった。
「来たか。浩二」
「すまん。サレス……遅刻したか?」
「いや、皆はもう揃っているが、遅刻ではないから安心しろ」
作戦室に行くと、もうそこには浩二以外のメンバーが揃っており、それぞれの席についていた。
「ひゅう」
口笛を吹く浩二。こうしてみると中々に壮観な光景である。
『天の箱舟』の永遠神剣マスターに加え『旅団』のマスターを加えた今現在。
この箱舟の作戦室にいる神剣マスターは13人。ナルカナを加えると14人もいるのだから。
ただ、席順で言うとリーダーが座る椅子だけが空いている。
浩二の席は元から無い。作戦室での彼のポジションはホワイトボードの前。
すなわち会議の進行役にあたる場所が、彼の位置であるからだ。
「ソル。空いてるのならそこに座ってもいいか?」
「おう。いいぜ」
ただ、今回はその位置にサレスが立っているので、浩二は空いてる椅子に適当に座る事にする。
浩二の神剣『反逆』は、ごく当たり前のようにその後ろに立った。
「あの、私の隣で良ければ空いてますよ?」
「……マスター」
ポンポンと椅子を叩きながら言うユーフォリアに『反逆』は、
どうしましょうと言うような目で見てくる。浩二は、そんな彼女の顔を見ると頷いて言った。
「せっかく勧めてくれたんだ。座れよ」
「……わかりました」
渋々と言った様子で、ユーフォリアが引いてくれた椅子に座る『反逆』
ユーフォリアの左隣にはナルカナが座っているので、その結果……
第一位神剣の化身、エターナル、反永遠神剣の化身が並ぶという、ある意味凄い一画ができあがる。
サレスはそれに気づいたのか苦笑していた。
「それでは作戦会議を始める。我々の目的地は、皆も知っての通り理想幹だ。
写しの世界より理想幹に逃げたイスベルを倒すと同時に、
破壊神ジルオルより世刻望の意思を浮上させ、取り戻す事が目的である」
ジルオルの向かった先は理想幹であるという事は、
ログ領域を利用したナルカナが調べてくれたので浩二は一安心していた。
「それは解ってるけどさ、肝心の望はどーやって取り戻すんだよ?」
ソルラスカがそう言うと、サレスは顎に手を当てた。
そして、ソルラスカの隣に座る浩二を見る。
「浩二。おまえの神剣の力でなんとかならないか?」
「なんとかなるか? 反逆」
サレスのパスをそのままトスする浩二。
反永遠神剣『反逆』は、自分に視線が集るのを感じると肩を竦めて首を横に振った。
「無理ですわね。前世を否定する事はできませんわ。
それが植えつけられたモノであったり、偽りのモノであるのならば消せますが……」
「ジルオルの存在は嘘でも偽りでも無いわよ?」
『反逆』の声をナルカナが遮ると、彼女はムッとした顔をする。
しかし、彼女がナルカナの無礼を非難する前に、
空気を呼んだサレスがそれならばと言って自分に視線を集めた。
「それならば、我等が世刻望の精神に直接呼びかけるしかあるまい」
「うむ。外からの呼びかけだけで無く、
永遠神剣の力で望の内側にも干渉して呼びかけるのじゃな?」
ナーヤの言葉にサレスが頷く。
しかし、確実性が無いその提案にルプトナは不安そうに言う。
「それで本当に上手くいくの? 望は助かる?」
「確実とは言えないが、可能性はあるだろう。
あの時、ジルオルはその気になれば我等を全滅させる事もできたかもしれぬのに、
それをせずに去っていった。無慈悲で冷酷な破壊神の行動としては、どこか甘い……
おそらく世刻望の意思がまだ生きており、ブレーキになったのだろうと私は思う」
「じゃあ、その生きている望ちゃんの意思に呼びかければ……」
「根拠としてはあまりにも弱い、希望的な推測ではあるが、取り戻せるかもしれんな」
推測どころか、願望まで入っている楽観論しか提示できぬ自分にサレスは苦笑する。
しかし、それでも可能性がゼロでは無いというのなら、挑戦するに足ると思う仲間達。
「そこに可能性があるのならばやって見る。
決して諦めない……それは、私達『天の箱舟』が貫き通してきた志ですもんね」
ユーフォリアがそう言うと、その通りだと言わんばかりに皆が騒ぎ始めた。
反永遠神剣『反逆』は、その様子を静かに見つめている。
そして、微かな笑みを浮かべると目を閉じて椅子に背を持たれかけさせた。
「これが、マスターの仲間達……か」
そこに可能性があるのならば、躊躇わずに向かって行こうとする姿は好ましい。
想いの力こそが、絶対という壁を打ち破る唯一の力だと信じる反永遠神剣の化身は、
よくもまぁ、これだけのバカが揃ったものだと嬉しそうに笑うのだった。
「なぁ、サレス」
「何だ? 浩二」
「望に外と内側の両方から呼びかけるというのはいいが……具体的にはどうするんだよ?
ジルオルは精神干渉を容易くさせてくれる程に甘いヤツなのかい?」
浩二がそう言うと、仲間たちは先の戦いで南天神イスベルの怨念をいとも容易く跳ね除けた、
ジルオルの様子を思い出して、盛り上がっていた意思をクールダウンさせる。
精神論をサレスが提示するならば、自分は理論を提示するべきだと浩二は判断したのだ。
「フッ。勿論ジルオルはそう簡単に精神干渉などはさせぬであろうな。
だから、何人かには外側からジルオルを抑えてもらう」
「抑えられるのですか? サレス様」
圧倒的なパワーで暴れまわったジルオルの様子を思い出したタリアが言う。
サレスは、眼鏡を押し上げて浩二とユーフォリアを見た。
「勿論。そのままでは無理だろうが……弱らせれば何とかなる」
「……で、その役目は俺とユーフォリアがやれと?」
「ああ。ジルオルの精神の中に干渉し、世刻望の意思を呼び起こすのは、
望との付き合いの長さから考えても、おまえ達『天の箱舟』のメンバーが適任だろう。
しかし、暁絶にはジルオルの『黎明』と対を成す永遠神剣『暁天』で、
精神干渉の架け橋となってもらわねばならない。だから……」
「ジルオルの精神の中に入り込むメンバーは、
希美と沙月先輩とカティマさん。ルプトナか……」
浩二はそう言って天井を見上げる。
「いや、それに加えてナルカナとナーヤにも行って貰う」
「え? あたし?」
「わらわも?」
サレスの言葉に、呼ばれた二人は驚いた顔をする。
「………世刻軍団。総突撃……」
ナナシがぼそっと呟く。
それを聞いていた絶は、思わず吹きそうになっていた。
「ジルオルの精神の中に入るのなら……
おまえ達二人は誰よりもその権利―――いや、義務がある。違うか?」
サレスがそう言うと、二人は黙り込んでしまう。
しかし、自分は行かないと言って首はを振る事はなかった。
「よし、それではジルオルの精神の中に入り、世刻望の意思を呼び起こすメンバーは……
沙月、希美、カティマ、ルプトナ、ナルカナ、ナーヤ。
外側からは私と暁絶が中心となって、ジルオルの動きを封じると共に干渉力を高める。
『旅団』のメンバーとスバルは、神剣の力で私達のサポートをしてくれ。そして―――」
言葉を区切ってサレスは浩二とユーフォリアを見る。
浩二は、肩を竦めて苦笑して見せた。
「俺とユーフォリアで、ジルオルに戦いを挑んで弱らせると」
「ああ。一番辛い役目かもしれないが……
このメンバーの中で、ジルオルに立ち向かえるのはおまえ達だけだ」
「がんばりましょう。おにーさん!」
「おうよ」
ぐっと握り拳を作っているユーフォリア。
浩二が彼女とサレスに了承の意思を伝えると、会議は終了となり解散になるのだった。
***********************
箱舟の一階にある世刻望の私室。
ナルカナは部屋にあるベッドにうつ伏せに寝転がりながら、漫画を読んでいた。
「望。ポッキーとポテチ持って来て。イチゴ味とコンソメね……って、あれ?」
望の私物であろう数冊の漫画本。
それを片手で読みながら、もう片方をポテチの袋に突っ込んだナルカナが、
いつもの様に望を呼ぶと、返事が返ってこない事に顔を上げた。
「……そっか。望……居ないんだった」
空になった袋を丸めてゴミ箱に捨てると、ナルカナは仰向けに寝転がる。
そして、何となくジルオルについて考えるのだった。
「ジルオルは……やっぱり強いし、カッコイイよね」
世刻望とは雲泥の差だ。
むしろ望がジルオルに勝ってる部分なんてあるのだろうかと、ナルカナはかなり酷い事を考える。
まずは戦闘能力。比べるまでも無くジルオルの勝ち。
容姿。ワイルドな魅力のジルオルと比べると、望は何処か頼りない感じがする。
性格。南北天戦争よりも前に原初から連れ出したジルオルは、
自分の言う事には素直にしたがってくれた。
だが、望はこのナルカナ様のやる事にケチをつけようとするだけでなく、時々説教クサイ事も言う。
「やばい……このままジルオルでもいいんじゃね? とか思ってしまったわ……」
もしも、その言葉を希美や沙月が聞いていたら、一波乱あっただろう発言をするナルカナ。
「でも―――」
次に望の事を考える。世刻望―――
ジルオルの仮初の宿主。大局的に見れば、望はジルオルの一部分に過ぎない。
ガム付きプラモデルについてくるガムみたいなものだ。
すなわち、ぶっちゃけ居ても居なくてもいい程度の存在。
「何でだろう……どうしてだろう。それなのに、つい気にかけてしまうのは……」
菓子を持ってくれと頼めば、ぶちぶちと文句を言いながらも、
ジュースとウエットティッシュまで持って来てくれる望。
人付き合いがよくて、多くの人に囲まれていて、時々自分に妙な苛立ちを覚えさせる望。
ジルオルと違って弱いので、自分が手を貸してやらねば心配な望。
「……ん? 心配?」
何で自分は世刻望を心配しなければならないのだ?
よく考えたら理由が無い。理由が無いのに心配だと思う自分。
何なのだろうか? コレは………
全ての面でジルオルは望よりも上。それは解っている。
でも、それならばジルオルを全面肯定して望などいらないと思うはずなのに、
何故だかそう思えない自分がもどかしい。
「あーーーーっ、もう! ワケがわかんなーーーーーい!」
ナルカナは叫びながら転がりまわった。
「この先が厨房と食堂ですよ」
「……へぇ、それは見てみたいですわね」
そこに、この訳の解らない苛立ちをぶつける不幸な獲物が現れる。
半開きになったドアの隙間から見えたのは、斉藤浩二の神剣『反逆』に、
この箱舟の施設を案内しているユーフォリアであった。
「そこのロリ担当の二人! 止まれ!」
望の部屋から叫ぶナルカナ。
何事だと思って空いた隙間から部屋の中を見るユーフォリアと『反逆』
目が合った。ユーフォリアは自分の顔を指差して、私ですかとジェスチャーを送る。
頷くナルカナ。そして、顎で部屋の中をさして入って来いとジェスチャーを返す。
―――バタン。
「ふぇ!?」
「なっ!」
そこで扉が突然閉じられた。見ると、閉じたのは『反逆』である。
「人をロリ呼ばわりして、高圧的な態度を取る者と利く口はございませんわ」
「え? でも……」
「行きますわよ。ユーフィー」
どうしたものかとオロオロしてる、ユーフォリアの手を引いて歩き出そうとする『反逆』
「ちょーっとまったー!」
そこで再び扉が開いた。声と共に姿を現したのはナルカナで、
問答無用とばかりに、二人の少女の後ろ襟首を掴んで部屋の中に引きずり込む。
「……むきゅうっ」
「もうっ、何ですの?」
部屋に引きずり込まれた少女二人。ユーフォリアは目をまわしており、
『反逆』は引っ張られた襟首を正している。
「ポテチのコンソメと、ポッキーのイチゴ味。それにジュースを持って来て」
「フン。それぐらい自分で行きなさいな。その足はお飾りですの?」
踏ん反り返って言うナルカナに『反逆』はムッとしながら答える。
「……アンタ。あたしの言う事が聞けないわけ?」
「わたくしに命令していいのはマスターだけ。
いいえ。マスターの命令であろうとも、わたくしの意に反する事なら拒否しますわ」
「あたしにそんな口を利くなんて、いい度胸してるじゃない」
「自分の身勝手な要求が通らなかったら、暴力で通そうとする。
底が知れましたわね。永遠神剣の化身」
唯我独尊な永遠神剣の化身と、プライドの高い反永遠神剣の化身。
ナルカナがその手に魔法の光弾を翳すと『反逆』は腰を落として格闘の構えをとった。
「わーわーわー! いいです。いいです。私がとってきますーーーー!」
一触即発な二人の様子に、目覚めたユーフォリアがドタドタと部屋を出ていく。
その様子を見たナルカナが、フンッと言って魔法の光弾を消すと『反逆』も構えを解いた。
「同じロリっ娘でも、ユーフィーとは違って可愛気ないわね。アンタ」
「別に貴方にどう思われようとも結構ですわ。
そもそも、さっきからロリロリと言ってくれてますが、わたくしの姿はあくまで仮初。
その気になれば、容姿などいくらでも変えられますわ。ハッ!」
そう言うや否や『反逆』はくるりと回る。
それと同時に身体が光り、次の瞬間には倉橋環と同じぐらいの年頃になった『反逆』の姿があった。
「どうですの?」
「へぇ……面白い特技を持ってるじゃない。
なら何でアンタ、普段はユーフィーと同じか、それより少し上ぐらいの年齢でいるわけ?
もしかして斉藤浩二の趣味? アイツってロリコン?」
「……それ以上、わたくしのマスターを侮辱する事を言えば……
敵対行為とみなして、消滅させますわよ……」
「へぇ、面白いじゃないの……パチモノ神剣の化身風情が、
この永遠神剣第一位『叢雲』の化身であるナルカナ様を消すですって!」
「わーわーわー! お菓子とジュース持ってきましたーーー!」
再び一触即発な状態になった所に、トレイにジュースと菓子を乗せたユーフォリアが戻ってくる。
そして、二人の間に立つとストップ。ストーップと叫んだ。
「……さっきからわーわーと煩いわよ。ユーフィー」
「そうですわ。淑女たる者、いつでもお淑やかにですわよ」
「え!?」
いつの間にか自分が一番悪い事になってるユーフォリアはびっくりである。
その様子がおかしくて、ナルカナと『反逆』は顔を見合わせて笑うのだった。
「うう~っ、何なんですかもうーーーーっ!」
*********************
「……ふうん。アンタも色々と苦労してるのね」
「これぐらいの事、苦労じゃございませんわよ?」
さっきまでの険悪な雰囲気は何処へやら。
ナルカナと『反逆』は、床に腰を下ろして話している。
飲み物とお茶請けが前に置いてあり、その様子はさながら女子のお茶会であった。
「わたくしがマスターと同じ歳か、年上の容姿であったならば、
マスターはきっと、わたくしを部屋には置いてくれませんわ。
別に部屋を用意されて、そこに押し込まれてしまうと思いますの。
だからと言って容姿を子供にしすぎると、何を言っても子供扱いされてしまいますわ」
「ふむふむ」
「故にわたくしは、今の年齢ぐらいの容姿で居るのですわ。
これなら部屋も追い出されないし、話も一応は聞いて頂けますので」
『反逆』の言葉に耳を傾けるナルカナ。
こうして話してみれば、彼女は嫌な相手ではないと思った。
「あ、そうだ」
目の前に座る彼女は、自分と同じ神剣の化身だ。
彼女なら、今自分が抱えているモヤモヤについてのアドバイスをしてくれるかもしれない。
ナルカナはそう思って、先ほどまで考えていた事を『反逆』に話した。
「………はぁ、そんな事で悩んでるんですの?」
そして、話すと心底呆れたような顔をされた。
「そんな事って何よ! アンタ。このナルカナ様に喧嘩売るつもり?」
そう言っていきりたつナルカナを『反逆』は温かい目で見つめた。
その瞳が、慈しむ様な色を持っていたのでナルカナは毒気を抜かれて消沈する。
「ナルカナ。貴方は永遠神剣ですわよね?」
「そうよ」
「人格的には女ですわよね?」
「ええ」
「それが答えですわ」
「……はぁ?」
そう言って『反逆』は立ち上がると、
部屋の隅でナルカナが放り出した漫画を読んでいたユーフォリアから漫画を取り上げる。
「ほらっ、行きますわよ。ユーフィー」
「あ、はい」
出て行こうとする二人の少女。
ナルカナは『反逆』が何を言いたかったのか解らずに、ずっと頭にハテナを浮かべているのであった。
「人は誰かを求めるのと同じくらいに、求められたいもの……
それは、わたくし達のような存在であっても同じ事ですわ」